アルトリーネさんのいけない修行の日々

すずめのおやど

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アルトくん()聖院を目指す

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アルトリーネでございます。
あたくしの助平話に需要が僅かでもあるようで何よりですわ。
さて今回は、わたくしがなぜ聖院に入ったか、少しだけお付き合いくださいませ。

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皆様。

女性にょしょうに遅刻ぶちかまされた経験はございますか。なに、そんな付き合いはないと。

いえいえ、今が出会えずとも人生50年と致しましてもですね、何かしらのご縁があるやも知れません。ただし機会は逃さぬものと、このアルトリーネより謹んでご忠告させて頂きます。

ええ、只今の上司アレーゼ様が行き遅れでございましょ?

さらに更に、わたくしめのえすえむとをめこの師匠のジーナ様。

クリス様と出会わなければヤバかってん、あたしマジヤバかってんと、独特の口調の日本語で自らの危機一髪をお語りになられます。

あ、クリス様とのおのろけは結構です間に合っております。

あたくしども上級女官が一般の殿方と普通ではまぐわえないのご存知でしょうに。なまちんぽとやらの良さを説かれましても、食したこともない食べ物の味を説かれるようなものですわよ。

ただし、あたくしは個人的な事情でちむぽとか申すものの実物、少しだけ扱いを心得てはおりますが…今更ねぇ、クリス様以外にはちょっと心が動きませんわねぇ。

あ、ちょっとだけご説明させて下さいまし。

わたくしども上級女官の場合、如何に殿方から口説かれ説き伏せられましても、ジーナ様いわくのちんぽとかちむぽとかみなぎるちむぼーなどと申されますものを、受け入れる訳には参りません。そこの殿方。火傷で一生使い物にならなくなっても良いのですか?

第一わたくしたちも気持ちよいとかいう以前に気を遣いに遣いますのよ?

ただし、後継ぎ作りに孕む時だけは別ですの。

この時は仮眠または半覚醒状態と申すそうですが、一種の麻酔が効いたような状態で殿方を受け入れます。

ええ、身体を動かしたくとも動かせません。必然的に皆様いわくの「まぐろ」とおっしゃる状態ですか。

色街で春をひさぐ方への評価ですと最低極悪となるとお聞きしましたけど、まさにそれですマグロ。

いかにこの不肖アルトリーネ、たいていの殿方をめろめろにさせて頂く容姿をしておるとは自負しておりますが、このアルトリーネをもってしても身体が動かないのではご奉仕など叶いません。

たぶん、だっちわいふとからぶどーるとかいう何かを寵愛される方以外には失望を与えるのではと存じます。

で、わたくしがみなぎるちむぼーとやらを知ってる理由ですが、わたくし…ジーナ様に言わせると、ばついちという事を経験しております。

それも、思い出してもかなり腹が立つ理由で。

時に聖院暦云々年。当時12歳のあたくしはさる漁師頭の家に次女として生まれ育っておりました。

で、取引のありました豪商からのご縁の紹介を得て、その地方の領主様のお世継ぎと見合い話が来たとお考え下さい。

で、当時のあたくしなんですが、幼き頃より海に潜り貝を獲り真珠を集めといった仕事を海女頭の母に仕込まれておりまして、下帯一本締めた姿で板子一枚下は地獄な世界に生きておりました。

一応、海女頭漁師頭の子ということで、経営に関わる読み書き計算は出来ねばと、学び舎には通わせて頂けましたが。

かような海女の子が何故に領主様のお世継ぎに見そめられたか。恐れおののく父母は、果たして我が家の次女ごときが家柄として釣り合うのやらと、商家様を通じてお伺いを立てご意志を確かめます。

なにせ、ご領主様です。いくら我が家が数十の漁家を従え、そちらでいうマグロや鯨にあたる貴重で高価な獲物を取るわ、良質の粒真珠を納めるわで名を知られた漁師頭といえど、あまり逆らえば取り潰しになりかねません。

で、返ってきたお返事を聞きますと。

領主様のお世継ぎ様…息子様が、いつぞやに磯近くの街道を通りかかった際に、下帯を締め直してもう一稼ぎよとばかりに桶を持って海に向かうわたくしを目撃されまして。

で、当時のその国では領主様のお手つきは不問とされておりまして、事に及んだ相手に見合う金子を渡せばよしとされていたのですが、流石に海女頭を筆頭に何人もの海女がいては狼藉に走るのは憚るとお付きが進言したのだとか。

更に、界隈では特産名産を納めご領地の経営を助けている家の娘にございますと聞かされたお世継ぎ様は、なるほど手篭めは軽率であった、しかしながら、かの娘のあの素晴らしき身体を今一度拝見したい。

ついては一度屋敷に来てはくれぬか。もしも中身もよろしければ妻または妾と致したい。如何かと聞かされまして。

まぁ味見はともかく傷物にされては、わたくしは困りますと言いますが、なまじ兄や姉がおりました事がわたくしには不利に働きました。

如何に我が家が漁師界隈に名声も高いとは言え、領主様に追い出されては異なる漁場を求めるも難し。ついては何々、つまり今は捨てて言いたくもないわたくしの俗名を親は唱えて続けます。

お前も心ときめく年頃であろうが、ひとつ親のため家のため、はたまた付き従う漁家の衆の為と思うてお世継ぎ様に会うてくれと。

これをジーナ様流に申し上げますとね。

磯辺でふんどし締め直してたアルトくんの日焼け生ケツ、それもふんどしの日焼け後も眩しいケツ見てちんぽ突っ込みたくなった領主のサル息子がすんでのところで侍従に止められたが、あのケツを忘れるには惜しい。

で、領主だか貴族だか知らんが権力者の権力を使って家に来させようとしとったんやろ?で、おとーさんおかーさんも、アルトくんは次女やし姉や兄さえ片付いてたら妹一人差し出しても無問題と思ったんちゃうかと。

ええ。その通りです。書状には海女姿で来いとすらありましたから。

で、流石に潜る姿もどうよとなりまして、ふんどし姿の上から海女着を羽織り、迎えの馬車に乗せられ一刻。

お世継ぎ様の別宅と説明されましたが、本宅とは少し離れた場所に通されまして。

で、ここでジーナ様いわく、じゃばざなんとかとかはるこんねんとか凄いのが出てきたのかと聞かれました。ええ、あたくしも正直、醜いヒキガエルみたいなのが出てきたら、こやつに純潔を捧げるのかと真剣に悩んだかも知れません。

ですが、お出になられたのは少々太めですが、わたくしよりは年上ですがお若いお世継ぎ様でして。

これならばまぁ一安心とばかりに、わざわざの足労大義である苦しうないと、喉を潤すがよいと渡された地域の名産の蒸留酒を頂き…ええ、海女の集まりでは漁が終われば飲んでましたから。

そしてお世継ぎ様のご興味があたくしの尻にあると聞かされておりましたので、酔った振りをしましてわざと尻をまくり見せつけて、介抱の隙を作り事に及んで頂きました。

ええ、聞かされていた通り、やはり痛かったです。

しかしながらお世継ぎ様は怒り出し、手鐘を鳴らして従者を呼びつけ寝台を改めさせます。

…そうです、幼き頃よりの海女働きで、あたくしは純潔の証がたてられなかったのです。

泣いて申し立てるあたくしに、従者もこれこれと説明をいたしますが、何分にもお世継ぎ様相手に強くは言えずで。

でまあ、一人で少し待たされ、とりあえず足労の礼ぞと従者に金包みを持たされ馬車に乗せられ、家に返されたわけですが。

そして家で顛末を報告したところ、破瓜の種をなぜ持っていかなかったと言われ罵られまして。そんなもの渡してくれなかったじゃないですかと。

後日届いた手紙には、純潔の証なかりせば婚姻とは相立ち行かぬ。されど名漁師と名高き誰某家の次女が嘘を言うとは思えぬので、今回は事荒立てずと致す。なお次女の口入れに困る場合当家を頼るが良いと書かれてまして。

で、これまたジーナ様流に言うとですよ。

処女の血がなかったから結婚話はナシや。しかしアルトくん家のアルトくんが嘘ついてると疑いまくるのも大人げないから今回はお互いなかった話にしとこうね。あと、アルトくんが嫁入りや就職に困ったらボクんち頼ってね。…ええ、わたくしもなんかハメられた気がしてました。

要は下女か側女としてあたくしを囲いたいけど、いきなり地域の有力者の娘をお手つきにできないから傷物にしてしまう絵図を描かれた可能性があると、どの関係者にも会ってないのにジーナ様はおっしゃいます。

更にアルト家関係者も、娘を差し出す事で領主様から何かしらの見返りを得る話だった可能性すらあったんではと言われます。

ええ、後年に発覚しますが、全てジーナ様が看破なさったとおりでしたわ。

で、泣き伏すあたくしの話を聞きつけた学び舎の教師が訪ねて参ります。さる騎士様の奥様で、いくさで騎士様を亡くされたあとは故郷に戻っておられた方でした。

で、奥様いわく「世にはあなたのような不憫をかこった女子を受け入れ育てる尼寺がございます。そこの分院には、歩きであれば朝出て昼には着くでありましょう。身ひとつで行き着いても衣服や食も面倒を見てくれると聞きました。あなたの読み書き算術の成績ならばまず、女官として育ててくださる筈です。何も言わずに家を捨てるならば書き置きもせず、未練を一切捨てて家人寝静まりし間にいでて朝の開門と共に駆け込みなさい」とおっしゃい、簡易な地図を書いてくださいました。

あたくしはしばし、悩みました。

純潔は捨てた。

下女側女でもよいから雇い口があればましな世の中です。身体を売る身に堕ちねば良かろうとも思いました。

ですが奥様は申されます。

「わたくしも稼ぎになる教え子は捨てたくはありません。しかしながら嘘たばかりで用意された仕事が、果たして海の底とはわたくしには思えませぬ。まだまだ底があるやも知れませぬぞえ」と。

その考えに思い至らぬわたくしに、奥様は語られました。あの領主の息子は界隈では好色で有名である。それだけならまだしも、移り気であり貴女に興味を失えば淫売や奴隷として売り払うやも知れず。実際に亡夫の騎士家にも、同じ国ながら注意致せとの話があったと。

まだまだ世間を知らぬわたくしでした。そんなわたくしに、奥様は続けます。私は名家に生まれ武勇で名と功を挙げた夫に恵まれたが、領内にある気の毒な話は剣を振るばかりでは解決はせずとの夫の悲痛な話を忘れた事はない。

これはわたくしからの貴女への最後の授業である。

もしも道中に困れば亡夫の形見の短剣の一振りを見せ助けを求めるがよいと、古びてはおりますが装飾がなされた鞘に納まる剣を私に見せます。

わたくしはここに記された騎士家の縁者であり、聖院への使いに出された者であるが、かくかくしかじかと名乗れば、まず大抵の者は話を聞くと、少しばかりの路銀も持たせて頂きました。

剣と路銀を持ち、書状を携えておる事が信用となろうと。

わたくしは決めました。海女の銛、我が稼ぎの種にも等しき剣を、それも騎士家の銘入りの剣をわたくしに預ける先生のお話が本当であると。少なくとも騎士の魂を預かるに足る話だと決めました。

先生はおっしゃいます。

本当は貴女に槍や長剣を渡したい。

だが騎士でもない貴女が剣を佩いているだけで却って怪しまれるであろう。短剣ならば護身と身の証に持たされたと思うてくれよう。

我が家の剣は、わたくしの死す前に聖院に寄贈しようと思います。そして願わくば、一振りだけでも俗名なにがしが女官騎士を志す支えに渡されたしと添えておきます。

貴女が女官修行を投げ出さねば、必ずや我が家の剣が貴女の下に参りましょうとまで申してくださいます。そして海女姿を捨てて道中を進むための旅装束まで用意頂けました。途中で着替え、発見を避けるため元の衣装は埋めよ、と。

私は深く感謝して奥様の下を去りました。

そしてその夜、家を。里を。

全てを捨てて歩き出しました。

聖院分院へと。

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べらこ「アルトさんアルトさん。この話の時にナディアさんいなかったんですか」
アルト「実はこのはなしの時にはナディア、年齢ひとけただったのですよ」
べらこ「はぁはぁ…なるほど」
なであ「そーなんですよ陛下。で、後にあたくしたちが引っ越した先でもごもがががが」
アルト「ナディアフィール…まだゆってはなりませんっ」
なであ「サレルフィール姉様。はっきり申し上げますがね、姉様が聖院に行かれてからあたくし、どんだけしんどかったか。浜の餓鬼どもは姉様がいなくなったとばかりにあれこれでしたし、あたくしが奴ばらめを殴り海に潜れるようになるまでは苦難の日々だったんですよ?」
アルト「で、このかいわで、ナディアがどういう子かをおさとりくださいませ」
べらこ「色々あったのはわかります。しかし、あたしは敢えてバラそうと思うんですよ」
なであ「ええええええベラ子陛下、一体全体何を申されるのですかっ」
べらこ「はっきり言いますよ。アルトさんの妹さんらしい。ナディアさんの評価はこれにつきます」
ふたり「陛下、いくらなんでもひどすぎる説明です!」
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