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てるちゃん奮戦記 -Hôtel de Atlantide- 4
しおりを挟む「ですから加賀を出奔した時の手は使えませぬよ、と書状にもわざわざしたためておきましたでしょうに…」壮年で頭をつるつるに剃り上げた男性のほっぺたをつねるのは、前田まつさん。
痛い痛いと嫌そうな顔をしているこの御仁に対して、問答無用でこれが出来るのはこの方くらいだそうです。
「慶次郎…わしが殴るよりは遥かに良いだろうに…それくらいは我慢しろ」苦笑いしながら申されるのは奥村助右衛門様。加賀前田家の家臣で、おまつさんにお仕置きされているお方とは長年の友達付き合いで、この御仁をこれまた問答無用でぶん殴れるのはこの方くらいだそうです。
「いや助右衛門、お主に殴られた方がまだましだぞ。こうもわしが苦手な事をされれば、如何にわしとてだな、ひとつ逃げてやりたくもなるわい」
「慶次郎様…景勝のお殿様や直江様にもお顔というものがありますから申し上げたくはございませんが、上杉の苦境は加賀まで聞こえておりますよ。せっかく、おいしいお話が転がり込んで来たのです。受けて差し上げぬ道理がありましょうや」またほっぺたつねられてます。
「いやいやおまつ様…わしがしくじれば上杉にあらぬ嫌疑もかかると思うたのじゃ。それに見ての通りわしも今や老骨、隠居を決め込んだ身を今更引きずり出されてもですな」
「ふっ。わたくしの様を見て何か感じ入る事はございませぬか」ニヤリとお笑いになるおまつさん。
「加賀を出た時のお姿にございますな。伴天連の妖術か、はたまた人魚の肉でもお召し上がりになられたかと…まさかわしにそれを!」
「まりやさま。言い訳の一つを封じたく存じますが」暴れようとする御仁が大人しくなる理由その一、ダリアの鞭が絡みついています。
「委細承知。やっぱり往生際が悪かったですねー、慶次郎さん…」で、マリアリーゼが一瞬で慶次郎様を若返らせておしまいになります。ついでに髪の毛も伸ばしてしまうと。
「さぁ慶次郎さん。これでおまつ様だけじゃありません。捨丸さんや悟洞さん、飛加藤さんに…伽姫様とも釣り合いが取れましたよ。ついでに松風も慶次郎さんと出会った時の姿にしています。ほら、肩で風切るかぶき者のお姿でしょ?」はっはと笑いながら鏡代わりのかめら映像を見せるマリアリーゼ。
「この場合、全く喜べませぬな…」伽姫様という内縁の「今の」奥さんに髪の毛を結ってもらいながら文句たらたら。
「捨丸…お前には済まぬが、あれ、ばらしても良いか」おくむら様が慶次郎様の側に控えている小柄な従者らしい方にお聞きになります。もう見るからに決め手をお持ちのご様子。
「はぁ…どのみち旦那が怒る話が今から山と出るでしょうからねぇ。仕方ございませんな」
「ま、任せておけ。あのな慶次郎。捨丸に渡していた仕送りだが…北政所様…高台院様扶助の功で近江弘川七千五百石が化粧料としておまつ様に与えられていたのは知っておるか」
(高級武士階級の夫人の化粧や衣服、侍女の給料などをまかなう為の領地のことですよ。この場合、ねね様の面倒をおまつ様が甲斐甲斐しく見てくれていた御礼にと、おさるさんが下賜した領地です。今の滋賀県今津町に該当しますが、明らかに加賀前田領からは飛び地になりますでしょ)
(ふむふむ。そういう領地を別にお持ちでおられましたか。しかも七千五百石って、雇われたおさむらい様としては結構な高給ですわよね)
(ですから、おまつ様は豊臣政権でもかなり重用されていたんですよね。秀頼様もおまつ様には頭が上がらないっぽいでしょ。ふっふっふっ)
「いや…まさか」
「そこからの上がりでお貯めになられた分をだな、この捨丸に渡すよう仰せつかっていたのだ」
「助右衛門。そなたも足しておりましたでしょ?」
「いや、拙者の分など微々たるもの。それより慶次郎です。慶次郎…これを知ればお主の性格だから、必ずや捨丸を咎めたろう。なればこそ捨丸も、お主に告げず密かに家計の足しにしておった筈だぞ?」
「捨丸ぅ…何でわしにそれを申さなんだ」
「そりゃ旦那、奥村様の言われた通りですが。だいたい京にいた時からそれ、受け取っておりましたのですよ?」
「つまり慶次郎。お前はだな、まだ前田藩に籍があって、おまつ様の縁戚にして弘川化粧料在居扱いの家臣相当のままなのだが」
「助右衛門、あれも不思議な話ですわねぇ。利家様が破門になされた筈ですのに、藩士目録にきっちり慶次郎様のお名前が」
「ええ、上杉の皆様には誠に申し訳ございませぬが、この前田慶次郎は未だ加賀藩士の扱いという事で。慶次郎、今度の話、断れば主馬のみならず加賀藩総出で櫓櫂の限り追うからな?」
「それならば仕方がございませぬな。上杉としましては前田家から希代の猛将を長年お借りしておりました事になりますかと。のう兼続」
「左様左様。借りた物をお返し願いたいと、利家様の奥方に申されては是非もなく…まぁ正直、借りっ放しにしておきたくはございましたが」
「景勝殿…兼続殿…恨みまするぞ…」
「前田殿、恨まれついでにわしも恨まれておきましょうぞ。前田殿の身許後見、是非に越前松平家が上書きさせて頂きましょう。わしの出自に文句を申す者はそうはおりますまいや。のう、右大将殿」ひでやす様ががっはがっはとお笑いに。上杉家取り潰しの話が出た際にはこの方も助力されたそうです。
おさるさんが死んだ際の跡目争いでは上杉を攻める立場だったそうなのですが…。
(武士の世界だと仕えた主君が違うとかで斬り合いはやむを得ない、ただ遺恨はなるべく残さないようにする風習から、普段は仲良くしてる場合が多いようなんですよ)
「前田殿…正直申し上げる。貴君が仮に何か不始末をしでかし、公使に何かあれば貴君や上杉、そして前田家の改易だけでは済まぬのだ。我が幕府の不始末を朝廷に咎め立てられる話である」
「もう一つ言うておくと、ぶりてんの女王とわしの喧嘩になりかねん。むろん、ぶりてんの如きは小指でひねってみせるが…問題はひねった後なんや。ひねるのは容易いんやが、妹のむすめたちをこっぴどくねちねちいじめるじいさんがおりよってな…ぶりてんをしばくわけにもいかんのがあたまの痛いところなんや」
「南蛮を害しようと考える者がおりますかな」静かに前田様が申されます。
「…わしは関白殿下の命にて琉球から台湾を経て福建の地を訪れた事がある。その時に聞いたが、いすぱにあが金太澳門国、ぶりてんが九竜酔拳国を属地化した。そして沙汰が入らねばそのまま明朝龍皇国を滅ぼす勢いであったと聞く。のう、伽子」
「はい。慶郎の助けなくば九龍でどうなっておりましたかと」
(七代目様が半島を焼いた際に、隠れ住んでいた伽耶一族は大陸に逃れてるんですよ。どうも大連天津上海と来て香港…九龍に移り住んでいたみたいですね)
(伽耶というのが昔の半島にあった国でしたね)
(そそ、伽姫様がその末裔です)
「即ち、向こうも元来は隙あらばわしらを攻める気に満ちておるでしょう。しかしながら、いくら侵略の本音を実現するだけの兵や船を持っておりましょうとも、建前では無難に交易に留めようとして国使を遣わし国交を開こうとしている者を、攻め込む疑いの証拠もなく無闇にわしらが害する道理は通らぬかと存じます」
「ふむ。慶次郎、では日本にぶりてんを害する企てを実行しようとする者はおらぬと?」
「おかみ様。もしも害しようとする者があればそれは茶番。徳川家の天下を望まぬ者がぶりてんと密かに結んでの芝居となるかと。わしにはそのくらいしか思いつきませぬ」
「なるほど。幕府を揺するための武力を外に求めるか…まりや。対策はあるか」
「あー大丈夫ですよ。あそこにはあそこで無用な侵略したら、うちの世紀末覇者が殴りに行くからなと注意入れてますから。むしろ慶次郎の旦那にお願いしたいのは…今回着任する公使に随行する視察担当者の案内役なんですわ。ダリア、慶次郎さんのムチ外したげて」
「へいへい。しばらくは身体の動きが鈍りますけど、翌朝までには元に戻りますよ」
「さて皆様。改めて征夷大将軍徳川家康様名義の英国大使館警護詰役請状を徳川秀忠様から上杉景勝様か、奥村助右衛門様にお渡し頂きたいところですがね。その前に、大英帝国大使館館準備室長のハリー・パークス氏から預かってるものがありまして」マリアリーゼがかばんから封筒を出してきます。ちなみにマリアリーゼは聖母様と同じ宙兵隊の作業服姿ですね。
で、わたくしどもは狭い一夢庵も何だろうと米沢城に招かれ、広間に通されております。
「まず一通目。英国女王、エリザベス一世陛下名義の英国公使館開設依頼状。これはおかみ様に渡させて頂きます。で、次のこれが問題でして」マリアリーゼがもう一通の封書を。
「うむ。わしもそっちの請願の内容、ぱーくすから直接聞いたしの。言いたい事はわかるんじゃが…」
「副室長兼現地調査官のイザベラ・ルーシー・バードの日本国内旅行、特に江戸から北の旅行の許可並びに通訳とガイド…案内人を用意願いたいと言う内容です。この際に日本側で用意した人材につきましては、日本側でしかるべき機関が雇用して欲しい。我が英国は、その機関に対して人材派遣費用を支払うとあります。要は金は出すから通詞と案内を用意してくれや、と」
「で、おまえら。普通ならこんなもんだれがみとめるねんというはなしになるやろ。ひのもとならな」
「確かに、これは物見を認めよという脅迫にしか取れませぬ…正直、父からこれを聞かされた時、それがしは猛反対した」
「秀忠様の懸念の通りにございますな。江戸から北とは即ち我が米沢を通る話ともなろう。はいそうですかと通すには、少なくとも幕府や朝廷の御免状がなくては通す事すら叶わぬ、のう兼続」
「お館様の申す通りですな…が。件のおかみ様、そして先皇様始め痴女のくにの方々がわざわざ米沢まで書状を携えてお越しになられた。秀忠様、秀康様。内府様がこの書状の中身を知らぬわけはありますまい」
「ふむ。江戸にはこれを認めざるを得ない事情があると見ましたが。更には認めねば、単なる侵略以上に困り果てる事になる話が出ておるかと」
「さすがは前田慶次郎。鋭い読みですねぇ。実は欧米と日本の旅行事情の違いも噛んでるんですわ。そりゃ、みなさんからすれば自由な往来とか全く考えが及んでないと思いますが、陸続きな国が多い欧州では人民の移動自体には比丘尼国ほど厳しい制限をかけてないんですよ。ぶっちゃけ、普通の人間が簡単に隣の国に行けちゃいます」
「まりや、てるこ、おまえらもけいとらとか持ち込んで走らせとるやろ。あれみしたれや」
「はいはい。我が国は日本国で作られた馬なし荷車を使っていますがね」と、マリアリーゼが、筒型ばそこんから大きな画面を出します。
これはスイスのおま
いえ、レマン湖のほとりのお城のちゅうしゃじょうですね。東欧支部のこうしゅうにゅう号他、何台かのけいとらがあります。
「あー、これ、ボロボ持って行った時やん…」聖母様がおっきな車を器用に動かしてバックで突いて、いや突っ込んでますね。
「初代様、卑猥なこと考えてませんやろな。いや、欧州地域本部の更新機材搬入かたがた、でかい車も欲しい言うてたからコンテナ梱包にして箱ごと買い取りした上でボロボのトレーラーごと荷物置いてきたあれですわ。うちとマリ公がスケアクロウで運んで行ったやつ」
「そう考えるとあのひこうき、ほんとこういう時には便利ですわねぇ。転送は割と精気を使いますから」
「初代様やおかみ様の元来のやり方やと燃費悪いですからな。マリ公のやり方やと精気食いませんけど手順がくそ面倒やし」
(そうおもうのならさっさとてじゅんおぼえろー)
(やかましいかんたんなてじゅんかいはつしろー)
「これでどこまで行かれるので」
「はい欧州地図。ジブラルタル…ここか、コンスタンチノープル…鯖挟国の首都まで。今度ドーバー海峡トンネル無理矢理掘って英国とフランス繋ぐから陸路で大英帝国まで行けるようになりますけどね。出来たばかりのベルサイユ宮殿…向こうの王様のお城を遠距離砲撃訓練の射撃の的にされたくなきゃ英仏海峡トンネルの一本や二本くらい黙って認めやがれと脅しまして。こほん」マリアリーゼが出した画像には、いかにも豪華そうな巨大なおやしきが。
「また豪華なおやしきを作ったんですわねぇ」
「初代様にも報告しましたでしょ。あいつら、うちの貸した金流用しやがりまして…ホワイトホール宮殿は許してもベルサイユ宮殿は許さねぇって言ってんのにあのバカどもは…チェーザレの兄貴やドレイクのおっさん達もやりたがってますけど、それ以前にあたしがパリを燃えている状態にしたいくらいゴホゴホ」
「これが向こうの国主の城…というか屋敷ですな。石造が基本なのですか」
「何も城造りにせずとも良いと。ふーむ、領主がいくさを考えない作りの屋敷に住める世の中なら、話は全く変わるでしょうなぁ」
「更にはこの中で舞踏…踊りや食事や茶会を積極的にやって自国の貴族や他国の要人を接待していたんですよ。太閤様も茶会や花見してたでしょ?あれに外国人招いてたと思って下さい。で、招かれたり招いたりしてる当事者の実例がこの三名です」いきなり皆の前に三人が、それぞれの住まいや仕事場から引きずり込まれてきましたが。
「ですからいきなり転送とか、なるべく避けて頂きたいのですが…(昼下がりの浮気の最中を邪魔しないでくださいませ!)」
「あたくしはアナをおか、いえいえ昼寝の最中だったのですけど!」
「やれやれ、真面目に仕事していたのは私くらいですか。とりあえず英国が極東、わけても日本の視察をしたがっているという話は伝わっております。しかし確かに日本の皆様ならば、はいそうですかと容認出来はしないでしょうな」
「マリアリーゼ…いきなり誰を呼ぶのですか…」
「ほっほっほっ、領民の移動について意見のある方をお呼び立てさせていただきました」
「誰ぞある。敷物を三枚持ちやれ」とかげかつ様が小姓を呼んでざぶとんを持って来させます。
「正座慣れしてない方々ですから、足は崩して頂いて構いませんよね?」と、このお城のもちぬし…お客様に対するほすとの立場のかげかつ様にマリアリーゼが聞いています。
「うむ。異人の方にいきなり我ら同様に座れも酷な話。客人におかれましては我らの作法を参考にお寛ぎを」と、足を崩して座っているあたくし他痴女皇国の面々と、あぐらをかいているご自身を指してかげかつ様が申されます。
「近習。茶を三杯頼もう」かねつぐ様もお茶をおーだー。あとで茶葉を差し入れしときますと、マリアリーゼがかねつぐ様に心話で伝えていますね。
「で、お越し頂いたのはイタリアの政治家と宗教家、そしてイスパニアの女王様です。現在、我が痴女皇国と組んで欧州を事実上牛耳っている三名に来てもらいました。まずカエサル1世猊下。どうぞ」
(つまり、あたしゃこの人たちをある意味あごで使える立場なんですよ、秀忠様、景勝様、兼続様、慶次郎様、助右衛門様、おまつ様)
(委細承知。語って頂きましょう)
「ええ。日本の皆様初めまして。聖母教会の長を務めておりますチェーザレ・ボルジアと申します。痴女皇国現帝マリアヴェッラ・ボルジア陛下とは叔父の関係となります。我が妹ルクレツィアの娘に当たりますのでね。で、領民の移動ですが、イスパニア女王にして痴女皇国南欧支部長のイザベル一世陛下や東欧諸国、鯖挟国と進めております話がございます。イザベル陛下」
「はいはい。シェンゲン協定という多国間協定を目下進めておりまして、加盟した国の人間の移動の自由を認めようという話をしておる最中でございます。例えばイタリアの科学者にして芸術家のレオナルド・ダ・ヴィンチ様が我がイスパニアに旅行したいとか移り住みたいと申された場合を考えてみましょう。カエサル猊下」
「この協定を結んだ以上は拒否は出来ませぬ。従いまして叔母上」
「イタリア連合公国摂政大公、イザベラ・デステと申します。そこなマリアヴェッラからも叔母の位置となります。で、仮にマキァベッリやダ・ヴィンチのような逸材を逃したくない場合、その母国は彼らが住みやすいように務めねばなりません。これが我らの考えです。更に旅行については、他国の方に我が国の優れた面をご覧いただき、再訪はもとより移住やぶさかにあらず。この方針で行こうと計画中にございます」
「で、欧州の偉い人三名に対して、この場で日本の代表はっと…おかみ様」
「うむ。まりや…知っての通り、比丘尼国朝廷は直接には日の本を治めてはおらぬ。目下は統治のかおとしてとくがわに任状を与えておる。しかして徳川のものは」そこで日本側と痴女皇国側が全員、ひでただ様をご覧になられます。
「ひでただ…これはそちにこくさい感覚を養わせるためのくんれんでもある。さ、前へ出よ」
「は。ただ今ご紹介に預かりました徳川幕府右大将、比丘尼国朝廷右大臣位にございます徳川秀忠と申します。いきなりお呼び立てで戸惑うことも多々かとは存じまするが、我らに対してえげれすが見聞の使いを出したいと申す話をしておりました。仮に皆様のお国にかような話がございました場合、いかがなさるか。さしたるもてなしも出来ませぬが、ご意見があればお伺いしたき候」
「これはこれはご丁寧に。まぁ、普通なら…密偵に思いますわね、イザベル陛下は特に」
「ええ。我が国、ついこの間まで世界の海を巡って、そちら様の申されますエゲレスと、そりゃもう国運を賭けて派手に戦争しておりましたので」と、かんたい戦で何隻ものふねが大砲を撃ち合うがぞうを見せられます。
「ただ…個人的には、そのイザベラ・バード様。彼女の旅行は認めた方が、その国にとり利益をもたらしますよ、ひでただ殿下」
「私からもイザベル陛下の発言を支持させて頂きます。バード嬢…女性ですからね…の記録と旅行記はその国の支配者に必ずあとで贈られます。そして、支配者ですらなかなか知り得ぬ民衆の生活や旅行の難易について細かく言及しております。これを政治の参考にしない者ははっきり申し上げて馬鹿、わざわざイタリアならイタリアに来て旅行を楽しんだ上に役立つ話を沢山仕入れて報告して頂けるのです。そして評判が良ければ我が国を訪れお金を落として頂ける。いわば、やらせなしに観光案内を書いてくれるようなものですわ」
「デステ閣下のお話ですが、それもイスパニアならイスパニアがお金を払って来て頂いている訳じゃないんですよ。向こう様が勝手に来て勝手にお金を遣って旅をしてくれるのです。貴国にもお金を請求している話は来ておりませぬでしょ?」
「はっはっはっ、どうやら日本ではまだまだ庶民の観光旅行は一般的ではないようだ。ですがこれは良い機会、こうした形で娯楽の提供や富の分配を行うのも国家経営の方法の一つですよ。機会があれば皆様、ぜひマドリードなりリスボンなり、我が国のフィレンツェなりにお越しください。きっとご満足頂けますよ」
「ボルジア猊下はもともと我がイスパニアの出であらせられますので、我が国にも知己友人が多うございますの。言うなれば猊下の故郷のようなものでして」
「ところで、わたくしから南蛮の方々にお伺いしたいのですが。仮にそのばーど様ですか、その方に嘘を書かれた場合、書かれた物事の評判があがるどころか落ちかねませぬ。そのあたり、真贋を計るすべはご用意なすっておられたので?」うわー、まつ様するどっ。確かにうそを書いて世に広めた場合、その国を害する事になりますね。
「あと、今から申し上げるわたくしの思いつきを検討頂きたいのです。我が加賀には山代や山中、そして能登に湯治場がございまする。仮にその湯が万病に効くとか過大な効能を書かれたり、あるいは料理や旅荘の話を書き立てられた場合、湯治場がさばけるより遥かに多い客が押し寄せる事も考えられるでしょう。付け加えますると、我が国はもとより上杉様他、各国各藩は要所要所に関所を設けております。しかしながら病の為に湯治に向かうのはお伊勢参りと並び、関所で見せる通行手形のお許しが出やすい旅の理由でございまする。即ち、風評を下げたい場所を敢えて見所と書かれますとか致されますと、書き手はともかく読み手も書かれた場所も迷惑となるかと」本当にこの方…読みが鋭い人です。
(助右衛門の妹の奥村加奈という娘がわたくしの侍従を長年勤めておりましてね、勘の鋭い子ですの。多分、加奈の影響でございましょう)おや、心話が使えますか。
「わたくしの時は痴女皇国南欧支部から従者を選抜して付けました。ですので嘘偽りや策謀の企みはその時点で発覚しますわね。ま…あの方はある意味子供です。よく言えば純粋、悪く言えば好奇心の塊ですわ」と、イザベル陛下が人物評を寄せられます。
「だからこそ逆に、見て欲しくないものまでずけずけ見に行かれるのが困るのですよ…ピサ大学での私の昔の逸話や艶ごと話まで取材されましてね。あわや書かれたら困る話まで…」
「正直困る話がございます。不味かった食事の店や不潔な宿のさままできっちり書かれますから!文句を言う方がやましい話だけに余計に頭が…ええ、ミラノやスイスに近い旅荘に何軒か改善指示を出さねばなりませんでしたから。あの方が来られて一番困るのがこれ。正直者過ぎて、ほんっっっとうに正直に書かれますから。日本の皆様は今から覚悟なさってくださいませ。ああ腹立つっ」
「ただ、うちの欧州関係者の愚痴はともかく地方の生活習慣や水準、交通事情などの情報を拾ってくれるのは本当にありがたいんですよ。我が国も、そこのダリアリーゼが正にそうなんですが、そちら様でいう忍びや草めいた人材を複数使って情報収集をやらせています」実はマリアリーゼが正に日本の忍者を参考にして黒薔薇騎士団の装備や任務内容を決めていたのは、内緒の上にも内緒の方向で。
(絶対絶対ぜーったい言っちゃダメ!)
(ンなもん言わんでも黒薔薇装備見たら自然にバレる気ぃするんやけど。だいたいダリアが慶次郎さん捕まえた時に、全力で科学忍者隊まんまな行動しとるやないか…あれで骨さんとか捨丸さんにおもっきし警戒されとるぞ…)
(上空からすけあくろうのていさつ機能で探したふりしておられたのはそのせいですか…)
(更に申しますと、別にあれせんでもダリアだけで発見捕獲余裕でした…)
「でも、忍者って基本的に普通の人より生存能力が高いですよね。ですから能力の優れた忍者なら逆に見落としてしまう事もあるんです。例えば病気になって一番近い医者まで何里離れてるかとか、医療体制を知りたいのに調査者本人が健康じゃ、つい忘れがちになりますよね? どうです捨丸さん」
「確かにわたしらは薬やら飯やら、人の厄介にならずに済む物を持ち歩くのが性分ですし、野宿も当たり前でしたからねぇ。そりゃ、旅慣れておらぬ方とは比べられませんな。な、金」捨丸さんが、隅に控えている目が細くて鋭い目つきの方に尋ねられます。
「陸働きは骨の旦那や捨丸に譲るが、それでも今から一人で江戸に向かえと言われれば俺は普通に発つ。だが、逆に慣れぬ者には日の本の道はかなり厳しいだろう。特に山が険しい上に冬場に雪深いこの辺りは、道や天気を知り雪ごしらえができぬ素人には無理とすら言える」
「と、言うところがわたしらの意見ですな」
「ふーむ、つまりは河原者の如く通行御免にすれば、あとはそのご婦人があっち行きこっち行きしてくれると」
「確かに傍迷惑ではありますが、そもそもの話をお聞きしたい。そちらのお国では書物に法度はござらんので?」
「出版される本の内容を規制していないかって事ですよ」
「あー、これはチェーザレ猊下にお話頂く方が…」
「ですね。チェーザレ、各国に対する聖母教会の要請意向を」
「は。実は我々の方では詩文戯曲歌謡小説といった、およそ人が考えうる事を取り締まる事はなるべく致さないようにしております。先程私の私生活を暴かれると困るとは申しましたが、逆に言い換えれば書かれて困る事はするなとなりますな。世を乱し人を害する…例えば殺人の教本や詐欺泥棒の指南書といった犯罪を教える物でなければ、極力人の口を封じるな。これは聖母教会の教えとして広めよと、そこの上皇陛下が」
「えー毒盛りの兄貴がそれ言うかー。まーいいっす。確かに支配者や政治家は風刺されたら嫌なもんですわ。しかし、だからと言って言うな書くなじゃいつか足元すくわれますし、何より人の自由な発想を妨げる。これ、河原者と親しい慶次郎の旦那ならよくわかるんじゃないですか。ほれほれ猿の踊り」
「ああ、関白殿下の御前でした奴…あれをご存知でございますか! いや面目ない。はっはっはっ」
「加えて言いますと、イザベル陛下やデステ閣下は側に宮廷道化を置く風習をご存知ですよ。言うなればわざと自分らを風刺させて親しまれるようにしたり、あまり害のない風聞醜聞を下々に流す事で、人の興味を誘導するわけですよ」
「マリ公。それが得意中の得意なのがうちらの身内におるやろ。言うたり」
「えー、不肖の母親やわたしが頭を痛める原因を作るのが大好きな上に、故意に王室や貴族の醜聞を瓦版屋に流して笑い者にされるのが大得意な国がありまして。他ならぬブリテン、大英帝国がその国です」
「ほう。例えばですな、関白殿下が並外れた女好きだったとか、利家殿が数字に細かいとか書いても奉行所は呼び出さぬと」ひでただ様の例えで渋い顔をする人が…いませんね!
(そりゃうちの親父殿の存命中の話はですね…)
(あの亭主が細か過ぎたのです!慶次郎様や助右衛門どころか、城外にまでよく知られた話に今更戸を立てられませんわよ…)
「ええ。言論の自由を与えないと革命を起こされた事例、いくつかありましてね。そして皮肉や風刺を理解する国民が多い、これ即ち教育が行き届いてるって証明になりますでしょ」
「あ、ねーさんこれ言っといた方が。うちの叔父はイタリアに今もあり数百年の歴史を誇るピサ大学の卒業生です。更にこのわたくしマリアヴェッラは、姉の出た日本の高等学校に通学している立場です。未来では日本に留まらず、子供の教育を義務化していて国が費用を負担している政治体制が世界標準の価値観になりますよ」
「わしらが三河監獄国ですすめとる寺子屋義務化あるやろ。あれはまりあべらがいうたみらいのはなしのさきどりが出来るかどうかのじっけんやから、今すぐ比丘尼国全部でせぇ言うわけやあらへんからな、ひでただ」
「ただ…賢い国民を増やす方が、最終的に国富に繋がります。これは我がイタリアや、イザベル陛下のイスパニアの未来を拝見しても断言できます。国民に対する投資を怠っては国の未来はないと、聖母様や聖女様にはきつく言い渡されておりますが、それは未来を見知った身にはむしろ優しき忠告でしたわね」
「…我が痴女皇国の近所にカンボジアって国がありましてね。母の世界のこの国で何が起きたか。そしてその国の革命指導者が感銘を受けた思想を輸出した国…他ならぬ母の祖国が皇帝を倒して革命やった後に何人、内部粛清で殺したか…一握りの高知能異常者が何したか教えてあげていいかな…かーさん」
「中原龍皇国はうちがやる。お前北方帝国やれ。ただ、ロリヤだけは二人でしよう」
「へい。まず…」そして実のところ修学宮で必須教育内容にまでされているおそろしや革命の話と、それに影響されたはだいろ面積の多いまおおじさんが龍皇国でやった革命という名の独裁のお話を皆様にいたしましたところ。
この話を既に何度も聞いたり独自に調べたりした痴女皇国やよーろっぱの面々はともかく、おかみ様以外の日本のみなさま。
「よ、よ、四千万人ですと…それも自分の国の民を…」
「気が触れておるな…確かに、これは人の思いや考えを規制せず大事にせよと言われる筈じゃ…」
「全く以て言語道断。百年待たずに滅ぶも道理」
「しかし、このような国が加賀からさほど離れておらぬ地に二つも出来ようとは。そちらの日の本の皆様の苦労もわかり申す」
「何をどう教えたらこのようないかれが育つのやら。親の顔が見とうございます」
「主馬も大概鬼だったが、桁がまるで違うぜ…」
「わしも孤児を買い付け忍びの組織に回したが、このかんぷちあなる国の所業には到底及ばぬ。天下人を憎めとはしたが、生きる為の知恵は与えたつもりじゃ…我が国の鬼が怒るくらいに鬼じゃ…」
ですが、大陸関係者の二人は。
「確かに日の本の理屈では鬼畜外道、存在を許されぬ者共だろう。…だが、伽姫様。半島由来の民族や鬼汗国、龍皇国の外道を知る我等からするとですな…」
「ええ。金悟洞の申す通り。儒の教えがあってなお奪い犯し殺す。挙句罪人や悪人の一団で国が出来るほどの者が集まります。…ただ、幇については、ちじょのお国の皆様が李自成もろとも退治てしまわれましたが。あれでわたくし、どれほど溜飲を下げましたか。幇の害に遭った者として御礼申し上げます」
「いやいや、そんな大した事はしておりませんよ。たかが世紀末覇者と救世主二人送り込んだだけでして」
「そのどちらか片方だけで全人類敵に回して戦って勝てるの確定してるんやけどなマリ公。あの二人のどちらか派遣するだけで核兵器級の影響力があると思えっ」
「人を穢れ弾扱いするなっ売女…いやジーナ。いや、私の意思で来させて頂いた。聖院騎士団長を経て現在は米大陸地域本部長職を痴女皇国皇帝・上皇両名から任じられたアレーゼと申す。日本の次期将軍と武将の皆様他には初めてお会いするか…家康殿とは比丘尼国にいた時に面談しておるが」そこに噂をされたアレーゼが来ましたが、後ろに一人、欧州勤務服を着た女官を従えています。金髪に白い肌の、妖精さんのような子ですが…表情がありません。一目見ただけでわかる訳あり問題児の雰囲気を漂わせていますね。
「しかし、またえらくお強そうな方であるな。おまつ様とは違う強さを感じるぞ」興味津々に眺めるかぶき者。ちなみにアレーゼはめきしこ風まんとを羽織っていますが、その中はせいきまつ救世主な革の上下です。靴は脱いで来ていますがね。
「前田慶次郎殿。噂はかねがね聞いている。先程話に出たロリヤの件だが、実は中南米でも頭が痛い話が出ていてな。生贄の風習だよ」
「ああ…奈良の都やそれ以前の人柱の話か…あれな、正直今わしらにされてもありがためいわくやねん。せやから日の本のやつはやらんでええぞ」
「おかみ様に同意。しかしながらアステカとかインカの連中の頭が硬くてですなっ!」
「アレーゼさん…欧州の問題話あるやん…」
「ああ、例の生贄村な…まさかあんな物が野放しだったとは。あ、そうそう。欧州で保護した情報提供者いるだろ。彼女は出家に同意したんだが、マイレーネから教育委託依頼があってだな…ダリアもいるな、ちょうどいい。このニオオフラーネなんだが、黒薔薇適格者という判定が出た。修学寮送りにせずに女官教育後、黒薔薇配置が適切か見極めを依頼したい。出来るか?」
「マリア様かベラ子陛下がOK出せば受け入れますよ。ただ、欧州勤務にしない理由…仕事場がその生贄の村の影響範囲外にしたいって事ですよね。何も聞かされてないと北方帝国絡みで北欧送りにしかねない現状がありますんで」
「うむ。出来れば数年はルーン文字使用地域から離したい。…ニオオフラーネ。こちらが痴女皇国統括騎士団長のダリアリーゼだ。もともと黒薔薇を率いていた人物で、性格や能力については私が保証する。お前はもう、人の生贄になるだの人を生贄にするだのをしなくとも良いのだ。安心するがよい」
----------------------------------------------------
マリア「えーとな、ニオちゃんの話がこんにちわ、マリアの方に載ったらしい」
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/52/
けいじ「まぁ、あの娘子を見せられたら誰でものぅ」
マリア「旦那の時にはあんなの日常茶飯事だったんでは?」
けいじ「河原者とかはおったが、一人一人の頭の中をいじるまではおらんかったのぅ。むしろ自由に行きたいから河原者になる奴もおったくらいじゃ」
マリア「好きに生きるのが難しい時代だもんねぇ」
ベラ子「好きに生きさせてくれない姉はどうすれば」
マリア「ベラ子。日本国民の三大義務を言え」
ベラ子「イタリア憲法では労働は権利ですっ。日本国憲法のように義務化されてませんっ」
けいじ「そういえばまりや殿は国があっちこっちにあるようじゃが…」
マリア「一応本人の自覚では日本国民です。頭の中も日本人の考えが基本ですね」
けいじ「そなたの母君も似てはおるのう。見た目はともかく口を開けばわしらと変わらんのが」
マリア「ただ、上方商人ですからねぇ。旦那が京都を発たれた時みたいな銭撒きみたいなこと思いつきもせんのが困ったところで」
けいじ「わしらの時の京は、おぬしらの時と違うて、望んでもないのに他所から来て祭り見物とかそうそうせんからのぅ。銭の一つも撒いて盛り上げてやらんといかん時代よ」
ジーナ「むちゃくちゃボロクソに言われてる気ぃすんねんけど。ところでマリ公、提案がある」
マリア「何だよ。祇園祭でも盛り上げたいのかよ」
ジーナ「だいたいあんな山鉾が行き交うだけの辛気臭い事やってるから地震雷火事と天変地異がやな、ここは一つ岸和田仕様の山鉾を」
マリア(無言ではりせんをふるう)
けいじ「おやおや、親に手を挙げるのはあまり感心せんぞ。まぁ、そちらの親子の仲が少し風変わりとは聞いとるし、それ音の割には痛くないんじゃろ?」
マリア「ええ。あとね慶次郎の旦那。岸和田ってところで何やってるか見たら、あたしがどついた理由わかりますよ、多分」(かち合いや転倒動画を見せる)
けいじ「ほう。喧嘩神輿みたいなもんか。これは面白い。兼続殿辺りをけしかけて米沢で流行らせるか。助右衛門はこういう話に乗る気はなさそうじゃからな」
マリア「あと松平秀康様に見せたら絶対乗り気になると思いますよ」
けいじ「逆に勧めたくないのが最上義光と伊達政宗。あいつら景勝殿宛に芋煮の味付けについて文句言うて来よってな。書状までしたためる事かと」
マリア「伊達と最上で争わせておきましょうよ。最上もお家騒動でそれどころじゃないっぽいし」
けいじ「政宗は料理の事になると譲りよらんからな…」
マリア「しかし旦那どーすんです、大使館勤めの後。加賀に帰ってくれって話もあるんでしょ?」
けいじ「酒は良いのだがのぅ、加賀藩の連中は恨み深いのが多いんじゃよ」
マリア「ああ…旦那は加賀忍軍とかに散々赤恥かかせてたな…」
けいじ「しかし決めぬと秀康殿がな、ほれ」
マリア「ああ、あの人は深情けするから」
けいじ「という訳で、落ち着いたらまた逐電逃走しても良いか」
マリア「大使館の体制が落ち着いたら別に構いませんけど、多分逃げられませんよ」
けいじ「松風もわしも京で暴れておった時分じゃ、そうそう遅れは」(肩を掴まれる)
おまつ「加賀前田家も人手不足でございまして。しかもわたくしも若返り、利家殿はとっくに墓の下。身は空いておりますが」
ときこ「慶郎は渡しませんよ」
おまつ「伽姫様…この時代の日本は嫁を複数持てますの」
ときこ「えええええええ」
おまつ「ちじょの体というものも便利でございますわね。普通なら慶次郎様を足止めなど叶うものではございませんが」
かなこ「ちなみにおまつさまも富田流小太刀の免状持ち、ついでに薙刀を所有しておられます」
おまつ「加奈。そなたも昔は慶次郎様に恋慕してございましたね。若返りをお願いしておきましょう」
かなこ「兄はもはや私の売れ先を諦めておりますので、好き放題させて頂けますね」
マリア「ああ、こりゃ今度は逃げられねぇな」
けいじ「頼むまりや殿!国抜けを手引き願い申す!」
マリア「結納の引き出物選んどきます」
ジーナ「まぁ、モテる男はモテる男で辛いよな。慶次郎さんってこの時代でもかなりリア充やったから…」
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