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てるちゃん奮戦記 -Hôtel de Atlantide- 3

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いきなりのマリアリーゼのばくだん発言に皆が驚く中。
「皆、驚くまでもあるまい。城のすぐ前を埋め立てて土地を広げ、品川湊しながわみなと横濱よこはまからの海運の荷を陸揚げして江戸に持ち込む道を作る、この話は既にしておった事じゃ。元来の江戸城普請ぶしんに代わり、諸侯に頼むべきは街道普請。もっとも、はがねの道の件は秀忠以外には初耳であろう。先皇様…その辺りをお話し願いますれば」
「ええ。ま、千言万言費やすより現物を見て頂いた方がよいでしょう。はい」マリアリーゼが聖環を操作してどうがを映します。
(JRカーゴと西日本に話をしまして、比丘尼国に持ち込む予定の機関車を試験させてもらったんですよ。とりあえず山陽本線の瀬野~八本松で1,300トン牽引時の映像です)
「で、これが従来、安芸の八本松界隈で走ってるものです」ももたろうの絵が描かれた青いきかん車に牽かれた、何両も何両も同じようなものを積んだこんてな列車が山を登っています。で、列車の一番後ろにも、赤とオレンジ色のきかん車が。
「ここは坂が厳しいのでこの区間だけ、後押し役を繋いでいます。で、同じ貨物列車…荷運びの車の列を比丘尼国に納入予定の試作品で牽かせた場合が、これ」
「先頭のきかん車だけで上がっておりますね」凸型のべにがら色と灰色のきかん車…お世辞にも流麗とは言えない無骨なものが先頭についただけで、ぐいぐいとこんてな列車を引き上げていきます。
「さっきの後押しが必要だった方が馬4.800頭分。関ヶ原を登る三十分限定で馬5,000頭分の馬力を出せます。で、今見てる方が一時間定格で馬5,700頭。三十分定格で6,200頭です。速度は…平坦ならそれぞれ一刻当たり27.5里。赤い凸型は時速三十里1 2 0 き ろになりますね。東京駅…この城の先に出来る停車場から、上方までは日が出て中天に昇る六刻少々で着くことになります」
「上方まででもその日どころか半日か…これは何もかもが変わってしまいますな…」
「運べるもののや形が限られるとは思うが、それにしても仰天じゃ…」
「先皇様。これを荷曳きに使うのは積まれた箱からして想像が付き申す。然してどれほどの量が運べますのか」ひでやす様が眼光鋭く申されます。
「年貢米で説明させて頂きますとね、んー、俵詰めした場合のがありますから一概には言えませんが、仮に生米のままなら…1,300トン牽引だって言ってたな、りええ…米一石がわたしらの単位でいう150キログラム、0.15トンとして、列車というのですが、これ一本でだいたい8,600石ですね、運べる量」
「千石運びの弁才船べざいせんすら比べ物にならぬ…先皇様、これが敦賀から上方、ひいては江戸に繋がれば…」
「運ぶ荷は年貢米に留まらぬでしょうぞ兄上。更に先皇様、これ…人も運べるのでは?」
「秀忠さんナイス着想。はいっ」悪のりしたマリアリーゼ、次に何やら青いきゃくしゃ…人を乗せるくるまを何両も牽いた映像を見せております。
(旧国鉄時代の軽量客車を元にしたものらしいんです。で、エジプトに輸出していた仕様のオプションに存在した、ハンガリーのガンツ社って会社の作った軽量台車を履かせた代物だって言ってましたね。りええ父社に図面が残ってたみたいで、ローカル線でも線路を壊しにくい軽さと高速性能が欲しいからと言ったら、こんなの作られたみたいでして)
(何やらネジの原料をたくさん運びそうなすがたですわね…)
(ええ、何も知らぬ若者を大量に監獄国に…って違いますよ!)
「なるほど…これで人も運ぶと…」もう、いえやす様以外のえど時代の皆様全員が興奮しています。意識を覗いてみましたが、やはり治世に関わった経験のある方ほど、このれっしゃというの価値に気付かれるのがお早い様子。
(これ、タヌキさんに見せるの二回目ですけど、最初に見せた時は…そりゃもう質問攻めでしたからね。これで軍を運んだ例があるのかとか、運賃はいくらくらい取ってるのかとか。新幹線とリニアの映像見せたらもう悶絶しそうなくらい興奮してましたよ。特に新幹線は、この城の目と鼻の先の駅から出るって東京駅見せて教えましたから)とマリアリーゼ。りにあも凄いですが、えど城のすぐ側からおおさかまで二時間半ですからねぇ。そりゃ、日帰りでお仕事なり娯楽なりに行ける価値、利に聡い方ほどすぐ気付きますでしょう。

「しかし領民の移動を認める事にもなりかねませぬ。人を運ぶ利点はあまたあれど、住みやすき地に勝手に移られても国主は困り果てるのでは。のう、直江殿」
「はっは。しかし秀康殿、考えてもみられよ。仮に我が米沢の如く、冬場には雪で身動きが取れずとも、江戸の普請やら何やらで働き口があれば如何なさる。出稼ぎした者の通行手形は春までの刻限にすれば良いでしょう」
「なるほど!刻限を定めて出稼ぎを認めるか!これは一本取られ申した。流石は天下の直江様じゃ!」
「幕政への妨げとなる事はあまた考えられまするが、このはがねの道とやらが出来れば利もまた数多あまた。父上のお考えは如何に」
「秀忠…按針に聞いたが、世界の発明や書を集めしイスパニアやはおろか、欧州の地でもいまだこをれを思い付きし者なし、であると申しよった」
「つまり、この世で初めて、このようなものが我が日の本に…」
「わしらが紅毛人南蛮人に対し先見の明を持てるまたとなき機会じゃ。更には朝廷の後押しもあるとあれば、みち普請を進めて支障はなかろう」
「島津が良からぬ事を考えるやも」
「その為の比丘尼国朝廷のあと押しじゃ。如何に鬼島津と申せど、まことの鬼の鎮護には敵うまいよ」
「逆に島津は大喜びしよるやも知れませぬ。上方まで六刻とすれば筑前までは半日、薩摩に至っても一日かからずとなりますれば、年貢はおろか諸産物の往来たるや速さも量も船の比にあらず」
「更には文や銭金じゃ。先皇様…手紙をこれで運ぶ事はしておられますので?」
「ええ、今は別の手段になってますけど、これが出来た当時は郵便車というのがありましてね。国によっては両替処がない町もありましたので、文を受け付ける以外にも金を預かりの出し入れを行う事もしていましたね」おーすとらりあにある保存車両とやらをマリアリーゼが見せています。本当に銀行のようなくるまをつないでいたのですね。あの流刑地ならばこんなものも必要だったのでしょう。
「現金輸送車は…これか、マニ30とか言ってたな…」
「…マリアリーゼ、これはわたくしも初見ですが」
「ああ、これ…トラックに取って代わるまでは機密扱いだったんです。あたしも理恵に教えられるまでこんなもん知りませんでしたから」窓のほとんどない変なくるまの画像を見せられておりますが、えどの皆様の食いつきの着眼点は少し違いました。
「銭を運ぶために面妖な作りになっておりますのは分かり申す。ですが、小判を運ぶにはいささか華奢な気も…」と、ひでただ様が申されます。
「あ、この車両が主に運んでたの、紙幣なんですよ。紙の銭」
「え」
「しょ、少々待たれよ…紙で銭ですと?」
「あの…破れたり濡れたりは大丈夫なんでしょうか…」
「ものは如何な代物で」
「えー、そこに目が行きますかっ。しゃーないなー。とりあえず渋沢栄一…っと。これ四枚で大体一両小判一枚分ですね。一般的な勤め人の禄、1ヶ月分でこの一万円札っての二十枚から二十五枚と思ってください」
「え」
「と申しますと…禄を貰うに札差し無用と?」
「あー…米で給料貰ってたなこの時代…ええ、信用経済制度って言いまして、米や金や銀の相場に左右されにくい銭勘定の世の中になってるんですよ、これが流通してた時代。で、重くて嵩張る金やお米を使わずにこれを何枚も用意して取引。更に、うちらは財布の代わりにこれ使ってますから」と、聖環の電子おさいふ機能管理画面を見せる娘。
「先皇様…申し上げにくい事なのですが…そこまで行きますと我らの理解を超え申す…紙の銭でとりあえず留めてくだされ!」悲痛な顔でひでただ様が申されます。
「秀忠…お主、言いにくいがおなご遊びに興味がないじゃろう…先皇様のところ、国そのものの生業の一つが遊女遊びじゃ。その際に遊女に渡す銭金は賽銭名目と聞くが、掏摸すりや詐欺や盗っ人を防ぐためにその腕輪に覚えさせた預け金で支払いをすると教えられておる。即ち、その腕輪が米の差し札の代わりの道理よ。わしの如き老体でもこれくらいはわかるぞ」苦笑いしながらたぬき様が申されますが、聖院に上がられた事、ございましたかしら。
「いや、南洋まで行くには駿府からも大坂からも遠うございましたし、伊勢や熱田もありましたからな、ただ、こちらでは銀払いでしたので」姉の方のお客様でしたのですね、これは失礼を。
「監獄国の国主がこれを欲しがっておっての。ほれ、あそこは流刑同然の罪人を働かせておろう。この腕輪で飯を食う銭を支払うとか、逃げても居場所がわかるとか色々できるじゃろ?」姉が自分用の聖環を見せております。
「痴女皇国では自分の部屋の出入りはおろか、この城にもある番所や番小屋を通る時や扉の開け閉めにもこれを使うておる。時も分かるし文を送るどころか…話ができるぞ」…なんであたくしの聖環にでんわをかけるのですか。
(一番ぶなんなのはてるこ相手やからな!)はいはい。
(あー…カルチャーギャップ炸裂させてしまいよったんかい…マリ公…うちらが聖院世界に来た時の記憶あったら、予備知識なしにこっちの情報渡したら悶絶されて当たり前なん気づくやろ…あ、皆さま申し遅れました。マリアリーゼとマリアヴェッラの母親で、今はあの黒い鳥の中でお留守番しております高木ジーナと申します。痴女皇国では皇帝と上皇の母親という事で聖母認定食らっております上に、皇帝付きの女官管理の仕事させられてますけど、もともとの世界の仕事はさむらいみたいなもので、軍人です。あと実家が雲助や飛脚や大八車曳きみたいなことしてました)
(おやおや、聖母様がこちらにお越しになられないのは何故かと思いましたが)
(スケアクロウほったらかしに出来ませんからね。あと豊臣秀頼様、後にお目にかかりました際に驚かれないよう申し上げておきますが、あたくしの外観はマリアヴェッラと似た南蛮人の姿です。ですが、日の本の人間扱いされておりまして、ついでに上方おおさかの生まれでございます)
(確か聖母様が日の本言葉を使われますために痴女の国も日の本言葉で皆お話しとか…)
(ほほほほほ、ですので上方なまりが出るかも知れませんがご容赦を。みんなあたしの頭の中見て言葉覚えてますからねー)
「幕府右府右大将に任じられております徳川秀忠と申します。しかし…聖母様と申されますか、何故我らにかかる施しをと思いまする。我が父君を差し置きましてお尋ねさせて頂くは恐縮至極ではございますが、差し支えなくばお教え賜りたく」
(あー、簡単です。今回の比丘尼国全体への支援はそちらの朝廷…もっと言うとおかみ様からの依頼です。で、私どもが加担する理由は3つ。一つはお貸し出来る知恵を持つ者が我が国には複数おります。そして二つ目は我が国の進めている計画の中に比丘尼国の発展が含まれます。そして最後。比丘尼国朝廷大神宮開祖様…秀忠様の目の前におられますよね。そのおかみ様と、痴女皇国の元になりました聖院開祖の初代金衣女聖様、これまた秀忠様の御前におられる方とは姉妹の関係です。これでご理解頂けますか)
「秀忠。そなたに秀康が助力してくれるようなものじゃ。おかみ様から伺ってはおるが、この方々の国は比丘尼国より人を受け入れる一方、大江山に人を貸し出しておると聞く。あと、九鬼と村上の水軍に関わる方の貸し借りとかもな」
「いえやす…秀忠は村上や九鬼の関わる海運水運の利害を心配しておるようじゃが、既に話はついておる。まりや、申してたもれ」あー、これはたぬき様が息子さんをダシにしてわざと話を持って行って頂くようおかみ様にお願いしていますね。同時にひでただ様へのさりげないお説教です。こういう話には利を得る者が出る一方、損する者が現れる事に目を向けよと。
「えーとですね、実はわたしの母の国、つまり未来の日本国の荷運びは全て鉄の道に切り替えておりません。理由は運び賃と早さ手軽さです。まず早さで申しますと、今江戸城前の海にいて母が中でお留守番してる黒い鳥。あれも米三百石は運べて速度は松前から薩摩まで三刻です。ただ、運び賃は一番高い上に、どこにでも荷を降ろせません」
「ふむふむ。即ち…あの鉄の箱を連ねる以外に荷役の術があると申されますか」
「あれ、ぶりてん言葉でこんてなという箱でして、こういう事もできます」マリアリーゼが見せたのは、てんのうじの元・聖母様のお宅のかいしゃのぶつりゅうセンターの映像ですね。あ、クレーゼがいます。
「これは…この荷車は馬いらずですか」
「うちの母親の仕事先がまさにこれだったのですよ。今はもっと大きな商家に任せておりますが」
「秀忠。つまりこのはがねばこ、船にも荷車にも積めるという事であろう。持ち上げられていた光景もございましたな」
「家康様、ご明察。船積みするとこうなります」続いてはあーくろいやる型の船室に整然と積まれたこんてなの列が。
そしてりふとえれべーたーで船外に出て行きますと…これは聖院港ですね。現状では取引の数は多くありませんが、石油化学製品や機械類を密かに輸入する一方、わくせい開拓途上にあるえぬびーへの食料輸出も行っているとは聞いております。
ただ、ひでただ様の目が行くのは…ええ、あーくろいやるの大きさです。
聖母様の世界でも水に浮かべる船としては最大級の大きさだそうですが、もはや小山。
(比丘尼国では舞鶴沖と天橋立沖にお邪魔していますよ。それから監獄国のたはら港、比丘尼国ではこの船が今のところ横付け出来る唯一の港です。今度堺と横浜をこうして頂く予定ですが)
ただ…これまた皆様の度肝を抜いたようですわよ、聖母様…。
(まー、この変態空母を見た人間全員、なんじゃこれになりますからね。マリ公…空母運用中の絵は絶対見せるな…話がこじれるで…)
(もう遅い。気密甲板02前方A区画が写った。エクスカリバーAAF-200一個飛行隊駐機中じゃん…)
(み・な・か・っ・た・こ・と・に・し・ろ)
「秀忠様。見なかった事に致しましょう。あの鳥まがいが何か、それがしには何となく察しが付き申すが、聞かぬが花でございましょう」
「あの色からしてだいたい想像はつき申す。が、今聞く話でもあるまい」
「明らかに荷運びに使う形ではござらぬが、我ら相手に使うものであればとっくに使われておろう。内府様、如何」
「それはそうじゃ。何もからくりを持ち出さずとも、大嶽様や茨木様が来れば我ら相手には充分過ぎるわ」
(うう、皆様のお心遣いが身に染みますぅ…地球大気圏環境下で試験飛行したいけど、流石に地球で飛ばすと怒られるからと痴女皇国に持ち込みされたからなぁ…空軍関係者に泣いて頼まれたし)
(ちなみにこの船や、さっき映った何かは母の指揮下にあります。この船はぶりてんの属国の所属ですが、母も私もそこの国の人別帳に戸籍が載っておりまして…更に母、そこの軍隊の将軍位の一つを押し付けられております…)
(ええ加減役職外して欲しいんですけどね!家康公ならお分かりでしょ!隠居させて欲しいのですよあたくしは!)
「聖母様。多分無理難題になりますかと。お話では一度は崩御なされたものの、無理矢理生き返らされたと伺うております。死人が蘇ることどもに付きましてはともかくですな、そこまでされて現生に引き戻されたと推察申し上げるが」
(ええ。致し方なく身体も作られ椅子も与えられ、挙句引き継ぎも立ち遅れ…ベラ子。あたしが何言いたいか…わかるよなお前)
(母様!今ここで振る話ですか!)
「秀忠。わしも駿府で鯉にでも餌をやって過ごしたいのじゃが。無理か」
「父上…またご無理無体を…」
「父上。秀忠が困り果てる話を言うてやりますな。確かに早く家督を譲りたいお気持ちは察せど、いくさ同様に好機がございます。隠居の機を伺い攻めるが弓取りの技かと」
「秀忠…秀康の返し、よう学ぶが良い。そして何故に将軍位と家督をそちに譲るかもじゃ」
(ひでやす様が将軍に相応しいという声も方々にあるようで…)
(で、秀康様は隠居を切り出すのは今してやるな、せめて江戸開発支援の言質をうちらから取ってからにしろと暗に言っているわけで…徳川家康って…うちのクソジジイと会わせたらさぞ話が合うだろうと思いますよ、ええ!)
(はっはっはっマリ公は終生ワーズワース番や、諦めれっ)
(やかましい!ジジイの酒に付き合わせやがって!あんなもんあたしに振るなよ!次からベラ子に行かせろよ!)
(何か…痴女のお国の方々も我らとそう違わぬ気が致しますが)
(そりゃそうですよ。生まれた時から人外って、この中ではおかみ様と初代様だけですよ、おくむら様…あたしなんか姉に無理矢理皇帝位を押し付けられたようなものでして、ひでただ様には同情の思いに満ちた視線を送るしかないのですが)
(まりあべら陛下…お互いに無理難題を申す身内には苦労させられますな!)
(更に皆さんに申し上げておきますと、うちの初代様とおかみ様は割と無理難題の塊です。加えておかみ様がわがままでないと思う人は挙手願います!)
(なぜ全員だまるのや!)
(マリアリーゼ!あたくしまで延焼させる話ですか!)
(…秀康様、秀忠様…みんなこんなんですけど仕事はしますからね、一応)
(しないばあいあたくしがおか、いえ言い聞かせておりますから!)

そんなこんなのやり取りの後、すけあくろうの機内に戻りますと。
「んもー、話するならはよ決めて下さいよー」そうじゅう席のテーブルに置かれたごはんの箱と飲み物のコップが何かを語っている状態の聖母様がいやみを。
「とりあえずお客様は…えーと、秀忠さんに秀康さんに秀頼さんに直江さんに奥村さんにおまつさんと。マリ公ー席割り振り頼むわー。家康さん来ーへんのか…」
「ええ、それがしに押し付けられまして…前田慶次郎一人説き伏せられぬようではとても征夷大将軍の委任願をしたためる事は叶わぬと言われましては、行かぬ訳に参らずでございます。兄上共々厄介になり申すが何卒宜しくお願い致しまする」
「秀忠…父上がそなたにわしを付けた理由もわかろう。芳春院様や直江殿や奥村殿は言うに及ばず、わしも前田様とは見知った仲じゃ。あの方と話がし易い面々を揃えて下さっておる。しかし…話の口火を切るのは右大将秀忠殿、そなたじゃ。父君の親書を携え幕府のかおとして相対なされよ、という事であるぞ」
(なんか秀康さんが、ベラ子の世話を焼くマリ公にオーバーラップして仕方あらへんねんけど)
「ねーさんは必要以上にあたしに世話を焼き過ぎるのですっ」
「よしベラ子。ちょっと今からあたしとコパイ席代わるか。これから米沢までスケアクロウ飛ばしてくれ」
「汚いねーさん汚いっ!」
「んで秀頼さんは何でまたこちらに」
「厄介払いに思えまするが…とりあえず秀忠様を補佐して欲しいと申されましてな」
「あの父はその辺の理由を伏せよりますからな…左府ひでより殿、これまた親父殿の配慮でございますよ。秀忠と腹を割って話せる仲を結ぶ機会と考えておるかと存じます。更に徳川家も下には置けぬ加賀前田の方々がおられる。人の繋がりを作るには好機でございますぞ」
「なるほど納得。では席順は」

ジーナ マリア
ベラ子 てるこ
おかみ アルト
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秀忠・秀頼 兼続・秀康
まつ・奥村

「ダリアは飛加藤の旦那と現地の打ち合わせ頼むわ。一夢庵からなるべく近い場所で空き地探して誘導希望。骨さんは慶次郎さん捕まえて、おまつさまの脅迫状を渡して読ませてくださいな」
「承知つかまつりました。おまつさまの仕事を受けるのも大坂城の時以来でございますな」
「ああ、慶次郎が内府様の面前で禿あたまになったでございますか…」
「亭主と慶次郎様の仲は散々ではございましたが、前田家はあの方に借りが色々ございますから。今回の秀忠様の件も借りを返しに参るようなものですわ」
「んじゃ行ってきますよ。誘導はマーカービーコンで構いませんね。マリアさまー、転送お願いしまっす」と、うちの国の忍者役と日本きってのしのびのコンビが転送でよねざわに先行いたします。
「では…うん、腹帯が少しきついとは思いますけど少しだけご辛抱。ヒトゴーマルマル…夕刻より少し早いくらいに米沢に着きますから」聖母様がお客様方のしーとべるとを確認していきます。
「かーさん、現地天候晴れ、ヒトヨンマルマル時点の気温十八度。風速1m/毎秒平均。SIGMET悪天候情報ARMAD空域気象悪化アラートなし。全行程VFR有視界飛行で飛んで行けんじゃね?」
「了解。とりあえず関宿S Y Eから日光通ってY11準拠の仮想エンルートで飛んでいくわ。PVIS視程距離RVR滑走路視認距離CIG雲底高度VMC有視界気象状態規定値内確認。ウェイポイントデータ入力値確認。SYE、NIKKO 、YAITA、IBELU、YONEXっと。おかみ様ー。天狗の大将に話してくれてますー?航路と高度からしたら縄張り荒らす事あらへんと思いますけどー」
「じんのにたのんどる。しんぱいすな」
「へいへい。ほな行くかっマリ公。モードV/L、高度2mっと…超信地旋回、機首方向ヒトゴーマル確認。主翼モード、シングルトランスファ。フライトモード・トランジション」
「主翼可変完了。マスターコーションライト・グリーン。ベラ子ー。主機とICD/Gコーションライトリチェックー。左右外側主翼放熱系統接続確認なー。FE席のマスターモニタに出てっだろ?」
「はいはいっ、放熱系異常なし。主機電圧・電流出力正常。ICD/G、BLCグリーン、ハイドロ異常なし」
「えーみなさまお待たせいたしました。本機はまもなく離陸、いったん東京湾を南下いたします。その後は進路を反転して関宿せきやどから那須上空を経て米沢に参ります。飛行時間三十分…半刻を予定しております。機内は多少揺れる場合がございますのでご注意ください。進路情報や機首からの眺めはお席前の画面に出しておりますので、窓がない代わりにそれで状況を把握願います。では…マリ公、アイハブ」
そして聖母様の相変わらずの両手両足動員作業を経て、いつもの身体にかかる力がほとんど感じられない加速と上昇がはじまります。
「浦賀水道沖で反転反航、サンサンマル向けて600フィートで江戸城上空飛んでから関宿向かうで」
「主翼モードが単翼だろ、大丈夫かよかーさん」
「まーかせ。G型からはFL100未満でCAS150ノット未満ならICDで揚力自動補正しながらな、超小回り君が八丈小島のキョンをキメるような意味不明な旋回半径で回れるわいっ。…ただベラ子、自分でやる時は実バンク角に注意しーや。操縦桿左手側についとるICDアシストトリガー引きながら旋回したら、その速度域と高度と主翼モードでいける最大許容範囲超えへんように機体姿勢保ちながら機動制御入れてくれるから。ただ、マニューバスイッチがオートに入ったままでないと効かんから注意なっ」
「何やら前の席の言葉がまるで理解できませぬ…」
「あんしんせぇおまつ、わしもかいもくわからんっ」
「ベラ子以外はわからんでええですっ。この時代の方に民間航空機航行用語説明すんのも一苦労ですからっ」
「八丈島のキョンは航空用語なのかよっ!」
「お姉様は何回かお乗りでしょうに…要はつばさをいっぱい伸ばしておりましても、ふじさんより低い高さでしんかんせんより遅い場合は小回りを効かせる技が使える、こうでございますか」
「初代様…これの操縦、習いませんか?」
「いやでございます。かみさま扱いされておりましてもめんどくさいものは面倒なのですっ」
「であればあたしも操縦試験受験免除でっ!それか試験官はかー様でしょ? ごにょごにょで何とかなりませんか?」
「アホかベラ子っ、ちゃんとNBから補助試験官が来てうちとその人の採点結果突き合わせられるわっ。きっちり身内ひいきもズルも出来んようにされとるんじゃっ。マリアはきちんと全教程クリアして認証取っとるからな?」
「それ以前にマリアヴェッラは皇帝でしょうに!我が国の帝位承認、これの操縦習得も条件に致しましょうか? 聖母様のみならずマリアリーゼも必死になって教えると思いますよ?」
「た、確かに…あたしが帝位から逃げられないように姉があらゆる手を尽くしますよね…」
「たりめーだ。ぜってー退位は金輪際許さねー。せめてスザンヌがでかくなってから言い出しやがれっ」
「痴女のお国の皇帝になるのはそんなに嫌な話なのでしょうか…」
「初代様が帝位につかない時点で全てお察しください。えらい人ほどこき使われますのをあたくしマリアヴェッラ、この数年でよっく理解いたしました!」
「それはええが…あーお客様方、前の画面に指一本触れて見たい方に動かしますと江戸城が眺められます。お庭で将軍様が手を振ってはりますね。ちょっと低高度旋回したろ、BLCオン、フラップオート、ギアダウン、ギアライト、ON。ほれベラ子、最大バンク角範囲内できっちり納めながらこの旋回半径やろ」
「かーさんも大概無茶すんなぁ…こんな低高度低速旋回、連邦世界の皇居周辺でやったら関東運輸局に東京航空交通管制局に連邦宇宙軍極東司令部に…四箇所くらいから呼び出し食らうんじゃねぇの?」
「痴女皇国世界やから出来るんじゃっ。それにスケアクロウの実機試験時にも低高度旋回項目あったやろ。ガンシップ運用の時とか、高度はともかく、半径と速度は失速ギリギリのえげつない旋回が常態やからな…」
「ひぇええええ、窓から見ていたら絶対に足がすくんでおりましたな…」
「ひ、秀忠…怯懦な事を申すでないっ」
「直江様とそれがしはまだ中側ですからあまり傾きが分かりませぬが…前の窓は見ない方が良さそうですな…」
「すすす助右衛門っ、江戸のお城の天守に手を伸ばせば届くようで…」
「おおおまつ様、分かり申したからあまり引っ張られますな…」
「かーさん…だから飛行機初心者が多いのに無茶すんなって…あー、気分の悪くなられた方、とりあえずお席の前の物入れに袋が入っておりますからお使い下さい。厠は南蛮風ですのであまりお勧めしません。どうしてもお使いになりたい場合、今からトイレ使えますとご案内しますので、アルトリーゼに頼んで使用方法を習ってくださいっ」
「何であたくしがといれの使い方を…」
「アルト。この時代に水洗トイレって痴女皇国以外じゃ超珍しいんだよ!しかもスケアクロウのトイレは真空吸引プラス汚物燃焼トイレだからボタン押して吸って貰わないと詰まるだろうが!」
「しかもウォッシュレット機能ついとるんじゃ…とりあえず上昇しまーす。ギアアップ、フラップアップ、VNAV、LNAVオート位置復航。経由地SYE…画面で下の方を見て頂けるとわかるかも知れませんが、江戸川並びに利根川上空を飛行しまして、日光手前で進路を北方向に取らせて頂きます。秀忠さんのお席の画面を望遠光学装置に繋ぎますので…東照宮、だいぶ出来てますねぇ」
「おお、これは本当じゃ…華厳の滝は見えますかのぅ」
「ええ、あたしの視覚情報共有してみるか…男体山がこれで、磐梯山がこれかな」
「かーさん、磐梯はこの時代だと、まだ山が吹っ飛んでないから形が違うぞー」
「あーそうか。そうそう、北海道の駒ヶ岳と草津の浅間山と富士山、江戸時代に噴火するよな。おかみ様ー、あれ止めへんのですか?」
「ふじはまぐま言うんか、溶岩のふんかやからまだわかるねんけど、あさまとこまがたけは湯気のばくはつらしいやないか。あれはちょっとわしにはわからんぞ」
「まぁ、止められるもんなら止めたげまひょ。どれも結構ド派手に噴火しますからね。…お、那須の殺生石も見えるな…」
「しかし、あっという間ですなぁ…米沢から江戸まで急いでも六泊七日なのですよ」
「さっきお見せした鉄道ですと…初期だと上野寛永寺の辺りから山形まで八時間くらいかな。で、特別急行列車ってのが出来た時点で四時間半。さらに今は新幹線っていうのが出来ておりまして、江戸城の前まで二刻半ですね」
「参勤交代が日帰りで出来ますな」
「ちなみに秀頼様の方も、今は弾丸のような列車が出来ておりまして品川湊から上方まで一刻半。完全に日帰り圏内です。ついでに金沢にも早いのが出来てまして、上方まで一刻半、江戸まで二刻半です」
「先皇様…その時代には参勤交代というのはそもそもございますのでしょうか」
「えーとですね秀忠さん、詳細は省きますけど、廃藩置県はいはんちけんってことをやりまして、最初は中央政府から役人を送るか、国主様だった人を知事として任命しました。つまり国の役人の扱いですね。そして参勤交代の代わりに必要があれば政府に赴いて請願や陳情、打ち合わせをするようになります。まぁ手紙や、さっき初代様におかみ様からかけていた電話という仕掛けが出来て行かなくとも話が出来るようになります。そして藩…県ごとに選挙という領民が入れた票の数で領主を決める政治をするように変わります。で、県は江戸に事務所を置いて何がしかの連絡ごとや都での活動をするようになります。なんせ下手したら日帰りで帰ってこれるようになってしまいますからね」
「藩を廃止するあたりに先皇様が言いにくそうにしておられましたな。幕府の興亡に関わる出来事がその辺りにあると見ましたが」
「有り体に言いますと、あたしらの方ではかつて、欧米諸国が徳川幕府の政治下にある日本を侵略しようとしました。そして幕府が外国の圧力にきちんと対応できない中で、天皇陛下を担ぎ上げる勢力が新しい政府をという事で幕府と戦争を始めましたが、最終的には天皇陛下を持ち上げる勢力の代表と将軍様が話し合いをして政権を禅譲、江戸城を天皇家に譲り渡して将軍様は隠居されました。切腹とかはありませんでしたよ」
「ああ…それで、こちらでは江戸を徳川家が刻限を区切って借りる形になされたのですか。納得が行き申した」
「そそ。幕府の政治が期間限定なら、不満のある連中も我慢してくれるところは我慢するだろう、その時の将軍様や幕府の政治がうまくいってるなら貸す契約継続という事にさせて頂くのがいいんじゃないかとおかみ様にお話をさせて頂きまして」
「確かに、無用の流血やいさかいを避けるならば分かり申しますが…」
「ま、正直なところ私やおかみ様、その時も生きてると思いますのでね。いくさにはならないように計らわせて頂きますからご心配なく」
「ひでただ、ひでやす。比丘尼国のまつりごとに何故まりやが口を挟むかと思うかも知れんが、わしはわしでまりやや聖院…痴女皇国の元になった神殿なんじゃが、そこの者を入れておるか。それはこのすけあくろうというでもわかると思うがの、こやつらに加わってもらう方が色々はかどるからや。それに今もわしの向こうにおる妹が開いたのが聖院じゃ。つまり比丘尼国朝廷と聖院…痴女皇国は同じものと考えてもろうてもええやろ」
「おかみ様のご説明に付け加えさせて頂きますと、わたしら南蛮も龍皇国も天竺も殴りに行ってます。むしろ痴女皇国全体の動きでは日本以外に影響を与えてる仕事の方が多いんですよ。南蛮の本拠地には欧州地域本部というでかい拠点作ってますから。で、そこの長がこれ」と、視界共有でマイレーネの姿を皆に見せる聖母様。
「何ですかこの眼鏡と出立ちが全く不釣り合いなお方は…」
「何故じゃ…ただの老婆のようで全く勝てる気がせぬ…」
「この方は一体どなたでございますか。人であって人にあらずのような」
「確かに只者ではない大兵だいひょうなお体ですな…」
「初代様の娘様のお一人、マイレーネ様です。旧・聖院女官長として長年にわたり聖娼神殿…神社の女官教育を一手に引き受けておられました」ついでに、我らが痴女宮の現在の姿もお見せしておきましょうか。
「これがお城というか、お社でございますか…」
「何かこう山一つというか、大坂城を自慢しておった父上にこれを見せたらどういう顔をしよるか、見せてやりたい気も致しまする」
「うむ。確かに按針殿が、故郷にはこうした石造の城やら館ばかりだと申しておったが…これは大きさが我らの想像を遥かに超えておりますな。このに何人詰めておられるので?」
「マリ公ー、修学寮と女官寮と罪人寮で今何人収容してたっけー」
「えーと、各寮定員二千名でとりあえず設定。これかなり余裕を与えてるんで、部屋の定員をもう少し見直したら一万人は収容可能ー」
「上皇様、皇帝様…ここを見せて頂くわけには参りませぬか」
「ひでただ。お前次第やぞ。ぶりてんの船が来るようになったら、水やらめしの補給を必ず痴女皇国の港でしてからに戻りよるわ。つまり、船便ができるいういうことや。婢女、よこはめからお前らのみなとまで、例のおそろしい速い船でためしてたやろ。あれでどれくらいかかるねん」
「えーっとね、高速海流と高速気流を使うなら二泊三日ですな。途中の転送入れたらそれこそ一日ですけど、とりあえずは電気や精気の消費を抑えたいんで二泊三日を予定。ま、聖母教会を横浜に開く許可出してくれたら一日どころか一瞬で行けますけどな」
(大江山にがすでにあるのは内緒で!内緒で!)
(わかっとるわ。あれはじじつじょう、わしら専用みたいなもんやからな)
「あとですねぇ、秀忠様でなくても、お客様として来て頂くならうちの国は普通に入国を受け付けますよ。ただ、聖院としての接待がご希望な場合は、現金を持って来てもらう必要はありますけどね。ほほほ」
「公使館を開いた後で連絡を頂きましたら、公式訪問としてその辺りはお勉強させて頂きます。国賓として王侯貴族の方々を処遇する設備も整えておりますので。あと、ぶりてんといすぱにあとさばさんど国…そしてイタリアは大使館と申しまして、各国の外交官を常駐させております館を設けております。私どもからは先に姉や母が見せました叔母…あの拳の王様が欧州に居を定めて外交を仕切っておりますが」
「そしておまつさま以外の皆様に。あたしも母も妹も、お布施次第で床をご一緒可能です。なんせうちの国のこの宮殿、似た建物が四つ並んでおりますけど、左から二つ目がほぼ丸ごと色里とお考えください。女官全員が芸妓太夫の類じゃないんですけど、常時千人は色里仕事をしてるとお考えくださいな」
「け、桁が違いすぎまする…」
「いや、吉原を御免色里にしたらこのくらいは集まると思いますよ」

その時です。
ぴぴっと前の方で音が。
「へいへいこちらG11、ダリア、どないした。送れ」
『こちらダリア。骨さんがおまつ様の書状を慶次郎さんに渡して読ませたところ、慶次郎さん逃亡。あのおっきなお馬さんが珍しく暴れて慶次郎さんを乗せるのを拒否したために徒歩で逃げてるようです。現在、山上道及様や水原親憲様など上杉家臣に、骨様や捨丸様が捜索中。あたしもこの後探しに行きますからおっつけ見つかるとは思いますが、とりあえず到着を早められるなら早めて頂いた方がありがたいです。ビーコンマーカーは城外河原に設置済み、送れ』
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