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危うし少女・メカケの座を守る恐怖の戦い!・8
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さて、時刻は折りしもお昼。
ここでベテハリ君を解放しておかないと、アニサちゃんに怒られます。
(い、いえ…怒りませんが、お昼ごはんの支度が無駄に…)
(まだ体調不良などの妊娠中の不都合は出ないとは思いますけど、辛かったら行政支局の職員に言ってくださいね。聖環を使えば行政支局の食堂でごはん食べられますから)
そうですね、1日2食や1食という習慣も多いこの時代ですが、聖院時代のいつからか、1日3食という習慣が一般的となっていたそうです。で、その現代風の習慣に従って、ベテハリ君やアニサちゃんも朝昼晩とご飯を食べるようになっています。
(これ、すごいなぁって思いましたよ。ベテハリなんて盗賊の群れにいたから余計にちゃんと食べられなかったでしょう。それが藩王様の毎日のたべものより豪勢かもしれないお食事を毎日毎日いただけるのですから、ほんとうにありがたい限りです。おうちで作るときの材料まで頂けて…)と、心底感謝している雰囲気に満ち満ちたお返事が返って来ますが…。
うん、この時代はかなりのお貴族様でもまだまだ1つのお皿やお膳で食事が完結する時代です。
大英帝国とフランス・イタリア・スペインについては早期に…いわゆるコースメニューの普及がなされていますけど、それでも聖院や痴女皇国と深いお付き合いのない国では、たとえ偉い人であっても、ご馳走という名前に値する食事を頂けるのはまだまだこれからのところも多いようですね。
で、アニサちゃんは非常勤職員かつ、パートさん扱いです。
事務仕事を覚えてもらうために、午前中は行政支局で机に向かうのがほぼ、日課になっています。
遠隔感知や意識情報を取る形で様子を見ていると、今は先輩女官について、罪人女官…少女たちや、同じく罪人少年たちの予約管理にフリー出勤管理をやっているようです。
(アニサちゃん、女官なりたてなんですから、食材の出納あたりから始めた方がいい気もするんですけど…)と、茸島行政支局の労務管理を担当する頂点に意見を述べてみましょう。
(へーか。うちの行政支局、千人卒の方が多いんですよ…その代わりに片端から茸島島内の慈母寺や警備部分駐所を巡回派遣させておりますの、ご存じですよね…)
案の定、ぶつぶつぶつぶつとぼやくオリューレさんのお返事が。
(つまりオリューレさん、まだ人が足らないと)
(茸島は結構広いですからねぇ。ディードリアーネがぼやいてましたよ。あ、彼女は今日明日、デンパサールの新設警備部で新人教育です)
そうなんですよねぇ…茸島、東西方向の差し渡しは140キロ…そして南北は一番長くて80キロなのですが、間が山地ということもあって、行政支局からデンパサールまでですと、車で行けば大体2時間はかかります。
(女官や騎士なら走ればもう少し早まりますが、周りに被害があるかと)
ええ。姉が北海道でやらかしたあれの縮小版です。道の上や近くに人のいる場所で音速を超えて走るの、基本的に禁止にしました。
特に痴女島や茸島。せっかくエマ助が切り開き作り上げた山道に山崩れの遠い原因になりそうなダンノを与えるのもよろしくないとなりまして…。
で、ディードリアーネさんが出張してる理由ですが。
こないだの死霊の盆踊り作戦の後で、集落の族長他からは女官の常駐を求められました。
今までは南洋王国の目があって、あまり大っぴらにあれこれ頼めなかったが、化け物が出るとなっては話は別。
本国の代官を兼ねた藩王も、痴女皇国が後ろ盾になる事を条件に忠誠を誓って下さいました。
貿易や住民教育に、果ては治安維持であたしたちと手を結ぶのがお得であると判断して頂き、二つ返事で慈母寺の建設予定地となる場所の提供と事前調査に合意。
で、こちらとしても万を余裕で越す人口を抱えるデンパサール一帯の住民の皆様との交易や精気貢納…つまり売春の拠点整備を進める必要がありましたので、こちらの暦で言う11月から始まる雨季までに拠点建設を済ませることに。
そして、茸島に配置される女官の数、今年から来年にかけてだけでも、かなりの人数になる事が決まっています。
現地採用でまかなう分を含めても、その数は茸島だけで二百名は要する見通しです。
更には南洋島のジョクジャカルタへの駐留も視野に入っている模様。
ここはベテハリ君とアニサちゃん、それぞれの生まれ故郷の集落を統括する藩王がいるそうですが、これまた盆踊り作戦の際に痴女皇国の庇護下に置かれた方がお得という認識を強めて頂く結果となっております。
もともと南洋王国の現王陛下って、先先代国王の後を継いだ長男があまりに無能で姉が怒って裏工作を決行、政変に近い形で即位したそうなんですけど…。
(今進めているのは盆踊り作戦の成果を噂として各地に広める事ですね。田中局長…雅美さんの指示ですけど、慈母寺の尼僧に扮した黒薔薇や紫薔薇騎士が触れて回っています。特に藩王達には入念に、と)
さて、リンジーさんは痴女島に戻ってもらいましょう。
で、転送一発で戻ろうとしましたところ。
(ベラちゃん…帰りにあんたたちを乗せて行けって…)と、雅美さんが涙声で心話してきますけど。
見れば、双発プロペラ機のDA62が滑走路にいます。
更には、瞳さんとゼアラさんが雅美さんの後ろに。
隣には…エマ助が。
「ほれほれ、航空適性者のお試し飛行訓練っすよ。あれで雅美さんと瞳さん、内務局の所属だしって事で選ばれてまして…特に雅美さんは不適格判定こそ出ましたけど、スケアクロウの乗務の途中まで行きましたやんか」
ああ、なるほど…あたしの嘆きでもある「飛行機を飛ばせる人がいない」件ですね。
さすがにNBや連邦世界からパイロットの資格を持っている人を連れて来るとなると、いきなりでは済みません。
特に女性の場合、飛行機の免許を取るまでの経緯からしますと、連邦世界に生活基盤を築いている人が大半。
つまり、無理からに痴女皇国世界に来るような辞令でも出してもらわないと、簡単には来てくれないのです。
さすがに連邦宇宙軍や宙兵隊の体液、いえ退役軍人や除隊者を待っているのも難しい話です。
(湯田屋国と共和国から派遣させましょうかと言っておりますのに…)と、自分の人脈を使って巧妙に人を送り込もうとするカエル女。
(おだまり。あんたとこの母国を頼るとですね、ドミニクさんやあんたみたいなのはまだしも、もっと危険なのとか提携先の湯田屋国の危ない経歴の方とか送って来るでしょ! それならまだあたしがイタリア政府か連邦政府事務局に話をしに行く方がよいのです…)
更に言うとラウラ・ロレンツォさんの伝手も使えますし。
まぁともかく、マリアンスタッフ社で連邦側の人材を募ってみても良いのですが、痴女皇国への長期居住に応諾してもらえそうな人がすぐに見付かるものでもなしと言う事で、内部で航空機操縦適性の見込みがありそうな女官を探すことに。
そして雅美さんですが、ほんっとーに微妙なところでスケアクロウの乗務資格ライセンス発給に待ったがかかったんですよ。
一応は痴女種身体、それも姉からですけど擬体貰ってる立場ですよ。しかもこの10月には比丘尼国の十月会議と懇親会に出席する立場ですよ。
(ダメなものはダメなのね…ベラちゃんの乱暴ルギーニは任せてもらえるのに…)
確かに、車の運転ならば雅美さんはお任せできます。しかし、さすがに飛行機と車はまた話が変わるのですよ…。
で、(これはさすがに雅美さんにあんまし無理をさせられんなぁ…)と悩んだ母様の決断もあって、今回は合格判定を見送りとする決定が。
「あたし、あれでやっと飛行機から逃げられると思ったのに!」ええ。本当に泣いておられますね。
「甘いですよ…これもそうですけどスケアクロウよりまだ簡単なのはあるんですから…」
そんな訳で、おじさまとジョアンナさんに挨拶して、助手席に座る事に…って?
後ろからあたしの肩を掴むエマ助の姿が。
「かーさま。助手席はあきまへん。この場合、絶対に教習対象に手心を加えますやろ」
ええと。帰りは瞳さんが機長席ですか。
そんな訳で三列目にあたしとゼアラさんが座り、二列目には雅美さんとリンジーさんが。
これは、何気ない世間話と見せかけた業務指導を雅美さんからしてもらう目的もあります。
で、リンジーさんは雅美さんが痴女皇国での上司に当たるのを知っていますので、大人しく隣に座っています。
さて、雅美さんとしては、部下の現状はどう評価できるのでしょうか…。
(ベラちゃん。これは良いか悪いかは別だけど…ミス・リンジー、相手が少年であればちんぽを受け入れるまでには来てくれたわね。これは前進と言えば前進。ただ…ジュネス門前町店なら、今や慣れた参詣男性やベテラン罪人向けの連れ出し売春店でしょう…お客と言えば片端から成人の男ばかりじゃない…)
(ですねぇ…)
はい。
今しも瞳さんがおっかなびっくりで離陸させたこの飛行機の機内にいる人物ですけど、エマ子を含めてリンジーさん以外の全員がジュネス勤務を経験してはいます。
(確かに、この方…セニョリーナ・リンジーですか。男が嫌という状況に至った理由も分からなくはありませんが…ですけど、すぐにペーネ慣れしてくれるかと申しますと、それはそれで難しい話ではありますね)
とは、ゼアラさんの講評。
「ミス・リンジー…あなたに伝える、良い事と悪いことがあります。まず良いことですが、少年であれば嫌には思えなくなって来ましたよね。これは褒めてあげましょう。よく頑張りました」と、すぐ前の席から成長を喜ぶ声がします。
「ありがとうございます。では、悪い方は…」
「で、うちの国だけど、NBでの基礎研修で習ったとは思いますが、刑務所に服役している囚人に該当する罪人という地位の男性が少なからず存在します。その数、痴女宮罪人寮だけで常時二千人から最大一万人。世界各地へ送り込まれている同じ立場の方々を含めますと、現時点でも十万人を余裕で超えるでしょう。そして…罪人は基本的に18歳以上の男性で犯罪者として痴女皇国に引き取られた者が該当します。そう、成人の男性なんです」
あっちゃあ、という思念があたしの前から。
そうなんですよねぇ。本宮でも、一般の参詣者よりは罪人から吸い取ってる比率の方が昨今は多くなってるんですよ…理由は申し上げるまでもなく、工場地帯の拡充に伴う労働人口増加措置。つまり、人を増やしています。
で、罪人寮については本宮の他の建物に先駆けて内部の階数を増やす話すら出ております。
これを行うと地上22階建が40階建てとなりまして、詰め込めば一万名を超す罪人男性を居住させる事も可能となるとか…。
(ほれほれ、前から人が増えたら上下階の間の通風路や水路の配置を見直すって話ありましたやん。現状やと同じ高さのビルの倍から、ワンフロアあたりの上下間隔を取ってますからね。これ余裕ありすぎやろとはうちも思ってましたから)
と、副操縦士席のエマ助から補助解説めいた会話が。
で、それはそれとして、大人の男性も「お仕事の対象」になるのを改めて告げられてしょんぼりするリンジーさんです。
「ミセス・田中…では、私はどうなるのでしょうか…」
ですが、リンジーさんの不安を打ち消しかき消すような話をする雅美さん。
「できない人に無理を押し付けても仕方ありません。あなたについては、事情を鑑みてクラブジュネスではありますが…当初予定していた門前町店ではなく、淋の森店での研修実施を要請しています」
ふむふむなるほど、確かに淋の森店ならば単純に連れ出し売春とその管理をする訳ではありません。
今の淋の森店は、基本的にお金を持っているか、さもなくば外国の外交官または聖母教会職員を対象とした慰安施設です。
(んーとね、この子の適性、理恵ちゃんとアフロディーネに頼んで性癖分析診断にかけて貰ったのよ。結果だけど、単純な売春を管理するよりはややこしいお客を相手させる方が絶対にいいだろうって。慣れたらマーゴと交代させてもいいけど、まずジュネスというお店や色街旅館だの淋の森の状況に拒絶反応を示さないようにしないとダメって話よね)
なるほど、さすがは仕事の早さでは定評のある雅美さんです。
いよっ、この女郎蜘蛛っ。
(ベラちゃん…あたしさ、後であのバンシーって戦闘機飛ばすからさ、教官役として後ろに乗ってくれない? )
(やです。あたしたちなら少々の墜落や空中爆発からでも生きて帰れますが、地上に被害が出れば怒られます。そしてあの酷道425号…JA0425を正当な理由なく墜落させたり壊したりすればジーナ母様がどんな怒り方をするか、雅美さんもご存知でしょうに…)
(ふんっ仕方ないわねっ。今日はこのくらいで勘弁しといたげるわっ)
(それはいいですから、ちゃんとリンジーさんを折伏してくださいよ…)
「淋の森店であれば、身元の確かな紳士ばかりがお客様ですよ。…ただし、その代わりに、マーゴやケイシーから事務や裏方仕事だけでもきっちりと引き継ぐことをお願いします。それと…嫌なことばかりをさせても人は伸びないと思いますので、わたしからはご褒美のお仕事をお願いしようと思います。大丈夫、きっと気に入って貰えますよ」
と、優しい声で言う雅美さんですけど、何か悪いものでも食べたのですか。
リンジーさん、一般の派遣者よりはこちらの無理が言えるNB籍、それもフレミング機関員ですよ。
で、アグネスおばさまからは「どうしようもない場合は痴女皇国の流儀で人格改造でも何でも好きにして」という許可が出ているとは言えど、せっかくの良質な人材、なるべくならば当初の目的通りに内務局の要員として育成したいというのはわかります。
そして雅美さんの直属の部下となるという事は…情報部の人材として、まずはジュネスで使い物になる事が重要視されるのも無理はないでしょう。
しかし、こういう女の子相手だと厳しい姿勢を示す事が多かった雅美さんにしては、寛大そうな声色です。ええ、あたし直属の管轄だったらとっくの昔に飯島早苗さんか、下手をすると吉村美咲さんコースですよ。
(あのさぁ…あたしもそれなりに成長はしてるのよ? それにね、娘が出来たせいか、どうもここんとこ性格が丸くなったって自覚はあんのよね…)
ふむふむ。
要は、マーゴさんは引き続き門前町店の副支店長役を続投。
そしてリンジーさんには、淋の森店の副支店長の代わりがある程度は勤まるように研修。
(淋の森店なら踊るだけでも何とかなるにはなるのよ。あそこはもはや聖母教会や大使に御用商人向けの高級店になってるからね…それとさ、ベラちゃん…ほらほら、あれがあるでしょアレが。あのお仕事が! あれで慣れてもらうのよ!)
と、リンジーさんとの落ち着いた冷静な会話とは打って変わって、クァンタムリンクでは興奮して連絡して来られるエロかまきりな雅美さんですけどねぇ。
あれ、やらせるんですか。
(もっちろんよ。それが為にあたしもタイミング合わせて引き取りに行けって初代様や二代目様から言われたんだし…ほら、聖母教会の司祭や助祭資格認定については聖母や聖女が絡むからって、二代目様の管轄にされたでしょ? これ自体はあたしも異論なーしってお返事したけどね)
えっとですね。雅美さんのお話を少し補足しておきましょう。
聖母教会の司祭や助祭…つまり、神父さんですとかその補助の方々に該当する役職設立と、その管理は名目的にはバチカン・コンスタンチノープル・ロンドンの各派聖母教会が行っています。
ただし、実際には聖女資格者か聖母の洗礼を受ける事となっておりましてですね。
本宮女官勤務経験者またはローマに所在する聖母教大学いずれかの卒業生については昇進が優遇されるように整備されました。
この聖母教大学、連邦世界では元々は神学校として古い歴史を誇るSapienza – Università di Romaに該当する大学が母体となっています。
…つまり、ローマ・ラ・サピエンツァ大学を伯父とデステ伯母様がイタリア大公国国営施設として編入し、神学以外の学部も設けて芸術や学問の道への門戸を開こうとしたものです。
(もっとも、芸術学部については教程を経た者をフィレンツェやピサに転出留学させる事で質を高めようとしておりましてよ。逆にトリノならトリノで神学を志した者で、成績優秀であれば二学年からはローマと言った具合に、専門学部を持つ大学に進めさせる方針としております)
(ほれ、どこの大学にも同じような講師を揃えるのは大変であろう。それに、ミケランジェロならミケランジェロに師事したいという者が多い場合、他の師匠に付けと言っても簡単に納得はすまい。…そうだな、マリアヴェッラ…未来の連邦世界が基本のお前なら、イタリア全土が一つの大学であるようなものとなっていると言えば理解も早かろう)
と、デステおばさまとチェーザレ教皇猊下が申します。
(まぁ、上級神学を志す者は今の時点ではそうそう多くはないが、それぞれの聖母教会の長となる者については話が別だ。教会の基礎教義はともかく、権威を増すための聖典執筆や神話の収集整備は、そちらの厚生労働局長様からも依頼を受けているからな…だから私が喋る形の原稿執筆、あれ本当に何とかならんか…)
(叔父上。キーボード操作を覚えるか、ペンタブレットで認識される文字を書くか。声を出したくなければその二択です)
(あのマキナ…文章入力機か…)
(ラウラさんに特訓お願いしてるのを逃げ回ってんのはどこの誰ですかっ)
ちなみに聖院時代、姉が金衣継承する前からこのキーボードについては普及していたのですよねぇ…。
(よめのおねがいで、じーなさまが、かいしゃやぐんたいで使われていたおふるをたいりょうに買いつけてくばられましたからねぇ)とは当時を知るアルトさんのお話。
つまり、かーさまの伝手でリースアップ品や償却品のパソコンを複数台入手して配っていたようです。
ええ、アルトさんが銀衣騎士の時に既に聖院にパソコンがあったとはお聞きしました。
ですから、痴女皇国でも女官でキーボード操作が出来ない者の方が少数なのです。
そして、あれがあると言うことは、数字の記述はアラビア数字が主流です。
(実際には各国語で使ってる特殊文字の問題があるからキー配置をどうしようかって事になったのよね…まぁ今はバーチャルキーボードが主流だから、打ち込みたい言語に応じてキー配置を切り替えられるようにできるけど…)とは、雅美さんの弁。
ともあれ、聖母教会に話を戻しますと、教会に勤務する聖職者について、当初の方向とは少し変わった人事方針となった事をまず、お伝えすべきでしょう。
姉の後押しで叔父が開闢し、教皇に就任した聖母教会組織。
連邦世界のバチカンを模した強力な宗教団体を目指しておりますが、崇拝の対象がキリスト教とは、その…少しばかり異なっているのが問題に。
そして、名目上は宗教組織ですが、実態としては痴女皇国が各地の間接統治支配を行うための地区拠点です。
その支店めいた組織が、男性によって運用されるのも色々と弊害があるだろうとなりました。
で、現時点で男性が聖職者である聖母教会については、順次女性…つまり、痴女種の司祭に交代する方向で人事異動が進んでおります。
ただし、男性司祭についてはせっかくの教育や研修を施された存在という事で、教育者として引き続き同じ教会で勤務する事で生活と地位を保障する方向にあるとも聞き及んでいます。
で、この間から痴女宮本宮と女官寮をフル稼働させて女官を送り出している件、まさにこれに絡んでいます。
単に教会を築くだけでなく、そこに勤める司祭や助祭を送り込まなくてはなりません。
更には、聖職者を補助する修練士や助修士という役職の…いわば教会の用務員や下男役も必要となります。
ええ。罪人の皆様の再就職あっせんの対象でもあります。
特に、罪人少年や…罪人でなくとも少年については、教会の下僕めいた職を与えて赴任地へ送り込むことが重視されました。
更には、必要とあれば現地の寡婦や独身者に種を植え付け子供を作らせる立場となるとも。
(で、生まれた子供が育てられないなら聖隷院に預けてもらうって寸法よ)
この聖隷院、ダリアさんがイタリアで入っていた孤児院など、民間や一部の領主がやっていたものを聖母教会が制度化したものです。
目的は、言うまでもなく若年学生労働者の生産。
そして、成績優秀な者は聖院学院本校…とりもなおさずに痴女島の聖院学院への留学を打診され、より高度な教育を受けられるとも。
ええ、聖隷院は文教局の所轄となりました。
そして、エリート教育からこぼれた少年少女の受け皿が…茸島分校だとも…。
で、同じような制度は比丘尼国でもある程度整備されつつあります。
即ち、従来は各地の神社でやっていた孤児救済や巫女さん養成教育について、神仏習合の発令を出してもらって慈母寺でも行うようにすると聞かされております。
聖母教会との関係ですが、異教ではあるが出どころが似ている可能性があるということで仲良くせよ、聖母教信者を無理に改宗させる事まかりならずとも。
更には、聖母教会側でも東方比丘尼国由来の聖母神道と、天竺由来の慈母観音を祀る慈母宗については手出し無用、敬意を持って接せよとも。
まぁ、これらの宗教の信仰の対象って…突き詰めて行けば初代様とおかみ様ですから、同じ崇拝対象としてもあながち間違ってはおりません。
更にはですね。
(あのさぁベラちゃん…泰拳仏象国を痴女皇国支配下に置きたいからって、サン=ジェルマンさんを脅迫してまでして山田長政の人生を本来の歴史に近づけるよう改変したのはまだいいわよ。なんでこの時代に江戸後期の人物のはずの平田篤胤が生きてんのよ!)
雅美さんがめっちゃ怒ってますけど、確かに聖院世界…痴女皇国世界の山田長政さん、連邦世界で毒殺された最後はともかく、大出世した歴史と違って鳴かず飛ばずで終わってるはずなんですよね。
そこをいじってくれと、姉から話が来てサン=ジェルマンさんに黒バリカンをちらつかせながら依頼したまではあたしの行動の範疇ですよ。
けどね、そこから先は知りまへんがな。
(あのね、山田長政が仏象国の軍事大臣なのは連邦世界のシャム王国…タイの歴史とほぼ同じだからまだいいと思うわよ。でも…平田篤胤ってさ、バッキバキの朱子学者の家に生まれて神学者になった人よ…まだ本居宣長が生まれてた方がいいんじゃないの…)
んな事、あたしに言われましても。
それに雅美さん…比丘尼国の内政については、あたしの管轄外でっせ。担当はねーさんですよっ。
(はいはい。まぁ比丘尼国の話はまた別として…向こうの鉄道、来年の一月には開業だっけ? )
(ですよ。NBとスペインを優先させたせいでちょっと遅れたってパイセンが言ってましたね)
(とりあえず高速実験線を兼ねてマドリードからバダホス経由でカディスと…)
(年内にはコルドバからカディス並びにジブラルタルと、バダホスからリスボンへの在来線の開業を優先するそうです。本当はマドリードからバルセロナへの路線を最優先したいって言ってましたけど、スペインって縦にも横にも広い国でしょう。どうしても港へ繋げる線を作って資材やら何やらを陸揚げする必要があるとは)
(あっこはしゃーないわよ。イベリア半島の形を変えるわけにもいかないしね…)
あ、このお話は「こんにちわ、マリア」で確実に書かれるようですよ。
ですので、鉄ヲタ大臣たるパイセンのお話をお待ち頂くとしまして…。
(今のペースで飛んで行けば2時半…十四時半には聖院空港よね。なら、聖母教会のあの儀式にも間に合うか…)
(あれってスコールの時以外に出来ないのですか)
(無理よ。いくら痴女皇国でもさすがにアレはねぇ。ま、リンジーちゃんの場合はその方が都合いいでしょ…それに淋の森店に勤務するなら、今後はあれのお手伝いは確実にやらされる事になるからね?)
ここでベテハリ君を解放しておかないと、アニサちゃんに怒られます。
(い、いえ…怒りませんが、お昼ごはんの支度が無駄に…)
(まだ体調不良などの妊娠中の不都合は出ないとは思いますけど、辛かったら行政支局の職員に言ってくださいね。聖環を使えば行政支局の食堂でごはん食べられますから)
そうですね、1日2食や1食という習慣も多いこの時代ですが、聖院時代のいつからか、1日3食という習慣が一般的となっていたそうです。で、その現代風の習慣に従って、ベテハリ君やアニサちゃんも朝昼晩とご飯を食べるようになっています。
(これ、すごいなぁって思いましたよ。ベテハリなんて盗賊の群れにいたから余計にちゃんと食べられなかったでしょう。それが藩王様の毎日のたべものより豪勢かもしれないお食事を毎日毎日いただけるのですから、ほんとうにありがたい限りです。おうちで作るときの材料まで頂けて…)と、心底感謝している雰囲気に満ち満ちたお返事が返って来ますが…。
うん、この時代はかなりのお貴族様でもまだまだ1つのお皿やお膳で食事が完結する時代です。
大英帝国とフランス・イタリア・スペインについては早期に…いわゆるコースメニューの普及がなされていますけど、それでも聖院や痴女皇国と深いお付き合いのない国では、たとえ偉い人であっても、ご馳走という名前に値する食事を頂けるのはまだまだこれからのところも多いようですね。
で、アニサちゃんは非常勤職員かつ、パートさん扱いです。
事務仕事を覚えてもらうために、午前中は行政支局で机に向かうのがほぼ、日課になっています。
遠隔感知や意識情報を取る形で様子を見ていると、今は先輩女官について、罪人女官…少女たちや、同じく罪人少年たちの予約管理にフリー出勤管理をやっているようです。
(アニサちゃん、女官なりたてなんですから、食材の出納あたりから始めた方がいい気もするんですけど…)と、茸島行政支局の労務管理を担当する頂点に意見を述べてみましょう。
(へーか。うちの行政支局、千人卒の方が多いんですよ…その代わりに片端から茸島島内の慈母寺や警備部分駐所を巡回派遣させておりますの、ご存じですよね…)
案の定、ぶつぶつぶつぶつとぼやくオリューレさんのお返事が。
(つまりオリューレさん、まだ人が足らないと)
(茸島は結構広いですからねぇ。ディードリアーネがぼやいてましたよ。あ、彼女は今日明日、デンパサールの新設警備部で新人教育です)
そうなんですよねぇ…茸島、東西方向の差し渡しは140キロ…そして南北は一番長くて80キロなのですが、間が山地ということもあって、行政支局からデンパサールまでですと、車で行けば大体2時間はかかります。
(女官や騎士なら走ればもう少し早まりますが、周りに被害があるかと)
ええ。姉が北海道でやらかしたあれの縮小版です。道の上や近くに人のいる場所で音速を超えて走るの、基本的に禁止にしました。
特に痴女島や茸島。せっかくエマ助が切り開き作り上げた山道に山崩れの遠い原因になりそうなダンノを与えるのもよろしくないとなりまして…。
で、ディードリアーネさんが出張してる理由ですが。
こないだの死霊の盆踊り作戦の後で、集落の族長他からは女官の常駐を求められました。
今までは南洋王国の目があって、あまり大っぴらにあれこれ頼めなかったが、化け物が出るとなっては話は別。
本国の代官を兼ねた藩王も、痴女皇国が後ろ盾になる事を条件に忠誠を誓って下さいました。
貿易や住民教育に、果ては治安維持であたしたちと手を結ぶのがお得であると判断して頂き、二つ返事で慈母寺の建設予定地となる場所の提供と事前調査に合意。
で、こちらとしても万を余裕で越す人口を抱えるデンパサール一帯の住民の皆様との交易や精気貢納…つまり売春の拠点整備を進める必要がありましたので、こちらの暦で言う11月から始まる雨季までに拠点建設を済ませることに。
そして、茸島に配置される女官の数、今年から来年にかけてだけでも、かなりの人数になる事が決まっています。
現地採用でまかなう分を含めても、その数は茸島だけで二百名は要する見通しです。
更には南洋島のジョクジャカルタへの駐留も視野に入っている模様。
ここはベテハリ君とアニサちゃん、それぞれの生まれ故郷の集落を統括する藩王がいるそうですが、これまた盆踊り作戦の際に痴女皇国の庇護下に置かれた方がお得という認識を強めて頂く結果となっております。
もともと南洋王国の現王陛下って、先先代国王の後を継いだ長男があまりに無能で姉が怒って裏工作を決行、政変に近い形で即位したそうなんですけど…。
(今進めているのは盆踊り作戦の成果を噂として各地に広める事ですね。田中局長…雅美さんの指示ですけど、慈母寺の尼僧に扮した黒薔薇や紫薔薇騎士が触れて回っています。特に藩王達には入念に、と)
さて、リンジーさんは痴女島に戻ってもらいましょう。
で、転送一発で戻ろうとしましたところ。
(ベラちゃん…帰りにあんたたちを乗せて行けって…)と、雅美さんが涙声で心話してきますけど。
見れば、双発プロペラ機のDA62が滑走路にいます。
更には、瞳さんとゼアラさんが雅美さんの後ろに。
隣には…エマ助が。
「ほれほれ、航空適性者のお試し飛行訓練っすよ。あれで雅美さんと瞳さん、内務局の所属だしって事で選ばれてまして…特に雅美さんは不適格判定こそ出ましたけど、スケアクロウの乗務の途中まで行きましたやんか」
ああ、なるほど…あたしの嘆きでもある「飛行機を飛ばせる人がいない」件ですね。
さすがにNBや連邦世界からパイロットの資格を持っている人を連れて来るとなると、いきなりでは済みません。
特に女性の場合、飛行機の免許を取るまでの経緯からしますと、連邦世界に生活基盤を築いている人が大半。
つまり、無理からに痴女皇国世界に来るような辞令でも出してもらわないと、簡単には来てくれないのです。
さすがに連邦宇宙軍や宙兵隊の体液、いえ退役軍人や除隊者を待っているのも難しい話です。
(湯田屋国と共和国から派遣させましょうかと言っておりますのに…)と、自分の人脈を使って巧妙に人を送り込もうとするカエル女。
(おだまり。あんたとこの母国を頼るとですね、ドミニクさんやあんたみたいなのはまだしも、もっと危険なのとか提携先の湯田屋国の危ない経歴の方とか送って来るでしょ! それならまだあたしがイタリア政府か連邦政府事務局に話をしに行く方がよいのです…)
更に言うとラウラ・ロレンツォさんの伝手も使えますし。
まぁともかく、マリアンスタッフ社で連邦側の人材を募ってみても良いのですが、痴女皇国への長期居住に応諾してもらえそうな人がすぐに見付かるものでもなしと言う事で、内部で航空機操縦適性の見込みがありそうな女官を探すことに。
そして雅美さんですが、ほんっとーに微妙なところでスケアクロウの乗務資格ライセンス発給に待ったがかかったんですよ。
一応は痴女種身体、それも姉からですけど擬体貰ってる立場ですよ。しかもこの10月には比丘尼国の十月会議と懇親会に出席する立場ですよ。
(ダメなものはダメなのね…ベラちゃんの乱暴ルギーニは任せてもらえるのに…)
確かに、車の運転ならば雅美さんはお任せできます。しかし、さすがに飛行機と車はまた話が変わるのですよ…。
で、(これはさすがに雅美さんにあんまし無理をさせられんなぁ…)と悩んだ母様の決断もあって、今回は合格判定を見送りとする決定が。
「あたし、あれでやっと飛行機から逃げられると思ったのに!」ええ。本当に泣いておられますね。
「甘いですよ…これもそうですけどスケアクロウよりまだ簡単なのはあるんですから…」
そんな訳で、おじさまとジョアンナさんに挨拶して、助手席に座る事に…って?
後ろからあたしの肩を掴むエマ助の姿が。
「かーさま。助手席はあきまへん。この場合、絶対に教習対象に手心を加えますやろ」
ええと。帰りは瞳さんが機長席ですか。
そんな訳で三列目にあたしとゼアラさんが座り、二列目には雅美さんとリンジーさんが。
これは、何気ない世間話と見せかけた業務指導を雅美さんからしてもらう目的もあります。
で、リンジーさんは雅美さんが痴女皇国での上司に当たるのを知っていますので、大人しく隣に座っています。
さて、雅美さんとしては、部下の現状はどう評価できるのでしょうか…。
(ベラちゃん。これは良いか悪いかは別だけど…ミス・リンジー、相手が少年であればちんぽを受け入れるまでには来てくれたわね。これは前進と言えば前進。ただ…ジュネス門前町店なら、今や慣れた参詣男性やベテラン罪人向けの連れ出し売春店でしょう…お客と言えば片端から成人の男ばかりじゃない…)
(ですねぇ…)
はい。
今しも瞳さんがおっかなびっくりで離陸させたこの飛行機の機内にいる人物ですけど、エマ子を含めてリンジーさん以外の全員がジュネス勤務を経験してはいます。
(確かに、この方…セニョリーナ・リンジーですか。男が嫌という状況に至った理由も分からなくはありませんが…ですけど、すぐにペーネ慣れしてくれるかと申しますと、それはそれで難しい話ではありますね)
とは、ゼアラさんの講評。
「ミス・リンジー…あなたに伝える、良い事と悪いことがあります。まず良いことですが、少年であれば嫌には思えなくなって来ましたよね。これは褒めてあげましょう。よく頑張りました」と、すぐ前の席から成長を喜ぶ声がします。
「ありがとうございます。では、悪い方は…」
「で、うちの国だけど、NBでの基礎研修で習ったとは思いますが、刑務所に服役している囚人に該当する罪人という地位の男性が少なからず存在します。その数、痴女宮罪人寮だけで常時二千人から最大一万人。世界各地へ送り込まれている同じ立場の方々を含めますと、現時点でも十万人を余裕で超えるでしょう。そして…罪人は基本的に18歳以上の男性で犯罪者として痴女皇国に引き取られた者が該当します。そう、成人の男性なんです」
あっちゃあ、という思念があたしの前から。
そうなんですよねぇ。本宮でも、一般の参詣者よりは罪人から吸い取ってる比率の方が昨今は多くなってるんですよ…理由は申し上げるまでもなく、工場地帯の拡充に伴う労働人口増加措置。つまり、人を増やしています。
で、罪人寮については本宮の他の建物に先駆けて内部の階数を増やす話すら出ております。
これを行うと地上22階建が40階建てとなりまして、詰め込めば一万名を超す罪人男性を居住させる事も可能となるとか…。
(ほれほれ、前から人が増えたら上下階の間の通風路や水路の配置を見直すって話ありましたやん。現状やと同じ高さのビルの倍から、ワンフロアあたりの上下間隔を取ってますからね。これ余裕ありすぎやろとはうちも思ってましたから)
と、副操縦士席のエマ助から補助解説めいた会話が。
で、それはそれとして、大人の男性も「お仕事の対象」になるのを改めて告げられてしょんぼりするリンジーさんです。
「ミセス・田中…では、私はどうなるのでしょうか…」
ですが、リンジーさんの不安を打ち消しかき消すような話をする雅美さん。
「できない人に無理を押し付けても仕方ありません。あなたについては、事情を鑑みてクラブジュネスではありますが…当初予定していた門前町店ではなく、淋の森店での研修実施を要請しています」
ふむふむなるほど、確かに淋の森店ならば単純に連れ出し売春とその管理をする訳ではありません。
今の淋の森店は、基本的にお金を持っているか、さもなくば外国の外交官または聖母教会職員を対象とした慰安施設です。
(んーとね、この子の適性、理恵ちゃんとアフロディーネに頼んで性癖分析診断にかけて貰ったのよ。結果だけど、単純な売春を管理するよりはややこしいお客を相手させる方が絶対にいいだろうって。慣れたらマーゴと交代させてもいいけど、まずジュネスというお店や色街旅館だの淋の森の状況に拒絶反応を示さないようにしないとダメって話よね)
なるほど、さすがは仕事の早さでは定評のある雅美さんです。
いよっ、この女郎蜘蛛っ。
(ベラちゃん…あたしさ、後であのバンシーって戦闘機飛ばすからさ、教官役として後ろに乗ってくれない? )
(やです。あたしたちなら少々の墜落や空中爆発からでも生きて帰れますが、地上に被害が出れば怒られます。そしてあの酷道425号…JA0425を正当な理由なく墜落させたり壊したりすればジーナ母様がどんな怒り方をするか、雅美さんもご存知でしょうに…)
(ふんっ仕方ないわねっ。今日はこのくらいで勘弁しといたげるわっ)
(それはいいですから、ちゃんとリンジーさんを折伏してくださいよ…)
「淋の森店であれば、身元の確かな紳士ばかりがお客様ですよ。…ただし、その代わりに、マーゴやケイシーから事務や裏方仕事だけでもきっちりと引き継ぐことをお願いします。それと…嫌なことばかりをさせても人は伸びないと思いますので、わたしからはご褒美のお仕事をお願いしようと思います。大丈夫、きっと気に入って貰えますよ」
と、優しい声で言う雅美さんですけど、何か悪いものでも食べたのですか。
リンジーさん、一般の派遣者よりはこちらの無理が言えるNB籍、それもフレミング機関員ですよ。
で、アグネスおばさまからは「どうしようもない場合は痴女皇国の流儀で人格改造でも何でも好きにして」という許可が出ているとは言えど、せっかくの良質な人材、なるべくならば当初の目的通りに内務局の要員として育成したいというのはわかります。
そして雅美さんの直属の部下となるという事は…情報部の人材として、まずはジュネスで使い物になる事が重要視されるのも無理はないでしょう。
しかし、こういう女の子相手だと厳しい姿勢を示す事が多かった雅美さんにしては、寛大そうな声色です。ええ、あたし直属の管轄だったらとっくの昔に飯島早苗さんか、下手をすると吉村美咲さんコースですよ。
(あのさぁ…あたしもそれなりに成長はしてるのよ? それにね、娘が出来たせいか、どうもここんとこ性格が丸くなったって自覚はあんのよね…)
ふむふむ。
要は、マーゴさんは引き続き門前町店の副支店長役を続投。
そしてリンジーさんには、淋の森店の副支店長の代わりがある程度は勤まるように研修。
(淋の森店なら踊るだけでも何とかなるにはなるのよ。あそこはもはや聖母教会や大使に御用商人向けの高級店になってるからね…それとさ、ベラちゃん…ほらほら、あれがあるでしょアレが。あのお仕事が! あれで慣れてもらうのよ!)
と、リンジーさんとの落ち着いた冷静な会話とは打って変わって、クァンタムリンクでは興奮して連絡して来られるエロかまきりな雅美さんですけどねぇ。
あれ、やらせるんですか。
(もっちろんよ。それが為にあたしもタイミング合わせて引き取りに行けって初代様や二代目様から言われたんだし…ほら、聖母教会の司祭や助祭資格認定については聖母や聖女が絡むからって、二代目様の管轄にされたでしょ? これ自体はあたしも異論なーしってお返事したけどね)
えっとですね。雅美さんのお話を少し補足しておきましょう。
聖母教会の司祭や助祭…つまり、神父さんですとかその補助の方々に該当する役職設立と、その管理は名目的にはバチカン・コンスタンチノープル・ロンドンの各派聖母教会が行っています。
ただし、実際には聖女資格者か聖母の洗礼を受ける事となっておりましてですね。
本宮女官勤務経験者またはローマに所在する聖母教大学いずれかの卒業生については昇進が優遇されるように整備されました。
この聖母教大学、連邦世界では元々は神学校として古い歴史を誇るSapienza – Università di Romaに該当する大学が母体となっています。
…つまり、ローマ・ラ・サピエンツァ大学を伯父とデステ伯母様がイタリア大公国国営施設として編入し、神学以外の学部も設けて芸術や学問の道への門戸を開こうとしたものです。
(もっとも、芸術学部については教程を経た者をフィレンツェやピサに転出留学させる事で質を高めようとしておりましてよ。逆にトリノならトリノで神学を志した者で、成績優秀であれば二学年からはローマと言った具合に、専門学部を持つ大学に進めさせる方針としております)
(ほれ、どこの大学にも同じような講師を揃えるのは大変であろう。それに、ミケランジェロならミケランジェロに師事したいという者が多い場合、他の師匠に付けと言っても簡単に納得はすまい。…そうだな、マリアヴェッラ…未来の連邦世界が基本のお前なら、イタリア全土が一つの大学であるようなものとなっていると言えば理解も早かろう)
と、デステおばさまとチェーザレ教皇猊下が申します。
(まぁ、上級神学を志す者は今の時点ではそうそう多くはないが、それぞれの聖母教会の長となる者については話が別だ。教会の基礎教義はともかく、権威を増すための聖典執筆や神話の収集整備は、そちらの厚生労働局長様からも依頼を受けているからな…だから私が喋る形の原稿執筆、あれ本当に何とかならんか…)
(叔父上。キーボード操作を覚えるか、ペンタブレットで認識される文字を書くか。声を出したくなければその二択です)
(あのマキナ…文章入力機か…)
(ラウラさんに特訓お願いしてるのを逃げ回ってんのはどこの誰ですかっ)
ちなみに聖院時代、姉が金衣継承する前からこのキーボードについては普及していたのですよねぇ…。
(よめのおねがいで、じーなさまが、かいしゃやぐんたいで使われていたおふるをたいりょうに買いつけてくばられましたからねぇ)とは当時を知るアルトさんのお話。
つまり、かーさまの伝手でリースアップ品や償却品のパソコンを複数台入手して配っていたようです。
ええ、アルトさんが銀衣騎士の時に既に聖院にパソコンがあったとはお聞きしました。
ですから、痴女皇国でも女官でキーボード操作が出来ない者の方が少数なのです。
そして、あれがあると言うことは、数字の記述はアラビア数字が主流です。
(実際には各国語で使ってる特殊文字の問題があるからキー配置をどうしようかって事になったのよね…まぁ今はバーチャルキーボードが主流だから、打ち込みたい言語に応じてキー配置を切り替えられるようにできるけど…)とは、雅美さんの弁。
ともあれ、聖母教会に話を戻しますと、教会に勤務する聖職者について、当初の方向とは少し変わった人事方針となった事をまず、お伝えすべきでしょう。
姉の後押しで叔父が開闢し、教皇に就任した聖母教会組織。
連邦世界のバチカンを模した強力な宗教団体を目指しておりますが、崇拝の対象がキリスト教とは、その…少しばかり異なっているのが問題に。
そして、名目上は宗教組織ですが、実態としては痴女皇国が各地の間接統治支配を行うための地区拠点です。
その支店めいた組織が、男性によって運用されるのも色々と弊害があるだろうとなりました。
で、現時点で男性が聖職者である聖母教会については、順次女性…つまり、痴女種の司祭に交代する方向で人事異動が進んでおります。
ただし、男性司祭についてはせっかくの教育や研修を施された存在という事で、教育者として引き続き同じ教会で勤務する事で生活と地位を保障する方向にあるとも聞き及んでいます。
で、この間から痴女宮本宮と女官寮をフル稼働させて女官を送り出している件、まさにこれに絡んでいます。
単に教会を築くだけでなく、そこに勤める司祭や助祭を送り込まなくてはなりません。
更には、聖職者を補助する修練士や助修士という役職の…いわば教会の用務員や下男役も必要となります。
ええ。罪人の皆様の再就職あっせんの対象でもあります。
特に、罪人少年や…罪人でなくとも少年については、教会の下僕めいた職を与えて赴任地へ送り込むことが重視されました。
更には、必要とあれば現地の寡婦や独身者に種を植え付け子供を作らせる立場となるとも。
(で、生まれた子供が育てられないなら聖隷院に預けてもらうって寸法よ)
この聖隷院、ダリアさんがイタリアで入っていた孤児院など、民間や一部の領主がやっていたものを聖母教会が制度化したものです。
目的は、言うまでもなく若年学生労働者の生産。
そして、成績優秀な者は聖院学院本校…とりもなおさずに痴女島の聖院学院への留学を打診され、より高度な教育を受けられるとも。
ええ、聖隷院は文教局の所轄となりました。
そして、エリート教育からこぼれた少年少女の受け皿が…茸島分校だとも…。
で、同じような制度は比丘尼国でもある程度整備されつつあります。
即ち、従来は各地の神社でやっていた孤児救済や巫女さん養成教育について、神仏習合の発令を出してもらって慈母寺でも行うようにすると聞かされております。
聖母教会との関係ですが、異教ではあるが出どころが似ている可能性があるということで仲良くせよ、聖母教信者を無理に改宗させる事まかりならずとも。
更には、聖母教会側でも東方比丘尼国由来の聖母神道と、天竺由来の慈母観音を祀る慈母宗については手出し無用、敬意を持って接せよとも。
まぁ、これらの宗教の信仰の対象って…突き詰めて行けば初代様とおかみ様ですから、同じ崇拝対象としてもあながち間違ってはおりません。
更にはですね。
(あのさぁベラちゃん…泰拳仏象国を痴女皇国支配下に置きたいからって、サン=ジェルマンさんを脅迫してまでして山田長政の人生を本来の歴史に近づけるよう改変したのはまだいいわよ。なんでこの時代に江戸後期の人物のはずの平田篤胤が生きてんのよ!)
雅美さんがめっちゃ怒ってますけど、確かに聖院世界…痴女皇国世界の山田長政さん、連邦世界で毒殺された最後はともかく、大出世した歴史と違って鳴かず飛ばずで終わってるはずなんですよね。
そこをいじってくれと、姉から話が来てサン=ジェルマンさんに黒バリカンをちらつかせながら依頼したまではあたしの行動の範疇ですよ。
けどね、そこから先は知りまへんがな。
(あのね、山田長政が仏象国の軍事大臣なのは連邦世界のシャム王国…タイの歴史とほぼ同じだからまだいいと思うわよ。でも…平田篤胤ってさ、バッキバキの朱子学者の家に生まれて神学者になった人よ…まだ本居宣長が生まれてた方がいいんじゃないの…)
んな事、あたしに言われましても。
それに雅美さん…比丘尼国の内政については、あたしの管轄外でっせ。担当はねーさんですよっ。
(はいはい。まぁ比丘尼国の話はまた別として…向こうの鉄道、来年の一月には開業だっけ? )
(ですよ。NBとスペインを優先させたせいでちょっと遅れたってパイセンが言ってましたね)
(とりあえず高速実験線を兼ねてマドリードからバダホス経由でカディスと…)
(年内にはコルドバからカディス並びにジブラルタルと、バダホスからリスボンへの在来線の開業を優先するそうです。本当はマドリードからバルセロナへの路線を最優先したいって言ってましたけど、スペインって縦にも横にも広い国でしょう。どうしても港へ繋げる線を作って資材やら何やらを陸揚げする必要があるとは)
(あっこはしゃーないわよ。イベリア半島の形を変えるわけにもいかないしね…)
あ、このお話は「こんにちわ、マリア」で確実に書かれるようですよ。
ですので、鉄ヲタ大臣たるパイセンのお話をお待ち頂くとしまして…。
(今のペースで飛んで行けば2時半…十四時半には聖院空港よね。なら、聖母教会のあの儀式にも間に合うか…)
(あれってスコールの時以外に出来ないのですか)
(無理よ。いくら痴女皇国でもさすがにアレはねぇ。ま、リンジーちゃんの場合はその方が都合いいでしょ…それに淋の森店に勤務するなら、今後はあれのお手伝いは確実にやらされる事になるからね?)
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