アルトリーネさんのいけない修行の日々

すずめのおやど

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悪霊の盆踊り? 赤道祭りだワッショイ・9

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さて、聖院新港駅で地下鉄を降りた我々、痴女皇国アルトさんの先導で、まずは駅の真上にあるという新港警務本部を訪ねる事になります。

この建物は聖院空港の最寄駅でもあり、ここから輸送機で校外学習に出発する生徒さんたちの為の団体輸送電車、痴女宮駅から特別に運転される場合もあると聞かされます。

で、地上に出るとですね。

お船から貨物列車らしいものがガンガンと降ろされている光景、目の前左手で展開されているのですが。

(アークロイヤル級を使って、貨物船もろとも連邦世界から痴女皇国世界に転送して来たそうです…。それも空中に浮かせて、わざわざバラストタンクの水を完全に抜かせてから…)

どうもお船というのはバランスを取るため、幾らかの海水を船に設けたタンクに積んでおく必要があるそうです。

しかし、その海水に含まれるプランクトンや小魚、そしてフジツボなどの小動物が船に付着したままだと異世界どうしで外来生物をやり取りする事になってしまいます。

この対策として、痴女皇国または聖院世界と連邦世界、そしてNBとの間はテンプレス級、またはアークロイヤル級か半潜水型貨物船で往来する事と、何秒かの間だけ宇宙空間に滞在する事で、船の外壁に付着した生物をできる限り生存させないような措置を取っているとベラ子陛下から教えられます。

あ、なるほど…普通の貨物船だと、宇宙空間に出たら人間も死にますよね…。

(実際にワカメだったかな、連邦世界の日本沿海から地中海かヨーロッパの方に持ち込まれた上に、向こうでは食べないから繁殖し放題で船の航行の邪魔になって仕方がないと大問題になったそうですよ)

ちなみに降ろされてるこの貨物列車、スペインに送り込まれるそうですが、向こうの港がまだ連邦世界のお船やアークロイヤル級が岸壁に付けられる深さになっていないので、別のお船に積み替えるかして持って行くための一時置き場としてここに置かれるようです。

(あと検品はここでやるそうです。まぁ、それも仕方ありませんね…全ての技術水準が「これから」の世界ですから…)

そして、アークロイヤル級という巨大なコンテナ船のようなお船…航空母艦でもあり宇宙船でもあるそうですけど、そのお船から降りて来たトレーラー、何本ものレールを積んでいますね。

(三河監獄国の那古野新港、そして英国とロレーヌに製鉄所を作ってるんですけど、まだ新幹線のレールに使えるほど高品質の鉄鋼を製造できないという事で、これは日本の製鉄所で生産してもらったものです。原料の鉄鉱石は痴女皇国世界の北欧自由恋愛王国…いけにえ村の国から掘ったものと南米尻出祝祭国からのものを使っているようですね)

えっと、陛下。

私はこの国名で連邦地球のどの国に該当する地域なのか、わかりたくありませんが理解してしまいます。

しかし、正直に言って…この国名、どこの誰がお決めなのでしょうか。誰がどう聞いてもかなりひどい名前の命名がされている気がします。

極端な例が…三河監獄国ですね。あれ、監獄社と言われてる会社から苦情は入らないのでしょうか。

…はぁ…両者は提携関係にあるんですか…社長さんが視察に行って感激した上に、先方も比丘尼国と政府の関係に口を挟んで睨まれたくないから黙っていると…。

まぁ、そんな文句を言ったりしてる間に、警備本部の一階で警備本部長さんの挨拶を受けまして、安全帽を受け取ります。

黄色に緑色の十字と帯。更には痴女皇国・港湾事務所(来客用)とか書かれていますけど。

持った感触はプラスチックより少し厚みがありますね。

聞けば、木材を貼り合わせた上でセルロース強化剤で結合コーティングされたものであり、食堂のアルミ製じゃないお椀やお皿は大抵が同じ加工方法で作られていると。

どう見ても工場や工事現場で使ってるヘルメットにしか思えない代物ですけど、これを皆がかぶります。被り方がわからない人には、待機していた騎士さんが指導。

そして今から、重作業工場から順番に工場を見て回り、最終的には罪人寮の前まで戻るそうです。

その距離、地下鉄の2駅から3駅分くらいはありそうです。

運動不足解消という気もしましたが、そもそも私は今、千人卒相当の痴女種状態。

デブる危険はありません。

体力消費も…瞬時に疲れが取れるのは、ベラ子陛下他とのすけべい行為の際に理解しています。

しかし、心情的にはこの気温と日照の中、あの距離を歩くのはつらい。

(それにクロムウェル閣下やティーチやフズールには少しきついでしょう。そう思ってですね)

警務本部前に用意されたものを見て、私は吹き出しました。

四人乗りのゴルフカートのような屋根だけがついた小型車と、その後ろに連結された同じく四人乗りの台車。

どうも、要人視察の時などに使われる車のようです。

屋根…と言っていいのでしょうか。赤と黄色の回転灯も付けられており、走ってる際の安全確保にはそれなりの気を使っているようです。色も白ですけど、要所要所に黄色い反射帯が付いていますね。

それに車の前後にも長細いナンバープレートらしきが付いており、新港40 4545とか書かれています。

更には車の横側にも「財務局港湾税事務所・通商局聖院新港事務所共用車」とか表示がありますし。更には痴女皇国の国章という、あの丸と棒を組み合わせた記章がボンネットにでかでかと表示されています。

(これもやめましょうよ…日本人なら100%意味、理解しますって…)

(姉が頑ななんですよ…)

で、こんなものの運転、誰がするのでしょう。

アルトさんは運転が出来ないというより、確か運転させた際の適性がまずいからやめさせとこうとなったはずです。

この面子の中で、確実に運転免許と実際の技術をお持ちなのはベラ子陛下。しかし、まさか皇帝陛下おん自らが構内作業用丸出しの産業車両を運転するのでしょうか。

(監獄社から何種類かの構内運搬車を購入させて頂きました際に、全ての車種を試験試乗しましたよ。割と簡単ですし、遊園地のゴーカート感覚です。童心に帰れますよ)

確かに私は無免許の時に狭山社の2ダァクーペをメデジン・カルテルの手先の連中に追いかけられた際に横浜港で運転した事はありますけど…。

しかし、心配は杞憂でした。

国土局建設部長インマヌエルさんの妹分、カシウスさんが運転席に座っています。本当は不要なのでしょうけど、律儀にも我々と同じ、黄色いヘルメットを被って。

実はこの方は聖院港で扱う貨物の検査担当でもあり、外来生物や密輸品、更には盗品の扱いに目を光らせる立場でもあるそうです。

で、それに乗って大きな倉庫の間を走ります。

驚いた事には、すれ違う車、トラックどころか大型トレーラーすら1台や2台ではありません。

(英国ユニオンキャリー社の協力企業や、母様や雅美さんの昔の提携先やお知り合いの運送屋さんが来てるんですよ…。ちなみに、バレないようにこっそりと色街旅館を使ってもらえるようにメディアウォッチは聖環モードの入ったものを使っておられます…商売商売ってやつですね)

いいのでしょうか。

まぁ、精気も頂けるようですし…。

しかし、もっと驚愕だったのが製鉄工場。

船の船殻というのですか、の部分を組み立てる工場すら稼働しています。

その全容には、さすがにクロムウェルさんは価値に気づかれた様子。

「テ、ティーチ…これ、船であろう…もしかしてここの工房、大砲や鉄砲も…」

「ああ閣下、お気付きですかい。作ろうと思えば作れますぜ。今現在は…カティサークに積んでるきかんほうってのか、あれの交換用の砲身くらいしか敢えて作ってないようですがね」

見れば、完成品らしい砲身をテストするためなのでしょうか。陸に揚げられたその長細い大砲みたいなものが据え付けられた台座があり、コードが何本か伸びています。

「ここでは試射まではしてねぇ筈だ…よな、アルト閣下…」

「あれにくみつけてためしているはずですよ」

え。

次の瞬間、ばこんばこんと耳を塞ぎたくなるような破裂音がして、その大砲の横から大きな金属の筒が吐き出されます。

見れば、その大砲の上に注意書きの横断幕も出ていて…「機関砲試射区域:射撃信号発光時は枠内接近禁止」とか書かれているじゃないですか!ここ工場群のど真ん中でしょう!いくら仕切りで仕切られていてもまずいのでは…。

で、1キロくらい先に置かれた目標マークらしいマルが描かれた白い布を被せられた馬車とおぼしきものがどうなったか、カシウスさんが録画映像を聖環で見せてくれましたけど。

「いやークロムウェル閣下、あの馬車で逃げなくて正解だったな…あの細い大砲、俺たちの海賊船に向けても撃たれたけどよ、手加減なしで発射されたら5発くらいで普通の帆船、沈むらしいから」

どうも、クロムウェルさんが革命失敗に備えて逃亡用に用意したらしい馬車、わざわざ用意した上で持ち主の目の前で破壊する見せしめ行為だったのでしょう。

クロムウェルというおじさんの顔は真っ青を通り越して真っ白です。

そりゃあ、2発着弾しただけで馬車、爆発して粉々に吹き飛んでましたから。

いえ、正確に言うと着弾直前に砲弾自体が破裂して、その爆発で馬車を吹き飛ばしてたんです。

私の視力はそんなものまで捉えられる進化を遂げていたのか。

そんな思いより、工場街のど真ん中に、こんな強力な大砲の試射試験コースを作るのは現場にいる安全確認猫的に正しいのでしょうかという疑問も生じます。

これ、自動車でも1発でスクラップになりますよ。乗ってた人がいたら全員即死じゃないのでしょうか。

(ポルノ王国のボフォースという会社の製品の改良型をイタリアの兵器会社ぶれだめかにかがライセンス生産したものです。ジーナ母様いわく、最大射程10kmだそうです…たかが一門の砲で帆船艦隊相手に無双するためのオーバーキルにならない兵器を選んだらこれになったと…シーステート4~6の荒波でも船体並びに砲塔スタビライザーとレーダー射撃管制機の組み合わせで、命中率は射程5kmでCEP60cm…つまり、荒れた海で5km先の目標の的の中心から60cm以内に半数の弾が着弾する精度が出せるそうです…)

私が理解できる範囲の内容でも、逆にオーバーキルなのではないでしょうか。

ついでに、さっきの砲弾がなぜ直前に炸裂したのか。

近接信管という仕掛けが付いていて、柔らかめの目標にはわざと直前で爆発させた方がダメージを与えられると思われる場合に使う弾丸だそうですね。

しかも木造船が圧倒的に多いこの中世時代類似の世界ですから、焼夷榴弾といって目標に火災を起こさせる弾と交互に撃ち込むとか…。

(実際に射撃かましたんは海賊戦の時と、今そこにおるおっさんの反乱軍の至近距離目掛けて威嚇射撃したくらいやがな…あ、徹甲焼夷弾に差し替えてから砦一つぶっ壊したったかな)

戦争、反対。

私は数年前まで普通の高校生であり、普通の獣看護学校生だったんですよ?

(ひとみさーん、実銃を射つのは楽しいわよ…ジーナさんやベラちゃん相手に演習で駄洒落菌弾丸を撃ち込む快楽を今度教えてあげるわね…)何か未来から来た変態的な形状のピンク色の少し大きめの機関銃みたいなものを触りながら、うふうふ言ってそうな室見理恵さんのテレパスですが。

(理恵ちゃん。今度うちのデザートイーグルの完全固体実弾…350グレインのバッファロー止める為のやつ、ケツめがけて撃ってかめへんか。理恵ちゃんくらいの幹部痴女種やったらあれでも絶対死なへんやろ)

(ジーナさんがそれ持って来たら、あたし、まりりから20ミリの対戦車ライフル借りて来ますけどいいですか)

(そんな反則もん禁止や!)

(じゃあ例のバレットM82で妥協しときます。あたしの痴女種腕力ならあの構え方でも、その綺麗なカオを吹っ飛ばせそうなので)

(パイセン。やる時は南極でお願いします。あそこなら雪とか氷、ボールの代わりに使えますから)

(ベラちゃん殺す気? あんたの腕力だと小細工しなくても握って投げてもバットで打っても初速で音速近い雪玉打ち込めるじゃない!どこの世界に雪と氷で作った自己鍛造榴弾を撃ち込むような打撃が出来る野球選手がいるのよ!)

(パイセンがそんな射程1km超える危険な飛び道具持ち出すからじゃないですか!何でしたら一本足打法の人が好んでいた圧縮バットって木の芯のバットがあるらしいので、それ都合して持って来ましょうか?)

個人的にこの人たちがサバゲに誘って来たら絶対断ろう。そう思って、念のために聞いてみました。

(理恵さん…そんな物騒なものではなくですね、例えば普通の空気銃…サバゲ女子が持ってるようなもので妥協する気はないのでしょうか)

(瞳さん…あのさぁ、豆まきって風習、日本にあるよね。あと吹き矢)

(ありますけど)

(でね。痴女種の腕力や肺活力だとね、BB弾って空気銃のタマあるじゃん。あれね、銃に込めて射つより投げつけたり吹き矢みたいな筒こしらえて吹いた方が強力だって気付いた困ったちゃんがいてね)

(どのくらいの威力になるのですか)

(20mくらいの距離で杉板2枚貫通とか。で、文句はそれ思いついた高木ジーナってどすけべおばちゃんと、実際に威力を試したどすけべおねえちゃんの高木マリアヴェッラさんに言ってね。痴女皇国でサバゲ禁止令出たの、その二人がそんな反則技乱発したせいだから)

ベラ子陛下。

反則はいけないと思うのです。いくら皇帝の専制帝国って言っても、ものには程度や限度があると思いますから。

(でな…それならまだ、不定期やけど消費期限が来た駄洒落弾丸を処理するための射撃訓練名目でぶっ放す方がええやろという話になったんや…いや、うちも頭抱えたで。まさか実銃と同じくらい危険物になるとは)

(ジーナさん。超野菜人になったら普通の人と同じ遊びできなくなりますからね。ドイツでアルトさんが鬼で鬼ごっこしてたでしょ。あの時もどんだけ広範囲を逃げ回ったんですか。割とあちこちから苦情来てたみたいですよ…)

(あのときはゆきがにがてなのにむりやり…)

(ですからあたくし、あそびではなくおしごとです。あんなていどのゆきでなきごとを言っていてどうしますか。すいすなんてこおりの川が少ないだけで、冬はきっちりとゆきがつもるのですよ?)

で、無理やり話を変えるベラ子陛下をとがめる気もなくした私ですが。

(そうそう、さすがに石油化学系の工場は排出ガスを燃やしたりしていますから近づきませんよ。技術系の見学や研修なら行きますけど、瞳さんは「こういうことをここでしている」程度の認識で覚えておいて下さい)

なるほど、さっきの大砲の試し射ちどころではない危険な場所もあるのですね。

わざわざ矯正部として、工場の管理をする専門部署を分けているだけの事はあるのでしょう。

で、車は方角で言うと西北の方…罪人寮を目指しています。この距離からでも、建物に邪魔されなければ痴女宮の建物群やその後ろの大きなダム、そして背後の山々が見えますから。

(実はこの橋を渡った先が従来からある軽工場区域です。橋で渡ったおほりが割と広く出来ていたでしょう。実はあのお濠はダムの排水を一時貯留する地下排水池から汲み上げたお水を最終的に海に流す川の役目をしています)

なんでまたそんな面倒な事をしているのでしょうか。

(聖院湖は湖面の面積だけで日本の本州の半分くらいはある大きな湖です。地形が結構複雑ですから、上から見下ろさないとなかなか大きさが把握できませんけどね)

つまり、貯まっているお水もそれなりの量という事ですね。

(で、野放図にざばざばと流すと土砂はもちろん、大量の淡水を海に流しっ放しという事になりまして、痴女島の南側の海に良くないという話に。聖院時代は参道両脇の小船用引揚機通路を兼ねた排水溝から最終的に吐き出していましたが、聖院港正面埠頭を作りアークロイヤル級の停泊が可能なまで掘った際、港に砂が溜まるとすぐ座礁する危険が指摘されました。ならばと堤からの水を受ける非常用の地底湖を拡張しまして、溜まって来たら余剰電力を使って聖院湖に戻すか、溢れそうな分を防火排水溝を兼ねたさっきの水路に流しているんですよ)

ベラ子陛下、よくご存知ですね。

(この辺の水流は元々、どすけべ女神様…初代様が原型を作っておられたので…あとはエマちゃんやカシウスちゃんロンギヌスちゃんが頑張ってくれまして)

(マリアヴェッラ。がおきた時の話が。じつはそこのおみず、さっきのあぶない方の工場やくうこうで火が出たりばくはつがある場合、おほりのかべにある穴からななめ上に水がふきだします。そして水のかべをつくる事で、火や煙が聖院宮…痴女宮の方に流れてこないようにさいくしているのですよ)

(おばちゃんが言う通りで、あのお濠は延焼防止用の水路でもあり、防火水流壁用の水噴射装置列でもあるんです)

後で上空からの撮影画像を見せてもらいましたけど、Lの字を横倒しにしたような水路、確かに重工業地区や空港滑走路と、そして軽工業地区を区切るように作られていますね。

そして、まだ空港や工場が出来ていない埋め立て地…というより、これを聞いて驚いたんですけど、そのお濠の先、埋めるどころか必要な分だけ海底を持ち上げて作っちゃったそうですね…所要時間5分で…。

(クレーゼも得意なんですのよね、地面いじり)

(おかげさまで防火水路の底と壁、排水口と高圧配管付けてからならして硬化処理仕上げしただけでして。楽できましたー)

(痴女宮の床をかんそう床にした時にあまっていたうずまき揚水機、あれが再び役に立って何よりですし。あたくし、あれを苦労して考えた甲斐がありましたわ)

何か、変な古代技術が地面の下で動いているようですけど、聞かなかった事にしましょう。私は土建業や建設業ではないのです…古代のお宝に興奮する性質でもないのです…少し、興味はありますが。

(国土局建設部はやる気のある女子を随時募集中。今なら人間やめるお酒30本とハ◯ライトワンカートンが入部祝いでエマニエルねーさんから贈呈されます)

銀色の缶ビールの方がいい気もします。あと、その煙草、宇賀神さんが肉体労働の証と言って愛好してる銘柄ですよね!

(痴女皇国の肉体労働女官の間ではピー◯と並んで大流行していますよ)してるのですか…。

まぁともかく、段々と建物の作りが通風性を重視したものに変わって行きます。罪人の方も増えていますね。

(昨今は危険な場所も多いので、罪人の服装も…今フズールやティーチ、そしてクロムウェルさんに着て頂いている半袖の作業服か、場所によっては長袖の服になりますよ)

前はふんどしだけだった時もあったそうですね…その時の光景は後で見せて頂きましたが、どこの漢の海なのかと…。

(そろそろ織物やかわ細工ですとか、がらすやきんぞくの小物を作っている工場になります。このあたりは聖院のじだいから場所をうつしただけで、やっていることはあまりかわりませんね)

(このあたりのたてものは屋根が中のねつを吸うそうです。で、そとがわの屋根からねつを吐き出すためにこうじょうがうごいている時は屋根に水をまいていますよ)

ああ、それで外は蒸し暑いのですか。そう思っていたら、少し強めの風が吹いて来ました。

(この風は人工の風…というより、あの西遊記に出てくる鉄扇公女という妖怪の力を解析してこちらの工場街の通風に利用しているのですよ。同様の技術は元々聖院にもありまして、帆船の航海の際の精気節約のための気流を発生させたり、台風の時に大被害を及ぼさないようにカウンターを当てるような操作をするために活用しています)

(ほんとうなら台風がいくつも来るようなばしょなのですよねぇ、聖院)

(かぜさえ吹けば暑いのはある程度がまんができますし、女官のとき…聖院じだいはみんなのたいおんがすごかったので、本宮のたてものに水をながすのとかぜを吹かせるのは、ぜったいに必要だったのですよ)

そして午後三時過ぎから約三十分から一時間近く、必ずスコールが来るようにしているそうです。

それはそうと後ろの牽引されている車に乗っているクロムウェルさん。

元海賊のお二人に、この工場で使われている製品や技術をうまく英国に流せば本国に帰還したり、あるいは植民地を任されたり外国への全権大使に任じられるなど、汚名返上名誉挽回のネタには事欠かないから、しばらくは黙ってお勤めしておけとか吹き込まれていますよ。

(むろん、ティーチはあたし達に隠し事が出来ないのを分かった上で焚き付けています)

(少しでもくろむうぇる様にやる気を出させるために、あえてやしんをふきこんでいるのです)

(このあとでいぎりすたいしのさとうさんとご面会になって、だまされる…いえ、かのうせいのある話をきかされるそうです)

(ったく、俺の国はこういう空手形や口約束でごまかすのが得意な連中ばかりだからな…商売するには絶対に物証や裏書きが必須なんだが、さすがに今のこのおっさんは色々見せられて価値に目がくらんでやがるからな。カタにはめるなら鉄と同じで熱い内にってやつよ)

(ティーチもなかなかのものですね)

(ふふふふふ)

(いやいや、俺は優秀な人材をやる気にさせただけだぜ?)

こうした腹黒い密談テレパシーが飛び交っているのも知らぬげに、車から見たり降りてラインの説明を受けては色々な価値に思いを馳せている元・大臣さんですけど…。

(いやいやお嬢さん、実際にまじめにやってりゃ、俺みたいにちゃんと美味い話を用意してくれるさ。この方々なら空手形を切られて裏切られる事はねぇし、実際に俺も罪人頭をやってる間に信用できる証拠をいくつも見てるからな。あとはおっさんがどれだけ信頼と信用の違いに気付くかだろ)

ふーむと頷くしかありません。確かに、最初は私も宇賀神さん、疑ってたなぁ。

(信用が欲しいならまずは信頼されるこったな。頼りにできる男だって見せなきゃ金か何かで釣るしかなくなる。俺が面倒見た中に、そんな奴が一人いてなぁ…)

そこで、少し悲しそうに呟くテレパシー。

多少なりとも見込みのありそうな人が海賊仲間から脱落したのでしょう。

(スティード・ボネット…海賊紳士と呼ばれた男ですね。瞳さん…交渉材料に出来そうな場合は密かに連絡願います。ボネット、本当なら縛り首でしたが生きていますよ。米大陸本部アルゼンチンチン支部モンテビデオ港湾事務所扱いの労役罪人として確保されています)

(承知しました…)

(ティーチの語りはクロムウェル氏の労働意欲に火を点ける可能性があります。時間延長しましょう)

初代様の計らいで、黒ひげティーチと世に聞こえた元・大海賊の話に聞き入る皆様。

確かに、私からしてもこの人の話は聞く気になります。

もちろん善人ではないと思いますけど、何かしら人間として一理ある事を話の端々に挟むため、聞く価値があると思わせたり、ティーチさんの主張ももっともという評価を下しがちになるのでしょう。

(護国卿…あんたは陸の人だろうし、ウェストミンスター辺りじゃ伏魔殿だったと思うが、俺やフズールは仲間が信じられなきゃ生きて行けねぇ生活だったんだよ。船の板から下は海、沈めば魚の餌だし浮かんでいたところで周りは一面、塩水だから飲めたもんじゃねぇ)

(サイード・クロムウェル。我々が海賊の時に厳しい掟を敷く一方で得た富を分配し、なるべく不公平がないよう計らっていたが、議会とやらを国の政治の基軸に置こうとした貴君なら、我々が海賊共和国でやろうとしていた統治、理解がしやすいだろう)

(確か、お前たちも投票で事を決めていたのだったな)

(議決制度ってのか、それをありがたくも認めた女王としてメアリー陛下を担いだ方がうまくいくってのが分かったけどな。…陸の政治、それも天下の大英帝国のそれが難しいのは俺でも分かるがよ、俺らみたいに王様担いでおいた方がいいんじゃなかったのかい?)

(言ってくれる。あの美食の肥満を極めた輩を担いでどうすれば良かったのだ。まだエリザベス陛下なら担ぐ価値は認めるのであるが)

(ま、実際の体重はともかくだ。あんたの革命が成功してたらこんな所にはいない。だろ?)

(確かにな。物申す事は山ほどあるが、まず敗北は認めねばなるまい)

(で…だ。この痴女皇国なんざ大英帝国どころじゃねぇ。上皇陛下と…今、前にお座りの皇帝陛下の機嫌に触る話は普通なら出来ねぇ相談だ。この国じゃ男は殺すよりは生かした方が色々役に立つらしいから死刑はねぇが、実際には死んだも同然の扱いをされた奴を見たのは一人や二人じゃねぇ。なぁ、ミス・イトウ)

(ですね。往生際の悪い男性…男ではから)

(サイード、あまりに逆らう者は女にされるのだ。しかも若返る。この意味は…貴公ならよく理解できよう)

(それでも駄目なら頭の中を真っ白に洗われて一から人生やり直しだ。じゃ、この口の悪い俺が何で髭を生やしたまんまでいられるのか、あんた、興味が湧かないかい?)

(ふむ。貴様の性格だ。政府にへつらうならわざわざ海賊なんぞにはなるまい。貴様の事だから、相手にも利のある話を持ちかけた。そんな所だろう)

(よくお分かりだ。ただ…この麗しき姫様方、果たして見た目通りに騙しおおせるお相手かい?)

(サイード・クロムウェル…重ねて言うが、この方々には腹の内はお見通しだ。ティーチが認められているのは、それを承知で新しい思いつきを止めようとしない事と…自分の人生を諦めない、これが気に入られたのだ)

(ではどうして貴様の如きが、この方々に取り入ったのだ。よもや逸物だけで認められる訳はあるまい)

(陛下…「あの」話に行くとまずいから今のは聞かなかった事で頼むよ…)

(はいはい。それとティーチ、援軍ですよ)

ずん、と後ろの台車に重みがかかる感触が。

振り向いた向こうに、台車側の屋根の支柱を支えに中腰で立つマント姿が。

間違っても、小柄ではありません。

「ティーチを痴女皇国の罪人頭や通商顧問に推したのは誰かと聞かれたようなので推参したのだが…誰がこの人事に苦言を呈しているか教えてくれないか、ティーチ。よもや痴女皇国銀衣騎士団長にして、米大陸統括本部長たるこの私、アレーゼの決議を知らぬ者が痴女皇国にいるとは思えんのだが…」
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