244 / 401
名前を言えない謎のリゾート「マン◯ラ:愛の波しぶき」・3.1
しおりを挟む4年目。
自分のしでかしたことが橘にバレてしまうのが、さらに怖くなった。
橘は僕を嫌っているだろう、憎んでいるだろう。
おぞましい男だと、思っているだろう。
でもそれは、あたりまえのことだ。
あの一件をただの不幸な事故、コドモの過ちだと信じている彼に、真実など話せるわけがない。
彼の兄も、死ぬまで僕から離れられない橘のために、真実を隠し通すことを決めたらしい。
父にも言うなと釘を刺された──どうにも、橘の兄に嫌われたくないようだ。
ましてや好きだなんて言えるわけがなかった。だって、知られたらきっと軽蔑される。この気持ちは絶対に悟られちゃいけない。
橘にこれ以上嫌われたら、僕は死んでしまう。
けれども、好意以外の感情で彼と接するのは難しかった。
なにしろ僕は性格が悪いのだ。橘にも言われた通り。
普通の顔をして、橘と何を話せばいいかわからないし、緊張して口が空回り、皮肉や嫌味しか出てこない……これは元来の僕の性格が原因かもしれないけれど。
でも、僕が冷たい言葉を吐き捨ててしまうたびに、『なんでそーゆーこというんだよ』なんてムスッとした唇を突き出して、僕を睨んでくる橘は可愛い。
可愛い、可愛い。
僕はいつだって、橘の背中に天使の羽が生えているように見える。
この4年間、ずっとずっと橘は可愛かった。
本当は、その突き出た唇が腫れるくらい吸ってしまいたい。ヒート中は、彼の足腰が立たなくなるぐらいめちゃくちゃにして犯してしまいたい。
ヒートが終わっても、彼を部屋から出したくない。
三日間以上同じ家の中にいるというのに、一日たった数回の、ごく普通の交わりでコトが終わってしまうなんて。
彼の兄がいる家になんて、帰したくない。
次にまともに会えるのが数か月後も先だなんて、信じられない。
いっそのこと、このまま家に閉じ込めてしまおうか。金ならある。僕しか鍵を持たない地下室でも作って、橘をそこに突っ込んで──なんて、相も変わらず、そんなことばかり考えている自分の浅ましさに反吐が出た。
一歩間違えれば、ヒートもなにも関係なく彼を襲い、その身体を余すところなく貪り尽くしてしまいそうだった。
自分のおぞましい衝動を抑えるために、嗜好品に手を出し始めたのはこの頃からだ。
橘を求めて寂しがる口が咥えたのは、煙草。しかもスゥッと鼻を突き抜けるメンソール系。
清涼感のある爽やかなミントの香は、こんな関係になる前に手に入れた橘のリップクリームと、よく似ている香りだった。
これが一番、橘の唇の味に近い気がした。
あの頃の思い出に必死に縋り付いて日々を生きる。
そんな惨めな4年目だった。
──────
淡々と、姫宮視点の最期の章(後篇)が始まります。
お付き合いいただけると嬉しいです。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説




こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる