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アルトリーネの冬修行・ブロッケン山死の行軍・4
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「確かにアレーゼおばさまの指摘、納得できるものではあります」と、あたしは室内の同席者全員に向かって宣言します。
「ただ…ポワカール閣下、この度の我々への協力行為について、貴国の次期大統領選挙への影響をお考えのようですが…むろん、私どもは閣下に全裸将軍を演じて頂く案に賛成はしております。ですが、正直痴女皇国世界のドイツで素っ裸になって、貴国の国民が好印象を抱くかどうかという懸念があるのですけど」
そうなんですよ。
フランス大統領選挙、この4月に実施されるんです。
ポワカール閣下にとっては改選でして、保守派も含めた対立候補数名の人気、今ひとつポワカール閣下より振るわないという事もあり二選目は確実と見られています。
ですので、何もこっちまで来て余計な事せんでも良いのでは。
これがあたしの思いです。
更に、フランス共和国のために脱ぐのならともかく、痴女皇国世界の…それもドイツのために脱ぐ。
これは下手をすると、フランス共和国の有権者の皆様にはネガティブイメージを与えてしまわないか。
更には、ポワカール閣下がゼンラスキー将軍役をする必要性、フランス共和国の有権者に対しては痴女皇国世界についての理解を必要とするのではないか。
痴女皇国や痴女種については連邦世界全ての人々、特に利害関係をあまり理解できない一般市民の方やNBとの宥和政策反対派の方、更には女性保護主義や性別に関する利権にうるさい方々とは色々な軋轢が予想されますので、情報については慎重かつ小出ししようとしています。
そこをフランスに先走られると、困ったことになるのでは。
この辺があたくしマリアヴェッラの懸念です。
要はフランス以外の国にわっざわざ来て脱いで、要らぬお節介をしているのではないか。更にはフランス共和国が元来行うべき内政や外交の舵取りをほったらかしにして、珍妙な異世界で遊んでいると見られないか。
せっかくNBとの提携事業を端緒につけてフランス国内世論では好感度が上がっているとされる大統領閣下にですね、こういった悪評が立つのを恐れているのですよ、あたしは。
で、フランスの大統領選挙制度ですが、同じ大統領制を敷いているアメリカ合衆国、そしてイタリアとは少し違います。アメリカは各州ごとに選挙人…花札な方なら花札な方を支持する選挙人に対して票を入れますよね。
これがイタリアだと国会の上院下院の議員さん、そして各州知事が大統領候補に票を投じます。では、フランスはどうなのか。
具体的には、有権者の票が直接に反映されます。
例えばドミニクさんとジョスリンが閣下に票を投じたとしましょう。それは直接、ポワカール候補への支持票として集計されます。いわゆる直接選挙って制度なんですよ。
そして第一回投票の結果、ポワカール候補が有権者票の過半数を獲得すれば、大統領続投決定です。
しかし、数名の候補者の誰もが過半数を獲得していない場合、最多得票者と第二位得票者…ま、一番票が多かった方と二番目の方が第二回投票に臨み、多かった方が大統領として選ばれます。
ですから有権者が抱く大統領候補者への印象や心証、かなり露骨に選挙結果に反映されてしまうみたいなのです。
そそ、フランスには首相もいらっしゃいますよ。
ただし、こちらは日本の内閣総理大臣が選ばれる制度とほぼ同じで、国民議会の政権与党の長が首相に選出されてその時の大統領が任命する流れになるそうです。
ただ…議会の与党と大統領の所属政党が違うと、少し困ったことになりますよね。
(そのような場合…私どもの祖国ではCohabitation、すなわち同棲状態と呼んでいますけど、大統領が外交や軍事と言った対外的影響力のある分野、首相は共和国内政についてそれぞれ役割を分担する慣例になっております)とドミニクさんから説明が入りました。
(そして得票に関する重要な件がありますよ。例のルルドの奇跡、あれを起こした関係者が痴女皇国幹部であると薄々気付いている国民が増加しております。加えて…閣下)
(ああ、マリアヴェッラ陛下。実は我が共和国民に痴女皇国の存在を完全秘匿するのは困難であるというフランス国内治安総局のレポートがジョスリーヌ君の名目上司から寄せられたのですよ。理由は…アルストム社とダッソー社にタレス社、そしてフランスに本社を持つ自動車メーカーの従業員や関係者。特に元々が軍需産業ではないアルストム社とルノーとPSAがNBや痴女皇国向けの生産品を手がけている関係上、勤務する従業員から噂の形を取って情報流出が観測されておりましてね)
と、ポワカール閣下から説明を受けますが。
それは少し、まずい気がします。
(ベラ子。それ敢えて黙認って閣下には伝えてるから)
どーしてですかねーさん。
(光電子的な拡散ならともかく、口頭伝聞まで規制しちまうのって、駄洒落菌の規制と同じで、言わば言論規制になるだろ。しかもうちに好意的だったり、あるいは有益な話なら、敢えて広めるのをストップしなくてもって判断だな。それと…ジョスリン)
(はいマリアリーゼ陛下。本国とやり取りしましたが、ルルドの奇跡やアルストムへの大量受注並びにテンプレス級航宙航空母艦兼多目的輸送艦を共和国にリース頂くに当たっての兵装艤装、更にはヴァンパイア級フリゲート艦の連邦宇宙軍仕様リース艦の装備艤装事業、これら全ては大統領閣下の個人的交友の相手である某異世界都市国家との友好の成果である。と、好況活況に沸く関連業界の従業員の間では既知の事実であるとの調査結果を頂きました…で、マリアヴェッラ陛下、噂の出所を要約しますと)
はいはい。
(すなわち、噂の出所は痴女皇国の出資または口利きで潤う共和国基幹産業の従業員と、その家族なのです。日々の生活も豊かになり、ルルドの奇跡とは違う意味で幸福を享受する彼らが、その喜びの原因をついつい口走っているとの調査結果を頂いております)
(まぁ要は、うちの発注した仕事のおかげでフランス共和国はウハウハって寸法よ。あと自動車だが、ルノーがやっちゃえ社と共同開発したシリースハイブリッドパワーパックを載せてる車種についてだがな、NBでノックダウン生産工場が動いてるんだわ。現状は完成品をNBに輸入している監獄社の自動車でも、最終的にはNBで組立工を賄えるようになった暁には現地生産になるけどな)
(更にはメトロや鉄道駅にたむろするスリや置き引きの類。これら住所不定または正業を持たない犯罪者については順次、Hôtel de divertissement Vincennes付随の転送設備を経由して労働力化頂いている事でパリの治安が急速に回復しつつあります。犯罪者傾向を持つ外国人の流入も観測されてはおりますが、これらも順次確保の方向で進めているとの報告を受けております)
あ、オテル・ド・ディバテスメント・ヴァンセンヌ…つまりヴァンセンヌ娯楽館という名のフランス共和国の実質的な痴女皇国大使館にして野外売春事業の拠点ですが、ここの庶務長にはとりあえず黄美娜さんを任命しています。
で、娯楽館長には以前のをかま狩り作戦の後でフランス政府から痴女皇国に派遣されたアンヌマリー・ヴィゼアムスキさんが改めて二代目館長に就任。…初代館長は不正経理が発覚して処分された件も思い出して頂ければ、と思います。
つまり、パリの地理に明るく、犯罪組織の動向把握はお手の物という黄さんの実力発揮の場が昔の職場の所在地という訳です。
そして娯楽館としての活動で得られた精気と、行方不明処分が可能な犯罪者は片端から痴女皇国に送り込まれる流れとなっております。
はい。こうした痴女皇国が絡んだ政策、表には決して出す事の出来ないものも多いのですが、噂の形でフランス国内に流布しておられると。
更にはポワカール閣下の人徳と能力の賜物で謎の異世界勢力を共和国の共同事業者として提携し、通常ならば得られないであろう利益をもたらしているという風聞を広める情報作戦を実施しているという事ですね。
そして痴女皇国側の世界の安定化を目指した国際的行動に協力する必要性が発生したから、大統領が全裸になる。
この筋書きを説明されます。
言うなれば全裸で通勤するウクライナ大統領役を演じたコメディアンが、その後本物のウクライナ大統領になった過程と似たような演技をすることを「現役で」「異世界で」行うという事で国民の理解と同情を得ようという話にしたいと。
でまぁ、件のウクライナの大統領は全裸芸が得意であり、その芸風で世界の支持を得て侵略勢力を跳ね除けた際に、当時のフランス大統領が核戦争を何とかして回避しようとウクライナ支援に尽力した件も含めて連邦世界では語り草になっています。
普通なら全裸芸、それも男性のそれなんてひんしゅくものですが、侵略国家が報道規制や民衆弾圧、更には非人道的軍事行動に躊躇がない「民主主義の敵」だったことから逆に西側社会では自由と権利の象徴とみなされてしまい、いまだに語り草になっているのですよ…。
なにせ侵略側の頭が禿げた大統領があらぬオカルトめいた野望達成と自国利益研確保を目指した結果、西側諸国が足並み揃えて経済制裁を行う中で唯一泣きつけそうな、時のフランス共和国大統領に対し頻繁に電話をかけてきていたそうです。
そして禿げた大統領の妄想めいたあれこれの話を聞かされ心労著しい疲労困憊した姿がエリゼー宮詰めの報道カメラマンによって世界中に広められ、禿げ専属介護員扱いされた話もいまだ語り継がれてるのですよ…。
更に、ドミニクさんいわく、全裸芸が受けて大統領になった男が、逃げ出すどころか戦火に焼かれる首都に留まり続けて民衆を鼓舞し侵略を跳ね除けた。
その意外な英雄的行動に範を取らんとして提携事業先に協力する。
これがかつて第二次世界大戦で国土を侵略された歴史、いまだに学校できっちり教えているというフランス共和国…言論の自由を重視して宗教を揶揄する権利を尊重する国の人々の琴線に触れないはずがない。
更には後にフランス人が再開発して栄える事になるバーデン=バーデンを非道な侵略者から守り抜くための手助けをする、恩には恩で返す行為をアピールするといった説明を、大統領閣下とドミニクさんから受けます。
なんかこう、いかにもあざとい企みですが、我々痴女皇国としてはフランスの選挙でポワカール閣下が再選続投となる方がありがたい。可能な限り再選されて欲しい。
これは姉から説明されずとも、あたしにも容易に理解できる話です。
(とりあえずフランス国内向けの選挙宣伝戦略については大統領閣下の陣営に任せるとしようや。最悪の場合の修正手段も提供できなくはないしな)
ねーさんもこう言ってますしねぇ…。
差し当たり、対フランス向けの広報映像や取材については、ドミニクさんを含めたフランス側に一任。
ただし現地で作戦を阻害しないよう、痴女種が取材を行う事を条件にさせていただく内容で合意いたしました。
そして南下勢力に付き添っているジョスリンは引き続き、そちら側に回す必要がありますので、臨時に帰国した名目のドミニクさんの指揮下で大統領閣下の警護と取材を行う…と言っても、大統領ご一家から養女のリヴィエラさんと実女のヴェロニクさん、つまり閣下の娘さんお二人が付き添う事になりました。
まー、正直言ってしまいますと、大統領閣下に構うには色々諸々忙しくてめんどくさいので、演技の練習の時以外の面倒は娘さんたちにお任せしたい。
これがあたしの本音でもあります。
そして、めんどくさい理由。
はっきり申し上げますと、ヴァレンシュタイン軍の本隊。
これの監視と誘導、乳上率いる東欧支部並びに、中東支部から派遣された協力要員が行っています。
更にはバーデン=バーデンの市街地から少し北上したあたりに上陸して布陣している南下別働部隊。
これに張り付かせているジョスリンたちとの連絡と誘導指揮のお仕事もこちらに回って来てるんですっ。
「とりあえず痴女皇国側の軍勢指揮は私が執ろう。マリアヴェッラはアルトを冬山で使いものにすることに注力してくれていいぞ」
助かります、おばさま…。
----------------
そんな訳で。
「ベラちゃん。なんであたしたちが」
「そーですわよっ」
「文句ゆーな。発案はよっしーとおキヌちゃんだから」
「それにあたしまで参加してんだからね。マリアンヌ、スザンヌ、相手はアルトくんだし遠慮はいらないわよ」
と、いかっている女かまきり…何で雅美さんまでここに。
更にはマリアンヌちゃんたちやあたし同様に、例のTYPE-AHE迷彩上下姿です。サバゲ用でしょうか、それとも本物なのかというヘルメットにゴーグルまで装備してやる気満々です。
「…とゆーか、アルトさんが本気で投げたら銃弾とか砲弾くらいの威力があるのでは」
「だからマリアンヌもあたくしも限定解除した大人の姿なのでしょうね…」
「つまりなんですか。これにかたないとあたくしのおこづかいはさんかげつ、なし」
えーとですね。
要は、鬼ごっこです。
雪合戦という手もありましたが、何せ参加者、雅美さんやアルトさんやあたしはもちろん、痴女種としてのリミッターを外したスザンヌちゃんと能力付与強化を受けたマリアンヌちゃん。
この面子が能力制限をかけずに雪合戦を始めた場合、戦車の主砲から徹甲弾というんですか、硬いものを撃ち抜く砲弾を発射したような惨劇になるという指摘が。
ですので、クラスメートに雪山遊びの延長で雪に慣れ親しんでもらえるようなことは思い浮かばないか、知恵を貸してくれとお願いしましたところですね。
実家がグンマーの名湯な歴史ある温泉宿で、雪深い伊香保の地の育ちのおキヌちゃん。
それから北陸の日本海沿岸で冬場はかなり積もる県の出身のよっしー。
この二人が現地の映像画像を見てですね。
「んじゃ鬼ごっことかすれば? 」
「で、アルトさんが真剣にやらないと困るような罰を与えたらいいんじゃないかな」
と、案を出してくれました。
そしてアルトさんの目の色が変わりそうな罰、なんか思いつかないかと皆に広域心話で公募しましたところ。
(貯め込んでる業務報償金没収。または減俸)と即答してきた身重状態継続中のダリア先生。
(ダリア!あなたはおにですか!)
(アルトさんなら素っ裸で戦うくらい普通にできるでしょーが。だいたいですね、昔、聖炎宮であたしに仕掛けた技、どんだけあたしの心の傷になったかわかってますかっ。それとジーナさん、消し忘れてたらしくてバンシーの偵察ポッドで撮影したあの時の映像、きっちり懲罰画像ライブラリに残ってんですからねっ!)
あ、恨みを買っていますね。
(という訳でアルトさんが調整役を務めているジーナさんも連帯責任を取って頂いて、アルトさんが負けたら二人の業務報償金減俸3ヶ月ってのはどうですか。ジーナさんなら他の報酬があるから致命傷にはならないでしょうし、アルトさんもこの前、おこづかいは何年ぶんか貯めてるって自慢してましたよっ)
(アホかダリア!なんでうちまで巻き添えに!)
(そもそもジーナさんがあの時、ちゃんと映像を消してくれてないからこんなことになるんですがな! ベラ子陛下!請願処の内部請願案件として処理願いますっ)
(承認。デルフィリーゼとクレーゼとオリューレに回しておきます。これはアルトリーゼはまだしも、聖母様はダリアに請願されても文句は言えませんわよっ)
(初代様まで何を…ううううう)
(あたくしはたとえゆきやまでなくても、べらこへいかをつかまえるじしんはありません!)
(アルトくん…ハンデは与えたわよ…全員でなくてもいいのよ…あたしでしょ、んでベラちゃんとマリアンヌちゃんとスザンヌちゃん。この4人のうち2人を捕まえて直接ドレイン…つまりレイプしたらOKなのよ?)
ええ、マリアンヌ・スザンヌ両名の監督役兼・鬼として雅美さんに参加してもらいました。
で、ルール。
・制限時間1時間
・子役はバーデン=バーデン領内から出るな。ロレーヌに逃げてもだめ。
・鬼が4人のうち、2人を犯せば鬼は全裸作戦から免除。
・3人犯せば減俸はなし。
・鬼が4人全員を犯せば逆に3ヶ月増給(インセンティブ増額枠で対応)
・逆に1人逃すごとに1ヶ月ずつ減俸、鬼の減額分は4人で山分け
…何という金汚いルールなのでしょうか。誰よこんなもん考えたの。
(あたしが5秒で考えた。アルト。おめーもこんなんされる前に真面目にやってくれりゃ、んな外道なルールで生臭い鬼ごっこなんかしなくて済んだんだぞ?)
はいはい、ねーさんマジねーさんな案ですね。
ですが。
ですが。
(えーと、ナンム様に言われたのですが、この強欲のマモンがアルトリーゼ閣下の金欲貯蓄欲資産欲と節約癖を煽れと。という訳で序列33位のガープ。そなた、アルトリーゼ閣下の負けず嫌いな意識を煽るが良い)
(は。このガープがアルト閣下をやる気にさせてみせましょう…マリアヴェッラ陛下。これ、我々堕天使が純真無垢なアルト閣下を悪の道に引き込む訳ではなく、あくまで閣下の持つ本来の性質を増幅強化させているだけでございますからね? 悪堕ち闇堕ちさせてはおりませぬ点、なにとぞご理解のほどを…)
(更におめーらが普通に走り回るだけで辺り一帯、被害甚大だからな。それに意地でも1時間で勝負にカタがつくように全員、強制的に十人卒状態に出力を制限させて頂く。だからみんな頑張ってくれ。じゃ、鬼ごっこ、はじめ!)
「ただ…ポワカール閣下、この度の我々への協力行為について、貴国の次期大統領選挙への影響をお考えのようですが…むろん、私どもは閣下に全裸将軍を演じて頂く案に賛成はしております。ですが、正直痴女皇国世界のドイツで素っ裸になって、貴国の国民が好印象を抱くかどうかという懸念があるのですけど」
そうなんですよ。
フランス大統領選挙、この4月に実施されるんです。
ポワカール閣下にとっては改選でして、保守派も含めた対立候補数名の人気、今ひとつポワカール閣下より振るわないという事もあり二選目は確実と見られています。
ですので、何もこっちまで来て余計な事せんでも良いのでは。
これがあたしの思いです。
更に、フランス共和国のために脱ぐのならともかく、痴女皇国世界の…それもドイツのために脱ぐ。
これは下手をすると、フランス共和国の有権者の皆様にはネガティブイメージを与えてしまわないか。
更には、ポワカール閣下がゼンラスキー将軍役をする必要性、フランス共和国の有権者に対しては痴女皇国世界についての理解を必要とするのではないか。
痴女皇国や痴女種については連邦世界全ての人々、特に利害関係をあまり理解できない一般市民の方やNBとの宥和政策反対派の方、更には女性保護主義や性別に関する利権にうるさい方々とは色々な軋轢が予想されますので、情報については慎重かつ小出ししようとしています。
そこをフランスに先走られると、困ったことになるのでは。
この辺があたくしマリアヴェッラの懸念です。
要はフランス以外の国にわっざわざ来て脱いで、要らぬお節介をしているのではないか。更にはフランス共和国が元来行うべき内政や外交の舵取りをほったらかしにして、珍妙な異世界で遊んでいると見られないか。
せっかくNBとの提携事業を端緒につけてフランス国内世論では好感度が上がっているとされる大統領閣下にですね、こういった悪評が立つのを恐れているのですよ、あたしは。
で、フランスの大統領選挙制度ですが、同じ大統領制を敷いているアメリカ合衆国、そしてイタリアとは少し違います。アメリカは各州ごとに選挙人…花札な方なら花札な方を支持する選挙人に対して票を入れますよね。
これがイタリアだと国会の上院下院の議員さん、そして各州知事が大統領候補に票を投じます。では、フランスはどうなのか。
具体的には、有権者の票が直接に反映されます。
例えばドミニクさんとジョスリンが閣下に票を投じたとしましょう。それは直接、ポワカール候補への支持票として集計されます。いわゆる直接選挙って制度なんですよ。
そして第一回投票の結果、ポワカール候補が有権者票の過半数を獲得すれば、大統領続投決定です。
しかし、数名の候補者の誰もが過半数を獲得していない場合、最多得票者と第二位得票者…ま、一番票が多かった方と二番目の方が第二回投票に臨み、多かった方が大統領として選ばれます。
ですから有権者が抱く大統領候補者への印象や心証、かなり露骨に選挙結果に反映されてしまうみたいなのです。
そそ、フランスには首相もいらっしゃいますよ。
ただし、こちらは日本の内閣総理大臣が選ばれる制度とほぼ同じで、国民議会の政権与党の長が首相に選出されてその時の大統領が任命する流れになるそうです。
ただ…議会の与党と大統領の所属政党が違うと、少し困ったことになりますよね。
(そのような場合…私どもの祖国ではCohabitation、すなわち同棲状態と呼んでいますけど、大統領が外交や軍事と言った対外的影響力のある分野、首相は共和国内政についてそれぞれ役割を分担する慣例になっております)とドミニクさんから説明が入りました。
(そして得票に関する重要な件がありますよ。例のルルドの奇跡、あれを起こした関係者が痴女皇国幹部であると薄々気付いている国民が増加しております。加えて…閣下)
(ああ、マリアヴェッラ陛下。実は我が共和国民に痴女皇国の存在を完全秘匿するのは困難であるというフランス国内治安総局のレポートがジョスリーヌ君の名目上司から寄せられたのですよ。理由は…アルストム社とダッソー社にタレス社、そしてフランスに本社を持つ自動車メーカーの従業員や関係者。特に元々が軍需産業ではないアルストム社とルノーとPSAがNBや痴女皇国向けの生産品を手がけている関係上、勤務する従業員から噂の形を取って情報流出が観測されておりましてね)
と、ポワカール閣下から説明を受けますが。
それは少し、まずい気がします。
(ベラ子。それ敢えて黙認って閣下には伝えてるから)
どーしてですかねーさん。
(光電子的な拡散ならともかく、口頭伝聞まで規制しちまうのって、駄洒落菌の規制と同じで、言わば言論規制になるだろ。しかもうちに好意的だったり、あるいは有益な話なら、敢えて広めるのをストップしなくてもって判断だな。それと…ジョスリン)
(はいマリアリーゼ陛下。本国とやり取りしましたが、ルルドの奇跡やアルストムへの大量受注並びにテンプレス級航宙航空母艦兼多目的輸送艦を共和国にリース頂くに当たっての兵装艤装、更にはヴァンパイア級フリゲート艦の連邦宇宙軍仕様リース艦の装備艤装事業、これら全ては大統領閣下の個人的交友の相手である某異世界都市国家との友好の成果である。と、好況活況に沸く関連業界の従業員の間では既知の事実であるとの調査結果を頂きました…で、マリアヴェッラ陛下、噂の出所を要約しますと)
はいはい。
(すなわち、噂の出所は痴女皇国の出資または口利きで潤う共和国基幹産業の従業員と、その家族なのです。日々の生活も豊かになり、ルルドの奇跡とは違う意味で幸福を享受する彼らが、その喜びの原因をついつい口走っているとの調査結果を頂いております)
(まぁ要は、うちの発注した仕事のおかげでフランス共和国はウハウハって寸法よ。あと自動車だが、ルノーがやっちゃえ社と共同開発したシリースハイブリッドパワーパックを載せてる車種についてだがな、NBでノックダウン生産工場が動いてるんだわ。現状は完成品をNBに輸入している監獄社の自動車でも、最終的にはNBで組立工を賄えるようになった暁には現地生産になるけどな)
(更にはメトロや鉄道駅にたむろするスリや置き引きの類。これら住所不定または正業を持たない犯罪者については順次、Hôtel de divertissement Vincennes付随の転送設備を経由して労働力化頂いている事でパリの治安が急速に回復しつつあります。犯罪者傾向を持つ外国人の流入も観測されてはおりますが、これらも順次確保の方向で進めているとの報告を受けております)
あ、オテル・ド・ディバテスメント・ヴァンセンヌ…つまりヴァンセンヌ娯楽館という名のフランス共和国の実質的な痴女皇国大使館にして野外売春事業の拠点ですが、ここの庶務長にはとりあえず黄美娜さんを任命しています。
で、娯楽館長には以前のをかま狩り作戦の後でフランス政府から痴女皇国に派遣されたアンヌマリー・ヴィゼアムスキさんが改めて二代目館長に就任。…初代館長は不正経理が発覚して処分された件も思い出して頂ければ、と思います。
つまり、パリの地理に明るく、犯罪組織の動向把握はお手の物という黄さんの実力発揮の場が昔の職場の所在地という訳です。
そして娯楽館としての活動で得られた精気と、行方不明処分が可能な犯罪者は片端から痴女皇国に送り込まれる流れとなっております。
はい。こうした痴女皇国が絡んだ政策、表には決して出す事の出来ないものも多いのですが、噂の形でフランス国内に流布しておられると。
更にはポワカール閣下の人徳と能力の賜物で謎の異世界勢力を共和国の共同事業者として提携し、通常ならば得られないであろう利益をもたらしているという風聞を広める情報作戦を実施しているという事ですね。
そして痴女皇国側の世界の安定化を目指した国際的行動に協力する必要性が発生したから、大統領が全裸になる。
この筋書きを説明されます。
言うなれば全裸で通勤するウクライナ大統領役を演じたコメディアンが、その後本物のウクライナ大統領になった過程と似たような演技をすることを「現役で」「異世界で」行うという事で国民の理解と同情を得ようという話にしたいと。
でまぁ、件のウクライナの大統領は全裸芸が得意であり、その芸風で世界の支持を得て侵略勢力を跳ね除けた際に、当時のフランス大統領が核戦争を何とかして回避しようとウクライナ支援に尽力した件も含めて連邦世界では語り草になっています。
普通なら全裸芸、それも男性のそれなんてひんしゅくものですが、侵略国家が報道規制や民衆弾圧、更には非人道的軍事行動に躊躇がない「民主主義の敵」だったことから逆に西側社会では自由と権利の象徴とみなされてしまい、いまだに語り草になっているのですよ…。
なにせ侵略側の頭が禿げた大統領があらぬオカルトめいた野望達成と自国利益研確保を目指した結果、西側諸国が足並み揃えて経済制裁を行う中で唯一泣きつけそうな、時のフランス共和国大統領に対し頻繁に電話をかけてきていたそうです。
そして禿げた大統領の妄想めいたあれこれの話を聞かされ心労著しい疲労困憊した姿がエリゼー宮詰めの報道カメラマンによって世界中に広められ、禿げ専属介護員扱いされた話もいまだ語り継がれてるのですよ…。
更に、ドミニクさんいわく、全裸芸が受けて大統領になった男が、逃げ出すどころか戦火に焼かれる首都に留まり続けて民衆を鼓舞し侵略を跳ね除けた。
その意外な英雄的行動に範を取らんとして提携事業先に協力する。
これがかつて第二次世界大戦で国土を侵略された歴史、いまだに学校できっちり教えているというフランス共和国…言論の自由を重視して宗教を揶揄する権利を尊重する国の人々の琴線に触れないはずがない。
更には後にフランス人が再開発して栄える事になるバーデン=バーデンを非道な侵略者から守り抜くための手助けをする、恩には恩で返す行為をアピールするといった説明を、大統領閣下とドミニクさんから受けます。
なんかこう、いかにもあざとい企みですが、我々痴女皇国としてはフランスの選挙でポワカール閣下が再選続投となる方がありがたい。可能な限り再選されて欲しい。
これは姉から説明されずとも、あたしにも容易に理解できる話です。
(とりあえずフランス国内向けの選挙宣伝戦略については大統領閣下の陣営に任せるとしようや。最悪の場合の修正手段も提供できなくはないしな)
ねーさんもこう言ってますしねぇ…。
差し当たり、対フランス向けの広報映像や取材については、ドミニクさんを含めたフランス側に一任。
ただし現地で作戦を阻害しないよう、痴女種が取材を行う事を条件にさせていただく内容で合意いたしました。
そして南下勢力に付き添っているジョスリンは引き続き、そちら側に回す必要がありますので、臨時に帰国した名目のドミニクさんの指揮下で大統領閣下の警護と取材を行う…と言っても、大統領ご一家から養女のリヴィエラさんと実女のヴェロニクさん、つまり閣下の娘さんお二人が付き添う事になりました。
まー、正直言ってしまいますと、大統領閣下に構うには色々諸々忙しくてめんどくさいので、演技の練習の時以外の面倒は娘さんたちにお任せしたい。
これがあたしの本音でもあります。
そして、めんどくさい理由。
はっきり申し上げますと、ヴァレンシュタイン軍の本隊。
これの監視と誘導、乳上率いる東欧支部並びに、中東支部から派遣された協力要員が行っています。
更にはバーデン=バーデンの市街地から少し北上したあたりに上陸して布陣している南下別働部隊。
これに張り付かせているジョスリンたちとの連絡と誘導指揮のお仕事もこちらに回って来てるんですっ。
「とりあえず痴女皇国側の軍勢指揮は私が執ろう。マリアヴェッラはアルトを冬山で使いものにすることに注力してくれていいぞ」
助かります、おばさま…。
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そんな訳で。
「ベラちゃん。なんであたしたちが」
「そーですわよっ」
「文句ゆーな。発案はよっしーとおキヌちゃんだから」
「それにあたしまで参加してんだからね。マリアンヌ、スザンヌ、相手はアルトくんだし遠慮はいらないわよ」
と、いかっている女かまきり…何で雅美さんまでここに。
更にはマリアンヌちゃんたちやあたし同様に、例のTYPE-AHE迷彩上下姿です。サバゲ用でしょうか、それとも本物なのかというヘルメットにゴーグルまで装備してやる気満々です。
「…とゆーか、アルトさんが本気で投げたら銃弾とか砲弾くらいの威力があるのでは」
「だからマリアンヌもあたくしも限定解除した大人の姿なのでしょうね…」
「つまりなんですか。これにかたないとあたくしのおこづかいはさんかげつ、なし」
えーとですね。
要は、鬼ごっこです。
雪合戦という手もありましたが、何せ参加者、雅美さんやアルトさんやあたしはもちろん、痴女種としてのリミッターを外したスザンヌちゃんと能力付与強化を受けたマリアンヌちゃん。
この面子が能力制限をかけずに雪合戦を始めた場合、戦車の主砲から徹甲弾というんですか、硬いものを撃ち抜く砲弾を発射したような惨劇になるという指摘が。
ですので、クラスメートに雪山遊びの延長で雪に慣れ親しんでもらえるようなことは思い浮かばないか、知恵を貸してくれとお願いしましたところですね。
実家がグンマーの名湯な歴史ある温泉宿で、雪深い伊香保の地の育ちのおキヌちゃん。
それから北陸の日本海沿岸で冬場はかなり積もる県の出身のよっしー。
この二人が現地の映像画像を見てですね。
「んじゃ鬼ごっことかすれば? 」
「で、アルトさんが真剣にやらないと困るような罰を与えたらいいんじゃないかな」
と、案を出してくれました。
そしてアルトさんの目の色が変わりそうな罰、なんか思いつかないかと皆に広域心話で公募しましたところ。
(貯め込んでる業務報償金没収。または減俸)と即答してきた身重状態継続中のダリア先生。
(ダリア!あなたはおにですか!)
(アルトさんなら素っ裸で戦うくらい普通にできるでしょーが。だいたいですね、昔、聖炎宮であたしに仕掛けた技、どんだけあたしの心の傷になったかわかってますかっ。それとジーナさん、消し忘れてたらしくてバンシーの偵察ポッドで撮影したあの時の映像、きっちり懲罰画像ライブラリに残ってんですからねっ!)
あ、恨みを買っていますね。
(という訳でアルトさんが調整役を務めているジーナさんも連帯責任を取って頂いて、アルトさんが負けたら二人の業務報償金減俸3ヶ月ってのはどうですか。ジーナさんなら他の報酬があるから致命傷にはならないでしょうし、アルトさんもこの前、おこづかいは何年ぶんか貯めてるって自慢してましたよっ)
(アホかダリア!なんでうちまで巻き添えに!)
(そもそもジーナさんがあの時、ちゃんと映像を消してくれてないからこんなことになるんですがな! ベラ子陛下!請願処の内部請願案件として処理願いますっ)
(承認。デルフィリーゼとクレーゼとオリューレに回しておきます。これはアルトリーゼはまだしも、聖母様はダリアに請願されても文句は言えませんわよっ)
(初代様まで何を…ううううう)
(あたくしはたとえゆきやまでなくても、べらこへいかをつかまえるじしんはありません!)
(アルトくん…ハンデは与えたわよ…全員でなくてもいいのよ…あたしでしょ、んでベラちゃんとマリアンヌちゃんとスザンヌちゃん。この4人のうち2人を捕まえて直接ドレイン…つまりレイプしたらOKなのよ?)
ええ、マリアンヌ・スザンヌ両名の監督役兼・鬼として雅美さんに参加してもらいました。
で、ルール。
・制限時間1時間
・子役はバーデン=バーデン領内から出るな。ロレーヌに逃げてもだめ。
・鬼が4人のうち、2人を犯せば鬼は全裸作戦から免除。
・3人犯せば減俸はなし。
・鬼が4人全員を犯せば逆に3ヶ月増給(インセンティブ増額枠で対応)
・逆に1人逃すごとに1ヶ月ずつ減俸、鬼の減額分は4人で山分け
…何という金汚いルールなのでしょうか。誰よこんなもん考えたの。
(あたしが5秒で考えた。アルト。おめーもこんなんされる前に真面目にやってくれりゃ、んな外道なルールで生臭い鬼ごっこなんかしなくて済んだんだぞ?)
はいはい、ねーさんマジねーさんな案ですね。
ですが。
ですが。
(えーと、ナンム様に言われたのですが、この強欲のマモンがアルトリーゼ閣下の金欲貯蓄欲資産欲と節約癖を煽れと。という訳で序列33位のガープ。そなた、アルトリーゼ閣下の負けず嫌いな意識を煽るが良い)
(は。このガープがアルト閣下をやる気にさせてみせましょう…マリアヴェッラ陛下。これ、我々堕天使が純真無垢なアルト閣下を悪の道に引き込む訳ではなく、あくまで閣下の持つ本来の性質を増幅強化させているだけでございますからね? 悪堕ち闇堕ちさせてはおりませぬ点、なにとぞご理解のほどを…)
(更におめーらが普通に走り回るだけで辺り一帯、被害甚大だからな。それに意地でも1時間で勝負にカタがつくように全員、強制的に十人卒状態に出力を制限させて頂く。だからみんな頑張ってくれ。じゃ、鬼ごっこ、はじめ!)
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