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番外編・吉原よいとこ一度はおいで 10
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かぁん、かぁん、かぁん、かぁん…四回連続して鳴らすのを繰り返す鐘の音が響き渡る、深夜のエド城内。
「な、何事…」
「おお、見よ、天守が、天守がぁっ…」
「火消しじゃ、火消しを集めよ!」
「待たれよ、天守の火消し水が噴いておりまする…延焼は防がれてございます…」
ええ、時ならぬ火災の知らせにざわめく城内。
やがて、鐘がかぁん、かんかんと鳴らされたきり、沈黙します。
ええ…テンシュカクと言われた城の塔部の上部が、夜目にもはっきりと分かる、爆発とも言えるような火球に包まれて消え去ったのを、私の視覚は捉えていました…。
ただし、その爆発炎が起きた次の瞬間、城閣周囲の塀の壁から噴き上がった水の壁とも言える放水が、瞬間的に城閣目掛けて吹き付けられ、一瞬で消火されてしまいます。
しかし、火が消えたとは言え、爆発した塔部に人がいたとすれば…。
「あ、あそこにはたか…上様とお美代がいたはず…」
「な、何と…あの二人は無事か、無事なのか…」
狼狽する、私の側にいた尼僧・ホウシュンインと滋光法師。
「いや…とりあえず確認してきましょう、ここでお待ちを」言うなり、耐火防護型陸上戦闘服に瞬間更衣して跳躍する私、ジョスリーヌ・メルラン。
(リンド、あれを用意してくれ…恐らく、この火災の原因、お前も気付いただろうが…あれだ…)
と、大奥の別の部屋で異変を察知したリンドリアーネに心話を送ります。
(やはりですか…何でこう、人は言いつけを守らぬのでしょう…)
(この場で言うのも何だが、色々と守らないからお前もここにいるのだぞ…)
(ジョスリーヌ団長もストラスブール流しになってたのでは…)
(失礼な奴だな…まぁいい…うん、やはり、聖環しか残っていない…予想通りだ…)
(は。準備したものはここに)
ええ、遅れて到着した、赤薔薇騎士団制服のリンドリアーネが、死体袋を二つ担いでいます。
(放熱してくれるか。焼け焦げた偽装は必要だろう…炎は上げるな)
(了解)
ま…骨も残らずに燃え尽きてしまうのはあまりにも不憫ということで、生きている内に密かに準備していたのですが…まさか、こんなにも早く役立つとは。
そう。
こうした状況を予想していた私が、予めジェネラルとオミヨの身体から取得した遺伝子を使い、茸島のファインテック支社に作成を依頼していた「骨格見本」がその中身です…。
(マダム・オマツ…ムッシュ・シゲミツ…ジェネラルとオミヨの聖環を回収しました…。遺骨はリンドリアーネと私が確認。周囲の残骸はまだ完全に消火放熱しきれておりませんので、人の接近は推奨できません。我々が遺骨を回収して良いかどうか、カピタン・ノブツナに連絡を願います…)
(御意…お馬鹿な事を…)
(ええ…芳春院様…)
ですね…がっくりと肩を落としてうなだれる気配2つが、大奥からも伝わって来ます。
やがて、焼け落ちた砦の周囲に、チョウチンを提げたサムライが何名も接近してきます。
その、先頭の一群にいた顔馴染みが、緊急照明に照らされた私に声をかけてきます。
カピタン・マツダイラ・ノブツナ。もはや私とも顔馴染みであり、かつてのジェネラール・イエミツのホモナカマでヨシワラ通いの際の常連侍従の方です。
「おお、じょすりんさま…上様は、上様はいずこに…!」
「残念ですが、ここにジェネラールの聖環を発見しました…そして、アイビキをしていた者の聖環と、遺骨2体がその場所から見つかっています。この焼けた残骸の中にはいまだに熱を持っているものもあり、皆様の接近を推奨しません。皆様がこの場で立ち会い頂けるならば、今から遺骨を回収いたしますが」
「お願い申す。それと…上様と、もう1人の遺骨…厳密なる区分は可能であろうか」厳しい声で申されるカピタン・ノブツナ。
「承知。可能です」ええ…我々が置いて、焼け焦げたように偽装していますしね。
で、遺骨回収作業やら何やらを終えたのは明け方となりました。
その流れでエド城大広間に集まる家臣、それも頂点の重臣のみが参加する集いに私も出席せざるを得ぬ羽目に。
とりあえずは重臣たちから発せられた、労いと感謝の言葉を受けます。
「じょすりぬ殿…此度の献身、誠に相感謝申し上げまする…」
「誠に残念な事になり申したが、上様のご遺骨を拾い上げ頂けたのはせめてもの救い…」
「上様を誘うたくのいちの骨との区分けも頂きましたが故、後に咎めらるる事も無きかと…」
で、私は沈痛な表情を装い頭を下げて聞いておりましたが、この時代のジャポンの人々、特にサムライの死生観や葬儀の習慣、やはり独特なものがあります。
更には男女の格差も温度差として厳然と存在するのも。
とりあえずはなるべくならば全身の骨、特に頭骨は回収すべきものとみなされていること。
そして、ショウグンの骨と他の者の骨は厳密に区分されるべき。
更には今回、表に出せない部類の事の最中の火災での死亡とあって、詳細状況はまぁ…秘匿すべきでしょう。これは私も深く合意します。
で、オミヨの骨はムエン・ボトケ…即ち縁者のない孤独な死亡者として扱われ、そこらの寺に適当に埋葬されてしまうそうですね…。
で、この謁見場でもある広間の上座、座っているのは私だけではありません。
ええ、トラジロウを連れた大奥監督者たるマダム・オマツとその侍従名目の僧侶たるムッシュ・シゲミツ…そして、マダム・オマツは自分の腕に抱かれた幼な子をあやしております。
そして、マダム・オマツがジェネラル用の拝謁大広間に現れた名目はその幼な子の乳母役ですが…その名目実母たるマダム・タカコは出産後の体調回復名目で、キョウトのご実家…エンペラールの宮殿に帰っています…。
で、マダム・オマツは当然という顔で、その大広間の上座に座っております。
そして…オマツサマの侍従の偽女種僧侶が実は本来のジェネラールだと知っている、この重臣たちが子供を咎めない、もう一つの理由。
マダムが抱いている子供…タケチヨなる名前を付けられた男児の父親は昨日の火災で焼け死んだカゲムシャではなく、正真正銘のジェネラール・イエミツの子供であり、おまけに本当の母親がマダム・オマツだと知っているからです…。
更には。
「正之…登城を依頼した矢先に、かかる事態が起きた件相済まぬ。更には忠長の安藤家での一件じゃ。わしも素性を隠しておこうと思うたが、このような事が相次げば流石にある程度を明かさねばならぬであろう…」
「いや、あくまでも今、目の前におわすは我が兄たる家光様に非ず、芳春院様お抱えの新進気鋭の慈母宗僧侶、滋光法師様にございまする…」
しれっと答えているのは、実のところ先代のジェネラール・ヒデタダが大工の娘に産ませたというジェネラール・イエミツの異母兄弟のホシナ・マサユキという人物です。
錠前作りが趣味の国王はともかく、ショウグンが大工の娘を孕ませてよいものか。
そのような疑問、ビクニ国のサムライの間でも、部外者からは分かりにくいことこの上ない彼らの掟以前の素朴な疑問として皆が思っていたようです。
(しかも、鷹狩の際に立ち寄った家であれを致して一発懐妊とか、あの親父殿は一体全体何をやってんのか…)
(ムッシュ。子孫のトクダ・シンノスケもミカン県なるゴサンケの領主の時期にオテツキをして、そのせいで後継者事件を起こしたようです…)
(じょすりぬ殿…そなたらには済まぬ話であろうが、やはり男色、特に将軍家と御三家と親藩については正義だと思うんだ、俺…)
(子孫を作るなら小官は咎めませんが、オカミサマやオマツサマに怒られませんように願います…)
で、アイヅというラーメンが美味しい国のオトノサマになっていたこの人物、長くその存在が隠されていたそうですけど、ジェネラール・イエミツが密かに家を出る際「今後予想されるカゲムシャのしくじりの結果で」バクフが傾いては困るということで、ジェネラールの家臣団に抜擢され加わった経歴持ちだとか。
(この時代にきたかたらーめん、まだございませんわ…水戸から製法を輸入すれば話は別ですが…)
(というかマダム、なぜそれをご存知なのか…)
(ちじょ宮の女官しょくどうの麺類こーなーにございまして…)
で、文化汚染はともかくですね、ショウグンを輩出するべき家系とされるトクガワ家との血縁関係を重視するバクフの中では、その才覚もあってあっという間に相応の発言権を有する存在として認知され、役職も与えられたようですね。
その証拠に、カピタン・ホシナの発言に反論するどころか…他の家臣は皆、同調。
「そうそう、俗名が井伊直滋で、僧侶修行が上手く行かぬ時のために敢えて家を出て徳田滋光なる牢人者を名乗られたお方であろう…万一の際にも生家の恥とならぬ敢えての出奔、まこと武士の鑑たるご配慮…」
「幸いにして日枝慈母寺と慈母学習院の評判や門下生の成績も良く、井伊家のお手柄になっておるはずじゃ…のう、直孝殿…」
(皆がこぞってこの上なき説明的な科白を棒読みしておる気もするが、まぁともかく、ここに改めて将軍家光の嫡男たる竹千代を披露するでござる…公式の父母が死んだか実家に帰っとるから仕方ないのでござる…)
(そうそう、ほんに間の悪い話で…)
(っていうかうえさ、いやさ陰間11号様…)
(その言い方もやめてくれ信綱…頼むから俺の事は徳田滋光か滋光法師でお願い!お願い!)
(幕政ほったらかして坊主やってるだけでも怒りたいのですがね、上さまいや11号様…まぁ、ともかくまだ小さい竹千代様でしょ、将軍位の跡継ぎ、どうすんですか…しかも忠長様が高崎の安藤家で食あたりで急死でございましょう…後継者、御三家から引っ張ります?)
(信綱殿…それはやめたが良い…せめて四代までは神君直系にすべきであろう…)
(酒井殿もそう思われるか…)
(まぁまぁ皆様。要はそのアンファン…タケチヨがある程度は大きな子に育つ時間稼ぎが出来ればいいのでしょう?)
(は、はぁ…将軍家後見役のじょすりぬ様が申されるならば…)
(小官から提案出来る方法は二つ。まず、一つ目はそこなロウニンで僧侶のムッシュ・トクダがジェネラールのカゲムシャとなれば良いのです。ええ、ジェネラール・イエミツの外観に戻せばカタは付きます)
(じょすりぬさま…それ、おれは拒否したいんですが…何のために直滋を影武者にしたのかと…)
(ジェネラール、今は国難の時です)
(そんなぁああああああ)
(まぁ、ジェネラールをいじめるのは置いとくとしても、もう一つ方法、ありますよ…)
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ええと、先立っての南洋島の得度式からまた、時が過ぎていますが、私の比丘尼国駐在、なぜか解除されませんのですけど。
シバクゾ、あの皇帝陛下。
で、この窮屈な和服もいい加減脱ぎたいんですけどね。
しかも何ですか。
先の会話にも出てましたけど、私、将軍家後見人なる立場にされておるのですよ?
一体何だって、この私がビクニ国のジェネラル・ファミーユの後見者なんぞを務めなくてはならないのか。
そして…昨日の火災です。
ええ、ええ。人の忠告を守らない者はこうなるのですとしか…。
全くもって、あのイイ・ナオタカは…。
更には、あのオミヨなる女。
案の定と言うべきか、ジェネラールの外観に偽装させられたナオタカを籠絡にかかったのです。
そして、馬鹿どもに車を…いえ、性交の機会を与えるなと言うべきでしょうか。
もしくは「お前たちの頭はやはり、ものを考えられるようなご大層な頭ではなかったのだ」と墓前で罵倒すべきであったのでしょうか。
とにもかくにも、懲罰偽女種と懲罰女官にされていたナオタカとオミヨの身体、ある限度を超えて性交に耽ると自動作動する、聖環による懲罰機能が動くに至ったのが昨日の火災の惨劇が起きた理由です。
ナオタカは我々の言いつけを破り、より強大な性欲と、女の持続力で長時間の性交を楽しめる偽女種状態の性交に耽溺していたのです…しかも、偽女種の方がチンポが性交向けになってしまうのを知っていたオミヨは、我々の忠告を軽視し、隙あらばナオタカを偽女種化していたのです…。
もっとも、連邦世界のエド城同様にテンシュカクが燃え尽きてしまう可能性を見越していたマリア様の通達で「あそこには重要な金品や装飾品の一切を置かないようにしておいて、非常用の指揮塔というだけに用途を限る方がいい」という話をしていたのが奏功して、実質的な被害は塔屋…テンシュカクの建設費が丸ごと損になったくらいで済んだそうですが。
そして…ナントカとナントカは高いところに登るとはよくも言ったもの。
オミヨの策謀によって、ナオタカは将軍の権威を自らに自覚させるためなどとそそのかされて、数々の暴力的・権威的な変態性交に耽る日常を過ごしていたのですが…。
その策動の一つが、ろくに使われておらず、普段は人もいないテンシュカクの最上階での性交だったようです。
いえ、私の黒薔薇仕様の聖環、確実に彼らの行動、常時モニタリングしようと思えば楽に可能。
彼らは暇を見つけては天守閣に登り、眼下の城内や城下町…即ち、平民や部下があくせく働く様を見下ろしながら悦に入り性交していたのです。
(じょすりぬ様、天守閣のような高い建物にはあまり良い思い出がございませんようで…)
(ええ、エッフェル塔の展望台…それも営業中のそこで、周囲をいかにもなマフィアのヨウジンボウで固めた中、犯された経験ですとか、わざわざ5区や6区16区といった高級アパルトマンの屋上やベランダに出たり、歴史的な建物の中でとかですねぇ)
(あー、多分、直滋様かお美代、そのおもいでを見て似たことどもをなさろうとした可能性も…)
うげげげげげ…ナオシゲには私の記憶、つぶさに見せるのではなかったかも知れません…。
ただ、ナオシゲとオミヨのその浅ましいチクショウの交尾内容、実のところは何かの証拠とせざるを得ない可能性を鑑み、余すところなく映像に残しています。
まぁ、そんなものを証拠としていちいち提出する必要もないほど、傍証から「上様とくのいちの逢引きが原因の出火」という原因であると確定していた今回の火災ですから、ことさらに下品な交尾動画を公開しなくても良くなったのは不幸中の幸いというべきでしょう。
更には、カランバカ修道院運営における失態によってビクニ国にシマナガシに遭っていたリンドリアーネ、このエドの町においては私の手下めいた存在でもあったのですが、降格処置は恒久的なものではなく一種のリミッターがかかった暫定状態であったことが幸いしました。
ええ、ナオシゲはもちろん、千人卒相当のオミヨにも気付かれる事なく二人の痴態の数々を記録に収め、いざという時の証拠資料にする程度の騎士行動は出来たのです。
そして…動画は痴女宮のマドモアゼル・ユキコ・ウガジンを通じてマサミ=サンに送りつけています。
(こんな動画の需要あるんですか)
(動く春画、動くウキヨエと言って流すしかないかな…)
(エド・シャトーの焼失前の内部映像記録にもなっていますよ。学術資料として売れませんかね)
(ジョスリン…残念だけど、江戸城天守閣は改修時改築時はもちろん、明暦の大火で天守閣が消失した際の復元工事のための図面や資材一覧がほぼ完全に残っていて、完璧な再現模型を作れたくらいに資料が充実してるのよ…)
あががががが。
昔の日本人の物持ちの良さに敗北してしまったと思える、その瞬間でしたよ。
まぁ…私がビクニ国を離れられない理由となる事態、もう一つ起きていたのです。
ある意味ではジェネラール・イエミツ…厳密に言えばジェネラールと入れ替わってカゲムシャとなってヲメコ三昧の毎日を送っていたイイ・ナオシゲの死亡よりももっと困る部類の人物の死亡が。
それも相次いで、3名。
しかし、その遺骸をすぐさま埋葬せずに完全保存しておかなくてはならないほど、他の事情が逼迫していたのです。
まず、比丘尼国のエンペラールですが、ジェネラル・イエミツ他、バクフの重臣たちととあまり関係が良くなかった事もあって早期に退位しています。
そして…問題なのは、トクガワの家からエンペラールの家に嫁いだマダムとの間に生まれた娘さんがその後継者となり…アンペラトリスとして即位していることでした…。
「マダム…キョウトへのジェネラル・イエツナの披露、よろしくお願い致しますよ…」
「ええ…興子様…今上様の件も併せて…」
(じょすりーぬ・めらんとか言うたの…元来は興子に世継ぎを作らせてはならんのだぞ…他の皇子または皇子の子を儲君として男系が継続するように図るのが定めなんじゃから…)
(は…しかし、おかみ様は「おまつの子供を次代の天皇にせぇ」と申されるのですが。上皇陛下、それをじょすりぬ様に言われても彼女が困ると思いますわ…)
(仕方あるまい…えーと、政仁が子供をようけこさえとるはずじゃから…確か紹仁が興子の後継となるが早死するのであったか…で、ぴんちひったーとして良仁が入りよるから、良仁の後釜の識仁として滑り込ませるか…)
と、家系図らしきを眺めては唸っておられる幽霊のような御仁。
(光明院観勝寺…祟り神として悪名を馳せた崇徳上皇陛下をお祀りしておる寺ですわよ…)
(なんでおれまでもが…と思うのだが、おまつ様の侍従扱いなのだよなぁ…)
ええ、ロウニンたるトクダ・シゲミツさんは僧侶かつマダム・オマツの秘書役の立場です。
ビクニ国のジェネラールの側の使者一行として、この不気味なエンペラールの亡霊とも対峙頂かなくては。
ただ、この日本三大祟り神とか言われているエンペラールがテンノウの家系に詳しい当事者とあって、マダムの子供を誰が産んだ事にするかを決めて頂けるそうなのです。
で、トウキョウ駅を朝6時に出る列車に乗り込んだマダムとムッシュ・トクダと私、お昼にはまだ早い十時前にキョウト駅に到着後、ジンリキシャなるものでギオンの芸者街の外れにある、この不気味なオテラに向かい、そこで不気味なエンペラールのご先祖様と対面しているという状況です。
(オカミサマ、一応念のためにお聞きしておきますが、現状のテンノウヘイカであるオキコ様をマダム・オマツが孕ませる訳にはいかんのですか。これが一番手っ取り早い気がするのですが)
(じょすりん、おまえ…うちのくに、ふらんすとかいすぱにあとかえげれすとおなじにするな…わしも顕仁もあたまかかえてるりゆうやねんけどな、この国のてんのうはおとこのこの家系でつづかさなあかんねや…そら、わしかて興子はらますんが一番てっとりばやいのはわかっとんねんけどな…)
(エンペラール・アキヒトの生体情報を貰う方法もありますが)
(なるべくやったらまともな精液にしたってくれ…あと、今いっしゅん、顕仁がにやりとしよったん、おまえもおまつもきづいた思うけどな、いまのこいつのこどもをてんのうにしたら、それこそ日本がたたられるか、たたりよるぞ)
(おかみ様、せっかく朕が久々に祟れましたのに…朕がどういう経緯でこの寺と白峯に祀られておるか、その理由込みでばらさんといて下さらぬか…)
ええ、このエンペラール・アキヒトは諸事情で悪霊どころか、とんでもない大悪神になった人物だそうです。
その悪神が、オカミサマの仲介があるとは言えど、なんで我々に協力しているのでしょうか。
(そちの主君二人と、あとそちの国の将軍がおるじゃろ、手がやたら早い上に人の話を全く聞かんの。あれよ、今、朕が暴れたら即座にあれが来よるのよ…)
ああ、あれですか。
一応は私の上司というか上位職者なのであまり悪し様に言いたくないのですが、一瞬であのお方と理解できてしまうあれですね、アレ。
更に言うと、実のところは私も最大の苦手であるのです、あの方。
敵に回すと話が通じそうで全く通じないのは、直接にこそ対峙しておりませんが大体わかります。
そして、交渉の余地がないと言うことは全力の勝負あるのみとなりますが、流石に全力発揮状態のあれと戦って五体満足で生還できるのは困難なの、理解しておりますし。
それに、似たような物件…痴女皇国二代目皇帝とはそれなりの応酬を繰り返しておりますので、あれよりもっと面倒な存在だと既に判明しているアレに殊更喧嘩を売るような愚者ではないつもりです。
(そうそう、あれ)
(うむ。たしかにあれがせめてくると顕仁でなくともこまるやろな)
(べらこ様も言っておられましたが、あの御仁、将軍位にも関わらず、滅多と表舞台に出せぬ理由が色々とおありのようで…)
(うむ。わしのまごにもなってまうねんからあまりわるういいたないんやけどな、あれだしたらまきぞえでえらいことになるからなるべくさけろいうて、まりやにもべらこにもてるこにも言い聞かせとるからな…)
(ジョスリン…アルトさんからの伝言です。あたくしがおはなしするにはいたらず。びくにこくからかえったらダリアのところにかおをだしてください…つまり、多少のお慈悲があるようです)
(あの…大差、ないと思うのですが…統括も小官より充分に強いのをお忘れですかこのパスタ女)
(あのですねぇジョスリン…これはアルトさんなりの優しみなのです…アルトさんとダリアさん、どっちが話が通じますか)
(統括。考えるまでもありません)
(更にダリアさん、黒薔薇内の序列ではカエル女の先輩。そして生まれた場所や時間軸空間軸こそ違うがアフリカ系フランス人という出自は同じ、それに何よりお互いが聖女認定の出た立場でしょう…)
(ジョスリン…要はうちが話して改まらなかったら、次はハワイで話がしたいと言うてますねん…うちは皆まで言いとうおまへん…)
ぐぬぬぬぬぬ。
(ではアルト閣下に伝言願います。小官のみを指導対象とするにはあまりに理不尽。オカミサマまでもがアルト閣下を痴女皇国きっての暴力装置として認識している件について、小官は元来の比丘尼国担当者に報告しようかと思います。どうせ聞き耳立ててるのは承知ですが、小官の報告の意志がなくば見ざる聞かざる言わざる、知らんぷりぷりで済まされることでしょう。最近は閣下も十月懇親会に呼ばれる立場、カミサマ方からやいやい言われる光景は小官が見たくなるものではありません…)
(あたしは知らんあたしは知らん聞いてない見てない…)
(このよめはだれのみかたをするのですか!)
(ジョスリンも、ダリアを見習ってちったぁ口の悪さを直してくれよ…)
(ジョスリンの影に隠れてますけど、うちも割と口が立つ方らしいですから自省しよ…)
(っていうか何で同じようなアフリカ系フランス人でここまで差がつくのか…)
(それ、何故かわかるような気が…)
(おまつもわしも、だりや知っとるしの…)
(確かに痴女島いてたら顔、何かの時に合わせてましたな…)
(まず、だりやはせんぞにおひめさまがおったやろ…たしかにじつのははおやはどくずやいうの、わしも聞いた。せやけどここではたらくうちに、先祖がえりいうんかな、あのねぇちゃんにちかづいとるんや。これはりえのえいきょうもあるかもわからんけどな、で、おまつはどないみる)
(一言で申し上げますと、余裕の違いでございますかしら。だりやさんもじょすりん様も一見すれば条件は同じか…下手しますと、まりーさんがお相手の分、じょすりん様の方がよろしいこともあるやも知れません。しかし、実際にお二方を見ておりまするに、より落ち着きを感じるのはどちらか)
(ダリア)
(ダリアさん)
(だりややな)
(じょすりんにはわるいのですが、ダリアですね…)
(だりやさん、ですわねぇ)
みなさん、何ですか…私を一体何だと。
(ルルド…聖女担当として一言。ジョスリンが攻撃的なのは、連邦世界の例のオルレアンの聖女、狂信的だったあれの血を引いてるからですわよ…で、ジル・ド・レェ…あの男とジャンヌとの間でに子作りしたとすれば、どんな子が生まれたでしょうね…)
(二代目様…それ、洒落になってない気がっ)
(あのー、ジルって確か、ショタ版のろりや…)
(あの、そのじるとか汁とかいう輩、今、顔を拝見致しましたが、何ですかこの狂うた顔つきの男)
(おまつさん、それ、別の何かを見てると思う…)
で、皆様の感想に近しい衝撃、このジョスリーヌ・メルランも受けておるのですが…。
ぶっちゃけ申しますけど、ジル・ド・レと言えば歴史に名を残したロリペド男。
そしてとんでもない殺人鬼です。
で、そんな男がおかしくなる原因だったとも言える聖女ジャンヌ・ダルク。
かような強烈な人物が先祖におったんかい。
これだけでも、私は今立ち直れない衝撃を受けたような気がするのです。
(ジョスリン…帰って来たら女官食堂の購買で好きなもん買うたげますから、元気出してください…)
(ストラスブールに帰ったら、コニャックの良いの開けたげますわ…だから気落ちしないで…)
(あたくしがはげましてあげましょう。びくにこくのあたらしいおこさまのしょうぐんさまのおやつにもなりますから、さしいれにばいてんのチョコレートおかし…ほら、せいいん学院のこどもたちにもにんきのあれを)
(アルト…それ、原料は快感王だぞ…)
(逆にジョスリンが怒る気も…)
いえ、怒る気もありません。
まぁともかく、皇族の子をマダム・オマツに懐妊させる件ですが、四苦八苦した結果、マリアリーゼ陛下がすっ飛んで来て何とかしたとだけお伝えしておきましょう。
(流石にこれはなぁ…女系天皇の家系混ぜ込むと、比丘尼国の政体としてちょっと困ることが起きるんだよ…あそこの神社の神主、日本と違って軒並み巫女種が担当してっけどさ、たった1つだけ、男が神主をやる必要があるとこがあってな…)
まさか。
ええ、ジャポンの事も多少は知るようになった私です。
(二見浦の夫婦岩が連想されたのは微妙に惜しい。そこの近所…伊勢神宮内宮だ。あそこだけは男…それも天皇家家系から神主を出す必要があるんだよな…)
まぁ、あの澄んだ川を渡った先にある広大な神社ならわかります。
比丘尼国では、オカミサマの本宅だというのもお聞きしましたし。
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で、ですねぇ…もう一つ、大きな死亡…と言って良いのでしょうか…とにかく、特殊な棺に遺体を納めて埋葬する対象が発生したのです…。
それも、マダム・オマツにとっては親類に該当する上に、その方の死亡は非常に衝撃的となるであろう話なのが、この私にも速やかに理解出来る人物です。
そう、マエダ・ケイジロウの死亡。
マリアリーゼ陛下によれば完全な死亡ではなく、遺骸は残るものの痴女宮地下24階の墓所同様の扱いになるそうです。
(実はワーズワースのジジイも同じ扱いで遺体を保存してる。パッと見には普通のアングロサクソン系のお棺を使った埋葬だが、ちょいと特殊なお棺でね…)
で、ケイジロウ氏と従者2名の遺骸は速やかに同種類のお棺に収容されたものの、先の諸々の騒ぎでなかなか公式の葬儀を執り行えないままとなっていたのです。
(本人のいざという時の遺言もありまして…)と、他ならぬ日枝神社境内に建てられた一夢庵江戸分院なるケイジロウ氏の居宅で、一応の正妻…に限りなく近い存在の伽姫様からお話を伺います。
そして、以前からの本人の口頭意向をよく知りお付き合いも頻繁だったマリアリーゼ陛下が葬儀を手配し、喪主は伽姫様がお務めになりました。
ただ…私同様に日本式の喪服を着て、肩を震わせ悲しみに包まれている人物こそ、本当は大国主の先代夫人たる権力を最大活用してでも、葬儀を主催したかったことでしょう。
そう…マダム・オマツです。
しかし、伽姫様は一応は気配りを見せ、喪主の紹介の際には自身の隣にマダムをお呼びして家中の者であるアピールを致しました。
で、ケイジロウ氏と従者の遺骸はどうなったのか。
早朝4時、日枝神社境内。
老人に近い三人の男性が、立派な喪服で姿を現します。
そして、虎のトラジロウに付き添われた、マダムとムッシュ・シゲミツも。
ケイジロウ氏の愛馬だったマツカゼという、とんでもない巨体の黒い馬と、ノカゼという灰色の馬もその集団に加わります。
で、用意された大型の黒い荷物用馬車。
立派な体格の二人の男性と、少し小さな小太りの男性、そして似たような体格の男性と大柄な髭の英国紳士に、海賊らしい風体の英国人に…伽姫様とマダム・オマツが加わり、よっしゃとばかりに棺が持ち上げられます…更にはマリアリーゼ陛下とベラ子陛下、おかみ様までもがその介添えをなさいます。
で、大きな棺の半分くらいの大きさの棺二つも同様に、馬車の荷台に積み込まれます。棺の固定処置をしたマリアリーゼ陛下は馬車の荷台に乗ります。
更には、普段、よほどの事がない限りはケイジロウ氏以外を乗せないという黒い馬に馬車の牽引具を装着した後、マリアリーゼ陛下に促されて跨る小柄なサムライ。
「では、葬列先導役…芳春院様と伽姫様は野風にお願いします。野風の嚮導は直江兼続さんと松平秀康さんにお願いします。松風の御者は奥村徐福さんに、金悟洞さんはあたしと一緒に馬車の方にお願いします。原宿駅までのお見送りの方は迎車を用意しましたので、そちらにお願い致します」
黒い洋装の喪服姿のマリアリーゼ陛下が申される中、私も真っ黒な…日本のソウギヤ仕様だというダンケ号ハイルーフロングとやらの2号車に乗り込んでハンドルを握ることになります。
更には、同じ車種のダンケ号1号車はマリアヴェッラ陛下が運転。
ええ…痴女皇国からも田中内務局長他、それなりの人が参列しています。
で、大型バスすら用意され…臨時でこちらに戻って来たという高木ジーナ閣下が喪服姿で運転するとか。
この葬列は早朝ということもあって静かに行われますが、江戸市内で元来は禁じられている乗馬移動もやむなしとあって、幕府側からも騎乗しての先導役と、徒歩で随伴する護衛兵の列がつくそうです。
「では、行ってらっしゃいませ」
タイロウと呼ばれる役職の家臣を中心とした重臣たちと、そして乳母役の女性に抱かれたタケチヨ君…四代目のジェネラルとなるトクガワ・イエツナという名前を授かりました…が見送る中、控え目に鳴らされた鐘を合図に、しずしずと早朝の江戸市中に向かって葬送の列は歩みを始めます。
(何せ慶次郎たちの遺骸、馬車と松風もろとも米沢まで送り込むとあらば、こうも大袈裟になるのでしょうが…)
(助右衛門さん、申し訳ないけど松風の指名だから…)
(いやいや、松風もよくわしを選んでくれたものでござる。莫逆の友を送る馬車の御手などこれに勝る栄誉なし)
たった一頭で軽々と馬車を曳くマツカゼに乗っているサムライ…ジョフク・オクムラことオクムラ・スケエモンという方はケイジロウ氏のカナザワ時代からの友人で、マダム・オマツのご主人の代からマエダ家に仕えた重臣と教えられます。
そして、女性2名を乗せたノカゼの両脇を固めるナオエ・カネツグ氏とマツダイラ・ヒデヤス氏はケイジロウ氏の戦友とでも言うべき存在。
ケイジロウ氏の遺骸を納めた棺を保管する墓所をどこにするかで、このお二人が話し合った結果、イチムアンと言う小さな屋敷が存在するヨネザワ市…カネツグ氏の主君で、ケイジロウ氏もその下に身を寄せて戦った君主のウエスギ氏の城下町がその場所に選ばれ、まさしくそのイチムアンの地下に墓所を作って棺を安置するそうです。
で、その一夢庵にはケイジロウ氏の妻たるマダム・トキコ…伽姫様と、その従者たるジャポン・ピラート…ワコウのチャイニーズで暗殺者のキン・ゴドウ氏が墓守として住むと。
マダム…それで良いのでしょうか…。
(米沢は慶次郎様ゆかりの地であり、伽子さんと悟洞さんもそこの一夢庵本院で暮らしていましたから大丈夫ですよ…)
で、エド市内を巡るヤマノテセン同等の鉄道の駅の一つ、ハラジュクにあるジェネラールまたはエンペラールが乗降するという専用乗り場に馬車は乗り入れます。
私たち、自動車組は駅前の貴人専用車寄せに車をつけ、乗り込んでいた参列者を下ろして行きます。
そしてですね、私の格好ですが。
共和国陸軍の佐官典礼装備、それも兵士などを送る葬儀用です…。
馬車ごとマツカゼと棺を積んでしまえる専用車運貨車に自ら乗り込むマツカゼを誘導したマリアリーゼ陛下、オクムラ氏と一緒に貨車から降りると扉を閉めてしまいます。
(貨車は馬運車同様に通風式だし水や馬草も積んでるよ。野風は虎次郎くんと一緒に日枝神社に戻すし…)
そう、トラジロウ一家も、この葬列には参列していたのです。
マツカゼとの別れでは、物悲しく鳴くトラジロウたちに顔を寄せ、優しく舐める姿が却って人々の涙を誘っておりました。
感情を排した行動を規範とする私ですら、虎たちの鳴き声と姿から伝わる悲しみに、目の端が熱くなったほどです。
ええ…この場にいる全ての人間が、ケイジロウ氏とステマル氏、トビカトウ氏…ホネ氏の死を嘆き悲しみ、存在の喪失を惜しんでいました。
「皆、悲しむばかりでは稀代の傾奇者たる故人の成仏は叶わぬ。ここに、河原者頭の庄司甚右衛門殿率いる楽隊がおる。河原とも親しく、吉原開きにも力を貸したという故人をこれより奥州米沢に送るにあたり、慶次郎殿も得意とした傀儡舞にてその葬行に花添えんとしたい望み、河原衆並びに穢多衆より寄せられてござる」
誰もが異議など唱えようもありません。
で、楽器に心得のあるヨシワラの遊女が音楽を流す中、その宣言をした当の偽女種僧侶と、敢えて卑猥なチャイナドレスを着た穢多の偽女種たちと…そして一種のサクラでベラ子陛下やダリア統括など、痴女宮有志も混ざってのチャイナ風舞踊を披露。
で、慣らされる伽耶琴と言う、伽姫様の国の楽器の音を合図に、馬車運搬車の背後に連結された客車…数字の2が乗降台付近に描かれ胴体に青帯を巻いた、少々古めのものに、これからヨネザワまで同行する人々が乗り込みます。
その列を見送…。
「こらぁジョスリン、あなたはおまつさんと徳田滋光さんの付き添いでしょうがぁっ」
「そうですよジョスリン、あなたがおつきをせずにだれがするのですか」
ええ、私の両肩を左右の背後から掴む手が。
ええ、隙あればここで逃げようと思ってたのですよ。
どうせ、この遺骸輸送に慈母宗僧侶が同行するというイベントであれば、何も私が付き従わなくともリンドがいれば充分だと思うのですが。
「あかん。アルト。最低でも米沢まで同行しろ。それに、おまつさんと滋光さんはこの後弘前に向かってあそこの慈母寺の開山打ち合わせを皮切りに、奥州から道南の慈母寺設置予定国の国主と会談予定だろ…ジョスリンはその護衛要員だってあらかじめ通達が行ってたの、忘れたとは言わさねえぞ…」
えーと、もしかしたら米沢どころか全行程、アルト閣下が同行する可能性がありますね。
(とりあえず出すわよ。出発時刻は5:30を守らないと、この列車、定期運転の山形経由青森行二等三等急行あけぼの号の前に繋いでるんだからね…ついでに後ろ七両は郡山切り離し喜多方経由新津行準急あがの号として東京に着いたら一般のお客乗せるのよ?)
はぁ。
室見局長の姿を見ないと思ったら、この葬送列車の運転を担当なさると。
それに、どうも棺と関係者だけを乗せるにしては、やたら長いと思ったら、そういうからくりですか…。
(それだけのために専用列車を仕立ててるのは今んとこ将軍用と天皇陛下用。もっとも、こないだの京都行きの際はお忍び指定があったから超特急光號とはいえど一般列車一等使ってもらったんですけど…)
ともかく、トラジロウ一家の鳴き声に、貨車の中のマツカゼが鳴いて返礼するのを契機に、前の方で汽笛を長く鳴らしながら列車は動き出しました。
わざと古ぼけた感じに作られた客車ですが、全ての座席は進行方向を向くようになっています。
で、私の前の座席にはマダム・オマツが窓際、ムッシュ・シゲミツが通路側で腰を下ろしています。
そして、向かい合わせにされた座席の窓側は伽姫様、通路側には海賊の悟洞氏。
「いや、おまつ様…これほどの葬儀とは、きっと旦那も喜ぶだろう…」と、前方の貨車に視線と意識を投げておられます。
「伽子様、失礼ながら…これからはどうなさるので?」
「いえ、悟洞もおりますし、慶郎や捨丸が存命だった時と同様、耕作をすれば二人程度は食い繋げましょう」
「伽姫殿、心配無用」
と、そこに現れたのは老境に差し掛かってはいますが、ムッシュ・シゲミツより遥かに体格の良いサムライ。そして、マツカゼに騎乗していた小柄なサムライも後ろにおられます。
「実は…奥村殿から書状を預かったのだが」
「悟洞、捨丸が商人たちに貸し付けておった金、代わりに加賀前田で回収して上杉に渡す。だが、この金はそもそも慶次郎の従者たる捨丸の持ち金であり、更にはわしから慶次郎一行の生活費とせよと命じたものを捨丸に預からせておったのだ。従って相続の沙汰については、本来ならば前田慶次郎の戸籍縁者となり…あやつの身元保証人ともなっておる芳春院様が相続致すのだがな」
ここで、にやりとお笑いになるオクムラ様とナオエ様。
「今後、老齢にて働けぬか役目を降りた者についての救済手段として、年金なる考えをどこぞのまりや様がお教え下さってな。で、どっかの上様とか言う人が征夷大将軍のお役目に就いておった時分にごーさいんの花押を捺されましてなぁ」
と、更に前の方から現れて手近な座席に腰を下ろす、マツダイラ・ヒデツナ様。
「で、年金とやらの試験を兼ねて、幕府の依頼にて前田家は毎年百両を今後三十三年に亘り、前田家縁者の墓守代行費として一夢庵に支払うそうである。ただ、伽姫様も悟洞も他国籍者で帰化手続きが困難とのこと…まぁまぁ伽姫殿、そうむくれた顔をなさるな」
「うむ…姫よ、幕府の要人がここにおられ、更には助右衛門殿に直江殿やおまつ様までおるということは、伽姫様と俺が食うに困らぬ手立てを講じてくれたのだろう。姫、心配するな」と、宥めに回るムッシュ・キン。
「幸い、一夢庵の日枝分院はおまつ様の仕切りであろう。でな…」
「一夢庵の口座より奥州米沢上杉家にそのお金を毎月、自動送金する仕掛けを作って頂きました」
「で、米他の入り用なものを上杉で支給致すことにした。わしも何かあらば顔を出すから、入り用のものがあれば望んでくれ。もしくは…ほれ、城の南に一宮神社があろう、あそこに赴けば必要な金子を用立てるので、その腕輪に金を入れてもらうが良かろう」と、ナオエ氏は申されます。
「要は、二人なら無駄遣いはしないだろうけど、一夢庵に金や小判の形で置いとくと物騒だし保管に困るだろって配慮だよ。それに、上杉家としては慶次郎さんのお墓の面倒、あんたらだけに任せるに忍びないって言ってくれてんのさ。ここは黙って好意として受け取っといたげてよ」
と、マリアリーゼ陛下すら現れます。
「いや、本当はここにおる全員、このまま米沢まで押しかけそうな勢いなのであるがな、たけちよ…いやさ今は徳田滋光こと滋光法師であったな。まぁ、滋光法師と芳春院様が埋葬に同行なさるとあれば、よもや伽子様と悟洞の今後、何の手立てもなく米沢を去ることは致すまいて、案ずるなかれというやつじゃ」
はっはっはと笑う豪傑めいた初老の人物、マツダイラ・ヒデヤス氏…ムッシュ・シゲミツの親戚ですか。
(幼少の頃は祖父様とものすごく仲が悪かったのだが…後に武勇を知った祖父が仲直り致してな…祖父の実子たる方ですよ、秀康の叔父御…)
ふむふむ。
ああ…ナオシゲも、こんな豪傑めいた人物の子供として育っていたならば、変な趣味や性欲過多とならずに、もう少しシャッキリしていたかも。
(いや、秀忠みたいな男の子供に生まれても、それはそれで歪む気もするでござる…親父と秀康叔父御って似た傾向あるから…)
まぁ、トクガワ家にも色々いるということですね。
さて、我々が話をしている間にも、列車はヤマノテセン内回りに近い線路をたどって、南側から…トウキョウ駅に着くトウカイドウ・シンカンセンのような感じで到着したようです。
で、トウキョウ駅で降りる方とのご挨拶でしょうか、アルト閣下はホームに出てしまいます。
『ただいま四番線に到着の列車は南蛮六時十五分発、山形秋田回り青森行二・三等急行曙號でございます…二等車三等車には二等急行券または三等急行券の他乗車券をお求めの上ご乗車願います…後ろ七号車から十三号車までは郡山切り離しの上準急阿賀野號若松喜多方経由新津行きとなりまする為、ご乗車の方は二等三等急行券並びに準急券をお求めの上…』
『三番線の列車は南蛮六時発一等二等三等急行初雁號、仙台盛岡尻内青森経由箱館行、電鈴が鳴り終えますると発車となります、駆け込み厳禁でございます…後に参ります南蛮六時三十分発準急越後號水上湯沢長岡回り新潟行きは初雁號発車後に入りまする…頭上の越後號乗車札の下にお並び下さりませ…』
『五番線南蛮六時発、超特別急行光號大坂行発車となります…南蛮六時十五分発一等二等寝台特別急行燕號赤馬関経由博多行は光號発車後に同じ番台燕號乗車位置札の下にてお待ち下さりませ…』
ふむ。五番線というのですか、私たちが乗った列車の隣にいるもの、何やら見覚えのある…いえ、こないだキョウトに行った際にこれに乗った記憶はあるのですが、祖国…共和国でも見た他、痴女皇国世界のスペインやストラスブールにも同じ型のものがいたような…。
『六番線の列車は南蛮六時五分発鳥羽行一等二等三等急行伊勢號、後ろ六両は亀山奈良経由大坂湊町行二等三等急行三三四號でございます…関ヶ原・米原・京には参りませんのでご注意を…』
『一番線準急甲斐府中経由松本行、第一梓號は南蛮六時十五分の発車でございまする…二番線南蛮六時丁度発車の三等普通列車信濃塩尻行は途中高尾まで先行致しまする…』
「辨當ぅ~ええ辨當~」
「お茶~遠州名物汽車土瓶茶~お茶の御用はございませんか~」
何ですか、この騒音。
(一応、その客車ってスロ53…北海道仕様の二重窓のやつのはずだけど…)
いや、冷房装置が付いてるのは分かりますよ。窓、閉まってますし。
しかし、ジリンジリン鳴ってるベルやワイワイ騒いでいるかの如き案内放送。
共和国のパリ市内の駅、今でこそアノンスがやかましくなりましたが、一時期はかなり控えめだったのですよ。
(国鉄時代まんまみたいよ…セリフが江戸時代なのは仕方ないのと、あと和暦時刻と西洋時刻の併用があるけど、鉄道については南蛮時間…二四時間制でやってるから、南蛮六時ってのはジョスリンも私も親しんだ普通の時計の時間だって思って…)
と、室見局長から心話が入りました。
(それに、超特急光號はこないだ京都行くのに乗ってたでしょうがっ)
(あれ何ですか、かなり揺れるのですが…)
(お黙りジョスリン…あれ、TGV-H型よ…台車は狭軌用に履き替えてるからモーター出力も下がってるけど…)
ああ、そう言えば何か懐かしい感じの列車でしたね、私には。
(路盤慣らすために高速運転してないけどさ、出来た順に新幹線用線路を通してるからね、大坂の手前まで…)
マダム・室見。
何で日本で走らせるのに日本製使わんのですか。
(急場凌ぎよっ。スペインやストラスブールもそうだけど、電線から電気取って走ってる訳じゃないから純粋な日本製はかえって走らせ辛いのよ…)
ああ、精気発電機で動いておるのですね。
にしても、我が共和国の車両も大概、外からだとうるさくないですか。
ふむ…我々が乗ってるこの客車、窓こそ二重で小さいですけど、開くのですね。
どれ、と外を確かめるふりをして自席の横の窓を…え?
「じょすりん、どこへいくのですか。えきべんやさんならはんたいがわの窓をあけるのですよ?」
振り向くと、アルト閣下が満面の笑みを湛えてお立ちに。
しかも、いつの間に繰り出されたのでしょうか。
ハリセンムチが、私の身体を拘束しています。
(ふほほほほほ、どうせここでおりてしまおうとおもったのでしょうが、そうはとんやがかっぱばし)
(合羽橋の道具屋街ってまだ作ってなかった気もするんだが)
(ちなみに道具屋筋もまだ出来てないようです)
それは良いのですが、出来ればこの拘束を解いて頂きたいのですけど、閣下。
「さんざんあたくしをぼろくそにいうておいて、ぶじにすむとおもっておいでなのですかっ」
「請願しますよ…それに言ったではないですか、オカミサマ他も同罪だと!」
「おひとりおひとりじゅんばんにおはなししていこうとおもうのです。てはじめにじょすりんをですね」
「まぁまぁ、あると様、私どもには朝ごはんが頂けるようですよ。あとで届けてくださるはずですから」
「はぁ、おまつさまがそういわれるのならば」と、私の横…通路側に座られるアルトさん。
ジリジリとホームの電鈴が鳴り始めました。
『四番線急行曙號、準急阿賀野號、間も無く発車致します。お見送りの方は番台に出てくるまから離れてお待ち下さい』
(31列車前の運転士室見さん、31列車車掌大倉です。出発よし)
(31列車車掌大倉さん、31列車前の運転士室見です。31列車急行あけぼの青森行、発車します。戸締よし。前方よし進路よし、出発よし。進路開通確認、東北1番。リバーサ前進、ブレーキ緩解。ノッチ投入。6時15分、定発、発車)
で、がっちゃん、と音がして一瞬、列車が動き出しますが止まりかけ…ません。
反対側の窓の向こうに、頭を下げたり敬礼する人々の姿が流れて行きます。
すぐさま再加速してからは、さながらパリ市内の長距離列車駅を発車した列車のように幾つもの分岐を渡って進路を東北の方角に取って行くようです。
(払いノッチって言って、1回加速を切ってブレーキがちゃんと緩んでるか確認すんのよっ。あたしが下手な訳じゃないんだから…秋葉原、場内、制限60。進行、秋葉原、通過。…この時代にはまだ、ジョスリンも大好きなウスイホンのお店とかはないわよっ)
あったら怖いですよ。
(外神田に貸本屋とか講談の印刷屋は出来てるようよ。あと陰で春画を扱ってる印刷屋とか)
あるんですか…。マサミ=サンの暴露に改めて、車内の皆が戦慄しています。
(御徒町、場内、制限60。進行、御徒町、通過…御徒町は上野駅に進入する前に常磐線方面や東北線方面の合流や分岐を行う信号場扱いね。この時代だとまだまだ江戸は開発途中だし、御徒町駅は準備工事に留めてるわよ)
『次は、上野、上野、上野寛永寺前。不忍池、吉原は最寄り』
…ヨシワラの最寄というのは乗客に教えるべきなのでしょうか。
やがて列車は薄暗い穴の中に滑り込み、上野駅に停車します。
『うえの~うえの~』
『七番線の列車は二等三等急行曙号山形秋田回り青森行でございます。常磐線勝田、水戸、平方面には参りませんのでご注意下さい。常磐線ご利用のお方は南蛮六時三十分発二等三等急行道奥号青森ゆきが十一番線より、南蛮六時四十五分発三等普通列車水戸行が十二番線よりの発車となります』
(あー米沢回らないんなら常磐回りで行きたかったわねー、常磐線は南千住…小塚原の先から制限130km/hだから…)
今から行く方で飛ばせばいいのでは。
(宇都宮方面の列車、寒冷地用の台車履いてる客車ばっかなのよ…出せても110km/hまでなのっ…)
はぁ。あまり大差はない気もしますが、とりあえず我々の貸切客車はともかく、後ろの方の一般列車はそれなりに乗客を乗せたようです。
(北海道方面の乗客も乗ってんのよ…松前御殿国とアイヌの皆様が主導で玉ねぎ畑作ろうとしてるでしょ…江戸開発がひと段落した後の出稼ぎの人を募ってんのよ…)
で、器用にも私との心話を交わしながら、列車の出発準備を整えた室見局長、次の停車駅オオミヤに向かって列車を発進させたようです…って、え?
「でさぁ、ベルナルディーゼ厚労局長からの依頼なんだけど…」そこには、運転席にいるはずの室見局長が。
「ジョスリンの行状や今後を憂えてる意見も結構、女官から出ててさぁ…」
「それは良いのですが列車の運転は…動いてますよね…」
「分体を出してもらいました。で、まりりもこの件については二代目様と協議して、テンプレス・ブライダルの扱いで連邦世界でジョスリンの婿を探そうと思うが、自分で探したければ早めに着手すべしだと言ってんのよ。むろん、うちの娘とか、そっちの娘さんみたいに指導偽女種さん捕まえて子作りしてもいいけどさぁ…」
えええええ、何ですかいきなりっ。
「これはアフロディーネ女官長の任務を代行してのお話よ…いいですかジョスリン、1ヶ月以内に子供、出来れば男児を孕まない場合、まりりが連邦世界で誰か適当なの探してくるらしいから、自分で探すのなら今が最後のチャンスよ…わかってるでしょ?」
「それは強要というものでは…」
「田中雅美内務局長より伝言です。痴女皇国に民主主義など存在させた覚えはない。ましてや提携先の八百比丘尼国に行政顧問として派遣している立場を鑑みると、比丘尼国の上級武士階級同様に結婚は許可制かつかなり強硬な強制縁談が存在するため、そちらの流儀で婿を探す事をジョスリンの比丘尼国における上司かつ身元後見人の芳春院氏…つまり、おまつさんに強制的な婿探しを依頼してもいいのではと。あ、文句は雅美さんに」
ちょ、ちょっと待ってくださいよマダム室見!
「おほほほほほ、これはもうジョスリンもねんぐのおさめどきなのです…さっさとはらまないからこうなるのですっ」
まさかぁ…アルト閣下、なんかしましたね…。
「ジョスリン、あなたはそもそもくろばらきしだんの所属はとけていないのですよ。すとらすぶーるへのはけんも、くろばら騎士団のぶんだんちょうとしていってもらってますね」
それが何かあるのでしょうか。
「そのばあいの上司はだれなのでしょう」
え…まさか…。
「ぐんたいにいたあなたならわかるはずです。くろばらのばあいはそのうえにダリアがいます。しかし、くろばらも警務局のはいかですよね」
「え…閣下…」
「けいむ局長がどこのすぐてがでるだれかをおもいだすのです…ほほほほほほ!」
「アルト閣下!職権濫用です!」
「うふふふふふ、むりやりおみあいとかだれかとくっつけられるとかそういうのがいやならば、とっととじぶんでちんぽをみつけてはらむのですよ…」
「小官はマリーセンセイを孕ませてジニア作ったじゃないですか!あれで終わりでは?」
(ベルナルディーゼです…ジョスリン…加えて、聖女系譜者の監督者はあたくしでしてよ…ちょっとは落ち着かせたいから、この1ヶ月はなんとかがんばって孕むのです…」
「よもやまさか、アルト閣下と…」
「あたくしはシェリーをつくったことでひとだんらくしましたし、とうめんはだれかをはらませるためにちんぽをつかうつもりはありません」
(アルトもやり返すのと割と根に持つタイプだからな…)
(ジョスリン…南洋行政局で構わないなら慈母寺かジョクジャ宮殿、いらっしゃい…選ばせてあげます…)
(闘牛騎士団の男でいいならば)
(灸場の罪人でいいのがいないか探しておきます…)
(文化科学宮殿の中なら選び放題にしておきます…何ならカランバカ、来ますか…)
(聖院学院本校・神学部各分校・南洋島仏教部の生徒の誰でもよいように各学部長に話はしておきます…というかこの件、学部長諸氏に今、リアルタイムで流れてるから協力の意志は示して貰えてますよ…)
(イェニチェリで良いならば都合致します)
(最悪の場合は美男公に話を入れてあげます…)
「まぁ、とりあえず一応は救いの手が差し伸べられる程度には人望がある訳だからさ…」
ええ、割と真剣に子種提供者だけで良いなら私を頼れ、という類の申し出ばかりでした。
罠とかあとで嘲笑するためではなく、皆さん、真摯にチンポを提供する為に言っています。これは私には分かります、痴女皇国女官のほぼ全ての人物、私に対して嘘はつけませんから…。
しかし、それが私には余計に堪えるのです…。
(この場合は本気でカエル女に同情せざるを得ません…皇帝名で発令します。良縁があれば厚労局経由で紹介してあげるようにお願いします…)
「じょすりぬ様。慈母学習院の子供なら融通が効きます。婿入り嫁入りは厳しいですが」
「何なら徳川家…御三家や松平家含め、声はかけさせて頂きましょうぞ…過日の天守閣消失の一件がございますれば、誰もが協力を申し出よります…」
ええ、皆様の気遣いがぐさぐさと刺さる状態です。
アルト閣下ですら、物笑いの種にしようと思っていたところが割と真剣な申し出が多いせいか、どうしたもんかという顔になっています。
「あると様。じょすりぬ様が男児を孕むのはそんなにも難しいのでしょうか…」
「じょすりんが、なまじ、くろばら騎士だんちょうだというのがもんだいなのです…じょすりんとこどもをつくると、その階級とつりあいがとれる幹部女官その人が子種を提供すれば、寿命をがりがりと削られるのです…ストラスブールのマリーちゃんがもうちょっとで死ぬところだったのです…」
「えっとですね、おまつさんに分かりやすく説明しますと、ある程度以上の女官が子供を作る事自体がかまきりのオス、または鮭のオス状態となって、精気を使い切って死ぬか、はたまたメス側に吸い取られかねないのです…更にはメスも卵を産むと力を使い果たして死んでしまうことすらあるのです…」
と、アルト閣下と室見局長が説明なさいます。
そうですね…閣下も、局長の連れ合いのダリア統括も、子供さんを作った際には仮死状態になったことがありましたね…。
「それと、聖院時代の女教皇や幹部の掟がありまして…本来ならば、なるべく身分卑しく遺伝子や因子…世継ぎを作れそうな八卦見めいた見立てが出た男性を選ぶ必要があるんですよ、痴女皇国の幹部の妊娠…」
(おまつ殿、出来ればそっちの方が推奨なんですよ…というのもジョスリンは聖女ジャンヌの系譜聖女。で…先ほど話が出た熱烈な信奉者であるあまりにジャンヌが火炙りにされた後に変態殺人鬼に変じたジルでわかるかも知れませんが、ジョスリンが女役であれば、相手の男または男役、破滅する危険があるのです…)
(にににに二代目様、それはどういう…)
(元来ならば処女を推奨されるべき、いえめん宗教系の聖女の身分の者につがいがおってはどうなりますか…)
(ジョスリーヌ・メルラン…復讐を司るネメシスだ。これはお前が破滅させた男たちのタタリとでもいうものだ。お前が足をすくって破滅させた人物、二桁で済まないだろ…まぁ実態はもう少し複雑で、お前の母親に隠れて浮気をした父親とで口論になった挙句、母親が父親を刺殺した件があるだろ…お前は男女の仲の破綻やこじれで困る天運があるんだ…)
(ネメシス、いらんこと教えんな…スクルドだけどさ、イマネ・ドラノワ…あんた日本で言うトラドシだっけ?付き合った男の運気を吸い尽くす傾向があるくらいならバラせるわよ…というか何よこれ、ナンム…)
(なんですのスクルド…ちょっとマリアヴェッラ…ジョスリンについては幹部からのせいし提供を禁じてもいいかも知れませんわ…今、スクルドにジョスリンのホロスコープを見せてもらっておりますが、この子はさげまん傾向が壮絶に強いですわよ…)
えええええっ…ショダイサマとその周辺のカミサマが明かす、衝撃的な事実。
(た、確かにこれはひでぇ…)
(ねーさん、なんで発覚しなかったんでしょうか…)
(ジョスリンの任務と性格、性質だ。ほら、竿役だったことが圧倒的だろ…)
(でも、ちんぽを突っ込んでるのもいますよ。あたしも懲罰他で何度も)
(妊娠させようとしてねぇだろ。それと、ジョスリンに対して男役が出来る女官はかなりの幹部に限られるし、強運の持ち主だから少々の精気授受なら相手の運気を損ねねぇんだろう…マリーなんて強運豪運の実例みたいなもんだろ?スクルドさんにネメシス…)
(だな、マリアンヌ・ド・ロレーヌはかなりの強運の星の下の女…)
(あの子ならかなりの豪運ね…あとマリアヴェッラ、あんたはそもそもイマネの悪運の影響下に入らない存在よ…それとね、田中雅美もイマネに似た傾向があるから忠告しとくわよ。あんたとイマネ、孕ませた相手の破滅を見たくないなら、迂闊な人間とオメコして孕むな)
えええええっ…マサミ=サンもですか…。
そう言えば妹さんに邪魔されたとはいえど婚約破棄とか、後輩やウスイ=ホン仲間と性交実績がある割には婚姻に至らずとか言ってた、な…。
(精気消費節約とか理由いろいろあるけどさ、あの初代様が未だにベラ子に相乗り状態になってもらっている理由の一つだな、こりゃ…独自義体を初代様に渡したら最後、雅美さんの祟りが作用する危険があるわ…)
(何よそれ…あたしそこまでsageマンだったの…)
(マサミ=サンも大変ですね…)
(あたしはとりあえずペルセポネーゼ作ったけどさ、ジョスリンはまだこれからよ、しんどいの…)
(何と言うことですか…さげまんというのはニホンの言い回しだけかと…)
(じょすりん…おまえ、どうしてもあかんかったら安井金比羅宮、いけ。顕仁に話つけといたる。あそこの石の鳥居、逆にくぐるんや…ただ、じょうけんがひとつだけある。あいてのなまえ、ふだに書いてからぎゃくじゅんでくぐれ…)
(アフロディーネです。ジョスリーヌ団長はそっち頼る方がいいかも知れません。私が使える手としては私の縁組成就能力がありますけど、これは相手が決まってないとそもそも作用しません。あと、誰がいいとか名前を言ってもらわないと、エロスを派遣する手が使えないのです…)
(神様ですらカエル女の縁組には困難を示すのですか…)
(マリアヴェッラ、あんた笑い事じゃないわよ…幹部女官の残り寿命、とんでもなく削られたくないならイマネを孕ませないように発令しときなさい…)
(ジーナかーさまに頼むしかありませんね…)
(あほ。それやったらジョスリン、皇族入りになるやろ…要審議対象になって話がこじれるで…お前、それにうちはうちでかなり運が悪い部類なん、知っとるやろが…)
(今だから申せるが、おれはじょすりぬ様の誘惑を跳ね除けていて正しかったのだろうか…はっ、直滋!)
(よもやまさか、直滋様の破滅、じょすりん様のそのまら下げ運が原因…!)
(いや、あれはお美代も悪いはず…親父殿も一時期、お美代に吸われていた可能性がござる、おまつ様…)
どよーん。
ケイジロウ様の葬儀とは別な意味で、列車内は悲痛沈痛な空気に包まれました。
ええ、その原因であろう私ですが、特段何も悪い事をした覚え、ないのですよ…?
ですがこの過酷な託宣はいかに事実であろうと堪えに堪える話です。
流石に気の毒と思ったのか、はりせんムチの拘束すらいつの間にか外れています。
はぁ…私は諦めてアンクリナブル…リクライニングレバーを操作して背もたれを倒し、目を閉じます。
オオミヤを過ぎて広がる、のどかな田園風景も私の心には響きません。
ドナイシタラエエンヤ。
ええ皆様、申し訳ありませんが、私を孕ませるチンポの出現をお祈り下さい。
あと、エンムスビのカミサマでエエトコがあったら、ご紹介を。
これは、それなりに女として自信があった私の心にヒビを入れるには充分すぎる話です。
サゲマンなる日本語俗語をなまじ、知っていたがためのダメージから回復できる自信は…ありません。
私の心の悲しみを癒す何かが、ヨネザワ…そしてヒロサキやハコダテで訪れる事を祈って、私は目を閉じました。
ああ、神よ。
無神論者であったはずの私がこんな言葉を口にするなどとは。
通常の私ならば絶対に思いつかなかったでしょう。
そして、コンカツに悩む皆様にも救いの手がありますように。
アミン。
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べらこ「ちなみに天の声の知り合いにも凄い男運の悪さを誇る女性がいたそうです」
カエル女「ほう」
べらこ「過去に五人か六人付き合って、女性側から振らなかった場合以外全員破産か財政難。最悪は失踪」
カエル女「なんですかその女は…」
べらこ「干支のそういう年回りというのはかくも恐ろしいようです」
カエル女「まぁ…それは極論としても…」
べらこ「ちなみにジョスリンは蠍座B型だそうです。この話からも、男を毒針で刺して体液を吸い尽くすサソリやクモの生態が垣間見えますね」
まさみ「ベラちゃん、さりげなくあたしもdisってない…?」
べらこ「女郎蜘蛛の雅美さんはいいとして」
まさみ「よくないっ」
べらこ「だってペルセポネーゼちゃんとアフロディーネちゃん、作ったじゃないですか」
てるこ「確かに、雅美さんは男運がいまいち…しかし、神にすら悪影響を及ぼすとはやはり、雅美さんを子作り相手に選んだあたくしの目に狂いはありませんでしたわね」
まさみ「初代様にも地味にdisられている気が」
てるこ「ほめておりましてよ…で、ジョスリン。男運の悪さを打ち消す方法、ござーますわよ。お聞きになって?」
カエル女「とりあえずは拝聴致します…」
てるこ「でね、これは神ではなく聖院初代金衣として申します。聖院金衣の後継作りの原則に立ち返るのですわ」
カエル女「オゥ…何でなのでしょう」
てるこ「んなもん簡単ですわ。ぶっちゃけ金衣って亜神の分類に該当するくらいに運が強いので、子種を提供した男の運を吸い尽くしかねないのです」
べらこ「まさか」
まさみ「ああ…身分卑しき男とまぐわい子を授かるべしってあれ…」
べらこ「要するにおばちゃんの決めた決まりは、破滅させても世間に影響を及ぼさない部類の男性から精子を提供してもらいなさい…ということなのです…」
てるこ「いちおう、をめこをいたした後のせいかつはほしょうしておりましたよ」
べらこ「その後何年生きてたんですが、子種提供者…」
てるこ「あたくしが知る限り、十年と生きたのはおりませんわね。いえ、五年ですら怪し…もごごっ」
まさみ「ほんとにカマキリの生態に近いのね…」
べらこ「その虫のような生態の幹部女官の頂点にいるあたしも、おじさまの子供を本気で作るとまずいようなのです…」
おりゅーれ「私がカルノと男児を作れない原因も、よもや…」
てるこ「でぇ。ジョスリンがをめこを見せつけたり、戯れに精子を搾り取ったせいで焼死した人物がおりますわね」
カエル女「まさに今回の冒頭で出ましたが…」
てるこ「で、このおはなしでは、りんねてんせいの概念が採用されています。ただ、たんじゅんに生まれ変わるものではなく、じょなんなら女難の相のかいしょうをはからずに死んでしまうと、次のじんせいでもまた、女難の運勢がやってくるのですわ」
べらこ「つまり、今回焼死した直滋くんなら直滋くんそのものが転生するんじゃないんですよ。悪女に引っかかって色気に溺れおめこしまくった挙句、淫行をそそのかした女性もろとも焼け死んだような運勢が次の人生でも繰り替えされかねないのです…」
まさみ「純粋な生まれ変わりめいたことが出来るのは神様か、またはそれに類する眷属だけだそうですよ」
カエル女(そこまで皆様が言われるって、つまり、ナオシゲのウマレカワリを探せって事ですよね…)
あると「さっしのいいこはすかれるかきらわれるのです」
カエル女「Foo、つまりアホであっても嫌われますよ…小官は職務上、アホオンナとやらを演じたこともありますが…出来ればあのような役柄は拒否したく」
べらこ「そんな訳で、江戸吉原編、アルトさんのお話としては一区切りがつきますが、ジョスリンの婚活は続くのです…」
まりー「こんかつというよりは、男児を産むための四苦八苦ですわね」
あると「あと、おとこのこをつくれというのは…」
べらこ「多分、男日照りめいた状況だからだと思います。単にちんぽが必要ならば幹部候補となる女官を産めばよいだけですし、ジョスリンの場合はそれだと結構簡単なんですよ」
まりー「ただ、精子をていきょうしたあいての身上が潰れかねないのですわよねぇ…」
べらこ(ふふふふふ、カエル女がどんな男性をくわえ込むのか観察のしどころ…)
あると(をめこのようすもどうがにとっておくのです…)
カエル女「結局はベラ子陛下とアルト閣下の復讐ではないですか!」
べるこ「請願は受け付けておきますよ…」
カエル女「どんな願いも聞き流してやろうと言う風に聞こえます…」
他全員「では次回でお会いしましょう(多分、カランバカからキューバに行ったオリューレさんの話になる気が)」
「な、何事…」
「おお、見よ、天守が、天守がぁっ…」
「火消しじゃ、火消しを集めよ!」
「待たれよ、天守の火消し水が噴いておりまする…延焼は防がれてございます…」
ええ、時ならぬ火災の知らせにざわめく城内。
やがて、鐘がかぁん、かんかんと鳴らされたきり、沈黙します。
ええ…テンシュカクと言われた城の塔部の上部が、夜目にもはっきりと分かる、爆発とも言えるような火球に包まれて消え去ったのを、私の視覚は捉えていました…。
ただし、その爆発炎が起きた次の瞬間、城閣周囲の塀の壁から噴き上がった水の壁とも言える放水が、瞬間的に城閣目掛けて吹き付けられ、一瞬で消火されてしまいます。
しかし、火が消えたとは言え、爆発した塔部に人がいたとすれば…。
「あ、あそこにはたか…上様とお美代がいたはず…」
「な、何と…あの二人は無事か、無事なのか…」
狼狽する、私の側にいた尼僧・ホウシュンインと滋光法師。
「いや…とりあえず確認してきましょう、ここでお待ちを」言うなり、耐火防護型陸上戦闘服に瞬間更衣して跳躍する私、ジョスリーヌ・メルラン。
(リンド、あれを用意してくれ…恐らく、この火災の原因、お前も気付いただろうが…あれだ…)
と、大奥の別の部屋で異変を察知したリンドリアーネに心話を送ります。
(やはりですか…何でこう、人は言いつけを守らぬのでしょう…)
(この場で言うのも何だが、色々と守らないからお前もここにいるのだぞ…)
(ジョスリーヌ団長もストラスブール流しになってたのでは…)
(失礼な奴だな…まぁいい…うん、やはり、聖環しか残っていない…予想通りだ…)
(は。準備したものはここに)
ええ、遅れて到着した、赤薔薇騎士団制服のリンドリアーネが、死体袋を二つ担いでいます。
(放熱してくれるか。焼け焦げた偽装は必要だろう…炎は上げるな)
(了解)
ま…骨も残らずに燃え尽きてしまうのはあまりにも不憫ということで、生きている内に密かに準備していたのですが…まさか、こんなにも早く役立つとは。
そう。
こうした状況を予想していた私が、予めジェネラルとオミヨの身体から取得した遺伝子を使い、茸島のファインテック支社に作成を依頼していた「骨格見本」がその中身です…。
(マダム・オマツ…ムッシュ・シゲミツ…ジェネラルとオミヨの聖環を回収しました…。遺骨はリンドリアーネと私が確認。周囲の残骸はまだ完全に消火放熱しきれておりませんので、人の接近は推奨できません。我々が遺骨を回収して良いかどうか、カピタン・ノブツナに連絡を願います…)
(御意…お馬鹿な事を…)
(ええ…芳春院様…)
ですね…がっくりと肩を落としてうなだれる気配2つが、大奥からも伝わって来ます。
やがて、焼け落ちた砦の周囲に、チョウチンを提げたサムライが何名も接近してきます。
その、先頭の一群にいた顔馴染みが、緊急照明に照らされた私に声をかけてきます。
カピタン・マツダイラ・ノブツナ。もはや私とも顔馴染みであり、かつてのジェネラール・イエミツのホモナカマでヨシワラ通いの際の常連侍従の方です。
「おお、じょすりんさま…上様は、上様はいずこに…!」
「残念ですが、ここにジェネラールの聖環を発見しました…そして、アイビキをしていた者の聖環と、遺骨2体がその場所から見つかっています。この焼けた残骸の中にはいまだに熱を持っているものもあり、皆様の接近を推奨しません。皆様がこの場で立ち会い頂けるならば、今から遺骨を回収いたしますが」
「お願い申す。それと…上様と、もう1人の遺骨…厳密なる区分は可能であろうか」厳しい声で申されるカピタン・ノブツナ。
「承知。可能です」ええ…我々が置いて、焼け焦げたように偽装していますしね。
で、遺骨回収作業やら何やらを終えたのは明け方となりました。
その流れでエド城大広間に集まる家臣、それも頂点の重臣のみが参加する集いに私も出席せざるを得ぬ羽目に。
とりあえずは重臣たちから発せられた、労いと感謝の言葉を受けます。
「じょすりぬ殿…此度の献身、誠に相感謝申し上げまする…」
「誠に残念な事になり申したが、上様のご遺骨を拾い上げ頂けたのはせめてもの救い…」
「上様を誘うたくのいちの骨との区分けも頂きましたが故、後に咎めらるる事も無きかと…」
で、私は沈痛な表情を装い頭を下げて聞いておりましたが、この時代のジャポンの人々、特にサムライの死生観や葬儀の習慣、やはり独特なものがあります。
更には男女の格差も温度差として厳然と存在するのも。
とりあえずはなるべくならば全身の骨、特に頭骨は回収すべきものとみなされていること。
そして、ショウグンの骨と他の者の骨は厳密に区分されるべき。
更には今回、表に出せない部類の事の最中の火災での死亡とあって、詳細状況はまぁ…秘匿すべきでしょう。これは私も深く合意します。
で、オミヨの骨はムエン・ボトケ…即ち縁者のない孤独な死亡者として扱われ、そこらの寺に適当に埋葬されてしまうそうですね…。
で、この謁見場でもある広間の上座、座っているのは私だけではありません。
ええ、トラジロウを連れた大奥監督者たるマダム・オマツとその侍従名目の僧侶たるムッシュ・シゲミツ…そして、マダム・オマツは自分の腕に抱かれた幼な子をあやしております。
そして、マダム・オマツがジェネラル用の拝謁大広間に現れた名目はその幼な子の乳母役ですが…その名目実母たるマダム・タカコは出産後の体調回復名目で、キョウトのご実家…エンペラールの宮殿に帰っています…。
で、マダム・オマツは当然という顔で、その大広間の上座に座っております。
そして…オマツサマの侍従の偽女種僧侶が実は本来のジェネラールだと知っている、この重臣たちが子供を咎めない、もう一つの理由。
マダムが抱いている子供…タケチヨなる名前を付けられた男児の父親は昨日の火災で焼け死んだカゲムシャではなく、正真正銘のジェネラール・イエミツの子供であり、おまけに本当の母親がマダム・オマツだと知っているからです…。
更には。
「正之…登城を依頼した矢先に、かかる事態が起きた件相済まぬ。更には忠長の安藤家での一件じゃ。わしも素性を隠しておこうと思うたが、このような事が相次げば流石にある程度を明かさねばならぬであろう…」
「いや、あくまでも今、目の前におわすは我が兄たる家光様に非ず、芳春院様お抱えの新進気鋭の慈母宗僧侶、滋光法師様にございまする…」
しれっと答えているのは、実のところ先代のジェネラール・ヒデタダが大工の娘に産ませたというジェネラール・イエミツの異母兄弟のホシナ・マサユキという人物です。
錠前作りが趣味の国王はともかく、ショウグンが大工の娘を孕ませてよいものか。
そのような疑問、ビクニ国のサムライの間でも、部外者からは分かりにくいことこの上ない彼らの掟以前の素朴な疑問として皆が思っていたようです。
(しかも、鷹狩の際に立ち寄った家であれを致して一発懐妊とか、あの親父殿は一体全体何をやってんのか…)
(ムッシュ。子孫のトクダ・シンノスケもミカン県なるゴサンケの領主の時期にオテツキをして、そのせいで後継者事件を起こしたようです…)
(じょすりぬ殿…そなたらには済まぬ話であろうが、やはり男色、特に将軍家と御三家と親藩については正義だと思うんだ、俺…)
(子孫を作るなら小官は咎めませんが、オカミサマやオマツサマに怒られませんように願います…)
で、アイヅというラーメンが美味しい国のオトノサマになっていたこの人物、長くその存在が隠されていたそうですけど、ジェネラール・イエミツが密かに家を出る際「今後予想されるカゲムシャのしくじりの結果で」バクフが傾いては困るということで、ジェネラールの家臣団に抜擢され加わった経歴持ちだとか。
(この時代にきたかたらーめん、まだございませんわ…水戸から製法を輸入すれば話は別ですが…)
(というかマダム、なぜそれをご存知なのか…)
(ちじょ宮の女官しょくどうの麺類こーなーにございまして…)
で、文化汚染はともかくですね、ショウグンを輩出するべき家系とされるトクガワ家との血縁関係を重視するバクフの中では、その才覚もあってあっという間に相応の発言権を有する存在として認知され、役職も与えられたようですね。
その証拠に、カピタン・ホシナの発言に反論するどころか…他の家臣は皆、同調。
「そうそう、俗名が井伊直滋で、僧侶修行が上手く行かぬ時のために敢えて家を出て徳田滋光なる牢人者を名乗られたお方であろう…万一の際にも生家の恥とならぬ敢えての出奔、まこと武士の鑑たるご配慮…」
「幸いにして日枝慈母寺と慈母学習院の評判や門下生の成績も良く、井伊家のお手柄になっておるはずじゃ…のう、直孝殿…」
(皆がこぞってこの上なき説明的な科白を棒読みしておる気もするが、まぁともかく、ここに改めて将軍家光の嫡男たる竹千代を披露するでござる…公式の父母が死んだか実家に帰っとるから仕方ないのでござる…)
(そうそう、ほんに間の悪い話で…)
(っていうかうえさ、いやさ陰間11号様…)
(その言い方もやめてくれ信綱…頼むから俺の事は徳田滋光か滋光法師でお願い!お願い!)
(幕政ほったらかして坊主やってるだけでも怒りたいのですがね、上さまいや11号様…まぁ、ともかくまだ小さい竹千代様でしょ、将軍位の跡継ぎ、どうすんですか…しかも忠長様が高崎の安藤家で食あたりで急死でございましょう…後継者、御三家から引っ張ります?)
(信綱殿…それはやめたが良い…せめて四代までは神君直系にすべきであろう…)
(酒井殿もそう思われるか…)
(まぁまぁ皆様。要はそのアンファン…タケチヨがある程度は大きな子に育つ時間稼ぎが出来ればいいのでしょう?)
(は、はぁ…将軍家後見役のじょすりぬ様が申されるならば…)
(小官から提案出来る方法は二つ。まず、一つ目はそこなロウニンで僧侶のムッシュ・トクダがジェネラールのカゲムシャとなれば良いのです。ええ、ジェネラール・イエミツの外観に戻せばカタは付きます)
(じょすりぬさま…それ、おれは拒否したいんですが…何のために直滋を影武者にしたのかと…)
(ジェネラール、今は国難の時です)
(そんなぁああああああ)
(まぁ、ジェネラールをいじめるのは置いとくとしても、もう一つ方法、ありますよ…)
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ええと、先立っての南洋島の得度式からまた、時が過ぎていますが、私の比丘尼国駐在、なぜか解除されませんのですけど。
シバクゾ、あの皇帝陛下。
で、この窮屈な和服もいい加減脱ぎたいんですけどね。
しかも何ですか。
先の会話にも出てましたけど、私、将軍家後見人なる立場にされておるのですよ?
一体何だって、この私がビクニ国のジェネラル・ファミーユの後見者なんぞを務めなくてはならないのか。
そして…昨日の火災です。
ええ、ええ。人の忠告を守らない者はこうなるのですとしか…。
全くもって、あのイイ・ナオタカは…。
更には、あのオミヨなる女。
案の定と言うべきか、ジェネラールの外観に偽装させられたナオタカを籠絡にかかったのです。
そして、馬鹿どもに車を…いえ、性交の機会を与えるなと言うべきでしょうか。
もしくは「お前たちの頭はやはり、ものを考えられるようなご大層な頭ではなかったのだ」と墓前で罵倒すべきであったのでしょうか。
とにもかくにも、懲罰偽女種と懲罰女官にされていたナオタカとオミヨの身体、ある限度を超えて性交に耽ると自動作動する、聖環による懲罰機能が動くに至ったのが昨日の火災の惨劇が起きた理由です。
ナオタカは我々の言いつけを破り、より強大な性欲と、女の持続力で長時間の性交を楽しめる偽女種状態の性交に耽溺していたのです…しかも、偽女種の方がチンポが性交向けになってしまうのを知っていたオミヨは、我々の忠告を軽視し、隙あらばナオタカを偽女種化していたのです…。
もっとも、連邦世界のエド城同様にテンシュカクが燃え尽きてしまう可能性を見越していたマリア様の通達で「あそこには重要な金品や装飾品の一切を置かないようにしておいて、非常用の指揮塔というだけに用途を限る方がいい」という話をしていたのが奏功して、実質的な被害は塔屋…テンシュカクの建設費が丸ごと損になったくらいで済んだそうですが。
そして…ナントカとナントカは高いところに登るとはよくも言ったもの。
オミヨの策謀によって、ナオタカは将軍の権威を自らに自覚させるためなどとそそのかされて、数々の暴力的・権威的な変態性交に耽る日常を過ごしていたのですが…。
その策動の一つが、ろくに使われておらず、普段は人もいないテンシュカクの最上階での性交だったようです。
いえ、私の黒薔薇仕様の聖環、確実に彼らの行動、常時モニタリングしようと思えば楽に可能。
彼らは暇を見つけては天守閣に登り、眼下の城内や城下町…即ち、平民や部下があくせく働く様を見下ろしながら悦に入り性交していたのです。
(じょすりぬ様、天守閣のような高い建物にはあまり良い思い出がございませんようで…)
(ええ、エッフェル塔の展望台…それも営業中のそこで、周囲をいかにもなマフィアのヨウジンボウで固めた中、犯された経験ですとか、わざわざ5区や6区16区といった高級アパルトマンの屋上やベランダに出たり、歴史的な建物の中でとかですねぇ)
(あー、多分、直滋様かお美代、そのおもいでを見て似たことどもをなさろうとした可能性も…)
うげげげげげ…ナオシゲには私の記憶、つぶさに見せるのではなかったかも知れません…。
ただ、ナオシゲとオミヨのその浅ましいチクショウの交尾内容、実のところは何かの証拠とせざるを得ない可能性を鑑み、余すところなく映像に残しています。
まぁ、そんなものを証拠としていちいち提出する必要もないほど、傍証から「上様とくのいちの逢引きが原因の出火」という原因であると確定していた今回の火災ですから、ことさらに下品な交尾動画を公開しなくても良くなったのは不幸中の幸いというべきでしょう。
更には、カランバカ修道院運営における失態によってビクニ国にシマナガシに遭っていたリンドリアーネ、このエドの町においては私の手下めいた存在でもあったのですが、降格処置は恒久的なものではなく一種のリミッターがかかった暫定状態であったことが幸いしました。
ええ、ナオシゲはもちろん、千人卒相当のオミヨにも気付かれる事なく二人の痴態の数々を記録に収め、いざという時の証拠資料にする程度の騎士行動は出来たのです。
そして…動画は痴女宮のマドモアゼル・ユキコ・ウガジンを通じてマサミ=サンに送りつけています。
(こんな動画の需要あるんですか)
(動く春画、動くウキヨエと言って流すしかないかな…)
(エド・シャトーの焼失前の内部映像記録にもなっていますよ。学術資料として売れませんかね)
(ジョスリン…残念だけど、江戸城天守閣は改修時改築時はもちろん、明暦の大火で天守閣が消失した際の復元工事のための図面や資材一覧がほぼ完全に残っていて、完璧な再現模型を作れたくらいに資料が充実してるのよ…)
あががががが。
昔の日本人の物持ちの良さに敗北してしまったと思える、その瞬間でしたよ。
まぁ…私がビクニ国を離れられない理由となる事態、もう一つ起きていたのです。
ある意味ではジェネラール・イエミツ…厳密に言えばジェネラールと入れ替わってカゲムシャとなってヲメコ三昧の毎日を送っていたイイ・ナオシゲの死亡よりももっと困る部類の人物の死亡が。
それも相次いで、3名。
しかし、その遺骸をすぐさま埋葬せずに完全保存しておかなくてはならないほど、他の事情が逼迫していたのです。
まず、比丘尼国のエンペラールですが、ジェネラル・イエミツ他、バクフの重臣たちととあまり関係が良くなかった事もあって早期に退位しています。
そして…問題なのは、トクガワの家からエンペラールの家に嫁いだマダムとの間に生まれた娘さんがその後継者となり…アンペラトリスとして即位していることでした…。
「マダム…キョウトへのジェネラル・イエツナの披露、よろしくお願い致しますよ…」
「ええ…興子様…今上様の件も併せて…」
(じょすりーぬ・めらんとか言うたの…元来は興子に世継ぎを作らせてはならんのだぞ…他の皇子または皇子の子を儲君として男系が継続するように図るのが定めなんじゃから…)
(は…しかし、おかみ様は「おまつの子供を次代の天皇にせぇ」と申されるのですが。上皇陛下、それをじょすりぬ様に言われても彼女が困ると思いますわ…)
(仕方あるまい…えーと、政仁が子供をようけこさえとるはずじゃから…確か紹仁が興子の後継となるが早死するのであったか…で、ぴんちひったーとして良仁が入りよるから、良仁の後釜の識仁として滑り込ませるか…)
と、家系図らしきを眺めては唸っておられる幽霊のような御仁。
(光明院観勝寺…祟り神として悪名を馳せた崇徳上皇陛下をお祀りしておる寺ですわよ…)
(なんでおれまでもが…と思うのだが、おまつ様の侍従扱いなのだよなぁ…)
ええ、ロウニンたるトクダ・シゲミツさんは僧侶かつマダム・オマツの秘書役の立場です。
ビクニ国のジェネラールの側の使者一行として、この不気味なエンペラールの亡霊とも対峙頂かなくては。
ただ、この日本三大祟り神とか言われているエンペラールがテンノウの家系に詳しい当事者とあって、マダムの子供を誰が産んだ事にするかを決めて頂けるそうなのです。
で、トウキョウ駅を朝6時に出る列車に乗り込んだマダムとムッシュ・トクダと私、お昼にはまだ早い十時前にキョウト駅に到着後、ジンリキシャなるものでギオンの芸者街の外れにある、この不気味なオテラに向かい、そこで不気味なエンペラールのご先祖様と対面しているという状況です。
(オカミサマ、一応念のためにお聞きしておきますが、現状のテンノウヘイカであるオキコ様をマダム・オマツが孕ませる訳にはいかんのですか。これが一番手っ取り早い気がするのですが)
(じょすりん、おまえ…うちのくに、ふらんすとかいすぱにあとかえげれすとおなじにするな…わしも顕仁もあたまかかえてるりゆうやねんけどな、この国のてんのうはおとこのこの家系でつづかさなあかんねや…そら、わしかて興子はらますんが一番てっとりばやいのはわかっとんねんけどな…)
(エンペラール・アキヒトの生体情報を貰う方法もありますが)
(なるべくやったらまともな精液にしたってくれ…あと、今いっしゅん、顕仁がにやりとしよったん、おまえもおまつもきづいた思うけどな、いまのこいつのこどもをてんのうにしたら、それこそ日本がたたられるか、たたりよるぞ)
(おかみ様、せっかく朕が久々に祟れましたのに…朕がどういう経緯でこの寺と白峯に祀られておるか、その理由込みでばらさんといて下さらぬか…)
ええ、このエンペラール・アキヒトは諸事情で悪霊どころか、とんでもない大悪神になった人物だそうです。
その悪神が、オカミサマの仲介があるとは言えど、なんで我々に協力しているのでしょうか。
(そちの主君二人と、あとそちの国の将軍がおるじゃろ、手がやたら早い上に人の話を全く聞かんの。あれよ、今、朕が暴れたら即座にあれが来よるのよ…)
ああ、あれですか。
一応は私の上司というか上位職者なのであまり悪し様に言いたくないのですが、一瞬であのお方と理解できてしまうあれですね、アレ。
更に言うと、実のところは私も最大の苦手であるのです、あの方。
敵に回すと話が通じそうで全く通じないのは、直接にこそ対峙しておりませんが大体わかります。
そして、交渉の余地がないと言うことは全力の勝負あるのみとなりますが、流石に全力発揮状態のあれと戦って五体満足で生還できるのは困難なの、理解しておりますし。
それに、似たような物件…痴女皇国二代目皇帝とはそれなりの応酬を繰り返しておりますので、あれよりもっと面倒な存在だと既に判明しているアレに殊更喧嘩を売るような愚者ではないつもりです。
(そうそう、あれ)
(うむ。たしかにあれがせめてくると顕仁でなくともこまるやろな)
(べらこ様も言っておられましたが、あの御仁、将軍位にも関わらず、滅多と表舞台に出せぬ理由が色々とおありのようで…)
(うむ。わしのまごにもなってまうねんからあまりわるういいたないんやけどな、あれだしたらまきぞえでえらいことになるからなるべくさけろいうて、まりやにもべらこにもてるこにも言い聞かせとるからな…)
(ジョスリン…アルトさんからの伝言です。あたくしがおはなしするにはいたらず。びくにこくからかえったらダリアのところにかおをだしてください…つまり、多少のお慈悲があるようです)
(あの…大差、ないと思うのですが…統括も小官より充分に強いのをお忘れですかこのパスタ女)
(あのですねぇジョスリン…これはアルトさんなりの優しみなのです…アルトさんとダリアさん、どっちが話が通じますか)
(統括。考えるまでもありません)
(更にダリアさん、黒薔薇内の序列ではカエル女の先輩。そして生まれた場所や時間軸空間軸こそ違うがアフリカ系フランス人という出自は同じ、それに何よりお互いが聖女認定の出た立場でしょう…)
(ジョスリン…要はうちが話して改まらなかったら、次はハワイで話がしたいと言うてますねん…うちは皆まで言いとうおまへん…)
ぐぬぬぬぬぬ。
(ではアルト閣下に伝言願います。小官のみを指導対象とするにはあまりに理不尽。オカミサマまでもがアルト閣下を痴女皇国きっての暴力装置として認識している件について、小官は元来の比丘尼国担当者に報告しようかと思います。どうせ聞き耳立ててるのは承知ですが、小官の報告の意志がなくば見ざる聞かざる言わざる、知らんぷりぷりで済まされることでしょう。最近は閣下も十月懇親会に呼ばれる立場、カミサマ方からやいやい言われる光景は小官が見たくなるものではありません…)
(あたしは知らんあたしは知らん聞いてない見てない…)
(このよめはだれのみかたをするのですか!)
(ジョスリンも、ダリアを見習ってちったぁ口の悪さを直してくれよ…)
(ジョスリンの影に隠れてますけど、うちも割と口が立つ方らしいですから自省しよ…)
(っていうか何で同じようなアフリカ系フランス人でここまで差がつくのか…)
(それ、何故かわかるような気が…)
(おまつもわしも、だりや知っとるしの…)
(確かに痴女島いてたら顔、何かの時に合わせてましたな…)
(まず、だりやはせんぞにおひめさまがおったやろ…たしかにじつのははおやはどくずやいうの、わしも聞いた。せやけどここではたらくうちに、先祖がえりいうんかな、あのねぇちゃんにちかづいとるんや。これはりえのえいきょうもあるかもわからんけどな、で、おまつはどないみる)
(一言で申し上げますと、余裕の違いでございますかしら。だりやさんもじょすりん様も一見すれば条件は同じか…下手しますと、まりーさんがお相手の分、じょすりん様の方がよろしいこともあるやも知れません。しかし、実際にお二方を見ておりまするに、より落ち着きを感じるのはどちらか)
(ダリア)
(ダリアさん)
(だりややな)
(じょすりんにはわるいのですが、ダリアですね…)
(だりやさん、ですわねぇ)
みなさん、何ですか…私を一体何だと。
(ルルド…聖女担当として一言。ジョスリンが攻撃的なのは、連邦世界の例のオルレアンの聖女、狂信的だったあれの血を引いてるからですわよ…で、ジル・ド・レェ…あの男とジャンヌとの間でに子作りしたとすれば、どんな子が生まれたでしょうね…)
(二代目様…それ、洒落になってない気がっ)
(あのー、ジルって確か、ショタ版のろりや…)
(あの、そのじるとか汁とかいう輩、今、顔を拝見致しましたが、何ですかこの狂うた顔つきの男)
(おまつさん、それ、別の何かを見てると思う…)
で、皆様の感想に近しい衝撃、このジョスリーヌ・メルランも受けておるのですが…。
ぶっちゃけ申しますけど、ジル・ド・レと言えば歴史に名を残したロリペド男。
そしてとんでもない殺人鬼です。
で、そんな男がおかしくなる原因だったとも言える聖女ジャンヌ・ダルク。
かような強烈な人物が先祖におったんかい。
これだけでも、私は今立ち直れない衝撃を受けたような気がするのです。
(ジョスリン…帰って来たら女官食堂の購買で好きなもん買うたげますから、元気出してください…)
(ストラスブールに帰ったら、コニャックの良いの開けたげますわ…だから気落ちしないで…)
(あたくしがはげましてあげましょう。びくにこくのあたらしいおこさまのしょうぐんさまのおやつにもなりますから、さしいれにばいてんのチョコレートおかし…ほら、せいいん学院のこどもたちにもにんきのあれを)
(アルト…それ、原料は快感王だぞ…)
(逆にジョスリンが怒る気も…)
いえ、怒る気もありません。
まぁともかく、皇族の子をマダム・オマツに懐妊させる件ですが、四苦八苦した結果、マリアリーゼ陛下がすっ飛んで来て何とかしたとだけお伝えしておきましょう。
(流石にこれはなぁ…女系天皇の家系混ぜ込むと、比丘尼国の政体としてちょっと困ることが起きるんだよ…あそこの神社の神主、日本と違って軒並み巫女種が担当してっけどさ、たった1つだけ、男が神主をやる必要があるとこがあってな…)
まさか。
ええ、ジャポンの事も多少は知るようになった私です。
(二見浦の夫婦岩が連想されたのは微妙に惜しい。そこの近所…伊勢神宮内宮だ。あそこだけは男…それも天皇家家系から神主を出す必要があるんだよな…)
まぁ、あの澄んだ川を渡った先にある広大な神社ならわかります。
比丘尼国では、オカミサマの本宅だというのもお聞きしましたし。
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で、ですねぇ…もう一つ、大きな死亡…と言って良いのでしょうか…とにかく、特殊な棺に遺体を納めて埋葬する対象が発生したのです…。
それも、マダム・オマツにとっては親類に該当する上に、その方の死亡は非常に衝撃的となるであろう話なのが、この私にも速やかに理解出来る人物です。
そう、マエダ・ケイジロウの死亡。
マリアリーゼ陛下によれば完全な死亡ではなく、遺骸は残るものの痴女宮地下24階の墓所同様の扱いになるそうです。
(実はワーズワースのジジイも同じ扱いで遺体を保存してる。パッと見には普通のアングロサクソン系のお棺を使った埋葬だが、ちょいと特殊なお棺でね…)
で、ケイジロウ氏と従者2名の遺骸は速やかに同種類のお棺に収容されたものの、先の諸々の騒ぎでなかなか公式の葬儀を執り行えないままとなっていたのです。
(本人のいざという時の遺言もありまして…)と、他ならぬ日枝神社境内に建てられた一夢庵江戸分院なるケイジロウ氏の居宅で、一応の正妻…に限りなく近い存在の伽姫様からお話を伺います。
そして、以前からの本人の口頭意向をよく知りお付き合いも頻繁だったマリアリーゼ陛下が葬儀を手配し、喪主は伽姫様がお務めになりました。
ただ…私同様に日本式の喪服を着て、肩を震わせ悲しみに包まれている人物こそ、本当は大国主の先代夫人たる権力を最大活用してでも、葬儀を主催したかったことでしょう。
そう…マダム・オマツです。
しかし、伽姫様は一応は気配りを見せ、喪主の紹介の際には自身の隣にマダムをお呼びして家中の者であるアピールを致しました。
で、ケイジロウ氏と従者の遺骸はどうなったのか。
早朝4時、日枝神社境内。
老人に近い三人の男性が、立派な喪服で姿を現します。
そして、虎のトラジロウに付き添われた、マダムとムッシュ・シゲミツも。
ケイジロウ氏の愛馬だったマツカゼという、とんでもない巨体の黒い馬と、ノカゼという灰色の馬もその集団に加わります。
で、用意された大型の黒い荷物用馬車。
立派な体格の二人の男性と、少し小さな小太りの男性、そして似たような体格の男性と大柄な髭の英国紳士に、海賊らしい風体の英国人に…伽姫様とマダム・オマツが加わり、よっしゃとばかりに棺が持ち上げられます…更にはマリアリーゼ陛下とベラ子陛下、おかみ様までもがその介添えをなさいます。
で、大きな棺の半分くらいの大きさの棺二つも同様に、馬車の荷台に積み込まれます。棺の固定処置をしたマリアリーゼ陛下は馬車の荷台に乗ります。
更には、普段、よほどの事がない限りはケイジロウ氏以外を乗せないという黒い馬に馬車の牽引具を装着した後、マリアリーゼ陛下に促されて跨る小柄なサムライ。
「では、葬列先導役…芳春院様と伽姫様は野風にお願いします。野風の嚮導は直江兼続さんと松平秀康さんにお願いします。松風の御者は奥村徐福さんに、金悟洞さんはあたしと一緒に馬車の方にお願いします。原宿駅までのお見送りの方は迎車を用意しましたので、そちらにお願い致します」
黒い洋装の喪服姿のマリアリーゼ陛下が申される中、私も真っ黒な…日本のソウギヤ仕様だというダンケ号ハイルーフロングとやらの2号車に乗り込んでハンドルを握ることになります。
更には、同じ車種のダンケ号1号車はマリアヴェッラ陛下が運転。
ええ…痴女皇国からも田中内務局長他、それなりの人が参列しています。
で、大型バスすら用意され…臨時でこちらに戻って来たという高木ジーナ閣下が喪服姿で運転するとか。
この葬列は早朝ということもあって静かに行われますが、江戸市内で元来は禁じられている乗馬移動もやむなしとあって、幕府側からも騎乗しての先導役と、徒歩で随伴する護衛兵の列がつくそうです。
「では、行ってらっしゃいませ」
タイロウと呼ばれる役職の家臣を中心とした重臣たちと、そして乳母役の女性に抱かれたタケチヨ君…四代目のジェネラルとなるトクガワ・イエツナという名前を授かりました…が見送る中、控え目に鳴らされた鐘を合図に、しずしずと早朝の江戸市中に向かって葬送の列は歩みを始めます。
(何せ慶次郎たちの遺骸、馬車と松風もろとも米沢まで送り込むとあらば、こうも大袈裟になるのでしょうが…)
(助右衛門さん、申し訳ないけど松風の指名だから…)
(いやいや、松風もよくわしを選んでくれたものでござる。莫逆の友を送る馬車の御手などこれに勝る栄誉なし)
たった一頭で軽々と馬車を曳くマツカゼに乗っているサムライ…ジョフク・オクムラことオクムラ・スケエモンという方はケイジロウ氏のカナザワ時代からの友人で、マダム・オマツのご主人の代からマエダ家に仕えた重臣と教えられます。
そして、女性2名を乗せたノカゼの両脇を固めるナオエ・カネツグ氏とマツダイラ・ヒデヤス氏はケイジロウ氏の戦友とでも言うべき存在。
ケイジロウ氏の遺骸を納めた棺を保管する墓所をどこにするかで、このお二人が話し合った結果、イチムアンと言う小さな屋敷が存在するヨネザワ市…カネツグ氏の主君で、ケイジロウ氏もその下に身を寄せて戦った君主のウエスギ氏の城下町がその場所に選ばれ、まさしくそのイチムアンの地下に墓所を作って棺を安置するそうです。
で、その一夢庵にはケイジロウ氏の妻たるマダム・トキコ…伽姫様と、その従者たるジャポン・ピラート…ワコウのチャイニーズで暗殺者のキン・ゴドウ氏が墓守として住むと。
マダム…それで良いのでしょうか…。
(米沢は慶次郎様ゆかりの地であり、伽子さんと悟洞さんもそこの一夢庵本院で暮らしていましたから大丈夫ですよ…)
で、エド市内を巡るヤマノテセン同等の鉄道の駅の一つ、ハラジュクにあるジェネラールまたはエンペラールが乗降するという専用乗り場に馬車は乗り入れます。
私たち、自動車組は駅前の貴人専用車寄せに車をつけ、乗り込んでいた参列者を下ろして行きます。
そしてですね、私の格好ですが。
共和国陸軍の佐官典礼装備、それも兵士などを送る葬儀用です…。
馬車ごとマツカゼと棺を積んでしまえる専用車運貨車に自ら乗り込むマツカゼを誘導したマリアリーゼ陛下、オクムラ氏と一緒に貨車から降りると扉を閉めてしまいます。
(貨車は馬運車同様に通風式だし水や馬草も積んでるよ。野風は虎次郎くんと一緒に日枝神社に戻すし…)
そう、トラジロウ一家も、この葬列には参列していたのです。
マツカゼとの別れでは、物悲しく鳴くトラジロウたちに顔を寄せ、優しく舐める姿が却って人々の涙を誘っておりました。
感情を排した行動を規範とする私ですら、虎たちの鳴き声と姿から伝わる悲しみに、目の端が熱くなったほどです。
ええ…この場にいる全ての人間が、ケイジロウ氏とステマル氏、トビカトウ氏…ホネ氏の死を嘆き悲しみ、存在の喪失を惜しんでいました。
「皆、悲しむばかりでは稀代の傾奇者たる故人の成仏は叶わぬ。ここに、河原者頭の庄司甚右衛門殿率いる楽隊がおる。河原とも親しく、吉原開きにも力を貸したという故人をこれより奥州米沢に送るにあたり、慶次郎殿も得意とした傀儡舞にてその葬行に花添えんとしたい望み、河原衆並びに穢多衆より寄せられてござる」
誰もが異議など唱えようもありません。
で、楽器に心得のあるヨシワラの遊女が音楽を流す中、その宣言をした当の偽女種僧侶と、敢えて卑猥なチャイナドレスを着た穢多の偽女種たちと…そして一種のサクラでベラ子陛下やダリア統括など、痴女宮有志も混ざってのチャイナ風舞踊を披露。
で、慣らされる伽耶琴と言う、伽姫様の国の楽器の音を合図に、馬車運搬車の背後に連結された客車…数字の2が乗降台付近に描かれ胴体に青帯を巻いた、少々古めのものに、これからヨネザワまで同行する人々が乗り込みます。
その列を見送…。
「こらぁジョスリン、あなたはおまつさんと徳田滋光さんの付き添いでしょうがぁっ」
「そうですよジョスリン、あなたがおつきをせずにだれがするのですか」
ええ、私の両肩を左右の背後から掴む手が。
ええ、隙あればここで逃げようと思ってたのですよ。
どうせ、この遺骸輸送に慈母宗僧侶が同行するというイベントであれば、何も私が付き従わなくともリンドがいれば充分だと思うのですが。
「あかん。アルト。最低でも米沢まで同行しろ。それに、おまつさんと滋光さんはこの後弘前に向かってあそこの慈母寺の開山打ち合わせを皮切りに、奥州から道南の慈母寺設置予定国の国主と会談予定だろ…ジョスリンはその護衛要員だってあらかじめ通達が行ってたの、忘れたとは言わさねえぞ…」
えーと、もしかしたら米沢どころか全行程、アルト閣下が同行する可能性がありますね。
(とりあえず出すわよ。出発時刻は5:30を守らないと、この列車、定期運転の山形経由青森行二等三等急行あけぼの号の前に繋いでるんだからね…ついでに後ろ七両は郡山切り離し喜多方経由新津行準急あがの号として東京に着いたら一般のお客乗せるのよ?)
はぁ。
室見局長の姿を見ないと思ったら、この葬送列車の運転を担当なさると。
それに、どうも棺と関係者だけを乗せるにしては、やたら長いと思ったら、そういうからくりですか…。
(それだけのために専用列車を仕立ててるのは今んとこ将軍用と天皇陛下用。もっとも、こないだの京都行きの際はお忍び指定があったから超特急光號とはいえど一般列車一等使ってもらったんですけど…)
ともかく、トラジロウ一家の鳴き声に、貨車の中のマツカゼが鳴いて返礼するのを契機に、前の方で汽笛を長く鳴らしながら列車は動き出しました。
わざと古ぼけた感じに作られた客車ですが、全ての座席は進行方向を向くようになっています。
で、私の前の座席にはマダム・オマツが窓際、ムッシュ・シゲミツが通路側で腰を下ろしています。
そして、向かい合わせにされた座席の窓側は伽姫様、通路側には海賊の悟洞氏。
「いや、おまつ様…これほどの葬儀とは、きっと旦那も喜ぶだろう…」と、前方の貨車に視線と意識を投げておられます。
「伽子様、失礼ながら…これからはどうなさるので?」
「いえ、悟洞もおりますし、慶郎や捨丸が存命だった時と同様、耕作をすれば二人程度は食い繋げましょう」
「伽姫殿、心配無用」
と、そこに現れたのは老境に差し掛かってはいますが、ムッシュ・シゲミツより遥かに体格の良いサムライ。そして、マツカゼに騎乗していた小柄なサムライも後ろにおられます。
「実は…奥村殿から書状を預かったのだが」
「悟洞、捨丸が商人たちに貸し付けておった金、代わりに加賀前田で回収して上杉に渡す。だが、この金はそもそも慶次郎の従者たる捨丸の持ち金であり、更にはわしから慶次郎一行の生活費とせよと命じたものを捨丸に預からせておったのだ。従って相続の沙汰については、本来ならば前田慶次郎の戸籍縁者となり…あやつの身元保証人ともなっておる芳春院様が相続致すのだがな」
ここで、にやりとお笑いになるオクムラ様とナオエ様。
「今後、老齢にて働けぬか役目を降りた者についての救済手段として、年金なる考えをどこぞのまりや様がお教え下さってな。で、どっかの上様とか言う人が征夷大将軍のお役目に就いておった時分にごーさいんの花押を捺されましてなぁ」
と、更に前の方から現れて手近な座席に腰を下ろす、マツダイラ・ヒデツナ様。
「で、年金とやらの試験を兼ねて、幕府の依頼にて前田家は毎年百両を今後三十三年に亘り、前田家縁者の墓守代行費として一夢庵に支払うそうである。ただ、伽姫様も悟洞も他国籍者で帰化手続きが困難とのこと…まぁまぁ伽姫殿、そうむくれた顔をなさるな」
「うむ…姫よ、幕府の要人がここにおられ、更には助右衛門殿に直江殿やおまつ様までおるということは、伽姫様と俺が食うに困らぬ手立てを講じてくれたのだろう。姫、心配するな」と、宥めに回るムッシュ・キン。
「幸い、一夢庵の日枝分院はおまつ様の仕切りであろう。でな…」
「一夢庵の口座より奥州米沢上杉家にそのお金を毎月、自動送金する仕掛けを作って頂きました」
「で、米他の入り用なものを上杉で支給致すことにした。わしも何かあらば顔を出すから、入り用のものがあれば望んでくれ。もしくは…ほれ、城の南に一宮神社があろう、あそこに赴けば必要な金子を用立てるので、その腕輪に金を入れてもらうが良かろう」と、ナオエ氏は申されます。
「要は、二人なら無駄遣いはしないだろうけど、一夢庵に金や小判の形で置いとくと物騒だし保管に困るだろって配慮だよ。それに、上杉家としては慶次郎さんのお墓の面倒、あんたらだけに任せるに忍びないって言ってくれてんのさ。ここは黙って好意として受け取っといたげてよ」
と、マリアリーゼ陛下すら現れます。
「いや、本当はここにおる全員、このまま米沢まで押しかけそうな勢いなのであるがな、たけちよ…いやさ今は徳田滋光こと滋光法師であったな。まぁ、滋光法師と芳春院様が埋葬に同行なさるとあれば、よもや伽子様と悟洞の今後、何の手立てもなく米沢を去ることは致すまいて、案ずるなかれというやつじゃ」
はっはっはと笑う豪傑めいた初老の人物、マツダイラ・ヒデヤス氏…ムッシュ・シゲミツの親戚ですか。
(幼少の頃は祖父様とものすごく仲が悪かったのだが…後に武勇を知った祖父が仲直り致してな…祖父の実子たる方ですよ、秀康の叔父御…)
ふむふむ。
ああ…ナオシゲも、こんな豪傑めいた人物の子供として育っていたならば、変な趣味や性欲過多とならずに、もう少しシャッキリしていたかも。
(いや、秀忠みたいな男の子供に生まれても、それはそれで歪む気もするでござる…親父と秀康叔父御って似た傾向あるから…)
まぁ、トクガワ家にも色々いるということですね。
さて、我々が話をしている間にも、列車はヤマノテセン内回りに近い線路をたどって、南側から…トウキョウ駅に着くトウカイドウ・シンカンセンのような感じで到着したようです。
で、トウキョウ駅で降りる方とのご挨拶でしょうか、アルト閣下はホームに出てしまいます。
『ただいま四番線に到着の列車は南蛮六時十五分発、山形秋田回り青森行二・三等急行曙號でございます…二等車三等車には二等急行券または三等急行券の他乗車券をお求めの上ご乗車願います…後ろ七号車から十三号車までは郡山切り離しの上準急阿賀野號若松喜多方経由新津行きとなりまする為、ご乗車の方は二等三等急行券並びに準急券をお求めの上…』
『三番線の列車は南蛮六時発一等二等三等急行初雁號、仙台盛岡尻内青森経由箱館行、電鈴が鳴り終えますると発車となります、駆け込み厳禁でございます…後に参ります南蛮六時三十分発準急越後號水上湯沢長岡回り新潟行きは初雁號発車後に入りまする…頭上の越後號乗車札の下にお並び下さりませ…』
『五番線南蛮六時発、超特別急行光號大坂行発車となります…南蛮六時十五分発一等二等寝台特別急行燕號赤馬関経由博多行は光號発車後に同じ番台燕號乗車位置札の下にてお待ち下さりませ…』
ふむ。五番線というのですか、私たちが乗った列車の隣にいるもの、何やら見覚えのある…いえ、こないだキョウトに行った際にこれに乗った記憶はあるのですが、祖国…共和国でも見た他、痴女皇国世界のスペインやストラスブールにも同じ型のものがいたような…。
『六番線の列車は南蛮六時五分発鳥羽行一等二等三等急行伊勢號、後ろ六両は亀山奈良経由大坂湊町行二等三等急行三三四號でございます…関ヶ原・米原・京には参りませんのでご注意を…』
『一番線準急甲斐府中経由松本行、第一梓號は南蛮六時十五分の発車でございまする…二番線南蛮六時丁度発車の三等普通列車信濃塩尻行は途中高尾まで先行致しまする…』
「辨當ぅ~ええ辨當~」
「お茶~遠州名物汽車土瓶茶~お茶の御用はございませんか~」
何ですか、この騒音。
(一応、その客車ってスロ53…北海道仕様の二重窓のやつのはずだけど…)
いや、冷房装置が付いてるのは分かりますよ。窓、閉まってますし。
しかし、ジリンジリン鳴ってるベルやワイワイ騒いでいるかの如き案内放送。
共和国のパリ市内の駅、今でこそアノンスがやかましくなりましたが、一時期はかなり控えめだったのですよ。
(国鉄時代まんまみたいよ…セリフが江戸時代なのは仕方ないのと、あと和暦時刻と西洋時刻の併用があるけど、鉄道については南蛮時間…二四時間制でやってるから、南蛮六時ってのはジョスリンも私も親しんだ普通の時計の時間だって思って…)
と、室見局長から心話が入りました。
(それに、超特急光號はこないだ京都行くのに乗ってたでしょうがっ)
(あれ何ですか、かなり揺れるのですが…)
(お黙りジョスリン…あれ、TGV-H型よ…台車は狭軌用に履き替えてるからモーター出力も下がってるけど…)
ああ、そう言えば何か懐かしい感じの列車でしたね、私には。
(路盤慣らすために高速運転してないけどさ、出来た順に新幹線用線路を通してるからね、大坂の手前まで…)
マダム・室見。
何で日本で走らせるのに日本製使わんのですか。
(急場凌ぎよっ。スペインやストラスブールもそうだけど、電線から電気取って走ってる訳じゃないから純粋な日本製はかえって走らせ辛いのよ…)
ああ、精気発電機で動いておるのですね。
にしても、我が共和国の車両も大概、外からだとうるさくないですか。
ふむ…我々が乗ってるこの客車、窓こそ二重で小さいですけど、開くのですね。
どれ、と外を確かめるふりをして自席の横の窓を…え?
「じょすりん、どこへいくのですか。えきべんやさんならはんたいがわの窓をあけるのですよ?」
振り向くと、アルト閣下が満面の笑みを湛えてお立ちに。
しかも、いつの間に繰り出されたのでしょうか。
ハリセンムチが、私の身体を拘束しています。
(ふほほほほほ、どうせここでおりてしまおうとおもったのでしょうが、そうはとんやがかっぱばし)
(合羽橋の道具屋街ってまだ作ってなかった気もするんだが)
(ちなみに道具屋筋もまだ出来てないようです)
それは良いのですが、出来ればこの拘束を解いて頂きたいのですけど、閣下。
「さんざんあたくしをぼろくそにいうておいて、ぶじにすむとおもっておいでなのですかっ」
「請願しますよ…それに言ったではないですか、オカミサマ他も同罪だと!」
「おひとりおひとりじゅんばんにおはなししていこうとおもうのです。てはじめにじょすりんをですね」
「まぁまぁ、あると様、私どもには朝ごはんが頂けるようですよ。あとで届けてくださるはずですから」
「はぁ、おまつさまがそういわれるのならば」と、私の横…通路側に座られるアルトさん。
ジリジリとホームの電鈴が鳴り始めました。
『四番線急行曙號、準急阿賀野號、間も無く発車致します。お見送りの方は番台に出てくるまから離れてお待ち下さい』
(31列車前の運転士室見さん、31列車車掌大倉です。出発よし)
(31列車車掌大倉さん、31列車前の運転士室見です。31列車急行あけぼの青森行、発車します。戸締よし。前方よし進路よし、出発よし。進路開通確認、東北1番。リバーサ前進、ブレーキ緩解。ノッチ投入。6時15分、定発、発車)
で、がっちゃん、と音がして一瞬、列車が動き出しますが止まりかけ…ません。
反対側の窓の向こうに、頭を下げたり敬礼する人々の姿が流れて行きます。
すぐさま再加速してからは、さながらパリ市内の長距離列車駅を発車した列車のように幾つもの分岐を渡って進路を東北の方角に取って行くようです。
(払いノッチって言って、1回加速を切ってブレーキがちゃんと緩んでるか確認すんのよっ。あたしが下手な訳じゃないんだから…秋葉原、場内、制限60。進行、秋葉原、通過。…この時代にはまだ、ジョスリンも大好きなウスイホンのお店とかはないわよっ)
あったら怖いですよ。
(外神田に貸本屋とか講談の印刷屋は出来てるようよ。あと陰で春画を扱ってる印刷屋とか)
あるんですか…。マサミ=サンの暴露に改めて、車内の皆が戦慄しています。
(御徒町、場内、制限60。進行、御徒町、通過…御徒町は上野駅に進入する前に常磐線方面や東北線方面の合流や分岐を行う信号場扱いね。この時代だとまだまだ江戸は開発途中だし、御徒町駅は準備工事に留めてるわよ)
『次は、上野、上野、上野寛永寺前。不忍池、吉原は最寄り』
…ヨシワラの最寄というのは乗客に教えるべきなのでしょうか。
やがて列車は薄暗い穴の中に滑り込み、上野駅に停車します。
『うえの~うえの~』
『七番線の列車は二等三等急行曙号山形秋田回り青森行でございます。常磐線勝田、水戸、平方面には参りませんのでご注意下さい。常磐線ご利用のお方は南蛮六時三十分発二等三等急行道奥号青森ゆきが十一番線より、南蛮六時四十五分発三等普通列車水戸行が十二番線よりの発車となります』
(あー米沢回らないんなら常磐回りで行きたかったわねー、常磐線は南千住…小塚原の先から制限130km/hだから…)
今から行く方で飛ばせばいいのでは。
(宇都宮方面の列車、寒冷地用の台車履いてる客車ばっかなのよ…出せても110km/hまでなのっ…)
はぁ。あまり大差はない気もしますが、とりあえず我々の貸切客車はともかく、後ろの方の一般列車はそれなりに乗客を乗せたようです。
(北海道方面の乗客も乗ってんのよ…松前御殿国とアイヌの皆様が主導で玉ねぎ畑作ろうとしてるでしょ…江戸開発がひと段落した後の出稼ぎの人を募ってんのよ…)
で、器用にも私との心話を交わしながら、列車の出発準備を整えた室見局長、次の停車駅オオミヤに向かって列車を発進させたようです…って、え?
「でさぁ、ベルナルディーゼ厚労局長からの依頼なんだけど…」そこには、運転席にいるはずの室見局長が。
「ジョスリンの行状や今後を憂えてる意見も結構、女官から出ててさぁ…」
「それは良いのですが列車の運転は…動いてますよね…」
「分体を出してもらいました。で、まりりもこの件については二代目様と協議して、テンプレス・ブライダルの扱いで連邦世界でジョスリンの婿を探そうと思うが、自分で探したければ早めに着手すべしだと言ってんのよ。むろん、うちの娘とか、そっちの娘さんみたいに指導偽女種さん捕まえて子作りしてもいいけどさぁ…」
えええええ、何ですかいきなりっ。
「これはアフロディーネ女官長の任務を代行してのお話よ…いいですかジョスリン、1ヶ月以内に子供、出来れば男児を孕まない場合、まりりが連邦世界で誰か適当なの探してくるらしいから、自分で探すのなら今が最後のチャンスよ…わかってるでしょ?」
「それは強要というものでは…」
「田中雅美内務局長より伝言です。痴女皇国に民主主義など存在させた覚えはない。ましてや提携先の八百比丘尼国に行政顧問として派遣している立場を鑑みると、比丘尼国の上級武士階級同様に結婚は許可制かつかなり強硬な強制縁談が存在するため、そちらの流儀で婿を探す事をジョスリンの比丘尼国における上司かつ身元後見人の芳春院氏…つまり、おまつさんに強制的な婿探しを依頼してもいいのではと。あ、文句は雅美さんに」
ちょ、ちょっと待ってくださいよマダム室見!
「おほほほほほ、これはもうジョスリンもねんぐのおさめどきなのです…さっさとはらまないからこうなるのですっ」
まさかぁ…アルト閣下、なんかしましたね…。
「ジョスリン、あなたはそもそもくろばらきしだんの所属はとけていないのですよ。すとらすぶーるへのはけんも、くろばら騎士団のぶんだんちょうとしていってもらってますね」
それが何かあるのでしょうか。
「そのばあいの上司はだれなのでしょう」
え…まさか…。
「ぐんたいにいたあなたならわかるはずです。くろばらのばあいはそのうえにダリアがいます。しかし、くろばらも警務局のはいかですよね」
「え…閣下…」
「けいむ局長がどこのすぐてがでるだれかをおもいだすのです…ほほほほほほ!」
「アルト閣下!職権濫用です!」
「うふふふふふ、むりやりおみあいとかだれかとくっつけられるとかそういうのがいやならば、とっととじぶんでちんぽをみつけてはらむのですよ…」
「小官はマリーセンセイを孕ませてジニア作ったじゃないですか!あれで終わりでは?」
(ベルナルディーゼです…ジョスリン…加えて、聖女系譜者の監督者はあたくしでしてよ…ちょっとは落ち着かせたいから、この1ヶ月はなんとかがんばって孕むのです…」
「よもやまさか、アルト閣下と…」
「あたくしはシェリーをつくったことでひとだんらくしましたし、とうめんはだれかをはらませるためにちんぽをつかうつもりはありません」
(アルトもやり返すのと割と根に持つタイプだからな…)
(ジョスリン…南洋行政局で構わないなら慈母寺かジョクジャ宮殿、いらっしゃい…選ばせてあげます…)
(闘牛騎士団の男でいいならば)
(灸場の罪人でいいのがいないか探しておきます…)
(文化科学宮殿の中なら選び放題にしておきます…何ならカランバカ、来ますか…)
(聖院学院本校・神学部各分校・南洋島仏教部の生徒の誰でもよいように各学部長に話はしておきます…というかこの件、学部長諸氏に今、リアルタイムで流れてるから協力の意志は示して貰えてますよ…)
(イェニチェリで良いならば都合致します)
(最悪の場合は美男公に話を入れてあげます…)
「まぁ、とりあえず一応は救いの手が差し伸べられる程度には人望がある訳だからさ…」
ええ、割と真剣に子種提供者だけで良いなら私を頼れ、という類の申し出ばかりでした。
罠とかあとで嘲笑するためではなく、皆さん、真摯にチンポを提供する為に言っています。これは私には分かります、痴女皇国女官のほぼ全ての人物、私に対して嘘はつけませんから…。
しかし、それが私には余計に堪えるのです…。
(この場合は本気でカエル女に同情せざるを得ません…皇帝名で発令します。良縁があれば厚労局経由で紹介してあげるようにお願いします…)
「じょすりぬ様。慈母学習院の子供なら融通が効きます。婿入り嫁入りは厳しいですが」
「何なら徳川家…御三家や松平家含め、声はかけさせて頂きましょうぞ…過日の天守閣消失の一件がございますれば、誰もが協力を申し出よります…」
ええ、皆様の気遣いがぐさぐさと刺さる状態です。
アルト閣下ですら、物笑いの種にしようと思っていたところが割と真剣な申し出が多いせいか、どうしたもんかという顔になっています。
「あると様。じょすりぬ様が男児を孕むのはそんなにも難しいのでしょうか…」
「じょすりんが、なまじ、くろばら騎士だんちょうだというのがもんだいなのです…じょすりんとこどもをつくると、その階級とつりあいがとれる幹部女官その人が子種を提供すれば、寿命をがりがりと削られるのです…ストラスブールのマリーちゃんがもうちょっとで死ぬところだったのです…」
「えっとですね、おまつさんに分かりやすく説明しますと、ある程度以上の女官が子供を作る事自体がかまきりのオス、または鮭のオス状態となって、精気を使い切って死ぬか、はたまたメス側に吸い取られかねないのです…更にはメスも卵を産むと力を使い果たして死んでしまうことすらあるのです…」
と、アルト閣下と室見局長が説明なさいます。
そうですね…閣下も、局長の連れ合いのダリア統括も、子供さんを作った際には仮死状態になったことがありましたね…。
「それと、聖院時代の女教皇や幹部の掟がありまして…本来ならば、なるべく身分卑しく遺伝子や因子…世継ぎを作れそうな八卦見めいた見立てが出た男性を選ぶ必要があるんですよ、痴女皇国の幹部の妊娠…」
(おまつ殿、出来ればそっちの方が推奨なんですよ…というのもジョスリンは聖女ジャンヌの系譜聖女。で…先ほど話が出た熱烈な信奉者であるあまりにジャンヌが火炙りにされた後に変態殺人鬼に変じたジルでわかるかも知れませんが、ジョスリンが女役であれば、相手の男または男役、破滅する危険があるのです…)
(にににに二代目様、それはどういう…)
(元来ならば処女を推奨されるべき、いえめん宗教系の聖女の身分の者につがいがおってはどうなりますか…)
(ジョスリーヌ・メルラン…復讐を司るネメシスだ。これはお前が破滅させた男たちのタタリとでもいうものだ。お前が足をすくって破滅させた人物、二桁で済まないだろ…まぁ実態はもう少し複雑で、お前の母親に隠れて浮気をした父親とで口論になった挙句、母親が父親を刺殺した件があるだろ…お前は男女の仲の破綻やこじれで困る天運があるんだ…)
(ネメシス、いらんこと教えんな…スクルドだけどさ、イマネ・ドラノワ…あんた日本で言うトラドシだっけ?付き合った男の運気を吸い尽くす傾向があるくらいならバラせるわよ…というか何よこれ、ナンム…)
(なんですのスクルド…ちょっとマリアヴェッラ…ジョスリンについては幹部からのせいし提供を禁じてもいいかも知れませんわ…今、スクルドにジョスリンのホロスコープを見せてもらっておりますが、この子はさげまん傾向が壮絶に強いですわよ…)
えええええっ…ショダイサマとその周辺のカミサマが明かす、衝撃的な事実。
(た、確かにこれはひでぇ…)
(ねーさん、なんで発覚しなかったんでしょうか…)
(ジョスリンの任務と性格、性質だ。ほら、竿役だったことが圧倒的だろ…)
(でも、ちんぽを突っ込んでるのもいますよ。あたしも懲罰他で何度も)
(妊娠させようとしてねぇだろ。それと、ジョスリンに対して男役が出来る女官はかなりの幹部に限られるし、強運の持ち主だから少々の精気授受なら相手の運気を損ねねぇんだろう…マリーなんて強運豪運の実例みたいなもんだろ?スクルドさんにネメシス…)
(だな、マリアンヌ・ド・ロレーヌはかなりの強運の星の下の女…)
(あの子ならかなりの豪運ね…あとマリアヴェッラ、あんたはそもそもイマネの悪運の影響下に入らない存在よ…それとね、田中雅美もイマネに似た傾向があるから忠告しとくわよ。あんたとイマネ、孕ませた相手の破滅を見たくないなら、迂闊な人間とオメコして孕むな)
えええええっ…マサミ=サンもですか…。
そう言えば妹さんに邪魔されたとはいえど婚約破棄とか、後輩やウスイ=ホン仲間と性交実績がある割には婚姻に至らずとか言ってた、な…。
(精気消費節約とか理由いろいろあるけどさ、あの初代様が未だにベラ子に相乗り状態になってもらっている理由の一つだな、こりゃ…独自義体を初代様に渡したら最後、雅美さんの祟りが作用する危険があるわ…)
(何よそれ…あたしそこまでsageマンだったの…)
(マサミ=サンも大変ですね…)
(あたしはとりあえずペルセポネーゼ作ったけどさ、ジョスリンはまだこれからよ、しんどいの…)
(何と言うことですか…さげまんというのはニホンの言い回しだけかと…)
(じょすりん…おまえ、どうしてもあかんかったら安井金比羅宮、いけ。顕仁に話つけといたる。あそこの石の鳥居、逆にくぐるんや…ただ、じょうけんがひとつだけある。あいてのなまえ、ふだに書いてからぎゃくじゅんでくぐれ…)
(アフロディーネです。ジョスリーヌ団長はそっち頼る方がいいかも知れません。私が使える手としては私の縁組成就能力がありますけど、これは相手が決まってないとそもそも作用しません。あと、誰がいいとか名前を言ってもらわないと、エロスを派遣する手が使えないのです…)
(神様ですらカエル女の縁組には困難を示すのですか…)
(マリアヴェッラ、あんた笑い事じゃないわよ…幹部女官の残り寿命、とんでもなく削られたくないならイマネを孕ませないように発令しときなさい…)
(ジーナかーさまに頼むしかありませんね…)
(あほ。それやったらジョスリン、皇族入りになるやろ…要審議対象になって話がこじれるで…お前、それにうちはうちでかなり運が悪い部類なん、知っとるやろが…)
(今だから申せるが、おれはじょすりぬ様の誘惑を跳ね除けていて正しかったのだろうか…はっ、直滋!)
(よもやまさか、直滋様の破滅、じょすりん様のそのまら下げ運が原因…!)
(いや、あれはお美代も悪いはず…親父殿も一時期、お美代に吸われていた可能性がござる、おまつ様…)
どよーん。
ケイジロウ様の葬儀とは別な意味で、列車内は悲痛沈痛な空気に包まれました。
ええ、その原因であろう私ですが、特段何も悪い事をした覚え、ないのですよ…?
ですがこの過酷な託宣はいかに事実であろうと堪えに堪える話です。
流石に気の毒と思ったのか、はりせんムチの拘束すらいつの間にか外れています。
はぁ…私は諦めてアンクリナブル…リクライニングレバーを操作して背もたれを倒し、目を閉じます。
オオミヤを過ぎて広がる、のどかな田園風景も私の心には響きません。
ドナイシタラエエンヤ。
ええ皆様、申し訳ありませんが、私を孕ませるチンポの出現をお祈り下さい。
あと、エンムスビのカミサマでエエトコがあったら、ご紹介を。
これは、それなりに女として自信があった私の心にヒビを入れるには充分すぎる話です。
サゲマンなる日本語俗語をなまじ、知っていたがためのダメージから回復できる自信は…ありません。
私の心の悲しみを癒す何かが、ヨネザワ…そしてヒロサキやハコダテで訪れる事を祈って、私は目を閉じました。
ああ、神よ。
無神論者であったはずの私がこんな言葉を口にするなどとは。
通常の私ならば絶対に思いつかなかったでしょう。
そして、コンカツに悩む皆様にも救いの手がありますように。
アミン。
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べらこ「ちなみに天の声の知り合いにも凄い男運の悪さを誇る女性がいたそうです」
カエル女「ほう」
べらこ「過去に五人か六人付き合って、女性側から振らなかった場合以外全員破産か財政難。最悪は失踪」
カエル女「なんですかその女は…」
べらこ「干支のそういう年回りというのはかくも恐ろしいようです」
カエル女「まぁ…それは極論としても…」
べらこ「ちなみにジョスリンは蠍座B型だそうです。この話からも、男を毒針で刺して体液を吸い尽くすサソリやクモの生態が垣間見えますね」
まさみ「ベラちゃん、さりげなくあたしもdisってない…?」
べらこ「女郎蜘蛛の雅美さんはいいとして」
まさみ「よくないっ」
べらこ「だってペルセポネーゼちゃんとアフロディーネちゃん、作ったじゃないですか」
てるこ「確かに、雅美さんは男運がいまいち…しかし、神にすら悪影響を及ぼすとはやはり、雅美さんを子作り相手に選んだあたくしの目に狂いはありませんでしたわね」
まさみ「初代様にも地味にdisられている気が」
てるこ「ほめておりましてよ…で、ジョスリン。男運の悪さを打ち消す方法、ござーますわよ。お聞きになって?」
カエル女「とりあえずは拝聴致します…」
てるこ「でね、これは神ではなく聖院初代金衣として申します。聖院金衣の後継作りの原則に立ち返るのですわ」
カエル女「オゥ…何でなのでしょう」
てるこ「んなもん簡単ですわ。ぶっちゃけ金衣って亜神の分類に該当するくらいに運が強いので、子種を提供した男の運を吸い尽くしかねないのです」
べらこ「まさか」
まさみ「ああ…身分卑しき男とまぐわい子を授かるべしってあれ…」
べらこ「要するにおばちゃんの決めた決まりは、破滅させても世間に影響を及ぼさない部類の男性から精子を提供してもらいなさい…ということなのです…」
てるこ「いちおう、をめこをいたした後のせいかつはほしょうしておりましたよ」
べらこ「その後何年生きてたんですが、子種提供者…」
てるこ「あたくしが知る限り、十年と生きたのはおりませんわね。いえ、五年ですら怪し…もごごっ」
まさみ「ほんとにカマキリの生態に近いのね…」
べらこ「その虫のような生態の幹部女官の頂点にいるあたしも、おじさまの子供を本気で作るとまずいようなのです…」
おりゅーれ「私がカルノと男児を作れない原因も、よもや…」
てるこ「でぇ。ジョスリンがをめこを見せつけたり、戯れに精子を搾り取ったせいで焼死した人物がおりますわね」
カエル女「まさに今回の冒頭で出ましたが…」
てるこ「で、このおはなしでは、りんねてんせいの概念が採用されています。ただ、たんじゅんに生まれ変わるものではなく、じょなんなら女難の相のかいしょうをはからずに死んでしまうと、次のじんせいでもまた、女難の運勢がやってくるのですわ」
べらこ「つまり、今回焼死した直滋くんなら直滋くんそのものが転生するんじゃないんですよ。悪女に引っかかって色気に溺れおめこしまくった挙句、淫行をそそのかした女性もろとも焼け死んだような運勢が次の人生でも繰り替えされかねないのです…」
まさみ「純粋な生まれ変わりめいたことが出来るのは神様か、またはそれに類する眷属だけだそうですよ」
カエル女(そこまで皆様が言われるって、つまり、ナオシゲのウマレカワリを探せって事ですよね…)
あると「さっしのいいこはすかれるかきらわれるのです」
カエル女「Foo、つまりアホであっても嫌われますよ…小官は職務上、アホオンナとやらを演じたこともありますが…出来ればあのような役柄は拒否したく」
べらこ「そんな訳で、江戸吉原編、アルトさんのお話としては一区切りがつきますが、ジョスリンの婚活は続くのです…」
まりー「こんかつというよりは、男児を産むための四苦八苦ですわね」
あると「あと、おとこのこをつくれというのは…」
べらこ「多分、男日照りめいた状況だからだと思います。単にちんぽが必要ならば幹部候補となる女官を産めばよいだけですし、ジョスリンの場合はそれだと結構簡単なんですよ」
まりー「ただ、精子をていきょうしたあいての身上が潰れかねないのですわよねぇ…」
べらこ(ふふふふふ、カエル女がどんな男性をくわえ込むのか観察のしどころ…)
あると(をめこのようすもどうがにとっておくのです…)
カエル女「結局はベラ子陛下とアルト閣下の復讐ではないですか!」
べるこ「請願は受け付けておきますよ…」
カエル女「どんな願いも聞き流してやろうと言う風に聞こえます…」
他全員「では次回でお会いしましょう(多分、カランバカからキューバに行ったオリューレさんの話になる気が)」
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