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名前を言えない謎のリゾート「マン◯ラ:愛の波しぶき」・2.3
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早朝4時、離魔市街北東の山のふもとから中腹にかけて広がる貧民街…離魔悪所。
からん、からんと手鐘を打ち鳴らしながらあちらこちらの通りを進んでいく何人かの人影。
そして、簡素な作りではありますが、整然とあちらこちらに建つ貧民住宅から流れる、朝の目覚めの歌声。
子供たちに、毎朝の仕事の割り振りと、そして朝食の配布があることを知らせる目覚めの放送が、住宅の各戸ごとに鳴らされるのです。
「淫化の目覚めという歌だそうです」
「それでジャガイモの歌に…」
ええ、淫化の窮乏を救い民の腹を満たすジャガイモやとうもろこしを讃え、今日も一日、元気に作業に励みましょうという内容の歌詞なのです…。
しかし、大半の少年少女たちはこの放送の前に既に起きており、離魔愛善隣保会館なる、悪所地区の入り口にそびえ立つ大きな建物の前に並んでいるそうです…少しでも条件のいい仕事に就くために…。
(誰よ、このネーミング考えたの…しかも略称、離魔愛隣会館で通ってるらしいじゃん…)
(マリアちゃん…あたし、そこの求人札を掲示してる光景、初めて見た時は驚いたなんてもんじゃなかったわよ…緑色の大きな札を掲げた口入れ人がいるとか、どこのあいりん会館よ…全盛期の釜ヶ崎まんまじゃないの…)
(誰だよ、ペルー…いや、淫化くんだりに釜ヶ崎の日雇い労働求人現場を再現したの…絶対にこれ、あたしじゃないぞ…)
私たち、視察班と視覚を共有しているマリアリーゼ陛下とタナカ内務局長、即ちマサミさんのぼやきはともかくですね…。
ええと…この求人に応募すると、その日1日だけ使える労働切手なる木の札に見えるものを配られます。
これは、悪所の住民がリマク川にかかる悪所大橋をはじめとするいくつかの橋を渡る際には絶対に必要となるものです。
そして、この労働切手なる紐付きの木札めいた何かを持って愛隣会館の2階の食堂に上がると、朝食…聖母教会の炊き出しの食事にありつけるのです…。
すなわち、悪所に住まうもの、働かなくては1日1回の炊き出し配食にすらありつけないのです…。
では、急な病いにかかってしまったりした場合、どうなるか。
先ほど…悪所の中を手持ち鐘を鳴らして歩いていたのは…巡回役の騎士女官です。
つまり、この時点で貧民住宅に残っている住民に対しては、お寝坊さんでなければ「起き上がれない事情がある」と見なされて遠隔で健康調査がなされます。
そしてその場で、体調不良を治療されてしまうのです…。
そう…この悪所、悪所とは言いながらもリュネ世界の悪疫猖獗を極めたかのような場所…強力な治療魔術が使える術師や戦士の厄介になれない者たちの吹き溜まりとの違い、まさにこの「住民の最低限度の健康は保障される」ところでしょう。
しかし、それはあくまでも働かせるためと…精気を頂戴するためなのです。
決して、純粋な善意では行われておりません。
ですから、老人や戦争障害者なども住んでおりません…ええ、健康な働ける若者の身体を「一定期間」は維持させてもらえるのです…。
そして、わたくしエマネ・ヤスニ・リュネ・インティ。
痴女皇国離魔支部長として、この離魔の貧民窟たる離魔悪所を案内中。
一体全体、こんな早朝からどこのどなた方を案内しているのか。
そして私ども、徒歩で悪所に来ておりません。
特別に動かされた地下鉄のプクヤーナ・ワジャマルカ駅に着いた我々、あらかじめ用意された自転車なる、八百比丘尼国は三河監獄国の名産品という触れ込みの人力二輪車で悪所を訪問しております。
-----------------------------------------------
離魔湾岸高速鉄道(Bay Area Rapid Transit)略図
租 界 島 | |
|租|パチャカマック プクヤーナ
租界聖母教会駅 |界|神殿駅 神殿&駅
◯--------◯--||----○
租界大橋→====== ワジャマルカ
|水| 離 魔 市 街 神殿
租 界 島 |道|
| |
-----------------------------------------------
離魔市街地略図
愛
| |隣 ◼️◼️|山
/|離魔|会 ◼️◼️|地
/ |空港|館→□◼️→貧民街
/リマク川悪所大橋↓□→悪所警備本部
租界島 =========||========
↓ /↓パチャカマック神殿
◇ / ○ プクヤーナ神殿○
\ ワジャマルカ神殿○
\ ↑港から神殿までは俗人街
\◇◇貴人街
\◇◇
\◇◇
-----------------------------------------------
このケッターマシンなる人力車、最初はマリアリーゼ陛下の伝手で輸入していたそうですが…。
(三河監獄社と堺の会社で合弁企業を設立して三河監獄国のたはら付近に専用生産工場を建設したっ。痴女皇国女官用として作ってるけど、自転車自体は頑張って真似をして作ってくれということで、痴女皇国世界では自動車なんかと同様に、敢えて特許を取得させてないんだよな…)
(ハイブリッドモーターとかバッテリーはもちろん、ベアリングやチェーンはまだ無理でしょ…はいそうですかって簡単に真似できませんよあれ…)
(あー、バラして見せてあげたら、ダヴィンチさんとかアンドレのハゲとか頭抱えてたよな…)
(日本刀以上のオーパーツですからね、あの日本製ボールベアリング…)
まぁ、とにかく見かけ以上にすごいものらしいです。
我々が乗るケッタマシンも、車輪は色鮮やかな円盤なのですが。
(スポークホイール用の鉄棒、あの均一な太さと強度で作るには鋼線加工技術が必要だから厳しいって、あずさんに念押しされました…)
(五百旗頭です。ベラちゃん…圧延鋼板や鋼線製造はもとより切削や切断加工技術、この時代にまともに持ち込めると思ってんの…三河監獄国のきぬうら工場とか新那古屋製鉄所だけでもすったもんだの上に、ある程度の現代技術を持ち込むしかなかった経緯覚えてるわよね…)
(ええと、ベラ子陛下、この心話を入れて来られたお方は…)
(鉄鉱石と石炭に生きる熱い女であたしの元・クラスメートです)
(ベラちゃん…高炉から出るお湯に漬けようか?…えーと、痴女皇国通商局工業事業担当部長の五百旗頭梓、いおきべあずさと読みます。エマネ陛下とはチンボテ製鉄所の開所式以来でしたか)
はいはいはい。
あの東洋系とかいう、どことなく淫化族にも似たような顔の大柄な方。
ええ、思い出しました。
(軸受はまだしも、スポークくらいは何とか作れないの…)
(痴女島と比丘尼国向けのケッタは普通のスポークホイールにしてるわよ。ただ…逆にそのケッタにつけてるカーボンディスクホイールだと流石に輸入するしかないわよね…シ◯ノさんはうはうはしてたけど)
(ビアンキのチャリを採用しなかった件に悪意を感じます…いくらシマ○の自転車を採用してというお願いがあったとしてもぉっ)
(ベラちゃん…それ言い出したらジョスリーヌさんがプジョーの担当者と一緒に来るわよ)
うぐぐぐぐ、と唸る声が後ろから。
そう、今回はベラ子陛下もお越しなのです。
ここで誰が実際にお越しなのかをお教えしますと。
案内役:えまね・れぷた
視察員:べらこ・いりや・ろって・ちゃすか・まるは
まぁ、ベラ子陛下以外は淫化…南米行政支局の関係者でもありますから、実質的にはベラ子陛下の半ばお忍び視察のお供、淫化関係者総出でやっておるようなもの。
あと、この時点でマルハレータ殿下は通商局離魔支局長なる兼務の肩書きで、主に離魔の租界島に常駐する立場ですよ。
で、我々はケッタマシンを駆って、悪所の入り口にある愛隣会館にやって来ました。
数名の聖母教会尼僧姿の職員の方、お出迎えのために前におられます。
時ならぬ皇族や要職幹部の訪問の話に会館側では「何が起きた」と驚いておられましたが、ぶっちゃけマンコラのリゾートを見に来られる予定のついでに立ち寄られたとは私も言えず。
(聖母教会の教会外福祉施設の視察です。交代で聖隷騎士団員を派遣しておりますよね…)
まぁそれならばと、離魔教会管区大司教で、この愛隣会館長のベンディーネさんが了承したという経緯もありまして…。
Wendine (Lara Davidoff ) ベンディーネ Hundred thousand Suction 十万卒 Slut Visual 痴女外観 White Rossy Kinght, Imperial of Temptress. 白薔薇騎士団 Siège social suisse , Imperial of Temptress. 痴女皇国欧州地区本部 Arcivescovo, Chiesa di Nostra Signora, Chiesa della Concessione di Lima. 聖母教会教皇庁離魔租界教会大司教
実はこれまたこの時点…離魔市街地の開発が進んでいる時点のお話なのですけど、離魔の聖母教会、元来は租界島の中に存在しました。
しかし、離魔…そして淫化俗地の事情を鑑みた結果、主な拠点を租界島ではなく離魔市街地に置く方が良いのではとなりまして、この離魔愛隣会館が実質的な離魔聖母教会の本拠となった経緯があります。
ちなみにこの離魔愛隣会館、すぐ隣に要塞のような構造の離魔悪所警備本部なる、衛兵詰所というにはあまりに立派な建物が存在します。
(あの警察署の建物を再現したの、エマ子か…)
(釜ヶ崎風味の建物で悪所を埋めるいう話があったんなら、ついでにあっこ警察署の建物を参考にしろ言われたからですがな!)
どうやら、悪所の中を見張る建物のようですが、こんなにも威圧感があるものにしても良いのでしょうか。
まるで軍勢が攻めてくるのに備えるかのような威嚇的な印象ですよ、このけいさつしょとかいう建物。
それはともかく、ベンディーネ様の経歴に引っ掛かるものがあります。
何で痴女皇国の防衛騎士団であるはずの白薔薇所属なのに欧州地区本部の方で、しかもこの離魔に赴任して来られたのか。
(ベンディーネさんはバーゼル救貧院の副院長だったのです…)
つまり、こういう場所に造られた救護院やらの専門家らしいのです。
そして…スイス支部生え抜きの方らしいのです…。
(うちの母が初めてスケアクロウでスイスにお邪魔した時にいらっしゃったはずですよ)
(ええと、あの時私、シヨン城詰めの赤十字騎士でしたね。まだリモニエディーネが採用されたか、いなかったかの辺りだったかな…)
「ということは結構な女官勤務経験者であると…」
「まぁ、そういう事になりますね…」
ただ、ベンディーネさんが申されるには、スイスは聖院時代からの伝統で、売春については積極的に行っていなかったのだそうです。
すなわち、オメコについても。
では、何をしていたのかとお聞きしましたら。
「傭兵を組織しておったのです。あの支部は欧州地区の治安維持が主任務であって、精気はそれを維持するため程度の収集に留めておったのですよ…」
そして、貧民救済事業として救貧院や孤児院の経営については積極的に行っていたと。
いわば、お堅い部類の聖院の仕事を長く行って来た女官が多数在籍している部署であり、マイレーネ様という女官監督の鑑のような方が欧州地区本部責任者として、その体制を維持しているとベラ子陛下からも補足説明が入ります。
「何せ脱ぎ殺し・睨み殺し・読み殺しの三大殺しの技を極めたマイレーネさんですからね…あたしや姉でも頭が上がる人ではないのですよ…」
え。
ベラ子陛下でも。
(マイレーネさんとアレーゼおばさまはあたしたちの暴走の差し止め役であり、あたしと姉が束になってかかっても勝てる相手ではないのですよ…特にアレーゼおばさまは米大陸地区本部長ですから、淫化の動向にも注意を向けておられます。決して独立や謀反など、考えぬように…)
と、チクっと刺されます。
えー…そんな恐ろしい方が我々の直接の上なのですか…。
(怒らせるようなことをしなければ寛大です。それとおばさまは、男が男らしくあるように男を立てる政策を好まれますので、その辺にも注意してください)
聞けば、そのアレーゼ様のお子様が聖院にいて、しかも旦那様役が強大な敵に立ち向かい絶望的な戦いでも諦めることなく国土防衛に邁進された有名な戦士と聞けば、納得もできようもの。
(女癖と酒癖が悪いので、日本での法的な奥様の百目鬼瞳…菅野瞳さんの監視と生活指導は必須なのですが)
で、我々はこうして話しながらも、愛隣会館二階の食堂を見学しております。
この食堂では西洋風の食事を出しており、パンというふっくらした小麦の焼き物ですとか、あるいは肉・豆・じゃがいもを煮た汁物を振る舞っておるようです。
更には、食堂の出口で水筒に水を入れてもらえるようです。
いえ…あれは効果茶。
なるほど、効果茶の効果で労働意欲を上げると。
そして食事を終えた者たちは懲罰偽女種が務める監督役の指示に従って、それぞれの持ち場へ向かうようです。
「あの大型バスは貴人街へ向かう日雇い女中を運ぶためのものですね…」
「清掃人夫やゴミ回収人夫は歩いて詰所へ向かうと…」
で、私の受けた衝撃。
淫化って…汲み取りじゃないんですね、便所…。
(というか痴女皇国だと水洗じゃない場所の方が珍しいのです…そして汚物やゴミは燐化装置の設置された処理施設に運ばれるか導かれ、燐という資源を取り出されるのです…)
あ…この悪所でも共同ですが、便所が設置されています。
そして、水で流せるのですよね…。
(悪所内の清掃も少年少女の仕事になっておりますよ…)
で、悪所内の住宅、あばら家めいた簡易な作りですが、それなりのものです。
そして未来永劫あてがわれる住宅ではなく、一定期間を過ぎると強制退去となるのです…。
(離魔と乱破巣の悪所には、チンボテや乱破巣などの鉱山仕事が嫌で逃げ出したり、ヤナコーナと呼ばれる淫化元来の人夫出しへの徴発を拒んだ者が送り込まれるのです…)
(で、働かなあかんでという痴女皇国の掟を叩き込むためにも、こうして働かなければ食べていけない状況に落とし込んでいるのですね)
と、今度は夜間の仕事…離魔の漁港で働いたり、最近では昼夜をわかたず行われている租界港での荷捌きなどに従事した少年たちが愛隣会館に戻って来ます。
(夜勤の少年たちは逆に、仕事の後で愛隣会館の食事を頂けるのです…)
なるほど、食事の時間帯が接近しているから、ここの食堂で調理人を多数必要とする時間を集約できますね…何せ、悪所での給食は1日1回なのですから…。
(これは、離魔の燃料事情も関係しているのです…支部長はご存知でしょうが、この離魔の山手を含む暗死山脈の西側、全般的に木々が少なく、燃やせるものは多くないのです…何せリャマや、最近ではマルハレータ殿下が持ち込まれたラクダの糞すら燃料として使う場合もある有様)
(現在、その件を解決するために木星圏域からの天然ガス採集分の融通や、土星圏域で収集したメタンの利用を試みていますが…一番簡単なのは、リュネ族女官による火炎を発する剣を使用した加熱なんですよねぇ…)
ええ、実のところ、パチャカマック神殿で、たまに私もその役目を負わされるのです…。
(焼肉王女とか言われてますが、イリヤ叔母さまもこれ、クスコの行政神殿で当番に当たったら煮物焼き物のかまど役をしておられるんですよねぇ…)
これ、私としても屈辱的ではあるのですが、一方でこの淫化の厳しい事情を知ったからには、こうした対応も含めて淫化で魔法を使えるようにして頂いたのであろうことも容易に想像がつきます。
(何を隠そう、アルゼンチンチン産の牛肉を焼くことに関して、このエマネ、一定の評判を頂いておりますっ)
(なんかパチャカマック神殿で焼肉パーティーとか串焼きバーベキューとかやってる話が…)
(この悪所食堂でも振る舞ってますよ…焼肉の類…)
種を明かすと、炎剣でそこらの四つ足の肉を焼くの、リュネでは割と皆がやってたんですよね…。
(ふふふふふ、赤外線ひーたーとかいうのですか、炎を出さずに熱だけを対象にじわっと与える方法も私は出来るのです…)
(エマネ、それ割と年季の入った戦士なら誰でもやってるわよ…火力を乗せすぎると焦げるでしょ…)
(おばさま、それはともかく、この後ですよこの後っ)
ええとですね、今、戻って来た少年たちは食事の後、長屋とかいうのですか、住宅のうち自分にあてがわれた部屋に帰ります。
しかし、その前にですね…。
(お風呂があるのですよお風呂がっ)
(エマネちゃん。詳しく説明するのです…)
ええ、ベラ子陛下が食いついて来られました。
実は、先程の燃料事情と関係があるのですが、そもそも水も燃料も潤沢ではない淫化、それも暗死西側では俗地でも砂漠になっておるところが少なくありません。
そして、入浴や洗体の習慣、俗人…分けても貧民にはあまり縁のないものだったのです…。
(海岸沿いに住んでいればまだしも、なのですけど…ただ、漁師以外は泳ぐという習慣がありませんからね…)
ですが、衛生のためにも入浴と洗体を推奨している痴女皇国。
離魔やチンボテ・マンコラを始め、俗地であっても水源を確保し、なるべく水には困らないようにするのがこちらの流儀であると既に知っております。
で…この離魔愛隣会館の隣に、浴場があるのですよ…それも大型のものが…。
この水は地下の温泉なる熱い水の水源から深い井戸を経由して汲み出され、なるべく再加熱の必要がないように計らわれています。
そしてですねぇっ。
朝の儀式を終えたプクヤーナ勤めの太陽乙女が輪番交代制でですね、洗い女として派遣されて来るのですよっ。
(少年たちの中には入浴はおろか洗体の手順すら知らぬものばかり。洗ってやる必要があるのですっ)
(いや、それ自体は止めてませんけど…まさかお風呂の中で…あのお風呂、伊香保の旅館の大浴場くらいは余裕でありますよ…)
そうそう、この風呂、リュネの戦士官舎などと同じで、流れ作業に近い形で体を洗われます。
ただ…太陽乙女、すなわち神官が希望すれば、少年と落ち合って一緒に風呂に入れるのです…。
(即ち、太陽乙女にしてみれば侍従少年を探す場所でもあるのですよ、この悪所の湯…)
(つ、つまりそれは…)
思わず、私の両肩を掴んで揺すられるベラ子陛下。
「ええもちろん、身体を洗った少年と太陽神殿の神官ですよ。魔毒抜きのためのアレ以外にやることないじゃないですか…」
からん、からんと手鐘を打ち鳴らしながらあちらこちらの通りを進んでいく何人かの人影。
そして、簡素な作りではありますが、整然とあちらこちらに建つ貧民住宅から流れる、朝の目覚めの歌声。
子供たちに、毎朝の仕事の割り振りと、そして朝食の配布があることを知らせる目覚めの放送が、住宅の各戸ごとに鳴らされるのです。
「淫化の目覚めという歌だそうです」
「それでジャガイモの歌に…」
ええ、淫化の窮乏を救い民の腹を満たすジャガイモやとうもろこしを讃え、今日も一日、元気に作業に励みましょうという内容の歌詞なのです…。
しかし、大半の少年少女たちはこの放送の前に既に起きており、離魔愛善隣保会館なる、悪所地区の入り口にそびえ立つ大きな建物の前に並んでいるそうです…少しでも条件のいい仕事に就くために…。
(誰よ、このネーミング考えたの…しかも略称、離魔愛隣会館で通ってるらしいじゃん…)
(マリアちゃん…あたし、そこの求人札を掲示してる光景、初めて見た時は驚いたなんてもんじゃなかったわよ…緑色の大きな札を掲げた口入れ人がいるとか、どこのあいりん会館よ…全盛期の釜ヶ崎まんまじゃないの…)
(誰だよ、ペルー…いや、淫化くんだりに釜ヶ崎の日雇い労働求人現場を再現したの…絶対にこれ、あたしじゃないぞ…)
私たち、視察班と視覚を共有しているマリアリーゼ陛下とタナカ内務局長、即ちマサミさんのぼやきはともかくですね…。
ええと…この求人に応募すると、その日1日だけ使える労働切手なる木の札に見えるものを配られます。
これは、悪所の住民がリマク川にかかる悪所大橋をはじめとするいくつかの橋を渡る際には絶対に必要となるものです。
そして、この労働切手なる紐付きの木札めいた何かを持って愛隣会館の2階の食堂に上がると、朝食…聖母教会の炊き出しの食事にありつけるのです…。
すなわち、悪所に住まうもの、働かなくては1日1回の炊き出し配食にすらありつけないのです…。
では、急な病いにかかってしまったりした場合、どうなるか。
先ほど…悪所の中を手持ち鐘を鳴らして歩いていたのは…巡回役の騎士女官です。
つまり、この時点で貧民住宅に残っている住民に対しては、お寝坊さんでなければ「起き上がれない事情がある」と見なされて遠隔で健康調査がなされます。
そしてその場で、体調不良を治療されてしまうのです…。
そう…この悪所、悪所とは言いながらもリュネ世界の悪疫猖獗を極めたかのような場所…強力な治療魔術が使える術師や戦士の厄介になれない者たちの吹き溜まりとの違い、まさにこの「住民の最低限度の健康は保障される」ところでしょう。
しかし、それはあくまでも働かせるためと…精気を頂戴するためなのです。
決して、純粋な善意では行われておりません。
ですから、老人や戦争障害者なども住んでおりません…ええ、健康な働ける若者の身体を「一定期間」は維持させてもらえるのです…。
そして、わたくしエマネ・ヤスニ・リュネ・インティ。
痴女皇国離魔支部長として、この離魔の貧民窟たる離魔悪所を案内中。
一体全体、こんな早朝からどこのどなた方を案内しているのか。
そして私ども、徒歩で悪所に来ておりません。
特別に動かされた地下鉄のプクヤーナ・ワジャマルカ駅に着いた我々、あらかじめ用意された自転車なる、八百比丘尼国は三河監獄国の名産品という触れ込みの人力二輪車で悪所を訪問しております。
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離魔湾岸高速鉄道(Bay Area Rapid Transit)略図
租 界 島 | |
|租|パチャカマック プクヤーナ
租界聖母教会駅 |界|神殿駅 神殿&駅
◯--------◯--||----○
租界大橋→====== ワジャマルカ
|水| 離 魔 市 街 神殿
租 界 島 |道|
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離魔市街地略図
愛
| |隣 ◼️◼️|山
/|離魔|会 ◼️◼️|地
/ |空港|館→□◼️→貧民街
/リマク川悪所大橋↓□→悪所警備本部
租界島 =========||========
↓ /↓パチャカマック神殿
◇ / ○ プクヤーナ神殿○
\ ワジャマルカ神殿○
\ ↑港から神殿までは俗人街
\◇◇貴人街
\◇◇
\◇◇
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このケッターマシンなる人力車、最初はマリアリーゼ陛下の伝手で輸入していたそうですが…。
(三河監獄社と堺の会社で合弁企業を設立して三河監獄国のたはら付近に専用生産工場を建設したっ。痴女皇国女官用として作ってるけど、自転車自体は頑張って真似をして作ってくれということで、痴女皇国世界では自動車なんかと同様に、敢えて特許を取得させてないんだよな…)
(ハイブリッドモーターとかバッテリーはもちろん、ベアリングやチェーンはまだ無理でしょ…はいそうですかって簡単に真似できませんよあれ…)
(あー、バラして見せてあげたら、ダヴィンチさんとかアンドレのハゲとか頭抱えてたよな…)
(日本刀以上のオーパーツですからね、あの日本製ボールベアリング…)
まぁ、とにかく見かけ以上にすごいものらしいです。
我々が乗るケッタマシンも、車輪は色鮮やかな円盤なのですが。
(スポークホイール用の鉄棒、あの均一な太さと強度で作るには鋼線加工技術が必要だから厳しいって、あずさんに念押しされました…)
(五百旗頭です。ベラちゃん…圧延鋼板や鋼線製造はもとより切削や切断加工技術、この時代にまともに持ち込めると思ってんの…三河監獄国のきぬうら工場とか新那古屋製鉄所だけでもすったもんだの上に、ある程度の現代技術を持ち込むしかなかった経緯覚えてるわよね…)
(ええと、ベラ子陛下、この心話を入れて来られたお方は…)
(鉄鉱石と石炭に生きる熱い女であたしの元・クラスメートです)
(ベラちゃん…高炉から出るお湯に漬けようか?…えーと、痴女皇国通商局工業事業担当部長の五百旗頭梓、いおきべあずさと読みます。エマネ陛下とはチンボテ製鉄所の開所式以来でしたか)
はいはいはい。
あの東洋系とかいう、どことなく淫化族にも似たような顔の大柄な方。
ええ、思い出しました。
(軸受はまだしも、スポークくらいは何とか作れないの…)
(痴女島と比丘尼国向けのケッタは普通のスポークホイールにしてるわよ。ただ…逆にそのケッタにつけてるカーボンディスクホイールだと流石に輸入するしかないわよね…シ◯ノさんはうはうはしてたけど)
(ビアンキのチャリを採用しなかった件に悪意を感じます…いくらシマ○の自転車を採用してというお願いがあったとしてもぉっ)
(ベラちゃん…それ言い出したらジョスリーヌさんがプジョーの担当者と一緒に来るわよ)
うぐぐぐぐ、と唸る声が後ろから。
そう、今回はベラ子陛下もお越しなのです。
ここで誰が実際にお越しなのかをお教えしますと。
案内役:えまね・れぷた
視察員:べらこ・いりや・ろって・ちゃすか・まるは
まぁ、ベラ子陛下以外は淫化…南米行政支局の関係者でもありますから、実質的にはベラ子陛下の半ばお忍び視察のお供、淫化関係者総出でやっておるようなもの。
あと、この時点でマルハレータ殿下は通商局離魔支局長なる兼務の肩書きで、主に離魔の租界島に常駐する立場ですよ。
で、我々はケッタマシンを駆って、悪所の入り口にある愛隣会館にやって来ました。
数名の聖母教会尼僧姿の職員の方、お出迎えのために前におられます。
時ならぬ皇族や要職幹部の訪問の話に会館側では「何が起きた」と驚いておられましたが、ぶっちゃけマンコラのリゾートを見に来られる予定のついでに立ち寄られたとは私も言えず。
(聖母教会の教会外福祉施設の視察です。交代で聖隷騎士団員を派遣しておりますよね…)
まぁそれならばと、離魔教会管区大司教で、この愛隣会館長のベンディーネさんが了承したという経緯もありまして…。
Wendine (Lara Davidoff ) ベンディーネ Hundred thousand Suction 十万卒 Slut Visual 痴女外観 White Rossy Kinght, Imperial of Temptress. 白薔薇騎士団 Siège social suisse , Imperial of Temptress. 痴女皇国欧州地区本部 Arcivescovo, Chiesa di Nostra Signora, Chiesa della Concessione di Lima. 聖母教会教皇庁離魔租界教会大司教
実はこれまたこの時点…離魔市街地の開発が進んでいる時点のお話なのですけど、離魔の聖母教会、元来は租界島の中に存在しました。
しかし、離魔…そして淫化俗地の事情を鑑みた結果、主な拠点を租界島ではなく離魔市街地に置く方が良いのではとなりまして、この離魔愛隣会館が実質的な離魔聖母教会の本拠となった経緯があります。
ちなみにこの離魔愛隣会館、すぐ隣に要塞のような構造の離魔悪所警備本部なる、衛兵詰所というにはあまりに立派な建物が存在します。
(あの警察署の建物を再現したの、エマ子か…)
(釜ヶ崎風味の建物で悪所を埋めるいう話があったんなら、ついでにあっこ警察署の建物を参考にしろ言われたからですがな!)
どうやら、悪所の中を見張る建物のようですが、こんなにも威圧感があるものにしても良いのでしょうか。
まるで軍勢が攻めてくるのに備えるかのような威嚇的な印象ですよ、このけいさつしょとかいう建物。
それはともかく、ベンディーネ様の経歴に引っ掛かるものがあります。
何で痴女皇国の防衛騎士団であるはずの白薔薇所属なのに欧州地区本部の方で、しかもこの離魔に赴任して来られたのか。
(ベンディーネさんはバーゼル救貧院の副院長だったのです…)
つまり、こういう場所に造られた救護院やらの専門家らしいのです。
そして…スイス支部生え抜きの方らしいのです…。
(うちの母が初めてスケアクロウでスイスにお邪魔した時にいらっしゃったはずですよ)
(ええと、あの時私、シヨン城詰めの赤十字騎士でしたね。まだリモニエディーネが採用されたか、いなかったかの辺りだったかな…)
「ということは結構な女官勤務経験者であると…」
「まぁ、そういう事になりますね…」
ただ、ベンディーネさんが申されるには、スイスは聖院時代からの伝統で、売春については積極的に行っていなかったのだそうです。
すなわち、オメコについても。
では、何をしていたのかとお聞きしましたら。
「傭兵を組織しておったのです。あの支部は欧州地区の治安維持が主任務であって、精気はそれを維持するため程度の収集に留めておったのですよ…」
そして、貧民救済事業として救貧院や孤児院の経営については積極的に行っていたと。
いわば、お堅い部類の聖院の仕事を長く行って来た女官が多数在籍している部署であり、マイレーネ様という女官監督の鑑のような方が欧州地区本部責任者として、その体制を維持しているとベラ子陛下からも補足説明が入ります。
「何せ脱ぎ殺し・睨み殺し・読み殺しの三大殺しの技を極めたマイレーネさんですからね…あたしや姉でも頭が上がる人ではないのですよ…」
え。
ベラ子陛下でも。
(マイレーネさんとアレーゼおばさまはあたしたちの暴走の差し止め役であり、あたしと姉が束になってかかっても勝てる相手ではないのですよ…特にアレーゼおばさまは米大陸地区本部長ですから、淫化の動向にも注意を向けておられます。決して独立や謀反など、考えぬように…)
と、チクっと刺されます。
えー…そんな恐ろしい方が我々の直接の上なのですか…。
(怒らせるようなことをしなければ寛大です。それとおばさまは、男が男らしくあるように男を立てる政策を好まれますので、その辺にも注意してください)
聞けば、そのアレーゼ様のお子様が聖院にいて、しかも旦那様役が強大な敵に立ち向かい絶望的な戦いでも諦めることなく国土防衛に邁進された有名な戦士と聞けば、納得もできようもの。
(女癖と酒癖が悪いので、日本での法的な奥様の百目鬼瞳…菅野瞳さんの監視と生活指導は必須なのですが)
で、我々はこうして話しながらも、愛隣会館二階の食堂を見学しております。
この食堂では西洋風の食事を出しており、パンというふっくらした小麦の焼き物ですとか、あるいは肉・豆・じゃがいもを煮た汁物を振る舞っておるようです。
更には、食堂の出口で水筒に水を入れてもらえるようです。
いえ…あれは効果茶。
なるほど、効果茶の効果で労働意欲を上げると。
そして食事を終えた者たちは懲罰偽女種が務める監督役の指示に従って、それぞれの持ち場へ向かうようです。
「あの大型バスは貴人街へ向かう日雇い女中を運ぶためのものですね…」
「清掃人夫やゴミ回収人夫は歩いて詰所へ向かうと…」
で、私の受けた衝撃。
淫化って…汲み取りじゃないんですね、便所…。
(というか痴女皇国だと水洗じゃない場所の方が珍しいのです…そして汚物やゴミは燐化装置の設置された処理施設に運ばれるか導かれ、燐という資源を取り出されるのです…)
あ…この悪所でも共同ですが、便所が設置されています。
そして、水で流せるのですよね…。
(悪所内の清掃も少年少女の仕事になっておりますよ…)
で、悪所内の住宅、あばら家めいた簡易な作りですが、それなりのものです。
そして未来永劫あてがわれる住宅ではなく、一定期間を過ぎると強制退去となるのです…。
(離魔と乱破巣の悪所には、チンボテや乱破巣などの鉱山仕事が嫌で逃げ出したり、ヤナコーナと呼ばれる淫化元来の人夫出しへの徴発を拒んだ者が送り込まれるのです…)
(で、働かなあかんでという痴女皇国の掟を叩き込むためにも、こうして働かなければ食べていけない状況に落とし込んでいるのですね)
と、今度は夜間の仕事…離魔の漁港で働いたり、最近では昼夜をわかたず行われている租界港での荷捌きなどに従事した少年たちが愛隣会館に戻って来ます。
(夜勤の少年たちは逆に、仕事の後で愛隣会館の食事を頂けるのです…)
なるほど、食事の時間帯が接近しているから、ここの食堂で調理人を多数必要とする時間を集約できますね…何せ、悪所での給食は1日1回なのですから…。
(これは、離魔の燃料事情も関係しているのです…支部長はご存知でしょうが、この離魔の山手を含む暗死山脈の西側、全般的に木々が少なく、燃やせるものは多くないのです…何せリャマや、最近ではマルハレータ殿下が持ち込まれたラクダの糞すら燃料として使う場合もある有様)
(現在、その件を解決するために木星圏域からの天然ガス採集分の融通や、土星圏域で収集したメタンの利用を試みていますが…一番簡単なのは、リュネ族女官による火炎を発する剣を使用した加熱なんですよねぇ…)
ええ、実のところ、パチャカマック神殿で、たまに私もその役目を負わされるのです…。
(焼肉王女とか言われてますが、イリヤ叔母さまもこれ、クスコの行政神殿で当番に当たったら煮物焼き物のかまど役をしておられるんですよねぇ…)
これ、私としても屈辱的ではあるのですが、一方でこの淫化の厳しい事情を知ったからには、こうした対応も含めて淫化で魔法を使えるようにして頂いたのであろうことも容易に想像がつきます。
(何を隠そう、アルゼンチンチン産の牛肉を焼くことに関して、このエマネ、一定の評判を頂いておりますっ)
(なんかパチャカマック神殿で焼肉パーティーとか串焼きバーベキューとかやってる話が…)
(この悪所食堂でも振る舞ってますよ…焼肉の類…)
種を明かすと、炎剣でそこらの四つ足の肉を焼くの、リュネでは割と皆がやってたんですよね…。
(ふふふふふ、赤外線ひーたーとかいうのですか、炎を出さずに熱だけを対象にじわっと与える方法も私は出来るのです…)
(エマネ、それ割と年季の入った戦士なら誰でもやってるわよ…火力を乗せすぎると焦げるでしょ…)
(おばさま、それはともかく、この後ですよこの後っ)
ええとですね、今、戻って来た少年たちは食事の後、長屋とかいうのですか、住宅のうち自分にあてがわれた部屋に帰ります。
しかし、その前にですね…。
(お風呂があるのですよお風呂がっ)
(エマネちゃん。詳しく説明するのです…)
ええ、ベラ子陛下が食いついて来られました。
実は、先程の燃料事情と関係があるのですが、そもそも水も燃料も潤沢ではない淫化、それも暗死西側では俗地でも砂漠になっておるところが少なくありません。
そして、入浴や洗体の習慣、俗人…分けても貧民にはあまり縁のないものだったのです…。
(海岸沿いに住んでいればまだしも、なのですけど…ただ、漁師以外は泳ぐという習慣がありませんからね…)
ですが、衛生のためにも入浴と洗体を推奨している痴女皇国。
離魔やチンボテ・マンコラを始め、俗地であっても水源を確保し、なるべく水には困らないようにするのがこちらの流儀であると既に知っております。
で…この離魔愛隣会館の隣に、浴場があるのですよ…それも大型のものが…。
この水は地下の温泉なる熱い水の水源から深い井戸を経由して汲み出され、なるべく再加熱の必要がないように計らわれています。
そしてですねぇっ。
朝の儀式を終えたプクヤーナ勤めの太陽乙女が輪番交代制でですね、洗い女として派遣されて来るのですよっ。
(少年たちの中には入浴はおろか洗体の手順すら知らぬものばかり。洗ってやる必要があるのですっ)
(いや、それ自体は止めてませんけど…まさかお風呂の中で…あのお風呂、伊香保の旅館の大浴場くらいは余裕でありますよ…)
そうそう、この風呂、リュネの戦士官舎などと同じで、流れ作業に近い形で体を洗われます。
ただ…太陽乙女、すなわち神官が希望すれば、少年と落ち合って一緒に風呂に入れるのです…。
(即ち、太陽乙女にしてみれば侍従少年を探す場所でもあるのですよ、この悪所の湯…)
(つ、つまりそれは…)
思わず、私の両肩を掴んで揺すられるベラ子陛下。
「ええもちろん、身体を洗った少年と太陽神殿の神官ですよ。魔毒抜きのためのアレ以外にやることないじゃないですか…」
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