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警務部おしごと帖・駐在武官をさがせ
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「いくらダリア様のお願いでも…無茶を言わないでくださいよっ」
「あんたしかいないの!お願いデルフィリーネ!」なんかあさっぱらからからいいあう声がうるさいのですが、何かありましたのでしょうか。
「あーアルトさん、ええとこに来てくれた。ほれ、ベラ子陛下とマリア様の連名で回っていたあれっすよアレ!」と、ダリアが自分の聖環でしょるいを見せてきます。
いえ、見なくともわかります。
あのダリアがどげざをしてまでたのんでいる相手…黒蛇騎士団のときからの副しきかん、デルフィリーネです。
「ですからダリア様…あたしもそりゃお受けしたいのはやまやまですよ? でも流石に比丘尼国に赴任して駐在武官とか、やり抜く自信がががなんですよ…とりあえず土下座されても困りますから、さぁ、お立ちになってくださいよ…」デルフィリーネもしんけんにこまったかおですね。
さてみなさま。
なんでダリアがそこまでこまっているのか。
ダリアがかざす書類、あたくしにも悩みのたねだからです。
「警務局長アルトリーゼ並びに総騎士団長ダリアリーゼは、比丘尼国公使館開設にあたり全騎士より駐在武官を一名選抜せよ。期間は11月中。選任者は教育期間を経て英国公使並びに痴女皇国公使に同行、比丘尼国内よこはめだんじょん市に新設される公使館に赴任駐在勤務とする」
これが、よめからきためいれいです。
「だからあたしは黒蛇黒薔薇ときて、現在は黒薔薇を任せて頂けるまでになりました。これもダリア様あっての抜擢と心に刻んでおりますよ?頂く任務は何があっても挑むが信条ですよ? しかし…戦闘ばかりな黒薔薇上がりに外交騎士が務まるかと…正直自信がないのです…」
「まー確かに今までの黒蛇生え抜きのあんたに頼むのもさー、あたしも正直心苦しいのよ…もっとはっきり言うと、この任務はマリーを回す方が向いてると思っています」
「確かにこれ、マリー向きですよね…」
「しかし、理恵ちゃんが女官長を外れてる今、リエティリーネ女官長の代わりが誰に勤まるかという苦悩と苦渋の選択があってね…あたしとアルトさんには因縁のクライファーネさんを蘇生してまでマリーの抑え役にしないといけなかったくらいなのよ…」
「ダリア様、いえダリア団長のお気持ちは痛いほど良くわかるのです…ですのでやり遂げたい気持ちは満々なのですが、敢えて人事の再考を具申させてください!」
「ちょおおーっと待ったっ」
「困った時のお助け變態仮面参上!」なんかいきなりぱんつかぶったへんたいがふたりあらわれました。…無言ではりせんをふるわせていただきます。
なにをやっとるのですかあんたら。
「アルトてめぇ何しやがる!」
「痛いじゃないですか!」
「おふざけもたいがいにしてください!ただでもこのあいだはていぼうでいもうとを何とかたおせましたがね、マリアさま、あんなせいげん掛けられたらわたくしでもくろうするのですよ?」
「ばっきゃろぅ!あれくらいハンデつけてねぇとアルトの瞬殺で終わるだろ!賭けにならねぇんだよ!」
(賭けてたのですか…)
(あたしはアルトさんに張りました。売店お菓子券10まいげっとぉおおお)
(あたしのお金で買うお菓子は美味いかーっ!)
(…ベラ子陛下、ナディアさんに張ったのか…)
(姉が押し付けたのよ!あたしがアルトさんに張らないとまずいからベラ子はナディアさんに張ってくれって!ムカつくからお菓子券購入費半額出させてますけどね!)
(ちなみにお菓子券は一枚250SOKR…南洋ルピー分のお菓子が買えます。10枚で邦貨換算5千円っちゅうとこですね)
(皇帝なら無尽蔵にお金が使えるわけじゃないんですよ?)
(ちなみにベラ子の皇帝歳費はあたしと同じ三億南洋ルピーだ。月額換算でルピーじゃなくてルーピーな鳥類が貰っていたお小遣いとおおむね同額だなっ)
(なお、ダリアさんの業務報奨金は月額二千万ルピー、アルトさん一千万ルピーです。デルフィリーネさんは危険手当や現地活動費が入ってますけど月額二百万ルピーですね)
(ベラ子陛下…アルト様の方が安いのですが…)
(直接の部下の数とか実業務で変わりますよ。ダリアさんは各騎士団員への慰労や、デルフィリーネさん同様に急な出張が発生した場合のとりあえずの行動費…ダリアさんは黒以外の騎士団の分も含んでいるので高めに設定されています)
(あー、それはお聞きしました。なお、私には黒薔薇騎士団用として一時資金が別に預けられています。最近は紫騎士団と合同でやることも多いのですが、現地の浸透工作で使う賄賂や贈り物…金銀宝石装飾品は戦利品などを保管している中から使う場合が多いので、主に衣料生地ですとか、貴重なお酒や食品などを買うために使う事が多いですね)
(あたくしはおちんぎんでもだりあにまけるのですね…。おちんちんではまけないのですが)
(アルトさん、最近は痴女宮にいる事が多いか、動いた場合に大抵は他の皇族皇配とセットになってますからお金で困る事はあまりないだろうと)
(それとな…アルトが金を必要とする事はほとんどないんだわ…あっても、だいたいジーナ母様かあたしが隣にいる場合が多いからな)
(だからアルトさん、もらったおこづかいがほとんど手付かずだったりします。これがあたしだと半分残ればいい方だったりするんですよ…領収書とか残らない使い方する事も多いですから)
(たのきち時代の名残で経費承認には割とうるさいからな…出納部)
(経費の話が出たついでに言っときますと、紫のサリアンはあたしくらいもらってます。あそこらも飲ませ食わせ握らせに使う費用がバカにならない仕事してますからね)と、ダリアがすぱい活動にはおかねつかうんですよと言いたげなかおでもうします。
(雅美さんも同じくらい欲しいって言ってるけど却下した。連邦社会でやってる闇仕事の上がりを個人資金にするのを認めている代わりに、趣味や薄い本の制作費用とかは個人でまかなってくれというのが理由だ…仕事のために趣味由来の金を使う必要性は理解しているが、出納部に通すとあれなんだこれは何に使ったって説明ややこしくなるぞって言ったら(´・ω・`)ショボーンと納得してたがな!)
「で、やっぱりと言うか駐在武官の選定で困ってんのかよ」けいむぶの応接室のいい方のいすにどかっと座ってるよめがもうします。
もうおわかりかとおもいますが、マリアさまはきほんてきに態度おっきいです。マイレーネ様の前以外では。
(るせぇ…アルトも苦手だろうがよ…呼ぶぞここに…)
(やめてくださいおねがいします)
(しゃーねーなー。真面目に話を聞きなさいっ)
「ですです。青か赤か白を行かせようかとも思いましたが、今はローテーションでしょう。全員均等に近い能力配分なんですよ…」
「確かにこれ向きの紫や黒は流石に抜きづらいわよね…ちょっと待ったねーさん。二人、心当たりがあるわよ」
「誰よベラ子…まさか…」
「だからまさか込みよ。一人はまず、基本的に割とヒマ。精気抜きの仕事も最近は安定してる」と言って、あたくしの肩をがっしとつかむべらこ陛下。…あの…。
「でぇ、もう一人はこの人の妹さん。比丘尼国の土地勘はあるし詳しい。紺碧騎士団は凛ちゃん任せで国土交通本部の海事部に代わりを用意しさえすれば引き抜き可能」
「確かにナディアさんの方が外あたりはいいけどよ…あと、これは永久任務じゃねーよな」
「ふふふふふ。もちろんです。それとねーさん、警務部には話してない件があるでしょ…」
「あ!あれか…あれがまた頭いてーんだよ…」
「とりあえずその話もしておかないとダメでしょ。あとナディアさん呼ぶわよ」とせんげんなさるべらこ陛下。やはりははおやがあの人ですから、おそい仕事をいやがりはるようです。
「で…まさか…どちらかが国使をやれと…」応接室でこーひーをいただきながらいもうとが申します。あ、これはどちらがめんどうか値ぶみしてますね。いやな方をあねに押し付けようと考えているかおです。
(ちがいますっ。確かにそれはありますが、かと言って姉様に不得手な方をさせて失敗するとですね、痴女皇国の沽券にかかわるのです。姉様一人のアホなやらかしではすまないのですよ?)
「まったく…九鬼から誰か呼びつけましょうか?現地採用を認可頂ければあたくしが仕込みますが…」
「まぁそれは最後の手段にしようぜ。とりあえず痴女皇国内で公使を選定しなくちゃならん。実はだな、横浜駐在公使は飾りでもいいんだよ」
えええええ。
何でまたというかおでみながよめを見ます。
「比丘尼国の総本山の元伊勢…大江山にベルテファーネがいるだろベルくん。うちに来てる外道丸ちゃんと同じ扱いの。あれがうちの公式大使兼任者だよ」
「ならなんでおつかいをよこはめに」
「あー、アルトは比丘尼国の政治体制についてあんま知らねーのか。しゃーねーな…まず、八百比丘尼国は八百萬神族の勅命を受けた朝廷が治める神治国家だ。これはわかるな」
「で、その政府が東京と京都と大江山に別れているとは聞きましたけど」べらこ陛下が言われますが、よめがひていします。
「京都御所、つまり朝廷は人間向けの行政機関なんだわ。で、八百萬神族向けの行政の総本山が元伊勢で、伊勢や出雲、宇佐に熱田と言った有名どころの神社で地域統治している。この神社は鬼や天女やもののけの行政機関を兼ねているからな。人魚だけはちょっと別で、九鬼水軍・村上水軍・舞鶴商会と舞鶴興業が仕切っているが、実働部隊は瀬戸組の仕事だ。これはナディアさんならわかるな」
「はい。うちは元々陸から海に出ましたので、瀬戸組とは昔あれこれあったのは聞いておりますが、現在は一応は地域分担で協力関係を組ませてもろうております」
「うん。で、問題は人間向けなんだわ…ベラ子、おめーは三河監獄国の国主様に会ったからわかるだろうが、あそこの上、江戸…東京と京都のどっちだ?」
「えーと…京都!」
「正解だが不正解ってとこかな。話が少々ややこしくなるんだが、あっちにゃ江戸城と江戸の町があるだろ。実は朝廷だけで政治をやってしくじった事があって、武士と呼ばれる軍人階級が独自の官僚制度を敷いて実態統治に乗り出した歴史がある。これは比丘尼国も日本も同じだが…こっち側、つまり痴女皇国のある地球じゃ関ヶ原の戦いや大阪城の取り合いは発生してないんだわ。おかみ様が介入して豊臣政権から徳川政権に禅譲させてる。で、禅譲された徳川家康…例の焼き味噌タヌキが江戸幕府を開いた」
「江戸幕府を開いたのは連邦世界と一致してますね」
「ただ、豊臣政権側にも公務を言い渡していて、西方管領として関ヶ原から西の監督職を預けてるんだわ。そして豊臣秀頼は存命だが、徳川方の誰かの娘さんを貰って徳川との血縁を結ぶべしと元伊勢から通告受けてる。京都じゃなくて元伊勢が言ってる時点で、これ破ったら豊臣も徳川も潰すからなって話だな」
「ふむふむ。その辺ちょっと違いますよね」
「で、三河は知っての通り徳川家康の出身地だが、あのおっちゃんも色々あって信長の時代に既に江戸を開拓して三河から移住することを命じられてんだわ。ちなみに家康に江戸を渡せという勅命に逆らった北条はその時に取りつぶされてる…で、家康の代わりの統治役だけど、三河国の興隆政策として罪人島流しの代わりに強制労働施設を建設しろって勅命出されて、地元出身で徳川家家臣の国主を選任させた。これが監獄国の興りだ」
「つまり、江戸幕府と関連性はあるけど、朝廷の意向が強く入った国だと」
「そーゆーこった。最終的に西方管領も徳川血縁にすることで徳川家組み込みにして幕府に全国を統治させるのが元伊勢の意向だが、幕府もあくまで征夷大将軍の位を京都御所から授かって、武家という軍人官僚組織が朝廷の代わりに全国を委任統治してる形態を維持させてんだ。要は武士がしくじったら代わりを用意するよってこった。連邦世界での江戸幕府ほど、こっちは強い組織にさせてないんだよ」
「なるほど。つまり大使を派遣するほど重要な外交拠点を作らなくていいと」
「そーゆーこと。むしろ、うちらが公使館を置くのは英国公使を護衛するのと、横浜港を整備させて鉄道建設のための拠点整備を促す意味合いが強いんだ。…もっとも…現状だと…多分、エマ子かあたしが神田山を切り崩す手伝いとか保土ヶ谷あたりの丘陵地を崩してベイサイドエリアを埋め立てる必要性があると思うぞ…」そう言って聖環で画像を見せるよめ。
「これ連邦歴0195年の東京駅周辺な。このでかいのが皇居。で…」全員があっけにとられます。
「東京駅のあるところが海だ…」
「えどとやらのほとんどが原野じゃないですか!」
「…こりゃ、マリア様が飾りでいいって言う訳だ…まず街作りからですよ…」
「でな…よこはめ…いや横浜がもっとひでーんだわ…」
「なんじゃこれー!」再び、よめいがい全員ぜっきょう。
「み、港のみの字もない…まだ熊野や鳥羽や答志島の方がましですよ!」
「漁村らしきはあるにはありますけど」
「それいぜんに、えきの向こうがわが海ですよ…これはよめがうめたてるというわけですね…」
「という訳だ諸君。江戸城だけは何とか、ある程度の形にはなって来ているが…その他が全然なんだよ。んで、おかみ様の要望は二つ」
「あの方はまた何を言うのか…ブラ◯ガス貸し出し申請書の用意が必要ですか、ねーさん」
「あ、そこまで無理難題じゃねーよ。まず一つ目は、一応関西人のあたしには我慢ならねーけど、江戸幕府はこの時代まだ出来たてほやほやで、あのタヌキも生きてて二代目に将軍の位を譲ってねぇんだ。しかも元伊勢介入で豊臣家を攻め滅ぼす事を禁じられてる。で、その代わりに元伊勢と協調して幕府の軍事的な後ろ盾をして欲しい。これが一点」
「ふむふむ。要はとくがわ政権が安定するまで、連中に逆らう奴を代わりに殴ると」
「もしくは殴るふりでしょうね。正直…九鬼のお家も豊臣方…つまり、江戸幕府の敵に回ってはいるのですよねぇ」
「なもんで、豊臣秀頼に西方探題の地位を確約する代わりに徳川家血縁に加えて臣従することを納得させるのも任務に入ってんだよなぁ。そして二つ目が江戸城並びに江戸市街地の整備。約300年後…つまり連邦世界史での明治維新までに江戸を百万都市以上の規模にして欲しい。そして、比丘尼国朝廷と元伊勢から徳川幕府への強制指示で関東八州…現在の関東平野を徳川家に期間300年で租借契約を結ばせてるんだ。ただ、租借料は無料。つまり幕府からは金を取らないが、その代わりに開発してくれって事だな」
「幕府からは朝廷に税金とか納めてるんですか?」
「一応貢納金はある。ただ、今回はタヌキにも不利な条件を色々飲ませてるし、うちら…比丘尼国はもとより痴女皇国にも将来的な利益が見込めるから、300年分の貢納金を痴女皇国が肩代わりする」
「えええええ…大丈夫なんですか?」
「安心しろベラ子。既に担保は抑えてるよ。別子銅山に生野金山に佐渡に足尾に…国内の主要鉱山は北海道から沖縄まで今は石ころや土以外は出てこねぇ。金銀銅鉄錫鉛ウラン、大抵のものはエマ子に頼んで先に抽出してるんだ」
「なんか痴女皇国開闢当時、あたしらが暴れたよりも更に手口が悪どくなってる気が…」
「資源総取りとはまた思い切りましたね…」
「あの監獄国へのらいぶふれんど屋のやらかしがなきゃウチも介入なんかしまへんでした。元伊勢の許可があってやらせていただきましたので悪しからず。ただ…」
「その鉱物資源に何かありますね」
「ほれ、連邦地球より資源量が少ない問題よ。加えて銀山と銅山は採鉱や選鉱精錬工程で有毒な副産物が特に発生しやすいだろ?だから例によって他所から持ち込んだ鉱物資源で期待量を確保してるんだよ。しかも精錬済みのやつをな…あーまた持ち出しだよ!名目赤字が累積してるってクレーゼ母様に嫌味言われるよ…」
「デルフィリーゼ様はOK出してましたよ」
「まぁ、お祖母様は痴女皇国開いた時から、あたしのやってる事をきちんと理解してくれてるからな…でなきゃデルフィリーネ、あんたに名前貸さねぇよ」
「は、はいっ!」
「ま、連邦世界での江戸幕府のミスは財政管理が人治主義かつ武士階級が主導しすぎた事や税率設定エトセトラ、色々あっからな。これを改善するにはまず年貢米制度から脱却させて、せめて金本位制度主体の貨幣経済に移行させとく必要性があるだろ。でなきゃ江戸末期の銀の海外大量流出なんかで起きた財政崩壊が防げねーんだ」
「え」
「あの…比丘尼国って…お金…使ってないんですか?貨幣とか硬貨とか」
「使ってますよ!…まぁ、わたくしも鳥羽に移り住み九鬼に嫁いでから知ったのですが、比丘尼国での年貢…税はお米で納めるのが基本だそうです…そりゃ元々鯖挟国でも魚や貝や真珠で納める事はありましたけど…」
「まー、ナディアさんが驚くのも無理はねぇ。そしてもう一つ問題なのが納税された側だ。実は米相場ってのに左右されちまうんだよな…税収入」
「ああ、だからおこめやおしおをためこんでいるのですね。おめこも」
「こらアルト。ま、最後はともかくとして、うちの国の地下倉庫を拡張して備蓄資材にしてるのは理由があんだよ、米に小麦粉に塩」
「あー…非常食!」
「そそ。塩は人体には必要な栄養素だからな。発汗…汗かいたりしたら抜けちまうし、大量は不用だが必ず外部から補給しなきゃならねぇものだ。そして、うちの国で貯め込んでる理由は、友好国に災害が起きたりして炊き出しの必要が生じた時の支援物資だと思ってくれ。痴女種が主体ならあれだけ貯めとく必要はねーからよ…で、ベラ子…お前、世界史総合科目で江戸時代の経済に関して習ったか?」
「ちょっとだけですねぇ。大阪で年貢米を売り捌いてたってのはどこかの参考書に記載されていた記憶がありますけど」
「じゃ、そこだな…実は江戸時代に世界初、それも大規模な先物取引の市場が形成されてたんだよ。それが大阪の堂島米会所だ。実際に先物取引をやり出したのは五代目将軍、徳川綱吉…あの生類憐令を出した犬フェチ公方の時代なんだ」
「ふむふむ。ジェネラーレ・ツナヨシは存じております。マモーネだったという我が胸が痛む話も」
「まぁ、マザコン云々はいいだろ、とにかく先物取引をやり出した際の問題の一つが、収穫できると見込まれた年貢米が必ず市場に拠出できる事を前提にした、一種の危険な博打になってしまったんだよな…イタリア連合公国で言うと、デステさんの元に納めるべき税を…例えば小麦粉の現物で払おうとしたとしようか。で、小麦粉の現物が蔵に在庫されている事を証明する小切手…米切手って紙切れで支払ってたんだけど、その現物が今はないけど翌年に収穫可能だってのを前提にして、領地整備の土木工事なんかで使う経費を稼ごうと小切手を切りやがる地方領主がいたと思ってくれ。それも一人や二人じゃないんだ」
「それ…一種の借金じゃないですか!」
「あと、お米の売買価格って変動するんですよね? だったら現物が収穫される前にそんな取引なんかしちゃったら、ある種の賭博が成立しません?」
「ああ、ベラ子もダリアも正解だ。ナディアさん…あんたも米廻船の話は知ってるんじゃないかな?」
「えー…富田浦…マリア様には白浜と申した方が分かりやすいですかね。あそこの廻船業者が手掛け始めてましたよ」
「そう。とりあえず話がややっこしくなるからはしょって言うけど、今の比丘尼国でも連邦世界の日本史同様に、ある程度の現物納税を必要としていて、その現物が米っていう重くて保管場所を取る代物だってのをみんな認識してくれな。で、その米をお金に換える場所の一つがさっき言った堂島の米会所なんだが、そこで変えたお金ってどんなんだと思う? 金貨とか銀貨とか銅貨とか」
「まりあさまがわざとひんとをだすというか答えをゆうどうしている気がします」
「なんかその貨幣の種類を言うところにものすごい罠が潜んでいる気が」
「あたくしは今の比丘尼国で年貢を取り立てたり上貢する家にいた立場ですので、マリア様が何を申されたいか理解しておりますので黙っておりますよ」と、どやがおの妹ですが、そのかおを見ておりますと、何故かむしょうにおかしたくなります。
「えーとな、ベラ子。金銀複本位制度ってわかるか。連邦世界のイタリアじゃなくて、るっきーの実家とかメディチのやってる銀行とかでもこれの計算してるはずだぞ」
「えー…と。あ、金100グラムが銀何グラム分になるかの換金相場ですか」
「そそ。これを1:6.5くらいの比率に定めたのが金銀比価って概念で、鯖挟国の前身だったビザンツ帝国の辺りで考えられて広まったんだ。今でもあたしらが掘ってなきゃ、金ってのは銀より更に貴重なので、一般市民の使う貨幣として使用するには不向きなんだよ。ナディアさんちでも小判とか大判っていう板状の金貨、支払いに使ってたかい?」
「いいえ。基本的には銅銭または銀。そして金で決済したり、金を銀や他のものに換えたり取引の代金にする場合は、塊か砂金を大坂あたりの両替商に持ち込んで、取引に必要な分量の重さを計ってもらうのですよ。例えば金一両を必要とする場合の金の重さだと四匁五分だったかな。太閤様が褒美に下さった大判金でしたら義隆様や守隆様のお手元にあるにはありますが、一種の褒賞品…勲章のようなものですからねぇ」
「ええええええ!小判とか使ってないんですか?」
「ベラ子…小判を作り出して貨幣として広めたのは江戸幕府の治世下だ…それまでは金はあまりにも高価で貴重だから貨幣として一般流通する事すらはばかられたんだよ…。そして実はだな、日本の銀のせいで連邦世界の当時のイタリアも被害にあってたんだけどよ」にやにやしながらよめが申します。
「え?その時のイタリアって、連邦の世界だとまだ統一されてませんよね? それでもって日本の近所にはせいぜい探検に来たくらいで貿易とかやってませんよね? 日本に何かされたんですか?」
「いや、さっき言った銀が問題なんだ。実は戦国時代から江戸時代前期にかけて、対中・対欧貿易を推進した日本の地方領主のせいで大量の銀が日本からヨーロッパに持ち込まれたんだよ。その結果として、ヨーロッパ中に大規模なインフレの嵐が吹き荒れた。そして、対中・対日貿易に直接関与していなかったイタリア半島内諸公国がそれをモロに食らって没落を招いたんだ。連中はメディチや南ドイツ…ハプスブルグ由来の銀山からの産出銀を原資にして取引してたからな…」
「うげげげげ。つまり、ねーさんが世界各地の銀、とりわけ日本やスペインが植民地にする筈だった南米や、果てはドイツの銀山まですっからかんにしてしまった理由って…」
「ああ、正にこれ防止のためだよ。ちなみに連邦世界のスペイン王国も南米の巨大銀山三つも抑えてて、おっそろしい量の銀を欧州に持ち込んでんだ。それで同じようなインフレデフレの嵐を再度巻き起こしてる。だからイザベルさんが何を言おうが、絶対に何がなんでもボリビアのポトシやメキシコのサカテカスとグアナファトは日本同様、空っぽにしとかなきゃならなかったんだよ」
「それってあたくしたちがおたからをどくせんしているようにみえるのでは」
「で、アルトの疑問に答えよう。さっき、大阪の堂島で米の取引をしてたって言ったよな」
「はい」
「じゃあ聞くけどよ。仮にそのお米を買うために銀で買い物したとしよう。アルトの手元にゃいっぱい銀があるだろ。その銀で堂島のお米を全部買い占めて痴女皇国に持ち帰ったらどうなる」
「にほんのおこめがなくなります」
「よし、じゃあ、日本の人はお米がなくなったらみんな何を食べたらいいんだろうな」
「あ…あ!そういうことですか…」
「そそ。スペインが買ったのはお米じゃないんだけど、他のいろんなもので似たような事をしでかしたんだ。そして、お金があるのに買いたいものがないとか売ってくれないとかいう事になったわけよ」
「あー、それでねーさんは米や小麦や塩について価格統制をかけようとしてるんですね」
「んだ。これは連邦社会の現代日本でもやってる事だよ。かつては塩は専売公社っていう国が金を出して作った公営企業だけでしか売買できなかったり、お米についても政府が売買価格を決めたり備蓄米を確保したりして、冷害や台風・地震で予定通りに米が収穫できなかった場合に備えているんだ。他の国でもコメじゃあなくて小麦粉とかになるけど、人間の生命に関わる上にむやみに買い占められて値段が上がったりすると困るものについては何らかの統制をかけてるところが圧倒的なのさ」
「ねーさんの考えはわかりました。しかし…それで実際にモノが不足したらどうします?」
「んなもんウチの備蓄があるし、それに最終兵器の一つをあたしらは持ってる…と言うかいらっしゃるだろ、ロン毛さん」
「あのひとなんかできたんですか」
「踏み絵作られて踏まれてそうですけど」
「なんかこう、パンチさんにくらべてありがたみが少ないと言うか何と言うか」
「みんなひでーな…あの人、一応救世主だぞ…で、ロン毛さんはかつて押し寄せる民衆に対してパンや魚を無尽蔵に増やして配ったことがあるだろーがよ。あの力を使えばお米や小麦粉の一万トンや二万トン位すぐ調達できるよ…ただ、こっちから精気を渡してやる必要はあっけどな」
「…あの食べ物を増やす能力ですか…」
「そそ。ただし、あの能力は迂闊に使って欲しくないという事でね。最終的にあの人の処刑を見過ごしてる理由も…あそこまでの奇跡をリミッター無しに顕現させる必要性は連邦世界では認められなかったってこったな」
(ねーさん。それ、ロン毛さんに干渉できる存在がいるって事じゃないですか…自分で自分の言っておられること、理解されてますよね?)
(たりめーだ。だがなベラ子。あたしやあんたの存在理由にも関わってくるんだけどよ。…以前、ジーナ母様がピレネー県ルルドに行かせたがってたの覚えてるかい? フランスのあそこだ。いずれあんたとあたしはあそこに行く必要があるっぽいんだ。ま、それは今詰める必要がある話じゃないし、流石にこの子たちに聞かせる必要性がある話でもない。まずは比丘尼国駐在公使と武官選任だ)
(りょうかいー)
「でぇ、比丘尼国の政治体制の話だな。要は江戸幕府の統治に協力することと、年貢米などの物流手段を持つことへの協力エトセトラエトセトラ。ただし、物流については比丘尼国朝廷主導で既に街道整備が進んでる。江戸幕府の正当性や統治補助についても朝廷が担保するから、痴女皇国としてはそれに随時協力する形となる。で、公使と駐在武官の仕事は、さっき言った通り、江戸の開発に際しての欧州側の技術提供の元締めとなる英国と協調して江戸の開発を助けること。それから、幕府の正当性を担保する軍事力の提供だ。このうち軍事力の提供は…千万卒が一人いるだけで可能になるだろ」
「ですね。百万卒ですら可能でしょう。今のあたくしですら、充分に軍事力担保をまかなうことが出来ますよ。ですのでデルフィリーネ様ならもっと確実です」
「ふーむ…となると、はっきり言えば誰かが江戸という町を襲うまでは公使館に座ってるだけでも武官業務は果たせるように聞こえるのですが」
「実際には軍事や政治のアドバイザーとして、ちっとは意見を言ってもらうかも知れないけど、表立ってのその役割はパークスさんやサトウさんって人の仕事だ。それと、日本の調査をしたいと言ってる調査官のイザベラ・バードっていうお姉さんのサポートだな…ちょっと待ってくれ。おかみ様からだ…はい、マリアリーゼですけど…ふむ。英国公使館の日本側駐在武官の選定については幕府側も難儀をしてると。…こっちも誰を行かせるかすったもんだしてる最中ですがな。…で、横着タヌキがまたぞろ何か言うてるんですか?はぁ。あの国替えで文句言い倒した挙句に白河攻めだの最上義光と大喧嘩したりの反抗しまくる跳ねっ返りをなんとかして欲しいと。あれに比べたら伊達政宗の方が遥かに大人しいですって…まぁそりゃそうでしょ。あのおサルさんの無理言いで会津統治やらされた挙句に政権交代時にお前伊達と交代して米沢なとか言われたら格下げ確定じゃないですか。連邦社会の方でもあの米沢転封の前後で散々暴れ倒してんですよ、上杉」
(なんか揉めてません?比丘尼国側でも…)
(んだな。もうちょい待て。話を詰めるから)
「ええ。で…参勤交代はさすがにそちらやうちらが見張る以上は無駄遣いだから阻止するとして、ふむ…上杉の江戸屋敷に直江兼続さん来させるけど、米沢藩でうるさいのを一緒に来させて大人しくさせようとしたけど名目出家してるんだからわざわざ江戸だの横濱だのに行く気はないとゴネてるから説得してくれ? 嫌ですよあたし…この時代の直江の近習やら関係者でうるさいのって水原親憲か前田利益の二人くらいじゃないですか…特に後ろの説得なんて絶対嫌っすからね…えー。前田利益ですか? あれこそ超難物で偏屈で傾奇者の極みな野郎じゃないっすか…はぁ…え?言うこと聞かせる方法がある? 徳川家康にも加賀前田家にも了承も取ってる? 本当でしょうね?…わかりました。江戸の前田屋敷でおまつ様に会えばいいんですね? でもあの人、徳川家に人質として送られる際に出家してませんでした? ああやっぱり、芳春院様になってんですね。了解了解…ま、とりあえずやってみますわ。あたしとベラ子と…それとアルトとダリアがとりあえず行きますって事で前田屋敷に一報入れといてくださいよ。ではでは話がついたら再度連絡願います」
で、ものすごくいやそうでむずかしいかおをしてあたくしたちの方を振り返るよめ。
「みんな…すげー頭いてー話だ。比丘尼国側の駐在武官に就任させたい奴がとんでもない頭痛野郎なのがほぼ確定した。とりあえず、そいつが駐在武官に就任してもらえるように説得する作業まで振って来られたんで、まずは説得要員を確保したい。江戸の加賀前田屋敷に尼さんが一人いるが、向こうに話がつきしだいその人を口説きに行くからな」
どんなあまさんなんでしょ。あたくしにむりやり着せるようなあれを着るひとですか。
「違げぇよ! 玄奘さんと同じような感じの姿の人だ。前加賀百万石国国主前田利家の未亡人だよ。んで、前田利益とは一時的な不倫関係にあってな…ちょっと厄介な話ではあるんだよ…」
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マリア「おかみさまー。なんであたしが説得役なんですか…」
おかみ「そないいうてくれるな…あれに言い聞かせるの、誰が出来るんや…」
マリア「直江兼続も上杉景勝もまだ生きてるんでしょ? あの二人のどっちかにやらせたらいいじゃないですか…」
おかみ「そこやねん。米沢で今、上杉が転封されて石高減ってるやろ。それの援助話もせっとでおねがいしたいんや」
マリア「とりあえず英国がおみやげ言うてくれたとして、米沢に牛のつがいを持ち込みますよ」
おかみ「まぁしゃあないなぁ。いえやすには牛のにく食うなとかいらんこと言わさんようにしとく」
マリア「おねげぇします。あとさくらんぼも品種改良品持ち込みます…」
おかみ「りえが聞いたらぎゅうにく弁当を作らせそうなはなしやな…」
べらこ「ねーさん、何でそんなに嫌がってんですか。人間の男でしょ?」
マリア「ある意味菅野さんより更に頑固者なんだよ…しかも偏屈だし…ちょっとこれ高速視覚入力で嫁。それとこれも…あ、絶対に小説の方から先に読めよ。漫画は必ず後にしろ」
べらこ「はいはい(一夢庵風流記と○の慶次全巻を電子書籍で読む)」
マリア「どうだ。あたしの顔色が悪い理由がわかったか」
べらこ「なんかこう…串刺しとかうちの叔父の類似系ですね、このおっさん…」
マリア「史実だけでも頭痛がするだろ…ちなみに痴女皇国世界では野崎知道や半島人三人の家来ではなく、一夢庵風流記準拠の家臣コンビで行くそうだけど…これはあたしからも天の声に依頼しとく。ただでもややこしいおっさんなのに史実通りはもちろん、あの漫画の通りだと更に話がややこしくなるんだよ!…というか、そもそもあんなもん出すなよ!(泣)」
おかみ「れんぽう世界でも実際におったことはおったんやし、あのおっさんが関わってる件がそれなりにあってのぅ…」
マリア「まぁ、米沢にいるだけでも迷惑千万という気もします。前田利益は大和で死んだという話もありますが、その没年直前まで現地で暴れてたとかいう伝説ももも」
べらこ「おかみさまでもいやなひとっているんですか」
おかみ「あれにくらべたらすとくのほうがまだましや…」
べらこ「崇徳院様と比べるくらいなのか…」
マリア「もっと頭が痛い話がある。前田利益って、この話ですら普通の人間カテゴリーだぞ。人外扱いされてねーぞ?」
アルト「おんなずきなのでしょう?」
おかみ「それがな、もてるんや…女に不自由しとらんのやこいつ…」
マリア「それは言えてる。史実でも孫娘が加賀藩の女中頭か何かに就任した名物女性なんだよ。つまり孫を残してるんだ」
べらこ「女を選びそうな人ですよね…」
マリア「とりあえず日本酒だベラ子。獺祭でも呉春でも何でもいいから限定蔵出し大吟醸クラスを大量に買いつけに行くぞ。あと、伽耶琴の複製品があれば買っとくか…それとバレットM82とM95、弾薬込みで」
べらこ「なんで対物狙撃ライフルとか必要なんですか…お酒はまだわかりますし、お琴も何やら関係はありそうだと思いますよ?けどなぜに対物ライフル…」
マリア「もっかい一夢庵風流記をちゃんとよめっ」
べらこ(あー、おみやげにするのね…)
マリア「あとは芳春院様だが、これはあたしが何とかして口説く。しかしなんとかして天の声にはこの話の流れを撤回させたいんだが…」
べらこ「多分無理ですね」
おかみ「すとくすらだしよったからな」
マリア「…今回はあたしがかーさんの代わりに泣く役なのかよ!天の声は覚えとけよ!残りの人生を後悔させてやるからな!」
べらこ「多分無理ですね」
アルト「まぁ、たまにはよめもなかせましょう」
べらこ「そんなねーさんですが、とりあえず次回で本当に泣くかどうかご期待ください」
マリア「頼むからこの展開やめてーっ!(泣)」
「あんたしかいないの!お願いデルフィリーネ!」なんかあさっぱらからからいいあう声がうるさいのですが、何かありましたのでしょうか。
「あーアルトさん、ええとこに来てくれた。ほれ、ベラ子陛下とマリア様の連名で回っていたあれっすよアレ!」と、ダリアが自分の聖環でしょるいを見せてきます。
いえ、見なくともわかります。
あのダリアがどげざをしてまでたのんでいる相手…黒蛇騎士団のときからの副しきかん、デルフィリーネです。
「ですからダリア様…あたしもそりゃお受けしたいのはやまやまですよ? でも流石に比丘尼国に赴任して駐在武官とか、やり抜く自信がががなんですよ…とりあえず土下座されても困りますから、さぁ、お立ちになってくださいよ…」デルフィリーネもしんけんにこまったかおですね。
さてみなさま。
なんでダリアがそこまでこまっているのか。
ダリアがかざす書類、あたくしにも悩みのたねだからです。
「警務局長アルトリーゼ並びに総騎士団長ダリアリーゼは、比丘尼国公使館開設にあたり全騎士より駐在武官を一名選抜せよ。期間は11月中。選任者は教育期間を経て英国公使並びに痴女皇国公使に同行、比丘尼国内よこはめだんじょん市に新設される公使館に赴任駐在勤務とする」
これが、よめからきためいれいです。
「だからあたしは黒蛇黒薔薇ときて、現在は黒薔薇を任せて頂けるまでになりました。これもダリア様あっての抜擢と心に刻んでおりますよ?頂く任務は何があっても挑むが信条ですよ? しかし…戦闘ばかりな黒薔薇上がりに外交騎士が務まるかと…正直自信がないのです…」
「まー確かに今までの黒蛇生え抜きのあんたに頼むのもさー、あたしも正直心苦しいのよ…もっとはっきり言うと、この任務はマリーを回す方が向いてると思っています」
「確かにこれ、マリー向きですよね…」
「しかし、理恵ちゃんが女官長を外れてる今、リエティリーネ女官長の代わりが誰に勤まるかという苦悩と苦渋の選択があってね…あたしとアルトさんには因縁のクライファーネさんを蘇生してまでマリーの抑え役にしないといけなかったくらいなのよ…」
「ダリア様、いえダリア団長のお気持ちは痛いほど良くわかるのです…ですのでやり遂げたい気持ちは満々なのですが、敢えて人事の再考を具申させてください!」
「ちょおおーっと待ったっ」
「困った時のお助け變態仮面参上!」なんかいきなりぱんつかぶったへんたいがふたりあらわれました。…無言ではりせんをふるわせていただきます。
なにをやっとるのですかあんたら。
「アルトてめぇ何しやがる!」
「痛いじゃないですか!」
「おふざけもたいがいにしてください!ただでもこのあいだはていぼうでいもうとを何とかたおせましたがね、マリアさま、あんなせいげん掛けられたらわたくしでもくろうするのですよ?」
「ばっきゃろぅ!あれくらいハンデつけてねぇとアルトの瞬殺で終わるだろ!賭けにならねぇんだよ!」
(賭けてたのですか…)
(あたしはアルトさんに張りました。売店お菓子券10まいげっとぉおおお)
(あたしのお金で買うお菓子は美味いかーっ!)
(…ベラ子陛下、ナディアさんに張ったのか…)
(姉が押し付けたのよ!あたしがアルトさんに張らないとまずいからベラ子はナディアさんに張ってくれって!ムカつくからお菓子券購入費半額出させてますけどね!)
(ちなみにお菓子券は一枚250SOKR…南洋ルピー分のお菓子が買えます。10枚で邦貨換算5千円っちゅうとこですね)
(皇帝なら無尽蔵にお金が使えるわけじゃないんですよ?)
(ちなみにベラ子の皇帝歳費はあたしと同じ三億南洋ルピーだ。月額換算でルピーじゃなくてルーピーな鳥類が貰っていたお小遣いとおおむね同額だなっ)
(なお、ダリアさんの業務報奨金は月額二千万ルピー、アルトさん一千万ルピーです。デルフィリーネさんは危険手当や現地活動費が入ってますけど月額二百万ルピーですね)
(ベラ子陛下…アルト様の方が安いのですが…)
(直接の部下の数とか実業務で変わりますよ。ダリアさんは各騎士団員への慰労や、デルフィリーネさん同様に急な出張が発生した場合のとりあえずの行動費…ダリアさんは黒以外の騎士団の分も含んでいるので高めに設定されています)
(あー、それはお聞きしました。なお、私には黒薔薇騎士団用として一時資金が別に預けられています。最近は紫騎士団と合同でやることも多いのですが、現地の浸透工作で使う賄賂や贈り物…金銀宝石装飾品は戦利品などを保管している中から使う場合が多いので、主に衣料生地ですとか、貴重なお酒や食品などを買うために使う事が多いですね)
(あたくしはおちんぎんでもだりあにまけるのですね…。おちんちんではまけないのですが)
(アルトさん、最近は痴女宮にいる事が多いか、動いた場合に大抵は他の皇族皇配とセットになってますからお金で困る事はあまりないだろうと)
(それとな…アルトが金を必要とする事はほとんどないんだわ…あっても、だいたいジーナ母様かあたしが隣にいる場合が多いからな)
(だからアルトさん、もらったおこづかいがほとんど手付かずだったりします。これがあたしだと半分残ればいい方だったりするんですよ…領収書とか残らない使い方する事も多いですから)
(たのきち時代の名残で経費承認には割とうるさいからな…出納部)
(経費の話が出たついでに言っときますと、紫のサリアンはあたしくらいもらってます。あそこらも飲ませ食わせ握らせに使う費用がバカにならない仕事してますからね)と、ダリアがすぱい活動にはおかねつかうんですよと言いたげなかおでもうします。
(雅美さんも同じくらい欲しいって言ってるけど却下した。連邦社会でやってる闇仕事の上がりを個人資金にするのを認めている代わりに、趣味や薄い本の制作費用とかは個人でまかなってくれというのが理由だ…仕事のために趣味由来の金を使う必要性は理解しているが、出納部に通すとあれなんだこれは何に使ったって説明ややこしくなるぞって言ったら(´・ω・`)ショボーンと納得してたがな!)
「で、やっぱりと言うか駐在武官の選定で困ってんのかよ」けいむぶの応接室のいい方のいすにどかっと座ってるよめがもうします。
もうおわかりかとおもいますが、マリアさまはきほんてきに態度おっきいです。マイレーネ様の前以外では。
(るせぇ…アルトも苦手だろうがよ…呼ぶぞここに…)
(やめてくださいおねがいします)
(しゃーねーなー。真面目に話を聞きなさいっ)
「ですです。青か赤か白を行かせようかとも思いましたが、今はローテーションでしょう。全員均等に近い能力配分なんですよ…」
「確かにこれ向きの紫や黒は流石に抜きづらいわよね…ちょっと待ったねーさん。二人、心当たりがあるわよ」
「誰よベラ子…まさか…」
「だからまさか込みよ。一人はまず、基本的に割とヒマ。精気抜きの仕事も最近は安定してる」と言って、あたくしの肩をがっしとつかむべらこ陛下。…あの…。
「でぇ、もう一人はこの人の妹さん。比丘尼国の土地勘はあるし詳しい。紺碧騎士団は凛ちゃん任せで国土交通本部の海事部に代わりを用意しさえすれば引き抜き可能」
「確かにナディアさんの方が外あたりはいいけどよ…あと、これは永久任務じゃねーよな」
「ふふふふふ。もちろんです。それとねーさん、警務部には話してない件があるでしょ…」
「あ!あれか…あれがまた頭いてーんだよ…」
「とりあえずその話もしておかないとダメでしょ。あとナディアさん呼ぶわよ」とせんげんなさるべらこ陛下。やはりははおやがあの人ですから、おそい仕事をいやがりはるようです。
「で…まさか…どちらかが国使をやれと…」応接室でこーひーをいただきながらいもうとが申します。あ、これはどちらがめんどうか値ぶみしてますね。いやな方をあねに押し付けようと考えているかおです。
(ちがいますっ。確かにそれはありますが、かと言って姉様に不得手な方をさせて失敗するとですね、痴女皇国の沽券にかかわるのです。姉様一人のアホなやらかしではすまないのですよ?)
「まったく…九鬼から誰か呼びつけましょうか?現地採用を認可頂ければあたくしが仕込みますが…」
「まぁそれは最後の手段にしようぜ。とりあえず痴女皇国内で公使を選定しなくちゃならん。実はだな、横浜駐在公使は飾りでもいいんだよ」
えええええ。
何でまたというかおでみながよめを見ます。
「比丘尼国の総本山の元伊勢…大江山にベルテファーネがいるだろベルくん。うちに来てる外道丸ちゃんと同じ扱いの。あれがうちの公式大使兼任者だよ」
「ならなんでおつかいをよこはめに」
「あー、アルトは比丘尼国の政治体制についてあんま知らねーのか。しゃーねーな…まず、八百比丘尼国は八百萬神族の勅命を受けた朝廷が治める神治国家だ。これはわかるな」
「で、その政府が東京と京都と大江山に別れているとは聞きましたけど」べらこ陛下が言われますが、よめがひていします。
「京都御所、つまり朝廷は人間向けの行政機関なんだわ。で、八百萬神族向けの行政の総本山が元伊勢で、伊勢や出雲、宇佐に熱田と言った有名どころの神社で地域統治している。この神社は鬼や天女やもののけの行政機関を兼ねているからな。人魚だけはちょっと別で、九鬼水軍・村上水軍・舞鶴商会と舞鶴興業が仕切っているが、実働部隊は瀬戸組の仕事だ。これはナディアさんならわかるな」
「はい。うちは元々陸から海に出ましたので、瀬戸組とは昔あれこれあったのは聞いておりますが、現在は一応は地域分担で協力関係を組ませてもろうております」
「うん。で、問題は人間向けなんだわ…ベラ子、おめーは三河監獄国の国主様に会ったからわかるだろうが、あそこの上、江戸…東京と京都のどっちだ?」
「えーと…京都!」
「正解だが不正解ってとこかな。話が少々ややこしくなるんだが、あっちにゃ江戸城と江戸の町があるだろ。実は朝廷だけで政治をやってしくじった事があって、武士と呼ばれる軍人階級が独自の官僚制度を敷いて実態統治に乗り出した歴史がある。これは比丘尼国も日本も同じだが…こっち側、つまり痴女皇国のある地球じゃ関ヶ原の戦いや大阪城の取り合いは発生してないんだわ。おかみ様が介入して豊臣政権から徳川政権に禅譲させてる。で、禅譲された徳川家康…例の焼き味噌タヌキが江戸幕府を開いた」
「江戸幕府を開いたのは連邦世界と一致してますね」
「ただ、豊臣政権側にも公務を言い渡していて、西方管領として関ヶ原から西の監督職を預けてるんだわ。そして豊臣秀頼は存命だが、徳川方の誰かの娘さんを貰って徳川との血縁を結ぶべしと元伊勢から通告受けてる。京都じゃなくて元伊勢が言ってる時点で、これ破ったら豊臣も徳川も潰すからなって話だな」
「ふむふむ。その辺ちょっと違いますよね」
「で、三河は知っての通り徳川家康の出身地だが、あのおっちゃんも色々あって信長の時代に既に江戸を開拓して三河から移住することを命じられてんだわ。ちなみに家康に江戸を渡せという勅命に逆らった北条はその時に取りつぶされてる…で、家康の代わりの統治役だけど、三河国の興隆政策として罪人島流しの代わりに強制労働施設を建設しろって勅命出されて、地元出身で徳川家家臣の国主を選任させた。これが監獄国の興りだ」
「つまり、江戸幕府と関連性はあるけど、朝廷の意向が強く入った国だと」
「そーゆーこった。最終的に西方管領も徳川血縁にすることで徳川家組み込みにして幕府に全国を統治させるのが元伊勢の意向だが、幕府もあくまで征夷大将軍の位を京都御所から授かって、武家という軍人官僚組織が朝廷の代わりに全国を委任統治してる形態を維持させてんだ。要は武士がしくじったら代わりを用意するよってこった。連邦世界での江戸幕府ほど、こっちは強い組織にさせてないんだよ」
「なるほど。つまり大使を派遣するほど重要な外交拠点を作らなくていいと」
「そーゆーこと。むしろ、うちらが公使館を置くのは英国公使を護衛するのと、横浜港を整備させて鉄道建設のための拠点整備を促す意味合いが強いんだ。…もっとも…現状だと…多分、エマ子かあたしが神田山を切り崩す手伝いとか保土ヶ谷あたりの丘陵地を崩してベイサイドエリアを埋め立てる必要性があると思うぞ…」そう言って聖環で画像を見せるよめ。
「これ連邦歴0195年の東京駅周辺な。このでかいのが皇居。で…」全員があっけにとられます。
「東京駅のあるところが海だ…」
「えどとやらのほとんどが原野じゃないですか!」
「…こりゃ、マリア様が飾りでいいって言う訳だ…まず街作りからですよ…」
「でな…よこはめ…いや横浜がもっとひでーんだわ…」
「なんじゃこれー!」再び、よめいがい全員ぜっきょう。
「み、港のみの字もない…まだ熊野や鳥羽や答志島の方がましですよ!」
「漁村らしきはあるにはありますけど」
「それいぜんに、えきの向こうがわが海ですよ…これはよめがうめたてるというわけですね…」
「という訳だ諸君。江戸城だけは何とか、ある程度の形にはなって来ているが…その他が全然なんだよ。んで、おかみ様の要望は二つ」
「あの方はまた何を言うのか…ブラ◯ガス貸し出し申請書の用意が必要ですか、ねーさん」
「あ、そこまで無理難題じゃねーよ。まず一つ目は、一応関西人のあたしには我慢ならねーけど、江戸幕府はこの時代まだ出来たてほやほやで、あのタヌキも生きてて二代目に将軍の位を譲ってねぇんだ。しかも元伊勢介入で豊臣家を攻め滅ぼす事を禁じられてる。で、その代わりに元伊勢と協調して幕府の軍事的な後ろ盾をして欲しい。これが一点」
「ふむふむ。要はとくがわ政権が安定するまで、連中に逆らう奴を代わりに殴ると」
「もしくは殴るふりでしょうね。正直…九鬼のお家も豊臣方…つまり、江戸幕府の敵に回ってはいるのですよねぇ」
「なもんで、豊臣秀頼に西方探題の地位を確約する代わりに徳川家血縁に加えて臣従することを納得させるのも任務に入ってんだよなぁ。そして二つ目が江戸城並びに江戸市街地の整備。約300年後…つまり連邦世界史での明治維新までに江戸を百万都市以上の規模にして欲しい。そして、比丘尼国朝廷と元伊勢から徳川幕府への強制指示で関東八州…現在の関東平野を徳川家に期間300年で租借契約を結ばせてるんだ。ただ、租借料は無料。つまり幕府からは金を取らないが、その代わりに開発してくれって事だな」
「幕府からは朝廷に税金とか納めてるんですか?」
「一応貢納金はある。ただ、今回はタヌキにも不利な条件を色々飲ませてるし、うちら…比丘尼国はもとより痴女皇国にも将来的な利益が見込めるから、300年分の貢納金を痴女皇国が肩代わりする」
「えええええ…大丈夫なんですか?」
「安心しろベラ子。既に担保は抑えてるよ。別子銅山に生野金山に佐渡に足尾に…国内の主要鉱山は北海道から沖縄まで今は石ころや土以外は出てこねぇ。金銀銅鉄錫鉛ウラン、大抵のものはエマ子に頼んで先に抽出してるんだ」
「なんか痴女皇国開闢当時、あたしらが暴れたよりも更に手口が悪どくなってる気が…」
「資源総取りとはまた思い切りましたね…」
「あの監獄国へのらいぶふれんど屋のやらかしがなきゃウチも介入なんかしまへんでした。元伊勢の許可があってやらせていただきましたので悪しからず。ただ…」
「その鉱物資源に何かありますね」
「ほれ、連邦地球より資源量が少ない問題よ。加えて銀山と銅山は採鉱や選鉱精錬工程で有毒な副産物が特に発生しやすいだろ?だから例によって他所から持ち込んだ鉱物資源で期待量を確保してるんだよ。しかも精錬済みのやつをな…あーまた持ち出しだよ!名目赤字が累積してるってクレーゼ母様に嫌味言われるよ…」
「デルフィリーゼ様はOK出してましたよ」
「まぁ、お祖母様は痴女皇国開いた時から、あたしのやってる事をきちんと理解してくれてるからな…でなきゃデルフィリーネ、あんたに名前貸さねぇよ」
「は、はいっ!」
「ま、連邦世界での江戸幕府のミスは財政管理が人治主義かつ武士階級が主導しすぎた事や税率設定エトセトラ、色々あっからな。これを改善するにはまず年貢米制度から脱却させて、せめて金本位制度主体の貨幣経済に移行させとく必要性があるだろ。でなきゃ江戸末期の銀の海外大量流出なんかで起きた財政崩壊が防げねーんだ」
「え」
「あの…比丘尼国って…お金…使ってないんですか?貨幣とか硬貨とか」
「使ってますよ!…まぁ、わたくしも鳥羽に移り住み九鬼に嫁いでから知ったのですが、比丘尼国での年貢…税はお米で納めるのが基本だそうです…そりゃ元々鯖挟国でも魚や貝や真珠で納める事はありましたけど…」
「まー、ナディアさんが驚くのも無理はねぇ。そしてもう一つ問題なのが納税された側だ。実は米相場ってのに左右されちまうんだよな…税収入」
「ああ、だからおこめやおしおをためこんでいるのですね。おめこも」
「こらアルト。ま、最後はともかくとして、うちの国の地下倉庫を拡張して備蓄資材にしてるのは理由があんだよ、米に小麦粉に塩」
「あー…非常食!」
「そそ。塩は人体には必要な栄養素だからな。発汗…汗かいたりしたら抜けちまうし、大量は不用だが必ず外部から補給しなきゃならねぇものだ。そして、うちの国で貯め込んでる理由は、友好国に災害が起きたりして炊き出しの必要が生じた時の支援物資だと思ってくれ。痴女種が主体ならあれだけ貯めとく必要はねーからよ…で、ベラ子…お前、世界史総合科目で江戸時代の経済に関して習ったか?」
「ちょっとだけですねぇ。大阪で年貢米を売り捌いてたってのはどこかの参考書に記載されていた記憶がありますけど」
「じゃ、そこだな…実は江戸時代に世界初、それも大規模な先物取引の市場が形成されてたんだよ。それが大阪の堂島米会所だ。実際に先物取引をやり出したのは五代目将軍、徳川綱吉…あの生類憐令を出した犬フェチ公方の時代なんだ」
「ふむふむ。ジェネラーレ・ツナヨシは存じております。マモーネだったという我が胸が痛む話も」
「まぁ、マザコン云々はいいだろ、とにかく先物取引をやり出した際の問題の一つが、収穫できると見込まれた年貢米が必ず市場に拠出できる事を前提にした、一種の危険な博打になってしまったんだよな…イタリア連合公国で言うと、デステさんの元に納めるべき税を…例えば小麦粉の現物で払おうとしたとしようか。で、小麦粉の現物が蔵に在庫されている事を証明する小切手…米切手って紙切れで支払ってたんだけど、その現物が今はないけど翌年に収穫可能だってのを前提にして、領地整備の土木工事なんかで使う経費を稼ごうと小切手を切りやがる地方領主がいたと思ってくれ。それも一人や二人じゃないんだ」
「それ…一種の借金じゃないですか!」
「あと、お米の売買価格って変動するんですよね? だったら現物が収穫される前にそんな取引なんかしちゃったら、ある種の賭博が成立しません?」
「ああ、ベラ子もダリアも正解だ。ナディアさん…あんたも米廻船の話は知ってるんじゃないかな?」
「えー…富田浦…マリア様には白浜と申した方が分かりやすいですかね。あそこの廻船業者が手掛け始めてましたよ」
「そう。とりあえず話がややっこしくなるからはしょって言うけど、今の比丘尼国でも連邦世界の日本史同様に、ある程度の現物納税を必要としていて、その現物が米っていう重くて保管場所を取る代物だってのをみんな認識してくれな。で、その米をお金に換える場所の一つがさっき言った堂島の米会所なんだが、そこで変えたお金ってどんなんだと思う? 金貨とか銀貨とか銅貨とか」
「まりあさまがわざとひんとをだすというか答えをゆうどうしている気がします」
「なんかその貨幣の種類を言うところにものすごい罠が潜んでいる気が」
「あたくしは今の比丘尼国で年貢を取り立てたり上貢する家にいた立場ですので、マリア様が何を申されたいか理解しておりますので黙っておりますよ」と、どやがおの妹ですが、そのかおを見ておりますと、何故かむしょうにおかしたくなります。
「えーとな、ベラ子。金銀複本位制度ってわかるか。連邦世界のイタリアじゃなくて、るっきーの実家とかメディチのやってる銀行とかでもこれの計算してるはずだぞ」
「えー…と。あ、金100グラムが銀何グラム分になるかの換金相場ですか」
「そそ。これを1:6.5くらいの比率に定めたのが金銀比価って概念で、鯖挟国の前身だったビザンツ帝国の辺りで考えられて広まったんだ。今でもあたしらが掘ってなきゃ、金ってのは銀より更に貴重なので、一般市民の使う貨幣として使用するには不向きなんだよ。ナディアさんちでも小判とか大判っていう板状の金貨、支払いに使ってたかい?」
「いいえ。基本的には銅銭または銀。そして金で決済したり、金を銀や他のものに換えたり取引の代金にする場合は、塊か砂金を大坂あたりの両替商に持ち込んで、取引に必要な分量の重さを計ってもらうのですよ。例えば金一両を必要とする場合の金の重さだと四匁五分だったかな。太閤様が褒美に下さった大判金でしたら義隆様や守隆様のお手元にあるにはありますが、一種の褒賞品…勲章のようなものですからねぇ」
「ええええええ!小判とか使ってないんですか?」
「ベラ子…小判を作り出して貨幣として広めたのは江戸幕府の治世下だ…それまでは金はあまりにも高価で貴重だから貨幣として一般流通する事すらはばかられたんだよ…。そして実はだな、日本の銀のせいで連邦世界の当時のイタリアも被害にあってたんだけどよ」にやにやしながらよめが申します。
「え?その時のイタリアって、連邦の世界だとまだ統一されてませんよね? それでもって日本の近所にはせいぜい探検に来たくらいで貿易とかやってませんよね? 日本に何かされたんですか?」
「いや、さっき言った銀が問題なんだ。実は戦国時代から江戸時代前期にかけて、対中・対欧貿易を推進した日本の地方領主のせいで大量の銀が日本からヨーロッパに持ち込まれたんだよ。その結果として、ヨーロッパ中に大規模なインフレの嵐が吹き荒れた。そして、対中・対日貿易に直接関与していなかったイタリア半島内諸公国がそれをモロに食らって没落を招いたんだ。連中はメディチや南ドイツ…ハプスブルグ由来の銀山からの産出銀を原資にして取引してたからな…」
「うげげげげ。つまり、ねーさんが世界各地の銀、とりわけ日本やスペインが植民地にする筈だった南米や、果てはドイツの銀山まですっからかんにしてしまった理由って…」
「ああ、正にこれ防止のためだよ。ちなみに連邦世界のスペイン王国も南米の巨大銀山三つも抑えてて、おっそろしい量の銀を欧州に持ち込んでんだ。それで同じようなインフレデフレの嵐を再度巻き起こしてる。だからイザベルさんが何を言おうが、絶対に何がなんでもボリビアのポトシやメキシコのサカテカスとグアナファトは日本同様、空っぽにしとかなきゃならなかったんだよ」
「それってあたくしたちがおたからをどくせんしているようにみえるのでは」
「で、アルトの疑問に答えよう。さっき、大阪の堂島で米の取引をしてたって言ったよな」
「はい」
「じゃあ聞くけどよ。仮にそのお米を買うために銀で買い物したとしよう。アルトの手元にゃいっぱい銀があるだろ。その銀で堂島のお米を全部買い占めて痴女皇国に持ち帰ったらどうなる」
「にほんのおこめがなくなります」
「よし、じゃあ、日本の人はお米がなくなったらみんな何を食べたらいいんだろうな」
「あ…あ!そういうことですか…」
「そそ。スペインが買ったのはお米じゃないんだけど、他のいろんなもので似たような事をしでかしたんだ。そして、お金があるのに買いたいものがないとか売ってくれないとかいう事になったわけよ」
「あー、それでねーさんは米や小麦や塩について価格統制をかけようとしてるんですね」
「んだ。これは連邦社会の現代日本でもやってる事だよ。かつては塩は専売公社っていう国が金を出して作った公営企業だけでしか売買できなかったり、お米についても政府が売買価格を決めたり備蓄米を確保したりして、冷害や台風・地震で予定通りに米が収穫できなかった場合に備えているんだ。他の国でもコメじゃあなくて小麦粉とかになるけど、人間の生命に関わる上にむやみに買い占められて値段が上がったりすると困るものについては何らかの統制をかけてるところが圧倒的なのさ」
「ねーさんの考えはわかりました。しかし…それで実際にモノが不足したらどうします?」
「んなもんウチの備蓄があるし、それに最終兵器の一つをあたしらは持ってる…と言うかいらっしゃるだろ、ロン毛さん」
「あのひとなんかできたんですか」
「踏み絵作られて踏まれてそうですけど」
「なんかこう、パンチさんにくらべてありがたみが少ないと言うか何と言うか」
「みんなひでーな…あの人、一応救世主だぞ…で、ロン毛さんはかつて押し寄せる民衆に対してパンや魚を無尽蔵に増やして配ったことがあるだろーがよ。あの力を使えばお米や小麦粉の一万トンや二万トン位すぐ調達できるよ…ただ、こっちから精気を渡してやる必要はあっけどな」
「…あの食べ物を増やす能力ですか…」
「そそ。ただし、あの能力は迂闊に使って欲しくないという事でね。最終的にあの人の処刑を見過ごしてる理由も…あそこまでの奇跡をリミッター無しに顕現させる必要性は連邦世界では認められなかったってこったな」
(ねーさん。それ、ロン毛さんに干渉できる存在がいるって事じゃないですか…自分で自分の言っておられること、理解されてますよね?)
(たりめーだ。だがなベラ子。あたしやあんたの存在理由にも関わってくるんだけどよ。…以前、ジーナ母様がピレネー県ルルドに行かせたがってたの覚えてるかい? フランスのあそこだ。いずれあんたとあたしはあそこに行く必要があるっぽいんだ。ま、それは今詰める必要がある話じゃないし、流石にこの子たちに聞かせる必要性がある話でもない。まずは比丘尼国駐在公使と武官選任だ)
(りょうかいー)
「でぇ、比丘尼国の政治体制の話だな。要は江戸幕府の統治に協力することと、年貢米などの物流手段を持つことへの協力エトセトラエトセトラ。ただし、物流については比丘尼国朝廷主導で既に街道整備が進んでる。江戸幕府の正当性や統治補助についても朝廷が担保するから、痴女皇国としてはそれに随時協力する形となる。で、公使と駐在武官の仕事は、さっき言った通り、江戸の開発に際しての欧州側の技術提供の元締めとなる英国と協調して江戸の開発を助けること。それから、幕府の正当性を担保する軍事力の提供だ。このうち軍事力の提供は…千万卒が一人いるだけで可能になるだろ」
「ですね。百万卒ですら可能でしょう。今のあたくしですら、充分に軍事力担保をまかなうことが出来ますよ。ですのでデルフィリーネ様ならもっと確実です」
「ふーむ…となると、はっきり言えば誰かが江戸という町を襲うまでは公使館に座ってるだけでも武官業務は果たせるように聞こえるのですが」
「実際には軍事や政治のアドバイザーとして、ちっとは意見を言ってもらうかも知れないけど、表立ってのその役割はパークスさんやサトウさんって人の仕事だ。それと、日本の調査をしたいと言ってる調査官のイザベラ・バードっていうお姉さんのサポートだな…ちょっと待ってくれ。おかみ様からだ…はい、マリアリーゼですけど…ふむ。英国公使館の日本側駐在武官の選定については幕府側も難儀をしてると。…こっちも誰を行かせるかすったもんだしてる最中ですがな。…で、横着タヌキがまたぞろ何か言うてるんですか?はぁ。あの国替えで文句言い倒した挙句に白河攻めだの最上義光と大喧嘩したりの反抗しまくる跳ねっ返りをなんとかして欲しいと。あれに比べたら伊達政宗の方が遥かに大人しいですって…まぁそりゃそうでしょ。あのおサルさんの無理言いで会津統治やらされた挙句に政権交代時にお前伊達と交代して米沢なとか言われたら格下げ確定じゃないですか。連邦社会の方でもあの米沢転封の前後で散々暴れ倒してんですよ、上杉」
(なんか揉めてません?比丘尼国側でも…)
(んだな。もうちょい待て。話を詰めるから)
「ええ。で…参勤交代はさすがにそちらやうちらが見張る以上は無駄遣いだから阻止するとして、ふむ…上杉の江戸屋敷に直江兼続さん来させるけど、米沢藩でうるさいのを一緒に来させて大人しくさせようとしたけど名目出家してるんだからわざわざ江戸だの横濱だのに行く気はないとゴネてるから説得してくれ? 嫌ですよあたし…この時代の直江の近習やら関係者でうるさいのって水原親憲か前田利益の二人くらいじゃないですか…特に後ろの説得なんて絶対嫌っすからね…えー。前田利益ですか? あれこそ超難物で偏屈で傾奇者の極みな野郎じゃないっすか…はぁ…え?言うこと聞かせる方法がある? 徳川家康にも加賀前田家にも了承も取ってる? 本当でしょうね?…わかりました。江戸の前田屋敷でおまつ様に会えばいいんですね? でもあの人、徳川家に人質として送られる際に出家してませんでした? ああやっぱり、芳春院様になってんですね。了解了解…ま、とりあえずやってみますわ。あたしとベラ子と…それとアルトとダリアがとりあえず行きますって事で前田屋敷に一報入れといてくださいよ。ではでは話がついたら再度連絡願います」
で、ものすごくいやそうでむずかしいかおをしてあたくしたちの方を振り返るよめ。
「みんな…すげー頭いてー話だ。比丘尼国側の駐在武官に就任させたい奴がとんでもない頭痛野郎なのがほぼ確定した。とりあえず、そいつが駐在武官に就任してもらえるように説得する作業まで振って来られたんで、まずは説得要員を確保したい。江戸の加賀前田屋敷に尼さんが一人いるが、向こうに話がつきしだいその人を口説きに行くからな」
どんなあまさんなんでしょ。あたくしにむりやり着せるようなあれを着るひとですか。
「違げぇよ! 玄奘さんと同じような感じの姿の人だ。前加賀百万石国国主前田利家の未亡人だよ。んで、前田利益とは一時的な不倫関係にあってな…ちょっと厄介な話ではあるんだよ…」
----------------------------------------------
マリア「おかみさまー。なんであたしが説得役なんですか…」
おかみ「そないいうてくれるな…あれに言い聞かせるの、誰が出来るんや…」
マリア「直江兼続も上杉景勝もまだ生きてるんでしょ? あの二人のどっちかにやらせたらいいじゃないですか…」
おかみ「そこやねん。米沢で今、上杉が転封されて石高減ってるやろ。それの援助話もせっとでおねがいしたいんや」
マリア「とりあえず英国がおみやげ言うてくれたとして、米沢に牛のつがいを持ち込みますよ」
おかみ「まぁしゃあないなぁ。いえやすには牛のにく食うなとかいらんこと言わさんようにしとく」
マリア「おねげぇします。あとさくらんぼも品種改良品持ち込みます…」
おかみ「りえが聞いたらぎゅうにく弁当を作らせそうなはなしやな…」
べらこ「ねーさん、何でそんなに嫌がってんですか。人間の男でしょ?」
マリア「ある意味菅野さんより更に頑固者なんだよ…しかも偏屈だし…ちょっとこれ高速視覚入力で嫁。それとこれも…あ、絶対に小説の方から先に読めよ。漫画は必ず後にしろ」
べらこ「はいはい(一夢庵風流記と○の慶次全巻を電子書籍で読む)」
マリア「どうだ。あたしの顔色が悪い理由がわかったか」
べらこ「なんかこう…串刺しとかうちの叔父の類似系ですね、このおっさん…」
マリア「史実だけでも頭痛がするだろ…ちなみに痴女皇国世界では野崎知道や半島人三人の家来ではなく、一夢庵風流記準拠の家臣コンビで行くそうだけど…これはあたしからも天の声に依頼しとく。ただでもややこしいおっさんなのに史実通りはもちろん、あの漫画の通りだと更に話がややこしくなるんだよ!…というか、そもそもあんなもん出すなよ!(泣)」
おかみ「れんぽう世界でも実際におったことはおったんやし、あのおっさんが関わってる件がそれなりにあってのぅ…」
マリア「まぁ、米沢にいるだけでも迷惑千万という気もします。前田利益は大和で死んだという話もありますが、その没年直前まで現地で暴れてたとかいう伝説ももも」
べらこ「おかみさまでもいやなひとっているんですか」
おかみ「あれにくらべたらすとくのほうがまだましや…」
べらこ「崇徳院様と比べるくらいなのか…」
マリア「もっと頭が痛い話がある。前田利益って、この話ですら普通の人間カテゴリーだぞ。人外扱いされてねーぞ?」
アルト「おんなずきなのでしょう?」
おかみ「それがな、もてるんや…女に不自由しとらんのやこいつ…」
マリア「それは言えてる。史実でも孫娘が加賀藩の女中頭か何かに就任した名物女性なんだよ。つまり孫を残してるんだ」
べらこ「女を選びそうな人ですよね…」
マリア「とりあえず日本酒だベラ子。獺祭でも呉春でも何でもいいから限定蔵出し大吟醸クラスを大量に買いつけに行くぞ。あと、伽耶琴の複製品があれば買っとくか…それとバレットM82とM95、弾薬込みで」
べらこ「なんで対物狙撃ライフルとか必要なんですか…お酒はまだわかりますし、お琴も何やら関係はありそうだと思いますよ?けどなぜに対物ライフル…」
マリア「もっかい一夢庵風流記をちゃんとよめっ」
べらこ(あー、おみやげにするのね…)
マリア「あとは芳春院様だが、これはあたしが何とかして口説く。しかしなんとかして天の声にはこの話の流れを撤回させたいんだが…」
べらこ「多分無理ですね」
おかみ「すとくすらだしよったからな」
マリア「…今回はあたしがかーさんの代わりに泣く役なのかよ!天の声は覚えとけよ!残りの人生を後悔させてやるからな!」
べらこ「多分無理ですね」
アルト「まぁ、たまにはよめもなかせましょう」
べらこ「そんなねーさんですが、とりあえず次回で本当に泣くかどうかご期待ください」
マリア「頼むからこの展開やめてーっ!(泣)」
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