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アルトリーネの海賊退治・トルコ交易船を救え!編

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「むー。アイルランド海賊か」

「グレース・オマリーが英語名ですね。アイリッシュ・ゲール語で言うとグラーニャ・ニ・マーリェ。ちょっと僕のゲール語発音が怪しいので、出来れば英名表記で行きましょう」汗だらだらしながらクリス様が言われます。

「そ、そやね、アイルランド海賊女王やもんね」これまた、汗をだらだら垂らしながらジーナ様がおっしゃられます。

(なじぇにアイルランドという国について触れると、あの二人の態度はああも変わるのでしょうか)

(触れてはならない事だからよ…ギネスビールの創業地がアイルランドである事も明確に触れてはならないのよ…いい、アルト。イギリス人が微妙な顔をしたり、根性何とか色になって腹黒くなる話題の一つなのよ。アイルランドという単語やゲール語という発音が大変難しくて、やたら綴りがだらだら長くなる言語には触らない方がいいのよ!)

(うちのよめがそない言うからには、よほどの確執があるのですね)

(だから今、二人の話に参加しない方がいいのよ…)

「だからと言って処遇や対策を話す以上,参加してもらわんと困るのだが、君たち」黒ジーナ様がおごそかにおっしゃられます。

「確かに、グレース・オマリーに対する対策を考えると、必然的にアイルランドの存在について話が出るものねぇ…」広報統括部長の田中雅美さん、まさみ様がおっしゃられます。

「どうせこの話で名前が出るからには史実と違う。絶対に扱いが違うはずや。更に言うと、そのグレース・オマリーはアイルランドの独立を賭けてエリザベス一世王朝下の英国としてるし、トラファルガー海戦当時は英国の勝ちが確定するまでは散々イギリス側に嫌がらせをしまくっている…その前にエリザベス一世と会見して和睦した際の条件を反故にしてな…」黒ジーナ様がものっすごく嫌そうな顔で話されます。

「雅美さん、グレースってその海戦後にどないなったん。あ、連邦歴史やなく、こっちの歴史な」

「アイルランドのスペイン支配力が弱まったのまでは同じ。しかし…裏切られたエリザベス一世は大激怒してアイルランド九年戦争をしようとしたが、ここで聖院欧州支部が介入。手打ちの条件として、アイルランド独立維持と引き換えにグレースの放逐を強く主張した英国側の態度軟化を諦めて、グレースは子供達と共にどこかに消えたとあるわ」

「で…バハマに海賊王国作りよったと…」

「しかも最初はイギリスの肝入りでね…フランシス・ドレイクっているでしょ。史実ではアフリカ西岸からブラジルに向けて進んでいるけど、こちらではバハマに行ってるのよ…で、あまり利用価値のない島だとして早々に立ち去ってるけどね。そのドレイクの報告によって、あの辺り一体でのスペインの活動で得られた交易船団を襲撃する海賊部隊の拠点構築が上奏されたのよ…で、エリザベス一世と仲の悪かったグレース・オマリーを島流し同然に行かせてね…」

「それやったらスペインと組んで英国に報復しそうなもんやけど」

「そこでトラファルガー海戦他で負けた件が絡むのよ…英国と殴り合いしてボコボコにされたスペイン国王フェリペ2世の後を継いだイザベル王女とアナ公女は、密かに聖院とイタリアに泣きつきます。あ、痴女皇国ほど露骨に介入してませんけど、聖院側でもイタリアは連合公国を成立させてイザベラ・デステ様とチェーザレ・ボルジア様が一応は政教分離した統一政体を作ってますよ。ただ、聖院歴史ではるっきーはこちらで引き取っていません」

「ふむふむ。あと、痴女皇国も聖院も、幽閉されていた眼帯公女を救出してスペイン・ポルトガル暫定政権を築かせていますよ。アナ・メンドゥーサ大公女が眼帯公女その人です。で、フェリペ二世がハプスブルグ家に繋がってた話とか、残した借金問題とかをアナさんは頑張って解決中ですねん。読んでる人はこの辺を頭に入れといてな」

「で、イタリア側の武力担当ですが…かねがね話だけは出ていたスカートまくりのおばちゃんこと、カテリーナ・スフォルツァが名目上のイタリア将軍に任じられています。ただ…ただ…」

「バチカンのカエサルチェーザレ一世猊下がやな、非常に血の気の多い御仁でな…これ痴女皇国下のイタリア政体でも同じやねんけど、イタリア軍が動くとなぜかバチカン市国から指揮官が招聘されるおかしな体制になってるねん…しかもマルタ共和国騎士団を中心とした十字軍部隊がイタリア連合公国@痴女皇国でも聖院でも現地の軍事力の主力やねん…」

「更にはバチカンの常駐軍事力もその丸太な騎士団と思いきや、何と聖院または痴女皇国スイス支部から赤十字騎士団が派遣されて、国防にあたっています。ま、小さな国だから十人くらいの常駐なんだけど…これはどちらかというとバチカンや教皇の警護騎士というより、スペイン系で血の気が多くて何かあるとすぐ鎧を着込んで馬に乗りたがる教皇猊下のストッパー役という意味合いが大きいです。あははははは(汗)」

「そしてとどめ。カテリーナ・スフォルツァはイザベラ・デステ国母公女陛下同様に痴女化されてます。十人卒くらいで軽くですけど。で、カエサル一世陛下どくもりあにきとかつて戦って負けた時からの仲で愛人関係」

「…なぁ、マリ公、こっちのるっきー、どないしてんの…」

「言いたくないんだけど。ものすごく言いたくないんだけど」

「触れないと、痴女皇国ではなく聖院側のイタリア事情を理解してもらえないわよ…」

「うう、頭が痛いのに!…実は痴女皇国側のるっきーと交流がありまして、こっちのルクレツィアさんは同じく痴女化して延命。イタリア連合公国外交官僚としてイザベラおばちゃんに仕えています。で…イザベラおばちゃんは元より、兄貴とも爛れた関係絶賛継続中!」もう言いたくないという顔で、うちのよめせいいんまりあがさけぶように言います。

「るっきー、一応成人はしてるけど何人か子供いたからなぁ…落ち着いて欲しいよなぁ…」

「こっちのるっきーに指導さそか?」

「あかん。あの二人組ませてみろ。余計に爛れた状態になる。黒うち。あんたの方のルクレツィアさん、幹部クラスの痴女なのを忘れんなよ…しかも外交部長やろが…」

「あががががが。まぁ、イタリアはとりあえず軽く事情を話すだけにしておいて…で、昔の戦争絡みの賠償金やら借金に関する債務国たるスペインに対して、一応は返済させるためにも眼帯フェンシングおばちゃんを助けたってぇなというのがイザベラおばちゃんの口利きと」

「そーゆーことね。更には南米に渡り現地支部を続々と作り上げようとしているアレーゼおばさまからも、カリブの海賊を「私が殴りに行って良いか」との打診がありまして」

「殴ってもろたらええやん」

「簡単に言うな黒うち。アレーゼさんがわざわざ聞きに来る理由がな…海賊の面子にイギリス人がそれなりに混ざってて、迂闊にどつき回すとイギリスの権益に関わるからや…NBと英国本国を無闇に刺激する行為をするのはまずいとアレーゼさんが配慮してくれてるねん…」

「しかし、カリブの海賊を何とかしないと困るのはイギリス本国も同じよ?私掠免状持ちでも制限ぶっちぎってて、どこの国の船だろうと襲う状態なんだし」

「な、なるほど…しかし、そうなると、例によって例のごとく、スケアクロウ飛ばしてしろありくん1号攻撃で海賊船など全艦沈めてくれるわー!なあの手が使えないちゅう事になんのよなぁ。とりあえず海賊どもは全員捕縛拉致して労働力化する、鬼作戦でも散々泣きながらやった地味な地道な退治になるの確定やん…」

「しろありくんは使わない方がいいわよ…船に財宝を隠してる場合もあるからね…」

「あいつら奪った金貨とか財宝、どないしてるん」

「えー、これについてはアフリカ西岸や北サハラ、南北アメリカの商人を通じた密貿易ルートが存在する模様です。この商人摘発についても議題案件です…」

「なぁ、みんな…これさぁ、みんな嫌やと思うけど…痴女皇国の兵力、それなりに出さんと話の収拾をつけるのは困難やないやろか…」黒ジーナ様が心底嫌そうに話されます。

「そ、それだけは避けたいわよね…」

「うむ…うむ…」

(まぁ、みんなの悩みはわかる。あたしも出来れば兵力派遣は最小限度に留めたい。海賊退治とか言い出してみろ、うちの連中はベラ子を筆頭に盛り上がりやがる光景しか見えないぜ…)

「うむ黒マリ、正直言えば、敢えて…敢えて…瀬戸の凛ちゃんすら呼びたくないのや…あれの麾下戦力が正に今回の作戦にうってつけなのを承知の上でな…」

(うん、かーさんの懸念はわかる。凛ちゃんの性格なら、下手したら瀬戸組と村上一家に声かけて兵力動員をかけかねん…)

「まず確実に、ゴム人間小僧が海賊王になると宣言するような動機付けで動くと思うのよね…」

「アルトくん」痴女皇国のジーナ様が、じっとあたくしを見据えます。

「は、はい…」

「皆の思いは君にも伝わったと思う。出来る限り…こちらからの兵力拠出は最小限度に留めたいのや…そのためにも、九鬼水軍精鋭を率いる君の妹さんとの関係を円満円滑にせねばならんのや…」

「あ、あぃ…ですが、あたくしは一体何を…」

「まず第一弾として、おかみ様と日本名静香さんか、君の妹のナディアフィールさんを迎えに行く必要がある。そのためにも今回聖院側で受領するスケアクロウ13号機、AAE-130G型という聖院仕様の特殊機の操作について、白いマリ公をはじめとする搭乗員の育成は必須なのや…とりあえず、夜を日につぐ特訓を重ねるが、マリ公や白エマ子の留守中の聖院を預かる君やサリー、しほちゃんたちの協力が不可欠なのや…」

「別に痴女皇国リース機のM型でもいいじゃないと思ったんだけどねぇ…」

「あかんらしいわ。今度来るG型は、カリバーン類似機能搭載機。つまり、単体でスティックス・ドライブレベル4を可能とするんや。痴女皇国所属の11号機と違って、スケアクロウ単体で連邦地球やNB本星はもちろん、痴女皇国時間軸まで行けるねんて。せやろ、黒うち」

「うむ。正直、あのデカブツを運用場所に持って行くだけで変態的に大変なのはわかるやろ白うち。いちいちNBからレパルス呼んで運んでもらうとか、必死の思いでテンプレスに積まんでもええのは大きいと思うぞ…その代わりに、時空転移飛行時は必ず航空機関士と航法士の乗機が絶対必要やからな。恒星間航行航宙船を転移航行させる操作そのものを要するのはまぁ、仕方ないやろ…四人おったら恒星間超光速航行どころか、NB大気圏内に直接転移すら出来るねんから」

「痴女皇国の11号機をG型に改造してくれたらいいじゃない…」

(その予定だ。ただ、半年はNBに戻す事になるんだよ…その間、海賊は野放しだぞ…)

「とりあえず、この数日中にG型13号機を積んだレパルスが聖院湖に到着する予定や。その後、レパルスはうちの11号機をNBに持ち帰ってしまう。黒マリが言った通り、G型へのアップデート工事を行うためやけど、これの完成までには半年近くかかるから、その間に痴女皇国にも聖院にもスケアクロウはG型13号機1機のみになってしまうんや。このあたりは関係者一同、注意しておいて欲しい」

(かーさん、レパルスが積んでくるもの、他にもあるだろ)

「うむ。あと、テンプレスで痴女皇国の熊野に行かない理由やけど、あれは目立つのと、今回はテンプレスにも若干のアップデートが入る。具体的にはスケアクロウの母艦能力向上や。あれをテンプレスに着艦させると、空母の飛行甲板に駐機するB-52爆撃機も真っ青なレベルで場所を食う上に、艦載機格納庫に仕舞い込むだけでも一苦労なんや…。従って、ほんまにギリギリやけど、中間部から後部格納庫とウェルドックを使ってスケアクロウを格納しておけるように庫内を改装する。それと、テンプレスのおけつからスケアクロウを引き込むためのクレーンアームをレパルス同様に装備するからな」

(なんでそんな面倒な改造を…)

「テンプレスに積んで行くためや。あと、黒マリが勝手に買い込んでスケアクロウの格納庫代わりにしてた中古水没型貨物船、本来の用途で活用するぞ。そのためにテンプレス2世も今回、同様の施工を受ける予定やからな」

(むーん、あれ使うのかよー)

「今回では押収した財宝の運搬状況次第やな。まぁ正直、テンプレスもそうなんやけど、スケアクロウより保守費用とか手間がかかるのも経費上は痛いという財務からの意見が出ておって」

(船舶なんだし仕方ねぇだろ…それに、高度無人化船だから人件費を中心に、同サイズの原子力空母よりは圧倒的に安上がりなんだぞ、テンプレス級の運用経費…)

「まぁともかく、海賊攻撃計画に関する情報収集は聖院ダリアを窓口に、なるべく痴女皇国側の話を聞かないようにお願いしたい。それとスケアクロウG型到着までに、作戦骨子を立案したいので意見のある者や腹案のある者は積極的に話をしに来て欲しい。皆さんには苦労をかけるが、是非によろしくお願いします」

と、黒ジーナ様が割と本気な状態でお話を締めた翌日。

朝も早よから聖院湖に、ざぼんぱちゃんと静かに着水する灰色のおっきなおふね。

言わずと知れたれぱるすですね。

で、聖院湖の波止場にいかりを下ろし、うちのよめや白黒両方のジーナ様が出迎えに出てきます。

(アルトくん、今からスケアクロウを入れ替えるから少し音がするでな。うるさいけど我慢してくれいうてプラウファーネさん経由で心話放送入れてもろて)

あ、ここは聖院なので地下管制室はプラウファーネさんがまだいらっしゃいますよ。

しばらく見ていると、白黒双方のジーナ様が聖炎宮の浮桟橋につないであったスケアクロウに乗り込み、ひょいっという感じでれぱるすの上に載せてしまいます。

(今から13号機に乗り換えて格納庫から出してもらう。NBの引き渡し担当士官の人らとで試験飛行しながら変更点を教えてもらうから)

ちょっと見ていると、れぱるすのおけつが開いて、黒くて大きいものがずるっと出てきました。

途中できーんとかひーんとかいう音もし始めます。

そして、完全に出てきて水面に降ろされた、黒いんですけどつやのない色の新しいスケアクロウ、聖院湖のまんなかのあたりまで進んでいきます。そこで向きを変えて一気に飛び上がりました。

しばらくして戻ってくると、今度は湖面の上でその場所に止まっています。

あ、これが言ってた、つばさを2枚重ねから1枚にする作業なのですね。

音はしませんけどしゅっしゅっと手早くはねが動いて、あっという間に「あたくしたちがよく目にするスケアクロウ」の姿に変わってしまいます。

で、再び飛び立っての云々の後で。

(うーん。基本はまぁ、あんま変わらんな。白うち、あんたどやった)

(変わるも変わらんも、あんたほどにスケアクロウの飛行時間実績あらへんって…)

(開発で呼ばれてた時があったからシミュレータ込みでトータル1,000時間くらいか。結構飛んどるな)

(そらあんた、そんだけ飛んどったら充分すぎるわ)

(あれの教官資格取ってくれ言われてな…聖院世界用にも出来てるからと。んで、うちら胴体揚力機とか四発機資格持ってるやん。あれがNB関係者の目に止まったと思いなさい)

(ああ…そう言うことか…再突入機資格もいるよな…)

(ポーポイジング突入時は敢えて複葉モードとか変態的すぎるけどな)

あれやこれやと話す、とび職二名。

(まぁともかくこれで熊野に行けるようになったな)

(マリアー。受領事務処理終わったらアルトの妹さん迎えに行く段取りしよかー)

(あ、かーさんたち。その件なんだけどさ、おかみ様経由で依頼が来てるのよ。先日、連邦世界で言う串本市の潮岬。あそこに鯖挟さばさんど国の交易船が漂着してさ。地元の人たちと、駆けつけた九鬼水軍のおかげで人的被害はなかったんだけど、船が座礁して動かせないのよね…)

(で、船員を助けろとな?)

(あとね、比丘尼国扱いなんだけど、貿易品を船ごと回収して欲しいと。九鬼水軍の見積もりでは船大工さえ手配出来れば修理は可能らしいけど、この時代の串本なんて陸の孤島だしドックはもちろん、外洋交易船を浜に引き上げて修理も難しいらしいのよ。尾張他訳国の那古野新港まで行けば比丘尼国提携事業の造船所もあるし、後の修理代はともかく修理は出来るだろうと)

(なんか明治時代に起きたような話やな。積荷は無事なんか)

(船底区画に穴が開いてるけど、なまじ砂浜間際の磯に打ち上げられてるから浸水には至ってない。積荷は船底ではなく上側船室に重点的に積んでるから大丈夫なようよ。積載貨物は貨幣がわりの砂漠雄猫国産あんど鯖挟国名産品のカーペットに、比丘尼国の囚人食堂で用いる香辛料類と…内緒よ…椰子から作ったエタノールだの原油だの、あと椰子の実。監獄国の施設内で研究消費したり、化学物質を椰子の実から抽出する実験に使うわ)

(つまり可燃物やな。…ちょうどええやん。13号機ならレベル4機関搭載や。マリア、お前の力を補完してくれるから、その船ごと名古屋の港の任意の場所に飛ばして配置できるやろ)

(よね。鯖挟国なら中東支部とのお付き合いもあるし、今回は監獄国製造の織機類の他、那古野製鉄所で作られた鉄材や、うちとタイアップして作ったエコな防水塗料を買って帰りたいようなのよ)

(それやったら聖院港で取引したったらええのに…ああ、積荷が積荷やし、直接取引したかったんか)

(あとさあ、アルトの一族から、既に連絡は行ってるけど東方真珠として向こうの真珠島で売り捌く分を受け取ると。で、代金の鯖挟国リラ金貨も渡したい。つまり鳥羽に寄港したいと)

(ややっこしい話やな。うーん。まず、船の修理に時間はかかるやろから名古屋に直行。で、積載貿易品は名古屋で引き渡す事はでけへんのかいな)

(あたしがブツを引き寄せたりすれば可能ね。ただ、真珠については、目利きがいる関係で鳥羽で取引した方が…それとさ、アルトの実家に寄れるなら寄る方が…妹さんもいる訳だし)

(真珠の量が多くないならスケアクロウで往復したったらええやん。名古屋から鳥羽までやったら片道15分かからんぞ)

(つまり…串本に直行後、難破船と船員を那古野新港へ。比丘尼国や監獄国担当者と船の修理や交易手続きの後、真珠検品者と代金を積んで名古屋から鳥羽に飛行、これで飛んでもらったら大丈夫かな)

(それとリクエストもういっちょ。本当なら串本で静香さん…アルトの妹のナディアフィールさんと合流してもらえるならちょうどいいと思ってたのよ。だけど先方様のご都合というよりは、ちょっとした事情で熊野の九鬼屋敷にまず来て欲しいんですって。で…その理由がね、妹さん、出家名目で今回は出撃してもらうんだけど、その辺に当って聖院関係者とお話がしたいらしいの。ぶっちゃけ一時的な出家ではなく、妹さんの将来を考えた恒久的な出家を提案したいからだそうなのね)

(遭難船の船員や積荷は大丈夫なのかよ)

(潮岬に難破船が流れ着くのは稀じゃないから地元の人も慣れてる模様。あと、九鬼水軍と比丘尼国那智支部から警備と炊き出し班が出てるし、船員たちは治療を受けてる最中よ)

(なら、まずは熊野やな。連邦世界なら熊野大社があるはずやけど、こっちでも熊野は熊野で比丘尼国の支部あるん?)

(あるわよ。那智支部は巫女さん研修センターで、熊野支部は九鬼水軍と連携してる海上警備が主目的らしいわね)

(ということは…うん。那智支部には寄らないようにしようそうしよう)

(なんでよ…あー、そうか、うちと同じ事してるな、那智だと…)

(わかってくれたかマリ公。では、行程をまとめるとしよう。敢えてうちらの認識の地名で言うが、まず聖院から痴女皇国の熊野市。で、潮岬を経由して名古屋新港で船を預けて鳥羽市のパールキング島に向かうとして、そこから聖院側世界のカリブを一気に攻めるんかいな。それともイタリアとスペインに話を聞きに行ってからの方がええんかいな)

(とりあえずカリブ事情をアレーゼおばさまとギアナ・アステカ各支部が探ってくれているわ。あと、眼帯公女と毒盛りお兄ちゃんが鎧を着たがってて、周りが止めるの苦労してるみたいなんだけど…)

(お前ら二人だけなら載せる余裕はある言うとけっ!…ったく、スケアクロウ一機で何とかしようと思ってんのによ…)

(そのG型だけど、今回、新開発した聖院世界向けの対人精密攻撃装備を積んでるみたいよ。先日の天竺作戦の結果を鑑み、対人用超光速粒子銃を搭載。バラージモードの他、スナイプモードがあって、特定人物だけに能力付与や剥奪が出来る模様)

(意味あんのかよそれ…っていうかさ、それ積むって決めたのクロスのおっさんか? マリ公。このスケアクロウはG型やろ。で、機番は欧米では不吉な13番機を敢えて付番してるやん。…そしてその装備ってよ…なんか駄洒落かギャグでやってるんかと言いとうてならんのやけど)

(えっくすわいぜっとと伝言板に書くともっこりした殺しやさんが来るのですね)

(アルトくん…それは女癖が悪くて100tハンマーでどつかれる方。今話題にしてるのはブリーフが大好きな眉毛おじさんや。ちなみに奴の血統にはロシアも入っている可能性があるが、探ると命が危ないのや…ってよう考えたらうちらの身体、エマ子ボディやし5.56mm納豆弾一発くらいで死ぬ訳なかったよな…)

(しかしこのエマ子ボディ、痴女服だけでババヤガーF-400大気圏外操縦できそうで怖いのだが)

(それどころか当のエマ子がドカタスタイルで、放射線やら木星近傍の致死性電磁波帯域ど真ん中な衛星イオの金を掘っていた訳だが。無論酸素マスクや船外活動服とかTAPPSとか一切なしで)

(つまり我々は今、ゴノレゴだろうと御無礼だろうと背中が煤けていようと無敵という訳か、うち)

(後ろ二つに勝つのは武力でなく別の何かで勝負する必要があると思うのだが、とりあえず鳥羽までは行くとしよう。G型なら太平洋横断飛行とかせんでも転移したらしまいじゃ。という訳で席順を決める)

白うち 黒うち
白エマ マリ公
アルト ダリア
まさみ


※サリー&しほ子はカリブ海攻略手順が決まり次第合流

「おい。交代しろうち。13号機はスイス銀行に振り込む訳ではないが、確実に5千億円を超えているそうではないか」

「やかましいこれは聖院所属機や、お前らが動かさんで誰が動かすねんっ」

「あとねぇ…雅美さんについてなんだけど。実は痴女宮財務本部から返してくれーコールあり。ただ、本人が返せという理由や内容を知ってるのと、今回のカリブ行きのついでに聖院側の欧州や南米と話をしたい事があるらしいので、とりあえずカリブまでは付き合うと。だから操縦室の添乗席に乗ってもらうわよ」

「ああ、聖院の皆さんにはお話ししといていいか…実は天竺作戦の結果や、色街や淋の森を手入れしたせいで女官が増えたのよ…で、予想以上に百人卒未満の女官や罪人が増えたせいで食費が増大。その対策の一環として、少年刑務所というか孤児院というか児童福祉施設めいたものを設立して若い精気を得る案が検討されていてね、プロジェクトチームの中核にあたしも入ってるのよ…というか言い出しっぺの一人」

「なななななるほど。これは雅美さんが動く必要があるな…」

「でしょ?仮に雅美さんが言い出してなくても絶対に混ぜ込まれる話じゃん…」

「そうなのよ。で、欧州地区の孤児を引き受けた場合とかさ、鯖挟国のイエニチェリを参考にするとかさ、色々と欧州で実態調査したいわけよ。それに、痴女皇国だけでなく聖院にも設立する必要性がいずれは出る可能性のある話に思えるのね。産業革命の代替事業が進行すれば、それだけ出生率や生活の余裕も出てくる訳だし、望まぬ出産の可能性も増えると思うのね」

「確かに、児童福祉という錦の御旗を掲げられますと…」

「それに、あたし自身が売り飛ばされた孤児ですし、孤児院の需要は一定的にあるのを身体で知ってますからね。雅美さんの計画なら孤児は救われる訳ですし、我々は少年少女の精気を供給されるじゃないですか。これは聖院側でも話に乗るべきだと思うのですが」

「ダリアがここに来た境遇を考えたり、あたくし自身の身の上を思い出しますと、まさみ様やちちうえやクレーニャの趣味を満たすとかそういう以前に、大変に崇高な話に思えるのですが」

「まぁ、孤児院の話は痴女皇国で進んで来たら確実にこちらにも持ちかけられるでしょう。ですので、雅美さんは両方のお仕事をしてもらうというか、必要に応じて九鬼家や比丘尼国との交渉に参加するオブザーバー扱いで来て頂けますとありがたいです。正直、雅美さんはこういう交渉にいてもらえると助かるんですよね」

「るっきー呼ばへんの。あれも外交部長やん」

「あ、るっきーは痴女皇国側の南北アメリカ大陸開発事案で結構バタバタしてんのよ。あっちのスペインとかイギリスの利権が絡むしねぇ…それと、るっきー呼んだら確実に色々ついてくるから、本人もカリブ関係で私が動くのはまずい、どうしても必要なら呼んでくれればいいと気を遣ってもらってます」

「なるほど、あの子も意外に頭の回りがいいというか、周囲に気を使えるというか」

「それにさぁ、あっちだと交渉上手な外交部長って事で恐れられてんのよ。あの人行かせる方が話が早い勢力が今、ヨーロッパを牛耳ってるから…」

「よし、じゃ、とりあえず各自出発準備をしましょう。なるべく早く動けるようにね」

そして出発当日。明け方に向こうに着くように、こちらはまだ夜も暗いうちに出ます。

「対消滅主機1番2番起動。ICD/Gコネクト。アクチュエータ回路通電。動翼点検操作可能」

「バーチカル・ラテラルナビゲーションジャイロ・スタビライズド。GPS受信状況よし」

「マスターコーションライト・グリーン消灯確認」

「マスターアームOFF。光学・電磁兵装グラウンドセイフティロック確認。実弾系兵装セイフティチェックOK。アーミングリリースは離陸後に行います」

「スティックス・ドライブシステム通電。テスト制御信号よし」

「各席チェックリスト実行されたし」

などなど、みなさまおいそがしい状態です。

あたくしとダリアはへいそう管制とやらを担当するので、ローマ軍7万6千人になかだししてしばけるものが使えるかをまずかくにん。

で、今の段階から使えるとものすごく危険なので、飛び上がってから安全そうちを外す手順を確かめます。

「アルトさん、今回はローマ軍ではなく海賊をしばくんですよ。それに海賊は基本的に女は参加させないそうじゃないですか。揉めるからって」

「…あ、ダリアちゃん。今回の海賊のは海賊女王なのよ、それとね…配下の海賊に女幹部が何人かいるのよ…」

えええええ。

うみの男ではなくおんな海賊なんですか。

「ふむふむ、では中出しして倒せるじゃないですかアルトさん」

「ダリア…痴女宮のダリアのような考えは…まぁ…下手に剣やぴすとるで戦うよりもかくじつですね。ではおんな海賊はなかだしで倒すということで」

「なんかアルトとダリアがおかしな戦術を検討している…誰の影響や…」

「なぁ黒うち。帰ったら痴女皇国のアルトとダリアの頭の中調べといてくれ。絶対に毒されてると思う」

「…失礼な…しかし、可能性はあるな…あ、白うち。ヘッドアップディスプレイ、ナイトモードでな。翼端の障害物センサーの有効範囲忘れないように」

「アルト、ダリア、それぞれの側の主翼監視頼むで。カメラでよう見といてな」

「了解ー」

「はーい」

「よし、みなさーん。これより本機は八百比丘尼国の熊野に向かいますー。各員ハーネス確認。ちゃんと締めといてなー」

そしてすけあくろうは闇夜の聖院湖から離れていきます。こちらのがめんからはそれなりに明るく見えるのですが、まどの外はまだ真っ暗です。

「そーいやおかみ様はどうすんの、マリア」

「直行で熊野に行くってさ。静香さんに渡したいものがあるから準備するって」

「あいよ。FL410到達したら串本沖に転移。転移先座標情報入れといてな」

「りょうかいー」

…しかし、あたくしのいもうとって、どんな子なんでしょうね…。
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