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アルトリーネの仁義なき妻たち 3
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「宇賀神さんとか言ったな。次は筑波か茂木辺り連れてってやっからさ、あのすげぇキングコブラ、一度本気踏みしてみちゃどうだい。あんな真剣に命が危ないもん、踏める場所で練習しとく方が絶対いいって。何なら俺も知り合いにコブラか何か借りてみるし、そっちも乗ってみるかい? 本物の427だぜ?」
「壊しちまっちゃ心臓に悪いですよ」
「はっはっはっ、ま、ありゃ割と単純な代物だし、全損するほど派手にやんなきゃそんなに心配いらねぇよ。何なら本物より出来がいいって評判のレプリカにしとくか。ありゃあれで乗りやすくて速いってんで受けはいいみたいなんだよ」
「しかし海老原さん、本当にアメ車、お好きなんですね」
「若い人に言っても信じないだろうし、俺も爺さんから現物見せられて話を聞くまでは何だそりゃだったんだけどよ、あの国の自動車産業が世界の頂点だった時期が確かにあるんだよな。その国の本気が見られる車が今は絶滅危惧種なのが惜しいには惜しいんだよ。俺らヤクザもんと同じだよ。栄耀栄華をいつまでも誇れるかってこった。本当に平家物語じゃねぇけどよ、諸行無常ってもんだよなぁ」
「だけど、昔のもんだからって何でもかんでも古いとか時代遅れとか言われたらそりゃ、腹も立ちますわな」
「今時のハイテンション鋼板ってのか、あれじゃなしに古臭い鉄板、それも分厚いやつを敢えてボデーに使ったりよ、アルミじゃなくって鋳鉄の重いでかいシリンダーブロックのエンジン使ってる理由はちゃんとあんだよなぁ。クソほど頑丈にこしらえておく意味がよ」
そう言って、つなぎ姿でコンコンと輪姦、いえリンカーンの車体をこづかれるおじさん。
「ま、オヤジどもの悪あがきってこった。高木さんにも付き合わせてすまねぇけどよ。女も酒もあんまやらねぇ俺の数少ない楽しみってこったな」
「気にしない気にしない。あたしゃ自分で趣味に走るより、趣味に走ってる男の人を見る方が性に合うもんでね。ちょっとしたお節介さ」
で、堅気になったおじさんのお宅を辞して我々は道を走り出します。今度はあたしがジーナちゃんの隣で。マリアちゃんは助手席側の窓を開けて手を振っています。
頭を下げる若い人達と、手を振り返すおじさん達が見えなくなりますと。
「天然記念物もんだろ、ああいうおじさん」
「よねぇ」
「あのおうち、どっちかって言うと博徒じゃなくて的屋さんの部類だったんだよ。んで、食材調達や地方でのコネも持ってるからちょうどいいやって感じでね」
「マリアちゃんはつくづく、ああいう人に懐かれるわねぇ」
「雅美さんの男運に言及する話になるぞっ」
「それで思い出したけどな、雅美さんの付き合いがあった反社の親玉みたいなん、あれどないよ」
「どないと言われても…ま、人間のクズには間違いはないわね。すすきのや中洲はもちろん、波の上にも出荷実績あり。沈め屋さんよ」
「あとは家族やな。騒ぐなら家族も…というところか」
「とりあえず田所さんと宇賀神さんにはもう少し水面下でちょこちょこ動いてもらうよ」
「うむ。その辺は任せよう。とりあえずうちは痴女皇国に戻るぞっ」
で、キャリアカーを返却に行ったジーナちゃんと別れ、我々は南青山の関東メディア本社へ向かう事になります。
「俺の名前で駐車許可申請は出してる。前みたいに変な場所にコソコソ駐めなくていいぞバカヤロー」
「へいへい。あ、田中さん。狭いようなら椅子、思いっ切り後ろに下げていいですよ」
「いえいえ大丈夫ですよ、お気遣いなく」ほほほ。実はレディファーストという事で、宇賀神さんの車の助手席に座っています。
宇賀神さんの後ろにはマリアちゃん、あたしの後ろは田所さん。
「宇賀神の横に乗ると心臓に悪いからな…だから俺のガラスの心臓に悪い踏み方すんじゃねぇよバカヤロー」
「毛が生えてるんじゃなかったんですか、心臓」
「るせぇバカヤロー。あ、宇賀神、オメー千葉県警に知り合いいたろ。例の擬装難民入国あっせん業者の件追っかけてたの」
「ああ、県警本部の戸田って人なら」
「あの業者の仕事に女を仕入れる話がある件、こっちの芸能絡みの連中との繋がりがわかったらしいぜ。今から南青山に来てくれるってぇからな。来たら俺らの話に加わってもらおうや」
で。
何ですか新築感ありありとは言え、この二階建てプレハブ飯場はぁっ。
「とちぎメディアサービス株式会社 東京営業所…」
「い、いやこんなプレハブ用意したの、俺じゃねぇぞ…バカヤロー!何だよ宇賀神オメーの目はよっ」田所さんが狼狽していますが…。
「宇賀神さんごめんこれあたしっ」
で、マリアちゃんがぺこぺこ頭下げてます。
「いやね、比丘尼こ…どっかの日本で今、江戸開きしてる最中なんだけと労働者向け住宅の建設が間に合わなくてね…とりあえずプレハブ飯場を大量に発注して現地に送り込んでんだけど、先方が間違って二階建てを一棟持って来てさ…んで、昔に制作総務の分室があった場所空いてるって言うからさ…」
「あーなるほど、だったら構いませんよ。まぁ、昔と違って局長に監視される事はないわけだし」
「とりあえず今の制作局長には見張るまではしなくていいから、何かあったら連絡や要望は受け付けとけ、制作総務時代からの伝統だっつっといたからなバカヤロー」
「ちなみに一階はうちの事務所に使うから」見れば、白木の看板に高木芸能株式會社と墨痕淋漓…。
「マリアちゃん。どこのヤクザの事務所よ…」
「いいじゃんか。どうせこんな所に関係者以外来ないって」
「うちの看板がまだマシなのは救いだな…で、この調子じゃ、2階に置かれてるの、コクヨの事務机ですかね。あんなもん、今のご時世なら逆に天然記念物ものだから、あれはあれでいいんですが」と言いながら、マリアちゃんから鍵を渡されて階段を上がった所にある扉を開ける宇賀神さん。
「へぇ…って高木さん、この椅子…」
「うん、マスタングの廃車から抜いてきて事務椅子に仕立てるキットつけたったー」
「ああ…車の座席を椅子にするあれか!なるほど、高木さん…こりゃいい感じだ」木目調の天板の黒の両袖机と、その前に置かれた適度なやつれ具合のビニールレザー張りの黒い椅子。役員用椅子に見えなくもありません。
「リユース品ばかりで申し訳ないんだけどさ」なるほど、冷蔵庫や電子レンジに流しに応接セット、完全な新品じゃないのは見てわかります。ですがひとわたり色々揃えてはもらっていますね。
「エアコンが新品だ…」感動的な目で壁の家庭用エアコンを眩しそうに見つめる宇賀神さん。
「あー、宇賀神がいつもボヤいてたやつな。あれで総務部長が泣き入れて来てたよなバカヤロー」
「ガスヒーターか灯油ストーブ置きたかったんだけどさ…」
「ああ、大久保林の二の舞を考えてくれたんですね」不本意な自宅火災で死亡された放送作家の方ですね…。
その時。
「宇賀神さん、パソコンは新品よっ」
「邦彦さん、私たちは一階に机を頂けるそうです」
「南青山らしくない事務所だけど、こんだけ整ってたらいいんじゃない父さん」
「桔梗…雪子はまだしも何で瞳まで…」ええ、宇賀神さんの奥様と、宇都宮の会社の契約社員の方と…痴女宮にいる娘さんはまぁ、穴も口も知っていますからいいとして。
(その発言を口にしたらベラちゃんに頼んで黒グッズの刑ですからね…それかインポタケドリンク飲ませて放置しますよっ)
「なぜかは知りませんが高木芸能への出向指示が来ました。住居も代用社宅として池尻大橋に3LDKの賃貸を用意して頂きまして、雪子さんや他の三人の同級生の方と同居を申し渡されています」そんな我々のやりとりを知らぬげに、国民的美少女でフランス人と事実婚した人の若い頃っぽい印象の伊藤瞳さんがきっぱり申されます。
「で、私も上司から一時的に高木芸能総務に出向との話を」
「あたしと他の3人は高木芸能所属の駆け出しアイドル扱いらしいわよ」
「雪子…お前試験は…高木さん…これは一体…」
「わははは!こりゃいいや!制作局から見張るより効き目あるんじゃねぇか?宇賀神!」
「いや、この子らは反社の釣り餌よ釣りエサ」
「ねーさん。しばいていいですか。あたしら期末試験まだ終わってないんですが」
「何であたくしがこの忙しい時に釣りエサ役を!」しかもベラちゃんと乳上まで…。
「雅美さん。あたしたちもよ…事が終わったらここにいる痴女宮組全員でリーゼ姉を堤防するから黒グッズ出庫してね…」
「雅美さん、これは本当に真剣にお願いしますわよ…」ええ。マリアンヌちゃんとスザンヌちゃんまで…。
(関係者全員の分体出させられたあたしの苦労も理解してくれると助かりますねんけど。あと雅美さん、黒グッズ使うのは構いませんけど、寿命に悪影響が出る上に胎教に悪いからベラ子かーさまに触らせてくださいねっ)エマちゃんがぐちぐちと愚痴を言うておりますが、ま、仕方ありませんね。
「まぁ、とりあえず雅美さんがやってた個人事務所まがいをあたしが買い取る形にしようかと。んで既存在籍者は海老原さんの伝手に回す形にして、新規に契約モデルを用意しました」
「で、あたしたちは高木マリアンヌと高木スザンヌのそっくりさんだそうです」
「本人なのにそっくりさんとはこれいかに」
「更にな…何でこいつらの母親のうちまで呼ぶんじゃ!こらマリ公、自分の母親をAVに出すとか女衒のネタにすんな!それにうちは宙兵隊の公式報道やら何やらで顔割れまくっとるやろが!」
「かーさん。娘のあたしたちが出るのはいいのかしらっ」
「いや。マリ公も所属リストに載せるならあたしも異存はない」
「鬼かこの腐れおばはんっ」
「リーゼ姉…今さらだけどかーさんってさ、倫理基準が高いのか低いのかよくわかんないとこあるよね…」
で、下の階にある高木芸能とやらの事務所の会議室で、いかにもな折り畳みの机と椅子に座る我々。
「ふむふむ。東欧系新参ブローカーから押し付けられた巨乳の処分に困っているとするのですか」
「確かにアルテローゼさんか…ハンガリーというよりウクライナ系に見えなくもないけどなぁ」スーツ姿の乳上を品評する我々ですが。
「まぁ、スザンヌは元々古代バビロニア系だし、マリアンヌに至ってはアングロサクソンとウクライナ系スラブとの混血だからな。外人一括りに見る連中からすりゃよくわからんって言うでしょ。ねぇ田所さん」
「…確かに、高木さんとこの子たちは…正直日本だと受けがあまり良くねぇんだが、ベガスなら確実に受ける。あと六本木でも売れっ子間違いなしだな」
「ロシアンパブ行ったんですか局長…いや社長」
「バカヤロー、ガイジンってのにも色々いるんだよ…だいたいよ宇賀神、マリアヴェッラさんとアルテローゼさんを見比べりゃ一目瞭然だろうがよ。ここにフランス系が混じればもっとわかりやすいんだけどな…」
「確かに私は3/4フランス人ですが…」事もあろうに短機関銃を手にしたベージュの軍服に赤いベレー帽姿のジョスリーヌさんが現れます。
「いきなり人が現れるのには慣れたが…軍人さん呼んで大丈夫なんですかい?高木さん」
「メルシ、ムッシュ・タドコロでしたね。共和国国家憲兵隊のジョスリーヌ・メルランと申します。ムッシュ・ウガジン他の皆様もいきなりで申し訳ございません」
「1er RPIMa…第一海兵歩兵降下連隊の徽章なのは詮索不要ですかね、マドモアゼル」
「まぁ、小官はその時々で所属が変わりますから…」
(宇賀神、その海兵なんたらってのは何だよバカヤロー…)田所さん、小声で聞いていますが。
(フランスの特殊部隊の一つですよ…大久保林さんの当たり小説の恐竜の話にも確か似たような部隊が出ているはずですよ…)
「すまん。ここにマリーを呼ぶと話が厄介になるんだ。出来れば円滑な作戦計画立案に協力願いたい」
「は。例の… après-guerreと呼ぶもはばかるimbécilesどもの件ですか。この後にイケブクロまで行く時間を頂きたいのと、この銃と…あと、このふざけた拳銃を預かって頂く事が可能でしたら全力で協力させて頂きますが。正直、性能は認めますけどこの拳銃、嫌なんですよ…生理的に…」ホルスターから抜き出した黒い拳銃を机に置くジョスリーヌさんですが、何か汚物を触るようにしていますね。
「ああ、H&K USPタクティカルか…ドイツ製ならしゃーねーなー。雅美さん…後で案内したげてよ」
「はいはい。でもその銃をピンクに塗ってから理恵ちゃんに見せたいわね。絶対に嫌がって逃げ出すわよ」
「ああ、りええにはトラウマだかんな、P90」
ええ、拳銃の横に置かれたこの変態的な格好の短機関銃ですね。これと同じものがいけにえ村作戦の際に駄洒落菌弾丸をそこかしこに叩き込むのに活躍したのですが、理恵ちゃんには色々と素晴らしい思い出になっているのを知っています。
ですので、出来れば銃口を向けてあげたい気持ちに満ち満ちますね、この特徴的に変な姿の銃を見ると。
「あ、戸田さん来たみたいよ」ゆっきーが声を上げました。構内を誘導してくれているのでしょう。
で、チャイムの音で瞳さんが立って迎えに。
「いよう伊藤さん、相変わらずゴ◯ミ似だな。とりあえず入れてくれ…」玄関の方で声がすると、瞳さんに連れられて来たおじさんが。
いかにも2着いくらの安いスーツがよく似合う方ですが、こういう警官が割と剣呑なのです。
「やぁ皆さん、千葉県警本部から参りました戸田と申します。この度は当県警所管内における人身売買の実態について興味深いお話をお聞かせ頂けると聞いて伺わせて頂きました」
そしてマリアちゃんの勧める椅子に腰掛けられます。
「ええ戸田さん。で、警視庁でも公安外事と捜4の方で色々調べておられましてね。つきましては、まずはこの方に概要を説明してもらいましょう」はい、帝都を滅ぼしそうな加藤さんが転送されて来ましたが、さすがにいきなり現れると戸田さん驚くわよ、マリアちゃん…。
(宇賀神さんの入れ知恵。戸田さんには一発かましてから話を始めた方がはかどるんだってさ。確かに効いてる効いてるだね)
(ええ。戸田のおっさんはこうした方がいいんですよ。助かります)
(おっ宇賀神さんもコツを覚えてくれたね。男性に心話能力は渡せない…というか渡したら性別が変わる危険があるからあたしら側から繋がないと常時接続は難しいんだけど…必要があれば呼んでくれたら繋ぐから)
(ま、無線のトランシーバーみたいなもんですね。了解ですよ)
「やぁ戸田警部補。高木さん…まぁ、この際だ。マリアリーゼ陛下に代わってまずは私から説明させて頂こう。まず端的に言うと芸能界並びに各種風俗営業に関連する人身売買、そして連邦政府の推進する難民受け入れ割り当て枠制度を悪用した非・日本国籍者不法滞在就労支援の実態が存在する」
そこからの加藤さん…加藤警部のお話はある意味私、田中雅美が把握していた以上でした。
まぁ正直…お風呂屋さんに沈めたりAV系プロダクションに回すくらいは把握していましたが、よその国にまで出荷するってちょっと。
で、ここで汎銀河人類族連邦という名前負けにも程がある組織を頂点に抱く現状の地球ですが、一応は地球を統一していると言っても…言うなれば「もう少し小マシで安保理事会の業務が軍に振られた国際連合」というレベルです。
そして各国間の移動については連邦政府に入国審査基準規定を申請して通れば適用されます。
つまり、各国間の入出国審査は残っているところではきっちり残っているのですよ。
をかま作戦の際にワーズワース卿がパリには行けたが外国人旅客の宿泊予約段階でハネられた話も、フランス共和国の入出国審査基準設定を電子的に履行した結果、ヘンリー・ワーズワースとアグネス・ワーズワース両名については民間施設への宿泊滞在まかりならずと出てしまったが故の悲劇ではあるのです。
イギリスとフランスの場合、私達の連邦世界では観光目的ならばノービザ、ただし電子旅券査証機能のある何がしか…たいていはメディアウォッチを空港や駅の税関に設置された端末機にかざして、その場で画面に出てくる質問に回答するかあらかじめメディアウォッチのパスポートアプレットに入力した内容を読み取らせれば数秒で審査が完了します。
ただ、ブータンやロシアやイスラエルのように入国許可査証をあらかじめ取得する必要があったり、日本もそうですが観光滞在には日数制限があったりする場合があります。
ま、とりあえずは紙のパスポートの代わりに電子旅券が一般的になった程度と思ってください。
しかし、この制度やシステムの穴を悪用して違法就労者を難民枠や観光枠で入国させたり、はたまた電子手続きが迅速に済むのを良いことに、入力内容さえ間違えていなければ出国させてしまう事ができるわけでして…。
「あと、ポルノビジネスですね。これについてはNBでも流石に問題になりまして、いくら向こうの娯楽が少ないからって、そういう需要に旺盛に応えるのもいかがなものか。更にはNBを中継した倫理的問題が発生しかねない過激ポルノコンテンツ。これについては向こうの首相の孫娘に該当する方の協力を得まして、頼むから自粛して欲しい。英国首相と二人してニューヨークの連邦議会で証人喚問とか我々も面倒この上ないから頼むからやめてくださいと私自らワーズワース大公殿下とお話をさせて頂きました。ふぅ」
と、一気にまくしたてる黄美娜さん。連邦法務局のパリ本部から呼びつけられたせいか不機嫌極まりない顔です。まぁ、この作戦を契機に痴女皇国出向になるらしいので業務引き継ぎが大変らしいのですが、仕方ありませんねっ。
(雅美さん…あなたの撒いたタネでもあるんですからね…)
(あたしは変態需要に応えたまでですっ)
(くうっ痴女皇国行ったら堤防ですよっ)
(あたし一応身重なんだけど…それ以前に黄さん、あなたまだ千人卒じゃないですか…あたしに勝てるとお思い?)
あ、をかま作戦の際の痴女種ランク復帰、どうせ反社作戦もあるからって名目で継続中です。つまり今の黄さんなら、あたしの片手でひねるどころか潮を吹かせ以下略。
「あと、田中雅美さんの逮捕状やら起訴状の問題ですが…とりあえず今ここで逮捕させて頂きます」加藤さんが宣言して、あたしの両手に手錠をかけます。かけますが。
「で、黄法務官。少しのご協力を」そう言って警察専用メディアウォッチを使って、すぐさまあたしから手錠をお外しに。
「で、国際人身売買組織の片棒を、そうとは知らず担いでしまった哀れな女かまきりの田中雅美先生は連邦法務局の統括捜査の重要参考人として引き取りまして。ほれ」今度は黄さんがあたしに手錠を。
「そして女郎蜘蛛の雅美さんは、ドイツのエロスセンターに女を売り飛ばした日本国の潜在的反社会組織構成員への協力容疑もさりながら、過日のブローニュ並びにヴァンセンヌの森における売春夫や性的倒錯者やら身元不詳者やらの大量失踪事件に関与した疑いがあり、フランス共和国からの身柄引き渡し要請に応じてフランス国家憲兵隊国際犯罪担当に引き渡します」で、またしても手錠を外されます。
そして今度はジョスリーヌさんが…何ですかそのマウスギャグは!
「舌を噛み切られる可能性がある場合に装着する拘束具です。で、マダム・タナカは取り調べの結果、連邦政府機密たるNBひいては痴女皇国関係者と判明。一連の経緯の供述要請に極めて従順であり、事件に関する報告をでっち上げいやもとい作成する協力者として有益でした。そして共和国政府のみならず連邦政府が密かに進めるNBとの交流深度化や、全くもって全然隠す気がない密輸出密輸入への影響を鑑み、フランス共和国大統領名の恩赦状を交付。連邦法務局を経由して日本政府にも同等措置を要請しました。ムッシュ加藤、いかがなさいますか」
「で、法務大臣名の回答書です」
「かしこまりました。では恩赦は連邦政府所管内各国にて有効化されたという事で、これを外させて頂きます」
わかりましたからはよはずしてください。よだれが。
「当分そのままでいいんじゃないでしょうか。恩赦が出たとは言え本当なら前科5犯くらいは行くわよ。ホモでメスイキじゃないけどゼンカモンよっあなた」
「うん、和歌山のミカン畑で女囚人してミカン収穫するよりはいいと思うから、あと10分このままで。心話で話せるからいいじゃん」そんなーマリアちゃんまで…。
「しかし電子手続きだとシャンシャンにするのも大変だよね…」
「しかも複数国家が絡んでるからね。マリア先生、田中先生が身重じゃなかったら逆に法務局でこき使いたいんだけど」
「その人選は色々問題がある気がするんだけど、まぁ他の人の都合もあるし、ちょっと反社の逮捕に至る段取りの協議をしましょう」
「吉崎無限で…よしざき・いんふぃにてぃ…」
「なんつー名前だ…」
「ええ、ガイアが輝けと囁くような男に相応しい名前でしょ…」やっと口の拘束具を外してもらえたのですが、未だに顎があががががが。
「しかもホ◯ト崩れ丸わかりなこの顔といい髪型といい服装といい…」
「んで、このチャラチャラした連中の下にいるのは…まぁ、割と普通と言えば普通だな」
「それが癖者なのよ…あの世界でも素人志向があるらしいんです。で、いかにもホス◯ってのはあまり受けないようで」
「秋葉原でもいるよな」
「いますね、何であんたらが冥土風俗の客引きなんかすんの、天の声の世界なら…大阪市の日本橋は日本橋でも中央区日本橋のラブホ街で風俗の客引きをしろよって奴」
「で、この吉崎の下についてるNo.2の力でまとめる役が中井義文」
「これ建設や電工系? なんか力押ししなさそうなフツメンだけど」
「いえいえ飲食系よマリアちゃん。ジョスリーヌさんはご存知かも知れませんが、代官山や麻布や田園調布あたりのレストランでも厨房の中は割と体育会系でして」
「あーなるほど、んで店大きくして金回りが良くなった部類か…」
「で、AV関係がこの石灘英気。クラブイベントやそれ系衣装のインポーターで副業でAVメーカーの実質社長。そっち系のルートで女の子を風俗方向に流通してるわね」
「何ですかこの○田○之助…」
「本当に全盛期の上○馬之○だな…体格といい服装といい…AVよりプロレスの世界に行った方が向いてるんじゃねぇのかな…」
「
ああ、そうか宇賀神さんプロレス詳しかったもんね」
「…しかし…つくづく全員、リ○ラ○アット食らわせた方がいいんじゃねぇかって顔だな…」
「でまぁ、こいつらの直接の手下とか、あるいは旧車會方面の繋がりのある連中…要するに引っ張れそうなのはちょこちょこ引っ張って行ってんだよな。ねぇ加藤さん」
「ええ、戸田さんにはあまりお聞かせしたくはないんですがね、私の本当の直属上司…マリアリーゼ陛下のボーイフレンドに該当する方なんですがね、同じ矯正官舎に懲役で収監するなら、より労働効率を発揮してくれる場所で働いてもらう方がいいだろうって申されましてね。おまけに今回は別世界の日本でお役に立てる訳ですから、我が日本国としても労働力を提供するにやぶさかではないだろうと」
「あー、なんか最近、うちの管内でやたらパラリラやってる連中が減った理由はそれか…いやね、交通の連中も生安も首傾げてたんですよ。ま、平和になるならそれもアリですな」
「戸田さんがそれ言っていいの?」
「いやいや瞳さん、あの連中は正直、俺達も持て余すんだ。微罪で捕まえようが累積で懲役食らおうが、簡単に更生してくれるんなら警察の仕事もかなり楽になるんだけどな」
「銚子で漁船にでも乗せちゃあどうだい、あの辺りの遠洋漁業なら今でもそれなりだろ?」田所さんがおっしゃいます。
「で、それを実際に実行している訳でしてね。このプレハブの本来の送りどころ、マリアさんがさっき仰っていたでしょう」
「言ってたが…あんた、あの場所にいなかったよな…」
「ああ、私も彼女達と似たような部類でしてね、もっとも位階はかなり低いのですが」
「せやからかとう。お前のようなんがおるからわしもしごとの手間が増えとったんやぞ…」
「ああ、ちょうどいいところに。紹介しましょう。私、この方の部下でもありまして。正直従いたくはないのですが致し方なく」
「やかましいっ。それより何か、まりや。こんかいの人集め、またえどで使うんかい? きよまさが怒ってたぞ…もうちょいマシなのよこしてくれ言うてうるさいんやけどな」
「壊しちまっちゃ心臓に悪いですよ」
「はっはっはっ、ま、ありゃ割と単純な代物だし、全損するほど派手にやんなきゃそんなに心配いらねぇよ。何なら本物より出来がいいって評判のレプリカにしとくか。ありゃあれで乗りやすくて速いってんで受けはいいみたいなんだよ」
「しかし海老原さん、本当にアメ車、お好きなんですね」
「若い人に言っても信じないだろうし、俺も爺さんから現物見せられて話を聞くまでは何だそりゃだったんだけどよ、あの国の自動車産業が世界の頂点だった時期が確かにあるんだよな。その国の本気が見られる車が今は絶滅危惧種なのが惜しいには惜しいんだよ。俺らヤクザもんと同じだよ。栄耀栄華をいつまでも誇れるかってこった。本当に平家物語じゃねぇけどよ、諸行無常ってもんだよなぁ」
「だけど、昔のもんだからって何でもかんでも古いとか時代遅れとか言われたらそりゃ、腹も立ちますわな」
「今時のハイテンション鋼板ってのか、あれじゃなしに古臭い鉄板、それも分厚いやつを敢えてボデーに使ったりよ、アルミじゃなくって鋳鉄の重いでかいシリンダーブロックのエンジン使ってる理由はちゃんとあんだよなぁ。クソほど頑丈にこしらえておく意味がよ」
そう言って、つなぎ姿でコンコンと輪姦、いえリンカーンの車体をこづかれるおじさん。
「ま、オヤジどもの悪あがきってこった。高木さんにも付き合わせてすまねぇけどよ。女も酒もあんまやらねぇ俺の数少ない楽しみってこったな」
「気にしない気にしない。あたしゃ自分で趣味に走るより、趣味に走ってる男の人を見る方が性に合うもんでね。ちょっとしたお節介さ」
で、堅気になったおじさんのお宅を辞して我々は道を走り出します。今度はあたしがジーナちゃんの隣で。マリアちゃんは助手席側の窓を開けて手を振っています。
頭を下げる若い人達と、手を振り返すおじさん達が見えなくなりますと。
「天然記念物もんだろ、ああいうおじさん」
「よねぇ」
「あのおうち、どっちかって言うと博徒じゃなくて的屋さんの部類だったんだよ。んで、食材調達や地方でのコネも持ってるからちょうどいいやって感じでね」
「マリアちゃんはつくづく、ああいう人に懐かれるわねぇ」
「雅美さんの男運に言及する話になるぞっ」
「それで思い出したけどな、雅美さんの付き合いがあった反社の親玉みたいなん、あれどないよ」
「どないと言われても…ま、人間のクズには間違いはないわね。すすきのや中洲はもちろん、波の上にも出荷実績あり。沈め屋さんよ」
「あとは家族やな。騒ぐなら家族も…というところか」
「とりあえず田所さんと宇賀神さんにはもう少し水面下でちょこちょこ動いてもらうよ」
「うむ。その辺は任せよう。とりあえずうちは痴女皇国に戻るぞっ」
で、キャリアカーを返却に行ったジーナちゃんと別れ、我々は南青山の関東メディア本社へ向かう事になります。
「俺の名前で駐車許可申請は出してる。前みたいに変な場所にコソコソ駐めなくていいぞバカヤロー」
「へいへい。あ、田中さん。狭いようなら椅子、思いっ切り後ろに下げていいですよ」
「いえいえ大丈夫ですよ、お気遣いなく」ほほほ。実はレディファーストという事で、宇賀神さんの車の助手席に座っています。
宇賀神さんの後ろにはマリアちゃん、あたしの後ろは田所さん。
「宇賀神の横に乗ると心臓に悪いからな…だから俺のガラスの心臓に悪い踏み方すんじゃねぇよバカヤロー」
「毛が生えてるんじゃなかったんですか、心臓」
「るせぇバカヤロー。あ、宇賀神、オメー千葉県警に知り合いいたろ。例の擬装難民入国あっせん業者の件追っかけてたの」
「ああ、県警本部の戸田って人なら」
「あの業者の仕事に女を仕入れる話がある件、こっちの芸能絡みの連中との繋がりがわかったらしいぜ。今から南青山に来てくれるってぇからな。来たら俺らの話に加わってもらおうや」
で。
何ですか新築感ありありとは言え、この二階建てプレハブ飯場はぁっ。
「とちぎメディアサービス株式会社 東京営業所…」
「い、いやこんなプレハブ用意したの、俺じゃねぇぞ…バカヤロー!何だよ宇賀神オメーの目はよっ」田所さんが狼狽していますが…。
「宇賀神さんごめんこれあたしっ」
で、マリアちゃんがぺこぺこ頭下げてます。
「いやね、比丘尼こ…どっかの日本で今、江戸開きしてる最中なんだけと労働者向け住宅の建設が間に合わなくてね…とりあえずプレハブ飯場を大量に発注して現地に送り込んでんだけど、先方が間違って二階建てを一棟持って来てさ…んで、昔に制作総務の分室があった場所空いてるって言うからさ…」
「あーなるほど、だったら構いませんよ。まぁ、昔と違って局長に監視される事はないわけだし」
「とりあえず今の制作局長には見張るまではしなくていいから、何かあったら連絡や要望は受け付けとけ、制作総務時代からの伝統だっつっといたからなバカヤロー」
「ちなみに一階はうちの事務所に使うから」見れば、白木の看板に高木芸能株式會社と墨痕淋漓…。
「マリアちゃん。どこのヤクザの事務所よ…」
「いいじゃんか。どうせこんな所に関係者以外来ないって」
「うちの看板がまだマシなのは救いだな…で、この調子じゃ、2階に置かれてるの、コクヨの事務机ですかね。あんなもん、今のご時世なら逆に天然記念物ものだから、あれはあれでいいんですが」と言いながら、マリアちゃんから鍵を渡されて階段を上がった所にある扉を開ける宇賀神さん。
「へぇ…って高木さん、この椅子…」
「うん、マスタングの廃車から抜いてきて事務椅子に仕立てるキットつけたったー」
「ああ…車の座席を椅子にするあれか!なるほど、高木さん…こりゃいい感じだ」木目調の天板の黒の両袖机と、その前に置かれた適度なやつれ具合のビニールレザー張りの黒い椅子。役員用椅子に見えなくもありません。
「リユース品ばかりで申し訳ないんだけどさ」なるほど、冷蔵庫や電子レンジに流しに応接セット、完全な新品じゃないのは見てわかります。ですがひとわたり色々揃えてはもらっていますね。
「エアコンが新品だ…」感動的な目で壁の家庭用エアコンを眩しそうに見つめる宇賀神さん。
「あー、宇賀神がいつもボヤいてたやつな。あれで総務部長が泣き入れて来てたよなバカヤロー」
「ガスヒーターか灯油ストーブ置きたかったんだけどさ…」
「ああ、大久保林の二の舞を考えてくれたんですね」不本意な自宅火災で死亡された放送作家の方ですね…。
その時。
「宇賀神さん、パソコンは新品よっ」
「邦彦さん、私たちは一階に机を頂けるそうです」
「南青山らしくない事務所だけど、こんだけ整ってたらいいんじゃない父さん」
「桔梗…雪子はまだしも何で瞳まで…」ええ、宇賀神さんの奥様と、宇都宮の会社の契約社員の方と…痴女宮にいる娘さんはまぁ、穴も口も知っていますからいいとして。
(その発言を口にしたらベラちゃんに頼んで黒グッズの刑ですからね…それかインポタケドリンク飲ませて放置しますよっ)
「なぜかは知りませんが高木芸能への出向指示が来ました。住居も代用社宅として池尻大橋に3LDKの賃貸を用意して頂きまして、雪子さんや他の三人の同級生の方と同居を申し渡されています」そんな我々のやりとりを知らぬげに、国民的美少女でフランス人と事実婚した人の若い頃っぽい印象の伊藤瞳さんがきっぱり申されます。
「で、私も上司から一時的に高木芸能総務に出向との話を」
「あたしと他の3人は高木芸能所属の駆け出しアイドル扱いらしいわよ」
「雪子…お前試験は…高木さん…これは一体…」
「わははは!こりゃいいや!制作局から見張るより効き目あるんじゃねぇか?宇賀神!」
「いや、この子らは反社の釣り餌よ釣りエサ」
「ねーさん。しばいていいですか。あたしら期末試験まだ終わってないんですが」
「何であたくしがこの忙しい時に釣りエサ役を!」しかもベラちゃんと乳上まで…。
「雅美さん。あたしたちもよ…事が終わったらここにいる痴女宮組全員でリーゼ姉を堤防するから黒グッズ出庫してね…」
「雅美さん、これは本当に真剣にお願いしますわよ…」ええ。マリアンヌちゃんとスザンヌちゃんまで…。
(関係者全員の分体出させられたあたしの苦労も理解してくれると助かりますねんけど。あと雅美さん、黒グッズ使うのは構いませんけど、寿命に悪影響が出る上に胎教に悪いからベラ子かーさまに触らせてくださいねっ)エマちゃんがぐちぐちと愚痴を言うておりますが、ま、仕方ありませんね。
「まぁ、とりあえず雅美さんがやってた個人事務所まがいをあたしが買い取る形にしようかと。んで既存在籍者は海老原さんの伝手に回す形にして、新規に契約モデルを用意しました」
「で、あたしたちは高木マリアンヌと高木スザンヌのそっくりさんだそうです」
「本人なのにそっくりさんとはこれいかに」
「更にな…何でこいつらの母親のうちまで呼ぶんじゃ!こらマリ公、自分の母親をAVに出すとか女衒のネタにすんな!それにうちは宙兵隊の公式報道やら何やらで顔割れまくっとるやろが!」
「かーさん。娘のあたしたちが出るのはいいのかしらっ」
「いや。マリ公も所属リストに載せるならあたしも異存はない」
「鬼かこの腐れおばはんっ」
「リーゼ姉…今さらだけどかーさんってさ、倫理基準が高いのか低いのかよくわかんないとこあるよね…」
で、下の階にある高木芸能とやらの事務所の会議室で、いかにもな折り畳みの机と椅子に座る我々。
「ふむふむ。東欧系新参ブローカーから押し付けられた巨乳の処分に困っているとするのですか」
「確かにアルテローゼさんか…ハンガリーというよりウクライナ系に見えなくもないけどなぁ」スーツ姿の乳上を品評する我々ですが。
「まぁ、スザンヌは元々古代バビロニア系だし、マリアンヌに至ってはアングロサクソンとウクライナ系スラブとの混血だからな。外人一括りに見る連中からすりゃよくわからんって言うでしょ。ねぇ田所さん」
「…確かに、高木さんとこの子たちは…正直日本だと受けがあまり良くねぇんだが、ベガスなら確実に受ける。あと六本木でも売れっ子間違いなしだな」
「ロシアンパブ行ったんですか局長…いや社長」
「バカヤロー、ガイジンってのにも色々いるんだよ…だいたいよ宇賀神、マリアヴェッラさんとアルテローゼさんを見比べりゃ一目瞭然だろうがよ。ここにフランス系が混じればもっとわかりやすいんだけどな…」
「確かに私は3/4フランス人ですが…」事もあろうに短機関銃を手にしたベージュの軍服に赤いベレー帽姿のジョスリーヌさんが現れます。
「いきなり人が現れるのには慣れたが…軍人さん呼んで大丈夫なんですかい?高木さん」
「メルシ、ムッシュ・タドコロでしたね。共和国国家憲兵隊のジョスリーヌ・メルランと申します。ムッシュ・ウガジン他の皆様もいきなりで申し訳ございません」
「1er RPIMa…第一海兵歩兵降下連隊の徽章なのは詮索不要ですかね、マドモアゼル」
「まぁ、小官はその時々で所属が変わりますから…」
(宇賀神、その海兵なんたらってのは何だよバカヤロー…)田所さん、小声で聞いていますが。
(フランスの特殊部隊の一つですよ…大久保林さんの当たり小説の恐竜の話にも確か似たような部隊が出ているはずですよ…)
「すまん。ここにマリーを呼ぶと話が厄介になるんだ。出来れば円滑な作戦計画立案に協力願いたい」
「は。例の… après-guerreと呼ぶもはばかるimbécilesどもの件ですか。この後にイケブクロまで行く時間を頂きたいのと、この銃と…あと、このふざけた拳銃を預かって頂く事が可能でしたら全力で協力させて頂きますが。正直、性能は認めますけどこの拳銃、嫌なんですよ…生理的に…」ホルスターから抜き出した黒い拳銃を机に置くジョスリーヌさんですが、何か汚物を触るようにしていますね。
「ああ、H&K USPタクティカルか…ドイツ製ならしゃーねーなー。雅美さん…後で案内したげてよ」
「はいはい。でもその銃をピンクに塗ってから理恵ちゃんに見せたいわね。絶対に嫌がって逃げ出すわよ」
「ああ、りええにはトラウマだかんな、P90」
ええ、拳銃の横に置かれたこの変態的な格好の短機関銃ですね。これと同じものがいけにえ村作戦の際に駄洒落菌弾丸をそこかしこに叩き込むのに活躍したのですが、理恵ちゃんには色々と素晴らしい思い出になっているのを知っています。
ですので、出来れば銃口を向けてあげたい気持ちに満ち満ちますね、この特徴的に変な姿の銃を見ると。
「あ、戸田さん来たみたいよ」ゆっきーが声を上げました。構内を誘導してくれているのでしょう。
で、チャイムの音で瞳さんが立って迎えに。
「いよう伊藤さん、相変わらずゴ◯ミ似だな。とりあえず入れてくれ…」玄関の方で声がすると、瞳さんに連れられて来たおじさんが。
いかにも2着いくらの安いスーツがよく似合う方ですが、こういう警官が割と剣呑なのです。
「やぁ皆さん、千葉県警本部から参りました戸田と申します。この度は当県警所管内における人身売買の実態について興味深いお話をお聞かせ頂けると聞いて伺わせて頂きました」
そしてマリアちゃんの勧める椅子に腰掛けられます。
「ええ戸田さん。で、警視庁でも公安外事と捜4の方で色々調べておられましてね。つきましては、まずはこの方に概要を説明してもらいましょう」はい、帝都を滅ぼしそうな加藤さんが転送されて来ましたが、さすがにいきなり現れると戸田さん驚くわよ、マリアちゃん…。
(宇賀神さんの入れ知恵。戸田さんには一発かましてから話を始めた方がはかどるんだってさ。確かに効いてる効いてるだね)
(ええ。戸田のおっさんはこうした方がいいんですよ。助かります)
(おっ宇賀神さんもコツを覚えてくれたね。男性に心話能力は渡せない…というか渡したら性別が変わる危険があるからあたしら側から繋がないと常時接続は難しいんだけど…必要があれば呼んでくれたら繋ぐから)
(ま、無線のトランシーバーみたいなもんですね。了解ですよ)
「やぁ戸田警部補。高木さん…まぁ、この際だ。マリアリーゼ陛下に代わってまずは私から説明させて頂こう。まず端的に言うと芸能界並びに各種風俗営業に関連する人身売買、そして連邦政府の推進する難民受け入れ割り当て枠制度を悪用した非・日本国籍者不法滞在就労支援の実態が存在する」
そこからの加藤さん…加藤警部のお話はある意味私、田中雅美が把握していた以上でした。
まぁ正直…お風呂屋さんに沈めたりAV系プロダクションに回すくらいは把握していましたが、よその国にまで出荷するってちょっと。
で、ここで汎銀河人類族連邦という名前負けにも程がある組織を頂点に抱く現状の地球ですが、一応は地球を統一していると言っても…言うなれば「もう少し小マシで安保理事会の業務が軍に振られた国際連合」というレベルです。
そして各国間の移動については連邦政府に入国審査基準規定を申請して通れば適用されます。
つまり、各国間の入出国審査は残っているところではきっちり残っているのですよ。
をかま作戦の際にワーズワース卿がパリには行けたが外国人旅客の宿泊予約段階でハネられた話も、フランス共和国の入出国審査基準設定を電子的に履行した結果、ヘンリー・ワーズワースとアグネス・ワーズワース両名については民間施設への宿泊滞在まかりならずと出てしまったが故の悲劇ではあるのです。
イギリスとフランスの場合、私達の連邦世界では観光目的ならばノービザ、ただし電子旅券査証機能のある何がしか…たいていはメディアウォッチを空港や駅の税関に設置された端末機にかざして、その場で画面に出てくる質問に回答するかあらかじめメディアウォッチのパスポートアプレットに入力した内容を読み取らせれば数秒で審査が完了します。
ただ、ブータンやロシアやイスラエルのように入国許可査証をあらかじめ取得する必要があったり、日本もそうですが観光滞在には日数制限があったりする場合があります。
ま、とりあえずは紙のパスポートの代わりに電子旅券が一般的になった程度と思ってください。
しかし、この制度やシステムの穴を悪用して違法就労者を難民枠や観光枠で入国させたり、はたまた電子手続きが迅速に済むのを良いことに、入力内容さえ間違えていなければ出国させてしまう事ができるわけでして…。
「あと、ポルノビジネスですね。これについてはNBでも流石に問題になりまして、いくら向こうの娯楽が少ないからって、そういう需要に旺盛に応えるのもいかがなものか。更にはNBを中継した倫理的問題が発生しかねない過激ポルノコンテンツ。これについては向こうの首相の孫娘に該当する方の協力を得まして、頼むから自粛して欲しい。英国首相と二人してニューヨークの連邦議会で証人喚問とか我々も面倒この上ないから頼むからやめてくださいと私自らワーズワース大公殿下とお話をさせて頂きました。ふぅ」
と、一気にまくしたてる黄美娜さん。連邦法務局のパリ本部から呼びつけられたせいか不機嫌極まりない顔です。まぁ、この作戦を契機に痴女皇国出向になるらしいので業務引き継ぎが大変らしいのですが、仕方ありませんねっ。
(雅美さん…あなたの撒いたタネでもあるんですからね…)
(あたしは変態需要に応えたまでですっ)
(くうっ痴女皇国行ったら堤防ですよっ)
(あたし一応身重なんだけど…それ以前に黄さん、あなたまだ千人卒じゃないですか…あたしに勝てるとお思い?)
あ、をかま作戦の際の痴女種ランク復帰、どうせ反社作戦もあるからって名目で継続中です。つまり今の黄さんなら、あたしの片手でひねるどころか潮を吹かせ以下略。
「あと、田中雅美さんの逮捕状やら起訴状の問題ですが…とりあえず今ここで逮捕させて頂きます」加藤さんが宣言して、あたしの両手に手錠をかけます。かけますが。
「で、黄法務官。少しのご協力を」そう言って警察専用メディアウォッチを使って、すぐさまあたしから手錠をお外しに。
「で、国際人身売買組織の片棒を、そうとは知らず担いでしまった哀れな女かまきりの田中雅美先生は連邦法務局の統括捜査の重要参考人として引き取りまして。ほれ」今度は黄さんがあたしに手錠を。
「そして女郎蜘蛛の雅美さんは、ドイツのエロスセンターに女を売り飛ばした日本国の潜在的反社会組織構成員への協力容疑もさりながら、過日のブローニュ並びにヴァンセンヌの森における売春夫や性的倒錯者やら身元不詳者やらの大量失踪事件に関与した疑いがあり、フランス共和国からの身柄引き渡し要請に応じてフランス国家憲兵隊国際犯罪担当に引き渡します」で、またしても手錠を外されます。
そして今度はジョスリーヌさんが…何ですかそのマウスギャグは!
「舌を噛み切られる可能性がある場合に装着する拘束具です。で、マダム・タナカは取り調べの結果、連邦政府機密たるNBひいては痴女皇国関係者と判明。一連の経緯の供述要請に極めて従順であり、事件に関する報告をでっち上げいやもとい作成する協力者として有益でした。そして共和国政府のみならず連邦政府が密かに進めるNBとの交流深度化や、全くもって全然隠す気がない密輸出密輸入への影響を鑑み、フランス共和国大統領名の恩赦状を交付。連邦法務局を経由して日本政府にも同等措置を要請しました。ムッシュ加藤、いかがなさいますか」
「で、法務大臣名の回答書です」
「かしこまりました。では恩赦は連邦政府所管内各国にて有効化されたという事で、これを外させて頂きます」
わかりましたからはよはずしてください。よだれが。
「当分そのままでいいんじゃないでしょうか。恩赦が出たとは言え本当なら前科5犯くらいは行くわよ。ホモでメスイキじゃないけどゼンカモンよっあなた」
「うん、和歌山のミカン畑で女囚人してミカン収穫するよりはいいと思うから、あと10分このままで。心話で話せるからいいじゃん」そんなーマリアちゃんまで…。
「しかし電子手続きだとシャンシャンにするのも大変だよね…」
「しかも複数国家が絡んでるからね。マリア先生、田中先生が身重じゃなかったら逆に法務局でこき使いたいんだけど」
「その人選は色々問題がある気がするんだけど、まぁ他の人の都合もあるし、ちょっと反社の逮捕に至る段取りの協議をしましょう」
「吉崎無限で…よしざき・いんふぃにてぃ…」
「なんつー名前だ…」
「ええ、ガイアが輝けと囁くような男に相応しい名前でしょ…」やっと口の拘束具を外してもらえたのですが、未だに顎があががががが。
「しかもホ◯ト崩れ丸わかりなこの顔といい髪型といい服装といい…」
「んで、このチャラチャラした連中の下にいるのは…まぁ、割と普通と言えば普通だな」
「それが癖者なのよ…あの世界でも素人志向があるらしいんです。で、いかにもホス◯ってのはあまり受けないようで」
「秋葉原でもいるよな」
「いますね、何であんたらが冥土風俗の客引きなんかすんの、天の声の世界なら…大阪市の日本橋は日本橋でも中央区日本橋のラブホ街で風俗の客引きをしろよって奴」
「で、この吉崎の下についてるNo.2の力でまとめる役が中井義文」
「これ建設や電工系? なんか力押ししなさそうなフツメンだけど」
「いえいえ飲食系よマリアちゃん。ジョスリーヌさんはご存知かも知れませんが、代官山や麻布や田園調布あたりのレストランでも厨房の中は割と体育会系でして」
「あーなるほど、んで店大きくして金回りが良くなった部類か…」
「で、AV関係がこの石灘英気。クラブイベントやそれ系衣装のインポーターで副業でAVメーカーの実質社長。そっち系のルートで女の子を風俗方向に流通してるわね」
「何ですかこの○田○之助…」
「本当に全盛期の上○馬之○だな…体格といい服装といい…AVよりプロレスの世界に行った方が向いてるんじゃねぇのかな…」
「
ああ、そうか宇賀神さんプロレス詳しかったもんね」
「…しかし…つくづく全員、リ○ラ○アット食らわせた方がいいんじゃねぇかって顔だな…」
「でまぁ、こいつらの直接の手下とか、あるいは旧車會方面の繋がりのある連中…要するに引っ張れそうなのはちょこちょこ引っ張って行ってんだよな。ねぇ加藤さん」
「ええ、戸田さんにはあまりお聞かせしたくはないんですがね、私の本当の直属上司…マリアリーゼ陛下のボーイフレンドに該当する方なんですがね、同じ矯正官舎に懲役で収監するなら、より労働効率を発揮してくれる場所で働いてもらう方がいいだろうって申されましてね。おまけに今回は別世界の日本でお役に立てる訳ですから、我が日本国としても労働力を提供するにやぶさかではないだろうと」
「あー、なんか最近、うちの管内でやたらパラリラやってる連中が減った理由はそれか…いやね、交通の連中も生安も首傾げてたんですよ。ま、平和になるならそれもアリですな」
「戸田さんがそれ言っていいの?」
「いやいや瞳さん、あの連中は正直、俺達も持て余すんだ。微罪で捕まえようが累積で懲役食らおうが、簡単に更生してくれるんなら警察の仕事もかなり楽になるんだけどな」
「銚子で漁船にでも乗せちゃあどうだい、あの辺りの遠洋漁業なら今でもそれなりだろ?」田所さんがおっしゃいます。
「で、それを実際に実行している訳でしてね。このプレハブの本来の送りどころ、マリアさんがさっき仰っていたでしょう」
「言ってたが…あんた、あの場所にいなかったよな…」
「ああ、私も彼女達と似たような部類でしてね、もっとも位階はかなり低いのですが」
「せやからかとう。お前のようなんがおるからわしもしごとの手間が増えとったんやぞ…」
「ああ、ちょうどいいところに。紹介しましょう。私、この方の部下でもありまして。正直従いたくはないのですが致し方なく」
「やかましいっ。それより何か、まりや。こんかいの人集め、またえどで使うんかい? きよまさが怒ってたぞ…もうちょいマシなのよこしてくれ言うてうるさいんやけどな」
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