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アルトリーネの仁義なき妻たち 2

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「ところでその何とか連盟か知らんけど、どういう珍歩団ちんほだんなんよ」

「その札幌に冬場現れる珍しい歩き方をする連中みたいな言い方…」

「とりあえず珍歩団ちんほだんじゃないのは確定です。というか単なる珍歩団ち ん ぽ だ んより遥かに物騒ですよっ」期末試験を乗り切った宇賀神雪子さんが端末画面を指し示しています。

「それに雅美さんが連中の事、よくご存知でしょ…」

「と言っても、あの組織は結構大きいのよ?下っ端も下っ端から半グレビジネスやってる上の方まで見るとねぇ…」

「とりあえず加藤さんから頂いた資料では直接関与者が10人くらいですか。ただ、潜在的に協力しそうなのが更に20名はいそうな感じですね。いずれも、雅美さんが言うところの上の方ってやつです」

「ああ、うちの子の学校に娘ねじ込んでるような連中やな。あの手のは必ず湧いて出る。つーか第三次産業で新興系の従事者の場合、日本ではこう言う連中の予備軍と化すケースは決して少なくないと黄さんからも聞かされてるしな。法務局の国別犯罪者支援状況を分析したアナリスティックレポートでも問題視されとるらしいわ」ジーナちゃんも嫌そうな話だと言う顔で言います。まぁ、マリアンヌちゃんとスザンヌちゃんは正にそういう手合いに被害を蒙った部類なので、嫌そうにもなるのでしょう。

「まだ古くからそういうのやってる連中なら、息子や娘はもう少し堅気よりにって堅いお仕事させるような教育をするみたいなんだけどねぇ」

「荒っぽく稼いで金作ってる連中やからなぁ。妙に権力に取り入ったりするから、日本の法律の範囲では手を出しづらいし」

「今回は将門公の縄張りだし安井神社頼みも難しいしね…早めに解決した方がいいのよねぇ」

「とりあえずマリアンヌとスザンヌは痴女種状態を隠させて通学さしとる。あの状態のあいつらを害する事が可能なヤクザもんはまず存在せんからええとして…」

「関係者の保護と監視は紫薔薇と黒薔薇回してます。ちょっとクラブジュネスが手薄になりますけど、NB出向組も含めて連中の干渉を防ぐ体制は取っていますよ」

「あの子らにしても日本国内の活動やからなぁ、普段とはちょっと毛色が違うのが」

「とりあえず神野の兄さんにも話は入れてます」

「イスラム系工作員を偽装して活動させましょうか? 彼らは濡れ衣だと言って怒るでしょうけど…」

「FSBの非合法諜報部を動かす方法もあるけどね。連邦宇宙軍情報局監督下にあるから、昔ほど無茶苦茶はできないけど…」

「とりあえず国内の活動資金源を封じる方向で行きたい。完全に非合法だが、エマ子には連中の銀行口座特定と資金移動準備を指示している」

「えええええそれ完全に犯ざ」

「ンなもん第三国の金融機関経由で英国からNBに送金しちまえばいいんだよ。苦情を言おうにもNB相手に誰が苦情を言える公式窓口を持ってんだよ。だいたい特殊詐欺で稼いでるやつも仲間にいるのに自分らがクロサギ詐欺師狙いされて文句言える筋合いかよって」

「あとは日本国内でのうちの協力者や関係者への被害がないようにしないとね。連中の情報収集能力ってどの程度なのよ、まりり」

「んー。警察の内部協力者に賄賂を渡してるな。それと調査会社…ぶっちゃけ探偵社を経営してるのが仲間にいる。あと金融業を合法非合法でやってる連中。特に合法でやってる奴、加盟基準さえ満たしてたら信用情報管理会社の端末を置けるからな」

「思ったより一般社会に食い込んでるのねぇ」

「ただ、この辺の連中は潜在的協力者だ。法律の厳守遵守で行くなら手は出しにくい。痴女皇国ならあたしの機嫌を損ねた、で取り潰せるんだけどさぁ」

「ここは本当にマリアちゃん怒らせた、が通るからねぇ」

「どんな暴君よっ」

「いや本当に痴女皇国でなくて聖院でもそれが通るからね、今は…まぁ実際にはこういう権利侵害を聖院に対して行われたから処置を行います、くらいは宣言してやるけどさぁ。うちでも色街に手を入れた時は大変だったのよ?」

「とりあえず芸能関係が一番怖いわよね。声優やタレント、女優なんかの身辺を狙うのがまず連中の手口だから。次に男性芸能人の下半身やお酒絡みのトラブルに介入して因縁をつける方法があるわね」

「そっちは痴女皇国関係者の被害ということで警務を動かすわ。まぁ、黄さんの要請で日本警察や自衛軍警務に委託する話になるけど」

「ああ、前の会社アンタープリーズの強行処理班を使いたい…アンチマテリアルレーザーライフル一丁で決着する仕事が懐かしい…」

「ジョスリーヌ…日本はアフリカじゃないし中東や欧州でもないのよ…」

「あちらなら爆弾テロを装って処理する方が確実ですよ…低度安定型薬剤を使用する方法もありますけど…」

「それでやっていいならあたしが行くのが確実ですがな。ドレインで仕留めて来たらええ話ですからっ」

「あたくしでしたら連中の家ごと破壊したいですわね」

「王室騎士親衛隊出動させましょうか? まぁ…アナとあたくしが半日暴れるだけで済みそうな気もしますが」

「フランス関係者が毒盛り兄貴並の脳筋思考になっているのがこわひ」

「うちの叔父、怒りますよ…俺ならミケーレやばいやつもとじめに頼んで静かに話を済ませるって…」

「ベラちゃんそれもたいがい危険な処理方法だから」

「ところでなぜにアルトさんを呼んでいないのですか」

「ああ…ヲカマ作戦の際にな…際にな…」

「致死量直前まで吸った件の謹慎とは聞きましたが」

「いやそれ以上。マジ殴りしかけた。慌てて周りの奴が止めたけどな」

「あの人が一般人を殴ったら相手、人の形を保ってられるんですか」

「だから止めたんだよ…ベラ子、あたしがアルトを将軍にしてる理由がわかったか…あいつはやりすぎるんだよ…」

「それはあたしももよく分かります。あの人ほんっとに手加減しない時はしませんからね…」

「うちの姉はねぇ…あなたは本当に女の子かというくらい暴れ回ってましたから…行方不明になって安堵する者が正直少なくはなかったのですよ、村内でも…」


ええ、痴女宮22階会議室、内容が紛糾しております。ジョスリーヌさんが加わり反社作戦の内容を見直す必要が出たとかで計画を修正しております。

ですが、「やり過ぎないように配慮してくれる人材の選定をしたい」件でやはり揉めております。

ただ…その基準だと誰も残らないわよ、マリアちゃん。

そうです。皆さん基本的にやり過ぎるのです。

ですのでやり過ぎないように釘を刺す必要があるのです。

特に、黒薔薇に新たに加わったジョスリーヌさん。

この方の経歴は他でも語られていますが、物騒で剣呑なお仕事の経験者です。

物騒で剣呑といえばダリアちゃんの過去がそうですが、ジョスリーヌさんの場合は組織的国家的にそれをする組織にも所属しているとか、そういうお仕事専門のPMC…傭兵会社の構成員だったりで、業務として危険行為をするノウハウを組織実働部隊員として蓄積しています。

つまり、痴女皇国開闢当初のマリアちゃん並みか、それ以上の過激な手段の行使経験者です。

「言いたくないんですがアフリカで純粋反応型小型熱核弾頭の地上使用時の運用に関わった事、あります…2回くらいですけどね」

「よう監視衛星に捕まらんかったな…」

「つまり衛星運用機関も承知の上という事です。ジーナ閣下でも対地攻撃は通常弾頭型止まりでしたよね?」

「ああ、うちらが停戦監視で派遣された時は、核使用なんかやったらそれこそ大問題やったからなぁ」

「だからですよ。宙兵隊正規の調停派遣部隊が立場上出来ない仕事が回されて来たと言う事です」

「弾頭の入手経路も気になるが、それは言わぬが花にしておこう。それより反社相手にはさすがに熱核弾頭の叡智の光で蒸発して頂く訳にはいかん。オラトリオジャックも禁止やからなっ」

「どれだけ出力絞っても、反社の家だけじゃなくて実照射線の両側100mが電子レンジに放り込んだようになるからやめろっ。あとかーさん。うちのあおかん号TAPPS7から全武装降ろしといてくれ。あれ一応固定装備はないはずだぞ…」

「外すんめんどい。伊丹か信太山の整備員呼んでやる手続きも大変やねんぞ…」

「前回の打ち合わせの時にも念押ししたろ…今回はTAPPSは持って行くなよ…で、実は今回、ジョスリーヌさんの繋がりが使えるということで、あまり大戦力を投入せずスマートに行ってみようと思う」

「で、マリ公。ヲカマ作戦の時にチラッと案を言うとったやろ。あれをもっかい、皆に教えたりぃや」とジーナちゃんが申しますのに従って、マリアちゃんが記憶共有をかけます。かけますが…。

「た、確かにそれは向こうが戦う気をなくす話にはなると思う…思うけど…」

「人間の尊厳を奪う話ですわね…」

「ある意味痴女種の禁忌に抵触する話という気も…」

「でも、これならアルトさんにも出番あるんじゃない? 戦う方じゃないけど」

「ついでに相手の資産とか家族とかもまとめて色々回収したり等々できる気もする」

「日本政府の反応が気になります」

などなど意見が出てまいります。

「まぁ確かに…これなら少なくとも無害化はできるわね…」

「私は賛成です。対象は死にはしないのですから。私の元の所属の仕事よりは遥かにアンテリージオンスマートです」とジョスリーヌさんが言い切ります。

「まぁ、この方法なら色々頂けるものもあるしな。あいつらの経営企業のブラックな雇用で泣いてる従業員も溜飲の下がる話やろう。とりあえず若様と加藤さん、それと黄さんが頷けばあたしに異論はない」

という訳でマリアちゃんの案を採用して実行することになりました。

そして、そうとなるとまずは連邦社会での日本国内の保護対象を保護する活動が必要になります。

そして、既に始まっているマリアンヌちゃんとスザンヌちゃんの芸能活動のサポート。

「というより、ほもな事務所はまだしも声優系の芸能プロの社員さんの方がまずいわよ…あたしらの時は速攻でドレインして腰立てなくしたの3回くらいかな。事務員さんは逆にあたしらが帰宅に付き合う方が安全だし、紫の人もつけてくれてるじゃん」

「それどころか実行した奴の頭の中抜いてさ、他の手下が誰か調べて紫と黒の人行かせて先行で拉致してもらってるから、今頃手数が足りなくて焦ってるはずよ」

「放火や空き巣のプロを雇う事までしてたからね。そっちは実行させてから捕まえる方がうちらには都合いいと思うから監視にとどめてるけど」

「社長さんの護衛は?」

「紫だけじゃ足りないから御坂百合子さんに頼みました。いいアルバイトあるよーで痴女種復帰承諾。おうち了承済み」

「ああ…警察絡みの出向の…」

「皇宮警察籍の人があと二人は動いてくれてるわよ。警視庁捜査四課だったっけ、あの怖い人ばかりのところに出向の扱いで」

「なんか手回しすごく良くない?」

「それはもう若様って人と加藤さんに言ったげてよ。加藤さんがあの小鬼みたいなのあちこちに飛ばしてるからうちらの穴、かなり埋まってるし」

「それはそうと、なんだかんだでその衣装着てるじゃない…」

「そりゃ仕方ないじゃん」ぶっすーっとしているマリアンヌちゃんですが、確かにこれ、よく見るとものすごく過激なんですよね…デザイン原案出したのあたしだけど…。

「マリアンヌはまだしもわたくしはこれですしね」と、遠目には普通の白いドレスをぴらぴらさせるスザンヌちゃん。

「ところでほも事務所の方への対応、どうするか聞いてるの?」

「あ、そっちはリーゼ姉が根回しに動いてるわよ。なんか、反社のバックについてるおじさんが知り合いだったみたいで」

「へ?」


「だからさー、雅美さんみたいな知り合いじゃなくて、これの絡みの知り合いだってば」マリアちゃんが後ろを指差します。

「つかマリ公。狭いねんけど。あと何でうちが車載車きゃりあかー運転せなあかんねん…」

「おばはんが一番適任だから。あと注意してくれよ、後ろのもんの値段言っただろ…」

「しかしようあんなもん見つけて来たな…あれ確か全部合わせても500台も作ってへんのやろ?」

「種明かしをするとだな、エマ子とあたしの「力作」だよ。ま、出来は本物そのものだけどねぇ」

「なんか贋作がんさく専門の絵画商がヤクザに絵売りあんしに行く図式にしか思われへんねんけど」

「あたしにアラブ王族のアシスタントはいねーって…あ、アルトかナディアちゃん乗せときゃハマってたな。しまった、ついて来させるんだったぜ」

「しかしさぁマリアちゃん、こんなので喜んでくれるの?」

「あーそれは大丈夫、予めこれ持って行くって言ってるし、あそこのガレージにあるリンカーン・タウンカーの1984年モデル、名刺がわりにあたしがあげた奴だから」

さて、我々がトラックの運転席に三人並んだ状態でどこに向かっているか。

「えーとね、前の覆面についていけばいいよ。新目白通りから聖母坂に右折して病院越えた辺りで右折。着く前にあたしが電話するわ」つまり、豊島区の目白のあたりですね。山手線の外側ですけど、割といいとこです。

で、そんな場所に来て何をするのか。


「いやー海老原のおじさん、着いてからでよかったのに」

「いやいや待ちきれませんで。おー、これかー。しかしすっげぇもんだ。オープンモデルじゃねぇが、このままペブルビーチに持って行けそうな仕上がり具合だなぁ」頭がハゲて痩せたおじさんが、あたしたちが運んできた車の運転席に乗り込んであちこちいじり回しながら嬉しそうにしていますけど。しかも、車に傷をつけないようにと高級車の整備で使う専用のつなぎにわざわざ着替えて…。

「しかし、これのセダンモデル、よく見つけて来なすったもんだ…5台くらいしか作ってねぇはずなんだが…」降りてきて疑わしそうに何とか三世辺りが乗ってそうなクラシックカーを睨め回すおじさんですが。

「そこがミステリアスでいいんじゃねぇの。シャーシNo.482番で6台目のセダンボディのデュージィって言えばさ、誰かが想像を膨らませてストーリーを描いてくれると思うよ。例えばカポネが獄中で出て来た時のために発注したとかね」

「なかなかいい筋書きだ。それならセダンが見つかった理由も説明がつくしな。いや、このメーターパネルのウロコみてえな仕上がりといい、メッキの輝き具合といい…こいつが偽物でも俺ぁ文句は言えねぇよ。それにこの音だ。…おい!てめぇら、どうだこいつは!」後ろにいたいかにもな連中に声をかけていますが。

「へい、ザギンにでも乗り付けてぇもんですね」

「けっ、言いやがるぜ。だがあそこならこいつの貫禄も映えるってもんだ。また色合いが渋いときた」

「黄色いクーペボディの方がよかった?」

「いや、俺は酒池肉林グレートの富豪ギャッツビーを気取る趣味はねぇよ…ねぇが…そう言う振る舞いをしてみたくなるなぁ。はっはっはっ」もう見るからに上機嫌です。

(そりゃデューセンバーグ・タイプSJの超貴重なセダンモデルだぜ。出すとこ出せば200万連邦ドルは下らねぇ。カポネの幻の愛車なんて伝説がつけばもっといくな、うん)

「ところで高木さん。後ろの兄さんが乗って来られたマスタング…ただもんじゃないね。ちょっと見せて頂いていいかな」ハゲおじさんの目がギラリ、と光ります。

「ふっふっふっ、流石は海老原さんだ。良く気づいたね。宇賀神さん、エンジン見せたげてよ」マリアちゃんのオーダーに、宇賀神さんがボンネットを開いてステーをつっかいます。

「おかしい。こいつは…まさか」

「あーやっぱり気付く? うん。LS7積んだったー。しかもマリオ・ロッシの組んだNASCARスペックがベース。AT組み付けるアダプター製作が大変だったんだけどね」

「無茶な事を…と言いたいが、3代目か…いくらキングコブラモデルたぁ言え、マスタングIIの車体にこんなもん積んだらジャジャ馬以外にならねぇ気もするが、そこんとこどうなんで?」

「インジェクションの時で500に抑えてるよ」

「高木さんそれ抑えてねぇ。わはは。…で、そこの兄さん、ちょっと横でいいから俺を乗せてひと回りしてくんねぇかな」

「ああ、いいですよ。この時間帯ならあまり踏めねぇだろうけど」で、右側におじさんを乗せたマスタングが発進していきます。

「ねぇ…マリアちゃん、あの人って…」

「うん、部下のみんな困ってるけど、某アメ車大好きタレントおじさんと仲良しなくらいのアメ車キ◯◯イ」

「オヤジにあの趣味さえなきゃあ…」

「わしらがド◯ツ車乗ってたら怒るんですよ」

「まぁ、オヤジの趣味があるから高木さんの仕事とか、古い車の集まりでいいとこの会社の人の仕事ももらえてるようなもんなんで、あんま文句言えないんですけど」

「立場あんだから頼むからハーレーのツーリングクラブの幹事までするのはやめて欲しいんです…タマ取られたらわしらどうしろって話になりますから」

「だからあたしがせめてタイヤ4本の奴に転ばせよう転ばせようとしてるじゃんか…あんたたちも悪いとは思うけどおやっさんの趣味付き合ったげてよ?」

「はぁ、わしもあの手のは嫌いじゃないんですがねぇ、オヤジの道楽には負けますわ」

「あの繋がりでシノ…仕事取れてんだから文句言わないの!」

「そりゃそうと、その日本人のねーさんが、あいつらが追い込みかけると噴き上がってるお方で?」

「ああ、おやっさん戻って来たら話あるだろ…ってちょっと待てえええええ!」

…ええ。白バイ引き連れてマスタングが戻って来ました。それも、運転席はいつの間に変わったのやら、ハゲたおじさんです。

で、覆面パトカーから降りて来た帝都滅ぶべしな特殊警官の加藤さんと、部下の長柄さんという方が身分証を見せて特殊事案だからマル外の外交車両扱いにして処理しろと白バイの方に話をされまして、我々一同桜田商事の皆様に平謝り。

「いやぁ、新目白通りでちょっと空いたから踏んだらあっという間に100km/hオーバーで…面目ねぇ…」

「うちらいて本当に良かったよ…あそこ制限50でしょ? 下手したら50km/hオーバーじゃん…」

「車がすげぇのはわかったけど、親ぶ…社長さん、結構いい腕ですね。あの手のもん、扱い慣れてらっしゃるようで」

「昔シェルビー何とかっての乗っててね。いや、当時はコブラなんてとてもとても手が出ねぇからさ、マスタングのシェルビーモデル。ついあれ思い出して血が騒いじまってよ、すまんすまん」

(うちのオヤジは本当にアメ車絡むと餓鬼になりますから…姐さん方本当にすまねぇ)ええ「社員の皆様」がサングラス外して謝ってますし。

で、我々はお屋敷の中に招かれます。先先代の時代に建てたものを防腐処理とかして大事に使っておられるという白木作りの和風二階建ての趣味が良さそうなお宅です。ガレージも地下に組ちいやいや社長さん家族のもの以外にも社員の方の分とかありまして、反社かどうかを抜きにしてもかなり立派なお住まいです。

「息子や娘は今風にして欲しいって言いくさりやがるんですがね、この家こさえたひいじいさんの趣味がわかんねぇのかよって怒るのが日常行事ですわ。中身は今風にしてんだから文句言うなってんでぇ」
アメ車趣味があるのに和風とは何ともですが、当時に懇意にされていた大工の棟梁の力作らしく、耐震診断でNGが出るまでは住みたいそうです。

つまり、そういうお付き合いの人脈をお持ちの社長さんという事ですね。いわゆる昔気質風と。

「ま、高木さんに支援頂いた給食事業、あれのおかげでかなり持ち直せましてね」

「そいつは何よりですよ。漁協ほどじゃないけど農家も割と色々なコネがいりますからね、食い込むなら」

(あたしが出資して海老原さんの持ち会社に事業参画してんのさ。で、かーさんのコネを使って…)

(基地内の食堂は伝統的に軍人か軍属が調理するから食い込むのは難しいねんけど、併設施設ならと、インターナショナルスクールとか基地内軍属向け調理や食材供給に入札してもろたんよ。んで、マリ公が痴女皇国産の穀類に始まり食肉類も市価相場2/3くらいかな、とにかく安めに提供…なんせ物価差があるから…)

(で、受託業務下で食中毒他を出してませんよって衛生管理実績を作ってもらった。そしてミルスペック準拠の納入実績がある食材供給業者兼調理業者として都内外交施設や連邦関連施設に入札。私立校への入札も積極的にテンプレス・フードサービス名で入れて貰ったんだよ)

(んで野菜のダイレクトバイヤーも始めたと…)

(それも海老原さんちの社員さんがさ、例の農業タレントさんを連れて買い付けに行くの企画したんだよ。◯◯が選ぶどこどこの野菜って感じで。んで直買い黙認の代わりに協賛JA◯◯って入れた番組配信)

(あーなるほど!マリアちゃんが描いた絵図がわかったわ!あの子達絡みで提携関係にあるのにお前ら何しとるんじゃと反社に圧力かけられるわよね…)

(ふっふっふっ、金と人脈とはこういう風に使うのだぁあっ!)

(しかしえげつない事考えよんのー…んでロリータ趣味の男子アイドルの漏洩にも釘を刺せると…)

(で、手土産がさっきのデューセンバーグって寸法だよ。なんせこちらは原価ロハだし、調べてもシャーシナンバー以外は完璧なオリジナルだ、測定しても材質は完璧に当時のアメリカ製って出るはずだ。ま、海老原さんの性格なら自分が乗って遊ぶだろ。クラシックカーパレード出た経験あるし、名士と交流する場所に活用したがってるから)

(まぁ、デューセンバーグが手に入った言われたら気にならんアメリカ人はおらんやろ。米国系の連邦の偉いさんにでも見せて見せてとねだられたらしめたもんよ)

(それも田所さんのルートで話流してる。なんせあの人のベガス通いは今でも時々だし、海老原さんとはベガス仲間ゴルフ仲間だから)

(マリ公のおっさんキラーぶり、母親として呆れる他はない)

(うるせぇっおばはんに言われたくねぇよっ)

そして、そんな我々の高速心話の内緒話を知らずに海老原さんという方が申されます。

「…ったく、あのバカどもは今どき女衒商売でどれだけ飯が食えるのかってんだ。戦争からこっち、IRも下火で博打界隈も悩んでんのによ。あのアタタな馬主さんも頭抱えてるって千明の旦那さんから聞いてるから、馬絡みでなんか一ついい話が出来ねぇか、思いつく話があればお聞きしますよ」

「そうだね。リニア開通したら九州行きやすくなるからさ、あの辺の旧炭鉱地帯の農地転用開発とか考えてんなら牧場とかどうよって言っとくよ。種馬提供とかノウハウ教えるならそれなりの話も出来るっしょ」

「なかなかでかい資本投下がないと、世の中は回りませんからな。ヤクザもんでもそれくらいの知恵は回るのに、あいつらと来たら」

「ま、今回はうちの田中も全く悪くない訳じゃないんですけど…あの連中にこれ以上でかい顔されてもうちも困りますからねぇ」

「高木さん、こりゃあオヤジの愚痴なんだが…俺ぁ確かに先代先先代と続いて来たそっち方面の家の出だけどよ、親父からも爺さんからも言われてたんだな。そりゃヤクザもんだからでかい顔いつまでも出来ねぇ、いずれは道の端っこを歩けって話になるだろう。だから道の端を歩く練習しとけ。ついでにゴミが落ちてりゃ拾ったり、乞食がいりゃあお恵みの一つもやっとけやって。今にして思えば…普段から善行功徳の一つも積み重ねとけって言いたかったんだろうな」

「回覧板回って来てるよね?」

「ああ、もちろん。日曜の掃除も若いの行かせてるし、時間が取れりゃ俺もツラは出してるな。一応は区民なんだし会社経営者の顔もあるさ」

「真面目に都民やってるじゃん。だけど…」

「箱根の西の流儀はどうにもな。俺たちゃワルで何が悪い、法律社会クソ喰らえって態度でどうすんだよって、正直なところ俺ぁ物申したいね。ちょっと景気が肩下がりしたり戦争の一つもおっ始まりゃ、金貸しやら日銭商売やら女衒なんざすーぐ締め上げられるんだからよ。てめぇが根っこ張ってる土地枯らしてどうすんだよ」と、オヤジさんの愚痴が出ます。

と、そこに若い衆が来て申しますには。

「オヤ…社長、田所社長がお見えになられました」

「おう、通してくれ」

で、田所さんもその小柄な身体ですがヤカラ歩きでお見えになります。

「よう海老原さん、なんか高木さんから大層な贈り物押し付けられたんだって? こりゃあ10年はタダ働きだなっ」勧められた椅子にどかっと腰を下ろしてお笑いに。

「いやいや田所さん、ありゃあタダたあ言わねえがそれなりのお返しはしねぇとな。お天道さんの下、歩けねぇのは困っちまわぁ」

「しかし無茶しねぇでくれよ? 宇賀神の車なんざ本当なら誰があんなもん乗るんだよアメリカの筋肉ダルマでも扱い考えるぜ、あれ」

「だからいいんだよ。俺も昔はあんなの振り回して遊んでたんだからさ。で、どうだい」

「ああ、出るも出たりだ。宇賀神、オータム砲ってのか。週刊系のすっぱ抜きの話、海老原さんにしてもいいぞバカヤロー」

「へいへい。で…」

「私が説明します。よろしいでしょうか」

「ああ、田中さんの筋から判った話だな。うん、お願いしますよ」

「ええ。では…」と切り出して、聖環から画像を出してお見せします。

「あー…なるほど、未成年誘拐略取ときたか。で、加藤先生が同席って事は…」

「事件性のある話なので出版元には証拠保全と取材成果の物証提出を要求。さらに、未成年者提供組織の関与議員の情報リーク元を捜査中ってところですな。情報源の野党議員には今頃何か訪ねて来てるでしょう。訪問者が人間かどうかはわかりませんが」と言ってニヤリと笑う加藤さん。

(神野さんの伝手で天狗に頼んで秩父の山奥に連れて行ってもらいました。この件にこれ以上足を踏み入れるなって警告を飲まなければ、あの人、山から出れませんよ)

「ああ、池袋の風呂通いの…」

「風呂遊びなんざ資本主義の極みじゃねぇか。アカの風上にもおけやしねぇ」

「とりあえず手の一つは封じたってとこですかね」

「うちの福祉関係者が厚労省にも伝手持ってましてね。件の未成年者、通学校の出席率も低い子なんで在学校から家庭にも注意が回ってたんですよ。で、そこにもってきてこれでしょ。児童相談所から保護願い出してもらって所轄署に身柄確保依頼。逃げ回るようならうちの手の者出して確保しますよ」

「助かりますよ高木さん。あとはロリ何とかってのか、その元締めの確保だな」

「ま、下手に我々に捕まらない方が幸せでしょう。関係者には行方のわかってる行方不明になる方がまだマシだ。ですね高木さん」加藤さんの話に頷くマリアちゃん。

「となると、あとはキャンギャルってのか。あれは俺の方で抑えが効くし、田中さんとこで使ってた子もとりあえずは転籍を勧めてもらえたら何とかするから、声かけ頼んますよ」

「はい。うちの子には会社清算の話と転籍を説明済みです。頷くかどうかは本人次第ですけどね」

「正直難しいからな、身体だけでのし上がるタイプは…なんか芸がないと厳しいご時世だからな」

「あいつらん中に飲み屋に女の子流してるのいたでしょ、六本木界隈。あれどうします」宇賀神さんが聞かれます。

「あっちは海老原さんと加藤さんの受け持ちだな」

「あの辺の仕切りやってんのに話はしましたよ。余計な話が出ねぇように大人しくさせとけ。出たら風営許可取り消されちまうかも知れねぇからってね」

「ま、いざとなれば島流しだ。そうですね高木さん」

「できれば最後の手段にしたいっちゃしたいんですけどね。そうなった場合でも、とりあえず連邦社会で使い物になるように矯正して返してやる方向で考えてますよ。日本に戻れるかはわかんねぇけど」ニヤニヤしてますね、マリアちゃん。

「全く、整形で名を上げたあの医者の先生も驚くだろうぜ。目の網膜や静脈やら指紋どころか、遺伝子調べても全くの別人になっちまう話を聞いちまったらなぁ。そりゃ日本に戻って私は日本人の誰それですって叫んでも、元の人間だって証明できなくなるんなら誰が信用するよって話になるわな…」
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