上 下
133 / 366

夏の仮装肝試し祭り!・5

しおりを挟む
で、久しぶりに痴女宮に来たという直美さんですが、万一の支援救援の話を円滑にしたいという事で痴女宮を見学しておきたいとの要望を頂きました。

それならばと痴女宮の構造もよく知っている部類の聖院母様や向こうのエマちゃんも含めて、とりあえず主要変更区処を中心に見学して回る事に。

「まぁ離宮以外の増改築の内容はうちとほぼ、変わりませんね。ただ…中の人の顔ぶれが違うくらいかな。あと聖院の制服、ベラちゃん…陛下はご存知と思いますが、痴女皇国準拠のどすけべ制服に切り替え中です。瞳さんには敢えて旧型制服をお渡ししてますけど…」

そーなんですよねーと頷く話が、ふたつ。

まず、あたし自身は聖院に勤務していた時期があるので、皇帝という立場以前に直美さんとは顔馴染みです。

で、頷く話の二つ目が…制服。

痴女皇国仕様の露出度高めのものに切り替わっていってる件ですが、聖院では賛否両論。

「しほちゃんとわたしは苦手な部類ですねぇ。アンジェはこっちがイイって言ってますけど」

まぁ、日本人はそうなるよね。

瞳さんも痴女皇国制服の過激なバージョンを知っているだけに、これは直美さんの処置に感謝しているようです。

「ベラ子陛下やアルトさんを体型の基準にされましても…」

わかる、わかるわよ瞳さん。

あたしとか連邦社会出身者でも欧米系で身体に自信がある人は普通に着るけど、瞳さんとか理恵パイセンは嫌がりますよね。

たのきちに強制更衣をかけて出勤を強要したら激怒してましたけど。

(当たり前じゃ!よりによってあたしに、あんたみたいな紐水着とか布面積極小物件着せて何させるつもりよ!ベラちゃんの今月のインセンティブ報酬、財務にお願いしてボッシュートしてもらうわよ!)

自分の懐に入れようとしないのがたのきちらしい所ですが、あたしにしてみれば堪ったものじゃありません。

かような罪務女の暴挙、許すと思うてか。

聖環懲罰アプリを密かに起動、目標…文教局長・田野瀬麻里子。

くらえ、ベラちゃんアタック。

(な、何これやめて!わひゃひゃひゃひゃ、あは、あは頼むからやめてベラちゃん!)

ほほほほほ。

あんたの弱点くらい分かっとるわ。

で…たのきちに何をしてやったかと申しますと、奴のブラを変形させて両腋と脇腹をくすぐってやったのです。

ええ、奴は案外に敏感でして、しかも笑い性。

これなら露骨なパワハラとはならないでしょう。この程度で済ませてあげた事に感謝おしっ。

(誰が感謝…わかったわかったわかりました!報酬カットは撤回するからパンツまで変な動きさせんのやめて!)

わかればええねん。

(ベラ子陛下って割と情け容赦、ありませんよね…まぁ、聖院の人間は結構ビシバシやるから罰自体は大甘だと思いますけど)

(確かに…本当にお尻、叩かれてましたね…)

直美さんと瞳さんが感想を述べていますが、聖院はお尻叩きで済めばまだ緩い方です。

…あっちのマリーちゃん、往復ビンタするし、それでもダメなら1ヶ月くらいは平気でシヨン城に送って修行、させるの知っていますから…。

(最近は体罰が嫌な場合、モントルー以外に中洲泡風呂国か三河監獄国を選ばせていますよ。選択の権利は奪っていません)

直美さん…それ、選択になってないですよ。

あたしでもそれを突きつけられたら悩む取り合わせです…いや待って、監獄国一択よそれっ。

(それはベラ子陛下のような方に限ります。体力・反射神経・知能・精気収集能力全てに於いて優秀な成績を修めた痴女種でないと監獄国では辛いと思いますよ…)

まぁ、確かにそれはあるかも知れません。

ただ…監獄国の警備担当は現地の比丘尼国巫女さんや囚人向けの養成教育を含めて、痴女皇国女官を常時数十名派遣していたりするのですよ? むろん優秀な罪人も、刑期短縮や報酬を売りにして行かせています。

(ただ…聖院の罪人寮や工場より、夏が辛いという話もありまして、その辺は改善が必要かも知れません)

確かに完全冷房は難しいですからね、工場というのは。

(だから駄洒落冷凍設備を試験的に置かせてもらったのよ…あれで飲料水を冷やす氷を作る冷凍機とか、工場棟屋根の排熱パネル用散水冷却設備の成果が確認できたのは大きかったわよ。痴女宮前の工場街にも導入したでしょ?)

パイセンが連絡してきましたけど、痴女皇国側では以前の工場のお話にあった熱対策、駄洒落菌の活用で更に強化されたみたいです。

最初はつまらない駄洒落を聞かされたくない話が出てきたようですが、強力な冷気には誰もが効き目を認めざるを得なかったとか。

だからと言って駄洒落宗、あまり布教させたくはないのですけど…。

(うちらはスコールが活用できるからな。そう言うたら、そろそろひと雨来る頃ちゃうか)

折りしも我々は罪人寮21階の警務局管制室を訪ねる直前でしたが、この管制室は窓がありませんから外の様子を直接には伺えません。

ですが、壁面の監視映像モニタのうち工場街や参道に門前町の遠景を映しているものや、聖院学院の屋上から淋の森や港町方向を向いているカメラの映像からは、雨に煙る外の景色が映し出されています。

場所によっては放熱屋根を濡らす雨が蒸発した湯気、盛大に上げているところもありますね。

むろん黒御影石をふんだんに使った痴女宮や連続する建物の外壁温度もそれなりに下がっていますが、こちらはそもそも外壁冷却の水、日中はいまだに常時流しているせいもあって、湯気を出すには至っていない模様。

(初代様に聞いたけど、あの水って単なる冷却だけじゃなしに直射日光を緩和する役目もあるらしいから、流すのは切るに切れないのよ。害虫や害性生物の侵入や付着を防ぐ意味もあるそうだし。普通なら絶対に蚊やハエやゴキブリが入り込むはずだけど、見た事ないでしょ?)

あーそうか、痴女宮の建物の維持は設備部…国土局のお仕事でしたね。

(まぁ、女官種の時と違って熱でペストコントロールをしようにも危険な場合あるからねぇ)

ちなみに伝染性病原体を持っていても、あまり心配しなくて良いらしいです。

の際に還流精気で治してしまう対象に入っております。人によろしくないものはその際に死に絶えます…ただ、下半身の病だけは治してからですがね!)と、二代目様がなぜかお怒りに。

(淋の森。あれが何故淋の森と呼ばれているか、母が聖院を建てる際に呼び寄せた人足や他の者が理由で淋しい病が流行ったせいで淋の森と呼ばれているの、マリアヴェッラもご存知でしょ?)

…はぁ…。つまりあの森で寂しい病気が流行したの、初代様にも原因が…。

(何分にも、暇が出来ると自ら男を漁りに)

(ベルナルディーゼ! 言いがかりですわよ!)

うそをつけっ。

これは二代目様を支持しておきましょう。

だって…昔のゴート王国か何か知りませんが、インドネシアからはるばるフランスまで男を漁りに行ったに等しい実績をお持ちの初代様ですよ。

淋の森みたいな場所を見逃す訳はない。あたしは確信しました。

それと初代様。少々お聞きしたい事が。

その時は女官種の身体ですよね。

どんなお姿で外出なさってたんですか。

だいたい、想像つきますけどね。

(そりゃ当時の母も私も金衣ですから、例の裸同然の姿ですわね。あー…母様。マリアヴェッラが何を言いたいか理解いたしましたわ。即ち、淋の森や島の中をさまよう母様を目撃した者がですね)

でしょ? いくらお化け退治しても、当のご本人がお化けに見られる行為をなさっては。

そして初代様。

まさかとは思いますが、人様の行為を覗き見とか、そういう事なさってないでしょうね。

(ななななな何を申しますか! わたくしは単に下々の振る舞いを観察…!)

二代目様。ゲロしましたコンフェシオーネ

(別に見ること自体は、私もとやかく申すつもりはございません。人の暮らしを知り精気収集に役立てるも我ら女官の務め。ですが…バレないように出来るのに、何でわざわざすぐそばまで行って眺めたり、あげく乱入もががががが!)

(ベルナルディーゼ…貴女も淋の森をお使いになっていたのではなくて? マリアヴェッラ、記憶を辿れば分かりますがベルナルディーゼも決してではございませんわよ。何せリリエネーゼを産む際にはわざわざ茸島まで赴いて年頃の稚児を漁りにですねっ)

はぁ。

家族会の皆様、一つだけ。

あたしとしては今後ですね、下半身の振る舞いに関して初代様と二代目様から指導を受けたとしても素直にはいそうですかと黙って従うには、あまりにも色々考えたい話を聞かされたのですが。

こんなどすけべおばちゃん達が聖院を開闢かいびゃくして諸々を定めた。

こんな話を外星人なり異世界人なり、地球外または人類以外の知性ある存在の方々に聞かれたとして、果たしてあたしたちは地球を代表する知的生命体だと自らを紹介できるのだろうか。

特に宇宙空間に連合国家を作っているような方面には強くお聞きしたいのです。果たしてこんな連中と国交を結ぶとか、逆にお互いを滅ぼし合うような戦争をする価値があるのでしょうかと。

(あそこは特に嫌がると思うからやめておけ。まだスローライフを送る世界の方が、うちらとの親和性は高いと思うぞ)

少なくとも、我々は決して酒と性欲に溺れた初代様のお姉さんおかみさまを単純に非難出来なくなったと思うのです。

ですからですねぇ、さっきからご機嫌斜めの瞳さん相手にせめてライトSMくらいはさせてくださいよ。

今の瞳さん、正直、ちんぽで黙らせないとテコでもご機嫌を直さないぞという意志に満ち溢れているんです。あたしとしてはものすごく困ってる状態なんですよ?

(それはスクルドに言いなさい…母様、瞳さんがあまり乱れ過ぎるとクリスさんに影響が出るから、スクルドはマリアヴェッラを規制したがっているのですよね)

(スクルド…痴女皇国枢密を率いる立場ではマリアヴェッラの方針にも一理あり。全ての女官はこの子に無条件で股を開き求めに応じる統治をさせないと、今度はわがままを言い出す者が後を絶ちません。クリス殿への悪影響についてはあたくしが規制しますから、せめて瞳さんについては、マリアヴェッラに任せるわけには参りませんかしら?)

わーいやったーと瞳さん方面から心話が聞こえて来た気もしますが無視します。

何せ、スクルドさんの言い分も理解できなくはありません。

しかも我々の未来がかかっているとあっては、流石にあたしの構成要素の半分を占めるルクレツィア母様譲りの「今を生きて何が悪い」ラテン系思考には待ったをかけるしかありません。

被害があたしだけで済めば良いのですが、何分にも全世界で二万を超す女官、更には痴女皇国や聖院と協力関係にある国家にも迷惑をかけかねない話。

一応はあたしにも責任感めいた感情はありますからね…みなさん…。

で、スクルドさんから心話が返って来ましたが。

(とりあえず聖院から来た飛行機あるでしょ。あれに私も乗って欲しいって聖院のマリアリーゼから話が来たから…で、室見理恵と二人で罪人寮の下の駅に行くからそこで合流しましょう。雨が止んだら飛ばすのよね?)

そんな訳で罪人寮地下駅に来ました。改札の前で手を振っているパイセンの横にスクルドさんがいますが…よほど痴女皇国の女官姿が嫌なのでしょうか。

ええ、スクルド先生姿ですが…この後で飛行機乗るし、旅客機じゃないんですから強制更衣させます。

えいっ。

「何よこの姿はぁっ」

ふん。

パイセンと同じ国土局の事務服…とね服の色違い紫色で勘弁したるわっ。

あ、教師姿の下のどすけべ下着までは変えてないから我慢してくださいっ。

「むぐぐぐ…しかしあんたたち、これ…どう見ても17世紀の地球に存在していい物じゃないわよ…よくアトロポスたちもパルカエも怒らないわよね」

駅を見回しながらスクルド先生が呆れていますが、とりあえず改札を抜けましょう。パイセンがどこかに連絡を取ると、駅詰めの警備騎士が団体出入り口の低い柵を開けてくれます。

そして、ホームに降りるエスカレーターも幅広の通勤対応仕様ですが…。

実はこの罪人寮駅、本当なら天王寺からあそこ高校に通学するのに乗る電車の難波駅の昔の姿と似た形になっておりまして、到着した電車から全員降りると奥の線路で折り返して、乗る人専用ホームに入って来るようになっています。

確かに罪人の皆様の出勤時、次から次に来る人を乗せる必要がありますからねぇ。

そしてスコールが終わった後の大混雑を嫌ってか、早出する罪人の方々もちらほらといるホームです。

「歩かずに済むのはありがたいのですが、混む時は混みますからねぇ」などなど罪人の方の感想を聞いている直美さん。

「聖院側のバスターミナルも似たようなものですからね。ただ…ゆくゆくは地下鉄を作るか、監獄国の工場を拡大する方向で考えようとしていますよ」

「そう言うたらベラちゃん、何でここの電車、わざわざニュート◯ムみたいな小さいのにしたんよ。普通の電車で良かったんちゃうん…あ、専門家てつこがおるか」

「聖院のジーナさんにまで鉄子扱いは悲しいんですけど、一番大きい理由は勾配対策です。割と坂がきついんですよ。ほら…このトンネル、いざという時は工場街からの緊急排水路にもなってますから。で、水を流すと漏電の危険もありますから、露出した電線や接触面を設けないように、誘導給電方式で動かす小さめのものにしたんです」

ふむふむ。やはり専門家ですねぇ。

(ベーラーちゃーん。スケアクロウの機内で犯すわよっ)

はいはい。後でなんぼでも辱めてあげますから説明お願いします。

「全く…で、実はこの電車、改装で精気発電システムを付けてるんですよ。ただ、今から工場で働く人から吸うのは出来たら避けたい。けれど工場街に行く電車は坂道を上がります。じゃ、どうするか」来た電車に乗りながら説明するパイセン。

「実は工場帰りの電車に乗った罪人の皆様から少しずつ吸ってます。システムとしては無人警備機の、めじぇど君のそれを流用したんですけどね。で、罪人寮地下に着いた電車は、頂いた精気を精気発電機に回します。そして、工場街行き電車が走る時に下り勾配で発電した戻し電力と併せて精気発電機が電気を供給。坂道を下ってくる戻り電車の回生発電機の補助に精気を使ってると説明したらお分かり頂けますか」

「なるほどな、システムとしてなるべく外部の電気を使わんようにしたいのはわかった。で、急坂を上がり下がりさせたいからタイヤ付きの電車にしたかったという訳かいな」

「まぁそんなところですね。あと、ここの工場も無限に拡張する訳じゃないです。将来は日本や欧米に工業地帯を作るための実験施設でもありますから、今よりさらに人を増やして本格的なコンビナートを作る話にはなっていないのです。ですから、ちゃんとした電車を通勤用に入れるまでもないという試算はしてから敷いてはいるんですよ」

「そう言えば、需要が少なくなった場合は電車を減らしたりバスをここに走らせる事も考えてるって言っておられた話、月間痴女宮で拝見した記憶が」直美さんも割とマメにあれ、読んでるんですよねぇ…あたしも月々聖院を読んでないと怒られますから、そっちはなるべく目を通すようにしているんですけど…。

「そーそー。聖院にあのバスまがいの珍珍電車や連接バスを入れているのと同じ理由よ。聖院も痴女宮もあくまで女官や罪人を団体生活させるための施設であって、恒久的に何十年も住まわせて子供を作らせる住宅施設じゃないわよね。だからこそ、痴女宮の人口が減ることも視野に入れて導入した訳よ」

なるほど、なかなか考えてますねパイセン。

「あたしの趣味出していいんならもっと趣味的なもん入れるわよ? 例えばベラちゃんは嫌がるだろうけど、リヨンの地下鉄とかシュツットガルトの珍珍電車みたいに歯車みたいな線路敷いて走らせる電車もあんのよね、急勾配対策。箱根の電車みたいに無茶させる手もあるけど、トンネルの中の冷房か換気を強める必要、あるからねぇ」

まぁ、パイセンが趣味を追求せずにご実家にも気を配った結果、このタイヤ電車にしたと思いましょう。

「それはそうとさ、空港に着いたら駅で大日神と幽霊が待ってるって言ってるけど」

どうやって行った…。

(わしのでのれたぞ。ゆうれいにはとんでもろたけどな)

こらこらこらこらこら。

無賃乗車させないで下さいよ…一応は人目があるんですから…。

(いや、けいびの女官も通してくれたぞ。ゆうれいならしかたありませんよねぇって)

通したんかい…。

まぁ、警備についてはペルセポネーゼちゃんやアルトさんの範囲です。

あたしがくだくだしく言う話ではないでしょう。

面倒な事は担当者に投げる。

そんな姿勢で良きに計らって頂くのも皇帝の姿勢ではないでしょうか。

(単に丸投げしてるだけの気がするわよ。マリアヴェッラもマメなのかちゃらんぽらんなのか、よくわかんないところもあるわね。あんた一応モイラの管轄だからアトロポスに聞いてみたげるわ)

聞かんでええわいっ。

(スクルド…ふかく考えるな。だいたい、マリアヴェッラのたんじょうびはがんらいは7月だったはずなんだが…こちらの運命設定しりょう、はちがつ十五日になっておるのだぞ…ついていたには「マリアリーゼと被る誕生日は困るのと、家族会の慰霊祭おぼんに合わせる都合で獅子座にしてくれ」とかかれていたが…たのむからこういう変更はほかにも影響をおよぼすからやめてくれとたのんだのだがな…)

あのぉ。

人の誕生日、勝手にいじらないで欲しいのですが。

(われわれがいじったわけではないのだぞ…)

ええ、承知しております。だいたいの犯人もわかっています。今度は陰毛だけで済ませません。

昔の欧州貴族、頭が寂しくなった場合はヅラを着用していたらしいので、それに倣って頭もツルツルにして差し上げましょう。

絶対にこんなん、サン=ジェルマンのおっさんがやったに決まってます。

(冤罪だろ!せめて調べてから言え!)

(あーそれ頼んだのあたし。今回はおっさん悪くないから、薬用紫電○…菅野さんの愛機じゃないぞ…を差し入れておいた。ちなみにサン=ジェルマンは頭も気にしているから触れてやるなよ)

(マリアリーゼ…僕にそれ効くのかよ…毛生え薬くらい自分で作るからいいよ…一応はこれでも錬金術師なんだぞ…)

悲しみに満ちた心話が返ってきました。医者の不養生、と言うのでしょうか。

少なくとも頭髪については懲罰対象から除外してあげよう。

そう思いました。

で、駅に着きまして皆でぞろぞろと聖院空港の門をくぐります。

と言っても普段はめじぇど君がうろちょろしているだけの飛行場ですが、とりあえずスケアクロウのための大きな格納庫があるのと、同じくスケアクロウを水平滑走で離着陸させるためには充分な広さと長さの滑走路があるので、敷地だけは広いのです。

そして雨上がりの格納庫前の広い空間に引き出された黒い機体。

言うまでもなく聖院所属機のHT013号機、G型スケアクロウです。

で、聖院母様の指図に従って、他の人を乗せて行きます。

今回の座席割りはこんな感じで。

ジーナ べらこ
えまこ なおみ
りええ えまこ2
おかみ すくるど
すずか ゆうれい
ひとみ

あ、今回の機内のエマちゃんは聖院の方のエマちゃんですよ。

そしてテキパキと機外点検を済ませてた母様とあたしも機内へ。

階段エアステア収納、ドアも閉めて…。ドアモードレバーをフライト側に倒してから操縦席区画にお邪魔します。

そして右側の副操縦士席に着くと、ペダル位置を調整してアームレストを出してのして座席周りをあたしの身体に合わせてから、聖院母様と聖院エマちゃんと三人で発進準備。

「今回の目標やけど、DPSに該当する地点をまずは目指すからな。直美ちゃん、デンパサール空港の座標呼び出して、こっちの茸島に重ねてみ。んで、半島の先の岬の付け根部に座標が合うたら、そこを目標にしてくれてええわ」

航法士席の直美ちゃんに聖院母様が指示を飛ばされますと、こちらの正面のディスプレイパネルに出たナビ表示にも処理過程が出ます。

「ほぼ真南に飛行して行く事になるな。とりあえずはFL380で通常偵察して、赤外線反応をマーク。日没後に高度を落として赤外反応が多かった場所を幽霊さんと鈴鹿さんとおかみ様が反応を探ると」

ええ、雨上がり直後に飛ばす理由がこれです。痴女島から茸島までは直線距離で500km程度、スケアクロウなら1時間あれば余裕で到着しています。

そして、雨上がりから日没までの炊事の煙と赤外線反応を高度1万メートルからチェックして人口の多い場所をあらかじめマークしておいて、日没後に高度を落として心霊探知をかけようという作戦です。

なにせスケアクロウM型とこのG型、まさに「ICD推進機をアイドリング状態にして滑空しながら侵入や偵察を行う」こうした作戦で使うための飛行機です。

ただ、痴女島ほどではありませんが島の中央部に大きな山とキンタマーニ高原に該当する火口高原が存在する茸島の風向や風速を鑑みて、スケアクロウの飛行指導教官資格を持っている母様が飛ばす事で安全性を確保しようとなりました。

そして…。

「よし、主翼モード・シングルトランスファ」

「主翼モードセレクタ・シングルトランスファ」

何と今回、聖院空港の余裕ある滑走路周りの空間を利用して、ハナっから主翼を単葉モードにして離陸する事になりまして…。

あたしの側の窓から斜め後方を監視していますが、下側主翼がずずーっと外側に向けて移動して行きます。

そして上へ引き上げられて一枚のながーい翼に変わるまで、地上ですと約5秒程度。

ただ、さすがに長い翼の状態で滑走路に向かうと一部の格納庫に接触させかねないという事で、この作業が可能な場所は滑走路の端のターンパッド…飛行機の向きを変えるためにくるっと回れる場所で行う決まりになっています。

で、あたしの側のタッチパネル兼マルチファンクションモニタ画面に、主翼状態とロック装置や翼内冷却回路構成状況が表示され、チェック項目が全て緑色に変わって主翼位置変更完了を示して来ます。

そして夕日の方向に向かうために、遮光バイザーやサングラスを用意する前の二人。

「えー皆様、本機はこれより痴女島聖院空港を離陸しまして一路バリ島いえ茸島を目指して飛行します。飛行時間は約40分程度を予定しておりますが、お手洗い他は離陸後一定高度到達まではご遠慮下さい。痴女宮エマちゃん、テイクオフクリアランス・プリーズ」

(テイクオフクリアランス、デリバリー。出発よし)

聖院母様の右手がスロットルレバーにかかり、テイクオフスイッチを押しますと、2本のレバーと、その間に挟まった境界層制御エンジンのスロットルレバーがするすると前へ動いて行きます。

スケアクロウの上昇が見た目以上に速いのは以前にもお伝えしましたが、ICDという慣性制御駆動装置、敢えて前進方向のみに使ってもその速さはかなりのものです。

何せ、戦闘機の離陸に近い早さで離陸決心速度まで加速しますからね。

「V1…ローテート…V2、ギアアップ」あたしがギアレバーを操作すると、お尻の向こうの方からかすかに機械が動く振動が伝わってきます。

前方のモニタ画面はもちろん、正面の窓にかかるヘッドアップディスプレイ表示部にもLanding gear up completeという文字が。

オートパイロットを入れてフラップを自動制御可能になるまで2分、離陸してから5分かからずに高度1万メートルまで上昇するスケアクロウですが、前方はるか先には早々と茸島らしき山が見えています。

この飛行機、ヴィクターという昔の爆撃機にわざと似せた変な機首なのは前にも話が出ていましたけど、そのせいで機首から先の下の方の見晴し、割といいんですよ。

「まぁ、高度1万メートルあったら下から騒がれる事もあらへんやろ。現地の雲はわざと飛ばしてるんやろ?」気象レーダー表示を確認しながら聖院母様が聞いてこられます。

「ええ、偵察の邪魔になるだろうからと姉が鉄扇公女能力を使っているはずです。あの高い山にも雲、かかってませんしね」

「それはいいんだけど…何かこう、落ち着かないわねぇ」と後ろから怨嗟えんさの声が。

スクルドさん…もしかして高所恐怖症とか、飛行機が苦手な部類ですか。

「あっマリアヴェッラ、いらんこと考えたでしょ!」

もちろんです。今度、人様の運命をいじくるとか短縮するとか言い出したひには、絶対にバンシーの後ろに乗せて飛んで差し上げようと思いましたから。

本当はドゥブルヴェがその手の恐怖体験にもってこいなのは分かっているんですけど、あたしはあれを飛ばす訓練、受けてませんからねぇ。

いえ、バンシーで普通に飛ぶ高度3万メートルまで上昇するだけですよ。

そんなに怖いものじゃありませんから。

「ベラちゃん。バンシーでもリヒートブースター全開の水平発進からズーム上昇したらな、途中で必ず9Gかかるフライトエンベロープになるの知ってて言うてるやろ」

…聖院母様!それバラしちゃダメですって!

いえ、スクルドさんのご尊顔がGで潰されるヒラメ状態になるのを記録したくて飛ばすわけではありません。

今後、痴女皇国に関わるのであれば一度は絶対に体験しておかないと、いざ何かあった際にお邪魔虫扱い。

あたしは国家の客分兼アドバイザーに、必要な業務訓練を受けて頂くようにお願いしているだけです。

あ、飛行の際に危険物は預かりますからね。運命のはさみ持って後ろに乗らないでくださいよ。漫画の単行本とか薄い本とか精巧などすけべお人形とか詰めた紙袋くらいならいいですけど。

(この性格の良さは誰から来てるのよ…ラケシスとアトロポス…あんたたち、マリアヴェッラの性格設定の業務ミスって事で報告入れとくからね…あとマリアヴェッラ、戦闘機に私を載せようとした時点であんたの運命早めに終わるようにするわよ、真剣に…)

やれるもんならやってみやがれ。

(ぐぐぐぐぐ、あたしが簡単にあんたの未来をいじれないと誰から聞いたのよ!そいつを代わりに裁定するわ…)

そっちで調べてください。あたしの知った事ではありません。

まぁ、勘弁して欲しかったらあたしのご機嫌を損ねない事ですよ、ふふふ。

(後で泣かすわよ…まぁいいわ、とりあえず現地に到着後、日没の後であんたと伊藤瞳に頼みたい事があんのよ…と言っても、あたしが依頼するんじゃなくて大日神のリクエストよ。あんたらが一番適任らしいからね?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...