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アルトリーネの海賊退治・カリブの海賊編

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どうも、お久しぶりです。
菅野直とアレーゼの娘、菅野しほ子です。
比丘尼国で遊ぶつもりが聖院騎士。

…どうしてこうなった!

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「ところでサリーさん。以前、マリーと付き合ってなかったのでしたっけ」

「別れましたよ!で、マリーはダリアさんの方に行きました!」憤懣やる方ないような顔をしていますね。

「腹が立つから報復を考えたのですが」

「これこれ。そんなよこしまな事を考えてはいけませんよ」

「いえいえ。椰子酒を飲んでヤケになりながら考えただけで卑怯な事は思いついていませんよ」

「というか我々痴女種はお酒を飲んで酔えたのでしょうか」

「酔い方にコツがあるのです。ただ、正体なく酔っ払っていたのが発覚するとマイレーネ様送りになります。まぁともかく。マリーには仕返しをしたいのです。よくもこの私を振りやがって」

「まだ酔っ払っていますね」

「仕方ないでしょう。人生にはこんな時もあるのです」

「結婚式の時は聖院大講堂側の司会とか頑張ってたじゃないですか」

「ああいう場所で恥をかかせるのは人として色々失うものがありますので、私の個人的感情は置いといただけです」

で、ここは「聖院」の23階です。つまり、教皇並びに皇族区画です。

あ、痴女皇国の痴女宮とは部屋の割り振りが違いますからね?

ダ       ム
ベ  ラ ン  ダ
部屋1 廊 部屋2
中  央 廊  下
部屋3 下 部屋4

部屋1・アレーゼ用
部屋2・白マリ&アルト用
部屋3・エマ子&カシウス・ロンギヌス用(新設)
部屋4・サリー&しほ子用(新設)

屋上室1・白ジーナ夫婦用
屋上室2・ダリア&マリー用(新設)

うちの場合は現在、こんな感じです。

で、聖院22階は痴女宮と同じですが、21階は少しばかり痴女宮とは変わっています。

具体的には財務部が入る予定の場所、準備工事に留めているのと…皇帝室秘書課が普通に秘書課で隠し部屋なんか存在しない状態なんですよ。

そりゃ、こちらのジーナさん&クリスさんは普通に連邦やNBのお仕事もしてますから。今はたまにペントハウスに来るくらいですかね。

でまぁ、痴女皇国に合わせて財務部作りたいんだけど、面子が欲しい状態。何せこちらには田野瀬さんのような方がいらっしゃいません。痴女皇国の財務本部が軌道に乗った時点で研修生をよこしてくれたら人材育成するよとは言われておりますけどね。

で、こちらは鬼も出ないし、痴女皇国ほどには積極的に世界情勢に打って出ておりません。普通に平穏に地味に皆が過ごしてる状態です。

…騒がしい人が痴女宮に戻ったりしたので平和なだけかも知れませんが。

そして、とりあえずの組織。

聖母はジーナ・高木…つまり、白ジーナとされる方です。で、聖父の立場のクリス・ワーズワース様。

現在の聖女兼金衣太政官はマリアリーゼ・ワーズワース様。いわゆる白マリと言われてる方で、竿役、失礼、旦那役にして金衣大将軍はアルトリーゼ様。ここまでは役職名が違うだけで痴女皇国と概ね同じですよね。

さて、ここからですよ。

女官長のはずのマリーさんが痴女宮に戻っているのです。と言っても教育役で行ったり来たりなので、実質的にいるも同然なのですが。

でまぁ、マリーさんの代わりを務めるのが白エマ子さんことエマニエル皇配騎士様。こちらのエマ子さんはやらかしもなく普通に普通に仕事してらしてます。

その配下の形態ですが、実際には対等と言うか普通にしてるのが私達。

とりあえずローテーションであっちこっちの部署を動き回ってる状態です。痴女宮ほどには固定してないんですよ。あ、サリーちゃんと私、ちゃんと日本の高校は卒業していますからね。

ですが、吉村アンジェリーナさんと篠村直美さん。実質日本政府から預かっているような方ですが、返せません。

いえ、返したくても今は返せないんです。

なんでか。

…痴女皇国で色々ありすぎたからです!

こちらの人材育成そっちのけでみんな手伝いに行ってたじゃないですか!

今でもマリーさんが主にあっちに戻ってる状態なんで、ダリアさんも大変なんですよ?精気授受システムはこっちでも機能させないといけないんですからね?

ええ、皆さん大人しく…というべきなんでしょうか。とりあえず自分の職務に邁進せざるを得ない状態なのです。サリーが意図的に酔っ払ってクダ巻いてる程度で収めているのも、それがあるからなのです。

きゅいいいいいん、ばっしゃあああああん、ざっぱーん。

あたしたちの聴覚で耳を澄ませると、聖院湖の方で水音がします。ここは聖院巨瀑宮最上部なので滝の範囲外です。ですから水音が聞こえるとすれば、主に聖院湖に何かが落ちたとかです。

で、水音の正体はわかっております。

うちの方のジーナさんが、研修を受けているからです。

何の研修か。

NBから持ち込まれた黒くて太くておっきいものの研修です。

ものすごく扱いが難しいと毎日ぼやいておられます。ジーナさんの身体はマテリアルボディ、つまり人工身体化されているはずなので疲労とは無縁でしょうに。

…うん、スケアクロウという、やたら翼の長い、でっかい飛行機です。

この飛行機には大きく分けて三つの形があるのも知りました。

一つは、単葉機というそうですが、普通の飛行機なら胴体の左右1枚ずつ、水平に突き出た主翼がありますよね。

ところが、この機体は複葉モードとかいう姿が普通に飛んでる時だそうですが、主翼が左右で2枚ずつあります。ただ、この時は割と普通に飛べるというか、この飛行機と同じ型で主翼が1枚ずつしかない純粋輸送機型より運動性はよいそうです。

で、問題は、今、聖院湖を見渡せるベランダ側に出るか、22階に降りてダムの上に出たら見えますけど、必死こいて飛ばし方を練習しておられる機体の姿にあります。

「あの飛行機の単葉モードって何やねん。あれ、グライダーより難しいやない。あんなもん開発した奴誰や」とぶつくさ言っておられます。

どうもあの飛行機、2枚重ねの主翼の下側を上側の主翼の端っこに移動させて、1枚のどでかい翼に変えてしまえるようなのです。それをする理由は、うちの父親の菅野直いわく「ああ、独逸がやったみたいに滑空翼機にして音もなく忍び寄りたいからだろ。帝国でも陸さんがそれ使ってたし」だそうです。

で、この状態の時は動力を与えなくてもかなりの距離を鳥のようにすいーっと滑る飛び方で飛んでいけるらしいのですが。ですが。

(ごらぁ。せやから単葉モードでBLC入れたら水面高度で対地効果が発生しやすいから、ICDの推力絞るだけやなしに、スポイラー立てる角度を慎重に変えて高度処理していかへんとあかんねんて。スロットルをオートにしてサイクリックトリムもICDコントローラもぎりぎりまで触らんようにしてみ。今のやり方やと、最終的にICDで無理やり落としたようにせなあかんようになるねんて!言うとくけどガチの特殊作戦時の着陸または着水って、ICD/Gはぎりっぎりまでアイドリング状態で滑空だけで降ろすねんからさぁ、今はまだ平易な操縦の方やねんからこれだけでも頑張ってえな)

(いや、今日でまだ2日目やで。それにこっちやったらいくら聖院湖くらいしか水平離着陸の練習場所がない言うてもさぁ、痴女山からの吹き下ろしが存在すんねんからさぁ…)

(あたしはそれ込みで毎回毎回聖院湖に降ろしとる。あんたがうちやったらやれるやれるっ)

ええ、痴女宮側のジーナさんが来ているのです。

そして、うち側のジーナさんを猛特訓で鍛えています。

何のためにか。

もちろん、今飛ばしてるでっかい飛行機がうちにも来るからです。

更にエマ子さんとマリア様も乗ってます。この3人が操縦桿を握るためです。

(しゃーないなー。もっかいやるぞ。ヒトゴーマルマルまでに終わらさなスコール来るからな。雨中の着水離水訓練までしたいと言うなら付き合うが)

(うう、うち自身だけに教程の必要性はわかるのだが身体がついていかぬ…)

(せやからババヤガーせんとうき慣れしすぎやねん。あれも大概無理やり落とすような降ろし方するけどさぁ、あっちと違ってこっちは揚力頼りの部分が大きい輸送機やねんから。それに値段聞いたやろ?ほんま実機受領したらガチに慎重に扱ってや? はい180度信地旋回して北向けて仮想ターンパッド向かえ。もっかい南向きで離水してから左旋回して着水コース履修、今日はそれで勘弁したるっ)

(エマ子…明日あんたからやって…)

(何を言うのですかお母様。あたくしは航空機関士席、FEの教程履修で精一杯です!)

(んじゃマリ公)

(何を言ってんのよ!あたし乗ってるの、ナビトレーニングよ?航法士席で養成用プログラム走らせて必死になってるのよ?)

(諦めろ。うちもな、マリ公とあたしとエマ子くらいしか飛ばせる奴がおらんから、今あんたらがやってるような感じで猛特訓1ヶ月したんや。それも痴女体質をええことにぶっ通しで夜間の離着水訓練までやってな。あ、無灯火で聖院湖に降ろすのはあんたらも履修してもらうぞ。もちろん単葉モードな。翼端ぶつけんなよ)

(ぎゃああああああああ、複葉モードだけにしてくれっ頼むっ)

(あーかーんー。単葉モードも履修せんかったらM型スケアクロウのライセンス下ろされへんぞ。ほれ180度旋回。方位角180。諦めてBLCオートにしてTOGAスイッチを押せ。押さへんかったらあたしが無理やり押すぞ)

(ううううあたしがきついっ)

(やかまし。はよ離水せな雨雲迫ってるからどんどん気象条件悪なるがな。ほれ行くぞユーハブ)

(あううう。アイハブ、滑走スタート。V1、VR、V2)

ぎゅわぁああああん。何かが聖院宮の上を飛び越えていく音がしました。南側の窓から見ると、黒くておっきなちん、いや飛行機がまっすぐ南に向かって行きます。

心話交信でも聞こえていましたが、今にも降りそうな雨雲の下でゆっくりと左に旋回して行きます。

この世界での人工飛行物体は私たちしか使っていませんから必要がない気もしますが、点滅または点灯している航空灯火のせいで飛行機の居場所がよくわかります。

(単葉モード時の機動制限、よう認識しときや。最大旋回傾斜角二十度。機首仰角プラス十五度マイナス十五度。高高度に上がったら失速速度とか更に厳しくなるから、まずは低高度での単葉モードでの機動制限を身体に叩き込むこと。グライダーと違って本体重量がかなりあるから、少しのチョンボや油断が致命的になるのはうちやったら解るやろ? オートスタビライズは入れてないものと思って頑張り)

(あいよー。うおー乱流が乱流が)

(推力入れて。ICDの仮想推力軸はプラス10で入れといたるから、揚力は確保できるはずや。それより、フロートダウンは旋回終了後にやる方がええやろ。この風やったら旋回中に主翼フロート出すと姿勢が乱れるわ)

(誰よこんなもん設計したん…複葉と単葉が切り替わる上に水上機にもなるて、変態にも程があるでこれ)

(まだこの上に全翼機状態のステルスモードがあるからな? 設計にはあたしも何言も言いたいものがあるけどな、NB航空機設計局が聖院や痴女皇国で使う事考えたスペシャルモデルや言うねんさかいに。実験機を兼ねてるからリース料かてまけてもろてるし、運用実績は渡したやろ?)

(確かに、あったら便利な機材言うのはわかるけどさぁ)

(愚痴はワーズワース大公に会うたらゆうとき。ほら、ファイナルアプローチ行くで)

なんかものすごく大変そうな事をしておられるようですが、必要なのでしょう。あの黒くて大きなもの。

(帰ったらしほちゃんにも説明するわ。はぁ…まさか聖院側のカリブがあんなややこしい話になるとは…)

「あーしんど…めっちゃ気疲れする…」

「あんたマテリアルボディやからその辺大丈夫なんちゃうん。なんか記憶共有してる割に覚え悪かったし、いっそうちみたいにエマちゃん仕様にしてもうたらどないよ。これはうち自身や思うて真剣にアドバイスしとくからな」

「ええー、あたしが作るんですか」

「何やったらエマちゃん、あたしの身体まるっと丸コピできへんか。どうも白うちの反応を見るに、人体の疲労やらを忠実に再現しすぎておるきらいもあるからな。そんだけ緻密に痴女体を再現しとるんやろけど」

「わかりました。後でデータ取りますから協力お願いします」

「うっしゃ。ほな、マリ公も待っとるやろから22階に顔出すかー」

で、聖院宮22階南側、幹部会議室。

まず、切り出すのはうちのマリア様。

「さて皆様。頭の痛い話が既に伝わっているかと思いますが、スペイン・ポルトガル連合王国のアナ・メンドーサ女大公並びにイタリア連合公国のイザベラ・デステ大公より救援依頼が来ております。救援内容は対北米から南米にかけての海運事業に対する海賊被害について、これを討伐頂きたい、と」

「で…痴女皇国側のうちが来ている理由は…」

「本件に関する事情聴取と情報収集。必要に応じて武力支援要請を持ち帰ること、でええんやな? 皆さん」全員が頷きます。

聖院側のジーナさんは最近髪の毛をまたぞろ伸ばされて、軽くウェーブのかかった肩までのヘアスタイルですが、さっきまで飛行機に乗っておられたまま、ポニテ風にまとめておられます。

対する痴女皇国ジーナさんは、いわゆるエマニエル夫人風味ヘアで、皆さまにお馴染みの姿です。
「でまぁ、うちからの疑問やねんけど…まず海賊とやらの戦力規模と国籍やな。特に言うたら何やが、イギリスが噛んでいた場合は単純な殲滅作戦が困難になるやろ。その辺はどないなん」

「かーさん…噛んでるのよ…今わかってる海賊勢力、スペイン・フランス・イギリス出身で派閥を作っています」

「史実通りならかなり厄介な奴がいたはずやな…うちの歴女を話に混ぜるか…今の時点でのイギリス国王だれよ」

「イングランド王ジェームズ一世。ジェームズ平和王で、これは史実同様ですね。アン王妃がデンマーク出身なのも変わりません」クリス様がすらすら答えられます。

「ああ、うちのクリスも早く復活させたいねんけどなぁ…みんながクリス離れしろ言いよんねん…あいつら結託しやがって…」

「まぁまぁ…母様の身体の解析が済めばあたしが作ることも出来ますから…とりあえず海賊の話をしましょう」

(いや、僕も乞われているのは分かってるし、その気なんだけどさ…痴女宮のみんながジーナさんの所有権を主張している状況でね…しかもその中にエマニエルが混ざっているんだよ僕)

(何という困難な状況なのか…そして僕だけに理解した。痴女宮ジーナさんの慰撫と相手を依頼したい。これで構わないだろうか)

(あたしも事情は今の一瞬で理解した。貸す。使えうち)

(貸与品扱いについては一言あるけど、事情は理解しています。もはや僕という存在はジーナさんの安定に関わる抱き枕扱いなのも)

(すまぬ…すまぬ…ちょっと痴女皇国落ち着いたし羽根伸ばしもしたいのや…だからなるべく向こうから応援を受けない、受けても最小限の面子でお願いしたいのや…これはこの場に列席した皆への共有認識としてあたしの思いを理解して欲しいのや…)

(更に言うと、今の痴女皇国の主要メンバーを勢揃いさせたら最後、聖院経営についてややこしい話をされてしまうのよ! かーさんの魂の叫びはあたし達聖院関係者の叫びでもあるのよみんな!わかったわね!)わかりたくないけどわかります。

(ベラ子がまずやばい。うちとクリスがいちゃいちゃしてるの見たが最後、あのマザコンは何やらかすかわからん。更にるっきーに向こうのエマ子やろ、マリーやろ…呼ぶならアルトと凛ちゃんくらいに留めようそうしよう)

(よし、音声会話に戻すわよ。あと、広報統括部長には特別参加してもらいます。いいわね、かーさん)

「うむ。雅美さんは流石にな…」

「という訳で呼ばれました。えーと、私との面識がない人は…うん、いなかったわよね。お久しぶりの人はお久しぶりです」という訳で痴女皇国はおろか、聖院側の広報も取り仕切る広報統括部長の田中雅美さんご登場。

仕事の時はきりりと引き締まった知性溢れるお顔で、はきはき話をされるのが印象的なお方です。

「でね、海賊というのはおよそ船が発明された国にはついて回るようなもので、世界のあちこちにいるのよ。例えば日本で言うと倭寇や村上水軍、九鬼水軍はもちろん、長崎で生まれた日中ハーフで、後に台湾に渡り鄭王朝を築いた鄭成功も海賊行為をしていた時期があったのね、ですが」と言葉を切って。

「先に連絡を頂いた件についてですが、現在スペインとイタリアから話が来ているのは私掠船ではなく、海運事業従事者で待遇の悪さに逃げ出した者たちが船を奪い海賊行為を働いていると推測されます」

「私掠行為について、ジェームズ平和王はなんか釈明してるん? クリスには悪いが、歴史観点からすると一番疑わしい国やけど」

「欧州支部長と英国湖水支部を通じて照会しましたが、そもそも聖院の介入により、我が国は必要以上の海軍兵力保有を制限されている立場である。また、対北欧・ロシア・北米への貿易権益の保障がなされている現状ではイスパニアと海上覇権を争う理由が見つからないと、優等生的な答えが。欧州支部の調べでも私掠免状を乱発してまでも、ことさら他国の船を襲い奪う必要もない状況に間違いはないと。この辺は連邦の歴史とは違うわね」

「むしろ船や船員を奪われているとか、最悪…水兵や船員が進んで脱走して海賊になっている可能性がありますね。18世紀英国の書物に海賊列伝というものがありまして、著名な海賊の実態を解明する貴重な資料なのですが、それによりますと、当時の水夫は軍民問わずに過酷劣悪な就労環境であり、むしろ海賊になる方がましな状況だったことが少なくなかったとあります。この辺りはミス・田中の報告と合致するかと」英国だけが悪いんじゃないけど英国絡みが多かったからなぁ、とクリス様。

「あー、…酒場で酔っ払ってた人を拉致して水兵にしたりとか。水夫じゃなくて水兵よ。つまり軍がやってたのよ…」

「君いい身体してるね、日本の国防を担ってみないかいという勧誘よりタチが悪い…」

「海上自衛軍ってそんな勧誘してたのか…」

「あれ陸上。それに自衛軍でなく、まだ自営業時代やからな…」

「あと食事。まず木造船なのでまともに火が使えない。肉も魚も塩漬け。更に水が腐るからとお酒しか飲むものがない。よね、クリス君」雅美さん、わかってやってますね。海賊に触れると、絶対にこの時代の英国の話に繋がることを。そして、海賊生活イコール、当時の海の男の生活そのものなのです。そして本当ならこの時代、スペインと世界の海洋覇権を賭けてバチバチにやり合っていた国が大量の艦船を擁していなかった訳がありません。帆船、特にヨットの世界で英国風の用語が多い理由は言わでもがな。

「まままままま雅美さん待って待って! 遺体をラム酒に漬けられて本国に戻された提督程度で留めたって!」ジーナさんが慌てて止めに入りますが、それ、フォローになってませんよ…。

「それとさぁ、ちょっと聞いておきたい要素があります。聖院世界の方の海賊や北方貿易の件で、バイキングはどの程度噛んでいますか。これは意外と馬鹿にならないのです、この当時」

「ああああああ…」何名か頷いてますね。

「えっとね、以前、学生さんが来られてた頃に毛皮の話をした事があったのよ。これはマリアちゃんたちが話をしていた中に…ここにいる人で直接同席してた人はいないかな。ちなみに痴女皇国側では海賊は一定の対策を取られていて絶滅済みです」

R15枠の「こんにちわ、マリア」でのお話ですね。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/28/

どうもこの時代までのキエフ公国だのモスクワ大公国だのは、英国やバイキングを通じて毛皮取引をしていたそうです。更にバイキングは定住して現地人と結婚したり、あるいは奴隷として現地人女性を以下略したりとかで、現在のロシアに至る国の基礎を作ったうんぬん。

更にバイキングは、当時としては驚異的な航海術をバックに、日本だと奈良の都のあたりの歴史で既に欧州海岸はおろか、地中海や黒海辺りまで船を到達させており、交易や略奪をやらかしていたとか。

痴女皇国ではエルティレーネやミューレンフィーネといった北欧出身者を抜擢したり、北欧に支部を作ってあの辺りに睨みを効かせているのも、彼らの航海技術や海洋進出能力が、良かれ悪かれ洒落にならないからだそうです。当時のバイキングの財宝や生活道具がイギリス・アイスランド・グリーンランド・カナダ東部で出土しており、なんとコロンブスより遥か昔にアメリカ大陸に渡っていたという彼らの伝説が事実だったという証拠、連邦世界では出土しているんだそうですよ。

「バイキングというか、あの辺の人達には独特の風習があってね。報復が合法だったのよ…例えばそうね、仮に、サリーちゃんに、マリーが恥をかかせたとしましょう。で、バイキングの掟だと、サリーちゃんはマリーを殺してもいいの。むしろ戦わないと恥」でえええ。

「そしてね、現在もバイキングが居住していた地域で人骨が出土したり、ルーン文字が書かれた証拠物が発見されている経緯から判明しているのだけど、バイキングは君主を担ぐのではなく、民選によって優れたとされる者をリーダーにする風習があるの、で、海賊に繋がる話なんだけど、家族親族奴隷といった縁者を殺傷或いは侮辱されたり所有物品を奪われた場合、報復が推奨というか義務なのよ。そして、その大業を完遂した者ほど勇者として讃え、他の者が従う習わしがありました。ただ、勇者は絶対ではなく、民会などの地域の集まりなどの話し合いや投票といった行為には従う必要はありました。理不尽な殺人を犯したら、国外追放何年とかいった刑を課せられていたのね」

「そして、そのバイキングの風習はノルマン人…英国やデンマークなど北欧沿岸を中心に海洋で繋がっている国に、バイキングが移住した事で伝わって行きました。当時の航海技術では、イスラム系か、はたまたバイキングに匹敵する勢力は無きに等しいので…で、ローマやトルコ、今のノヴゴロド辺りまで川を遡行してバイキングが交易や略奪の足跡を記したのが判明しています」

「なるほど、必然的に航海技術を得ていたバイキングの男性主義的な考え方が海洋民族全般にも広まって行った訳やな。雅美さん、海賊連中があまりにも普通の水夫生活が嫌で逃げ出したとかいう話あるやん。ということは、バイキングの風習に影響された感のある海賊連中さぁ、私ら痴女やったらともかく、普通の人間が数十人もの武装した男たちの頂点に立って理不尽な圧政を船の中で敷けるもんかな。軍民問わず、うちらの世界の艦船の中でのルールと同じで、何らかの掟や決まりがあったからこそ海賊船長と言われる人種、部下の海賊を従えて海賊行為が出来たと思うねんけど。その辺をはっきりさせておく方が、海賊を捕らえた後の対策を協議するのに必要な情報を得られると思うねん」黒ジーナさんも白ジーナさんも、宇宙ですけど、雇われとはいえ貨物船の船長してましたね。

(ううううう、アークロイヤル級9隻全艦とテンプレス級2隻の提督権限もあるねんで、あたしら)

(そうでしたねーすみませんー)

「あとね、勇者というか皆の指導者となった海賊を讃えるノルマン人、バイキングの風習は英国やフランス、スペインの海洋生活者にも伝えられて行くのよ。そして…」

「海賊船長の話に繋がるわけか…雅美さん。ちょっと黒マリに心話繋がせてくれ。内容はみんなに聞かせるようにするで」エマニエル夫人ヘアな方のジーナさんが真剣な顔で告げます。

(だからしほちゃん、エマニエル夫人はエマ子だけにしてくれ…まぁよい、黒マリ。聞いたか)

(あいよ。海賊には海賊、だろ。まず倭寇だが、キャベツ食べ放題ご飯お代わり自由じゃなくてよ、うちらの時代の海賊で強力なのは鄭成功だが、こいつは既に台湾王になってる。次に、村上水軍は…痴女皇国に縁者いてるじゃねーか。瀬戸の凛ちゃん)

(え?あの子村上姓ちゃうやん)

(いやいや、痴女皇国でも聖院でも、瀬戸内海は人魚族の縄張りだろ?で、村上家と瀬戸家はお互いの受け持ちを島や沿岸と海中で分け合ってんだよ。で、海中側の頭が瀬戸組。沿岸側と船の受け持ちが村上家なのさ)

(ふむ。となると、紺碧騎士団を召喚すれば自動的に日本海賊の技術と戦力が来ることになると)

(そういうこって。あとさぁ、鳥羽市。中東作戦時にペルシャ湾岸から真珠取りの一族を移住させてパールキングのご先祖様たちと組ませて真珠養殖させてるじゃん。あそこら一帯を治めている一族、結果的にアラビア半島由来の航海技術や…これは内緒だがイスラム科学を伝授されてちょっとした大砲持ってんだよ…そして、村上水軍の関係者も呼んで、監獄国で生産された鉄鋼を利用した半鋼製船や装甲船を試作させているんだ)

(えええ?そんな物騒な事していいのですか?)

(ああ、白マリは知ってるぞ、サリー。うちらは航海技術として転移だの高速海流だの、天女族の風発生能力だのを利用して、内燃機関動力船同等以上の高速航行能力を船に与える事は可能なんだが…船側が保たねえんだよ、スピードに。で、食料や飲料水保存だの、ある程度の調理設備の確保だのを考えると、太陽光から船室を守り温度管理をするためにも、難燃性の素材で船を作らざるを得ないんだよな。しろありくんの応用で、一種の有機合成素材…カーボンやケブラーを平面化したものを考えてもいるが…現状のカーボンコンポジットって欠点あるからな。長時間長期間の水分暴露で脆くなるから。まぁともかく、村上水軍と並ぶ九鬼水軍の縄張りだ、志摩半島は。で、痴女皇国世界の九鬼一族な…鬼の字でわかると思うが、鬼の一族だ。水棲鬼…つまり人魚の一族で、海洋ヤクザの世界に行った瀬戸一族とは違って陸鬼だけどな。で、紀伊半島東部から今の松阪市辺りまでを治め、比丘尼国伊勢支部を守護する国主職をおかみ様から授かっている武家なんだわ。あそこの内宮、伊勢神宮と同じで特殊用途な支部だろ。重用の度合い、わかるよな)

(ふむふむ。歴史上の、関ヶ原までの九鬼氏とだいたい似たようなものね)

(そしてなぁ…実はアルトが出奔して聖院に行った後に出来た妹が九鬼氏の目に止まり、今の九鬼家の家長で紀伊熊野国主職の九鬼嘉隆くきよしたかの嫁になってるらしいんだよ、で、妹も海女さん修行してるしこりゃいいって訳で、艦隊を任されているみたいなのよ。アルトもそうだが、あの実家って結構武闘派らしかったようでなぁ…)

(ええええええ何ちゅう後付け設定めいた話よそれっ)

(いや、確かにアルトくんやお姉さんだっけ、中東作戦の時に見たけどおとーさんおかーさんの血を引いてるし、男好きしそうで云々な家系だなーとは思ったけどさぁ)

(よねーマリアちゃん…)

(わわわわわわわたくしの知らぬところで産まれた妹がそんな地位にっ)

(で、妹さんの名前は…)

(おかみ様に聞いてる。…ナディアフィール。穏やかとか静かとか、海が凪ぐ事を祈った名前だそうだ。で、九鬼一族では静香名を名乗り、静御前の再来とかで静香将軍だの静香御前として勇名を轟かせているらしいぞ。瀬戸家の長女が鬼退治作戦で名を馳せるわ、面識はないが実の姉が痴女皇国将軍になっているとは知ってるから、名を挙げるためにも是非に今後海が絡む話で、何かあれば参加させて欲しいと比丘尼国に懇願しているようなんだよ)

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ジーナ「少し質問がある。アルト妹についてだが、生まれや育ちからして、インド人ほどではないが浅黒地黒系なのはわかる。ただ、肉や魚は食う部類やろか」
黒マリ「普通に魚も貝もいけるみたいだぜ。松阪のあれは牧畜が端緒についたばかりだからまだありつけないようだが…実は痴女皇国や聖院世界の日本では牛肉に対する禁忌はない。中原龍皇国から儒学が輸入されていないしな」
おかみ「ただ…この時代の牛肉…霜降りとか期待したらあかんぞ。ぶんめいかいかで牛鍋食ってた話もあったやろ。この時代、まだまだ砂糖が高価で醤油や味噌で味をつけるしかなかったんや」
まさみ「なお、連邦世界の話ですが、ある時期、長年にわたり毎年びわこ国からちばらぎ国に牛肉の味噌漬けが贈呈されていました。しかし、ある時、びわこ国出身のある人が当時の政権の閣僚になったと思って下さい。で、その近江の閣僚は贅沢品で殺生必須な牛の贈呈をやめてしまいます。で、ちばらぎ出身の同じく閣僚で、しかもびわこ国より遥かに地位が高い国の水戸のご老公系偉い人は、恥を忍んでびわこ国の閣僚に牛肉送ってと頼みます。が…」
サリー「何か悪い予感がしますね」
まさみ「その井伊直弼というおぢさんは、牛を殺すなど野蛮な紅毛人のする事だとか言って、水戸のご老公系もっと偉いおぢさんの徳川斉昭という人が頭を下げてるのに笑い飛ばしました。その結果、水戸納豆を食べて怒り狂ってぱんつぁーふぉーした大洗な人たち…ご老公の部下の皆様に出勤途中を襲われて暗殺されました…」
アルト「わたくしたちで言うとどんな感じなのでしょう」
まさみ「マイレーネさんが女官食堂のメニューでうなぎを振る舞って女官の暑気払いにしようと言ってるのに、ダイアちゃんが高価なうなぎはもったいないですよとか言ってうなぎ発注キャンセル」
ダイア「何ですかその例えは!」
ジーナ「あのな…マイレーネさんの実の母親ってな…(ぼそぼそ)」
ダイア「(顔面蒼白でテルナリーゼを見ながら)ひぎぃいいいいいい!わかりましたわかりました逆らいません!」
まさみ「まぁ、本物のマイレーネさんなら食堂の食材予算とかちゃんと調べて、出納が困らないように常識的な費用の範囲のものを要望してくれると思うわよ…」
アルト「で、わたくしの妹とやらの食事の制限を気にしているということは、聖院か痴女宮で食事をする可能性があるということでしょうか」
黒マリ「実は九鬼嘉隆なんだが、連邦側の歴史では関ヶ原で西軍についていたので、負けた側なんだが、息子が東軍についた事もあって、九鬼水軍の戦力や嘉隆の人望だの才能だのを惜しんだ尻味噌タヌキな権現様に許されているんだ@雅美さん知識受け売り」
まさみ「しかし、色々と行き違いがあって嘉隆は切腹しています…ですが、どうもこっちの九鬼嘉隆、ちょっと事情が違うようなのです」
おかみ「具体的に言うとめおとに対する考えの行き違いで離婚しかけとる。あるとの妹のなであは旦那一人に対してよめは四人やったか、までは許すと。しかし嘉隆は港ごとに女を置きたい部類なんよ」
まさみ「史実での九鬼嘉隆は十二人だったかな、とにかく子沢山ですので、複数回の妻帯の可能性もありますね」
おかみ「で、こっちの九鬼家も、他の嫁との分も含めて子沢山やし、紅毛人のばてれん海賊しばくついでに聖院行って名目出家して来たろかとか話が出とるんや。ただ…それは表向きの話でな」
ジーナ「ほうほう」
おかみ「実のところ、瀬戸家が痴女皇国に出稼ぎに行って名前を上げておるが、やくざが生業の瀬戸家と違って武家の九鬼家からそうそう人は出せん。しかし九鬼の家の面子もあるしで、一計を案じたと言うか一芝居打って、旦那の不貞を口実に出家したふりして聖院に行って武功を立ててくれやと、静香…なであに頼んどるんや」
ジーナ「おかみさま、それ本当やったら話は全然違いますで。で、アルトくんの妹はどない言うてまんの」
おかみ「そもそも嫁入りの際に、九鬼の家には前妻の子供とか、側室とかおるから承知の上。その取手つけの理由で、あんたが不必要に不名誉にならんのやったら九鬼の名前に泥塗らん程度の働きはして来ますと二つ返事で聖院行き了承しとる」
ジーナ「それがほんまなら、なかなか男前な妹さんやなぁ、アルトくん」
まさみ「要は九鬼家も世界的に名前を売りたいけど、一番適役そうな嫁さんを送り込むのにあたり、出家させる名目で来させると言うわけか」
おかみ「あと、静香は実の姉に会いたがってるっちゅうのもあるからよろしうにな」
白マリ「まぁ、うちも何だかんだ言って猫の手も欲しいからとりあえず受け入れます」
みんな「果たしてアルト妹とはどんな人物なのでせうか」
ジーナ「(なんかほえほえがもう一人増える気がしてならんのだが…)」
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