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てるちゃん奮戦記 -Hôtel de Atlantide- 5
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「あれだけ話をして一刻も経っておりませぬとは…」秀忠様が唸っておいでですが、これ、マリアリーゼがよく使う技です。すてぃっくす空間とやらに移して時間の経過がないようにしてしまう、早産み早育ての時と同じ方法です。
「はっはっはっ天狗の仕業というやつですよ」
「マリ公それ天狗のせいにしたら天狗に怒られる奴やぞ」
「しかし、その生贄村とやら、なにゆえに見つからぬのか」慶次郎様が訝しげに申されます。
「んー。あ、ベラ子醤油もうちょい。ま、いくつか隠す方法は思い付きますけどね。はい慶次郎さん芋とお肉」
「それよりマリア…何であたしの車までわざわざ召喚して鍋から何から買い物さすんじゃ!この芋煮で使こた金、何がなんでも皇帝室経費で絶対に承認さすからな!クレーゼさんに何に使うたかマリ公お前もちゃんと言えよ!」
(聞こえてますわよお義姉様…義夫さんが存命の時、会社でやまがた出身の子にその、いもにとやらにまつわる確執の一切合切を聞いた事がございますから経費承認は出します。ただ、そのおなべ、痴女宮の堤防で再現願います)
(あとみんな牛肉醤油派でしょうな! 痴女宮に戻ったら味噌が貴重品の上にですね、マリアに連邦地球の米沢市に飛ばされましてね…薪はまだしも醤油がマ◯ジュウかベ◯ヤしか並んでませんでしたんやで? まさかスーパーの醤油コーナー、ヒゲタとか亀甲マンどこよみたいなあんな恐ろしい光景とは…八尾の会社のポン酢ですら黒門を席巻しとらんし、あの広島ですらオタフク以外のソースも普通に並んでるで…)
「薪はすぐ手に入っただろ?」
「まぁ、流石にあの地域一帯の有名な行事やし、シーズンになるとコンビニの軒先に薪積み上げて売るとか鍋レンタルまでやるん、航空自衛軍の松島基地に招かれた際に色々聞いて知っとったからな…今回は人数が人数だけに、あのショベルカーと巨大鍋を借りたい気に満ち満ちたんやけど」
「おばはんが泥棒の目になっている…あれだけは絶対にやめろ、草の根分けても探されるぞ…」
「せめて菜を切る以外の何かを致したいのだが…」右目を眼帯で隠したおじさんが包丁を片手に寂しそうにしていますね。
「あー、んじゃそっちの宮城風味噌豚鍋に鱈の干物切って入れてください。あと鍋奉行お願いしますわ」
「天下の伊達政宗を顎で使うとは恐るべし…」
「だっていきなり押しかけて来て右大将殿に飯作らせろとか言い出されてもですね、我々にも都合というものがございまして」
「って言うか誰よ伊達政宗呼んだの…」
「いや、宴は人が多い方がええやろと」
「お・か・み・さ・ま」
「お願い致しまする!ただでもこの辺りの国主は片端から険悪な仲の連中が多うございます!戦の火種を撒かれますと我等幕政でもたやすく収拾が付きませぬ!」
「いや…正直、一年や二年前まで殺し合いをした間柄の者と仲良く鍋を囲めと申されましても」
「それはわしも同意見じゃ」
「義光殿。この酒は理不尽な饗応に呼ばれた貴君の慰労に注ぐ酒と思って駆けつけ三杯」
「直江殿…かたじけないが…果たしてこの盃を受けたものやら」
「喉が渇いたからと呑んでおけば良いでしょう」
「そうじゃな。和議の酒に非ずで頂いておこう。正直、おかみ様の仕業でなくば、企んだ者を即座に切って捨てるところじゃ」
「後で妹神様が何やら折檻をなさって下さるそうじゃ。まぁ、流石にこの面子で鍋を囲めはあんまりな仕打ちとはわしも思うな」
「なんで俺がこんな鍋の面倒を…しかも長谷堂城の退却戦にわしもおったのですが」
「まぁ…あの退きいくさは見事じゃったからのぅ。それに鍋奉行も必要であろう。ほれ捨丸とやら、肉が煮えておるぞ。そちも食え」
あのですね。最上義光様がものすごく嫌な顔で囲まれておる鍋…。上杉景勝様と直江兼続様のいる席に一分一秒でも長居したくない気がよくわかるのですが。
「おかみ様…何で最上義光さんまで呼びはったんですか…うちですら呼ぶべきやないのがわかるんですが。まぁ芋入れたすき焼きみたいなもんやさかい、うちは慣れてますけどなっ」
「お内侍様の鍋を作る手つきがやたらと良いのですが」
「ああ、これ、仙台の人らと作った事ありますし、上方でも似たもんが流行るんですわ。まぁ、灰汁をちゃんと取るのと、芋は火の回りが悪い割りに長く入れておくと味が落ちますよって、なるべく芋を早めに食う方がええんちゃうかなと思います。この鍋、最上さんとこの辺りにでも後々に流行りますけど、仙台藩とは具や味付け、いくさが起きるくらいには変わりますから」
「ああ、それで政宗殿と離されたのでありますか…」
「ええ、山形県…庄内藩言いますのか、海側と山側でまた鍋の具と味付けで話が変わりますさかいに」
「ふむふむ。決して和議和解を求めておる訳ではないが、牛の肉の都合を考えねばなりますまいな」
「仙台藩で牛の舌が名物料理になりますから、肉回してもろたらええんちゃいます? 今、米沢の牛売ってくれ言うても、牧畜のとっかかりですからまだ厳しい話でしょ」
「街道を巡っても話がつかぬ…と申しますより、今、何かにつけまして上杉家と話をするとですな、絶対に話の場で刀を抜きかねないのが家臣に結構おりまして」
「当方も同じく。かと言ってのぅ…庄内への道がないと困るので和議を図りたいのは山々であるが」
「一応娘婿なのですがな、あそこの伊達政宗。あれとも微妙な仲なのですよ、わしも上杉殿も…」その最上義光様が声を潜めて聖母様に申されます。
「まー確かに、娘や慶次郎さんに聞きましたけど、お宅さまのあたりは領地移転やら何やらで色々揉めたらしいですねー」
「我らの間で話をまとめたとしても家来がな…一度切り結んだ相手なら、なかなか遺恨は消え申さぬ」
「普段のわたしなら時が解決すると申しますがねぇ、うちの国土局長が福島から板谷峠通って山形秋田に抜ける道を考えとるんですわ。そないなりますと、嫌が応でも山形の人、米沢通りますやろ」
「かと言って面白山や作並を抜けると伊達。今は庄内に抜けるのが無難でして。上杉殿にしても似た事情でしょう。堀直政が未だに年貢米年貢米と直江殿を恨んでおるようだが。高野山の石田三成に米返せと返済督促状を送るならば、まだ直江殿に直接言うた方が良いと思うのだが…」
「我が上杉が米沢転封を受けておる故、二千石とて返すのが難しいと踏んだかでしょうなぁ。流石に光秀ゆかりの郷義弘の脇差を手放す気はないと見るが」
「ああ、屁理屈捏ねて自分が差すのに使ったあれか…」
「しゃーないなー、マリアー。堀監物ってそんなセコいおっさんなん?」
「わがんね。とりあえず二千石渡して黙らせられるんなら米30トン、ロン毛さんに頼んで都合してもらうけど」
「30キロ袋1,000包か。ボロボは欧州に渡したしな…スケアクロウにパレ積みしてリフト積んで新潟持って行くか?」
「日本橋と堂島の米取引所設立まで我慢させよーぜ。米に関しちゃ価格統制入れた方が後々いいとあたしゃ思うのですが、大名の皆様如何でしょうかっ」
「つかねーさん、コメじゃなしに税金ベースで幕府の税収入上げる話進めてる訳ですから…まぁこの時代のおめ、いやお米30トンはそれなりの価値になるとは思いますが」
「ベラ子がいらん言葉を使いかけたのはともかくだな…全国共通おめ、いやお米切手でも発行してもらうか」
「秀忠様…幕政におなご…奥方を絡めてよろしいので?」
「最上殿。街道整備融資金一万両の借用書を書かされておる立場を鑑みてくれ。あと前田殿くらい本音を隠さずに生きる自信なくば、あだや迂闊な事は絶対に考えぬがよい。あの方々に我々の頭の中は筒抜けになると心得よ」
(はっはっはっ利子は取りませんよ。あと慣れたらこんな感じで頭の中だけで話も出来ますから)
(ひぇえええ、他の方々…上杉殿も直江殿もこれをご存知だったので…だから皆、大人しかったのか…)
「諦めてください。欧州もこの手で資金源押さえて借用書書かせて首根っこ掴んでますから」
「世界各地の主要鉱山の埋蔵資源、あらかた私どもで押さえさせて頂きましたから。その代わりに聖母記念銀行が必要資源を貸し付ける体裁を取らせて頂いております」
「だからせめてめきしこの分だけでもっ」また呼んだな…。
はい、場外の河原で芋煮会とか、姉しか考えつかぬ事を…。付き合わされた皆様にはご愁傷様と申し上げておきます。
その後は鍋を片付けーの、手分けしてお殿様方をお城に転送で送り届けーの…。
「大将殿。ちと一夢庵で月見など如何じゃ」あら、慶次郎さんが姉を誘っていますね。
「ベラ子ー、あたしちょっと慶次郎さんと一夢庵にお邪魔してくるわー。スケアクロウに鍋とか積んどいてー」
「おう、妹様も帝であろう。何ならご一緒にどうじゃ」
「んー、んじゃかーさん、わりーけどあたしとベラ子でちょっと行ってくるわ」で、城内にあるそこそこのお宅にお邪魔します。
小さめの厩舎が併設されており、ごるし君より少し小さい馬と、サト◯マツカゼくらいはある黒い大きな馬が前にいますね…って放し飼いですか?
「おお、松風に野風、留守番すまんのう」と飼い主が捨丸さんに命じてにんじんとか与えてますね。
「ほう。野風はまだしも松風が騒がぬとは。やはり大将殿も妹様もなかなかのものじゃ」
「あーそうか、松風は人見知りする子でしたね」
とりあえず縁側に通されます。
「お茶どうぞ。全然風流じゃありませんけど…蓋の白いとこ捻ったら開きますから」
「ふむふむ。街中でこれが普通に売られとる世の中もあるのか…わしらが点てる茶よりは薄いが、喉が渇いた時の水筒がわりなんじゃろうな」縁側に腰掛けて、姉から差し出されたペットボトルを一口飲まれて感想を述べられます。
「ちなみにベラ子。この時代のある程度の地位の武士は漢文や茶席での俳句披露とか、文化教養習得は必須だ。幕府になって中国から儒教を広めたらまた変わってくるけどな」
「お茶の淹れ方も変わるんですよね」
「あ、慶次郎さん。この子は日本国籍持たせて日本の学校にも行かせてます。この時代の事も勉強してますよ」
「ほう。いかにも南蛮のなりで日の本言葉が上手いとは思うたがのう。あと、大将殿と似ておらぬが…」
「この子とあたしは母親が違いますけど…あたしが普段、姿を偽ってんのもあるんですよ。ほら」と言いつつ偽装解除する姉。
「おう…大将殿に意見してすまぬが、普段からこのなりでおった方が良いと思うぞ。こちらの方が全然良いではないか、のう、おまつ様に伽子」からから笑って同意を求められますが…。
「いやいや、うちの国は別嬪揃いでしてね。妹もそうですが、この子達が国の顔をやって欲しいから敢えてあたしが道化役みたいな立場を取っているんですよ」と、いつもの日本人の女の子に近い姿に戻る姉。
「はっは、残念じゃのう。しかしまりや様、そこまでして見返りとかはござるのか。先程から色々見せてもろうたが、そなたの立場にしては贅沢もしとらんよのう。関白殿下はまだしも、家康殿ですらもう少し豪奢にやっておるぞ」
「帝ですら皆と一緒に後片付けされるお国のようですし…良いのではないですか?」
「あ、国に帰ったらさすがに部屋付きの女官とかはいますよ? ただ、女の子たちに何をどうしろとか教える必要はありますからね」23階の皇室区画を見せていますね。
「そうだ、どのみち今回のこの子の件で、色々と頼み事しなきゃなんないし、テンプレスがあった方がいいんだけど…エマ子ー、テンプレス2世動かせねぇよなー。…白マリー、そっちはカリバーンと白エマいてりゃいいだろ? わりーけど13号機のスケアクロウごとあたしの上空来てくんね? 痴女宮で拾って行きてぇ奴もいるし。…そう面倒がるなよ。はいはい、とりあえず聖院行きゃいいんだな。で、美男公は…ああ、マリアだ。例の北欧絡みの件で黒ひげ貸してくれって話したじゃん。現地協力者とテンプレス借りる絡みでそっち行くからさ、わりーけど黒ひげ、30分後に罪人寮の管理室の自分の席にいさせてよ。うん、何なら殿下もいていいよ。それより謀反やらねぇの?あたしもベラ子もかーさんも初代様も日本じゃん。…え、命は惜しい? ダメだよ謀反要員1号がそんな根性ない事言うもんじゃないって。仕方ないなぁ、ちゃんと反乱を企てるんだよ。んじゃ後で」
「何やら捨丸と一緒のようなのがおるようじゃな。お前も一念発起して今一度わしの首を狙ってみぬか」
「いやー、今旦那の首持ち帰っても主馬を喜ばせるだけじゃないですか。おまつ様の前でなんですが、あんな野郎と旦那を天秤にかけりゃ、どちらに傾くかは野暮もいいところですよ…」
「仕方がないのう。骨はどうじゃ」
「依頼人もいない話には乗れません。それに旦那のような天運の方をあやめては毘沙門天の祟りが恐ろしいし、それだけじゃないでしょ…伽姫様はもちろん、おまつ様までいらっしゃるんですよ。この方々の恨みは買いたくはありませんな」滅相もないという顔で二人が首を横に振っています。
「やれやれ。しかし大将殿、話からすると具足でも取りに行かれるので? いくさ支度は入り用であろう」
「いくさの支度には間違いないですよ。ま、あたしの分身みてーのが治めてる神社っつーか寺みたいな遊郭がありましてね。そこの道具を借ります。ちょいと皆さん、お履きものを履いて縁側にどうぞ」
言われて皆さんがお立ちになります。
ええ。あたしはどこに行かされるかわかってましたが、初見の方はそりゃ驚くでしょ。
「聖院と痴女宮の違いがわかんねと言う声にお応えして、白エマが赤御影石に変質させたらしい。どっかの生命保険会社の投資ビルとか連想してやなんだけどさぁ」と抜かす姉の前で、見上げながら口をあんぐりされる日本の方々。
「な、ななな…天を突くような…」
「山一つ城に変えたようなものですな…」
「こりゃあ驚きだ。海までの距離があまりないから実感は湧かないが、向こうの街まで入れたら明のでかい街くらいはありそうだな」
「ほう。これが大将様の城か。こりゃあまた、攻めごたえがあり過ぎるのう!はっはっはっ」
「実はですね、この建物、正面左が丸ごと学舎と学生の寮。で、横が遊郭の女郎を兼ねた女官やおんなさむらいの寮。で、その更に右が罪人の男を住まわせている牢屋兼、職人細工やら何やらをさせている仕事場。んで正面のこれが…」
「はじめまして、前田慶次郎様と皆様。いきなりこんな場所に引っ張って来たこのアホの双子と思ってください。聖院太政官金衣女聖、マリアリーゼ・ワーズワース・高木です」真っ白な金衣正装のマリア姉…皆様には白マリで通っている方が来ました。側には聖院のアルトさん。
「いやーごめんごめん。しかし聖院も相変わらずだなー」夕方というのに、ちらほらと受付処に向かう男性が…列もできてますね。
「うちにも地下鉄作ってよ!納税処から遠いって声多数なのよ?」
「やられ社の中古バス譲ってもらえよ…七隈線延伸で余った連接車の出物があるらしいぜ? ガイドウェイ作ってもいいしさ」
「はいはい。とりあえずテンプレスの準備まだだから、聖院の上まで上がりついでに見学してもらったら?」
「んだなー。皆さん、とりあえずうちらの船を取りに行くからさ、それ、あっちの海じゃなくてこの上の堤の向こうの湖にいるんだよ」姉が聖院宮の向こうを指差してます。ま、知らない人には聖院湖になってるのがわからないでしょうね。
「ふむふむ。さっき、大将様がここは遊郭と申していたが…あの男どもが客かね」
「ま、体裁は神社の巫女さんみたいなものでね。あそこで喜捨を納めて手続きするとお札をくれるから、あとは案内役の手引きで上に上がるのさ。19階までは基本それ用の部屋ばかりだよ」で、エレベーターで10階に。
「はぁあああ…大坂城や伏見城が何個入るのやら…」
「このお部屋が全て…遊郭用ですか…」おまつ様と伽姫様が顔を見合わせています。
(あたしもここに初めて連れて来られた時は驚きましたよ。欧州本部の地下や北欧支部の滝の中の要塞も大概でしたけど…)
(うちでビビられたらNYとかどうなるんでしょ)
(ちなみに大きさをイメージするなら、ジャイアンツ新聞社ビルや大手町の三ツ井戸物産ビルを4つ並べて二列にしたレベルだ。ただ、冷却用を兼ねた水道水路やポンプなどが各階の上下に存在している上に、通風構体でもあるから見た目より遥かにスカスカだぞ。高さ200メートルなら普通のビルだと35階から40階くらいは取れるからな)
(またねーさんが変な説明を…)
「あーそうか、ニオオフラーネさんは欧州経由で痴女宮来てるものね。将来は聖院にも研修で来てもらうから、ついでに見ておいて。痴女宮と基本的に変わらないけどね」
「ああ、ゆくゆくは互換研修があったな。聖院に来たらこっちのマリアとアルトがトップだ。直接会う事はないと思うけど、頑張れ」
「で、更に上があるんですよ…」そして上層階用エレベーターに乗り換えて20階、更に女官用エレベーターで21階へ。この辺りも痴女宮と全く同じ体裁ですから、姉やあたしはまごつきませんが…。
「水音がするのは冷気を作るためですかな?」
「中は涼しいですわね、伽子様、いかが?」
「表は暑かったのですが、中はそうでもありませんね。秋の米沢のようで」
「しかし、でけぇ建物だな…なぁ骨の旦那」
「幕府の連中はこれをご存知なので?」
「いや、まだ見せてませんよ」
「…慶次郎の旦那…これはお許しを得てさむらい達に見せた方がいいぞ…こんな建物を作れるお方が金も兵隊も持っていない訳がないだろう…」
「要所要所で剣を下げた兵が警備してましたな」
「あー、大丈夫。今から見せる…というか乗るもん見せただけで大抵の奴はうちと喧嘩する気なくすから」と、姉が申します。
で、聖院の姉が21階の受付の騎士と女官に話をしてから、22階へ。
「一気になかが変わったな」
「石造りじゃないよな。あと、空気が外のそれと違う」と、忍者の皆様がご感想を。
「ここは主によその国の来賓用の部屋が並んでるんだけど、もう一つ、うちの偉いさんの葬式をする場所から、地下の墓所にひつぎを運ぶ道順でもあるんだ」
「なるほど、それでこんな良い敷物を敷いておるのか。言われねば草履を脱いでおったところじゃ。で、その葬式とやらは」
「あれです。ちょっと暗いけど、細い橋の向こうに小島があるでしょ。あそこに葬式用のおやしろを作ってましてね」ああ、聖炎宮の事ですね。
「っていうか旦那…これ、海じゃ…」
「捨丸、潮の匂いがするか」
「いや…言われてみますと致しませんが」
「これは湖だな」
「ですな。琵琶湖くらいはございますかな」
「もっと大きいよ。これが聖院湖。あたしらの祖先で、あの芋煮の席にもいた初代金衣のテルナリーゼ様が一人でこの湖と堤と建物、作ったんですよ」
「ええ?お一人様ででございますか?」
「あー、あたしらも似たようなもんだけど、あの方は天女とか女神様の部類だと思ってください。でなきゃ皆さんを若返らせたりできねーでしょ」
「とりあえず天狗の仕業と思ってもらえれば全て解決しますわっ」
「…いや、天狗にしても無理があるんじゃねぇかな…」
「いくら天狗でもこんな海みたいな池を作るには無理がありそうだ」
「大陸にはこれに近いところはあるが、人の手で堰を作るのは無理だな…」
「まぁ、忍び衆が驚くからにはわしも内心仰天じゃ。しかして大将殿、船とはあれで?」はい、我々から左手に灰色の小山のような船が。随所に照明も入り、明らかに人工物だと主張しています。
「ええ。我が聖院所属のハー・マジェスティ・シップ…女皇帝の船たるHMS テンプレスへようこそ。痴女皇国のテンプレス2世とは姉妹艦ですわ」
聖院の姉の解説に、何とこれが船とはと驚きの声を隠さない皆様。
いや、もっとでかいのいますから…と思いかけましたが、よく見ればテンプレス以外の船がいません。聖院港の専用埠頭も含めて、アークロイヤル級がこちらに来てないの、珍しいですね。
(最近は痴女皇国側の方が来航頻度高いんじゃない? まぁ、受け入れ人員輸送ならスケアクロウが使えるようになったのが大きいわね)
(皆さんようこそ、聖院皇配騎士のエマニエルです。そのリフトエレベーターにお乗りください)見ると、舷側側のエレベーターが岸壁に降ろされています。
「んじゃみなさん、この板の上に乗っかってくださーい」姉の誘導で皆様、おっかなびっくりで上に乗られます。
「はい、エマちゃんー上げてくれていいわよー」がこん、と音がしてまずはずり落ち止めがエレベーター先端に出てきた後、垂直に引き上げられます。
「四隅の赤い光が緑色になったら、あの穴の中に入って行きますから。入ってすぐ左手にある、さっきと同じような昇降かごに乗りますよ」そして照明輝く格納甲板…第一甲板のC区画ですかね。前からABCと区分けされてる中に入って行きます。
「あ、スケアクロウのために後ろ側の甲板貫通させてるから注意ねー」見ると、そちら側の床板が畳まれて警戒ロープを張られた向こうに、真横に積まれたスケアクロウ13号機の姿が。HT013と機首下に小さく書いてあります。これがうちの11号機だとIT011ですね。…かーさん、あたしが機長席に隠してるお菓子、食べてないだろうな…。
(操縦区画でハッ◯ーターンみたいな粉吹くやつ食うなっ。あんたの部屋に届けさしとるわ…)えー、けちー。
などと母親に文句を言いいつ、皆様と一緒に航海艦橋へのエレベーターへ。
「船というより、もはや城ですな…」
「旦那が落ち着いているのがなんとも」
「いやいや、長生きはするものじゃ。しかし大将殿に姫様方…ここが湖とあってはどのように海と往来するのか。よもやこれほどの船、よそとの行き来に使わぬわけはあるまい。先程もでかい烏天狗のようなからくりがおったしな」
「ふっふっふっ、謎解きはこの先で」
「今から仰天する用意をしておけと言われておるようで…」
「この船がまさか飛ぶわけではあるまいが…」
「あー悟洞さん正解。これ、飛ぶから」艦内通路に響き渡るええーという声。
「まぁまぁ、とりあえず入った入った」で、艦橋に入ると…。
「いやー皆様お久しぶりですう。ようこそ聖院へ」
「マリ公はともかく、ベラちゃんは久々やな。まぁ空いとるとこにお客さん座らしたり」見れば聖院の面子が勢ぞろいに近い状況で。
「な…なんかここ、天女の城でございますか…」
「あの、皆様…服は…」ええ。露出狂の巣と言われても返す言葉がありません。皆さん聖院の各所属制服に。聖院の姉とアルトさんもいつの間にか略装に戻してますし。
…つまり、お尻剥き出しTバック、更に人によっては横乳とか壮絶な露出狂状態です。
「いやね、実はあたしらも国に帰ればだいたいこんな感じの衣装なんですよ。なんせうちの国、暑いわ雨はざんざん降るわでねぇ。ほれ、ベラ子もいつもの姿見せてあげなよ」
「別にいーじゃないですかーいまさらー」抵抗しましたが、無理矢理着替えさせられました…。それもよりによって乳上服の桃薔薇仕様に…。網目から色々透けるんですよこれ?
「はぁ…大将殿だけは地味ななりだが」
「ねーさん。あなただけ逃げるのは許しません。蟹衣装が嫌なら自分で着替えてください」隠れようとする姉を捕らえます。なんぼなんでも自分だけ宙兵隊作業服のままとか、大概にして頂きましょう。
「…出家衣装でいいだろ!」
「仕方ないですね。その軍服をさっさと脱ぎなさいっ」
「いや、皆様のお目汚しに」
「おだまり黒マリ。あたしが着替えさせようか?」聖院の姉にまで詰め寄られ、渋々尼さん衣装に着替える姉ですが。
「おや、大将殿は尼さんであったか。わしらの国の天子様と似たようなもんじゃな。位を譲った帝なり殿様はだいたい出家するからのう」
「あたくしも芳春院を名乗っておりましたからね。それよりみかど様、わたくしも試しにその類の衣装、お貸し頂けませぬか」おまつ様、着る気満々じゃないですか!
「…おまつ様…何で着るのですか」
「慶次郎様。わたくしも娘の身体に戻りましてございます。野暮は申さぬが花でしょう。伽子様も試されますか? 妹君様のあみ衣装…」
「いいいいいえわたくしは遠慮いたしますすす」
「まぁとりあえず、皆様ご着席願います。じゃエマちゃん、MIDIは聖炎宮よね? 悪いけどお留守番お願いね」
「了解でっす。行ってらっしゃいませ」転送で消える聖院エマちゃん。提督席には聖院の姉、船長席にはうちの姉、正操舵席には聖院の母様、いわゆる白ジーナ様と言われる方が座られます。
「ベラちゃんこっちこっち」と、母様に呼ばれて示されるは副操舵席…いや、あたしは立っていても。
「いや、痴女宮のうちから頼まれとんねん。こういう機会があれば率先して舵を握らせろとな。諦めて座りなさいっ」ここで嫌だ嫌だしても絶対何かされるのは分かっていますので、仕方なく着席します。
実はスケアクロウとほぼ同じ操作系なんですよ。ただ、港内移動の時など、精密な操作を必要とする場合の専用モードがありまして…。
「うぉーし、しほ子、直美ちゃん。アンビリカルライン遮断と収納確認」
「はーい、艦内電源切り替え完了してます」
「岸壁コンセントからケーブルリリース済みです」
「よーし、係船索1番から6番までテンションリリース。ラインワーキングアームがポラードに取り付いたか見ときや」
「了解。ムアリングラインリリースサイン1番、2番、3番確認」
「ムアリングライン4番5番6番リリース確認。1番から6番まで係船索巻き取り開始」
「フロントアンカー、ウェイアップ。ベラちゃん、アクティブスタビライザON確認。正面のマルチモニタに出てる航行モードがPORTになってるか確かめてくれたらええから」
「はい…ポートモードです」
「一旦浮かして離岸した後でスティックス・ドライブに入るからな、うちの操作よう見ときや。サリー、痴女宮テンプレス2世とリンク。しほ子と連携して転移処理始め」
「サリー了解」
「しほ子了解」
「マリア、テンプレス離岸指示。痴女宮のマリア、一旦痴女宮側の聖院湖でええねんな?接岸どうする? TAPPSと向こうのクリスと黒ひげ拾うだけやろ?」
「んー。慶次郎さん、さっきあたしに聞きたかった事あったろ? おもしれーもん見せるついでに話してあげるよ。多分、あなたがお聞きになりたい事、あたしが言うよか初代様が答えた方が確実だしね。初代様も一旦墓所に戻ってもらうか…白かーさん、向こうの聖院湖岸壁2番にアークロイヤル来てるはずだから、1番にいるうちの2世の近くにアンカー下ろして沖合停泊してよ。あたしとベラ子と日本の皆様は墓所に行って話してからTAPPSとか人員積むわ。クリス父様ー、あと15分以内に痴女宮行くから一旦研究切り上げて上がって来てよ」
「長いわよ黒マリ…はい、母様、テンプレス出港。痴女皇国側聖院港に転移願います」
「あいあいさー。船首そのままサイドスラストー」母様が眼前に浮かんだテンプレスの模型めいた3D投影を引っつかんでゆっくりとずらすと…。
テンプレスが真横にカニのごとく移動を始めます。
「さすがにこのサイズを水に漬けたまま移動さすと聖炎宮の浮橋に影響がな…」そうです。離水させてから、艦首を回頭させても回りの何かを壊さない場所まで真横に滑らせて行くのです。あたしたちのテンプレス2世も痴女宮側の聖院湖から出すときは全く同じ操作で出港させますから。
「よぉーし船体停止、高度そのまま。黒マリアー、こんだけ離したら向こうのテンプレス2世に当たらんよな?」
「んーそれでOK。んじゃ転移入れるよー。サリー、しほ子、ICD/Gコントロール、アイハブ。目標、痴女宮聖院湖。位置変わらず、速度高度現状。トランスファ、スタート…」一瞬だけ艦橋の窓の外側が光に包まれて…。
「はい皆さん左手をご覧ください、あれがハー・マジェスティ・シップ、テンプレス・ザ・セカンド。本来のあたしら痴女皇国の持ち船です。更に浮橋の向こうにHMS アークロイヤル…アークロイヤル級一番艦がいますが見えるかなー。ま、とりあえず痴女皇国にようこそ」いや、同じ船を見せても…あと、こちらはまだまだ明るいのですが、後ろを見せない方がいいんじゃないでしょうか。
なんせテンプレスの更に倍の長さの大型船がいますから。
「で、何で俺が」
「いやティーチ、マリアリーゼ陛下のいつもの行動だ。…私が反乱や痴女宮乗っ取りを企てない時点で全てを察しろ…皆様申し遅れました。痴女皇国厚生労働局長のラドゥと申します。こちらは聖院の皆様にはご存知、元海賊のエドワード・ティーチ。現在は罪人頭として痴女宮罪人寮囚人の管理責任者の地位にあります」
「ほう、大将殿の国の牢名主であるか。申し遅れたがわしは前田慶次郎と申す。この金悟洞も海賊上がりだ。仲良くしてやってくれ」
「えらく強そうな旦那だな。エドワード・ティーチだ。海賊時代は黒ひげで通っていた。よろしく…その子が噂のいけにえ村の子か…バイキング連中に聞いた事はあるが、あいつらでも昔にやめた生贄のならわしを未だにやってるとはなぁ」
「ティーチ。その件でおもしれー話をしてやるよ。美男公と一緒に来な。多分美男公もあそこは知らねぇ…この中で聖院側の墓所を知ってるのは聖院組全員か。かーさん、白マリ借りるぜ。ちょっと留守番頼むわ。黒エマからTAPPS7渡されたらスケアクロウに積み込ませてよ」
「了解了解。…マリア。元来ならあそこは人に見せるもんやないからな。初代様が来るなら間違いあらへんやろけど…」
「はいはい、忠告は理解してるよ。んじゃ唖然としてる方々含めて連れて行くよ。ベラ子もだぞ」
「へいへい。直接墓所に行くの?」
「いんや。お祖母様とクレーゼ母様が22階で待ってくれてるから一緒にあれで降りるわ。では転送っと」
はい「あれ」の中です。デルフィリーゼ財務局長とクレーゼ財務部長にクリス叔父様もいらっしゃいますね。
「マリアリーゼ。あたくしはお母様と墓所に降りるのに気が向かないのですが」
「クレーゼ。公務である。何ならあの絵の光景を再現してつかわすが」…あー、あの絵に描かれた当の本人様方…。
「とりあえず初代様が墓所でお待ちです。お祖母様、第一金庫室の入室許可願います」
「うむ。両マリアリーゼにマリアヴェッラ。そなたらが何故あそこを開けるかの理由、私も理解にやぶさかではない」
「そー言えばマリア、僕はまだあそこを見た事ないんだけど…手前のあれ、日本の方とかには大丈夫かな」クリス叔父様が姉に聞かれます。
「あー…嫌でもあそこ通るよな…」
「あたしたちでガードすればいいじゃない。うちの懲罰具倉庫と同じで箱詰めにしてるんでしょ?」
「一応してるし、解錠処理は…初代様がいるから大丈夫か。あー、外道ちゃん、初代様来てる?うん、こっちは今呪われるエレベーターで降りてるとこ」
「その言い方やめなさいよ…あ、B24着くわよ?」
はい、あたしは盆以来の地下墓所です。その異様な雰囲気に、初めて来た方が絶句されています。
(慶次郎さん…ニオオフラーネとあまり変わらない年恰好で日本の子供っぽい恰好の子がいるだろ。あれ比丘尼国からの出向者で痴女宮の施設管理局設備部長の外道丸ちゃん。正体はあの鬼の酒呑童子だけど、知らんぷりしといてよ)
(何とまぁ、あの鬼の酒呑童子があんな子供とは)
(幼名を名乗ってんのさ。ちなみに隣の副部長の悦吏子ちゃん、九尾の狐が中にいるからね)
(毒の息は吹かぬであろうな。はっはっはっ)
「慶次郎様。皆様。このような場所にお呼び立てして申し訳ありません。早速ですがこちらへ」懲罰画像や例の肖像画の下の扉、青い髪になった初代様が操作すると一瞬で開きました。
(ねーさん、あれ普通はめっちゃ手間なのでは…)
(ベラちゃん、ここ作った初代様が一発で開けられないわけないでしょ。それより黒グッズに誰も手を触れないように見張り頼むわよ?)
(ああ、あれだけは触られたら困るからな…)
そして中に入ると禍々しい雰囲気を漂わせた箱の並ぶ棚が…。
「私も久々に来たが、マリアリーゼ…ここの収蔵保管品、増えてないか…」
「アレーゼの使った黒金剛以上のものがある気配がしますわね…あー、黒ぶらぎ◯すの瘴気か…」
「ここは何か、祟りを成すものの蔵かね」
「あーやっぱりわかります?触らないようにしてくださいねー」
「慶次郎様にお見せしたいものを守るためでもありますの。ではこちらへ。デルフィリーゼ、解錠願います」そう、懲罰具倉庫の更に奥に、厳重かつ頑丈な扉があるのは知っています。そこへの搬入や搬出に、皇帝として立ち会った事がありますから。
「扉を開ける前に注意。この先にあるものは絶対に触らないように。この中で大丈夫なのは初代様にお祖母様にあたしと白マリ、ベラ子だけだから」
「マリアリーゼ、あたくしは」
「クレーゼ母様は逆特例で、お祖母様の承認がないと触ったら呪われますよ…」
「財務部長なのに触らせて貰えないのは間違っておりますわ!」
「第一金庫室の中身でさえお祖母様の承認が必要でしょ? あれしなくて良くなったら第一金庫室もフリーにしてくれますって。とりあえず皆様に見ていただきましょう。慶次郎さんは聚楽第の金蔵を見てるから驚かないかな。はいどうぞ」
そして扉をくぐりトンネル出口手前の扉も開かれますと。
「うお…この棚全部金塊かよ…」
「何とまぁ、これはたまげたものよ。大将殿が触るな祟るとしたのも分かり申す。聚楽第の十倍はあるな、ここは」
そうです。痴女宮第二金庫室、通称呪いの金庫室です。
「向こうの銀区画は更に凄いですよ。まぁ、ちょこちょこあちこちから収集した分で金だけでも二万トンはあるかな。あ、さっきも言いましたけど、盗まれたら困るので、何もせずに触ると二度と金銀を身の回りに置きたくなくなる祟りに見舞われますからね。絶対触らないでよ?」
「確かにこれだけの金があれば触りたくなりそうなものだが、何やら妖しい気配もするな。捨丸、言われた通り絶対に触らん方がいいぞ」
「ななな何を言いやがるっ、金に金の事で言われたくねぇよっ」
「捨丸さん。目。泳いでなさるよ」骨さんに指摘されていますが、確かにこの人、嘘つくときは目に出る癖がありますね。
「しかし、これほどの金を集めて一体何をなさるおつもりなのでしょう。まりや様…慶次郎様にお話されます事、この黄金が絡んでおりますので?」
「ええ、おまつ様。こちらの初代金衣女聖テルナリーゼ様…というより始原海洋神種族、原初聖母ナンム様がお話になられますよ」
「はっはっはっ天狗の仕業というやつですよ」
「マリ公それ天狗のせいにしたら天狗に怒られる奴やぞ」
「しかし、その生贄村とやら、なにゆえに見つからぬのか」慶次郎様が訝しげに申されます。
「んー。あ、ベラ子醤油もうちょい。ま、いくつか隠す方法は思い付きますけどね。はい慶次郎さん芋とお肉」
「それよりマリア…何であたしの車までわざわざ召喚して鍋から何から買い物さすんじゃ!この芋煮で使こた金、何がなんでも皇帝室経費で絶対に承認さすからな!クレーゼさんに何に使うたかマリ公お前もちゃんと言えよ!」
(聞こえてますわよお義姉様…義夫さんが存命の時、会社でやまがた出身の子にその、いもにとやらにまつわる確執の一切合切を聞いた事がございますから経費承認は出します。ただ、そのおなべ、痴女宮の堤防で再現願います)
(あとみんな牛肉醤油派でしょうな! 痴女宮に戻ったら味噌が貴重品の上にですね、マリアに連邦地球の米沢市に飛ばされましてね…薪はまだしも醤油がマ◯ジュウかベ◯ヤしか並んでませんでしたんやで? まさかスーパーの醤油コーナー、ヒゲタとか亀甲マンどこよみたいなあんな恐ろしい光景とは…八尾の会社のポン酢ですら黒門を席巻しとらんし、あの広島ですらオタフク以外のソースも普通に並んでるで…)
「薪はすぐ手に入っただろ?」
「まぁ、流石にあの地域一帯の有名な行事やし、シーズンになるとコンビニの軒先に薪積み上げて売るとか鍋レンタルまでやるん、航空自衛軍の松島基地に招かれた際に色々聞いて知っとったからな…今回は人数が人数だけに、あのショベルカーと巨大鍋を借りたい気に満ち満ちたんやけど」
「おばはんが泥棒の目になっている…あれだけは絶対にやめろ、草の根分けても探されるぞ…」
「せめて菜を切る以外の何かを致したいのだが…」右目を眼帯で隠したおじさんが包丁を片手に寂しそうにしていますね。
「あー、んじゃそっちの宮城風味噌豚鍋に鱈の干物切って入れてください。あと鍋奉行お願いしますわ」
「天下の伊達政宗を顎で使うとは恐るべし…」
「だっていきなり押しかけて来て右大将殿に飯作らせろとか言い出されてもですね、我々にも都合というものがございまして」
「って言うか誰よ伊達政宗呼んだの…」
「いや、宴は人が多い方がええやろと」
「お・か・み・さ・ま」
「お願い致しまする!ただでもこの辺りの国主は片端から険悪な仲の連中が多うございます!戦の火種を撒かれますと我等幕政でもたやすく収拾が付きませぬ!」
「いや…正直、一年や二年前まで殺し合いをした間柄の者と仲良く鍋を囲めと申されましても」
「それはわしも同意見じゃ」
「義光殿。この酒は理不尽な饗応に呼ばれた貴君の慰労に注ぐ酒と思って駆けつけ三杯」
「直江殿…かたじけないが…果たしてこの盃を受けたものやら」
「喉が渇いたからと呑んでおけば良いでしょう」
「そうじゃな。和議の酒に非ずで頂いておこう。正直、おかみ様の仕業でなくば、企んだ者を即座に切って捨てるところじゃ」
「後で妹神様が何やら折檻をなさって下さるそうじゃ。まぁ、流石にこの面子で鍋を囲めはあんまりな仕打ちとはわしも思うな」
「なんで俺がこんな鍋の面倒を…しかも長谷堂城の退却戦にわしもおったのですが」
「まぁ…あの退きいくさは見事じゃったからのぅ。それに鍋奉行も必要であろう。ほれ捨丸とやら、肉が煮えておるぞ。そちも食え」
あのですね。最上義光様がものすごく嫌な顔で囲まれておる鍋…。上杉景勝様と直江兼続様のいる席に一分一秒でも長居したくない気がよくわかるのですが。
「おかみ様…何で最上義光さんまで呼びはったんですか…うちですら呼ぶべきやないのがわかるんですが。まぁ芋入れたすき焼きみたいなもんやさかい、うちは慣れてますけどなっ」
「お内侍様の鍋を作る手つきがやたらと良いのですが」
「ああ、これ、仙台の人らと作った事ありますし、上方でも似たもんが流行るんですわ。まぁ、灰汁をちゃんと取るのと、芋は火の回りが悪い割りに長く入れておくと味が落ちますよって、なるべく芋を早めに食う方がええんちゃうかなと思います。この鍋、最上さんとこの辺りにでも後々に流行りますけど、仙台藩とは具や味付け、いくさが起きるくらいには変わりますから」
「ああ、それで政宗殿と離されたのでありますか…」
「ええ、山形県…庄内藩言いますのか、海側と山側でまた鍋の具と味付けで話が変わりますさかいに」
「ふむふむ。決して和議和解を求めておる訳ではないが、牛の肉の都合を考えねばなりますまいな」
「仙台藩で牛の舌が名物料理になりますから、肉回してもろたらええんちゃいます? 今、米沢の牛売ってくれ言うても、牧畜のとっかかりですからまだ厳しい話でしょ」
「街道を巡っても話がつかぬ…と申しますより、今、何かにつけまして上杉家と話をするとですな、絶対に話の場で刀を抜きかねないのが家臣に結構おりまして」
「当方も同じく。かと言ってのぅ…庄内への道がないと困るので和議を図りたいのは山々であるが」
「一応娘婿なのですがな、あそこの伊達政宗。あれとも微妙な仲なのですよ、わしも上杉殿も…」その最上義光様が声を潜めて聖母様に申されます。
「まー確かに、娘や慶次郎さんに聞きましたけど、お宅さまのあたりは領地移転やら何やらで色々揉めたらしいですねー」
「我らの間で話をまとめたとしても家来がな…一度切り結んだ相手なら、なかなか遺恨は消え申さぬ」
「普段のわたしなら時が解決すると申しますがねぇ、うちの国土局長が福島から板谷峠通って山形秋田に抜ける道を考えとるんですわ。そないなりますと、嫌が応でも山形の人、米沢通りますやろ」
「かと言って面白山や作並を抜けると伊達。今は庄内に抜けるのが無難でして。上杉殿にしても似た事情でしょう。堀直政が未だに年貢米年貢米と直江殿を恨んでおるようだが。高野山の石田三成に米返せと返済督促状を送るならば、まだ直江殿に直接言うた方が良いと思うのだが…」
「我が上杉が米沢転封を受けておる故、二千石とて返すのが難しいと踏んだかでしょうなぁ。流石に光秀ゆかりの郷義弘の脇差を手放す気はないと見るが」
「ああ、屁理屈捏ねて自分が差すのに使ったあれか…」
「しゃーないなー、マリアー。堀監物ってそんなセコいおっさんなん?」
「わがんね。とりあえず二千石渡して黙らせられるんなら米30トン、ロン毛さんに頼んで都合してもらうけど」
「30キロ袋1,000包か。ボロボは欧州に渡したしな…スケアクロウにパレ積みしてリフト積んで新潟持って行くか?」
「日本橋と堂島の米取引所設立まで我慢させよーぜ。米に関しちゃ価格統制入れた方が後々いいとあたしゃ思うのですが、大名の皆様如何でしょうかっ」
「つかねーさん、コメじゃなしに税金ベースで幕府の税収入上げる話進めてる訳ですから…まぁこの時代のおめ、いやお米30トンはそれなりの価値になるとは思いますが」
「ベラ子がいらん言葉を使いかけたのはともかくだな…全国共通おめ、いやお米切手でも発行してもらうか」
「秀忠様…幕政におなご…奥方を絡めてよろしいので?」
「最上殿。街道整備融資金一万両の借用書を書かされておる立場を鑑みてくれ。あと前田殿くらい本音を隠さずに生きる自信なくば、あだや迂闊な事は絶対に考えぬがよい。あの方々に我々の頭の中は筒抜けになると心得よ」
(はっはっはっ利子は取りませんよ。あと慣れたらこんな感じで頭の中だけで話も出来ますから)
(ひぇえええ、他の方々…上杉殿も直江殿もこれをご存知だったので…だから皆、大人しかったのか…)
「諦めてください。欧州もこの手で資金源押さえて借用書書かせて首根っこ掴んでますから」
「世界各地の主要鉱山の埋蔵資源、あらかた私どもで押さえさせて頂きましたから。その代わりに聖母記念銀行が必要資源を貸し付ける体裁を取らせて頂いております」
「だからせめてめきしこの分だけでもっ」また呼んだな…。
はい、場外の河原で芋煮会とか、姉しか考えつかぬ事を…。付き合わされた皆様にはご愁傷様と申し上げておきます。
その後は鍋を片付けーの、手分けしてお殿様方をお城に転送で送り届けーの…。
「大将殿。ちと一夢庵で月見など如何じゃ」あら、慶次郎さんが姉を誘っていますね。
「ベラ子ー、あたしちょっと慶次郎さんと一夢庵にお邪魔してくるわー。スケアクロウに鍋とか積んどいてー」
「おう、妹様も帝であろう。何ならご一緒にどうじゃ」
「んー、んじゃかーさん、わりーけどあたしとベラ子でちょっと行ってくるわ」で、城内にあるそこそこのお宅にお邪魔します。
小さめの厩舎が併設されており、ごるし君より少し小さい馬と、サト◯マツカゼくらいはある黒い大きな馬が前にいますね…って放し飼いですか?
「おお、松風に野風、留守番すまんのう」と飼い主が捨丸さんに命じてにんじんとか与えてますね。
「ほう。野風はまだしも松風が騒がぬとは。やはり大将殿も妹様もなかなかのものじゃ」
「あーそうか、松風は人見知りする子でしたね」
とりあえず縁側に通されます。
「お茶どうぞ。全然風流じゃありませんけど…蓋の白いとこ捻ったら開きますから」
「ふむふむ。街中でこれが普通に売られとる世の中もあるのか…わしらが点てる茶よりは薄いが、喉が渇いた時の水筒がわりなんじゃろうな」縁側に腰掛けて、姉から差し出されたペットボトルを一口飲まれて感想を述べられます。
「ちなみにベラ子。この時代のある程度の地位の武士は漢文や茶席での俳句披露とか、文化教養習得は必須だ。幕府になって中国から儒教を広めたらまた変わってくるけどな」
「お茶の淹れ方も変わるんですよね」
「あ、慶次郎さん。この子は日本国籍持たせて日本の学校にも行かせてます。この時代の事も勉強してますよ」
「ほう。いかにも南蛮のなりで日の本言葉が上手いとは思うたがのう。あと、大将殿と似ておらぬが…」
「この子とあたしは母親が違いますけど…あたしが普段、姿を偽ってんのもあるんですよ。ほら」と言いつつ偽装解除する姉。
「おう…大将殿に意見してすまぬが、普段からこのなりでおった方が良いと思うぞ。こちらの方が全然良いではないか、のう、おまつ様に伽子」からから笑って同意を求められますが…。
「いやいや、うちの国は別嬪揃いでしてね。妹もそうですが、この子達が国の顔をやって欲しいから敢えてあたしが道化役みたいな立場を取っているんですよ」と、いつもの日本人の女の子に近い姿に戻る姉。
「はっは、残念じゃのう。しかしまりや様、そこまでして見返りとかはござるのか。先程から色々見せてもろうたが、そなたの立場にしては贅沢もしとらんよのう。関白殿下はまだしも、家康殿ですらもう少し豪奢にやっておるぞ」
「帝ですら皆と一緒に後片付けされるお国のようですし…良いのではないですか?」
「あ、国に帰ったらさすがに部屋付きの女官とかはいますよ? ただ、女の子たちに何をどうしろとか教える必要はありますからね」23階の皇室区画を見せていますね。
「そうだ、どのみち今回のこの子の件で、色々と頼み事しなきゃなんないし、テンプレスがあった方がいいんだけど…エマ子ー、テンプレス2世動かせねぇよなー。…白マリー、そっちはカリバーンと白エマいてりゃいいだろ? わりーけど13号機のスケアクロウごとあたしの上空来てくんね? 痴女宮で拾って行きてぇ奴もいるし。…そう面倒がるなよ。はいはい、とりあえず聖院行きゃいいんだな。で、美男公は…ああ、マリアだ。例の北欧絡みの件で黒ひげ貸してくれって話したじゃん。現地協力者とテンプレス借りる絡みでそっち行くからさ、わりーけど黒ひげ、30分後に罪人寮の管理室の自分の席にいさせてよ。うん、何なら殿下もいていいよ。それより謀反やらねぇの?あたしもベラ子もかーさんも初代様も日本じゃん。…え、命は惜しい? ダメだよ謀反要員1号がそんな根性ない事言うもんじゃないって。仕方ないなぁ、ちゃんと反乱を企てるんだよ。んじゃ後で」
「何やら捨丸と一緒のようなのがおるようじゃな。お前も一念発起して今一度わしの首を狙ってみぬか」
「いやー、今旦那の首持ち帰っても主馬を喜ばせるだけじゃないですか。おまつ様の前でなんですが、あんな野郎と旦那を天秤にかけりゃ、どちらに傾くかは野暮もいいところですよ…」
「仕方がないのう。骨はどうじゃ」
「依頼人もいない話には乗れません。それに旦那のような天運の方をあやめては毘沙門天の祟りが恐ろしいし、それだけじゃないでしょ…伽姫様はもちろん、おまつ様までいらっしゃるんですよ。この方々の恨みは買いたくはありませんな」滅相もないという顔で二人が首を横に振っています。
「やれやれ。しかし大将殿、話からすると具足でも取りに行かれるので? いくさ支度は入り用であろう」
「いくさの支度には間違いないですよ。ま、あたしの分身みてーのが治めてる神社っつーか寺みたいな遊郭がありましてね。そこの道具を借ります。ちょいと皆さん、お履きものを履いて縁側にどうぞ」
言われて皆さんがお立ちになります。
ええ。あたしはどこに行かされるかわかってましたが、初見の方はそりゃ驚くでしょ。
「聖院と痴女宮の違いがわかんねと言う声にお応えして、白エマが赤御影石に変質させたらしい。どっかの生命保険会社の投資ビルとか連想してやなんだけどさぁ」と抜かす姉の前で、見上げながら口をあんぐりされる日本の方々。
「な、ななな…天を突くような…」
「山一つ城に変えたようなものですな…」
「こりゃあ驚きだ。海までの距離があまりないから実感は湧かないが、向こうの街まで入れたら明のでかい街くらいはありそうだな」
「ほう。これが大将様の城か。こりゃあまた、攻めごたえがあり過ぎるのう!はっはっはっ」
「実はですね、この建物、正面左が丸ごと学舎と学生の寮。で、横が遊郭の女郎を兼ねた女官やおんなさむらいの寮。で、その更に右が罪人の男を住まわせている牢屋兼、職人細工やら何やらをさせている仕事場。んで正面のこれが…」
「はじめまして、前田慶次郎様と皆様。いきなりこんな場所に引っ張って来たこのアホの双子と思ってください。聖院太政官金衣女聖、マリアリーゼ・ワーズワース・高木です」真っ白な金衣正装のマリア姉…皆様には白マリで通っている方が来ました。側には聖院のアルトさん。
「いやーごめんごめん。しかし聖院も相変わらずだなー」夕方というのに、ちらほらと受付処に向かう男性が…列もできてますね。
「うちにも地下鉄作ってよ!納税処から遠いって声多数なのよ?」
「やられ社の中古バス譲ってもらえよ…七隈線延伸で余った連接車の出物があるらしいぜ? ガイドウェイ作ってもいいしさ」
「はいはい。とりあえずテンプレスの準備まだだから、聖院の上まで上がりついでに見学してもらったら?」
「んだなー。皆さん、とりあえずうちらの船を取りに行くからさ、それ、あっちの海じゃなくてこの上の堤の向こうの湖にいるんだよ」姉が聖院宮の向こうを指差してます。ま、知らない人には聖院湖になってるのがわからないでしょうね。
「ふむふむ。さっき、大将様がここは遊郭と申していたが…あの男どもが客かね」
「ま、体裁は神社の巫女さんみたいなものでね。あそこで喜捨を納めて手続きするとお札をくれるから、あとは案内役の手引きで上に上がるのさ。19階までは基本それ用の部屋ばかりだよ」で、エレベーターで10階に。
「はぁあああ…大坂城や伏見城が何個入るのやら…」
「このお部屋が全て…遊郭用ですか…」おまつ様と伽姫様が顔を見合わせています。
(あたしもここに初めて連れて来られた時は驚きましたよ。欧州本部の地下や北欧支部の滝の中の要塞も大概でしたけど…)
(うちでビビられたらNYとかどうなるんでしょ)
(ちなみに大きさをイメージするなら、ジャイアンツ新聞社ビルや大手町の三ツ井戸物産ビルを4つ並べて二列にしたレベルだ。ただ、冷却用を兼ねた水道水路やポンプなどが各階の上下に存在している上に、通風構体でもあるから見た目より遥かにスカスカだぞ。高さ200メートルなら普通のビルだと35階から40階くらいは取れるからな)
(またねーさんが変な説明を…)
「あーそうか、ニオオフラーネさんは欧州経由で痴女宮来てるものね。将来は聖院にも研修で来てもらうから、ついでに見ておいて。痴女宮と基本的に変わらないけどね」
「ああ、ゆくゆくは互換研修があったな。聖院に来たらこっちのマリアとアルトがトップだ。直接会う事はないと思うけど、頑張れ」
「で、更に上があるんですよ…」そして上層階用エレベーターに乗り換えて20階、更に女官用エレベーターで21階へ。この辺りも痴女宮と全く同じ体裁ですから、姉やあたしはまごつきませんが…。
「水音がするのは冷気を作るためですかな?」
「中は涼しいですわね、伽子様、いかが?」
「表は暑かったのですが、中はそうでもありませんね。秋の米沢のようで」
「しかし、でけぇ建物だな…なぁ骨の旦那」
「幕府の連中はこれをご存知なので?」
「いや、まだ見せてませんよ」
「…慶次郎の旦那…これはお許しを得てさむらい達に見せた方がいいぞ…こんな建物を作れるお方が金も兵隊も持っていない訳がないだろう…」
「要所要所で剣を下げた兵が警備してましたな」
「あー、大丈夫。今から見せる…というか乗るもん見せただけで大抵の奴はうちと喧嘩する気なくすから」と、姉が申します。
で、聖院の姉が21階の受付の騎士と女官に話をしてから、22階へ。
「一気になかが変わったな」
「石造りじゃないよな。あと、空気が外のそれと違う」と、忍者の皆様がご感想を。
「ここは主によその国の来賓用の部屋が並んでるんだけど、もう一つ、うちの偉いさんの葬式をする場所から、地下の墓所にひつぎを運ぶ道順でもあるんだ」
「なるほど、それでこんな良い敷物を敷いておるのか。言われねば草履を脱いでおったところじゃ。で、その葬式とやらは」
「あれです。ちょっと暗いけど、細い橋の向こうに小島があるでしょ。あそこに葬式用のおやしろを作ってましてね」ああ、聖炎宮の事ですね。
「っていうか旦那…これ、海じゃ…」
「捨丸、潮の匂いがするか」
「いや…言われてみますと致しませんが」
「これは湖だな」
「ですな。琵琶湖くらいはございますかな」
「もっと大きいよ。これが聖院湖。あたしらの祖先で、あの芋煮の席にもいた初代金衣のテルナリーゼ様が一人でこの湖と堤と建物、作ったんですよ」
「ええ?お一人様ででございますか?」
「あー、あたしらも似たようなもんだけど、あの方は天女とか女神様の部類だと思ってください。でなきゃ皆さんを若返らせたりできねーでしょ」
「とりあえず天狗の仕業と思ってもらえれば全て解決しますわっ」
「…いや、天狗にしても無理があるんじゃねぇかな…」
「いくら天狗でもこんな海みたいな池を作るには無理がありそうだ」
「大陸にはこれに近いところはあるが、人の手で堰を作るのは無理だな…」
「まぁ、忍び衆が驚くからにはわしも内心仰天じゃ。しかして大将殿、船とはあれで?」はい、我々から左手に灰色の小山のような船が。随所に照明も入り、明らかに人工物だと主張しています。
「ええ。我が聖院所属のハー・マジェスティ・シップ…女皇帝の船たるHMS テンプレスへようこそ。痴女皇国のテンプレス2世とは姉妹艦ですわ」
聖院の姉の解説に、何とこれが船とはと驚きの声を隠さない皆様。
いや、もっとでかいのいますから…と思いかけましたが、よく見ればテンプレス以外の船がいません。聖院港の専用埠頭も含めて、アークロイヤル級がこちらに来てないの、珍しいですね。
(最近は痴女皇国側の方が来航頻度高いんじゃない? まぁ、受け入れ人員輸送ならスケアクロウが使えるようになったのが大きいわね)
(皆さんようこそ、聖院皇配騎士のエマニエルです。そのリフトエレベーターにお乗りください)見ると、舷側側のエレベーターが岸壁に降ろされています。
「んじゃみなさん、この板の上に乗っかってくださーい」姉の誘導で皆様、おっかなびっくりで上に乗られます。
「はい、エマちゃんー上げてくれていいわよー」がこん、と音がしてまずはずり落ち止めがエレベーター先端に出てきた後、垂直に引き上げられます。
「四隅の赤い光が緑色になったら、あの穴の中に入って行きますから。入ってすぐ左手にある、さっきと同じような昇降かごに乗りますよ」そして照明輝く格納甲板…第一甲板のC区画ですかね。前からABCと区分けされてる中に入って行きます。
「あ、スケアクロウのために後ろ側の甲板貫通させてるから注意ねー」見ると、そちら側の床板が畳まれて警戒ロープを張られた向こうに、真横に積まれたスケアクロウ13号機の姿が。HT013と機首下に小さく書いてあります。これがうちの11号機だとIT011ですね。…かーさん、あたしが機長席に隠してるお菓子、食べてないだろうな…。
(操縦区画でハッ◯ーターンみたいな粉吹くやつ食うなっ。あんたの部屋に届けさしとるわ…)えー、けちー。
などと母親に文句を言いいつ、皆様と一緒に航海艦橋へのエレベーターへ。
「船というより、もはや城ですな…」
「旦那が落ち着いているのがなんとも」
「いやいや、長生きはするものじゃ。しかし大将殿に姫様方…ここが湖とあってはどのように海と往来するのか。よもやこれほどの船、よそとの行き来に使わぬわけはあるまい。先程もでかい烏天狗のようなからくりがおったしな」
「ふっふっふっ、謎解きはこの先で」
「今から仰天する用意をしておけと言われておるようで…」
「この船がまさか飛ぶわけではあるまいが…」
「あー悟洞さん正解。これ、飛ぶから」艦内通路に響き渡るええーという声。
「まぁまぁ、とりあえず入った入った」で、艦橋に入ると…。
「いやー皆様お久しぶりですう。ようこそ聖院へ」
「マリ公はともかく、ベラちゃんは久々やな。まぁ空いとるとこにお客さん座らしたり」見れば聖院の面子が勢ぞろいに近い状況で。
「な…なんかここ、天女の城でございますか…」
「あの、皆様…服は…」ええ。露出狂の巣と言われても返す言葉がありません。皆さん聖院の各所属制服に。聖院の姉とアルトさんもいつの間にか略装に戻してますし。
…つまり、お尻剥き出しTバック、更に人によっては横乳とか壮絶な露出狂状態です。
「いやね、実はあたしらも国に帰ればだいたいこんな感じの衣装なんですよ。なんせうちの国、暑いわ雨はざんざん降るわでねぇ。ほれ、ベラ子もいつもの姿見せてあげなよ」
「別にいーじゃないですかーいまさらー」抵抗しましたが、無理矢理着替えさせられました…。それもよりによって乳上服の桃薔薇仕様に…。網目から色々透けるんですよこれ?
「はぁ…大将殿だけは地味ななりだが」
「ねーさん。あなただけ逃げるのは許しません。蟹衣装が嫌なら自分で着替えてください」隠れようとする姉を捕らえます。なんぼなんでも自分だけ宙兵隊作業服のままとか、大概にして頂きましょう。
「…出家衣装でいいだろ!」
「仕方ないですね。その軍服をさっさと脱ぎなさいっ」
「いや、皆様のお目汚しに」
「おだまり黒マリ。あたしが着替えさせようか?」聖院の姉にまで詰め寄られ、渋々尼さん衣装に着替える姉ですが。
「おや、大将殿は尼さんであったか。わしらの国の天子様と似たようなもんじゃな。位を譲った帝なり殿様はだいたい出家するからのう」
「あたくしも芳春院を名乗っておりましたからね。それよりみかど様、わたくしも試しにその類の衣装、お貸し頂けませぬか」おまつ様、着る気満々じゃないですか!
「…おまつ様…何で着るのですか」
「慶次郎様。わたくしも娘の身体に戻りましてございます。野暮は申さぬが花でしょう。伽子様も試されますか? 妹君様のあみ衣装…」
「いいいいいえわたくしは遠慮いたしますすす」
「まぁとりあえず、皆様ご着席願います。じゃエマちゃん、MIDIは聖炎宮よね? 悪いけどお留守番お願いね」
「了解でっす。行ってらっしゃいませ」転送で消える聖院エマちゃん。提督席には聖院の姉、船長席にはうちの姉、正操舵席には聖院の母様、いわゆる白ジーナ様と言われる方が座られます。
「ベラちゃんこっちこっち」と、母様に呼ばれて示されるは副操舵席…いや、あたしは立っていても。
「いや、痴女宮のうちから頼まれとんねん。こういう機会があれば率先して舵を握らせろとな。諦めて座りなさいっ」ここで嫌だ嫌だしても絶対何かされるのは分かっていますので、仕方なく着席します。
実はスケアクロウとほぼ同じ操作系なんですよ。ただ、港内移動の時など、精密な操作を必要とする場合の専用モードがありまして…。
「うぉーし、しほ子、直美ちゃん。アンビリカルライン遮断と収納確認」
「はーい、艦内電源切り替え完了してます」
「岸壁コンセントからケーブルリリース済みです」
「よーし、係船索1番から6番までテンションリリース。ラインワーキングアームがポラードに取り付いたか見ときや」
「了解。ムアリングラインリリースサイン1番、2番、3番確認」
「ムアリングライン4番5番6番リリース確認。1番から6番まで係船索巻き取り開始」
「フロントアンカー、ウェイアップ。ベラちゃん、アクティブスタビライザON確認。正面のマルチモニタに出てる航行モードがPORTになってるか確かめてくれたらええから」
「はい…ポートモードです」
「一旦浮かして離岸した後でスティックス・ドライブに入るからな、うちの操作よう見ときや。サリー、痴女宮テンプレス2世とリンク。しほ子と連携して転移処理始め」
「サリー了解」
「しほ子了解」
「マリア、テンプレス離岸指示。痴女宮のマリア、一旦痴女宮側の聖院湖でええねんな?接岸どうする? TAPPSと向こうのクリスと黒ひげ拾うだけやろ?」
「んー。慶次郎さん、さっきあたしに聞きたかった事あったろ? おもしれーもん見せるついでに話してあげるよ。多分、あなたがお聞きになりたい事、あたしが言うよか初代様が答えた方が確実だしね。初代様も一旦墓所に戻ってもらうか…白かーさん、向こうの聖院湖岸壁2番にアークロイヤル来てるはずだから、1番にいるうちの2世の近くにアンカー下ろして沖合停泊してよ。あたしとベラ子と日本の皆様は墓所に行って話してからTAPPSとか人員積むわ。クリス父様ー、あと15分以内に痴女宮行くから一旦研究切り上げて上がって来てよ」
「長いわよ黒マリ…はい、母様、テンプレス出港。痴女皇国側聖院港に転移願います」
「あいあいさー。船首そのままサイドスラストー」母様が眼前に浮かんだテンプレスの模型めいた3D投影を引っつかんでゆっくりとずらすと…。
テンプレスが真横にカニのごとく移動を始めます。
「さすがにこのサイズを水に漬けたまま移動さすと聖炎宮の浮橋に影響がな…」そうです。離水させてから、艦首を回頭させても回りの何かを壊さない場所まで真横に滑らせて行くのです。あたしたちのテンプレス2世も痴女宮側の聖院湖から出すときは全く同じ操作で出港させますから。
「よぉーし船体停止、高度そのまま。黒マリアー、こんだけ離したら向こうのテンプレス2世に当たらんよな?」
「んーそれでOK。んじゃ転移入れるよー。サリー、しほ子、ICD/Gコントロール、アイハブ。目標、痴女宮聖院湖。位置変わらず、速度高度現状。トランスファ、スタート…」一瞬だけ艦橋の窓の外側が光に包まれて…。
「はい皆さん左手をご覧ください、あれがハー・マジェスティ・シップ、テンプレス・ザ・セカンド。本来のあたしら痴女皇国の持ち船です。更に浮橋の向こうにHMS アークロイヤル…アークロイヤル級一番艦がいますが見えるかなー。ま、とりあえず痴女皇国にようこそ」いや、同じ船を見せても…あと、こちらはまだまだ明るいのですが、後ろを見せない方がいいんじゃないでしょうか。
なんせテンプレスの更に倍の長さの大型船がいますから。
「で、何で俺が」
「いやティーチ、マリアリーゼ陛下のいつもの行動だ。…私が反乱や痴女宮乗っ取りを企てない時点で全てを察しろ…皆様申し遅れました。痴女皇国厚生労働局長のラドゥと申します。こちらは聖院の皆様にはご存知、元海賊のエドワード・ティーチ。現在は罪人頭として痴女宮罪人寮囚人の管理責任者の地位にあります」
「ほう、大将殿の国の牢名主であるか。申し遅れたがわしは前田慶次郎と申す。この金悟洞も海賊上がりだ。仲良くしてやってくれ」
「えらく強そうな旦那だな。エドワード・ティーチだ。海賊時代は黒ひげで通っていた。よろしく…その子が噂のいけにえ村の子か…バイキング連中に聞いた事はあるが、あいつらでも昔にやめた生贄のならわしを未だにやってるとはなぁ」
「ティーチ。その件でおもしれー話をしてやるよ。美男公と一緒に来な。多分美男公もあそこは知らねぇ…この中で聖院側の墓所を知ってるのは聖院組全員か。かーさん、白マリ借りるぜ。ちょっと留守番頼むわ。黒エマからTAPPS7渡されたらスケアクロウに積み込ませてよ」
「了解了解。…マリア。元来ならあそこは人に見せるもんやないからな。初代様が来るなら間違いあらへんやろけど…」
「はいはい、忠告は理解してるよ。んじゃ唖然としてる方々含めて連れて行くよ。ベラ子もだぞ」
「へいへい。直接墓所に行くの?」
「いんや。お祖母様とクレーゼ母様が22階で待ってくれてるから一緒にあれで降りるわ。では転送っと」
はい「あれ」の中です。デルフィリーゼ財務局長とクレーゼ財務部長にクリス叔父様もいらっしゃいますね。
「マリアリーゼ。あたくしはお母様と墓所に降りるのに気が向かないのですが」
「クレーゼ。公務である。何ならあの絵の光景を再現してつかわすが」…あー、あの絵に描かれた当の本人様方…。
「とりあえず初代様が墓所でお待ちです。お祖母様、第一金庫室の入室許可願います」
「うむ。両マリアリーゼにマリアヴェッラ。そなたらが何故あそこを開けるかの理由、私も理解にやぶさかではない」
「そー言えばマリア、僕はまだあそこを見た事ないんだけど…手前のあれ、日本の方とかには大丈夫かな」クリス叔父様が姉に聞かれます。
「あー…嫌でもあそこ通るよな…」
「あたしたちでガードすればいいじゃない。うちの懲罰具倉庫と同じで箱詰めにしてるんでしょ?」
「一応してるし、解錠処理は…初代様がいるから大丈夫か。あー、外道ちゃん、初代様来てる?うん、こっちは今呪われるエレベーターで降りてるとこ」
「その言い方やめなさいよ…あ、B24着くわよ?」
はい、あたしは盆以来の地下墓所です。その異様な雰囲気に、初めて来た方が絶句されています。
(慶次郎さん…ニオオフラーネとあまり変わらない年恰好で日本の子供っぽい恰好の子がいるだろ。あれ比丘尼国からの出向者で痴女宮の施設管理局設備部長の外道丸ちゃん。正体はあの鬼の酒呑童子だけど、知らんぷりしといてよ)
(何とまぁ、あの鬼の酒呑童子があんな子供とは)
(幼名を名乗ってんのさ。ちなみに隣の副部長の悦吏子ちゃん、九尾の狐が中にいるからね)
(毒の息は吹かぬであろうな。はっはっはっ)
「慶次郎様。皆様。このような場所にお呼び立てして申し訳ありません。早速ですがこちらへ」懲罰画像や例の肖像画の下の扉、青い髪になった初代様が操作すると一瞬で開きました。
(ねーさん、あれ普通はめっちゃ手間なのでは…)
(ベラちゃん、ここ作った初代様が一発で開けられないわけないでしょ。それより黒グッズに誰も手を触れないように見張り頼むわよ?)
(ああ、あれだけは触られたら困るからな…)
そして中に入ると禍々しい雰囲気を漂わせた箱の並ぶ棚が…。
「私も久々に来たが、マリアリーゼ…ここの収蔵保管品、増えてないか…」
「アレーゼの使った黒金剛以上のものがある気配がしますわね…あー、黒ぶらぎ◯すの瘴気か…」
「ここは何か、祟りを成すものの蔵かね」
「あーやっぱりわかります?触らないようにしてくださいねー」
「慶次郎様にお見せしたいものを守るためでもありますの。ではこちらへ。デルフィリーゼ、解錠願います」そう、懲罰具倉庫の更に奥に、厳重かつ頑丈な扉があるのは知っています。そこへの搬入や搬出に、皇帝として立ち会った事がありますから。
「扉を開ける前に注意。この先にあるものは絶対に触らないように。この中で大丈夫なのは初代様にお祖母様にあたしと白マリ、ベラ子だけだから」
「マリアリーゼ、あたくしは」
「クレーゼ母様は逆特例で、お祖母様の承認がないと触ったら呪われますよ…」
「財務部長なのに触らせて貰えないのは間違っておりますわ!」
「第一金庫室の中身でさえお祖母様の承認が必要でしょ? あれしなくて良くなったら第一金庫室もフリーにしてくれますって。とりあえず皆様に見ていただきましょう。慶次郎さんは聚楽第の金蔵を見てるから驚かないかな。はいどうぞ」
そして扉をくぐりトンネル出口手前の扉も開かれますと。
「うお…この棚全部金塊かよ…」
「何とまぁ、これはたまげたものよ。大将殿が触るな祟るとしたのも分かり申す。聚楽第の十倍はあるな、ここは」
そうです。痴女宮第二金庫室、通称呪いの金庫室です。
「向こうの銀区画は更に凄いですよ。まぁ、ちょこちょこあちこちから収集した分で金だけでも二万トンはあるかな。あ、さっきも言いましたけど、盗まれたら困るので、何もせずに触ると二度と金銀を身の回りに置きたくなくなる祟りに見舞われますからね。絶対触らないでよ?」
「確かにこれだけの金があれば触りたくなりそうなものだが、何やら妖しい気配もするな。捨丸、言われた通り絶対に触らん方がいいぞ」
「ななな何を言いやがるっ、金に金の事で言われたくねぇよっ」
「捨丸さん。目。泳いでなさるよ」骨さんに指摘されていますが、確かにこの人、嘘つくときは目に出る癖がありますね。
「しかし、これほどの金を集めて一体何をなさるおつもりなのでしょう。まりや様…慶次郎様にお話されます事、この黄金が絡んでおりますので?」
「ええ、おまつ様。こちらの初代金衣女聖テルナリーゼ様…というより始原海洋神種族、原初聖母ナンム様がお話になられますよ」
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