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アメリカ縦断ウルトラ耐久研修ツアー・7
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さて。
日の出には少し間がある状況ではありますが、我が子を含めた男児たちが男性船員に混ざって展帆作業に従事しているのを物陰から密かに見守る私、中井ティアラ。
「え、痴女皇国の帆船ってとんでもない出力の電動水流ジェットエンジンを積んでいるのだから帆なんて不要では?」と申される方がいらっしゃるかも知れません。
しかし、利用するものは利用するのだそうです。
そして、今でこそ省エネルギー型の精気駆動半生体発電機が開発されていますが、初期型のものは本当に燃費が悪く、女官が苦心して集めた精気を大量に消費するようなものだったとか。
ですので、帆船をベースにしていたのは、半生体発電機を補うためにも必須だったのでしょう。
で、ここで帆を張る理由。
アメリカ大陸からの陸海風を利用して精気を節約するのだそうです。
で、わたくし中井ティアラは日本の義務教育を受ける代わりに聖院学院での授業内容や、更には義務教育課程を含む知識をマリアリーゼ陛下他から脳内に流し込まれております。
そして、流し込まれた知識、あるいは他の方との知識共有の過程で陸海風や海陸風が発生する理由を若干ながら存じております。
水温や気温、さらには近くにある陸地の影響で地表や海面付近の風向きはどっちに吹くかが変わってくるようですが、大筋では地球の自転に合わせて西から東に向かって吹く流れがあり、地表に近づくほどに山や海に影響されたり、地面の温度や太陽の光の反射熱、さらには海流…海の水の流れの温度の影響を受けて風向きが変化すると。
つまり、その時々と船が航海している場所によって風向きが変わりますので、航路を指示する人は、風向を読んで帆の向きをどのくらい変えるのかや、あるいは帆を巻き上げて畳むか、はたまた下ろすのかなどなど、船員に細かな指示をする必要が生じます。
この風を読む技能に優れた者…更には凪や嵐の兆候を読める者が乗り組むかどうかで航海の成功率が左右されたのでしょう。
しかし、ここは痴女皇国世界。
(成層圏付近のジェット気流…偏西風には手をつけずに、地表付近の気流をある程度安定させてるんだよ。それと、サハラ砂漠や米大陸の砂漠地帯の緑化に着手してるだろ。あれで風の流れ、結構変わるんだよ)
へぇ、と言いかけて相手がマリアリーゼ陛下なのを思い出しました。
いくら、見た年齢が若くても0歳の出生直後から聖院金衣代行を務めたほどのお方です。
正直、ベラ子陛下の実のお姉様というだけでなく、本当に実力で後見人になっているのがわかるのです、マリアリーゼ陛下というお方は…。
(無闇にあたしを恐れ過ぎて萎縮されても困るからベラ子を皇帝に据えてるのもあるんだよ。それに、ティアラちゃんはまだこれから色々と覚える立場なんだしさ、あんま気にすんねぃ。それに、まだ若いんだし素直に感心するのは仕方ないさ。それより…こないだ、スケアクロウで飛んだ時にさ、アゾレス諸島に立ち寄ったろ)
(はい。あの変な名前の町ですね)
(で、あそこやカナリアが大西洋横断航海の際の重要地点になってるのはちゃんとした理由があるんだ。あたしたちが天測航海装置やコンパス類を組み合わせた機械式航法装置を広めるまでは、大西洋を直接横断する航海コースは一般的じゃなかったんだけど、理由は距離やルートが測れる正確な地図が存在しなかったことと、自分の位置を知る方法が限られていたこと。そして何よりも帆船で航海していたことだな)
マリアリーゼ陛下によれば、スペインからバハマやキューバ、そしてアメリカを目指す場合、以前はカディスなりポルトガルのポルトなりを出港したお船は、まずひたすらに陸地を左に見ながら付かず離れずで南に向けて下り、カナリア諸島を目指していたそうです。
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で、カナリア諸島で水や…可能ならば新鮮な食料を仕入れたり乗員を休養させたお船は、島を離れると一路、コンパスと、そして太陽や星の見える角度を計算する四分儀または六分儀といった航法計算器を使ってひたすらに西へ西へと進みます。
すると、幾日もの航海の末に陸地が前方に見えて来ます。実際にはこの時代の航路計算ですから、ずれが生じていることもあったそうですが、おおむねフロリダからバハマの島々を前方に望むことができますので、後は目的地に向けて細かい進路修正を行いながらカリブ海を進むのがナッソーやバハマに向かう通常だったとか。
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ただ、夜間の航行時や荒天時には当然ながら太陽は見えません。
大西洋やインド洋、太平洋といった大きな海を渡る場合、昼間だけ船を走らせ、日が沈む前に立ち寄るための都合の良い寄港地、必ずしも存在しないでしょう。
私もナッソーを訪れた際に経験しましたが、転送と高速航行で短縮していなければ何日も周りはすべて海、ということが実際にあるのを体験いたしました。
で、夜は帆を畳んで錨を下ろそうにも、場所によっては海底に錨が届かない深海の上ということもあるでしょう。
帆だけ畳んで漂流などしたが最後、それこそ変な方向に流されかねませんし、結果的に夜であろうとひたすらに目的地を目指して帆の角度を調整したり、舵輪を握って進路を修正する必要があるのは私でもわかります。
そこで痴女皇国海事部では昔のギリシアなどで使われていた手動歯車式の航法計算機を復元して機能を拡張したものを配布して、太陽系内の各惑星を観測して座標を入力することで、二十四時間いつでも進路を正確に補正することが出来るようにしたとか。
(今は更に進化しておりまして、じーぴーえすとかいうものが頭のはるか上の空を巡っているので、それに尋ねると今の場所がどこか地図に重ねて見せてくださいますわ。おかげさまで、痴女皇国または友好国のお船ならばしょーとかっとこーすが取れますから、提携していない船よりはるかに早く正確に港を目指せると評判でして)
(はっはっはっはっはっ、この調子で七つの海はあたしたちのものにするよっ)
(このお船がございますと海賊稼業もはかどりそうなのですが、今やったら絶対に怒られるじゃすみませんものねぇ…)
(ジャンヌさん、気持ちはわかるけど我慢するんだ…例えばフランスが逆らったのならさ、フランスの船であれば人さえ殺さなきゃ遠慮なくやっていいから…あ、そんときには船はちゃんと無傷で奪ってよ?)
(もちろん、分捕ってわたくしたちが精々活用して差し上げましょうや。ああ、祖国はアホですから是非そのアホぶりを発揮して痴女皇国に弓を引いて頂きたいものですわっ)
(ティーチだけどよ…ジャンヌ、それ、ドレイクの旦那に言わない方がいいぞ…)
(なんでですのティーチ。分け前が欲しいと英国が申すならば船を出させれば良いではありませんか)
(だめだめ絶対にダメだ。あのおっさんは血の気が多いから、俺たちよりも先に暴れて獲物を持って行かれかねねぇ…しかも今や護海卿だぞ…英国海軍の船を総動員できる権限持ちに抜け駆けされちゃ困るだろ…だから海賊をやる時は間違っても聖院港やアルヘシラスで話を漏らすんじゃねぇぞ…)
(その辺りの細工は流流でしてよ。むしろポーツマスの英国艦隊の挙動を監視するのはこちらのお手のもの。海事部の出張職員には監視の報酬にキューバからの出稼ぎ少年労働者を密かにいえこれは内緒のお話で)
…英国とスペイン、更には海賊共和国って、今や一応は仲間同士なのにですね…なんで味方の軍艦や艦隊の動向を監視してるのでしょうか。
更には、どうやら英国支部または海事部の支部もしくは出張所の職員女官に少年を世話して懐柔しているようです…ですが、ジャンヌさんもティーチさんも、他にもまだまだ悪い事をしていそうなので、ここはもう少し黙って話をお聞きしておきましょう…。
(上出来だ…あとはマリーの姐さんたちからカエル食い野郎どもに偽情報の仕込みを入れてもらってな、うちの船をよ、大砲一門たりとて見当たらねぇ非武装のボロ船に思わせてくれりゃ、もうこっちの筋書き通りだぜ…)
(あの、きかんほうとやらを早くクソ祖国の船という船におみまいしたいものですわっああっ憎々しいっ)
…えーと、マリアリーゼ陛下。この人たちを止めなくていいんですか。
私が聞いてても、海賊行為から足を洗うどころかやる気満々じゃないですか!
(ティアラちゃん。俺は必ずや海賊王になると宣言したゴム人間に、それを諦めさせることは可能だろうか)
難しい気もしますね。あのお兄ちゃんは確実にそれだけで生きてる気がしますし。
(海賊に海賊をやめろと言ってもなかなか難しいからな…それに、皮肉なんだけどさ、海賊って正規の軍隊が出てきたら普通は逃げてたんだよ。武装じゃ当時の軍艦に敵わないし、無駄にやりあって生き延びても船や船員が無傷じゃないよな…だけど、うちの船なら下手すりゃ一隻で正規のイギリスやフランス海軍の一等戦列艦で編成した艦隊すら簡単にぶちのめせるじゃんか…)
(ティアラ様。ここだけの話ですが、このおふね、実は駄洒落菌の散布を行うそうびも備えております。えぐぞせと申すのですか、正に飛び魚のごとく敵船や砦めがけて飛んで行って炸裂するからくりの魚を何匹か頂いておりましてよ…)
はぁ?
ちょっと待ってくださいよ。何ですかそれ。
で…ジャンヌさんがどこかに心話で合図すると、船首の辺りの甲板の付近で回転灯が回り出します。
そして、その辺の甲板が開くと、どう考えても何かが入ってそうな円筒を4本束ねたものが、機械の腕に掴まれた状態で持ち上げられて船外に突き出されます。
(この筒の中に、先ほど申しました鉄のお魚が入っております)
ああ、やっぱりですか。
(で、うちだす時は反対の方向に盛大な炎を噴き出しますので、船の進行の先につつさきを向けますの。連邦世界ではこういうものは敢えて戦列艦の砲のごとく、真横に向けて発射するそうですが…)
では、どんなものがその筒の中に納まっているのでしょうか。嫌な予感がしますが、マリアリーゼ陛下にお願いして聖環に画像を送ってもらいま…動画も来ましたがぁっ…。
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なんですかこれ。
どう見てもミサイルとかいうものにしか見えないんですけど。
こんなもの、この時代で使ったが最後、駄洒落菌を散布するどころか、お船やお城やお屋敷は跡形、残ってるんですか。
(核弾頭も付けようと思えばテリブル…連邦世界のミサイルの弾頭が付けられなくもないけどな)
えええええ。
(実はこのミサイル…エグゾセMM40 Block2ってんだけどさ、フランス共和国のメーカー…当然だが連邦世界の会社が昔、作っていてな)
ジョスリーヌさんの関与の匂いがしますね。
(正解だ。で、実のところ駄洒落菌を撒くのにテリブルだとミサイルの購入費が割高な上に、発射母機としてスケアクロウか戦闘機のバンシーかドゥブルヴェかババヤガーを飛ばす手間も馬鹿にゃならんからさ。んで、フランスの会社を儲けさせるためにも、こっちの世界で駄洒落菌撒き散らすのに使えそうなブツ、なんかないかって聞いたんだよ…ジョスリンとドミニクさん経由で)
ああ、おっしゃっておられましたね。痴女皇国に協力的な国家や団体には支援を惜しまないとも。
実際に、その恩恵はスペインで暮らした私はまざまざと実感しましたし、マリアリーゼ陛下の言葉に嘘はないと信じる根拠となっております。
(んで、これならどうよってエグゾセの設計データを見せてもらってね。小改良と連邦世界の兵装管制システムに適合するように改装したデータを月面のルナテックスに送って再生産してもらったのさ。ぶっちゃけ連邦世界じゃ今どきこんなもん、対空攻撃システムの訓練標的に使うのにすら役不足なんだけど、こっちの世界じゃ強力極まりない代物だ。シーカーは目標イメージデータ認識センサー併設タイプにしてるから、正味の完全な射ちっぱなしに出来るし…)
よくわかりませんが、かなり物騒な物件なのはわかりました。
では、これ…どれくらい先から射てるんでしょうか。
(エンジンはオリジナルから少し改良してるから射程200kmだな。今その船がいる辺りからもう少し進んだところから撃ってハバナに届くくらいか)
ちょっと待って下さいよ、どこかの街でも地図から消すおつもりですかっ。
(いやそれなら何もこんなもん買わなくてもさ。エグゾセなんてあたしからすりゃ線香花火にもなりゃしないんだから…あ、聖院湖にテンプレス2世浮かんでるじゃん。あれから大陸間弾道ミサイル1発撃つだけで大抵の都市はガラスの大地にできるよ…って、核弾頭タイプは全部駄洒落菌弾頭に換装して核兵器は返却してたな…まぁ、エマ助の起動承認は要るけどさ、カリバーンをMIDI06にするためのアーミングコンテナの中身を開けたら地球丸ごととか太陽系ごと対消滅か超重力砲か多重次元転移砲できれいさっぱり原子1つ残さずに。なんなら銀河系丸ごととか宇宙そのものもあれで消し飛ばせるぞ、今なら)
(何か、久々に聞いたこの手の話という気がしますけどね。ねーさん、それこそ本当にやったら怒られるじゃ済みません話の筆頭格じゃないですか…)
ベラ子陛下の慌てぶりからしても、マリアリーゼ陛下のお話に嘘があるとは思えません。
宇宙丸ごととか現実味を感じないのですが、どうやら本当に可能なのでしょう。
(やるかっ。そもそもあたしがゆる蟹スーツ着込んで蟹光線撃ったら大抵の都市は消し飛ばせるよ…しかもどこにも承認取らなくてもできるんだぜ? あれ…)
(ティアラちゃん。姉があの舐めた蟹服を着たらエマちゃんかあたしを呼んで下さい。あの蟹の目が光ってたら特に危険らしいですから)
そんなに物騒な服なんですか、あの面白い姿の服…。
(痴女皇国の忘年会の余興はもちろん、聖院学院の学芸会などでも着用できる服型対神種族仕様パワードスーツだそうです。ねーさんがあれ着た時、堕天使の皆様が心底嫌そうにしているので、それだけの恐怖を感じさせる機能が装備されているのでしょう)
あの服、猿蟹合戦やった時とか、舞台の打ち上げで生徒さんにいじられてましたけど、そんな危険なもので聖院学院の学芸会行事に登場されましても、いえその。
(ま、あたしやベラ子の義体も含めてMIDIシリーズを神様や悪魔の部類でも消し飛ばす事も可能なようにエマ子が強化しやがったせいでね…やろうと思えばできるだけだよ。それに、生産性を考えるなら何もぶっ壊さなくても、まるっとあたしらのモンにしちまえばいいのさ。これはティアラちゃんに教えといていいかどうかわかんないけど、「全てをMIDIと同一である状態に戻す」能力こそがあれの最終兵器だから。ま、カリバーンだけで飛ばすならともかく、あれに変な手足が生えて何か持ってる姿…多分、ティアラちゃんが生きてる間に見せることは、恐らくはないと思うし、ないようにあたしも努力するから心配すんな)
はぁ。
話題を変えて。
そう言えば、このお船は今、どの辺にいるのでしょうか…。
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(現時点ではサン・アンドロス島北端をかすめてフロリダ海峡に抜ける行程で航行しております。サン・アンドロス北灯台を越えますと南西に向けて舵を切り、ハバナを目指して進路を取りますよ)
見れば、明け方の海にも明るい光を放つ灯台が。
(エマ子ー。そーいやマーキュリックフリー灯台って何とかなんね?)
(この時代に常温で保持可能な流体金属が地球上に他にあるんやったら)
(リニアモーターの要領で常時浮かせとこうぜ…精気発電機があるんだからよ…)
(生体発光材を開発しようかとも思たんですけどね、水銀台座が一番楽ですわ、この時代やったら…非金属素材主体の水圧回転装置も使えますしな…)
あ、この時代の灯台ですが、フレネル式のガラスレンズは既に存在するようです。あと光源は油を燃やすか…。
(痴女皇国の息のかかった場所では結晶発光材を使ってますな。あと、水銀を使うのがティアラちゃんにピンと来ないみたいですな…要は、光源とレンズが乗っかってる回転台の軸受部の空間に水銀を詰めてるんですわ。あのレンズから何から、十五秒に1回は回るようになっとる部分まるごとが水銀を満たした容器の上に浮いてると思うてもらえば)
(で、水銀を使う肝心の理由だけど、摩擦係数がゼロに近い流体軸受として使っている。だから、ほんの少し回転力を与えておけば灯台の中で灯りが延々と回ってるんだよ)
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大丈夫なんでしょうか。
確か、水銀はかなり危険な有毒物質だったのでは。
(軸受の作りを工夫してて、極力少量で済むようにしてます。基本は密封状態ですな。で、灯台の塔の下に向けて螺旋階段の中央部に竪穴を作っとくんです。そして、水銀台座に乗った灯器一式に繋がった紐の先の錘を穴に向けて落とすと、独楽の要領で灯器が延々と回りますねん。実際には早く回りすぎんように、周囲に歯車を組み合わせた調速装置なんかで一定の速度になるように調整しますけどな)
(で、おもりを元の位置に引き上げるための滑車を回す動力に水車を使ってんだよ。灯台の周りが海水じゃなきゃ水圧式ケーブルカーの装置の要領で引き上げ機を作れるんだけどね)
(鏡を組み合わせて全方位に光を放つようにした灯台も造られた事がありますけどな。どっかに死角が出来るんと、鏡やとあまり遠距離に光が届きませんのや)
(マリアリーゼ陛下、エマニエル閣下。あと、物見役の高さと灯台の高さの関係がありましたかと)
(あーそうそう、ジャンヌさんナイスツッコミ)
(せやったせやった。灯台には光達距離と、視認距離の二つの値がありますねん。まず、光達距離は光源そのものがどこまで離れて光が見えるか。回転させへん灯台とか、晴れた夜や嵐などの気象条件で変わりますけど、計算式がありますからエンリケ君らにはいずれ習わされる話ですわ。どこの灯台がだいたい何海里先から光が見えるいうのは海図に記載しとく必要があるデータですさかいにな)
あ、これは女性には忌避感を感じる話ですね…リケジョとやらを呼んで来る必要があるのでしょうか。
(で、視認距離というのは地球の丸さを加味してまして、ティアラちゃんならティアラちゃんの目の高さと、灯台側の塔の高さ双方の数値で変わるものですわ。これも計算式が存在しますねんけど、単純に言うと灯台の塔が高いほど遠くから見てもらえるんです。で、同様に、見る側も高いところにおるほどええんですよ。これは灯台の光を見るだけやなしに、帆船の帆柱の上の方に物見台やらヤグラを組んでるのでもわかりますやろ)
ああ。あの、柱のものすごく上までよじ登って見るあれですね…。
これも、高所恐怖症の人にはつらい話でしょう。
(たとえば五十キロ先まで照らせる灯台があっても、海面から数メートルの距離で光ってたら五十キロ先から見えまへんねや。さっき言うた錘と滑車を組み合わせた回転装置を付ける必要もありますねんけど、高すぎる塔は暴風雨に耐えられんことがあるんで、建てる場所自体をなるべく高い所にする方がええんですわ。ただ、岬の先端みたいな場所に建てるならいざ知らず、港の突堤の先やったらあまり高い場所に立てられませんわな)
(世界最古といわれた灯台はいくつかあるけど、アレキサンドリアの大灯台は地震で崩れたからな…)
色々大変なのですんねぇ…海の世界も。
ええ、この中井ティアラも…あの見張り台に上がれと言われたら、ちょっと。
(ほほほほほ、ここにあがるくらいはぞうさもないのです)
え。
見れば、息子たちに付き添ったのでしょうか。
アルトさんがその、見張り台にいます…。
ですが、ドラの音と心話で警告が。
(船長より各位に通達。間もなく本船は高速航行に移行します。船員各員は配置につけ。乗客の皆様は甲板を離れてください)
えええええ、そこにいては危ないのでは…。
(アルト閣下!すぐにその子たちと一緒に降りてきてください!当船の最高速度は60ノットを超えます!)
(ひ、ひええええ)
(こらアルト!慌てんな!その子たちをしがみつかせて飛び降りろ!おめーなら重力軽減できるだろ!)
(マリア…私が行く…)
一瞬で見張り台の上に立つ、アレーゼ様。
3人の少年たちを抱き抱えしがみつかせると、次の瞬間には私の前に降り立ちます。
甲板にきしみ音ひとつ、立てずに。
(あああああれーぜさま、あたくしは…)
(アルト…お前一人なら楽に降りられるだろうが…)
(あたくしこうしょきょうふ症なのです!あがるのはまだしもおりるのはああああ)
(閣下…とりあえず見張り台にロープで体を縛っておいてください…後で私が伺います…)
何やってんだという顔で、帆柱の上の方を見るジャンヌさん。
ええ、この反応は正常でしょう。
(同感だな。この航路ならば確か二時間は延々と水流噴射機を全力運転するはずだ…少々揺れるが、頑張って耐えろ…アルトも海事部と紺碧騎士団顧問の立場だろう…)
アレーゼ様も呆れておられますね…確かに、紺碧騎士団の制服までもらっておいて、お船の帆柱の上に立つとかあそこまで素早く登り降りできないのは怠慢でしょう…。
え。
私ですか。
…私は紺碧騎士団ではないからいいでしょう…実は実習船のエルトゥールル号で登らされて、降りてくるのが大変だったんですよ!
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あると「てぃあらちゃんもあたくしを悪くいえないのです…いたぁっ!」
あれーぜ「アルト。お前のステータスは何億卒だ。それにダリアなら私くらいのことは出来たはずだぞ…」
あると「ダリアならくろばら出身だからあれくらいできないとおかしいのです!」
だりあ「アルトさん…アルトさんも黒薔薇の制服、もらってますよね…あれ黒薔薇騎士団資格者でないとくれないんですよ…しかも指揮官装備じゃないですか…示しつきませんから高所活動の再訓練、受けてください…」
まりあ「ちなみにダリアはブルジュ・ハリファのてっぺんならさすがに、紫薔薇用の活動装備は必要だけど命綱なしで登って降りてこれるぞ。エベレストも梅里雪山もK2も山頂まで黒薔薇戦闘服だけで…」
だりあ「登り始める起点にもよりますけど、まぁ往復一時間かかりまへん。紫薔薇用の滑空翼を使わしてもろたら、もっと早くなりますけどな」
まりあ「アルトはアメリカ大陸から帰ったらスイス支部な。マイレーネさんに話をつけとくからロープなしでアイガーかマッターホルン登頂毎日1回で。マッターホルンならツェルマットから一時間ありゃ、アルトなら往復できるだろ。マイレーネさんは○トノコクオウに乗らずにグリンデルヴァルトからアイガー往復一時間だそうだぞ」
あると「マイレーネ様がいじょうなのです!」
あれーぜ「アルト。お前は一応、立場としては私やマイレーネと同格以上だ。マリアの言う通り、特訓を受け…待てよ、アコンカグア山に登らせるか」
まりあ「いいですね。あそこなら梅里雪山と標高は大して変わらないし、アルトにゃちょうどいいでしょ」
あれーぜ「もっと低くして欲しいなら…マリア、今から南極大陸に私とアルトを飛ばすことは出来るかな。いや、精気消費の許可を貰えるなら、私だけでもアルトを連れて行けるか…」
まりあ「ああ…ヴィンソン・マッシーフ山ですか…南極は確か今夏ですし、ちょうどいいですね」
てぃあら「南極というだけでアルトさんが嫌がりそうな気がします。もちろん、夏だからといって雪も氷もないわけじゃありませんよね」
まりあ「ばっちり残ってる。しかもアルトは北方帝国の雪原が苦手だからと南米行きにしてやったわけだしな」
あると「やめてくださいおねがいします」
あれーぜ「とりあえず、ギアナ高地のあの岩で特訓だ…あそこのどの岩でもいいから、5分で下から往復できるようになれ。でないと将軍の地位を降ろされても知らんぞ…」
べらこ「ちなみに痴女島にいた場合ですけど、普通なら騎士は千人卒までの間に痴女山…連邦世界ではキナバル山と同じ高さ四千メートルの山に登り降りする訓練をやらされます。これをしないと智秋記念牧場の実習にあたってる生徒さんの身に何かあった場合、緊急で抱えて降りたり、あるいは痴女山の中腹まで駆けつける事ができませんよね。子供たちを守るためにも、騎士として高速登山や下山は必須訓練なんですよ」
てぃあら「茸島勤務騎士でも、着任時に必ず標高三千メートルのアグン山や、金玉高原のコーヒー畑までの緊急出動訓練を受けさせられます。ここだけの話オリューレ局長はこれが苦手なのですが、シェヘラザード部長が付き添って、なんとか規定時間内で往復を終えています」
あると「オリューレがてかげんをゆるされていて、あたくしはだめなのですか!」
てぃあら「アルト閣下は将軍でしょう…運動神経がいまいちで騎士資格ランクの昇格が上がらずに苦しんでおられるオリューレ局長と一緒にすべきではないと思います。むしろアルトさんこそオリューレ局長の騎士能力を鍛えようと思えば鍛えられる立場なんですから、オリューレ局長の年齢を指摘するためにもですね、訓練を受けた方がいいんじゃないでしょうか…」
あれーぜ「ティアラの言う通りだな。アラスカまで連れて行かれてマッキンリー山だったか、あそこに登るのが嫌ならギアナ高地で頑張るしかないだろう…私が手加減しても、アルトの痴女宮の立場だと、皆から言われたら示しがつかんのじゃないか?」
あると「うええええええん」
さりー「とりあえずアルトさんはキューバにいる間に山登りですね…コーヒー畑とグアンタナモの罪人工場視察がありますから、ハバナからだと絶対に山越えは必要ですよ…」
まりあ「なお、アルトの名誉のために言っておくが、その気になれば大西洋でも太平洋でも泳いで渡れる能力はあるんだ。たださ…高い山とか雪や氷の多い寒冷地が弱点でな…火星のオリンポス山でも白金衣を着せた上にさ、あたしが散々あちこちで助けてやっと頂上に登れたんだよ…」
べらこ「アルトさん…あまり大変ならあたしが代わりましょうか? ティアラちゃんの研修視察、あたしが担当する方が」
他全員「それはそれで欲望が見え隠れしていてダメ!」
べらこ&あると「そんなぁあああああああああ!」
日の出には少し間がある状況ではありますが、我が子を含めた男児たちが男性船員に混ざって展帆作業に従事しているのを物陰から密かに見守る私、中井ティアラ。
「え、痴女皇国の帆船ってとんでもない出力の電動水流ジェットエンジンを積んでいるのだから帆なんて不要では?」と申される方がいらっしゃるかも知れません。
しかし、利用するものは利用するのだそうです。
そして、今でこそ省エネルギー型の精気駆動半生体発電機が開発されていますが、初期型のものは本当に燃費が悪く、女官が苦心して集めた精気を大量に消費するようなものだったとか。
ですので、帆船をベースにしていたのは、半生体発電機を補うためにも必須だったのでしょう。
で、ここで帆を張る理由。
アメリカ大陸からの陸海風を利用して精気を節約するのだそうです。
で、わたくし中井ティアラは日本の義務教育を受ける代わりに聖院学院での授業内容や、更には義務教育課程を含む知識をマリアリーゼ陛下他から脳内に流し込まれております。
そして、流し込まれた知識、あるいは他の方との知識共有の過程で陸海風や海陸風が発生する理由を若干ながら存じております。
水温や気温、さらには近くにある陸地の影響で地表や海面付近の風向きはどっちに吹くかが変わってくるようですが、大筋では地球の自転に合わせて西から東に向かって吹く流れがあり、地表に近づくほどに山や海に影響されたり、地面の温度や太陽の光の反射熱、さらには海流…海の水の流れの温度の影響を受けて風向きが変化すると。
つまり、その時々と船が航海している場所によって風向きが変わりますので、航路を指示する人は、風向を読んで帆の向きをどのくらい変えるのかや、あるいは帆を巻き上げて畳むか、はたまた下ろすのかなどなど、船員に細かな指示をする必要が生じます。
この風を読む技能に優れた者…更には凪や嵐の兆候を読める者が乗り組むかどうかで航海の成功率が左右されたのでしょう。
しかし、ここは痴女皇国世界。
(成層圏付近のジェット気流…偏西風には手をつけずに、地表付近の気流をある程度安定させてるんだよ。それと、サハラ砂漠や米大陸の砂漠地帯の緑化に着手してるだろ。あれで風の流れ、結構変わるんだよ)
へぇ、と言いかけて相手がマリアリーゼ陛下なのを思い出しました。
いくら、見た年齢が若くても0歳の出生直後から聖院金衣代行を務めたほどのお方です。
正直、ベラ子陛下の実のお姉様というだけでなく、本当に実力で後見人になっているのがわかるのです、マリアリーゼ陛下というお方は…。
(無闇にあたしを恐れ過ぎて萎縮されても困るからベラ子を皇帝に据えてるのもあるんだよ。それに、ティアラちゃんはまだこれから色々と覚える立場なんだしさ、あんま気にすんねぃ。それに、まだ若いんだし素直に感心するのは仕方ないさ。それより…こないだ、スケアクロウで飛んだ時にさ、アゾレス諸島に立ち寄ったろ)
(はい。あの変な名前の町ですね)
(で、あそこやカナリアが大西洋横断航海の際の重要地点になってるのはちゃんとした理由があるんだ。あたしたちが天測航海装置やコンパス類を組み合わせた機械式航法装置を広めるまでは、大西洋を直接横断する航海コースは一般的じゃなかったんだけど、理由は距離やルートが測れる正確な地図が存在しなかったことと、自分の位置を知る方法が限られていたこと。そして何よりも帆船で航海していたことだな)
マリアリーゼ陛下によれば、スペインからバハマやキューバ、そしてアメリカを目指す場合、以前はカディスなりポルトガルのポルトなりを出港したお船は、まずひたすらに陸地を左に見ながら付かず離れずで南に向けて下り、カナリア諸島を目指していたそうです。
<i721067|38087>
で、カナリア諸島で水や…可能ならば新鮮な食料を仕入れたり乗員を休養させたお船は、島を離れると一路、コンパスと、そして太陽や星の見える角度を計算する四分儀または六分儀といった航法計算器を使ってひたすらに西へ西へと進みます。
すると、幾日もの航海の末に陸地が前方に見えて来ます。実際にはこの時代の航路計算ですから、ずれが生じていることもあったそうですが、おおむねフロリダからバハマの島々を前方に望むことができますので、後は目的地に向けて細かい進路修正を行いながらカリブ海を進むのがナッソーやバハマに向かう通常だったとか。
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ただ、夜間の航行時や荒天時には当然ながら太陽は見えません。
大西洋やインド洋、太平洋といった大きな海を渡る場合、昼間だけ船を走らせ、日が沈む前に立ち寄るための都合の良い寄港地、必ずしも存在しないでしょう。
私もナッソーを訪れた際に経験しましたが、転送と高速航行で短縮していなければ何日も周りはすべて海、ということが実際にあるのを体験いたしました。
で、夜は帆を畳んで錨を下ろそうにも、場所によっては海底に錨が届かない深海の上ということもあるでしょう。
帆だけ畳んで漂流などしたが最後、それこそ変な方向に流されかねませんし、結果的に夜であろうとひたすらに目的地を目指して帆の角度を調整したり、舵輪を握って進路を修正する必要があるのは私でもわかります。
そこで痴女皇国海事部では昔のギリシアなどで使われていた手動歯車式の航法計算機を復元して機能を拡張したものを配布して、太陽系内の各惑星を観測して座標を入力することで、二十四時間いつでも進路を正確に補正することが出来るようにしたとか。
(今は更に進化しておりまして、じーぴーえすとかいうものが頭のはるか上の空を巡っているので、それに尋ねると今の場所がどこか地図に重ねて見せてくださいますわ。おかげさまで、痴女皇国または友好国のお船ならばしょーとかっとこーすが取れますから、提携していない船よりはるかに早く正確に港を目指せると評判でして)
(はっはっはっはっはっ、この調子で七つの海はあたしたちのものにするよっ)
(このお船がございますと海賊稼業もはかどりそうなのですが、今やったら絶対に怒られるじゃすみませんものねぇ…)
(ジャンヌさん、気持ちはわかるけど我慢するんだ…例えばフランスが逆らったのならさ、フランスの船であれば人さえ殺さなきゃ遠慮なくやっていいから…あ、そんときには船はちゃんと無傷で奪ってよ?)
(もちろん、分捕ってわたくしたちが精々活用して差し上げましょうや。ああ、祖国はアホですから是非そのアホぶりを発揮して痴女皇国に弓を引いて頂きたいものですわっ)
(ティーチだけどよ…ジャンヌ、それ、ドレイクの旦那に言わない方がいいぞ…)
(なんでですのティーチ。分け前が欲しいと英国が申すならば船を出させれば良いではありませんか)
(だめだめ絶対にダメだ。あのおっさんは血の気が多いから、俺たちよりも先に暴れて獲物を持って行かれかねねぇ…しかも今や護海卿だぞ…英国海軍の船を総動員できる権限持ちに抜け駆けされちゃ困るだろ…だから海賊をやる時は間違っても聖院港やアルヘシラスで話を漏らすんじゃねぇぞ…)
(その辺りの細工は流流でしてよ。むしろポーツマスの英国艦隊の挙動を監視するのはこちらのお手のもの。海事部の出張職員には監視の報酬にキューバからの出稼ぎ少年労働者を密かにいえこれは内緒のお話で)
…英国とスペイン、更には海賊共和国って、今や一応は仲間同士なのにですね…なんで味方の軍艦や艦隊の動向を監視してるのでしょうか。
更には、どうやら英国支部または海事部の支部もしくは出張所の職員女官に少年を世話して懐柔しているようです…ですが、ジャンヌさんもティーチさんも、他にもまだまだ悪い事をしていそうなので、ここはもう少し黙って話をお聞きしておきましょう…。
(上出来だ…あとはマリーの姐さんたちからカエル食い野郎どもに偽情報の仕込みを入れてもらってな、うちの船をよ、大砲一門たりとて見当たらねぇ非武装のボロ船に思わせてくれりゃ、もうこっちの筋書き通りだぜ…)
(あの、きかんほうとやらを早くクソ祖国の船という船におみまいしたいものですわっああっ憎々しいっ)
…えーと、マリアリーゼ陛下。この人たちを止めなくていいんですか。
私が聞いてても、海賊行為から足を洗うどころかやる気満々じゃないですか!
(ティアラちゃん。俺は必ずや海賊王になると宣言したゴム人間に、それを諦めさせることは可能だろうか)
難しい気もしますね。あのお兄ちゃんは確実にそれだけで生きてる気がしますし。
(海賊に海賊をやめろと言ってもなかなか難しいからな…それに、皮肉なんだけどさ、海賊って正規の軍隊が出てきたら普通は逃げてたんだよ。武装じゃ当時の軍艦に敵わないし、無駄にやりあって生き延びても船や船員が無傷じゃないよな…だけど、うちの船なら下手すりゃ一隻で正規のイギリスやフランス海軍の一等戦列艦で編成した艦隊すら簡単にぶちのめせるじゃんか…)
(ティアラ様。ここだけの話ですが、このおふね、実は駄洒落菌の散布を行うそうびも備えております。えぐぞせと申すのですか、正に飛び魚のごとく敵船や砦めがけて飛んで行って炸裂するからくりの魚を何匹か頂いておりましてよ…)
はぁ?
ちょっと待ってくださいよ。何ですかそれ。
で…ジャンヌさんがどこかに心話で合図すると、船首の辺りの甲板の付近で回転灯が回り出します。
そして、その辺の甲板が開くと、どう考えても何かが入ってそうな円筒を4本束ねたものが、機械の腕に掴まれた状態で持ち上げられて船外に突き出されます。
(この筒の中に、先ほど申しました鉄のお魚が入っております)
ああ、やっぱりですか。
(で、うちだす時は反対の方向に盛大な炎を噴き出しますので、船の進行の先につつさきを向けますの。連邦世界ではこういうものは敢えて戦列艦の砲のごとく、真横に向けて発射するそうですが…)
では、どんなものがその筒の中に納まっているのでしょうか。嫌な予感がしますが、マリアリーゼ陛下にお願いして聖環に画像を送ってもらいま…動画も来ましたがぁっ…。
<i721181|38087>
なんですかこれ。
どう見てもミサイルとかいうものにしか見えないんですけど。
こんなもの、この時代で使ったが最後、駄洒落菌を散布するどころか、お船やお城やお屋敷は跡形、残ってるんですか。
(核弾頭も付けようと思えばテリブル…連邦世界のミサイルの弾頭が付けられなくもないけどな)
えええええ。
(実はこのミサイル…エグゾセMM40 Block2ってんだけどさ、フランス共和国のメーカー…当然だが連邦世界の会社が昔、作っていてな)
ジョスリーヌさんの関与の匂いがしますね。
(正解だ。で、実のところ駄洒落菌を撒くのにテリブルだとミサイルの購入費が割高な上に、発射母機としてスケアクロウか戦闘機のバンシーかドゥブルヴェかババヤガーを飛ばす手間も馬鹿にゃならんからさ。んで、フランスの会社を儲けさせるためにも、こっちの世界で駄洒落菌撒き散らすのに使えそうなブツ、なんかないかって聞いたんだよ…ジョスリンとドミニクさん経由で)
ああ、おっしゃっておられましたね。痴女皇国に協力的な国家や団体には支援を惜しまないとも。
実際に、その恩恵はスペインで暮らした私はまざまざと実感しましたし、マリアリーゼ陛下の言葉に嘘はないと信じる根拠となっております。
(んで、これならどうよってエグゾセの設計データを見せてもらってね。小改良と連邦世界の兵装管制システムに適合するように改装したデータを月面のルナテックスに送って再生産してもらったのさ。ぶっちゃけ連邦世界じゃ今どきこんなもん、対空攻撃システムの訓練標的に使うのにすら役不足なんだけど、こっちの世界じゃ強力極まりない代物だ。シーカーは目標イメージデータ認識センサー併設タイプにしてるから、正味の完全な射ちっぱなしに出来るし…)
よくわかりませんが、かなり物騒な物件なのはわかりました。
では、これ…どれくらい先から射てるんでしょうか。
(エンジンはオリジナルから少し改良してるから射程200kmだな。今その船がいる辺りからもう少し進んだところから撃ってハバナに届くくらいか)
ちょっと待って下さいよ、どこかの街でも地図から消すおつもりですかっ。
(いやそれなら何もこんなもん買わなくてもさ。エグゾセなんてあたしからすりゃ線香花火にもなりゃしないんだから…あ、聖院湖にテンプレス2世浮かんでるじゃん。あれから大陸間弾道ミサイル1発撃つだけで大抵の都市はガラスの大地にできるよ…って、核弾頭タイプは全部駄洒落菌弾頭に換装して核兵器は返却してたな…まぁ、エマ助の起動承認は要るけどさ、カリバーンをMIDI06にするためのアーミングコンテナの中身を開けたら地球丸ごととか太陽系ごと対消滅か超重力砲か多重次元転移砲できれいさっぱり原子1つ残さずに。なんなら銀河系丸ごととか宇宙そのものもあれで消し飛ばせるぞ、今なら)
(何か、久々に聞いたこの手の話という気がしますけどね。ねーさん、それこそ本当にやったら怒られるじゃ済みません話の筆頭格じゃないですか…)
ベラ子陛下の慌てぶりからしても、マリアリーゼ陛下のお話に嘘があるとは思えません。
宇宙丸ごととか現実味を感じないのですが、どうやら本当に可能なのでしょう。
(やるかっ。そもそもあたしがゆる蟹スーツ着込んで蟹光線撃ったら大抵の都市は消し飛ばせるよ…しかもどこにも承認取らなくてもできるんだぜ? あれ…)
(ティアラちゃん。姉があの舐めた蟹服を着たらエマちゃんかあたしを呼んで下さい。あの蟹の目が光ってたら特に危険らしいですから)
そんなに物騒な服なんですか、あの面白い姿の服…。
(痴女皇国の忘年会の余興はもちろん、聖院学院の学芸会などでも着用できる服型対神種族仕様パワードスーツだそうです。ねーさんがあれ着た時、堕天使の皆様が心底嫌そうにしているので、それだけの恐怖を感じさせる機能が装備されているのでしょう)
あの服、猿蟹合戦やった時とか、舞台の打ち上げで生徒さんにいじられてましたけど、そんな危険なもので聖院学院の学芸会行事に登場されましても、いえその。
(ま、あたしやベラ子の義体も含めてMIDIシリーズを神様や悪魔の部類でも消し飛ばす事も可能なようにエマ子が強化しやがったせいでね…やろうと思えばできるだけだよ。それに、生産性を考えるなら何もぶっ壊さなくても、まるっとあたしらのモンにしちまえばいいのさ。これはティアラちゃんに教えといていいかどうかわかんないけど、「全てをMIDIと同一である状態に戻す」能力こそがあれの最終兵器だから。ま、カリバーンだけで飛ばすならともかく、あれに変な手足が生えて何か持ってる姿…多分、ティアラちゃんが生きてる間に見せることは、恐らくはないと思うし、ないようにあたしも努力するから心配すんな)
はぁ。
話題を変えて。
そう言えば、このお船は今、どの辺にいるのでしょうか…。
<i720727|38087>
(現時点ではサン・アンドロス島北端をかすめてフロリダ海峡に抜ける行程で航行しております。サン・アンドロス北灯台を越えますと南西に向けて舵を切り、ハバナを目指して進路を取りますよ)
見れば、明け方の海にも明るい光を放つ灯台が。
(エマ子ー。そーいやマーキュリックフリー灯台って何とかなんね?)
(この時代に常温で保持可能な流体金属が地球上に他にあるんやったら)
(リニアモーターの要領で常時浮かせとこうぜ…精気発電機があるんだからよ…)
(生体発光材を開発しようかとも思たんですけどね、水銀台座が一番楽ですわ、この時代やったら…非金属素材主体の水圧回転装置も使えますしな…)
あ、この時代の灯台ですが、フレネル式のガラスレンズは既に存在するようです。あと光源は油を燃やすか…。
(痴女皇国の息のかかった場所では結晶発光材を使ってますな。あと、水銀を使うのがティアラちゃんにピンと来ないみたいですな…要は、光源とレンズが乗っかってる回転台の軸受部の空間に水銀を詰めてるんですわ。あのレンズから何から、十五秒に1回は回るようになっとる部分まるごとが水銀を満たした容器の上に浮いてると思うてもらえば)
(で、水銀を使う肝心の理由だけど、摩擦係数がゼロに近い流体軸受として使っている。だから、ほんの少し回転力を与えておけば灯台の中で灯りが延々と回ってるんだよ)
<i721577|38087>
大丈夫なんでしょうか。
確か、水銀はかなり危険な有毒物質だったのでは。
(軸受の作りを工夫してて、極力少量で済むようにしてます。基本は密封状態ですな。で、灯台の塔の下に向けて螺旋階段の中央部に竪穴を作っとくんです。そして、水銀台座に乗った灯器一式に繋がった紐の先の錘を穴に向けて落とすと、独楽の要領で灯器が延々と回りますねん。実際には早く回りすぎんように、周囲に歯車を組み合わせた調速装置なんかで一定の速度になるように調整しますけどな)
(で、おもりを元の位置に引き上げるための滑車を回す動力に水車を使ってんだよ。灯台の周りが海水じゃなきゃ水圧式ケーブルカーの装置の要領で引き上げ機を作れるんだけどね)
(鏡を組み合わせて全方位に光を放つようにした灯台も造られた事がありますけどな。どっかに死角が出来るんと、鏡やとあまり遠距離に光が届きませんのや)
(マリアリーゼ陛下、エマニエル閣下。あと、物見役の高さと灯台の高さの関係がありましたかと)
(あーそうそう、ジャンヌさんナイスツッコミ)
(せやったせやった。灯台には光達距離と、視認距離の二つの値がありますねん。まず、光達距離は光源そのものがどこまで離れて光が見えるか。回転させへん灯台とか、晴れた夜や嵐などの気象条件で変わりますけど、計算式がありますからエンリケ君らにはいずれ習わされる話ですわ。どこの灯台がだいたい何海里先から光が見えるいうのは海図に記載しとく必要があるデータですさかいにな)
あ、これは女性には忌避感を感じる話ですね…リケジョとやらを呼んで来る必要があるのでしょうか。
(で、視認距離というのは地球の丸さを加味してまして、ティアラちゃんならティアラちゃんの目の高さと、灯台側の塔の高さ双方の数値で変わるものですわ。これも計算式が存在しますねんけど、単純に言うと灯台の塔が高いほど遠くから見てもらえるんです。で、同様に、見る側も高いところにおるほどええんですよ。これは灯台の光を見るだけやなしに、帆船の帆柱の上の方に物見台やらヤグラを組んでるのでもわかりますやろ)
ああ。あの、柱のものすごく上までよじ登って見るあれですね…。
これも、高所恐怖症の人にはつらい話でしょう。
(たとえば五十キロ先まで照らせる灯台があっても、海面から数メートルの距離で光ってたら五十キロ先から見えまへんねや。さっき言うた錘と滑車を組み合わせた回転装置を付ける必要もありますねんけど、高すぎる塔は暴風雨に耐えられんことがあるんで、建てる場所自体をなるべく高い所にする方がええんですわ。ただ、岬の先端みたいな場所に建てるならいざ知らず、港の突堤の先やったらあまり高い場所に立てられませんわな)
(世界最古といわれた灯台はいくつかあるけど、アレキサンドリアの大灯台は地震で崩れたからな…)
色々大変なのですんねぇ…海の世界も。
ええ、この中井ティアラも…あの見張り台に上がれと言われたら、ちょっと。
(ほほほほほ、ここにあがるくらいはぞうさもないのです)
え。
見れば、息子たちに付き添ったのでしょうか。
アルトさんがその、見張り台にいます…。
ですが、ドラの音と心話で警告が。
(船長より各位に通達。間もなく本船は高速航行に移行します。船員各員は配置につけ。乗客の皆様は甲板を離れてください)
えええええ、そこにいては危ないのでは…。
(アルト閣下!すぐにその子たちと一緒に降りてきてください!当船の最高速度は60ノットを超えます!)
(ひ、ひええええ)
(こらアルト!慌てんな!その子たちをしがみつかせて飛び降りろ!おめーなら重力軽減できるだろ!)
(マリア…私が行く…)
一瞬で見張り台の上に立つ、アレーゼ様。
3人の少年たちを抱き抱えしがみつかせると、次の瞬間には私の前に降り立ちます。
甲板にきしみ音ひとつ、立てずに。
(あああああれーぜさま、あたくしは…)
(アルト…お前一人なら楽に降りられるだろうが…)
(あたくしこうしょきょうふ症なのです!あがるのはまだしもおりるのはああああ)
(閣下…とりあえず見張り台にロープで体を縛っておいてください…後で私が伺います…)
何やってんだという顔で、帆柱の上の方を見るジャンヌさん。
ええ、この反応は正常でしょう。
(同感だな。この航路ならば確か二時間は延々と水流噴射機を全力運転するはずだ…少々揺れるが、頑張って耐えろ…アルトも海事部と紺碧騎士団顧問の立場だろう…)
アレーゼ様も呆れておられますね…確かに、紺碧騎士団の制服までもらっておいて、お船の帆柱の上に立つとかあそこまで素早く登り降りできないのは怠慢でしょう…。
え。
私ですか。
…私は紺碧騎士団ではないからいいでしょう…実は実習船のエルトゥールル号で登らされて、降りてくるのが大変だったんですよ!
----------------
あると「てぃあらちゃんもあたくしを悪くいえないのです…いたぁっ!」
あれーぜ「アルト。お前のステータスは何億卒だ。それにダリアなら私くらいのことは出来たはずだぞ…」
あると「ダリアならくろばら出身だからあれくらいできないとおかしいのです!」
だりあ「アルトさん…アルトさんも黒薔薇の制服、もらってますよね…あれ黒薔薇騎士団資格者でないとくれないんですよ…しかも指揮官装備じゃないですか…示しつきませんから高所活動の再訓練、受けてください…」
まりあ「ちなみにダリアはブルジュ・ハリファのてっぺんならさすがに、紫薔薇用の活動装備は必要だけど命綱なしで登って降りてこれるぞ。エベレストも梅里雪山もK2も山頂まで黒薔薇戦闘服だけで…」
だりあ「登り始める起点にもよりますけど、まぁ往復一時間かかりまへん。紫薔薇用の滑空翼を使わしてもろたら、もっと早くなりますけどな」
まりあ「アルトはアメリカ大陸から帰ったらスイス支部な。マイレーネさんに話をつけとくからロープなしでアイガーかマッターホルン登頂毎日1回で。マッターホルンならツェルマットから一時間ありゃ、アルトなら往復できるだろ。マイレーネさんは○トノコクオウに乗らずにグリンデルヴァルトからアイガー往復一時間だそうだぞ」
あると「マイレーネ様がいじょうなのです!」
あれーぜ「アルト。お前は一応、立場としては私やマイレーネと同格以上だ。マリアの言う通り、特訓を受け…待てよ、アコンカグア山に登らせるか」
まりあ「いいですね。あそこなら梅里雪山と標高は大して変わらないし、アルトにゃちょうどいいでしょ」
あれーぜ「もっと低くして欲しいなら…マリア、今から南極大陸に私とアルトを飛ばすことは出来るかな。いや、精気消費の許可を貰えるなら、私だけでもアルトを連れて行けるか…」
まりあ「ああ…ヴィンソン・マッシーフ山ですか…南極は確か今夏ですし、ちょうどいいですね」
てぃあら「南極というだけでアルトさんが嫌がりそうな気がします。もちろん、夏だからといって雪も氷もないわけじゃありませんよね」
まりあ「ばっちり残ってる。しかもアルトは北方帝国の雪原が苦手だからと南米行きにしてやったわけだしな」
あると「やめてくださいおねがいします」
あれーぜ「とりあえず、ギアナ高地のあの岩で特訓だ…あそこのどの岩でもいいから、5分で下から往復できるようになれ。でないと将軍の地位を降ろされても知らんぞ…」
べらこ「ちなみに痴女島にいた場合ですけど、普通なら騎士は千人卒までの間に痴女山…連邦世界ではキナバル山と同じ高さ四千メートルの山に登り降りする訓練をやらされます。これをしないと智秋記念牧場の実習にあたってる生徒さんの身に何かあった場合、緊急で抱えて降りたり、あるいは痴女山の中腹まで駆けつける事ができませんよね。子供たちを守るためにも、騎士として高速登山や下山は必須訓練なんですよ」
てぃあら「茸島勤務騎士でも、着任時に必ず標高三千メートルのアグン山や、金玉高原のコーヒー畑までの緊急出動訓練を受けさせられます。ここだけの話オリューレ局長はこれが苦手なのですが、シェヘラザード部長が付き添って、なんとか規定時間内で往復を終えています」
あると「オリューレがてかげんをゆるされていて、あたくしはだめなのですか!」
てぃあら「アルト閣下は将軍でしょう…運動神経がいまいちで騎士資格ランクの昇格が上がらずに苦しんでおられるオリューレ局長と一緒にすべきではないと思います。むしろアルトさんこそオリューレ局長の騎士能力を鍛えようと思えば鍛えられる立場なんですから、オリューレ局長の年齢を指摘するためにもですね、訓練を受けた方がいいんじゃないでしょうか…」
あれーぜ「ティアラの言う通りだな。アラスカまで連れて行かれてマッキンリー山だったか、あそこに登るのが嫌ならギアナ高地で頑張るしかないだろう…私が手加減しても、アルトの痴女宮の立場だと、皆から言われたら示しがつかんのじゃないか?」
あると「うええええええん」
さりー「とりあえずアルトさんはキューバにいる間に山登りですね…コーヒー畑とグアンタナモの罪人工場視察がありますから、ハバナからだと絶対に山越えは必要ですよ…」
まりあ「なお、アルトの名誉のために言っておくが、その気になれば大西洋でも太平洋でも泳いで渡れる能力はあるんだ。たださ…高い山とか雪や氷の多い寒冷地が弱点でな…火星のオリンポス山でも白金衣を着せた上にさ、あたしが散々あちこちで助けてやっと頂上に登れたんだよ…」
べらこ「アルトさん…あまり大変ならあたしが代わりましょうか? ティアラちゃんの研修視察、あたしが担当する方が」
他全員「それはそれで欲望が見え隠れしていてダメ!」
べらこ&あると「そんなぁあああああああああ!」
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