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てるちゃん奮戦記 -Hôtel de Atlantide- 2

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さて、すけあくろうの操縦室。
何でも改装のためにしばらく本国に送り返されていたと伺いましたが、その際に結構大きないじり変えがあったとか。
聖母様に聞いてみましょう。
「えーとね、推進装置まわりがMIDI06準拠になって恒星間航宙能力どころか多重次元間・時空間移動能力すら備えたいうのはこの際あんまし関係ないとして、微妙に機能追加に関係ある話があります」
どんなんでしょう。
「初代様が荷物を置かれたバゲージラック。前はこんなもんありませんでした。そしてもっとでかい変更がありまして、三列分のオペレーターシート…つまり操縦やら航空機関士やら航法やら兵装操作とか偵察作業で使う席の更に後ろに左右各2席が2列で合計8席分の客席がつきました。と言っても国内線エコノミー席レベルの簡素なもんですけどね。そしてトイレや簡易ギャレーが付いたせいで1m未満ですけど機首が伸びたんかな。で、従来は貨物室にあったそういう設備を撤去してコクピットブロック側にスペースを回した結果、機首側の乗降口の位置が2mくらい後ろになりますた」
なんでまたそんな事を…と聞いてみましょう。
「ご存知でしょーに、んもー。これの運用時から前の方に乗りたいとか乗せて打ち合わせしながら飛ぶとかいう需要多数。で、バスの補助席よろしく通路に展開可能な折りたたみ椅子も使うと、最大10名のお客さんを操縦区画だけで運べるようになりました。なんせ後ろの貨物室区画、標準状態だと壁についた降下兵用のショボいジャンプシートが並んでるだけなんで…一応座席パレットを床に組み付けて行けば貸し切りバスレベルの座席が最大200席は並ぶのですがっ」
なるほど、お客様対応と…。
「そんな訳で気持ち機体全長が伸びた関係で操縦特性が多少というかかなり変わっております。ぶっちゃけ実質新造したに近いことやったそうで…うちの持ち出しはないのが救いですが」
結構変わるものなのですかね。
「トイレや簡易厨房など、重い部類に入る設備の位置が変更されてる関係で、機体の重心位置とか全部変わりますから。もともと静的安定性がぎりぎり負…仮に紙か木でスケアクロウの模型飛行機を作ったとして、中に詰めた重りの配置を実機と同じにしたら確実にすいーっと飛ばずに、予想より早い位置で落ちる挙動を示しますね。だから実機は始終、機体側で安定飛行するように細かく舵や推進力や反重力効果を調整してます。ま、飛ばしてる側は基本的に普通の空力で飛んでる飛行機に近い操作してたら大丈夫なんで、一度浮かしてしもたら見た目ほど変態な印象はありませんね」
確かに…みな言っておりますね、へんたい飛行機だと。
「すんません。変態な使い方しましたから…」
たのちゃんは未だに根に持っていますね。あと理恵ちゃんも。
「だから反省してますから!」
と、聖母様をいじっている間にも、おがさわら諸島の近くまで来ておりますね。
「なんか昼前に来て欲しいと要望がありまして。この時代の比丘尼国て一日三食の習慣あったんかいなと」
「かーさんそれ元禄げんろく時代から。あと日本じゃ欧米より時計の普及が遅れたせいもあるけど、日没や日の出が基準だかんな」
「あー、聖環を普及させたい理由の一つでもあったな…時計」
「ロン毛さん教が時計を普及させた連邦世界とうちらは違うけどさ、機械工業普及の意味もあって金持ちは時計を家屋敷や要所に備えるの、こっちでもステータスだからな。領内の街の広場にからくり時計があるとか」
「なんか一時期の携帯公害とかスマートフォン公害みたいな話にならんやろな…うちらの時代ではメディアウォッチか、準拠デバイスの携帯は実質義務化されとるし基本通信費補助もあるが」
「たのきちが財務の時にある程度の話は詰めてる。要は納税証明にもなるから付けて動いてるイコール年貢を納めた奴扱いらしい。あと比丘尼国全体への聖環普及と金本位制度移行はよーいドンでやるみたいなんだよな。これ、あたしも意見したけど、貨幣制度普及ってさ、ある程度の電信電話事業や郵便制度に交通手段が整備された環境の方がやりやすいんだよ」
「つまり、聖環用の通信網整備工事の進捗次第か」
「んだんだ。その際に、納税や戸籍管理を行う地方官庁も整備すると。まず監獄国でテスト運用する方針は変えてないけどな」
「そもそもこの時代の戸籍管理ってどないしてたっけ」
「琉球はまだしも、比丘尼国全体だとサルひでよしの時点で人頭税は半分諦めてる。人別調査はやったけど、土木作業用の労働者調達数を見積らせるのがメインで、課税額調査は耕作地面積を見てるな。ほら、太閤検地たいこうけんちって習ったろ」
「むすめがれきしのじゅぎょうでいじめいかりゃく」
「全然略されてねぇよっ。で、キリシタンあぶり出しのために本格的な信仰宗教調査をやり出したのがタヌキ政権から。それが現代の国勢調査にも繋がる戸籍管理制度になるのは享保の改革…つまり旗本三男とくだしんのすけの時代だな。だから一般人の戸籍編入改廃は寺で事務処理してたんだよ」
「なんで寺…あ、宗教と葬式か」
「そそ…ベラ子も歴史選択してんならこの辺きちんと覚えとけよ…。比丘尼国開発事業にも関わる話だからな?」
「あねからながれだまがいきなりとんできますた。しゃざいとばいしょうを」
「お前は宮◯賢治の童話のネズミかっ。日本文学を選択した場合割と逃げられない作家なんだけど…ま、あたしはホモマッチョおじさんの方が読みやすくはあったな」
「イタリア文学…あまり多くないんですよねぇ」
「国民性を考えてみろ。自分の興味が湧く事なら、元無職のおじさんみたいに君主論の一冊もサクサク書くけど、だいたいああいう物書きのような辛気臭い仕事はイギリスフランスロシアドイツの仕事だなっ」
「そうですねっ辛気臭い事は他国に任せればよいのですっ」
(日本がエロ小説やエロ絵画や変態文学を残した話はするなよマリ公…鉄棒がぬらぬらした話はあかんぞ…)
(ああ、清少納言も禁句だ…)
(イタリアと似てるのに屁理屈満載の哲学書やら文豪系の長編小説多数の国はどうなるのでしょう)
(マリーには聞かせない方がいいな…)

そして、やいのやいのやりつつも、珍しい走り方ちんそうをする人が数多く生まれるという半島を横目に見ながらとうきょう湾上空に。
「なんか煙が見えますな」
「ああ、目印に狼煙を焚いてくれと頼んだんじゃ。なんせ城のまわりは大名屋敷がいくつか以外はまだ野原、見ての通り、しろのすぐ側まで海じゃからな」
「更に山がすぐそばに…あれが神田山だよ、かーさん。あの山を崩して東京湾を埋め立てたんだ。で、その削りまくった跡が神田の古書街からお茶の水の渓谷」
「なるほど。ところで後楽園のあたりをC弾頭のテリブルで破壊したい衝動に駆られるんやけど」
「まだドームどころか出来てもいないもんきゅうじょう壊してどうするんだよ…」
「しかしこの時代の江戸城、まだまだ小さめやな」
「連邦世界だとタヌキの代で江戸城の基本形はほぼ完成するはずなんだけど… あーそうか、あれ、諸大名に資金や資材を拠出させて拡張してるんだった…」
「そらそうや。おまえらの世界ならともかく、こっちやとばくふは国主に強う言われへんからな。ま、金の無心の話もあるやろからよしなにたのむで」
「何かこう、素直に応じたくないような…」
「あと…や。風魔ふうま小太郎こたろう庄司甚右衛門しょうじじんえもんが御免色里を開きたいとたぬきにたのんどるらしいが、もろにわしらとやる事がかぶるからのう」
「風魔小太郎いうたらあの箱根の忍者で、ギャラクティカ右の拳とかやるあれかいなマリ公」
「作者は同じだが話がちげーよ。つーか吉原どうすんですか。確かに全力で私らの商売敵じゃないですか」
「たぬきが上がりを欲しがるかやのう。有り体に言うて、えどを開く話に乗っかって遊女屋開こうと考えとるあほが結構おるようでなぁ」
「んなもん、おかみ様の許可さえあれば潰すのは訳ねーですよ。発症速度10倍の改造型トレポネーマウィルス撒くだけで済みますから。はっはっはっ」
「おいマリ公。うちらが梅毒流行らしてどないするんじゃ…」
「かーさん。聖院時代から事前感染検査はうちのウリの一つだろーがよ。治療もお布施に含むんだから客はうちに来るし、女子の治療は出家が前提だぜっ」
「ねーさんが鬼畜行為を考えている…」
「とりあえず降ろすよって、吉原対策はタヌキ交えて話しよ。…ギアモード・ボート、フロートダウン、モードトランジション、マリ公下面監視頼む。主翼モード・デュアルトランスファ」
「その昔のヘリみてーなVTOL時の操作系なんとかならねーのかよ…スケアクロウが難しいとか言われる理由の一つだとあたしゃ思うんだがっ」
「他に使える操作系があれば提案してやるが、生体インターフェイス抜きでやると、どうしてもこれになるぞ…ほいモードV/L、フラップフルダウン、BLCオート、コレクティブスティック、アクティブ」
(ねーさん…ヘリコプターを操縦した事がないとあれ絶対わかりませんよ…)
(待てベラ子。それを言い出すとあのババァがロシア製の二重反転ローター使った変態ヘリを探して与えかねねぇ…とりあえずVTOLモードに入れる前にスロットルレバー横のフライトモードセレクターレバー押してトランジションモードに入れてスロットルもBLCもオートにする。で、必要に応じて主翼モードを複葉に切り替える…今さっきやってただろ。そしてフライトモードをV/Lに切り替えて垂直離着陸モード選択。操縦桿もラダーペダルもヘリと同じ操作になるから押し引き踏みした方向に動く。コレクティブスティック…今おばはんが左手で握ってるレバーのグリップを回すと推進慣性力調整だ。で、レバーを引き上げたらヘリのメインローターのピッチが変わるのと同じで、ICD/Gの重力制御効果が重力源…つまり地面に対してどの程度効くか調節できっからな)
(あががががが余計にわがんなぐなるゔゔゔ)
(マリ公…ギアモードを水上か陸上で切り替えるのが抜けてる。あとベラ子は一回ヘリ乗せた方がええかもわからんぞ…これ、バンシーとかババヤガーで垂直離着陸するのとまた手順変わるからな…輸送機系のVTOL機の操作に話を絞るんやったら、基本的にスケアクロウで今あたしがやってるのと変わらんから一回覚えたら応用効くねんけど…)
(必要性はわかるけどさー、今時ヘリかよ…まぁ、かーさんの方が詳しいと思うから中古で出物があれば)
(つーか多分イタリアに問い合わせるのが早いぞ。アグスタがジェットレンジャー、ライセンス生産しとるからな。あと、ベラ子は水上機として降ろす場合と陸上機として降ろす場合のギアモードレバーの位置間違えんようにな。今、間違って着陸モードでギア降ろして着水させたら大惨事やからな!…一応、水面ちゃうんかとスケアクロウが認識した場合には警告はされるけどな…ほい着水、スロットル・アイドル。BLCアイドル。フラップアップ。おかみ様ー初代様ー、機体冷却が済むまであたしは出て行かれんので、マリ公とか連れてタヌキに挨拶したってもらえまへんかー)
(はいはい。お姉様、参りますわよ…)
…正直、聖母様のやってる事はわからなくはありません。知識共有がございますから、実のところはあたくしもすけあくろうの操作方法は何となく理解しております。…ですが、これ…何度も実際に自分で操作しないと絶対覚えられない部類ですね…本当に本当に両手両足総動員ですから。特にさきほどしておられた、真っ直ぐに地面におろす際の操作。
(自転車やオートバイと同じで、これだけは自分でやりませんと…ただ、知識や記憶共有があるのはかなり有利ですよ。未経験の女官に自転車乗せたらわかりますけど、バランスを取る動作自体はあらかじめ知り得てますね)ああ、あのままちゃりとかけったーましんケッタとかいう、監獄国で試作させているあれ…。痴女皇国でも日本から持ち込まれたものが罪人工場や荷捌き場で使われていますね。最近はかなり広くなりましたので、歩くと時間がかかる時には重宝しているとは伺いましたが。

さて、着水したすけあくろう、昼間というのに火を焚いて煙を上げている船着場の方に向かいます。
いよいよ、たぬきと言われておられる公方くぼう様とのご対面です。
衣装も比丘尼国向けの正装に着替えて…と。
(船着場もありますけど喫水全然足りませんからね…普通なら滑走着水させてたのに、垂直に降ろしてたでしょ。マリ公、タヌキおるとこにみんな転送さしたって)
(代々木側に下ろしたら良かったのによ、まぁともかくかーさんは留守番だなっ)
(うむ。あのタヌキの顔を見たら成敗したくなるかもわからん)
(そのむやみやたらな関西人思考はいい加減やめやがれっ)
婢女はしためもほんまに往生際の悪いやっちゃのぅ…京の連中並みやな)
(はいはい、とりあえず挨拶してきてくださいよっ)
転送で船着場に送られますと、一瞬、護衛のおさむらいさんたちが色めき立ちますが、後ろの方から静止の声がかかります。
各方おのおのがた、待ちやれ。公方様の客人まろうどぞ」
「し、しかし右大将うだいしょう様…」
「客に異人の方々も多いと伝えておろう。失礼。家康が息子、秀忠と申します。元来ならば父自らが出迎えさせて頂きますところ、ご無礼仕る事申し訳なき千万との伝言をば」小柄ですが身なりの良いお侍様が前に進み出て来られます。ちょっと毛深い方ですね。
「おお、ひでただか。なんじゃあのたぬき、また病の具合が悪ぅなったんかい」
「は。大日女尊おおひるめのみこと様、此度は我が幕府の差配の件でご来臨、かたじけなく存じます」いきなり土下座に近い形で姉の足元にひざまずかれますが。
「ま、そないきをつかうな。それより、いもうととその娘をしょうかいしたいんじゃが」姉が様を立たせます。
「こちらも紹介したき者が。直江殿、奥村殿…今般の件で、関わりのある家の者でございます」
「まぁ、そないせめてやるなよ。あのかぶきもんのふるまい、お前のおやじも免状を出しておろ?」
「は。ただ、日の本一切に係る話でござります故に呼び立て申しますれば、是非にもと。まず直江殿」呼ばれて、秀忠様よりはるかに背の高い、が進み出ます。
「奥州米沢藩上杉家家臣、直江兼続なおえかねつぐと申します。此度の一件では皆様にご足労、申し訳なき候」深々と頭を下げられますが、心中は…。ああ、本当に申し訳ない感じです。
「奥村殿も…」
「右大将様、その前に」と、おくむらと呼ばれた小柄でちょっと太めで地味なお方が、尼僧姿の女性を前に出されます。
「失礼、加賀前田家家老、奥村助右衛門おくむらすけえもんでござります。元来なら我が主君前田利長まえだとしながが此度の不始末を詫びるところでございますが、前田家中の者の件につき、仲裁役をご紹介仕りつかまつりたく。先の加賀藩主が奥方様の芳春院ほうしゅんいん様にございます」で、助右衛門様に促されて前に出た方…姉様、若返らせましたね!
の力がどうしても必要じゃでの。巫女にした)
(仕方ないですわね…ただ、やるならわたくしどもの方で痴女化した方が良かったのでは?)
(ああ、ひつようがあればあとでやったってくれ。まりやはそのつもりのようじゃが)
(はいはい)
「おかみ様、そしてお客様方…今般のご足労恐縮に存じます。前田まつと申します」ものすごく芯のしっかりした感じの女性です。あと、内心、わたくしどもに対して好奇心満々ですねっ。
「それは異国の…しかも女性にょしょうばかりのお国の方とお聞きしましては気を惹かれるばかりにございます。しかし…ほんっとうに慶次郎けいじろう様の件で皆様にご迷惑を!」
「ま、まぁ…芳春院様、何も前田家を責める気は毛頭ござらぬ。どうかお平かに」と、秀忠様も慌ててなだめに入ります。
(確かに前田家を救った女傑ですからねぇ。史実でも関ヶ原の後、真っ先に人質になって江戸に行ったんですよ。その時の面会の挨拶でも、秀忠さんの親父たぬきおやじをビビらせたくらいで…)と、マリアリーゼが入れ知恵してくれます。
「で…まりや、べらこ。こっちこう。これが痴女皇国の皇帝のマリアヴェッラ、マリアヴェッラの姉で先代帝のマリアリーゼじゃ。わしのいもうとのテルナリーゼはこやつらの後見人をつとめておる」と、姉が娘たちを紹介してくださいます。
「右大将様や皆様におかれましてはわざわざのお出迎え恐縮に存じます。二代目痴女皇国皇帝、マリアヴェッラ・ワーズワース・ボルジアに存じます。我が姉にして痴女皇国初代皇帝位のマリアリーゼ・ワーズワース・高木共々よろしくお願い申し上げます」
「不肖の姉のマリアリーゼです。今回は妹とおかみ様姉妹のお付きみたいなものですのでお気になさらずに」とまぁ、今回の来訪について全員が「望んで会見していない」事を確認し合うような挨拶を交わしまして…。
「いや本当に、直江殿…おまつ様からの書状、確かに慶次郎に渡すよう計らい頂きたい…」
「うむ。武田の骨にことづけけております。話ではこの後、米沢に我等共々お送り頂けるとか」どうもかねつぐ様とおくむら様は顔見知りのようですね。
「押しかけるのは、それを読ませてからの方が良いでしょう。あの御仁がへそを曲げると近習も難儀しますのは、他ならぬこのわたくしが加賀やみやこにおりました時からよう存じておりますので…」
「確かに、おまつ様が怒っておるのを知らしめてからの方がようございますな」
「逃げたら櫓櫂ろかいの限り追いますと書いております。ですので、加賀を逐電ちくでんした時のは使わせませぬ。ほほほ」
(船で追いかけられる場所までは追うから逃げても無駄だって言い回しですね。ええ、おまつ様、絶対に逃がす気はありませんよ。はっはっはっ)
「ま、あの御仁のは慣れております。お任せやれ」
そして秀忠様のご案内で城内に招き入れられます。駕籠をご用意させて頂くとか申されましたが、謹んで辞退を。
本当はあれこれ説明を頂きながら城内に招かれるところですが、いえやす様のお部屋までは距離があるそうなので、マリアリーゼがひでただ様の後ろに控えておられたおさむらい様に転送に都合の良い場所を聞いています。
「んじゃ天守閣の前の大玄関でようございますか。おかみ様、内府様に連絡をして頂けますと」
「某を向かわせて頂きますれば出迎えを指図いたします。飛加藤殿は皆様にお付きを」と、そのおさむらい様が申されます。
(服部石見守半蔵。四代目服部半蔵です。飛加藤ってのは忍びの武田の骨ですね)
「んじゃ、先に行ってて下さいよ」と、そのおさむらい様を飛ばすマリアリーゼ。
「なにやらめんどうなのですね」
「そりゃあアルトさん…こういうお城の中枢部にいきなり押しかけたら、誰でも怒りますって…あたしらは欧州で散々忍び込みましたけどねっ」
「ほう、忍びの方ですか」とダリアに聞くのはその、ほねという忍者の方。一見すると普通のおさむらい様の姿ですが、ちょっと変装されてますね。
「骨殿、捨丸すてまるは最近はどうかね。主馬しゅめには一切構うなと厳命はしておるが」と、おくむら様がお聞きになっておられます。
「そうですな、昨今は金悟洞きんごどう殿と二人で畑作りだの何だのと。悟洞殿は陸仕事が苦手とぼやいておりますがね」
「であろうなぁ。後程心付けを渡すので、捨丸に事付けて差配させて下されば」
「ご配慮痛み入ります。捨丸殿も、おまつ様と助右衛門様には本当に申し訳ないと衷心ちゅうしんより申しております故、心付けは大いに喜ぶでしょう」
(ああ、慶次郎…前田利益のおっさんに仕送りしてたのね…奥村さん、義理堅い人だからなぁ…)
「奥村殿…こう申しては何だが、慶次郎殿は我が兄ひでやすをあまり叱れぬのではないか…」
「いやいや、あの慶次郎は浮世離れし過ぎております。直江殿の面子もあるからあまり申せませぬが、慶次郎の扶持きゅうりょうだけでは家計は大変でしょう。捨丸なら投資や投機の術を知っておりますから、家が食うに困る差配は致しますまい」
「うむ…伽姫ときひめ様も里の者に読み書きや琴を教えして生計を助けてはおりますがな…」
(かぶきもののおじさんはにーとなのですか)
(わああああ!アルト黙れ!それを言うんじゃねぇ!)
(あ、アルトさん…あたしでも黙ってた事を…)
(確かにその…前田慶次郎様ですか…本当にむちゃくちゃな人なんですね…)
「ええ、まりあべら様。慶次郎と来たひにはですね」
「助右衛門。確かにあの方は捨丸や骨殿の助けなしには路頭に迷うておりましたでしょう。ですが、あの方ほどなれば、必ずや誰かが手を差し伸べます。もっとも…慶次郎様本人がその手を握るかは別ですが」
「芳春院殿…正直、父上は父上で慶次郎殿の事を買ってはおるのですよ。万一の場合は越前で扶持を与えよと兄にも申しつけておりますので。兄も慶次郎殿ならばと、召し抱える気は満々でござるよ、直江殿」
松平秀康まつだいらひでやす。タヌキの子供ですけど秀忠さんとは腹違い。で、色々あって結城家に里子に出されてたんですけど、越前…福井県を領地に与えられて松平姓の復縁を許されてます。おかみ様に頼まれて、あたしが密かに梅毒直しに行ってますけどね)
「ははは、確かに秀康殿の事は気にしてはおられましたな。越前移封や唐毒とうどくの件はこちらにも話が来ておりました故」
(ベラ子、松平秀康は史実なら梅毒で死んでるんだわ。34歳だったかな。で、日本には唐毒という名前で西暦1500年代前半に既に伝わってる。なんせ潜伏性が高いウィルスでな…トレポネーマ。クリス父様が駄洒落菌をベースにした性病対策菌を開発してるけど、進行が進むとえらい事になるからな)
(あー、叔父にもなんか治療されてましたね)
(発祥地のアフリカや南北米大陸は別口の感染症対策をやったけど、比丘尼国では駄洒落菌の知能向上副作用込みの効果があるやつを使いたいんだよ)
(それ、駄洒落を広める結果になるのでは…)
「恐れながら右府うふ様、庄司甚右衛門の色里の件、如何なさりますので? 唐毒蔓延を気にする巷の風聞を何とか致しませぬと、仮に御免状交付となりましても後々取り潰しとなりかねませぬ」骨という忍者がひでただ様に聞かれます。
「…父も頭を痛めておってな。わしにも分かるが、まず唐毒や他の病が流行りかねぬ件がある。そして冥加金の上がりもさりながら…おかみ様の方の宮との兼ね合いよ。武田の飛加藤、そなた何か良き知恵は浮かばぬかのう」
「失礼。後ほど将軍様に献策させて頂こうかと思いましたがね、梅毒…唐毒の対策、我が国でも進めておりましてね。ロドリーゴ・ボルジア…妹方の祖父や聖母教会教皇も完治しておりますよ」
「先皇様…それは誠にございまするか」
「ええ。加藤清正殿も治しておりますよ」
「なれば…と思うが、治療にかかるお代が下々の手に届かねば治らぬも同じ…如何ばかりのお代となりましょうや」
「無料。お代は頂きませんよ」
「…なんと…しかしながら、無料ただほど高くつくものはございませぬ。御所望は如何に」
「それはまぁ、将軍様の御前にて。きっと右府様にも左府様にも気に入って頂けますよ?」
「失礼、若殿様…マリアリーゼの母でございます。姉の生業の件もありますから、誰かの利が誰かを害する事なきよう図らせておりますよ。あと、私どもに欲心はあって無きもの。既にお分かり頂けますでしょ?」と、マリアリーゼを擁護してあげます。
実はこの場で意識共有を入れておりまして…。
(いやはや肚のうちが筒抜けとは、忍びには困りますな)
(腹芸無用も良し悪しであるな)
(無用な詮索をせずとも良いのは有り難いが…小早川殿とかに此れをすればさぞや困るであろうなぁ)
大谷吉継おおたによしつぐ殿が未だ怒っておるとの事だが)
(大谷殿、慶次殿が加賀を出た際にお世話になっておるのですよ…私も止めましたがね、隆景殿の首を取りに行くも辞さぬとまで怒っておりましたから)
(あー、関ヶ原で日和りかけた件ね…)
(はっはっはっ、茨木一人で矛を納めさせたからのう。わしらのこわさがわかってなによりじゃ)
(えーと、痴女皇国世界の関ヶ原、ぶつかり合う寸前でおかみ様が介入しまして、いくさ差し止め。その際に裏切りかけた小早川隆景こばやかわたかかげさん、大名…国主界隈ではめっちゃ肩身狭い状況です。あと史実と違い筑前は中洲宮様がおりますので小早川家は毛利分家として伊予国主ですよ)
(マリアリーゼ…どなたに解説しておるのですか…)
(毎度の事です)

そして面会の準備が整ったとの知らせに、一同は江戸城の大玄関という場所に移動。
「ここからは履き物を脱ぐのですね」
「いかにも日本だなぁとしか」
「痴女皇国のわしの部屋にもたたみが欲しいのじゃが。せめて板の間で」
「ふろーりんぐではないですか!」
そして面会の場の大広間に通されましたところ。
「いやはや面目ない…どうも食い意地を張ったようでございまして」白い浴衣らしき服の上に羽織りものを羽織ったたぬき…いえ、将軍様がそこに。
「鯛一匹丸ごとてんぷらとか言い出すからじゃ。まりや…ちと頼む」
「はいはい。失礼いたしますよ…」手も触れずにマリアリーゼが回復させてしまいます。
「ただ…将軍様。そろそろお迎えの時になる可能性がありますよ。秀忠様に家督を譲る段取りは既になさっておいででしょうが」
「はは。人の身ならば仕方ありますまいて。…そうじゃ、秀頼殿。太閤を務めたいならば今が機であるぞ」
「滅相もなき話。お戯れはおやめくだされ…」たぬき様の側の、この時代でなくとも大柄な若者が嫌な顔をしています。
「しかし、わしが太閤殿下に手を取られて秀頼殿をよろしく頼むと念押しされたが、逆の立場になるとはのう。今度は秀忠を頼むと申したき所ではある。しかしながら左府の位に不満を抱かれねば良いが」
「これまた有り難き…とは行きませぬ。奥村殿や直江殿もおられる前故に敢えて話を致しまするが、伴天連ばてれんに関わらぬが内府様のご意向では?」と、若侍な方が。
三河監獄みかわかんごく国の隆盛ぶりを見ればそうも言えまい。按針あんじんにも聞いておるが、彼の地の平定未だでは火種が日の本に持ち込まれかねぬ。むしろ監獄国の生業を基に、地の裏側がこちらに迂闊に手出し出来ぬよう釘を刺さねばなるまいよ、のう秀忠」
「は。秀頼殿…父を征夷大将軍に任じた理由もそれと聞かされておりますが、改めておかみ様から左府の任を受けた理由、お聞きになりますか」
「いすぱにあとの交易は西方差配おおさかかんかつ、出島にてこれを行うべし、でございますか」
「左様。鯖挟さばさんど国を介したものは監獄国那古野なごや港、田原港にて。そして此度のお言いつけ…」
「ぶりてんとはよこはめ…横濱にみなとを開き、江戸市街を拓く助けとせよ、じゃ。ひでより。聖母教会の領分は、ここにおるわしのいもうとや、そのむすめたちがよしなに計らうてくれるでな。そなたはに従い日の本西方を治めやれ。それともしんどいか?」
「いえいえいえいえ、滅相もございませぬ!」姉にぎろりと睨まれて慌てるあたり、ひでより様は少しばかり胆力が足らないようで。
(あのー、初代様…あたしらが睨んでも動じない人間、そうそういませんよ…)
(ですが関白のおさるさんの息子さんでしょ?もう少し何かこう、体格に見合うどっしり感が欲しいですわね…)
「秀頼殿。安心なされよ…と申してもなかなか難しい話ではあろう。三成殿がもう少しその辺りの影働きが出来ればとは思うがなぁ」
「内府様から見ても石田三成いしだみつなり、ダメですか」マリアリーゼ…直球を投げないように。
「駄目とは申しませぬが、あれは人心にいまひとつ疎いところがある。冷気に地揺れ、火吹き山と諸々起きやすい東国を治めるには、三成殿ではいささか不行き届きもあろう」
「頭はいいんですよ、いいんですけど」
「秀頼殿。敢えて父君への苦言になるがな、太閤殿下は征明せいみんを思いつくしか手はなかったのであろうかのう…」
「確かに我らで明を攻めても、果たして上手く行っておりましたかは甚だしく疑いたき事かと」
「秀忠。仮にそちが明を攻めよと言われれば如何致す」
「…征明の代わりを考えまする。太閤殿下の失策は三成殿に国主の扱いを任せ過ぎた事。そして自軍の力を過大に考えた事にありますかと。確かに我らは強うございますが…」
「実は秀康にも聞いてみたのよ。秀康、近う寄れ」広間の隅に控えていたおさむらいさまが近くに来られます。
「は。秀忠殿…」
「いや兄上、秀忠で良うございますぞ」
「いやいや何を申しておるか。右大将右府にして次の征夷大将軍はそなたじゃ。わしが兄づらするなど逆に不敬千万よ。兄と慕うは皆のおらぬ時になされよ」
「秀忠。秀康がそちを立てておるのじゃ。兄の優しみに甘えておきやれ」
「は、父上。承知仕り申します」
「で、父上の問いかけに対するわしの答えじゃ。確かに武勇に任せ軍を率いれば一定の戦果は上がろう。しかしながら、そもそも太閤殿下のお考えは明に領地領民を求め日の本に利をもたらす…もっと申せば国主諸侯に褒美を与えんがため。違いまするか左府殿」
「いや、それで合うておりまする」
「しかしながら気質も風土も違う民を制して、果たして長きに亘り税を納め我らの言う事を聞くや否や。且つては我らに文字を伝え諸々を伝えた国の誇りがございましょう。…わしも正直、結城から越前に移りまして気風の違いに面食らうことしきりでしてな、湯はございますし蟹は美味いのですが」
「これこれ秀康、結城の11万石と越前68万石は全く違うであろう。しかも舞鶴まいづるがおるとは言え、北前船は敦賀つるがに立ち寄ると荷役に便がある土地じゃ。そなたに何を任せたかは存じておろう」
(初代様…年貢貢納や貿易船は敦賀を利用してるんですよ、ほら、舞鶴だと舞鶴商会通さないと首領どんが因縁つけるから…)
のおやじもかねと女にはうるさいからのぅ)
「はよう上方への道が付けば秀頼殿も潤うのですが。北国街道がありますとは申せ、やはり陸と船では運べる量の桁が違い申す」
「そうそう、その話なんですよ。うちの酷道…いやもとい国土局長の室見が作ったもんなんですがね、もともとはるか先の世の日の本の生まれの子でして。その子のこしらえた計画書…案です。街道整備と、そして…鉄の道を要所に作る話をして欲しいと。それには敦賀から今津または米原経由で京・上方までの路線整備を含んでおります。お聞きになりますか?」
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