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女戦士大地に立つ・1.0

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「こらぁああああああ」

「マリアリーゼ…これは確かにやり過ぎです」

「とりあえず…雨に打たれなさいとは言っておきました…」

えーとですね、マリアヴェッラ(分体)です。

で、場所はシントラ宮殿前の庭です。

そして、目の前には駄洒落菌弾頭を上空散布したばかりの戦闘機、IF-170ドゥブルヴェが。

…あたしが二代目様を後席に乗せてここまで飛んで来たんですが…そして、よりによって何でドゥブルヴェを引っ張り出したのか。

ええ。

姉とイザベルさんの暴走ですよ。
https://novel18.syosetu.com/n0112gz/193/

正直、ふざけんなと申したいです。

で、何であたしが分体を出してまで、二代目様と二人で飛んで来たのか。

スペイン・ポルトガル国境とビルバオ周辺の聖母教会から茸島の神学部に緊急通報が多数寄せられたからです。

でねぇ…その内容がまた、問題だったのです。

偽女種とやらにされて断絶とあれば生きる気力を失ったと。

そして、今回のヲカマ化…広域降雨で鬼細胞を撒き散らしたと、姉に自白させました。

その結果、ポルトガルやバスクの人々…特にこの時代だと平民とか言われる、いわゆる労働者階層の方々を中心に「生きる気力を失った。この上は首をくくるか身投げをするか」等々の自殺相談が寄せられたせいです。

そして、この方々…スペインに反発して民族皆ゲリラめいた考えが蔓延していたバスク地方はまだしも…必ずしもスペイン憎しとは思っていなかった方々までもが一体どういう事よと、スペインに対して反感を抱くのは必至の流れでしょう。

で、話を聞いた聖母教会の司祭の皆さんがこぞって神学部長のシェヘラザードさんに連絡なさいまして。

そして、シェヘラザードさんから二代目様…そして初代様へと話が伝わったのですが。

ですけど、あたしの本体はスケアクロウに乗ってアナさんやティアラちゃんたちを海賊共和国へ移送中です。

という訳で分体を出して、エマちゃんに事情を話して…カウンター鬼細胞弾頭に換装したHHMM-06LCh、つまりテリブルというミサイルの化学兵器散布仕様を急遽搭載したドゥブルヴェで弾道飛行を行い、大陸間弾道弾真っ青の速さで欧州上空に到達、ポルトガルとバスク全域を覆えるようにミサイルを発射したんですよ。

ええ、最初に茸島の神学部に連絡が来てから1時間もかかっていません。

ああ、こういう場合に限りますけど、ドゥブルヴェの操縦だけでも習熟しておいて正解でした。

ただ、実際に兵装システムの操作まではチョロっとしか習ってません…偵察や周辺警戒・探知用のレーダーやセンサー、戦闘機としての操作をしないと使えないものもありますから…ので、エマ助に協力してもらって二代目様の身体にジーナ母様が憑依、ミサイルの発射管制を行なって頂きました。

(いやーまさか、NBにいながらドゥブルヴェの後席操作をやらされるとは…まぁこの場合はしゃあないやろ。あとマリ公に雅美さんとイザベルさん…なんぼなんでも農民の皆様他、一般の皆様まで巻き込むな。こういうことへの知識が薄い人らやったらふてぶてしく構えてられんし、こうなった経緯を説明してもはいそうですかと素直に理解してくれへんぞ、普通の人は…)

(だから農夫や漁師やらは聖母教会に来れば助けるって筋書きでやろうとしたんだってば…)

(ねーさん…バスクはまだしもポルトガルには聖母教会ネットワークの整備、まだまだこれからって所だったでしょう…駆け込む聖母教会が近隣になかったり、あたしたちの教えを聞く機会がなかった人たちにいきなり神罰レベルの身体異変を起こしてどうするんですか…)

(とりあえずバスクについてはルルドでの救済案でよしとしても、ポルトガルについてはあまりにも無辜むこの民草を巻き込み過ぎでしょう…)

(しかも、じしんが起きるたいみんぐを見計らってこのような事をしでかしては弱り目にたたり目というもの。あらぬ反感を買い人心を離れさせては何をしておるのやら、というおはなしになりましてよ、マリアリーゼ…)

ええ、二代目様と初代様、割とです。

ですので、今回ばかりはさすがに、初代様に身体をお貸ししております。

差し当たって、姉たちはシントラ宮殿謁見の間で正座中。

それとですね、今、地震は初代様が抑えておられます。

で、この地震…連邦世界では過去に三度ほどリスボンを襲った地震のうち、一番被害規模が大きかった1755年のものと同等の規模で起きる予定だったそうです。

そこで、二代目様と初代様とあたしで知恵を出し合いまして、この地震を奇貨として聖母教会やスペインへの信頼をある程度は回復できないものかとなりました。

(このゆれは完全には消せませんわね…)

(お母様、そうおっしゃらずに…)

で、1755年の時のリスボン地震は大西洋の沖が震源地でしたが、この場所で嫌な予感に襲われた方、いらっしゃいませんか。

ええそうです。ただ揺れただけでなく、津波も来たのです。

そして…あたしも記録を見て愕然としましたけど、被害はポルトガル沿岸全域に及んでいます。

で、それだけじゃないんですよ。

発生場所があまりに悪かったせいで、津波はモロッコやフランス、そしてイギリスまで到達。

津波の高さはある程度の観測記録が残っていまして、リスボンでは…室見理恵パイセンがスペイン鉄道編でリスボンと周辺の地形について語っておられましたが、テージョ川の河口付近の地形が災いして最大高さ15mの津波が襲ったそうです。

そればかりではなく、ポルトガル南部で波高30メートル、モロッコ沿岸でも最大20mの高さの波が押し寄せています。

で、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラや…スペイン側バスク族の本拠地であるビルバオも同じように数メートルの高さの津波が押し寄せて港や街を破壊しています。なにせ、フランスやイギリス南部ですら波高2mから3mの波が押し寄せて被害を与えたそうです。

でまぁ、こんな災害ですから、初代様がいつまでも抑えておけないのと、完全に揺れをゼロにすることは出来ない。波高1メートルくらいの波は絶対に来るから沿岸から逃げて下さいという話を広域心話でそこら中に入れます。

そして、疑う人には「この地震に対して聖母教会が何もせずに黙っていたら最後、どういう風に自分の足元が揺れて津波に襲われるか」エマ助の力も借りて広域シミュレーション、初代様得意技の疑似体験を味わってもらいます。

(信じない者は別に構わない、やってみせてくれという意見を表明してください。多数決を取ります。ただ…信じる者は救われると申しますけど、信じない方には本当に死が訪れるかも知れないのは、疑似体験でわかりますよね?)

ええ。生き残ったとしても家屋敷に田畑に家財道具を失って文無しになるとか、あるいは取引先を失うだの、更にはこの手の大地震にありがちな略奪にあって財産を奪われたり放火されたり。

むろん、犯されたり、最悪の場合は殺される事までエマ助と…そしてスクルド先生経由で運命選定種の皆様がその後の運命を弾き出されました。

(このたいりょうの死者はさすがに、われらもみのがしてはおけぬ…)

(このじしんがおきる予定にはなかったはずだぞ、アトロポス…)

(いえいえ、地震じたいはおきるはずでした…ですが、規模がおおきすぎます…)

で、寿命通りに死ななかった場合の損失も含めて考えますと、運命選定種の方々にすら、とんでもない損害が出ていたそうです。

その後に生まれるご新規様の人々や生き物の数の運命を決める手間賃を頂ける額を考えても、修復には数百年はかかる損失であるとか。

で、一応は姉もイザベルさんも、この地震を予想していたからこそ婦人騎士団を向かわせていたのもありますが、これ…婦人騎士団の数十名だけで震災後の被害者救出や修復は難しいですよ…。

で。

どうするか。

スイスからマイレーネさんが呼ばれました。

そして、あたしに憑依した初代様からの説明を受けられたマイレーネさん、深く頷くと「拳二発で収めてみせましょう。ただ…二代目聖母たるマリアヴェッラ陛下の勅言を頂いた上で実行する方が良いかと」と申されます。

そこで、まず一番の被害者になるポルトガルの現・国王夫妻にお尋ねしてみます。

なにせこの地震の余波で欧州の政治経済は大きく乱れ、ポルトガルが一時的にブラジルに遷都する遠い原因にまでなったそうですから、最大の被害者となることが確定しています。

そして、この国王陛下夫妻の言葉、欧州全域に心話でお聞かせしますよ、と告げています。

「かしこまりました…聖母様、偽女種云々の件の話よりもまずは人の命。我が国の…そして不幸に見舞われるはずの者者を何とかお救い頂けませぬか」で、ご夫婦で揃って、私の前に膝を突かれます。

「聖母様、夫同様、なにとぞ私からもお願い申し上げます」で、鬼細胞の影響で若返っておられる…ただ、先天性の症状らしい部分的な白髪が特徴の奥様も、ひざまずきながらあたしの手を取って懇願なさいます。

(よしよし、いい感じですよ。多少演技が入っても構いません。泣いて頼まれる方が領民思いの君主と王妃様に見えますからね…)

(あなた…陛下、マリアヴェッラ陛下はお話がお分かりになる様子。偽女となった件についても相談の価値はありや。この場は我らの身を差し出しても礼を尽くし、国土崩壊をお防ぎ頂くようお願いするのです…)

(ええ、すがりつく演技も入れてくださいね…)

と、心話で演技指導を入れながら、今後のことも考えて演出させて頂きます。

そして、更には馬車を走らせて宮殿に駆けつけてきた宰相様も、嘆願の列に加わります。

(歴史が違う件がまた起きてるわね…ボンバル侯爵セバスティアン・デ・カルヴァリオまたはカルヴァーリョ。1755年の地震の際にポルトガルの復興に尽力した宰相なのよ。ただ…その際に貴族への弾圧が過激過ぎて、後にボンバル侯爵に叙任された後で職を追われて晩年は隠居生活してるわ)

と、雅美さんが速攻でその大臣様の由来を教えてくれます。

ただ…このカルバリオさん、鬼細胞、いえヲカマ細胞雨で汚染されてまして…ヲカマ状態なんです。

救いは、ヲカマ細胞雨の後であたしたちが撒いたカウンター鬼細胞が効果を発揮し始めておりまして、純粋な男性の姿に戻りつつあるところでしょうか…あ、せっかくですから若さはそのままで。

「聖母様、心に響いたお話で事態を承知致しました。ここでわたくしのみならず、国民が片端から若返ったのも聖母様のお計らいでございましょう。つきましてはそのお慈悲、何とぞその大地の揺れを止める事にも向けて頂けますまいか」

と、平伏してお願いなさいます。

「姫様、ここまでしておっては流石に旧悪に拘るのもよろしくはない話かと」と、じろりと姉やイザベルさん、そしてサミラさんを睨むマイレーネさんですが。

姉の顔すら真っ青です。

ええ、あの噂に聞く「睨み殺し」が発動しないかと、あたしはヒヤヒヤしているのです。

実際に直接に睨まれていないだけで、あたしですらものすごいプレッシオーネに襲われていますから。

ですが、その発言、ポルトガルの皆様を安堵させるものでしょう。

「はよマイレーネパンチを繰り出す許可を勅令として出させなはれ」という内容ですから。

「マイレーネ地区本部長、そして永代聖院女官後見役。暫定第24代聖院金衣並びに痴女皇国二代目皇帝…二代目聖母として依頼申し上げます。人々を…お救い下さい」

「妹姫様。ここは勅令を発するところですよ…ですが、このマイレーネ、確かに承りました」と、あたしの前に片膝をついて下から申されるマイレーネさんです。

つまり…名目上は、あたしの方が格上ですよと皆に伝える「演技」をなさっておられますよ。

で、あたしを伴って一瞬でシントラの真東にあるロカ岬…ユーラシア大陸最西端なのは痴女皇国世界でも同じですよ…にジャンプして降り立ちます。

そして、東方で負け知らずな格闘家の方を想起させる白い服姿のマイレーネさんに合わせて、あたしも専用白金衣に姿を変えます。

「では…始めます。ははう…初代様、地面の抑えを離して下さりませ」

次の瞬間に、地震光と呼ばれる光が海の向こうで起きたとみるや、不気味な唸りとともに、波が一気に引き始めます。

このリスボン地震、この時は直下型ではなく大西洋の海底のプレートのタガが外れたために起きたと言われていますが。

ですが、そこからが驚愕でした。

掌底一発を、そこかと睨んだ方向に向けて放つマイレーネさん。

次の瞬間、比喩でなく壮絶な衝撃があたしたちを襲います。

で、あたしの役目。

マイレーネパンチの衝撃波を絞り込み、地震発生源のプレートの歪みだけに的確に叩き込むため。

そのため、衝撃波を…海を含めて余計な爆発を起こさないように抑え込んで収縮する役割を果たさせられたのです。

で、これを担当したのは初代様です。

(ほほほ、大地を海に沈める事に比べれば楽なものですわよ。マリアヴェッラもこれくらいはおできになりませんと)

無茶言うな、おばちゃん。

ですから、本当は高さ数千メートル以上…事によれば成層圏まで届くような大爆発が起きていたような衝撃による二次被害を防ぐためにも、あたしと初代様は絶対に必要な補助役だったようなのです。

そして、引いた波はいずれ、津波となって押し寄せてくるでしょう。

この津波をどう、お防ぎになるのか。

どどどどどと静かに、しかし確実に押し寄せる波。

上空からの監視の目が、その波高と波形を伝えて来ます。

(読者の皆様ですと、東北大震災の津波の映像記録が残ってるでしょうから、あれを思い出してね…が今、大西洋沿岸めがけて放射状に押し寄せてるから…)

と、内務局情報部ではなくテンプレス2世の戦闘情報管制室CICでエマ助と二人して見ているらしき雅美さんのクァンタムリンク会話が来ます。

で…不気味なうねりが近づき、あと数秒で陸地を侵すと思えた瞬間。

マイレーネさんの左手が動きました。

そして、目に見えぬ壁が出来たかのように、押し寄せる津波、何かに当たって高い高い波しぶきを上げます。

その高さは百メートルを超えていたのではないでしょうか。

(姉がこしらえたほーむらんばっとがございますわね。あれの防壁と同じでしてよ)と、おばちゃんが教えてくれます。

そう…タモの木を無限に密集させたかのような防御壁を繰り出して、ゴールデンなバットを握った人を守るというあれです、あれ。

姉によれば量産型巨神の大砲や腕から出す光でできた惑星カットナイフどころか、ブラックホールをぶつける重力砲だの次元の彼方に吹き飛ばす転移砲の砲撃すら防ぐとかいう、あれですよあれ。

(通称・倍返し障壁。受けている攻撃と同種の物理あるいは超物理干渉と同種類の防御手段をぶつけ返すのが基本作用なんだわ。それはまぎれもない話に出てくる、卵についた目玉で見た武器や攻撃と同じものを再現する最終兵器とやらに近いと思ってくれ)

(つまり…強力な攻撃手段であればあるほど倍のお返しを勝手に受けるんですか…)

(税務調査だと言ってオネェ言葉で金玉を握るのが癖にはならないんだけど、まぁそういうことだな…そして、津波の運動エネルギーがいかに莫大でも、液体である以上いずれは収まるんだが…見てろ、運動エネルギーというか、海水にかかってる運動慣性も打ち消されてるだろ。この障壁が解けた際に多少の波は返ってくるけど、あの津波に比べたら大したことじゃない。それも…月の影響で潮汐が発生する程度の速度で戻って来るから実質的な被害はほぼ、ゼロだろうな)

…改めて、マイレーネさんと…そして、同じことができるであろうアレーゼおばさまの恐ろしさがよくわかりました。

それと、神種族って…各種族ごとにこういう事が出来る方が、最低でも1名はいたそうです。

(だからさ、ティアラちゃんの視察にお前じゃなくておばさまを同行させている理由、悟ってくれ…ああ、淫化帝国か朝日輝あすてかの辺りに、北欧神種族みてーなのが生き残ってる可能性が指摘されてるんだよ…)

ぎょえええええ。

それならば確かに、ただでも今ドタバタしてる時にわざわざおばさまが視察についた理由もわからなくはありません。そして、アルトさんの随行も「何かあった時、今のあたしみたいにおばさまを補助する役割」であれば納得できるでしょう。

しかしですねねーさん、地震と津波は防いだとしてもこの後の処理ですよ…偽女種化の後始末で頭が痛いです…。

(その辺りは姉姫様と妹姫様でお話下さい。姉姫様…私と拳の鍛錬になりませぬように…)

(わわわわわわわかりましたぁっあたしとベラ子で始末つけますから!)

ええ、姉が本気で泣いてます。

マイレーネさんとのボクシングの練習なんて、明日のために打つどころか…今日以降の人生がなくなりそうな話なのはよくわかりますから!

--------------------

べらこ「どーすんですか、ヲカマさんたち」

マリア「あたしはイザベルさんの要望の通りにしただけだっ」

まさみ「あたしも罪に問われてるからはっきり言っとくけど、マリアちゃんもノリノリだったのよ」

マリア「雅美さん!仲間を売るんですか!」

まさみ「どっちみちマイレーネさんが出て来た時点で、言い訳無用の空気よ…」

いざべる「ひいいいいい…わたくしの処遇は…」

べらこ「ただですねぇ、ポルトガルとバスクの動きもよろしくなかったのは事実です。ジョアン4世陛下、そしてルイサ妃殿下…バスクの独立を煽ってましたよね…」

じょあん「えええええ…濡れ衣もごがががっ…ルイサ、何をするのだ!」

るいさ「聖院女官に隠し事や嘘は不可ですわよ…ただ、今回はそちら側の行き過ぎもあったとお認めの話ではございますが…が…」

るいさ(あなた、マリアヴェッラ陛下に楯突いて、せっかく恵みの雨を撒いて頂いてある程度は偽の女となる病を帳消しになさって下さいましたのに、ここで陛下のご機嫌を損ねては交渉は振り出しに戻りかねませんわ…)

じょあん(そ、そうであるな…それにイザベル陛下は執念深いお方であるのが此度の件ではっきりした。放っておいてはいずれ我らポルトガルを根絶やしにするのみならず、人の記憶や歴史から消しかねぬ…これは、イザベル陛下の更に上の位の御仁におすがりすべきであろう…)

べらこ「王様と王妃様の本音だだ漏れなのはともかく、あたしのご機嫌の琴線に触れるお考え、気に入りました」

マリア(ベラ子をおだてておだてて…この場の裁定役、あたしじゃなくてベラ子に指定されてるから…)

いざべる(ううううう)

べらこ「ちなみに今回の地震、マイレーネさんがチャラにして抑えて頂かなかった場合ですが、まず地震の揺れで建物が崩壊したり、深さ5mの地割れに落ちたり等々、即死者は最低でも2万人はおられたとありますね(雅美さんからの入れ知恵通信ですよ)」

じょあん「津波とやらも押し寄せておりましたな」

べらこ「で、テージョ川をさかのぼる津波が逃げている人たちや沿岸の家屋を襲います。これで溺れ死んだ人が、最低1万人。そして…地中海を挟んでますけど、モロッコ側の大西洋沿岸から地中海沿岸でも2万人から3万人はお亡くなりに。ま、これはこのリスボン地震の余震がモロッコでも起きて、追加の死亡者が出た分も含んでいるらしいのですけどね…とにかく、モロッコ側でも記録に残し切れないほどの損害が出たと思ってください(サミラさんをぎろり)」

さみら「あひぃいいいいい」

べらこ「ですから、今回の地震が連邦側の歴史よりはるかに早く起きた原因は何よとか言う以前に、何もしなかったら本当に欧州全域を揺るがす経済と人と文化の損失になったと覚えておいて頂きたいのです。そして死者、これだけじゃないんですよ…地震が起きたのは朝の9時40分頃でした。ルイサさん、11月のリスボン…それも連邦世界では小氷河期と言って、今よりも多少は寒かった時代のリスボンです。暖房や炊事に使う火、すぐに起こせるものでしょうか」

るいさ「あー、わかりますわ陛下。炊事のかまどだでけも、火種を絶やさぬようにしておったかと」

じょあん「つ、つまり街が揺れ石や煉瓦の建物が崩れ倒れる様を見せられたのですが…」

べらこ「ええ。場所によっては照明のための魚油や鯨油、それに調理用の油もこの年代では広まっていました。それに、石炭や薪も燃料として備えられていたでしょうね。おまけに、お部屋の内装や家具に調度はまぁ、木や布…つまり可燃物を多用しておられたかと…」

るいさ「大火事が起きたのですね」

べらこ「ええ。模擬映像でお見せした通りです。大火災旋風…火事の熱気による竜巻も起きて、リスボン市街は焼き尽くされたも同然の廃墟となりました。リスボンだけで死者合計9万人。当時の人口が確か27万人未満ですから、町の人々の三分の一がお亡くなりになったと思って下さい」

まさみ(更には宮殿や教会など、貴重な歴史ある建物が多数崩壊や倒壊、更には火災で焼け落ちました。その瓦礫の撤去には1年かかったそうです…もっとも、それをきっかけに防災を考えて作り直されたリスボンは、住民避難も考えて広い街路を備えた近代都市に生まれ変わりましたけどね)

いざべる(そういえば、我が国の街も、室見様がなるべく広い通りを作りたがっておられましたわね…)

べらこ「そして、大航海時代の記録や文書など、図書館に収蔵された貴重な書物に…宮廷やお屋敷、そして学校や教会が保有していた絵画や彫刻もあらかた失われています(廃墟と化したリスボンのシミュレーション画像を見せながら)」

るいさ「あ、貴方…これは何時起きようが、我が国だけでも大惨事の天災ですわ…むしろ今起きておった方が、街を作り替える口実となったのでは…」

じょあん「妻の発言は不謹慎かも知れませぬが、今後も地面が揺れるとか大波が大洋から押し寄せるとあれば話は全く別でございます…備えのためにも街や国の作り替えに普請を必要とするやも知れず…」

べらこ「で、ここからは提案ですよ。こっちの歴史通りに、一時的に南米尻出国へ遷都しまへんか」

じょあん&るいさ「えええええ」

ぼんばる「陛下…我が国の歳費や租税だけで国土再建はもちろん、再興は困難でありますかと。何となればかの尻出国、もともと金がそれなりに獲れて我が国の財政の助けとなっておりましたし、あの広さですから色々と恵みもありますかと」

べらこ「もちろん、危険な毒蛇とか毒の虫とか毒のカエルさんとか人喰い植物とか猛獣とか、果ては首狩族に男と見れば喧嘩を売る女戦士の国とか色々と危険が危ないのはわかっています。川に入ればかぶりついてくる人喰いワニとか群れで襲う人喰い魚ですとか、女性の穴や男性の穴に入り込んで食い回す人喰いドジョウとか、電気を出して感電死させる人喰いウナギとか人を丸呑みにする人喰いヘビとか」

じょあん「人を食う何かしかおらん地なのですか!」

るいさ「貴方、冷静に…首狩族や女戦士がいるということは、人は人喰いのなにかしらを防いで暮らしているのでは?」

ぼんばる「王陛下…それに、ブラジルとやらと我が国では申しておる尻出国ですが、毒の獣や人喰いがいるということは、獲物となる人も獣も魚も多いことではございませんか。そして…聖母様、さきほどの奇跡を起こしたマイレーネ様と同じ強さのお方が今、人が尻を出して暮らす地にまさにおられるとか」

るいさ「そのお方がお強いのであれば、我らが移り住んでもお守り頂けるのでは?」

じょあん「ぬぬ…確かに、マリアヴェッラ陛下も我らを庇護する手立てなしには申し出になっておられぬ話…」

るいさ「尻出国への遷都、これを永遠でないとする誓書を交わして頂けるならば合意すべきですわよ。貴方…うじうじと悩んでおるようであればわたくし、貴方と別れてイスパニアにつきましてよ?」

まさみ(実は史実のルイサさん…ブラガンサ公夫人もこういうお方です。ブラガンサ公だったジョアンさんのお尻を蹴ってポルトガル王政復古戦争を仕掛けた方なのよね…)

べらこ(このお話、前からやたらと男性のお尻を蹴ってけしかける人が多い気がしますが、ルイサさんもそうだったのですね…)

るいさ(僭越ながらマリアヴェッラ陛下も、男の尻を蹴って動かす技も覚えられます方が…)

べらこ(あたしはどちらかと言うと、女の尻を蹴ったりふんづけたり犯したりして使う事の方が多いのです…)

るいさ(恐ろしいことを何気に聞いた気がしますが、その尻を出す国への遷都や国民の処遇、なにとぞよしなに…)

ぼんばる(あと、お隣のお国の淫獣かつ野獣のごとき女王陛下のように、借金漬けも正直、国民に知られますと生きる意欲を削ぐ話にございます…なにとぞその辺りもお手柔らかに…)

べらこ(なんかポルトガルの人の方が商売上手という気もしますね)

いざべる(へーか。ポルトガルの借財をおまけするならばその前にまずイスパニアの借金ではないですか!)

るいさ(イザベル様…そなたの国の借用書漬けはそなたのお国の問題ではないですか…我がポルトガルの資金調達に横槍はごめんこうむるのです…)

べらこ「二人とも…借用書を強制的に書かせますよ…それとですねルイサさん。うちのお金を借りてもらえるならば、連邦世界でポルトガルが宗主国になってブラジル帝国を築いたように、尻出王国なり尻出帝国を築いてもらえるように支援しますよ。ただ、うちの支部になって頂かないと支援はできませんけど」

べらこ(うまくしたらイザベルさんとステータスも地位も同格ですよ…成績がよければちゃんと評価しますよ…)

るいさ(悪魔のささやきとはこういうものでしょうか。しかし、女王というのも悪くはありません。貴方、どうせならこのままヲカマとやらになって、侍女や遊女や小姓どもと性交ざんまいに耽られてはいかがでしょうか。あたくしがその間に尻出国を珍珍ブラブラ王国、いえ男はブラブラしているけど女が仕切り切り盛りする国にしてみせますわよっ)

じょあん(わしがいくら本当は早死にすると言ってもだな…)

他全員(ルイサさんの野望や志は評価するけど、なんか野望の方向性が違うようなのには旦那さん、突っ込まないのだろうか…)

べらこ「というわけで、果たしてポルトガルの遷都は性交いえ成功するのでしょうか。そして、パイセンがしゃべっていたスペイン鉄道回での話題ですけど、この当時でもリスボンには10万の人が住んでますた」

まさみ(再掲載しておくけど、なかなか都会なのよ、西暦1600年代としても…)

マドリード 49,000 バルセロナ  43,000 コルドバ   45,000
セビリア   90,000 リスボン   100,000 バレンシア 65,000
グラナダ   69,000 ウィーン    50,000 ロンドン  200,000
パリ      220,000 パレルモ   105,000 ローマ    105,000
ジェノバ   71,000 フィレンツェ70,000 ミラノ    120,000
ベネチア  139,000 ナポリ     281,000 アムステルダム65,000

べらこ「パレルモが多いのはシチリア王国の名残りとしても、ローマと同じくらいなのですよねぇ」

まさみ(国全体ではポルトガル130万人、スペイン600万人だから国土面積からするとまぁ、妥当なところと思うわよ)

べらこ(むしろ本国の面積からすると、人口密度はポルトガルの方が高いのです。スペインは本土だけでポルトガルの5倍以上の面積があるんですよ…)

いざべる(うちの国は荒地や山が多いのです!)

じょあん(海岸沿いなので魚が獲れるのですよ…いつぞや、マリアヴェッラ陛下とお忍びでリスボンに来られてイワシ料理を堪能されたかと)

いざべる(あの魚料理を出す店を我が国のものに…って何を言わせますの…)

べらこ「人類史上でこの上なく最低な侵略理由を聞いた気もしますが流します。で、これだけの人口をいきなり南米にどかっと移住させるのも何なので、それなりの準備や手続きも必要。ねーさん、あたしも分体を出してでも南米に行く必要が出来たと思うのです」

マリア「ちょっと待て、お前まさかティアラちゃんの視察に…」

べらこ「もちろん、尻出国の女戦士たちや首狩族の酋長たちにも納得してもらわないと、ポルトガルの人たちとの間で戦争になるじゃないですか…それも、向こうは向こうで血の気が多い人ばかりみたいですよ?」

べらこ(ふふふふふ、振って沸いたチャンスなのです…嫌がる女官を犯すのも皇帝の醍醐味なのです…)

いざべる「最低の視察理由を聞いた気がしますが、さすがにこれは聞き捨てなりませんわ…ティアラ…アルトさんやアレーゼ様のそばを離れないようにするのですよ…」

てぃあら(私のステータスランクからすると今、お話が聞こえなかったのですが何か。あと、アルトさんやアレーゼ様の行動についていくとか無茶言わないでください陛下!)

マリア(ああ、あの二人についていくだけでも地獄を見るよな…)

てぃあら「という訳で次回の舞台、いよいよブラジル本土らしいんです…」

マリア「蒸せかえる湿気、熱病、毒虫。闇からの毒矢。緑に覆われていても、ここは地獄だ」

他全員(苦いコーヒーにむせる話のような予告はやめてください!)
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