闇堕ち女帝マリア・痴女皇帝建国譚

すずめのおやど

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欧州傀儡雑技団ものがたり -Le cirque de marionnettes- 11.02

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ボリショイ曲芸団へ戻る子たちを乗せた、キエフ経由モスクワ行北方急行「冬景色号」の尾部の赤灯が、ゆっくりと小さくなってゆく光景を見守る私ことスペイン王国…そしてフランス王国イスパニア・ヴァロワ家王女のフラメンシア・デ・ヴァロイスと、フランスの河原芸能制作に関係しておる主要な者、一同。

ここはパリ・北東ノール・エスト駅です。

数日前、モスクワからこの駅に戻ってきた男の子たちと入れ替わりに、こちらで預かって舞踊を教えていた子たちが戻って行ったのですよ。
https://ncode.syosetu.com/n6615gx/214/

で、何を教えておったのか。

(わたくしの母がイタリアからフランスに持ち込んだものがございましてね)

で、うちの母…スペイン女王のイザベル・デ・ヴァロイスまたはエリザベート・ド・ヴァロワ。

私からすると母の母すなわち祖母に該当する人物は、カトリーヌ・ド・メディシス(ヴァロワ)となります。

つまり、イタリアのメディチ家出身で、カテリーナ・ディ・ロレンツォ・デ・メディチというのがイタリアでの本名。

そして、持ち込まれたものは…バレエと呼ばれる舞踊。

で、ルイ16世陛下の祖父である14世陛下が大層にこの演劇舞踊をお気に入りとなさって、自らも出演して踊るほどに好んでおられたのだそうです。

いわば、フランスの公式舞台舞踊ですが、当時は宮廷舞踊の一種としても踊られていたそうですね。

(日本の大名が能をたしなみ、何かの折に触れて舞うのと同じで、物語性のある舞踊を踊れるのは上流階級の証とも考えておったようですね)と、ベラ子陛下にも入れ知恵を頂きます。

しかし、16世陛下のご治世の頃からバレエは職業舞踊に化しつつあり、舞踊の鍛錬を積んだ舞踏家を踊らせたり、あるいは舞踏家を育成することに金を出す趣味に転化する傾向が出ておったそうです。

そして、オペラ座。

(実は痴女皇国もこの劇場の建設に噛んでました。姉が始めた学術基金の融資に応募したフランス王国の求めに応じて築かれたのですが、その時点で近代的な設備をいつでも導入可能なように準備工事をした上で竣工して引き渡したのです…)

むむっ、そんな裏がっ。

(ちなみにフランスの主な宮殿や宗教施設も、実のところは痴女皇国や聖母教会の用途に速攻で転用可能なよう、密かに施工させてますよ…でなければ、フラメンシアちゃん…水洗トイレ完備じゃないヴェルサイユに住みたいですか)

遠慮申し上げます。

ええ、グラントレアノン宮とプチトレアノン宮の改装工事だけでも、16世陛下とアントワネット妃、そしてお子様方には大好評だったのです。

食事は温かいものは温かく、冷たいものは冷たい。

そして、温かいお風呂や熱いお湯が使い放題。

トイレも異臭とは無縁の清潔な水洗式の上に、股間すら洗うしろもの。

無論、室内の冷暖房についても。

これが贅沢というものか、と感慨深げに申された16世陛下のお顔、忘れられません。

更には、パリ郊外の住宅や市内のアパルトマンや他の建物も水洗化を進行しておりまして、庶民にも衛生的な生活がもたらされると聞いて愕然となさっていたことも。

で、そのルイ16世陛下ご夫妻が我々の映画を視聴なさって曰く。

「イスパニア初のこの舞踊、大変に素晴らしいものに見える。しかし、イタリアから我が国に伝わり相応に広まっておるバレエ。これも、後の世ではかかる格好で踊ると聞いた。ついては河原たちにも、これを学んで貰ってはいかがか」

と、助言を頂いたのです。

「フラメンシア殿下。貴殿はもはやこのフランスの次の王も同然。然して、王となれば祖国イスパニアとはまた違う趣向の流行を打ち出しておくべきかも知れぬと考えたまで。この、余の…いや、僕の助言をどうなさるかはもはや貴殿次第だろう…」

と、ジュウドウ場なる、草を編んだ敷物を敷き詰めた場所で、粗末にも思える道着を着た姿でお座りになって申されるのです。

実は、革命に際して痴女皇国に救われた16世陛下、比丘尼国に伝わる格闘技…それも、武具を一切使わぬ素手の技を伝授されておられます。
https://novel18.syosetu.com/n5728gy/291/

そして、このジュウドウやアイキドウの達人として、引退後の今は日に何刻かをここで過ごし、弟子として立候補してきた軍人などにワザマエを教えておるのです。

で、その時に私の隣におられたベラ子陛下も、確かにバレエの方がフランス向きかも知れないと同意。

更には、当時、引退こそしておりましたが、奇しくもフランス病作戦の煽りで若返ってしまわれた伝説の舞踏家ラ・フォンテーヌという芸名の方を宮殿に招き、アントワネット妃とお子様方の講師として雇われることに合意されたのです。

で、王妃様やお子様と共に「未来のバレエ」を学んでいる真っ最中の舞踏家がいらっしゃいます。

マリー=テレーズ・スュブリニ。

この方が、相棒と言われるクロード・バロンという男性舞踏家と共に、ヴェルサイユの舞踏場を借りて練習に練習を重ねておられます。

では、ベラ子陛下。

バレエとやら、そこまでして世に広めるべきものかを。

「べきものです。なぜならば、かつて連邦世界に存在した教科書も真っ赤にする国ですら、国営サーカスのみならずバレエ団を組織していたのです。およそ先進国または文明的文化的主導者を標榜する国々は、こぞってバレエの踊り手を養成したり、あるいはロンドンのロイヤル・バレエスクールなどの格式ある学校に留学生を送り込んでいたのです…」

そして、ベラ子陛下が囁く、悪魔のひとこと。

(モスクワでも帝室バレエ団が発足しておりますよ…で、モスクワで有望なものは、港町でもある第二帝都サンクトペテルブルグの帝室劇場で、海外のお客の目に留まりやすい興行舞台に上がれるのです…)
https://x.com/725578cc/status/1823269320614637669

ぬううううう。

で、私はフランスにおける行政…特に文化政策について、なるべくならば意向を伺っておきたい人に意見をお聞きします。

(アントワネット妃殿下、どーなさいます。あのおそろしあに黙って負けておきますか)

この私の、挑発とも取れる問いに対して、先王妃殿下はこのようなご意見をば、出しておいでに。

(負けたくはございませんわね…しかし、我が母国たるドイツ・オーストリア多重帝国がバレエに今、注力できるかと申しますと…確かに格式も歴史もございますから、わたくしの母国にも伝わってはおります。しかし、どちらかと言えば我が祖国は楽曲に力を入れておる部類、舞踊に回せる金があるかと申しますと…うーん、微妙なところですわねぇ)

んで。

お財布役に相談します。

と言っても、いきなり金を出せとか申すのも野暮の極み。

まずは、ジョスリーヌ団長とマリアンヌ公女殿下、そしてマドモアゼル・ヴェロニクに相談してみましょう。

これに関して、ほぼ即答だったのがマドモアゼルのお母様であらせられるカルメン夫人。

(マリアヴェッラ陛下には私から掛け合います。ヴェロニク、ジョスリン…わかっとりますわねっ。そしてマリアンヌ殿下、恐れ入りますがこの件はオペラ・ガルニエのみならずバレエ文化の一大拠点である我が共和国の存在価値にも影響する話。なんとしても予算、認めさせますっ)

(ええええええ、カルメン閣下、それはなんぼなんでも…)

(ベラちゃん…文教局に掛け合って予算確保してもらうわ…いいこと、エロマンガーだけどバレエ習ってた先生の超大作でわかる通り、フランスにバレエやらせないと色々差し障りが出るのよっ)

ええ、マダム・マサミまでもが私どもの味方に。

そして、ベラ子陛下もバレエそのものの価値は強く認めておいで。

(バレエ、特にクラシックバレエと呼ばれるものは連邦世界であれば女性の踊り手を中心として広まり、文化芸術の一大分野となっています。雅美さんが言う通りで、音楽や戯曲などの発展とも連携していますので、このバレエを広める広めないで近代文明や文化のハッテンに影響が出てしまうことすら予想されるのです…)

そ、そんなに大層なものなのでしょうか…。

で、先王陛下ご一家と、私と二人の姉様や河原女くのいち三人衆にマリーセンセイ、そしてマドモアゼル・ヴェロニクやマダム・ジョスリーヌまでもがベルサイユの一室に集められました。

「このあたしがベルサイユに来て、しかも近代バレエについて人様に教えるなどとは…」

ええ、マダム・タナカがお越しです。

「まず、連邦世界では伝統芸能と化したクラシック・バレエに反発してモダンバレエというものが20世紀に勃興しましたが、これはとりあえず省いておきます。で、クラシックバレエについては、ベラちゃん…マリアヴェッラ陛下の生国であるイタリアで生まれ、宮廷舞踏として周辺国に広まりました。ルイ14世陛下も当時のイタリア半島諸国とフランス王国との関係でバレエを知り、大いに好まれたのは連邦世界でも痴女皇国世界でも同一の歴史といってよいですね」

むう、聖院第二公用語での講義ですが、すらすらとお話になられますね。

「私の祖国の日本でもバレエは広まっており、街中でのバレエスクールはもちろん、フランスやカナダといった外国へ留学してまで覚える傾向がありました。女流ポルノ漫画家となった方も、幼少期にバレエを覚えさせられた経験から執筆された超・本格的なバレエ漫画を描かれて話題をさらった事がある程度には有名な芸術分野なのです」

「なるほど…言い換えれば、東洋の黄肌の民にまで広まるほど有名な芸術となるということ…ますますもって、バレエの発展には注力した方が良さげかと思いますわ、あなた…そしてフラメンシア殿下」

ええ、私と16世陛下は、とりあえずコンビを組んで政治をやっとるのです。

陛下は隠居という建前ですが、実際には移築されたベルサイユ宮殿の縮小された庭先に、これまた移築された大トレアノン宮と小トレアノン宮を構えてお住まいな事でお分かりの通り、痴女皇国としても引き続きフランスの国政にはある程度は関与して欲しいという意向を見せております。

で、テレーズ王女とソフィー王女、そしてジョセフ王子とシャルル王子…更には王妃様までもが、バレエを習う羽目になったのもこの、マサミ=サンの講義の結果なのです。

「史実ではマリー・テレーズ王女以外は早期に夭逝されるのだけど、痴女皇国世界では伝染病や重大疫病の部類、あたしたちに相談すればあらかた治せちゃうからね…」

そして王家の皆様、男子は大トレアノン、女子は小トレアノンに別れてお住まいになっておられます。

即成栽培措置を受けられるかどうかはまだ未定ですが、とりあえずはブルボン王家としての地位を保証する事、うちの母にも同意はさせております。

っちゅうのもルイ16世陛下としては、フランスの治政をヴァロワ王家に譲って隠居する意志を示しておられます。

しかし、我々のお目付け役であるフランス共和国なる、連邦世界のフランスの首脳陣…特に、向こうの女性かつ大統領であるカルメン・ポワカール夫人としては、一気にヴァロワ王家がフランスの新王になるのではなく、激変を緩和しつつ王権を円滑に移管して欲しいとのご意向、我々に伝えておられます…それも、直接に。

(我が共和国でもかつて、ルイ陛下の子孫に対して王制復活を打診したことがありました。しかし「先祖をギロチンにかけた国の王に戻れとは何事か」と激怒なさって話がもの別れに終わったことがあったのです…せめて痴女皇国世界では、王権や政権の禅譲を目指して頂きたいのです)

実は、16世陛下に武道の才を授けたり、あるいは女性陣を中心に舞踊の才を授けているのも、この禅譲過程のためだそうです。

王がすぽーつなる競技武道、それも武具を一切使わぬ上に儀礼を尽くし規定に沿った技で戦うことの模範を示したり、あるいは王族の女性や少年が身一つで華麗に舞踊をなさることで、我がフランスが文化の主導者であると喧伝し、平和的に大国としての地位を確立しようという姿勢を広めたいというのがフランス共和国からお越しの方々のご意向。

そして、私はある時に二人の姉様と河原くのいち三人衆、そしてマリーセンセイともども、ジョスリーヌ団長とヴェロニク様に、内緒の話を持ちかけられたのですよ。

(このバレエ文化の普及のための働きかけにはもう一つの裏があります。イザベル陛下のお母様が運営しておられた貴婦人によるスパイ工作部隊である遊撃騎兵隊の復活に向けての候補者選抜の意図があるのです…)と。
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