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警務部おしごと帖・アルトとダリアの多忙?な日・1
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「みなさん、わたくしたちがひまと思っておられませんかね」
「その可能性はありますよアルトさん」
「なんで多忙の後ろにぎもん符とやらがつくのか。いっぺん泣かしに行ったりましょうか」
「言っておきますが皆様。あたくしもおりましてこのざまなのですよ」
なにやら久々ですがアルトリーゼどす。みなさまあたくしの存在を忘れてはおられませんでしょうか。
さて、いつものあたくし節ですと聞き取りにくいという方もいらっしゃるかも知れませんね。ここは一つ、アルトリーネ襲名当時の初心に立ち返りがんばってみましょう。
で、またまた改築された痴女宮のうち、修学宮や修学寮については雅美さんがお話しになると思いますので、あたくしは主に罪人寮と工場の変更についてお話しさせていただきましょうか。
その前に美男公からたっち交代した新・罪人頭をご紹介しておきましょう。
本日はこの新しい罪人頭とともに、瀬戸の凛ちゃんと我が妹ナディアに加えまして、クレーゼ様の娘さんのスザンヌ様、そしてジーナ様の娘さんのマリアンヌ様と、ベラ子陛下のご学友4名をあたくしとダリアでご案内する予定になっています。
で、痴女宮21階から新しく作られた渡り廊下を通って女官寮21階に。この一角に警務部の事務室がありまして、あたくしやダリアはここが拠点になります。
そして全員集合して21階東側のげーとに向かいます。
さて、ここからが罪人寮。みなさまで言う刑務所となります。
ただし…かねてから話が出ております通り、痴女皇国預かりの罪人は「やればやるほど自由が増える」たいせいになっております。
しかも20階や21階ともなりますと金や銀色の罪環をつけた幹部罪人が与えられた個室や、罪人寮管理室が入っておりますので、まず罪人側で警備されています。
ですので騎士側で厳しくしなくてもよい、むしろ国を離れておつとめ中の罪人には第二のふるさとのように思ってもらおうという方針が出されています。
工場ですと、安全のためにもきびしい所は厳しくしないといけませんが、それ以外ではわたくし達に相談しやすくする環境を作っておく事で、むやみに反抗しないようにする狙いがあるそうです。
そんなわけで、罪人寮に繋がる渡り廊下の警備も銀色罪環の罪人と、黒がんつ服の警備騎士が1名ずつ。それもりっしょう…立って警備ではなく、ゲート横の詰所に座っています。
もっとも罪人警備員はすぐ立てる位置に座っていて、あたくし達のような一団が来たらすぐに出迎えられるようにしてくれておりますが。
「あ、アルトリーゼ閣っ…アルトさんにダリアさん、罪人寮見学ですね、話は来ております。今、出迎えの者を呼びましたから少々お待ちください」はい、なぜ罪人警備が口調を変えたかですが、これは痴女宮幹部と罪人幹部とのていきてきな話し合いの中で、あたくし達の方から提案したことです。
どうせ警務で罪人寮や工場に行けば親しくやっているのですから、よほどの公式行事や他国要人のしさつがあった場合以外は敬称なしでいいですよ、と。
「まぁ最近は罪人寮警務事務所、あたしが入る事が増えたせいもあるんですが、新しい罪人頭があの人でしょ」
「前の美男公からひゃくはちじゅう度変わったと評判の…」
「罪人からの評価はいいんですが、見た目があれですからなぁ」
「せめてヒゲをお切りなさいとは申しましたが、あれが俺の生命だと言い張りますからねぇ」
「話せばわかる人なんですが、いかんせん見た目が…見た目が…」まぁ、お会いした時に指導しましょう。
で、罪人警務事務所兼・罪人管理室。
罪人のおしごと、どこの工場で誰に何をさせるかですとか、報酬のおしはらいの金額を決めたり「誰それに今月はいくら」と作業報奨金をしきゅうする額をけいさんしたでんし書類を出納部に送ることをしています。
他にも入ってきた罪人を誰と誰と誰につけて暮らさせるとか、誰がどの仕事をどのくらい覚えて能率はこれこれ、などなどしているのが、厚労部付けの女官と罪人の事務方。つまり、罪人が罪人を取り仕切っています。
これはあたくしが罪人と組んで警務をやっていたり、はたまた罪人工場や寮の警備をしていた頃から変わりません。基本的に罪人同士でめんどうをみあいます。あ、ほもる訳ではありませんのでおまちがいのないように。
そして、罪人同士のもめごとですとか、工場でケガをしたりものを壊したり、はたまた警備のおしごとで門前町や淋の森を回っている最中に二人では処理できないできごとがあった際に、応援として駆けつける当番騎士が何人か詰めています。ただ、待ってるだけでなくて警備騎士との組み合わせとか、はいち計画も担当していますよ。
つまり、罪人管理室には必ず騎士や女官が何人かいるのです。
罪人の自治は認めていますが、のばなしにはしていないよ。これがうちのよめの言い分です。
そして、罪人頭執務室。個室です。
ですが、目下の頭は美男公と交代したばかりでして、監督役兼秘書役がついています。そしてみならい騎士も…。
「なぁ、オマリー陛下…これくらい良いじゃねぇかよ…」
「ダメです!わらわももはや見習い騎士扱い!海賊仲間時代とは事情が違うのです!世話になった恩義は感じていますが、それ込みでこの数字なのを納得なさい!」
「ボニー…リード…おめーらも何か言ってやってくれよ!俺ぁ能率ってのか、その基準の数字に従って生産予測を出しただけじゃねぇか!」
「うるせぇ…あたしらもグレース様と立場は同じなんだよ…おめーからすりゃ罪人扱いされてないだろうけどよ…その分めっちゃくちゃきつくやられてんだぞ?」
「一日でいい、一日でいいからマリーさんの下についてみろ…ティーチ…あんたに手心を加えるのがどんな恐ろしい罪になって返ってくるか理解できるからよ…」
なるほど、罪人頭と監督騎士がもめているのですね。
で、言い合ってるれんちゅうに声をかけます。
「おやおや何をいいあらそっているのですか」
「はっ、アルト閣下、ダリア団長…この数字をご覧下さい」
「あ、ちょっち待った。黒ひげの旦那。あんた、工場管理からの公告回覧見てる?木材加工の基準値変更案内出てるよ?この生産見通し、前月までの基準値でしてるでしょ。んで見通し作成のマニュアルに載ってる方法そのままだとエラーが出るから手作業で修正してね。んで、女王陛下もエラーの原因見てから言ってあげてね?」と、手慣れたかんじでダリアが関連するでんし書類を見てまちがいをしてきしています。
「ほれほれこれこれ。比丘尼国送りにする毒林檎材対応の加工切断機が今週末から本稼働するから、配備工場は試験稼働時の工作成果を基準にして作業量見積もりしてねってあるっしょ。この数字を基準にして、旦那の書類をこう直すとですね…ほれ、陛下の持ってる生産見込み報告の基準内に収まったっしょ?」
「あーほんとだ…」
「うわー姉御すげー」
「で、今は工場設備の機械導入や入れ替えが割とあるから、以前の美男公の時の数字で計算適当に進めたら、こんな感じで騎士監査の際にあれーなんやこれーと警告が出てしまうのよ。で、執務監査役の陛下がなんじゃこれという話になったり、あるいは今みたいにボニーやメアリーがちょっと待てや黒ひげてめぇって押しかけて来るとかさ、こうして怒られるって絵図になんのよ」
「ううう、てっきりこの数字でやればいいと教えられたから…」
「まーまー、動力機械だし、安全処置やら運転手順が完全に定まってないからね。その辺はマリーが行ってあれこれして最終的な数字決めてくれるから、そんときは元来の計算手順でやっていいのよ。ただ、今はあくまでテスト導入だから、普通に書類作らないでねって話になってんの。陛下もあんたらも、黒ひげがまだ不慣れなんだからさ、その辺を加味して注意したげてね。こういう場合、この手の連絡漏れや見落としが原因の可能性があるからさ、ボニーもメアリーもめくら滅法に黒ひげが悪いと決めてかかってやっちゃダメよ?」
「へい!姉御!」
「あたしらも迂闊でした!」
「で、ティーチとオマリー陛下はさ、必ずこうした回覧に目を通すこと。特に、自分の関係してるところから出た回覧や稟議書のたぐい、絶対にちゃんと読むのを忘れないようにしてね。そしてボニー・アンとメアリー・リード。あんたらも騎士見習い中なんだし、仕方ないと言えば仕方ないっしょ。…たださぁ、マリーが担当じゃない時にこれが起きたの、全員、神様かロン毛さんかパンチさんに感謝すること!」
「それだけで団長のお説教が天使のお言葉に聞こえまする」
「ああ、よく考えてみりゃ、これ、あたしらもチェック不行き届きを指摘されるぜ…」
「堤防は嫌、堤防は嫌なの…」
「え」
「ちょちょちょ、ちょい待ちリード…」いきなりダリアがうろたえはじめます。
しかしこれはダリアがうろたえてせいかいなのです。それが証拠に、ダリアがマリーにあせって聞いていますから。
(マリー…あんた百人卒を堤防に連れ出したの? 騎士教育規定が変更されてさ、堤防は千人卒以上って決まってから何年経ったのよ…頼むからもうちょっとお手柔らかにして!厳しくやりすぎたら指導女官や指導騎士が逆に監査食らうのよ!後でアルトさんについて堤防一時間ね!)
ぎゃああああお許しをという声が聞こえた気がするのですが、あたくしはしりまへん。
あたくしはダリアの指示にしたがってしばくだけです。
しょうぐんと名前はついておりますが、実際にあれこれやってるのはダリアなのです。
「まーまーアルトさんもそないスネないで!だいたいこの方針決めたのマリア様でしょ?苦情はマリア様に言うべきですよっ」
「そりゃそーですけどねーダリアー」
「ええ、姉様がこの手の細かい事が苦手なの、妹のあたくしがよく存じております。父も申しておりました。サレルフィールに網を扱わせるな、と」
「なでぃあー。あなたはなにをばらすのですかーこんなばしょでー」
「それはともかく皆さん方、ちょっと学生さんの視察の話をですなっ」凛ちゃんがいかってますのでしかたありまへん。しまい丼は後で。マリーをしばく前にあねいもうとで決着をつけましょう。
ちなみにあたくしと凛ちゃんだと、数字の上ではあたくし圧勝なのですよ。
ですが、前にマリーが鬼化した際のはなしを思い出してくださいませ。
あたくしども騎士は時間の進み方でずるをする、と言うのがそれです。
一方、鬼さんたちはげどうちゃんのほんまのすがたでわかりますとおり、正味の身体のちからではやく動きます。
ですので、アレーゼ様が身体を鍛えにきたえていたのは正解なのです。
あたくしたち同士の戦いではあまり意味がありませんが、てんにょや人魚を含む鬼族あいてには、体力そのものの力もようきゅうされるのです。
ですので、凛ちゃんが何かする前にあたくしが何か出来れば圧勝ですが、少しでも向こうが早く動けた場合や、ながちょうばの勝負になりますと凛ちゃんに勝ち目が出てきます。
で…その欠点はアレーゼ様に知れ渡っておりまして。
「アルトは半年間筋トレ一日二時間。サボったら欧州地区本部出向1ヶ月だ。がんばれ」といいわたされております。ええ。すいすにどんなへんたい…いえ、誰がおられるかはごぞんじでしょう。
睨まれたり書類を読まれただけでしにかけるのに、この上きたえる最中に死にかけるとかはいやです。
あたくしアルトリーネ、アルトリーゼになってもあのお方だけはどうしても、どうしてもにがてなのです!
「まぁ…アルトさんは仕方ないわよ。アルトさんだし」
「マリアンヌに同感。あたくしも小さい頃からアルトさんをよく知ってますけど、やはりデジタルデバイスに慣れない方だと言うのはよくわかりますの。マリア姉と組ませるのはぜったい条件なのですわ」と、マリアンヌ様とスザンヌ様に言われてしょぼーんなあたくしです。
「え?二人ともお知り合いなの?」
「えええええ」
「そりゃ、ダリアとあたくしって、痴女宮になるどころか、それ以前の聖院宮時代からここにいるんですよ…見た目がとしをとらないだけで」
「ぶっちゃけアルトさんは、マリア様が0歳の頃からのお付き合いなのです。今はここにありませんが、ドゥブルヴェと言う戦闘機の後ろの席を経験しているのはおんとし○十歳の証拠でででででいたいいたいいたい」
「ダリアもにたようなものでしょうが。まぁ…おじょうさま達のねんれいを考えるといいたくはないのですが、あたくしとダリア、痴女種が女官種だった時代からのにんげんなのです」
「つまり、具体的に言うと今みたいに女官にちんちんなかったときからね」
「うん。よくわかるわね」
「そそそそそそこまで言うのですかっ。なんかお嬢様方、このお年から貫禄がすげぇんですが…」
「まぁなんですね。マリアンヌさまはジーナさまとクリスさまのおこ様。スザンヌさまはクレーゼさまとたかぎ義夫さま…ジーナさまの実のお父様とさいこんされた際のおこさまなのです」
「そりゃ、この組み合わせ…スザンヌ様はまだしも、マリアンヌ様ってマリア様…アルトさんの嫁はんのマリアさんね。その方と同じおとーさんにおかーさんですからねぇ」
「ひえー。なんかものすごく納得できるぜ…」
「マリア様の妹さんってのがよくわかるわ」
「王族の貫禄を感じます」と、もと海賊三人が評価を。
「ところでティーチ。今日は学生のかたを罪人寮と工場しさつするわけですが、どこを見せていただけるのでしょうか」
「へい。すけじゅーるとやらはこんなかんじで」
「どれどれ。んー、アルトさん、こんなもんで良いんじゃないですか」
「そうですね、今日来られたかたがたならばこれだけ見せていただければ罪人寮や罪人のおしごとを理解いただけるかと」実はこれ、半分おしばいです。そりゃ事前にどこみたいとか、この際だからあそこ見といてとやりとりした上で決めたおはなしなのでして。
「ではご案内させて頂きやす。皆さんどうぞ」とは言え、頭になりたての黒ひげではしょうじきドキドキものでしょう。
(あなたのくんれんもかねておりますから。ですから見知ったかいぞく上がりの騎士やわたくしどもだけにしております。直接の部下を付けていないから恥さらしにはなりませんよ)と安心もさせておきましょう。あたくし達は見て回って説明するだけなら罪人ぬきでも可能ですが、ここで暮らす罪人に話を聞くことが学生さんには大事なのです。そして自分たちのしごとをきちんと説明することを覚えてもらう。これは黒ひげや他の罪人にして欲しいことになりますね。
さて、このティーチですが、じつは聖院世界でつかまった海賊黒ひげそのひとです。
しかし経営者やせいじかの素質があるということから、鍛えてやるなら聖院より痴女宮の方がいいんじゃないかというはなしになりまして。
で、顔見知りがいた方がよいだろうと、海賊女王やおんな海賊二人と共にけんしゅうに来ております。
で、よてい。
まずは罪人寮のつくりを見て回ります。
上級の罪人…金色や銀色の罪環をつけた罪人は個室があてがわれます。二人組でないのはもめると困るのもありますが、罪人同士で話をすると悪いことを考える可能性があるからだそうです。
あまり広いお部屋ではありませんが、にほんをご存知の方にうかがってみまひょ。
「黒ひげさんの部屋だと、だいたい天王寺でまりあ姉が使ってる…元かーさんの部屋の半分未満」「あたくしやマリアンヌの部屋くらいかしら」
「ティーチさんの部屋で2LDK。金が学生ワンルーム、銀が独房または監獄国の寮レベル」
「囚人という事を考えるとまぁまぁじゃないですか」
「地球だともっと豪華な刑務所の紹介動画とか見たことありますけど、収容期間が比較的短い罪人寮ではこんなものでは」
「冷房がよく効いていますね。確か建物そのものが水冷だと聞きましたが」
「この冷房とやらがそもそも有難いんですよ。ほら、海賊時代の俺らの船、船長室以外は地獄みたいなもんだから…なるべく甲板に出させたりしてましたがねぇ。これだけでも楽園だな」
「女官寮も冷房ガン効きだぜ。…とにかく水風呂だけど風呂に毎日とか水浴びしょっちゅうやれって意味がよくわかったぜ。カリブより暑さがこたえるんだよ、ここ」
「あたしはアンと同室だけどさ、まぁ広さはともかく暮らしそのものは悪くないんだよ。ただ…片付けてないとめっちゃ怒られる。これは海賊時代、逆にあたしらが野郎共を怒鳴ってやらせてたから理由はわかるんだけどね」
「あた…わたくしは何故か一人部屋なのですが」
「あー…海賊女王の場合はわかります。グレースさん、あなたに一人で自分の身の回りの事をやらせたいからでしょう。聖院の方のダリアからそんな通知が来てたし、マリーもあなたを一人にしたの早かったでしょ?」と、ダリアがおっさいます。
「だよねー、いや、ここに来たらシャバの身分は関係ないとか言われたんだけどさ、理由聞いてあーなるほどなーと」
「逆にあたいらがついてやらねぇと大丈夫なのかよとも思ったんだけど、掃除洗濯も訓練のうちらしいからさ」
「ま、海賊時代はわたしもそれなりに苦労したからね。罪人の扱いも含めてそれなりに考えてるよなーとは思うね」
あ、そうそう。このおんな海賊三名も女官ぎょうむはありますから、身だしなみを整えさせるのはもちろん、若がえりもさせていますよ。
「黒ひげの旦那にはあまりピンとこねーだろーけどよー」
「この若返りが女にゃものすごく有難てぇんだよ…」
「だから黒ひげ、お前もヒゲをもう少し伊達男風に整えなさい。せっかくの引き締まった体が台無しですよ」
「そーそー。モンテ・クリスト伯って感じで」と、こうこうせい組がいけてるおひげを紹介しています。
そして、えれべーたーで10階に。
ここから下は収監されてあまり日がたっていない罪人のおへやばかりです。4人部屋がきほんですね。
「早ければ1年から2年で個室に上がりますね。だいたいの平均は3年から5年くらい」
「ダリアさんやマリーさんの話を聞いてよ、そんな短い刑期でいいのかと思ったけどな…ここは罪環の色が変わるとほんとに待遇が変わるからな。そりゃみんないい子にする筈だぜ」
「下足処が使えるのがでかいらしいね」
「ああ、だから黒や鉄のままじゃ肩身が狭いんだよ…仲間内の自慢話にも加われねぇからな。不憫に思った他の奴が助けていいのは仕事だけ、金の貸し借りはできねぇから、出世するしかねぇのさ」と、自分の罪人用聖環を見せながら黒ひげがもうします。
「贅沢だけじゃねぇ。これは俺の考えだがよ、ここを出てくにに帰るなりよそに行くなりするなら、何かしらの元手は必要だろうよって言ってんのよ。自分で商いが出来なくても商売のタネを売り込むくらいはできるだろ。役人や軍人上がりにしても…猟官ってのか。てめぇを売り込むために服やら何やら整えた方が受けがいいに決まってんじゃねぇか。女に入れ込むのは稼いでからでも遅くはないんだってな」
これなのですよ、アレーゼ様が黒ひげを気に入ったりゆう。
このおとこはかいぞくをビジネス…しょうばいのように考えていて、手下とは一種のけいやくをむすんだしごと仲間であるとしていました。
これ、この時代ではものすごく新しい考え方でして、船なら船長なり船主と船員がたいとうの立場に立つことになります。
さらに男とは何ぞやを説き、たてまえとしては女はかいぞく船に乗せないなどですね、おんなの人にでれでれしないようしつけていたり、アレーゼ様好みの考えをしんじょうとして守るように生きているのが気に入っているとか。
(アルトさんやナディアさんならわかるだろ。海の上じゃ男は自由、陸の掟なんざクソ喰らえだ。だが海は厳しいからみんなで生き延びるためには掟を守らざるを得ない。それを陸にもあてはめりゃ、人は自由だけど雇われたらその間は契約に従う。騙されたくなきゃ契約の中身を見ろやって話ができるんじゃねぇかな)
(やくざもんの掟とは少しちゃいますけど、黒ひげの言い分は確かに筋が通ってまんな)
(水軍で教えている話と大筋ではたがいませぬ。ただ、身分制度というものがあるや無きやで変わる話ではございますね)
(確か、黒ひげさんたち海賊の考えがさ、議会制民主主義やブルジョワ系市民台頭に繋がるんですよね…マリアンヌちゃんやスザンヌちゃんは中学校の社会科…歴史から始まるからね、この辺の話が教科書に出てくるのは)
(へ? 俺の考えが世の中の主流?何だよそれ)
(えーとね、海賊さんたちって、投票で何か決めたりとかやってたでしょ。で、海賊捕まえて取り調べたり、海賊を取材して本を書いた人が、なるほど海賊社会の方が合理的なこともしてるなと世に紹介したりで、一般社会にも投票や議決権って権利が広まるきっかけの一つになったのよ)
(ただティーチさん。取り締まりを受けたから分かると思いますけど、基本的に海賊は強盗だからね?イギリスとフランスやスペインが戦争あるいは準戦時状態で仲劇悪だったからドレイクさんもいいぞやれやれって感じで国王に後押ししてもらえただけだからね?)
(この基本的な考えを無視すると財産権という個人の権利をないがしろにする事になっちゃうから、その辺は注意が必要よっ)
(現実は漫画のように海賊王に俺はなれないのよ…男のロマンを潰すのはかわいそうだけど、宇宙の海は俺の海じゃないの…)と、黒ひげがどやがおする前に学生さんたちがしゅうちゅう砲火をあびせています。こんかいの学生さんたちはなかなかやりますね。
(今の書生さんたちはなかなか強ぅおますなぁ)
(いや凛ちゃん。九鬼でもこれくらいは言いのやりのしないと人は従いませんでしたよ…姉のように殴る蹴る辱める晒すも大概ですが!)
(ですからナディアフィール、あの時はあいつらがですね…)
(あたくしある意味後で苦労しましたのですよ?サレルフィールが消えたなら浜の天下は俺のもんだと来た奴をですね、片端から殴る蹴る叩きのめすとやるしかなかったのですから!)
(やはりアルトはんの家系はやくざ向きですなぁ…ぺるしゃ湾に組作りまへんか)
(言いたくねぇんですけどね。銀色の連中に聞いた注意事項。ダリアさんには人の話は通じるが、アルトさんに言うときには注意、まず冷静に聞いてもらう環境を作ってからにした方がよいと…)
(だれですか。あたくしをぼうりょく女あつかいするのは。クレーニャやマリーよりましだとじふしておるのですが…)
(アルトさん…メーテヒルデさんと同列ってかなり評価悪いっすよ…何でクレーニャさん鯖挟国担当なのか聞いてないんですか)
(よめからは他に担当がいないからと)
(ほら、メーテヒルデさんが故郷で何と言われていたか…)
(いのしし公女、でしたか)
(日本には猪突猛進という言葉があるそうですが、ちょうど北側の北方帝国や鬼汗国くずれの国々へ突撃して暴れ倒すのに向いてるからだって、マリアさんもマイレーネさんも乳上もマリーも合意しまして…あたしも稟議にはんこ押すしかありませんでした。ええ。アルトさんめくら判で承認回したでしょ!)
(鬼汗国ってこっちだとモンゴル騎馬兵団だよね…)
(あの東ヨーロッパを荒らし回ったの…)
(あれを一人で抑えるのか…)
(今更ながらに痴女種ってすげーとしか思えません)
(あら、常識よ)
(うちの母だと中原龍皇諸国殴り倒してますわね、ゴビ砂漠から満州まで)
(え…スザンヌちゃんのお母様ってクレーゼ財務部長…)
(お祖母様が復活したから釣り合い取らせてってマリア姉様に泣きついてましたからね)
(うん…現役金衣当時の能力に戻されてるから、今のアルトさんと同じくらいはあるわね…強さ。加えてあの性格)
(ひいいいいい!あたくし当分財務には近寄りたくないです!)
(あー、アルトさん、銀衣の時はクレーゼ様とあれこれあったからなー。あ、警務局の予算承認稟議、局長が財務局に提出ですからね、そろそろ出しといてくださいね)
(だりあさんのえがおがとってもすてき)
(なんだろうこの女同士の微妙な関係)
(ダリア…お願いですからあたくしにもつかれはてたくない時があるのです!あなたがわたしてください!)
(二人の仲は悪くないのです。ただね、クレーゼ様を知らない人に一言でいいますとね、金衣時代から口よりまずこれ。これの人でした)と、自分のがんつふくを指差してますよ、ダリア。
だからこそ、いきたくないのですよ!
…デルフィリーゼ様がいる時をねらうのも大変なんですからね!
「その可能性はありますよアルトさん」
「なんで多忙の後ろにぎもん符とやらがつくのか。いっぺん泣かしに行ったりましょうか」
「言っておきますが皆様。あたくしもおりましてこのざまなのですよ」
なにやら久々ですがアルトリーゼどす。みなさまあたくしの存在を忘れてはおられませんでしょうか。
さて、いつものあたくし節ですと聞き取りにくいという方もいらっしゃるかも知れませんね。ここは一つ、アルトリーネ襲名当時の初心に立ち返りがんばってみましょう。
で、またまた改築された痴女宮のうち、修学宮や修学寮については雅美さんがお話しになると思いますので、あたくしは主に罪人寮と工場の変更についてお話しさせていただきましょうか。
その前に美男公からたっち交代した新・罪人頭をご紹介しておきましょう。
本日はこの新しい罪人頭とともに、瀬戸の凛ちゃんと我が妹ナディアに加えまして、クレーゼ様の娘さんのスザンヌ様、そしてジーナ様の娘さんのマリアンヌ様と、ベラ子陛下のご学友4名をあたくしとダリアでご案内する予定になっています。
で、痴女宮21階から新しく作られた渡り廊下を通って女官寮21階に。この一角に警務部の事務室がありまして、あたくしやダリアはここが拠点になります。
そして全員集合して21階東側のげーとに向かいます。
さて、ここからが罪人寮。みなさまで言う刑務所となります。
ただし…かねてから話が出ております通り、痴女皇国預かりの罪人は「やればやるほど自由が増える」たいせいになっております。
しかも20階や21階ともなりますと金や銀色の罪環をつけた幹部罪人が与えられた個室や、罪人寮管理室が入っておりますので、まず罪人側で警備されています。
ですので騎士側で厳しくしなくてもよい、むしろ国を離れておつとめ中の罪人には第二のふるさとのように思ってもらおうという方針が出されています。
工場ですと、安全のためにもきびしい所は厳しくしないといけませんが、それ以外ではわたくし達に相談しやすくする環境を作っておく事で、むやみに反抗しないようにする狙いがあるそうです。
そんなわけで、罪人寮に繋がる渡り廊下の警備も銀色罪環の罪人と、黒がんつ服の警備騎士が1名ずつ。それもりっしょう…立って警備ではなく、ゲート横の詰所に座っています。
もっとも罪人警備員はすぐ立てる位置に座っていて、あたくし達のような一団が来たらすぐに出迎えられるようにしてくれておりますが。
「あ、アルトリーゼ閣っ…アルトさんにダリアさん、罪人寮見学ですね、話は来ております。今、出迎えの者を呼びましたから少々お待ちください」はい、なぜ罪人警備が口調を変えたかですが、これは痴女宮幹部と罪人幹部とのていきてきな話し合いの中で、あたくし達の方から提案したことです。
どうせ警務で罪人寮や工場に行けば親しくやっているのですから、よほどの公式行事や他国要人のしさつがあった場合以外は敬称なしでいいですよ、と。
「まぁ最近は罪人寮警務事務所、あたしが入る事が増えたせいもあるんですが、新しい罪人頭があの人でしょ」
「前の美男公からひゃくはちじゅう度変わったと評判の…」
「罪人からの評価はいいんですが、見た目があれですからなぁ」
「せめてヒゲをお切りなさいとは申しましたが、あれが俺の生命だと言い張りますからねぇ」
「話せばわかる人なんですが、いかんせん見た目が…見た目が…」まぁ、お会いした時に指導しましょう。
で、罪人警務事務所兼・罪人管理室。
罪人のおしごと、どこの工場で誰に何をさせるかですとか、報酬のおしはらいの金額を決めたり「誰それに今月はいくら」と作業報奨金をしきゅうする額をけいさんしたでんし書類を出納部に送ることをしています。
他にも入ってきた罪人を誰と誰と誰につけて暮らさせるとか、誰がどの仕事をどのくらい覚えて能率はこれこれ、などなどしているのが、厚労部付けの女官と罪人の事務方。つまり、罪人が罪人を取り仕切っています。
これはあたくしが罪人と組んで警務をやっていたり、はたまた罪人工場や寮の警備をしていた頃から変わりません。基本的に罪人同士でめんどうをみあいます。あ、ほもる訳ではありませんのでおまちがいのないように。
そして、罪人同士のもめごとですとか、工場でケガをしたりものを壊したり、はたまた警備のおしごとで門前町や淋の森を回っている最中に二人では処理できないできごとがあった際に、応援として駆けつける当番騎士が何人か詰めています。ただ、待ってるだけでなくて警備騎士との組み合わせとか、はいち計画も担当していますよ。
つまり、罪人管理室には必ず騎士や女官が何人かいるのです。
罪人の自治は認めていますが、のばなしにはしていないよ。これがうちのよめの言い分です。
そして、罪人頭執務室。個室です。
ですが、目下の頭は美男公と交代したばかりでして、監督役兼秘書役がついています。そしてみならい騎士も…。
「なぁ、オマリー陛下…これくらい良いじゃねぇかよ…」
「ダメです!わらわももはや見習い騎士扱い!海賊仲間時代とは事情が違うのです!世話になった恩義は感じていますが、それ込みでこの数字なのを納得なさい!」
「ボニー…リード…おめーらも何か言ってやってくれよ!俺ぁ能率ってのか、その基準の数字に従って生産予測を出しただけじゃねぇか!」
「うるせぇ…あたしらもグレース様と立場は同じなんだよ…おめーからすりゃ罪人扱いされてないだろうけどよ…その分めっちゃくちゃきつくやられてんだぞ?」
「一日でいい、一日でいいからマリーさんの下についてみろ…ティーチ…あんたに手心を加えるのがどんな恐ろしい罪になって返ってくるか理解できるからよ…」
なるほど、罪人頭と監督騎士がもめているのですね。
で、言い合ってるれんちゅうに声をかけます。
「おやおや何をいいあらそっているのですか」
「はっ、アルト閣下、ダリア団長…この数字をご覧下さい」
「あ、ちょっち待った。黒ひげの旦那。あんた、工場管理からの公告回覧見てる?木材加工の基準値変更案内出てるよ?この生産見通し、前月までの基準値でしてるでしょ。んで見通し作成のマニュアルに載ってる方法そのままだとエラーが出るから手作業で修正してね。んで、女王陛下もエラーの原因見てから言ってあげてね?」と、手慣れたかんじでダリアが関連するでんし書類を見てまちがいをしてきしています。
「ほれほれこれこれ。比丘尼国送りにする毒林檎材対応の加工切断機が今週末から本稼働するから、配備工場は試験稼働時の工作成果を基準にして作業量見積もりしてねってあるっしょ。この数字を基準にして、旦那の書類をこう直すとですね…ほれ、陛下の持ってる生産見込み報告の基準内に収まったっしょ?」
「あーほんとだ…」
「うわー姉御すげー」
「で、今は工場設備の機械導入や入れ替えが割とあるから、以前の美男公の時の数字で計算適当に進めたら、こんな感じで騎士監査の際にあれーなんやこれーと警告が出てしまうのよ。で、執務監査役の陛下がなんじゃこれという話になったり、あるいは今みたいにボニーやメアリーがちょっと待てや黒ひげてめぇって押しかけて来るとかさ、こうして怒られるって絵図になんのよ」
「ううう、てっきりこの数字でやればいいと教えられたから…」
「まーまー、動力機械だし、安全処置やら運転手順が完全に定まってないからね。その辺はマリーが行ってあれこれして最終的な数字決めてくれるから、そんときは元来の計算手順でやっていいのよ。ただ、今はあくまでテスト導入だから、普通に書類作らないでねって話になってんの。陛下もあんたらも、黒ひげがまだ不慣れなんだからさ、その辺を加味して注意したげてね。こういう場合、この手の連絡漏れや見落としが原因の可能性があるからさ、ボニーもメアリーもめくら滅法に黒ひげが悪いと決めてかかってやっちゃダメよ?」
「へい!姉御!」
「あたしらも迂闊でした!」
「で、ティーチとオマリー陛下はさ、必ずこうした回覧に目を通すこと。特に、自分の関係してるところから出た回覧や稟議書のたぐい、絶対にちゃんと読むのを忘れないようにしてね。そしてボニー・アンとメアリー・リード。あんたらも騎士見習い中なんだし、仕方ないと言えば仕方ないっしょ。…たださぁ、マリーが担当じゃない時にこれが起きたの、全員、神様かロン毛さんかパンチさんに感謝すること!」
「それだけで団長のお説教が天使のお言葉に聞こえまする」
「ああ、よく考えてみりゃ、これ、あたしらもチェック不行き届きを指摘されるぜ…」
「堤防は嫌、堤防は嫌なの…」
「え」
「ちょちょちょ、ちょい待ちリード…」いきなりダリアがうろたえはじめます。
しかしこれはダリアがうろたえてせいかいなのです。それが証拠に、ダリアがマリーにあせって聞いていますから。
(マリー…あんた百人卒を堤防に連れ出したの? 騎士教育規定が変更されてさ、堤防は千人卒以上って決まってから何年経ったのよ…頼むからもうちょっとお手柔らかにして!厳しくやりすぎたら指導女官や指導騎士が逆に監査食らうのよ!後でアルトさんについて堤防一時間ね!)
ぎゃああああお許しをという声が聞こえた気がするのですが、あたくしはしりまへん。
あたくしはダリアの指示にしたがってしばくだけです。
しょうぐんと名前はついておりますが、実際にあれこれやってるのはダリアなのです。
「まーまーアルトさんもそないスネないで!だいたいこの方針決めたのマリア様でしょ?苦情はマリア様に言うべきですよっ」
「そりゃそーですけどねーダリアー」
「ええ、姉様がこの手の細かい事が苦手なの、妹のあたくしがよく存じております。父も申しておりました。サレルフィールに網を扱わせるな、と」
「なでぃあー。あなたはなにをばらすのですかーこんなばしょでー」
「それはともかく皆さん方、ちょっと学生さんの視察の話をですなっ」凛ちゃんがいかってますのでしかたありまへん。しまい丼は後で。マリーをしばく前にあねいもうとで決着をつけましょう。
ちなみにあたくしと凛ちゃんだと、数字の上ではあたくし圧勝なのですよ。
ですが、前にマリーが鬼化した際のはなしを思い出してくださいませ。
あたくしども騎士は時間の進み方でずるをする、と言うのがそれです。
一方、鬼さんたちはげどうちゃんのほんまのすがたでわかりますとおり、正味の身体のちからではやく動きます。
ですので、アレーゼ様が身体を鍛えにきたえていたのは正解なのです。
あたくしたち同士の戦いではあまり意味がありませんが、てんにょや人魚を含む鬼族あいてには、体力そのものの力もようきゅうされるのです。
ですので、凛ちゃんが何かする前にあたくしが何か出来れば圧勝ですが、少しでも向こうが早く動けた場合や、ながちょうばの勝負になりますと凛ちゃんに勝ち目が出てきます。
で…その欠点はアレーゼ様に知れ渡っておりまして。
「アルトは半年間筋トレ一日二時間。サボったら欧州地区本部出向1ヶ月だ。がんばれ」といいわたされております。ええ。すいすにどんなへんたい…いえ、誰がおられるかはごぞんじでしょう。
睨まれたり書類を読まれただけでしにかけるのに、この上きたえる最中に死にかけるとかはいやです。
あたくしアルトリーネ、アルトリーゼになってもあのお方だけはどうしても、どうしてもにがてなのです!
「まぁ…アルトさんは仕方ないわよ。アルトさんだし」
「マリアンヌに同感。あたくしも小さい頃からアルトさんをよく知ってますけど、やはりデジタルデバイスに慣れない方だと言うのはよくわかりますの。マリア姉と組ませるのはぜったい条件なのですわ」と、マリアンヌ様とスザンヌ様に言われてしょぼーんなあたくしです。
「え?二人ともお知り合いなの?」
「えええええ」
「そりゃ、ダリアとあたくしって、痴女宮になるどころか、それ以前の聖院宮時代からここにいるんですよ…見た目がとしをとらないだけで」
「ぶっちゃけアルトさんは、マリア様が0歳の頃からのお付き合いなのです。今はここにありませんが、ドゥブルヴェと言う戦闘機の後ろの席を経験しているのはおんとし○十歳の証拠でででででいたいいたいいたい」
「ダリアもにたようなものでしょうが。まぁ…おじょうさま達のねんれいを考えるといいたくはないのですが、あたくしとダリア、痴女種が女官種だった時代からのにんげんなのです」
「つまり、具体的に言うと今みたいに女官にちんちんなかったときからね」
「うん。よくわかるわね」
「そそそそそそこまで言うのですかっ。なんかお嬢様方、このお年から貫禄がすげぇんですが…」
「まぁなんですね。マリアンヌさまはジーナさまとクリスさまのおこ様。スザンヌさまはクレーゼさまとたかぎ義夫さま…ジーナさまの実のお父様とさいこんされた際のおこさまなのです」
「そりゃ、この組み合わせ…スザンヌ様はまだしも、マリアンヌ様ってマリア様…アルトさんの嫁はんのマリアさんね。その方と同じおとーさんにおかーさんですからねぇ」
「ひえー。なんかものすごく納得できるぜ…」
「マリア様の妹さんってのがよくわかるわ」
「王族の貫禄を感じます」と、もと海賊三人が評価を。
「ところでティーチ。今日は学生のかたを罪人寮と工場しさつするわけですが、どこを見せていただけるのでしょうか」
「へい。すけじゅーるとやらはこんなかんじで」
「どれどれ。んー、アルトさん、こんなもんで良いんじゃないですか」
「そうですね、今日来られたかたがたならばこれだけ見せていただければ罪人寮や罪人のおしごとを理解いただけるかと」実はこれ、半分おしばいです。そりゃ事前にどこみたいとか、この際だからあそこ見といてとやりとりした上で決めたおはなしなのでして。
「ではご案内させて頂きやす。皆さんどうぞ」とは言え、頭になりたての黒ひげではしょうじきドキドキものでしょう。
(あなたのくんれんもかねておりますから。ですから見知ったかいぞく上がりの騎士やわたくしどもだけにしております。直接の部下を付けていないから恥さらしにはなりませんよ)と安心もさせておきましょう。あたくし達は見て回って説明するだけなら罪人ぬきでも可能ですが、ここで暮らす罪人に話を聞くことが学生さんには大事なのです。そして自分たちのしごとをきちんと説明することを覚えてもらう。これは黒ひげや他の罪人にして欲しいことになりますね。
さて、このティーチですが、じつは聖院世界でつかまった海賊黒ひげそのひとです。
しかし経営者やせいじかの素質があるということから、鍛えてやるなら聖院より痴女宮の方がいいんじゃないかというはなしになりまして。
で、顔見知りがいた方がよいだろうと、海賊女王やおんな海賊二人と共にけんしゅうに来ております。
で、よてい。
まずは罪人寮のつくりを見て回ります。
上級の罪人…金色や銀色の罪環をつけた罪人は個室があてがわれます。二人組でないのはもめると困るのもありますが、罪人同士で話をすると悪いことを考える可能性があるからだそうです。
あまり広いお部屋ではありませんが、にほんをご存知の方にうかがってみまひょ。
「黒ひげさんの部屋だと、だいたい天王寺でまりあ姉が使ってる…元かーさんの部屋の半分未満」「あたくしやマリアンヌの部屋くらいかしら」
「ティーチさんの部屋で2LDK。金が学生ワンルーム、銀が独房または監獄国の寮レベル」
「囚人という事を考えるとまぁまぁじゃないですか」
「地球だともっと豪華な刑務所の紹介動画とか見たことありますけど、収容期間が比較的短い罪人寮ではこんなものでは」
「冷房がよく効いていますね。確か建物そのものが水冷だと聞きましたが」
「この冷房とやらがそもそも有難いんですよ。ほら、海賊時代の俺らの船、船長室以外は地獄みたいなもんだから…なるべく甲板に出させたりしてましたがねぇ。これだけでも楽園だな」
「女官寮も冷房ガン効きだぜ。…とにかく水風呂だけど風呂に毎日とか水浴びしょっちゅうやれって意味がよくわかったぜ。カリブより暑さがこたえるんだよ、ここ」
「あたしはアンと同室だけどさ、まぁ広さはともかく暮らしそのものは悪くないんだよ。ただ…片付けてないとめっちゃ怒られる。これは海賊時代、逆にあたしらが野郎共を怒鳴ってやらせてたから理由はわかるんだけどね」
「あた…わたくしは何故か一人部屋なのですが」
「あー…海賊女王の場合はわかります。グレースさん、あなたに一人で自分の身の回りの事をやらせたいからでしょう。聖院の方のダリアからそんな通知が来てたし、マリーもあなたを一人にしたの早かったでしょ?」と、ダリアがおっさいます。
「だよねー、いや、ここに来たらシャバの身分は関係ないとか言われたんだけどさ、理由聞いてあーなるほどなーと」
「逆にあたいらがついてやらねぇと大丈夫なのかよとも思ったんだけど、掃除洗濯も訓練のうちらしいからさ」
「ま、海賊時代はわたしもそれなりに苦労したからね。罪人の扱いも含めてそれなりに考えてるよなーとは思うね」
あ、そうそう。このおんな海賊三名も女官ぎょうむはありますから、身だしなみを整えさせるのはもちろん、若がえりもさせていますよ。
「黒ひげの旦那にはあまりピンとこねーだろーけどよー」
「この若返りが女にゃものすごく有難てぇんだよ…」
「だから黒ひげ、お前もヒゲをもう少し伊達男風に整えなさい。せっかくの引き締まった体が台無しですよ」
「そーそー。モンテ・クリスト伯って感じで」と、こうこうせい組がいけてるおひげを紹介しています。
そして、えれべーたーで10階に。
ここから下は収監されてあまり日がたっていない罪人のおへやばかりです。4人部屋がきほんですね。
「早ければ1年から2年で個室に上がりますね。だいたいの平均は3年から5年くらい」
「ダリアさんやマリーさんの話を聞いてよ、そんな短い刑期でいいのかと思ったけどな…ここは罪環の色が変わるとほんとに待遇が変わるからな。そりゃみんないい子にする筈だぜ」
「下足処が使えるのがでかいらしいね」
「ああ、だから黒や鉄のままじゃ肩身が狭いんだよ…仲間内の自慢話にも加われねぇからな。不憫に思った他の奴が助けていいのは仕事だけ、金の貸し借りはできねぇから、出世するしかねぇのさ」と、自分の罪人用聖環を見せながら黒ひげがもうします。
「贅沢だけじゃねぇ。これは俺の考えだがよ、ここを出てくにに帰るなりよそに行くなりするなら、何かしらの元手は必要だろうよって言ってんのよ。自分で商いが出来なくても商売のタネを売り込むくらいはできるだろ。役人や軍人上がりにしても…猟官ってのか。てめぇを売り込むために服やら何やら整えた方が受けがいいに決まってんじゃねぇか。女に入れ込むのは稼いでからでも遅くはないんだってな」
これなのですよ、アレーゼ様が黒ひげを気に入ったりゆう。
このおとこはかいぞくをビジネス…しょうばいのように考えていて、手下とは一種のけいやくをむすんだしごと仲間であるとしていました。
これ、この時代ではものすごく新しい考え方でして、船なら船長なり船主と船員がたいとうの立場に立つことになります。
さらに男とは何ぞやを説き、たてまえとしては女はかいぞく船に乗せないなどですね、おんなの人にでれでれしないようしつけていたり、アレーゼ様好みの考えをしんじょうとして守るように生きているのが気に入っているとか。
(アルトさんやナディアさんならわかるだろ。海の上じゃ男は自由、陸の掟なんざクソ喰らえだ。だが海は厳しいからみんなで生き延びるためには掟を守らざるを得ない。それを陸にもあてはめりゃ、人は自由だけど雇われたらその間は契約に従う。騙されたくなきゃ契約の中身を見ろやって話ができるんじゃねぇかな)
(やくざもんの掟とは少しちゃいますけど、黒ひげの言い分は確かに筋が通ってまんな)
(水軍で教えている話と大筋ではたがいませぬ。ただ、身分制度というものがあるや無きやで変わる話ではございますね)
(確か、黒ひげさんたち海賊の考えがさ、議会制民主主義やブルジョワ系市民台頭に繋がるんですよね…マリアンヌちゃんやスザンヌちゃんは中学校の社会科…歴史から始まるからね、この辺の話が教科書に出てくるのは)
(へ? 俺の考えが世の中の主流?何だよそれ)
(えーとね、海賊さんたちって、投票で何か決めたりとかやってたでしょ。で、海賊捕まえて取り調べたり、海賊を取材して本を書いた人が、なるほど海賊社会の方が合理的なこともしてるなと世に紹介したりで、一般社会にも投票や議決権って権利が広まるきっかけの一つになったのよ)
(ただティーチさん。取り締まりを受けたから分かると思いますけど、基本的に海賊は強盗だからね?イギリスとフランスやスペインが戦争あるいは準戦時状態で仲劇悪だったからドレイクさんもいいぞやれやれって感じで国王に後押ししてもらえただけだからね?)
(この基本的な考えを無視すると財産権という個人の権利をないがしろにする事になっちゃうから、その辺は注意が必要よっ)
(現実は漫画のように海賊王に俺はなれないのよ…男のロマンを潰すのはかわいそうだけど、宇宙の海は俺の海じゃないの…)と、黒ひげがどやがおする前に学生さんたちがしゅうちゅう砲火をあびせています。こんかいの学生さんたちはなかなかやりますね。
(今の書生さんたちはなかなか強ぅおますなぁ)
(いや凛ちゃん。九鬼でもこれくらいは言いのやりのしないと人は従いませんでしたよ…姉のように殴る蹴る辱める晒すも大概ですが!)
(ですからナディアフィール、あの時はあいつらがですね…)
(あたくしある意味後で苦労しましたのですよ?サレルフィールが消えたなら浜の天下は俺のもんだと来た奴をですね、片端から殴る蹴る叩きのめすとやるしかなかったのですから!)
(やはりアルトはんの家系はやくざ向きですなぁ…ぺるしゃ湾に組作りまへんか)
(言いたくねぇんですけどね。銀色の連中に聞いた注意事項。ダリアさんには人の話は通じるが、アルトさんに言うときには注意、まず冷静に聞いてもらう環境を作ってからにした方がよいと…)
(だれですか。あたくしをぼうりょく女あつかいするのは。クレーニャやマリーよりましだとじふしておるのですが…)
(アルトさん…メーテヒルデさんと同列ってかなり評価悪いっすよ…何でクレーニャさん鯖挟国担当なのか聞いてないんですか)
(よめからは他に担当がいないからと)
(ほら、メーテヒルデさんが故郷で何と言われていたか…)
(いのしし公女、でしたか)
(日本には猪突猛進という言葉があるそうですが、ちょうど北側の北方帝国や鬼汗国くずれの国々へ突撃して暴れ倒すのに向いてるからだって、マリアさんもマイレーネさんも乳上もマリーも合意しまして…あたしも稟議にはんこ押すしかありませんでした。ええ。アルトさんめくら判で承認回したでしょ!)
(鬼汗国ってこっちだとモンゴル騎馬兵団だよね…)
(あの東ヨーロッパを荒らし回ったの…)
(あれを一人で抑えるのか…)
(今更ながらに痴女種ってすげーとしか思えません)
(あら、常識よ)
(うちの母だと中原龍皇諸国殴り倒してますわね、ゴビ砂漠から満州まで)
(え…スザンヌちゃんのお母様ってクレーゼ財務部長…)
(お祖母様が復活したから釣り合い取らせてってマリア姉様に泣きついてましたからね)
(うん…現役金衣当時の能力に戻されてるから、今のアルトさんと同じくらいはあるわね…強さ。加えてあの性格)
(ひいいいいい!あたくし当分財務には近寄りたくないです!)
(あー、アルトさん、銀衣の時はクレーゼ様とあれこれあったからなー。あ、警務局の予算承認稟議、局長が財務局に提出ですからね、そろそろ出しといてくださいね)
(だりあさんのえがおがとってもすてき)
(なんだろうこの女同士の微妙な関係)
(ダリア…お願いですからあたくしにもつかれはてたくない時があるのです!あなたがわたしてください!)
(二人の仲は悪くないのです。ただね、クレーゼ様を知らない人に一言でいいますとね、金衣時代から口よりまずこれ。これの人でした)と、自分のがんつふくを指差してますよ、ダリア。
だからこそ、いきたくないのですよ!
…デルフィリーゼ様がいる時をねらうのも大変なんですからね!
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