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夏の仮装肝試し祭り!・10
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(一つの案は出せるわよ)
悩む気配の瞳さんに助け舟を出す雅美さん。
窓の外には適度に曲がりくねる簡易舗装の道が続いていますが、そんなのどかな雰囲気の景色も目に入らないようです。
(話は変わりますが、痴女皇国では現在、女官は騎士研修を受けて何らかの騎士団に所属している体裁を取っているって習ったでしょう。これは平時の配属もさりながら、有事にはどこに所属してどう動くかが決められている意味もあります)
(はい、私の場合でしたら、今は確か黒薔薇扱いにされていると…)
(でね、痴女皇国の騎士団制度はマリアちゃん…マリアリーゼ上皇陛下が定めたものが基本になっていますが、普段から騎士団として機能しているのは、今は黒薔薇と紫薔薇だけです。他は戦争や事件が起きた時に編成されるのね)
ですね。
(で、黒と紫以外だけど、元来は教導騎士団で経験の浅い女官を訓練する名目で配属する建前の桃薔薇がまず存在します)
これも瞳さん,最初は桃薔薇扱いで女官生活を始めているからご存知のはずですね。
(で、次に痴女宮配置の実務女官で編成される青薔薇騎士団があります。これは有事に女官勤務主体者で編成されるもので、痴女宮と門前町の警備や防衛を担当します。前はオリューレさんが団長だったけど、今はベルナルディーゼ厚労局長が団長ね)
離宮付けの女官の冥土服が青色の場合は青薔薇所属だと解りますから、これも瞳さんには理解出来るでしょう。
(で、赤薔薇騎士団の団長ですが、これは有事に赤薔薇所属者から任命されます。本当はあたしかマリーか乳上がその担当なんだけど…)
ところが3人とも団長の常勤、困難なのですよ。
(そーなのよー。というのも赤薔薇の所属の1人のあたしが内務局長するとさ、赤薔薇を仕切る以前に偵察や諜報を担当する紫薔薇のトップを勤める必要があるのよね。だから残る赤薔薇は乳上にクレーニャに…それからマリーとブリュントレーネとジョスリンも今は赤薔薇担当に切り替わったはず…つまり、軒並み痴女島以外にいてる事になるから。あ、ベルくんはもっと無理よ)
これ,実はちょっとした問題でもあります。
現在、紫薔薇騎士団の名目的な本拠地は痴女宮ですが、欧州地域の偵察任務が恒常化しているせいでサリアン団長と副団長の山内博子さんがロンドンに常駐せざるを得ない状況です。
まぁ、2人の配置は英国に暴走の兆候がないように監視するためでもありますけどね…。
そんな訳で紫薔薇騎士団は現在、内務局情報部長を兼務する雅美さんの指揮で動く、痴女宮に残っている本宮・中央アジア組とサリアン団長の指揮で動く欧州組に分かれている状態。
つまり、雅美さんを赤薔薇に組み込みたくても組み込めない状況が続いているのです。
(短期間なら問題ないんだけどね、さすがに数ヶ月以上はちょっとねー)
そしてもう一つの問題があります。
元来は痴女島や痴女皇国の防衛隊である白薔薇騎士団、これも団長不在が続いているそうです。
実際に痴女島が攻められた事は鬼作戦の時くらいでして、しかも敵が海から来たために紺碧騎士団が対応の主力となりました。
が、一応は在籍者が存在する訳でもありますし、何らかの組織整備を行いたいところです。
さて、雅美さんが言っていた精気授受部隊のお話。
元来はダリアさんが動けた際には、黒薔薇も使って円滑に行っていました。
しかし、罪人寮慰安の回数を実質ゼロに減らした代わりに本宮利用を認めた事で、罪人からの定期的な吸引作業が無くなりました。
その代わりに女官寮からの吸い取り吸い上げ作業量が増大しましたが、これはまぁ、仕方ないでしょう。
そして現在、離宮と後宮が建設された事で黒薔薇騎士は元来、本宮側で吸い上げた精気を皇族に渡す立場が建前です。
しかし実際には紫薔薇に協力したり、はたまた紫薔薇兼務者扱いで欧州攻略作戦に従事する者や、他の任務に就く者が多数。つまり、後宮の寮は今は大半が空き部屋か、たまに主が戻る程度。
将来的には黒薔薇を増員する方向ですけど、やはりすぐに育ってくれるものではありません。
あたしを含めた皇族が寄ってたかって特訓しないと…ペルセポネーゼちゃんのような神様の生まれ変わりですら一週間はかかりますね、単純な黒薔薇資格者への昇格処理。
(私の時は事実上生まれてすぐ資格自体は得ていましたけど、やはり実務に必要な知識を得る時間もないと困りますからね…神種族由来者で団員一週間、団長一ヶ月が私の時の実績です。これが普通の女官で騎士勤務経験者なら団員はまだしも、団長に任じられてから組織が安定するには最低半年はかかると思って頂いた方が良いかと)
と、当のペルセポネーゼちゃん本人からお話が。
(ほら、ジョスリーヌ団長のように元々黒薔薇みたいな事をなさっていた方なら話は変わりますけど、あんな人、連邦世界でも葡萄を収穫するほどには一般的な存在ではありませんよね)と、メソポタミアやギリシャ由来の例えを挙げるペルセポネーゼちゃん。
確かにあんなのが人類の主流なら、戦争はもっと絶えませんね。
(誰があんなのですか。ですから陛下、とっとと帰還命令を)
おだまりカエル女。
(ジョスリンは後で泣かすとしても…陛下、万一にもジョスリンの帰還命令なぞ出ようものなら…欧州各支部は困った事になりますわよ…今はブリュントレーネにストラスブールに詰めてもらいまして、あたくしとジョスリンが偵察や工作の主力を勤めております。バーデン支部と連携を取ってはおりますが…)と、悲鳴の後でマリーちゃんが連絡してきます。
あー、南欧支部は鉄道建設の件がありますし、今は特に人を出せない状態ですよね…。
そんな訳でカエル女は当面、ストラスブールに置いとく必要があります。
現時点でのフランス共和国、ポワカール大統領閣下なので閣下の娘さんたちはフランスを中心とした連邦世界欧州の工作戦に従事して頂いておりますが、早期の連邦政府事務局長就任要請もあるとかで、娘さんたちの事情が変わるかも知れません。
そしてフランス国家憲兵隊や諜報機関への浸透作戦も行われておりますので、こちらのフランス王国攻略戦の際には研修を兼ねた女性職員を数名、お回し頂ける話も出ております。
(湯田屋国が提携に乗り気だと閣下夫人からは聞かされております。小官も湯田屋国には多少のコネクシオンがありますから、優秀な女性を頼むとは伝えておきました)
そーですね、国防というお題目で強力な軍事力と戦争体制を維持しているのが皆様の世界のダビデの星のお国だと思いますけど、連邦世界でもその体質、あまり変わっていません。
それどころか表に出せないお仕事のプロを養成して、周辺に影響力を持とうとしている模様。
ですのでフランス同様、将来的には痴女皇国の傀儡国家にしてしまう話が密かに進んでいます。
何せ連邦世界でも徴兵制を撤廃していませんから、一定数の女性兵士が在籍してるんですよ、常に。
(あの国の男尊女卑は宗教面もありますからねぇ。ただ、痴女皇国との提携には士官女性を痴女種化する事が必須。そうなれば介入や工作の余地は大いに生まれるでしょう。ですから帰還命令っいたたっ!)
(何年も先の話を今起きる話のようにして陛下にお伝えするからですわよ…ほら、明日はパリでしてよ!)
ああ、哀れカエル女。
(ジョスリーヌ派遣団長、有能な方だとは思うのですけどねぇ)
(あー、ジョスリーヌ・メルランって名前で言ったげた方がいいのよね。あんた、フランスにいた方が自分のためよ)
(えええええ! …どちら様で)
(ジョスリン。NBのふれみんぐ機関からお越しのヨシムラ様って回覧が流れておりましてよ。それに陛下のお車の助手席にお座りなだけでも只人ではありませんでしょうに…スクルド様でしたか、当方の亭主役が失礼を致しまして)
(マリアンヌ・ド・ロレーヌね。あなたはこちらのクロトの仕切りだけど…うん、色々大変なのが周りにいてるみたいだわね。ま、今の場所で頑張ったんさい)
わかる? カエル女。このマリーちゃんの抜け目のなさを見習うのよ! うまくスクルド先生に自分を売り込む上に、どこのどなたか調べている周到さ。
あんたも女スパイやってたんならこれくらいはっ。
(ですから私は諜報よりは破壊を含む工作活動が主体だったと何回言えばよいのですか、この頭がトスカーナワイン漬けの腐れアマいえ敬愛する皇帝陛下は)
それは分かってるから努力しましょうよ。ね…?
(全くジョスリンも妙に頭が固いところがありますからねぇ。でまぁ、あたくしからも提案を。伊藤瞳様でしたか。要は今、指揮官がいない赤と白について誰かを任じる方向に考えが向けばよろしい話にはなりませんかしら。ただ…ダリアさんの復帰、もうそろそろなんですわよねぇ。ペルセポネーゼさんは黒薔薇向きですし、前職の統括騎士団長に戻されまして?)
(そこが考えどころなのですよ。そして、ダリアさんは元々黒薔薇ですし攻めに出るタイプです。更には痴女皇国騎士としてアルトさんの次位に来る人でしょう)と、あたしもさりげなく瞳さんのフォローに入ります。
ええ、むろん今の話はマリーちゃんのお節介。
要は瞳さん専属の親衛隊めいた組織を作るとしたら白薔薇しかないよね、そして白薔薇騎士団長が必要だよねというのを教えようとしてるんですよ。
ただ…瞳さんは普通の人を長年やって来た方です。こうした人事の采配差配には勘が鈍くても仕方ないでしょう。
(伊藤瞳にも天然要素というのかしら、純朴なところはあるわねぇ。そりゃマリアヴェッラみたいな性欲漬けの生活してる歩く性器みたいなのにコロっと転ぶ訳だわ…)
スクルド先生ーっ。
(褒めてんのよ。あんた自分でも自覚あるでしょ?セックスシンボルとかいう外観なの。伊藤瞳、この女を性の対象に見ない男はかなりの変人に思うのだけどさ、あなたはどうかしら)
(日本人なら評価は別れます。しかし、ある程度の国際感覚がある人間であればクラっと来ますね。これは高木企画に出入りするタレントさんや、とちぎメディアの社内評価です。何であんなカンヌにいてるような方がうちの番組にというのが、もてぎチャンネル配信開始当時の噂でしたから)
(見た目でとりあえず選ばれた面はあると)
なんか、ひどい評価を受けてる気がしきりに。
これが、相手がスクルド先生でなかったら車を停めて身体に質問して差し上げたいところですが。
(財力についてもよく理解しています。言いたくありませんが、痴女皇国資金の日本円両替というより転換には高木企画やとちぎメディアも関わっていましたから)
わー! 瞳さんそれもバラしちゃダメですって!
(スクルドさんに隠す話でもない気がします。マリアさんやジーナさん、そしてベラ子陛下がよく言えば質素、悪く言えば割とケチ臭いのは単なる性格で、実際には洒落にならない資産を保有しているのも、おおよそ想像がついていますから、収入面の不安についても全く問題はありません)
あとですね、女官種の名残りの習慣や騎士活動の支障になるアクセサリー類、積極的に装着しませんので勢い、あまり色々持ってないんですよね…。
更に言うと普通の時計だと壊れてしまうんですよ、何かあって瞬間的に能力を解放した瞬間に…。
(あとは性格よね。ジョスリーヌの評価じゃないけど、この女の制御について伊藤瞳には重責を持って貰わざるを得ません。マリアヴェッラの首に鈴どころか縄を付けられるのか。伊藤瞳、自信はあるの?)
(私が付けずとも皆が付けるでしょう。そもそも皇帝が皆に恐れられるばかりでは、痴女皇国に未来はないと思いますから)
と、ここで言葉を区切る瞳さんですが、次の瞬間に。
(それにですねスクルドさん。マリアヴェッラ陛下のもてぎチャンネル出演時のあれ、見ていらっしゃらないなら是非ご覧になって下さい。はっきり申し上げて関西人が言うお前アホやろという姿、嫌になるくらい拝見できますから。あの芸人根性溢れる出演内容のせいで妙なオファーがいくつも来てて、マリアさんが出演を断るのに困ってましたからね)
ぎゃあああああ。
(ま、誰かが言うように、陛下の生態は大きな猫みたいなものです。私も折角の玉の輿というか逆玉というか、この話を逃す気はありません。それに分身とは言えど、とんでもない玉の輿を紹介頂いたのは陛下のおかげ。それなりのお礼をするのが人の道でしょう)
…運転してないなら抱きついてキスの雨を降らせるところなのですが。
「それより陛下、この道、これが延々と続くのでしょうか」
「えーと、あと10分ほどで長いトンネルを2つか3つ抜けます。その後は下り坂っぽいですね。おトイレか水を望まれますか」
(念のため荷室に簡易冷蔵庫を積んでいます。中にお水のボトル、冷やしてますよ)
このお水、例えば痴女島の酷道1号線で原住民の方に遭遇した場合に与えることを想定して積んでます。
(いえいえ、その…飲む方ではなく、出す方で…)
え。ちょっとバイタルモニタを拝見。
(雅美さん…スクルド先生…ちょっと瞳さんが「トイレ」だそうです…少し遅れます…)
(えー。途中で停めておくから、5分くらいで済ませるようにね…)
(マリアヴェッラ…あんたが無理矢理、こんな状態にしたんじゃないでしょうね?)
うっさいわいっ。
瞳さんのご希望じゃっ。
で、路側帯めいた場所で洗い越しがあるところに停めます。
…そこから5分で何が起きたかは、機会があれば闇堕ちマリア辺りでお話させて下さい…。
「マリアヴェッラ…精気抜き取りは仕方ないとしてもさ、あんたは一体全体、伊藤瞳になんて事言わせてるのよ…」車に戻ると、不機嫌そうなスクルド先生の詰問が。
「瞳さん。アルトさん。何か聞こえましたか」
「いえ何も」
「そうですね。どこかでかちくがないたのでしょう」
「スクルド先生は義体の性能以前に神様ですから、あたしたちには聞こえない音や声が聞こえても不思議ではありませんね」
「何をしれっと言ってんのよっあんたらっ」
ちなみに我々が車を停めた場所から半径数キロの範囲に、人の居住する気配はない場所です。
従って、豚の鳴き声ですとか、家畜にして下さいとかベラちゃんの便器として生きますとか恐ろしい泣き声が聞こえて来るはずなんか絶対ないんですよね。不思議ですね。
(でも陛下が言うように、女は嘘をつく生き物だと言うのがよくわかるのです。ですから、殊更行為で示せというのは効果的でしょう。一万の言葉よりも陛下のお尻に締め上げられた感触や、お口の中にぶちまけた時の快感が全てなのです)
えーと、瞳さん、嬉しいんですけど、それ以上言わないで。
現時点で真剣にクリスおじさまにしか許してなかった事…許可なくすると懲罰扱いな行為を含めて瞳さんに許したのですが、やはり初心者の方にはあまり無理をさせてはならないでしょうから、軽めで、軽めで。
(陛下が私の顔を汚したがる理由もよく理解できました。あれは所有物をマーキングする行為そのものです。この点からも陛下の行動が犬猫に近いのがわかります)
ええやん!
あたしのもんと主張してもいいじゃないですか瞳さん!
(犬猫でも主張はするのですよ。まして私は日本語が通じます。元来は嫌なんですけど、痴女種になってみればあれも気持ちが良いので複雑な気分なのです。それに陛下に突っ込ませて頂いた際のお顔が大変に牝の顔であらせられたので、私の気分が良くなりました)
ばーらーさーなーいーでー。あの顔はクリスおじさまか瞳さんにしか見せたくないんですよっ。
(まぁ、マリアヴェッラもめんどくさい女の部類というのは理解しました。ところであんたら、デンパサールに着いたらちゃんと仕事してよ? )
とりあえず再び走り出しまして、ちょっと急ぎ目に追いかけて行きますと、ハザードランプを点滅させて停止している盗まれ2号のお尻が見えましたので、ホーンとライトで追いつきましたよと教えます。
(んもー、5分で終わってないでしょ…何分かかってんの…)
(ごめんなさーい)
(転送ショートカット、エマちゃんに頼んだから停まったままね)
へいへい。
次の瞬間、集落を見下ろす丘の上に出ました。そこから更に道の先を見ますと、スケアクロウが降りられるくらいの大きさの空き地がありまして、痴女皇国で用意したらしい倉庫なども望む事ができます。
「族長が来ているらしいわね。オリューネが話をしてくれてるわよ」
あ、スクルドさんは運命を司る側で記録された名前を言う癖がありますので、あたしたちが呼ぶお名前と異なる人に聞こえかねないかも知れませんが、今言ってるのはオリューレさんの事ですよ。
で、オリューレさんの意識と共有を入れてお話を聞いておりますと、この辺り一帯を南洋王国の代官から任された人であるとともに聖院、つまり痴女皇国の協力者である事を示す免状代わりの旧型聖環を何代かにわたって引き継いでいる人物だそうですね。
なるほど、聖環を預けられているお付き合いならば多少は安心してお話もできそうです。
(陛下、私が用向きを伝えますので、なるべく後ろで偉そうにして控えておいて下さい…)
えー。あたしが出しゃばってはダメなのでしょうか。
(マリアヴェッラ…ここはオリューネに従っておきなさい…痴女皇国側のこの島の統治者でしょ?皇帝なら挨拶を交わす程度にしておいた方が権威があるように見えていいわよ?)
うう、スクルド先生もですか…確かに、一応は棍棒や銅器鉄器といった武装めいたものを持った半裸の人々が、族長とその一団から少し離れて待機しているのも伺えます。
もっとも、女官の強力さを自ら知っているようで、あくまでも体裁のために連れてこられたようです。
(兵士と言えるほどの明確な職種があるわけではないのですよ。村の腕自慢といった若者たちです)
(では、法律や掟のようなものは…)
(あるにはあります。ただ…聖院時代に南洋王国へ手助けをして文字や知識を広める努力はしてきたのですが、全ての人に行き渡ってはいません。正直なところ、裁判をすべき事が起きた場合、村の有力者がその都度合議して決める事も多いのですよね)
えー。
…それは確かに「飛鳥時代とか下手したら弥生時代」だって言う状態ですよね…。
そしてこの時代の紙、貴重品です。
更に、言っては何ですが熱帯地方には保存性の点で不向きな特性の記録媒体たる紙では、この人たちに黙って与えるだけでは絶対に使いこなしてはくれないでしょう。
むしろ、代々の族長に「女神の眷属」から授けられた神託の器具として聖環を認識してもらう今までの方法、決して間違ったものとは思えません。
(ただ、この幽霊騒ぎをきっかけにして、族長と限られた有力者しか知らぬ文字や知識を広めて頂くにはやぶさかではない。ついては南洋王国の代官さえ黙らせてもらえるなら、我々は改めて女神様方の配下となる事を誓うとまで言っておりますね)
またえらく協力的な方々ですが、真意はいずこに。
(あぁ、それは当然です。疫病や水害から彼らを保護してきた過去の実績があります。更には彼らから米を中心とした農作物の買い上げや物々交換に、家屋の建築支援や街道整備等々、痴女島と同じように南洋王国に代わって私たちが彼らの生活を支えてきた件、この島のかなりの集落の有力者たちが語り継いでくれております。この過去の実績があるからこそ、幽霊騒ぎについてもいち早く私の知るところとなったようなものでして)
では、平和裡にお話ができそうですね。
そして広場に車を停めると、ゼアラさんが寄って来てドアを開けてくれます。
アルトさんも車から先に降りると、助手席のドアを開けてスクルドさんに降りるように促してくれます。
さて、ここでちょっとしたソルプリーザ。
あたしは白金衣、スクルドさんは兜なし槍なしの戦乙女姿に変わります。
そしてアルトさんは聖院金衣将軍衣装、ゼアラさんは黒薔薇戦闘服に。
オリューレさんは青薔薇仕様のとね服で女官っぽく。
で、瞳さんも聖院の典礼用女官服で新型の方に変わってもらいましょう。これ、確かに露出度高めで羞恥心を煽るデザインなんですけど、聖院用らしく金糸銀糸をさりげなく配して高級感を感じさせる上に、布部分もシルクっぽい光沢を放っています。
つまり、聖院の階級を知らない人にはお姫様か貴人のように見せる効果があります。
うん、村の男性陣の反応をさりげなく伺うと、やはりアジア系に見える瞳さんに親近感が湧くようです。
ただ、オリューレさんが言った通り、あたしたちが強いというのは理解してもらっているようでして、性欲を刺激する皆の姿に反応はしていますけど、同時に失礼がないようには思ってもらえていますね。
で、幽霊さん以外の全員が揃うと、まずオリューレさんと族長らしい派手な腰巻姿のえらい人らしい方と手を挙げて挨拶を交わし、続いてあたしとスクルドさんをご紹介。
そして、全員で用意された丸太を加工した椅子に座ってと…。
次の瞬間、族長に襲い掛かる何かが。
むろん、あたしの敵ではありません。
一瞬で動きを…ってアルトさん。今、あたしより速くなかったですか。
(よめから緊急通信が入りましたので待機していました。ゆうれいさんがくるまから出てくるところはみえていませんからだいじょうぶですよ)
え…じゃ、飛び出して来たのは幽霊さんですか。
アルトさんが瞬間的に鞘ごと握ったリトルクロウで、ばちこーんとぶん殴ったせいか地面に落ちてピクピクひきつっておられますけど。
「…!!!…」
で、幽霊さんの姿を見て、何やら叫んでいる族長たち。
オリューレさんに翻訳してもらいましょう。
(これは妊婦の霊ラン・スィルではないかだの、人の血を吸ったり内臓を食べる幽霊のポンティアナックではないかと騒いでいます。それも昼間に出てくるとは一体どうしたことだろうと不安がっていますね)
(んじゃ私が沈静化してあげるわ。ちょいとお待ち)と、スクルドさんが取り出したのは…ういきょうの枯れ束じゃないですか。
(そ、あんたが得意なあれよ。私と一緒に一振りしてみなさい)で、スクルド先生の後ろに立って右手を添えて2人して一振り。
地面に崩れ落ちたままの幽霊さんから瘴気が消え失せる気配がしますが。
(マリアヴェッラ。どうもこの幽霊、人間たちの気配を受けて餌と認識したようよ。このまま私たちが連れ去るお芝居をして回収してしまいましょう。もし万が一、別の何かが現れてしまうと困るから私が結界を張っておくわね)と、ういきょうをどこかに仕舞い込む先生です。
あー、北欧神種族の結界ですか…。
(ルルドでアトロポスたちが使うものと同じようなもんだから、人への害はないわよ。心配しなさんな)
で、スクルド先生が首輪に手をかけると、薄汚れた木槌がその右手に握られます。
(私ではトールハンマーの全力発揮は無理。ま、こうして持ってるだけでいいでしょう)
しかし、その古ぼけた木槌の外観とは裏腹に、人に畏怖を抱かせる何かが出ているのでしょうか。族長たちが一斉に地面に座ってひれ伏しています。
(ま、フレイヤもこれを使いこなしてたら、あんたたちはもっと苦戦したかも知れない代物なんだけどね。とりあえずアルトリーネ、幽霊を車の中に入れておいて)
(しばるとかしなくてよいですか)
(あなたたちの使っている紙束があるわよね。あれを紐に変えて縛る程度でいいわよ)
つまり、はりせんをムチに変えろと。
では、アレーゼおばさまから預かっている方ではなくて元々あたしが持っている方のムチで縛っておきましょう。
(ま、これで化け物避けの祭礼とやら,話がしやすくなったんじゃない?)
確かにそうですけど…。
とりあえず族長や他の皆様と向かい合う形で丸太椅子に座ると、まずはお化けについてのお話を聞くことに。
(マリアヴェッラ陛下…彼らも怯えていますが、その理由がわかりました。どうも実際に幽霊に覗かれるだけではなくて、襲われかけた話もあるようです)
悩む気配の瞳さんに助け舟を出す雅美さん。
窓の外には適度に曲がりくねる簡易舗装の道が続いていますが、そんなのどかな雰囲気の景色も目に入らないようです。
(話は変わりますが、痴女皇国では現在、女官は騎士研修を受けて何らかの騎士団に所属している体裁を取っているって習ったでしょう。これは平時の配属もさりながら、有事にはどこに所属してどう動くかが決められている意味もあります)
(はい、私の場合でしたら、今は確か黒薔薇扱いにされていると…)
(でね、痴女皇国の騎士団制度はマリアちゃん…マリアリーゼ上皇陛下が定めたものが基本になっていますが、普段から騎士団として機能しているのは、今は黒薔薇と紫薔薇だけです。他は戦争や事件が起きた時に編成されるのね)
ですね。
(で、黒と紫以外だけど、元来は教導騎士団で経験の浅い女官を訓練する名目で配属する建前の桃薔薇がまず存在します)
これも瞳さん,最初は桃薔薇扱いで女官生活を始めているからご存知のはずですね。
(で、次に痴女宮配置の実務女官で編成される青薔薇騎士団があります。これは有事に女官勤務主体者で編成されるもので、痴女宮と門前町の警備や防衛を担当します。前はオリューレさんが団長だったけど、今はベルナルディーゼ厚労局長が団長ね)
離宮付けの女官の冥土服が青色の場合は青薔薇所属だと解りますから、これも瞳さんには理解出来るでしょう。
(で、赤薔薇騎士団の団長ですが、これは有事に赤薔薇所属者から任命されます。本当はあたしかマリーか乳上がその担当なんだけど…)
ところが3人とも団長の常勤、困難なのですよ。
(そーなのよー。というのも赤薔薇の所属の1人のあたしが内務局長するとさ、赤薔薇を仕切る以前に偵察や諜報を担当する紫薔薇のトップを勤める必要があるのよね。だから残る赤薔薇は乳上にクレーニャに…それからマリーとブリュントレーネとジョスリンも今は赤薔薇担当に切り替わったはず…つまり、軒並み痴女島以外にいてる事になるから。あ、ベルくんはもっと無理よ)
これ,実はちょっとした問題でもあります。
現在、紫薔薇騎士団の名目的な本拠地は痴女宮ですが、欧州地域の偵察任務が恒常化しているせいでサリアン団長と副団長の山内博子さんがロンドンに常駐せざるを得ない状況です。
まぁ、2人の配置は英国に暴走の兆候がないように監視するためでもありますけどね…。
そんな訳で紫薔薇騎士団は現在、内務局情報部長を兼務する雅美さんの指揮で動く、痴女宮に残っている本宮・中央アジア組とサリアン団長の指揮で動く欧州組に分かれている状態。
つまり、雅美さんを赤薔薇に組み込みたくても組み込めない状況が続いているのです。
(短期間なら問題ないんだけどね、さすがに数ヶ月以上はちょっとねー)
そしてもう一つの問題があります。
元来は痴女島や痴女皇国の防衛隊である白薔薇騎士団、これも団長不在が続いているそうです。
実際に痴女島が攻められた事は鬼作戦の時くらいでして、しかも敵が海から来たために紺碧騎士団が対応の主力となりました。
が、一応は在籍者が存在する訳でもありますし、何らかの組織整備を行いたいところです。
さて、雅美さんが言っていた精気授受部隊のお話。
元来はダリアさんが動けた際には、黒薔薇も使って円滑に行っていました。
しかし、罪人寮慰安の回数を実質ゼロに減らした代わりに本宮利用を認めた事で、罪人からの定期的な吸引作業が無くなりました。
その代わりに女官寮からの吸い取り吸い上げ作業量が増大しましたが、これはまぁ、仕方ないでしょう。
そして現在、離宮と後宮が建設された事で黒薔薇騎士は元来、本宮側で吸い上げた精気を皇族に渡す立場が建前です。
しかし実際には紫薔薇に協力したり、はたまた紫薔薇兼務者扱いで欧州攻略作戦に従事する者や、他の任務に就く者が多数。つまり、後宮の寮は今は大半が空き部屋か、たまに主が戻る程度。
将来的には黒薔薇を増員する方向ですけど、やはりすぐに育ってくれるものではありません。
あたしを含めた皇族が寄ってたかって特訓しないと…ペルセポネーゼちゃんのような神様の生まれ変わりですら一週間はかかりますね、単純な黒薔薇資格者への昇格処理。
(私の時は事実上生まれてすぐ資格自体は得ていましたけど、やはり実務に必要な知識を得る時間もないと困りますからね…神種族由来者で団員一週間、団長一ヶ月が私の時の実績です。これが普通の女官で騎士勤務経験者なら団員はまだしも、団長に任じられてから組織が安定するには最低半年はかかると思って頂いた方が良いかと)
と、当のペルセポネーゼちゃん本人からお話が。
(ほら、ジョスリーヌ団長のように元々黒薔薇みたいな事をなさっていた方なら話は変わりますけど、あんな人、連邦世界でも葡萄を収穫するほどには一般的な存在ではありませんよね)と、メソポタミアやギリシャ由来の例えを挙げるペルセポネーゼちゃん。
確かにあんなのが人類の主流なら、戦争はもっと絶えませんね。
(誰があんなのですか。ですから陛下、とっとと帰還命令を)
おだまりカエル女。
(ジョスリンは後で泣かすとしても…陛下、万一にもジョスリンの帰還命令なぞ出ようものなら…欧州各支部は困った事になりますわよ…今はブリュントレーネにストラスブールに詰めてもらいまして、あたくしとジョスリンが偵察や工作の主力を勤めております。バーデン支部と連携を取ってはおりますが…)と、悲鳴の後でマリーちゃんが連絡してきます。
あー、南欧支部は鉄道建設の件がありますし、今は特に人を出せない状態ですよね…。
そんな訳でカエル女は当面、ストラスブールに置いとく必要があります。
現時点でのフランス共和国、ポワカール大統領閣下なので閣下の娘さんたちはフランスを中心とした連邦世界欧州の工作戦に従事して頂いておりますが、早期の連邦政府事務局長就任要請もあるとかで、娘さんたちの事情が変わるかも知れません。
そしてフランス国家憲兵隊や諜報機関への浸透作戦も行われておりますので、こちらのフランス王国攻略戦の際には研修を兼ねた女性職員を数名、お回し頂ける話も出ております。
(湯田屋国が提携に乗り気だと閣下夫人からは聞かされております。小官も湯田屋国には多少のコネクシオンがありますから、優秀な女性を頼むとは伝えておきました)
そーですね、国防というお題目で強力な軍事力と戦争体制を維持しているのが皆様の世界のダビデの星のお国だと思いますけど、連邦世界でもその体質、あまり変わっていません。
それどころか表に出せないお仕事のプロを養成して、周辺に影響力を持とうとしている模様。
ですのでフランス同様、将来的には痴女皇国の傀儡国家にしてしまう話が密かに進んでいます。
何せ連邦世界でも徴兵制を撤廃していませんから、一定数の女性兵士が在籍してるんですよ、常に。
(あの国の男尊女卑は宗教面もありますからねぇ。ただ、痴女皇国との提携には士官女性を痴女種化する事が必須。そうなれば介入や工作の余地は大いに生まれるでしょう。ですから帰還命令っいたたっ!)
(何年も先の話を今起きる話のようにして陛下にお伝えするからですわよ…ほら、明日はパリでしてよ!)
ああ、哀れカエル女。
(ジョスリーヌ派遣団長、有能な方だとは思うのですけどねぇ)
(あー、ジョスリーヌ・メルランって名前で言ったげた方がいいのよね。あんた、フランスにいた方が自分のためよ)
(えええええ! …どちら様で)
(ジョスリン。NBのふれみんぐ機関からお越しのヨシムラ様って回覧が流れておりましてよ。それに陛下のお車の助手席にお座りなだけでも只人ではありませんでしょうに…スクルド様でしたか、当方の亭主役が失礼を致しまして)
(マリアンヌ・ド・ロレーヌね。あなたはこちらのクロトの仕切りだけど…うん、色々大変なのが周りにいてるみたいだわね。ま、今の場所で頑張ったんさい)
わかる? カエル女。このマリーちゃんの抜け目のなさを見習うのよ! うまくスクルド先生に自分を売り込む上に、どこのどなたか調べている周到さ。
あんたも女スパイやってたんならこれくらいはっ。
(ですから私は諜報よりは破壊を含む工作活動が主体だったと何回言えばよいのですか、この頭がトスカーナワイン漬けの腐れアマいえ敬愛する皇帝陛下は)
それは分かってるから努力しましょうよ。ね…?
(全くジョスリンも妙に頭が固いところがありますからねぇ。でまぁ、あたくしからも提案を。伊藤瞳様でしたか。要は今、指揮官がいない赤と白について誰かを任じる方向に考えが向けばよろしい話にはなりませんかしら。ただ…ダリアさんの復帰、もうそろそろなんですわよねぇ。ペルセポネーゼさんは黒薔薇向きですし、前職の統括騎士団長に戻されまして?)
(そこが考えどころなのですよ。そして、ダリアさんは元々黒薔薇ですし攻めに出るタイプです。更には痴女皇国騎士としてアルトさんの次位に来る人でしょう)と、あたしもさりげなく瞳さんのフォローに入ります。
ええ、むろん今の話はマリーちゃんのお節介。
要は瞳さん専属の親衛隊めいた組織を作るとしたら白薔薇しかないよね、そして白薔薇騎士団長が必要だよねというのを教えようとしてるんですよ。
ただ…瞳さんは普通の人を長年やって来た方です。こうした人事の采配差配には勘が鈍くても仕方ないでしょう。
(伊藤瞳にも天然要素というのかしら、純朴なところはあるわねぇ。そりゃマリアヴェッラみたいな性欲漬けの生活してる歩く性器みたいなのにコロっと転ぶ訳だわ…)
スクルド先生ーっ。
(褒めてんのよ。あんた自分でも自覚あるでしょ?セックスシンボルとかいう外観なの。伊藤瞳、この女を性の対象に見ない男はかなりの変人に思うのだけどさ、あなたはどうかしら)
(日本人なら評価は別れます。しかし、ある程度の国際感覚がある人間であればクラっと来ますね。これは高木企画に出入りするタレントさんや、とちぎメディアの社内評価です。何であんなカンヌにいてるような方がうちの番組にというのが、もてぎチャンネル配信開始当時の噂でしたから)
(見た目でとりあえず選ばれた面はあると)
なんか、ひどい評価を受けてる気がしきりに。
これが、相手がスクルド先生でなかったら車を停めて身体に質問して差し上げたいところですが。
(財力についてもよく理解しています。言いたくありませんが、痴女皇国資金の日本円両替というより転換には高木企画やとちぎメディアも関わっていましたから)
わー! 瞳さんそれもバラしちゃダメですって!
(スクルドさんに隠す話でもない気がします。マリアさんやジーナさん、そしてベラ子陛下がよく言えば質素、悪く言えば割とケチ臭いのは単なる性格で、実際には洒落にならない資産を保有しているのも、おおよそ想像がついていますから、収入面の不安についても全く問題はありません)
あとですね、女官種の名残りの習慣や騎士活動の支障になるアクセサリー類、積極的に装着しませんので勢い、あまり色々持ってないんですよね…。
更に言うと普通の時計だと壊れてしまうんですよ、何かあって瞬間的に能力を解放した瞬間に…。
(あとは性格よね。ジョスリーヌの評価じゃないけど、この女の制御について伊藤瞳には重責を持って貰わざるを得ません。マリアヴェッラの首に鈴どころか縄を付けられるのか。伊藤瞳、自信はあるの?)
(私が付けずとも皆が付けるでしょう。そもそも皇帝が皆に恐れられるばかりでは、痴女皇国に未来はないと思いますから)
と、ここで言葉を区切る瞳さんですが、次の瞬間に。
(それにですねスクルドさん。マリアヴェッラ陛下のもてぎチャンネル出演時のあれ、見ていらっしゃらないなら是非ご覧になって下さい。はっきり申し上げて関西人が言うお前アホやろという姿、嫌になるくらい拝見できますから。あの芸人根性溢れる出演内容のせいで妙なオファーがいくつも来てて、マリアさんが出演を断るのに困ってましたからね)
ぎゃあああああ。
(ま、誰かが言うように、陛下の生態は大きな猫みたいなものです。私も折角の玉の輿というか逆玉というか、この話を逃す気はありません。それに分身とは言えど、とんでもない玉の輿を紹介頂いたのは陛下のおかげ。それなりのお礼をするのが人の道でしょう)
…運転してないなら抱きついてキスの雨を降らせるところなのですが。
「それより陛下、この道、これが延々と続くのでしょうか」
「えーと、あと10分ほどで長いトンネルを2つか3つ抜けます。その後は下り坂っぽいですね。おトイレか水を望まれますか」
(念のため荷室に簡易冷蔵庫を積んでいます。中にお水のボトル、冷やしてますよ)
このお水、例えば痴女島の酷道1号線で原住民の方に遭遇した場合に与えることを想定して積んでます。
(いえいえ、その…飲む方ではなく、出す方で…)
え。ちょっとバイタルモニタを拝見。
(雅美さん…スクルド先生…ちょっと瞳さんが「トイレ」だそうです…少し遅れます…)
(えー。途中で停めておくから、5分くらいで済ませるようにね…)
(マリアヴェッラ…あんたが無理矢理、こんな状態にしたんじゃないでしょうね?)
うっさいわいっ。
瞳さんのご希望じゃっ。
で、路側帯めいた場所で洗い越しがあるところに停めます。
…そこから5分で何が起きたかは、機会があれば闇堕ちマリア辺りでお話させて下さい…。
「マリアヴェッラ…精気抜き取りは仕方ないとしてもさ、あんたは一体全体、伊藤瞳になんて事言わせてるのよ…」車に戻ると、不機嫌そうなスクルド先生の詰問が。
「瞳さん。アルトさん。何か聞こえましたか」
「いえ何も」
「そうですね。どこかでかちくがないたのでしょう」
「スクルド先生は義体の性能以前に神様ですから、あたしたちには聞こえない音や声が聞こえても不思議ではありませんね」
「何をしれっと言ってんのよっあんたらっ」
ちなみに我々が車を停めた場所から半径数キロの範囲に、人の居住する気配はない場所です。
従って、豚の鳴き声ですとか、家畜にして下さいとかベラちゃんの便器として生きますとか恐ろしい泣き声が聞こえて来るはずなんか絶対ないんですよね。不思議ですね。
(でも陛下が言うように、女は嘘をつく生き物だと言うのがよくわかるのです。ですから、殊更行為で示せというのは効果的でしょう。一万の言葉よりも陛下のお尻に締め上げられた感触や、お口の中にぶちまけた時の快感が全てなのです)
えーと、瞳さん、嬉しいんですけど、それ以上言わないで。
現時点で真剣にクリスおじさまにしか許してなかった事…許可なくすると懲罰扱いな行為を含めて瞳さんに許したのですが、やはり初心者の方にはあまり無理をさせてはならないでしょうから、軽めで、軽めで。
(陛下が私の顔を汚したがる理由もよく理解できました。あれは所有物をマーキングする行為そのものです。この点からも陛下の行動が犬猫に近いのがわかります)
ええやん!
あたしのもんと主張してもいいじゃないですか瞳さん!
(犬猫でも主張はするのですよ。まして私は日本語が通じます。元来は嫌なんですけど、痴女種になってみればあれも気持ちが良いので複雑な気分なのです。それに陛下に突っ込ませて頂いた際のお顔が大変に牝の顔であらせられたので、私の気分が良くなりました)
ばーらーさーなーいーでー。あの顔はクリスおじさまか瞳さんにしか見せたくないんですよっ。
(まぁ、マリアヴェッラもめんどくさい女の部類というのは理解しました。ところであんたら、デンパサールに着いたらちゃんと仕事してよ? )
とりあえず再び走り出しまして、ちょっと急ぎ目に追いかけて行きますと、ハザードランプを点滅させて停止している盗まれ2号のお尻が見えましたので、ホーンとライトで追いつきましたよと教えます。
(んもー、5分で終わってないでしょ…何分かかってんの…)
(ごめんなさーい)
(転送ショートカット、エマちゃんに頼んだから停まったままね)
へいへい。
次の瞬間、集落を見下ろす丘の上に出ました。そこから更に道の先を見ますと、スケアクロウが降りられるくらいの大きさの空き地がありまして、痴女皇国で用意したらしい倉庫なども望む事ができます。
「族長が来ているらしいわね。オリューネが話をしてくれてるわよ」
あ、スクルドさんは運命を司る側で記録された名前を言う癖がありますので、あたしたちが呼ぶお名前と異なる人に聞こえかねないかも知れませんが、今言ってるのはオリューレさんの事ですよ。
で、オリューレさんの意識と共有を入れてお話を聞いておりますと、この辺り一帯を南洋王国の代官から任された人であるとともに聖院、つまり痴女皇国の協力者である事を示す免状代わりの旧型聖環を何代かにわたって引き継いでいる人物だそうですね。
なるほど、聖環を預けられているお付き合いならば多少は安心してお話もできそうです。
(陛下、私が用向きを伝えますので、なるべく後ろで偉そうにして控えておいて下さい…)
えー。あたしが出しゃばってはダメなのでしょうか。
(マリアヴェッラ…ここはオリューネに従っておきなさい…痴女皇国側のこの島の統治者でしょ?皇帝なら挨拶を交わす程度にしておいた方が権威があるように見えていいわよ?)
うう、スクルド先生もですか…確かに、一応は棍棒や銅器鉄器といった武装めいたものを持った半裸の人々が、族長とその一団から少し離れて待機しているのも伺えます。
もっとも、女官の強力さを自ら知っているようで、あくまでも体裁のために連れてこられたようです。
(兵士と言えるほどの明確な職種があるわけではないのですよ。村の腕自慢といった若者たちです)
(では、法律や掟のようなものは…)
(あるにはあります。ただ…聖院時代に南洋王国へ手助けをして文字や知識を広める努力はしてきたのですが、全ての人に行き渡ってはいません。正直なところ、裁判をすべき事が起きた場合、村の有力者がその都度合議して決める事も多いのですよね)
えー。
…それは確かに「飛鳥時代とか下手したら弥生時代」だって言う状態ですよね…。
そしてこの時代の紙、貴重品です。
更に、言っては何ですが熱帯地方には保存性の点で不向きな特性の記録媒体たる紙では、この人たちに黙って与えるだけでは絶対に使いこなしてはくれないでしょう。
むしろ、代々の族長に「女神の眷属」から授けられた神託の器具として聖環を認識してもらう今までの方法、決して間違ったものとは思えません。
(ただ、この幽霊騒ぎをきっかけにして、族長と限られた有力者しか知らぬ文字や知識を広めて頂くにはやぶさかではない。ついては南洋王国の代官さえ黙らせてもらえるなら、我々は改めて女神様方の配下となる事を誓うとまで言っておりますね)
またえらく協力的な方々ですが、真意はいずこに。
(あぁ、それは当然です。疫病や水害から彼らを保護してきた過去の実績があります。更には彼らから米を中心とした農作物の買い上げや物々交換に、家屋の建築支援や街道整備等々、痴女島と同じように南洋王国に代わって私たちが彼らの生活を支えてきた件、この島のかなりの集落の有力者たちが語り継いでくれております。この過去の実績があるからこそ、幽霊騒ぎについてもいち早く私の知るところとなったようなものでして)
では、平和裡にお話ができそうですね。
そして広場に車を停めると、ゼアラさんが寄って来てドアを開けてくれます。
アルトさんも車から先に降りると、助手席のドアを開けてスクルドさんに降りるように促してくれます。
さて、ここでちょっとしたソルプリーザ。
あたしは白金衣、スクルドさんは兜なし槍なしの戦乙女姿に変わります。
そしてアルトさんは聖院金衣将軍衣装、ゼアラさんは黒薔薇戦闘服に。
オリューレさんは青薔薇仕様のとね服で女官っぽく。
で、瞳さんも聖院の典礼用女官服で新型の方に変わってもらいましょう。これ、確かに露出度高めで羞恥心を煽るデザインなんですけど、聖院用らしく金糸銀糸をさりげなく配して高級感を感じさせる上に、布部分もシルクっぽい光沢を放っています。
つまり、聖院の階級を知らない人にはお姫様か貴人のように見せる効果があります。
うん、村の男性陣の反応をさりげなく伺うと、やはりアジア系に見える瞳さんに親近感が湧くようです。
ただ、オリューレさんが言った通り、あたしたちが強いというのは理解してもらっているようでして、性欲を刺激する皆の姿に反応はしていますけど、同時に失礼がないようには思ってもらえていますね。
で、幽霊さん以外の全員が揃うと、まずオリューレさんと族長らしい派手な腰巻姿のえらい人らしい方と手を挙げて挨拶を交わし、続いてあたしとスクルドさんをご紹介。
そして、全員で用意された丸太を加工した椅子に座ってと…。
次の瞬間、族長に襲い掛かる何かが。
むろん、あたしの敵ではありません。
一瞬で動きを…ってアルトさん。今、あたしより速くなかったですか。
(よめから緊急通信が入りましたので待機していました。ゆうれいさんがくるまから出てくるところはみえていませんからだいじょうぶですよ)
え…じゃ、飛び出して来たのは幽霊さんですか。
アルトさんが瞬間的に鞘ごと握ったリトルクロウで、ばちこーんとぶん殴ったせいか地面に落ちてピクピクひきつっておられますけど。
「…!!!…」
で、幽霊さんの姿を見て、何やら叫んでいる族長たち。
オリューレさんに翻訳してもらいましょう。
(これは妊婦の霊ラン・スィルではないかだの、人の血を吸ったり内臓を食べる幽霊のポンティアナックではないかと騒いでいます。それも昼間に出てくるとは一体どうしたことだろうと不安がっていますね)
(んじゃ私が沈静化してあげるわ。ちょいとお待ち)と、スクルドさんが取り出したのは…ういきょうの枯れ束じゃないですか。
(そ、あんたが得意なあれよ。私と一緒に一振りしてみなさい)で、スクルド先生の後ろに立って右手を添えて2人して一振り。
地面に崩れ落ちたままの幽霊さんから瘴気が消え失せる気配がしますが。
(マリアヴェッラ。どうもこの幽霊、人間たちの気配を受けて餌と認識したようよ。このまま私たちが連れ去るお芝居をして回収してしまいましょう。もし万が一、別の何かが現れてしまうと困るから私が結界を張っておくわね)と、ういきょうをどこかに仕舞い込む先生です。
あー、北欧神種族の結界ですか…。
(ルルドでアトロポスたちが使うものと同じようなもんだから、人への害はないわよ。心配しなさんな)
で、スクルド先生が首輪に手をかけると、薄汚れた木槌がその右手に握られます。
(私ではトールハンマーの全力発揮は無理。ま、こうして持ってるだけでいいでしょう)
しかし、その古ぼけた木槌の外観とは裏腹に、人に畏怖を抱かせる何かが出ているのでしょうか。族長たちが一斉に地面に座ってひれ伏しています。
(ま、フレイヤもこれを使いこなしてたら、あんたたちはもっと苦戦したかも知れない代物なんだけどね。とりあえずアルトリーネ、幽霊を車の中に入れておいて)
(しばるとかしなくてよいですか)
(あなたたちの使っている紙束があるわよね。あれを紐に変えて縛る程度でいいわよ)
つまり、はりせんをムチに変えろと。
では、アレーゼおばさまから預かっている方ではなくて元々あたしが持っている方のムチで縛っておきましょう。
(ま、これで化け物避けの祭礼とやら,話がしやすくなったんじゃない?)
確かにそうですけど…。
とりあえず族長や他の皆様と向かい合う形で丸太椅子に座ると、まずはお化けについてのお話を聞くことに。
(マリアヴェッラ陛下…彼らも怯えていますが、その理由がわかりました。どうも実際に幽霊に覗かれるだけではなくて、襲われかけた話もあるようです)
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