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怪談・淋の森七不思議!・7

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皆様チャオ、前回までのお話では雅美さんが語り手でしたが、今回はマリアヴェッラが引き継がせて頂きます。

あ、最後の辺りに少しだけサービスめいたものがあるそうですよ…。

------------

「まさか本物の亡霊や妖怪を捕獲ほかくしてくるとは…」

「スクルドさん、これはいいんですか…」

「もちろん良かぁないわよっ。しかし、この者たちは本来ならそっちのトップに征伐されてジョウブツするどころか消滅した訳でしょう。なら、きちんとジョウブツさせた方が本人たちのためになると思うわよ」

「しかし、言うこと聞いてくれますかね…」

はい、墓所の中に連行されてきた幽霊お一人様、妖怪化したのがお一人様。

目には見えませんが、ただでも金衣銀衣の家族会が囲んでいる上に、お化けさん達の真正面ではアンヌマリーちゃんが黒い刀、ゆっきーがバットを構えています。

更には外道ちゃん悦吏子ちゃん鈴鹿御前さんと言った人外組がジーっと睨んでいては、暴れようにも暴れられない様子。

で、青白いすっぽんぽんの幽霊がポンティアナック、首から下に胃腸をぶら下げた気色悪い妖怪がペナンガランという方だそうです。

ただ、このお二方…。

(昔のわたくしが消し飛ばした時に戻ったエマニエルとスクルドが、正に消し飛ばす寸前で救出して来ました。従って、今まさに痴女島を騒がしている幽霊そのものではありませんから、これ以上罪を糾弾なさらないように)

ええ、退治役…当時の初代様だったそうです。

で、過去に遡ってエマちゃんが助けて来たと。

「はぁ…確かに成仏させてもらえるなら、助けて頂いたご恩に報いようとは思いますが…」

「わしはが減ってますのや!生き血をもらわんと…」

「幽霊さんはまだしも妖怪の方、悪事を働いていて何を言うのか…あの蔵の中に入れますよっ」刀を突きつけて脅すアンヌマリーちゃん。

いや、妖怪なら懲罰具倉庫の中に入れたら逆に元気になるのでは…。

「だだだダメっあすこはダメっ」

途端に泣きそうになる首妖怪さん。何ででしょ。

「あの毒の気が満ち満ちた部屋に入れとは何たる殺生!どうかお慈悲を!」

泣き叫んでいらっしゃいますが…普通の女はまだしも、今ここにいる面子全員が懲罰具倉庫には普通に入れるんですけど…まぁ、雅美さんの部屋もありますし。

(なんか私に冷たくない? ベラちゃん…)

(気のせいです)

「とりあえず逆ドレインで精気を与えてみましょう。どうかな」と、手をかざすアンヌマリーちゃんですが。

「あががががが」空中に浮いていた妖怪さん…墜落したじゃないですか…。

「せ、聖人の気はわしには毒ですのや…って皆様全員、普通の人間ちゃいますやないか!」

床に落ちたまま器用にジタバタする妖怪さんですが、何でアンヌマリーちゃんのは駄目なんでしょう…あ、聖女属性か…。

「んー、悦吏ちゃん。玉藻のおばちゃんの毒気を少し分けたりぃな」

「この化けもんが死ぬからあかんと。玉藻はんの瘴気は強すぎますねん…あ!雅美はんおるやん!」

「え…私? まぁやってみるけど…」で、妖怪さんの前にしゃがみ込んで手かざしする雅美さん。

「あーなんか気持ちよろしな。…ただ、血を頂いた方が…」と、瞬間的に雅美さんの腕にかぶりつく妖怪さんですが。

「あがぁっ!」

絶叫とともに、離れておしまいに。そして、アンヌマリーちゃんが精気を与えた時以上に激しく苦悶していますが…。

「おぇええええ…」吐くな吐くな!手足があったら掃除してもらいますよっ。

「口でモップの柄を噛ませます。というかさ、人工義体の私を噛んでもあんたの栄養になんないから精気渡そうとしてんのにさ…これに懲りたら人の注意はよく聞きなさいよっ」

ええ、今回の雅美さんのお説教、全く正しいとしか思えません。

「全く不注意な子やな。化けもん食うても不味いから嫌やねんけど」腕組みしながら、擬態を一瞬だけ解いた外道ちゃんが怒ってます。

「玉藻はんに頼んで始末してもらいましょか…そっちの女の子は聞き分けよろしいから、悪いようにはしたらんといて欲しい言うたはりますけどな」悦吏子ちゃんも、どないしたもんかという顔です。

まぁ、幽霊さんの方はお線香の匂いで極楽極楽という顔ですけど…インドネシアの幽霊にお線香、効くんですか。

「さっき、そこの鬼さんがお香を焚いて下さいまして。何かこう、死んだ子ともども癒される感がします」

あー、焼香台ですね…。確かに成仏を祈る場でもありますから、真面目に成仏したい幽霊さんにはことさらに有り難いかも知れません、お香の煙。

「ぱんちはんの教えは私らも有難いところがありますからな。お寺はんもうちらの仕事、手伝うてもろてますさかいに、国元では仲良うしとりま」と、先ほどうちのご先祖様方に手を合わせて頂いた鈴鹿さんも頷かれます。

「何か、罪を犯して妖怪になった者がおると言われまして…」そこへ、福祉部長のハリティリーネさんまでもが。

浅黒いインド美人ですけど、痴女種化される前は鬼子母神だった方、子供を亡くし自分も死んだ幽霊さんには慈悲の目を向ける一方、妖怪さんには厳しい顔に。

「幽霊になった母君はまだしも、そっちの妖怪変化については改悛の余地があるかは微妙ですね…今、玄奘部長に読経を頂いたら逆に苦しみそうで…やはりお話にありました祭礼によって浄化して差し上げた方が良さそうですわね」と、妖怪さんへの診断を下されます。

幽霊さんはどうでしょう。

「大丈夫です。仮に私の読経でも確実に往生頂けますよ」

「ほなまぁ、こっちの生首さんは出番までうちで預かりますわ。この子は墓所自体が一種の牢屋になりますからな。幽霊さんは…あんたは雅美さんが用事あるらしいから、すまんけど付き合うたってぇな」

はい、幽霊さんには「この時代にお仲間が痴女島や茸島にいるのか」を念のために確かめてもらおうと思います。

ただ…見て回るアシが欲しいところです。正直を言えば母様の機材を普通に飛ばすならまだしも、夜中に村や町の上空を飛ぶには介護が欲しいですよっ。

「はいはい。痴女皇国のうちに、過保護な娘の面倒見てくれて言われたんやけどさぁ…」たかだか1ヶ月くらいというのに、懐かしい声がしま…あれ?

「痴女皇国のうちから話があった。とりあえず聖院空港に行ったらツインスターの哨戒タイプか、痴女皇国うちのDA40があるから言われてな。幽霊や妖怪を探すんやったらおかみ様か鈴鹿御前さんと、その幽霊さん連れて行ったらええんちゃうか」

はい、聖院のジーナ母様が不機嫌そうな顔でお立ちです。青い宙兵隊作業服姿に緑色のサングラスを額に跳ね上げた姿です。会話からするだに、こっちのジーナ母様が手を回して下さった模様。

で…話し合いの結果、おかみ様と幽霊さんが飛行機に乗り、あたしと母様が飛ばす事に。更には鈴鹿御前さんが飛行機の近くを飛んで来られる模様。

「DA42でもTAS真対気速度で400キロ出えへんし、DA40に至ってはベラちゃんの車より遅いからな」

(それはそうと、サリーちゃんはどうです?)

(順調順調。何か自己発育加速能力があるみたいでな、そっちのダリアと同じくらい…8月には産まれる言うてたわ。あと名前決めたってな)

(サリーちゃんが決めて下さいよ…)

(親の自覚を持ちなさい。シェヘラザードさんは名前使ってくれてええらしいから、高木シェリーでええんちゃうか)

で、とりあえず罪人寮地下駅から地下鉄に乗ります。

「幽霊さんは改札を飛び越えて下さい。聖院母様とおかみ様と鈴鹿さんの分は…」

(室見です。事情聞いたからベラちゃんの聖環で団体通用口が開くようにしたよ。みんなで通過して)と、ナイスタイミングでパイセンが気を利かせてくれます。

あー、スケアクロウやカエル女号…フランス製の輸送機で任地へ一括赴任する罪人さんたちの団体を乗せる入口ですね。地下鉄駅の警備騎士の方も、こちらですよと案内してくださいます。

「はぁ…この箱で人を運ぶと」で、電車を見て幽霊さんが珍しそうにしています。あと、鈴鹿さんも一見は冷静そうですが、出来ればどんな風に走るのか、先頭車両から前の光景を見たいようです。

そんなわけで出退勤ラッシュが過ぎた時間帯は4両で来る地下鉄の先頭車に皆で乗りまして…。

「ふむふむ、充填剤入りタイヤのせいか、やっぱりガタガタしよるな」

ふじんえまこがこの穴を掘りよったんかいな」

「はぁ。穴の中にしては明るい事ですねぇ」

ええ、みんな立ってへばりついてますよ…先頭。

そして、この電車は無人運転が基本なので…非常用の運転装置や椅子をしまい込んだ箱と、運転席を区切る簡単な仕切りが前の窓の下にちょこんとあるだけです。

つまり、前に行けば子供さんか鉄道マニアの方が大喜びする光景が目の前に広がるんですよ。

単なるトンネルじゃないのと思いますけど、これが最初に乗るとなかなか複雑な走り方をするそうで、面白い人には面白いようです。

具体的には罪人寮と女官寮の前の地下にある駅を出た電車は西に向かいますが、すぐ90度左…南に向きを変え、聖院学院前から来たトンネルと合流します。

そして港町駅にも聖院新港駅にも行けるように分岐が作られている場所を通り過ぎて、再び穴は二つに分かれます。

港町警備本部の方に行く電車は深く潜ったまま西に曲がって行きますが、こちらはすぐ左折、東側を目指します。

更に罪人寮前行きの穴と合流すると、結構急な坂を上がりながら北向きに回って行き、聖院新港警備本部の合同庁舎下の聖院新港駅に到着します。

要は、12時の位置から反時計回りにくるっと回って3時か4時くらいの場所に聖院新港駅があると思って頂ければ。

ただ…パイセンに教わりましたが、地下鉄と言わず道路と言わず、およそトンネルというものは水はけのための勾配を作る必要がある。そして必要に応じてポンプなど排水設備を設けるようですね。

で、地下鉄2号線の場合は罪人寮駅から更に地底湖への隠し排水口が設けられていて、工場街が津波や洪水に襲われた際、電車を走らせているトンネルと一緒に作った緊急排水路が機能すると教えてもらいました。

つまり…電車は聖院新港駅まで、登りで走ることがほとんどなんですよ。前からトンネルを見ていると、さながら地下を行く遅いジェットコースターみたいな感じです。

で、おかみ様が比丘尼国の鉄道建設を了承したのも、最初に地下鉄1号線に乗って「これ何か便利そうやな」と実際に体験したからでもあるそうです。

日本三大祟り神訪問ツアーの時でも新幹線やリニアに乗っておられましたし、更には三河監獄国への聖環、つまり皆様でいう携帯電話時計の導入に乗り気で相談に来られたのもおかみ様です。

つまり、割と新しもの好き。

姉によれば「日本人の特性だ。舶来品や異文化産品への勘はすごいもんがあってな。これは当たると思ったら躊躇なく手を出してくるぞ」だそうです。

でまぁ、地上に上がり聖院空港…と言っても簡単な事務所と格納庫が幾つか並ぶだけの、ちょっと広くて滑走路が長い飛行場です。

戦闘機やカエル女号が通常滑走で離着陸できるように3,000メートル近い長さで造られていますが…この空港が作られた理由は、母様の小型機やフランスの輸送機を飛ばすためであって、あたしにスケアクロウを安全に離着陸させるためではないのですっ。

で、ここまで今が何時か言わなかった理由ですが。

実は淋の森でお化けが出たという話の出た時間帯に合わせて調査をする話になりまして。

ですが、母様の保有する小型飛行機は一応の計器飛行こそ出来ますが、山がちな痴女島の地表をしらみつぶしに調査飛行するには昼間の方が良い単発機です。

で…痴女皇国の母様がNBへの持ち込みを一週間遅らせて確保して下さいました双発機が目の前に。

メーカーは母様がお使いだったモーターグライダーや、入れ替えて買われた小型機と同じ会社の製品ですが、灰色の外観の軍用機…それも対地レーダーやセンサー類を機首と胴体下面に装備した哨戒機仕様。

航続距離も3千キロあるとの事ですので、とりあえず痴女島を一周する帰りに淋の森上空を飛んで行くコースを痴女皇国母様から提案されます。

(島の西側の集落で目撃例が出てるんやったら、そこの上を飛ぶのが21時前後になるようにしたらどないや。んで、この時代やから普通の村は夜が早いやろ。ギシギシアンアンしてる時間帯に飛ぶんやったら夜間も地形追随できるツインスターの方がええ思うてな)

「まぁ、MIDIならいざ知らず、幽霊や妖怪が普通のセンサーに捕まるかわからんから、おかみ様と幽霊さん…それから鈴鹿さんの力が頼りやろ。ツインスターのレーダーはあくまで航路監視に使うで」

という訳で座席配置は…。

ベラ子 ジーナ
おかみ おばけ

で、鈴鹿さんはフェラリ…フェアリー形態に変身して、飛行機の後をついて来られると。

まずは左側後ろの扉を前に向けて開き、幽霊さんとおかみ様に入って頂きます。

セレブ仕様なら前席背もたれの位置にあるフラットモニターの位置にレーダーやカメラを操作する機器や画面が設けられていますが、今回は飛ばす間際にエマちゃんが遠隔で作動状態にして記録を残すようにする模様。

(MIDIかカリバーン飛ばしたら解決する気もしますけどな、とりあえず人外がおるかおらんかを探るだけですし…)ええ、面倒くさがってますね。特にMIDIは起動承認を出さないとならない上に、動かしたら動かしたで半自動または全自動で稼働します。

注意していないと、お化けがおるわとばかりに自動攻撃してマジェスティック・キャンセラーで片付けかねませんからね…。

(まぁ、本体部分のカリバーンが知能と人格を持っとりますから誤射はせんと思いますけどな。ちなみにそういう認識違いを防ぐためにもカリバーンはうちらの会話や痴女島、ひいてはこの世界の調査学習、半分独自でやってまっせ)

お待ちエマ助。という事は。

(茸島保養所の中とか人間関係までは知らん言うてます。ただ、クリスさんはカリバーンの所有者兼ファーストクルーですからバイタルモニタと周辺監視はしてると)

ぎゃああああ…。

(めじぇど君や監視カメラのコントロールしてるくらいですがな…何か見られて困る事…露出は控えめにして下さいよ…娘として一応は忠告しときます…)

うん、窓兼壁を全開放とか、庭に出てとかね…めじぇど君経由で見てるのね…。

「ほれほれ機長席乗り。はよエアコン入れな暑うてかなんから」と聖院母様が急かしますので乗り込みます。

と言っても、主翼上面の「踏んでいいよ」という縦線の入った場所に足をかけてスルっと入り込めばいいだけです。元々はかなりお金のある人が東京から北海道や九州辺りまでの距離…二千キロくらいまでの間を飛ぶか、一千キロ前後を往復するための飛行機らしく、あまり軍用機という感じはしませんね。

聖院母様が機長席側に手を伸ばしてキャノピ開閉スイッチを押すと、前に開いていた機首側の風防全てがあたしたちの頭上に被さって閉まります。

「心話とかクァンタムリンク使えるならいらん気もするけど、とりあえずエンジン音とか遮断したり警報を聞く必要はあるからな」と二人してヘッドセットを着用。

「メインスイッチON、セルフテストチェック・グリーン、ハイドロON…」備え付けられたチェックリストを読み上げる母様の指示に従いエンジン始動まで行きますが…。

これ、とっても面倒で色々とやる事がありますので…なぜ操縦席に手順書が備え付けられているか速やかに理解できる参考資料が↓だそうです。

https://youtu.be/-iUT1CqYiCk
https://youtu.be/Bi5qTqcfZ4Y

(うちの私物の方は単発やからもうちょっと楽やぞ…あと、動画と違ってこの時代のアビオニクスはツライチ風味のおっきいモニタで構成されていたり、ヒューズの役目をするブレーカーの作動表示とかがもう少し違った外観になっていますよ。皆さんの時代のダイアモンドDA40についてはこちらもご覧下さいね)
https://youtu.be/VHfsRrOYrgU

なら4人乗せるんですから、簡単な方にして下さいよと文句を言いましたが…。

(その案は却下や。単発機のDA40は基本的に有視界飛行専用やと思いなさい…DA42やったらMPPいう偵察・哨戒用の軍用モデルが開発されとって、英国本国でも採用事例があったからうちもほなとOKを出したんやがな…機首にレーダーとターレットカメラついとるやろ?これを単発機で装備しようと思たらジェットにするか、ポッド搭載になんねんがな…)

まぁ、痴女種の視力なら夜間飛行は出来なくもありませんが、無理やり飛ばすのもよろしくはないでしょう。

(ちなみにDA40はベラ子の乱暴ルギーニの実際の値段よりちょい安いけど、DA42は双発機やし軍用モデルだと億を超えるベース価格、民間用でもベラ子号よりちょい高い、ベースモデルで大体6千万円くらいやな)

やっぱり飛行機ってかなり高いものなんですね。前に母様がみんなに飛行機の操縦を教え込むという触れ込みで持ち込んでいたスーパーディモナという、プロペラのついたグライダーも中古で1千万円近くしたとはお聞きしましたけど。

そして苦節苦難の作業を終え、やっとエンジン始動です。

正直、車のようにスタートボタンを押すだけにして欲しいんですけど、電源スイッチを入れてスターターを回すまでにあれこれする手順について、どれ一つとして抜かしてよいものはないと聞いていますので諦めました…。

「グロー表示消灯確認。左から回しや」

で、スターターセレクタスイッチが左エンジン側になってるのを確認して始動しますと…。

そこはかとなく母様のランドローバーに似た、カラカラという音と共に左側のプロペラが回り出します。

「よし、次は右な」操縦席中央やや左側の多目的モニター下にあるエンジン始動関係スイッチを切り替えて、右エンジン始動に合わせて…。

(航空機用ディーゼルターボや言うからどないか思たけど、車のとあんま変わらんのよな)

(ただ、飛行中のリスタートに癖あるから、いざ言う時はスタータースイッチを押して自動再始動シーケンスが動くのを確認しいや)

(何でそんなめんどいもんを…)

(ジェット燃料で動くから安上がりやし、航空機用のアブガス調達の手間考えてみい。それにそのサイズで大西洋横断できんねんぞ、その機体)

どうもガソリンエンジンモデルもあるようですが、航空機用ガソリンを調達する手間もさりながら…燃費を気にしてディーゼルエンジン仕様にしたみたいですよ、母様…。

ともあれ、母様と二人の機外点検から5分ほどで左右のエンジンを始動、いよいよ滑走路に向かいます。

自動でスロットルを操作する仕掛けは、ある程度の高度にならないと作動しませんが、その代わりにスロットルレバーはかなり軽いですよ。

エマ助からも出発許可が降りましたのでトウブレーキを解除、スロットルを最大出力位置まで押し込みます。

ぶぁあああああん、とプロペラ機にありがちな音を立てて滑走路の灯りに沿って突き進みまして…。

「V1、ローテート…V2」母様が右隣で速度を読み上げる中、あたしの足の間から生えたチ…いえ、操縦桿を引くと飛行機は闇の中に舞い上がります。

スターボードみぎせんかい、方位フタナナマルで高度サンマルマルまで上昇、淋の森上空を飛行後に痴女島南岸に沿ってTAS真大気速度200ノット未満で飛行、高度なるべく低め…可能なら地形追随で)

この聖院母様の指示、実はプリフライトブリーフィング…というほど大層なものではない打ち合わせて決めた話のおさらいみたいなものです。

HUDスイッチを入れて暗視補正された前方視界をあたしの前の風防に出しながら、海の上でくるりと回って聖院港から門前町上空を飛び抜けて淋の森を右に見つつも西に向けて進んで行きます。

この時間の工場街の重工地区は、さながら連邦世界の工業地帯のごとく明るいオレンジや白い光に照らされています。

更には軽工場地区も各棟の窓や出入り口から明るい光が漏れて、罪人の皆様が忙しく行き交う姿も見えます。

そして本宮参道を歩いている参詣者の方々や、色街旅館に出入りするお客様方を対地カメラが捉えて、後ろに座る幽霊さんとおかみ様にお見せしているようです。

(うちの神社のせいか、怪しい気は感じへんな。ゆうれい、あんたどうや)

(これは素晴らしい。まち自体が生きる精気に満ち満ちています。つまり…さまよっていた時代の私なら、絶対にまぐわいの気配に惹かれてしまいますね。ただ…同類の気配は感じません。これほどの気ならば、あの大きい花に虫が引き寄せられるように寄って来ると思いますが…)

(ふむ、ゆうれいの見立てでもりんのもりはっちゅうところか)

(あと、子作りできない身体の方々が気を放っていらっしゃいますよね、あれは私の部類には近寄るとあれ?と不思議に思うかも知れません。ですが、あの吸血女は確実に引き寄せられるはず)

(痴女種に怖がられたり、血や精気を吸われんとなって逃げた可能性もあるんちゃうか。淋の森で反復して目撃事例があったら、少なくとも幽霊さんの類友のせいやないやろ)

(淋の森の警務騎士に手すきの黒薔薇に入ってもらったり、千人卒や万卒の方に青姦をお願いしてるせいかも知れません。おとり捜査の要領でわざとステータスの低い騎士ばかりにするのも考えたんですけど、まず淋の森の売り上げを戻すのが先だと)

(わしが立ちに行ったらいっぱつやけどな)

(おかみ様…まだ淋の森でお客を)

(ちんぽの具合のええ奴にはのみせで酒飲ましたってるぞ)

(酒代を稼ぐより、酒を飲む口実にしてはるのが悲しいねんけど…うちの淋の森はやっと整備を始めたとこやからな)

(ちなみに私の血色が良くなっておりますが、お隣の神様から気を頂けておりますせいかと)

(はっはっはっ。べらこは信じよらんけど、鬼の血や汁で豊作大漁になるのに、その鬼どもを従えとるわしが生きる気力を与えられんわけがないやろっ)

(生き返ったらそれはそれで問題になりそうな気が)

で、自慢してる神様はともかく、飛行機を右に緩く旋回させて島の海岸線に沿って飛ばして行きます。

やはり門前町を過ぎると急激に陸地から明かりがなくなります。

ただ、月の出た晩であれば、海岸線や海自体は全く真っ暗で何も見えない訳ではありません。

そして…さっき幽霊さんが言っておられた生気に溢れた門前町や痴女宮周辺の状況、実は痴女種でもある程度の知覚は可能です。

具体的には吸えそうな対象を、熱分布表示のような感覚で捉えられます。

もっとも、この能力を使うと人間以上に精気に溢れた大型の野生動物もそう見えてしまいますよ。

ただ、この知覚能力を目で使えば、灯りを消した集落でもはっきりと解ります。

特に何か場合。

(ぬぅ、なかなかに激しいまぐわいの気配がっ)

(べらこ…おまえら、こいつらに変なもんくわしてへんやろな…えらいさかっとるぞ…)

(指向性音響センサーで聞くまでもあらへん。うちの身体は痴女種仕様やからサーモグラフィーみたいな感じで激しい動きがな…見えてな…通常透過望遠視界やと丸見えやねん…やってはる事…)聖院母様が首を振り振りしています。

ええ、数軒のおうちや近くの林や森の中であんあんと、リア充もげろ的行為の反応が。

(これまた、私の同類なら生を謳歌して子作りに励む様に、妬みの心なり羨む思いを抱いて寄り付くはず。更には化け物だと生気を感じて狙う事でしょう。まぐわいが邪魔されずに終われば確実に、私や化け物の同類はいないと言い切れます。しかしお盛んですね)

(ゆうれいにどうい同意や。ぬかずの二発とか当たり前みたいにやっとるやないか、このの連中…)

(インポタケ改良種を与えてたっけ、この辺…母様、痴女島では聖院島と違いまして、殖産興業政策に必要な労働力を痴女島からも得ようとしております。で、増えた子を育て切れない場合、痴女島か茸島の聖院学院にて預かると通達しておりまして…)

(で、男の子は成人したら労働罪人になるか成績優秀なら監獄国経由でアジアを中心に、開拓者や開発者として派遣という話やろ。青年人外、いや、海外協力隊員を作る要領の話は聞いてる。聖院側でもマリアが右ならえするて決めてるしな)

つまり稲作や芋作に漁業と原始牧畜…ニワトリさんや豚さんは増えますからね…さえしていれば人口は増えるこの界隈、余った子供さんは痴女皇国が引き取りますよーとやる案を出した人がいまして。

更には三河監獄国でもこちらの事情や地勢を知っておられますから、まるで連邦世界の監獄社のように若い労働力をカタにはめて…いえいえ、カイゼン精神に満ち満ちた労働者に育てる教育に協力したいと申しておられますので。

(まぁ、化けて出る理由がなくなって転生輪廻なり消滅なりしたのなら、そちら様には都合の良い話ではありませんか)

(そうなんですよ。ただ…これをきっかけに、島の暮らしで不便なところを変えて行こうと思いを改めて、あたしたちに協力してくれるように持って行きたいんですよ、下の人たち)

(でや、べらこのはなしやと、おまえらを退治するんやなしになぐさめる祭りをして、天にかえすなりじょうぶつさしたろやという考えをしまのれんちゅうに広めたいらしいねん。おまえもひとしばい打ってくれへんか)

------------------------------
べらこ「という訳で続きます」
おばけ「ただ、私や吸血妖怪を退治するお祭りの話になるそうです」
おかみ「つまり、たいじするからにはがいる。ちゅうこっちゃな」
べらこ「で、アルトさん枠になるそうです」
ジーナ「続きは↓の下に告知するそうやから注意してな」
https://novel18.syosetu.com/n5728gy/133/

べらこ「で、愛読者の皆様へ、天の声からの納涼サービスだそうですが」
ジーナ「うちやベラ子他、痴女皇国の連中の服装やら日焼け跡のサンプル画像集らしい」
べらこ「そして注釈。いかにも整形!というおっぱいやお尻は、なるべく整形前のお姿を思い浮かべてほしいそうです」
ジーナ「実際にあんたらもうちも整形はしとらんも同然やしな。かなり自然に体型を補正しとるので、この点だけはお気をつけ下さい」
べらこ「しかし、本当にここまでするものなんでしょうか。もうちょっと自然な方がいいんじゃ…」
ジーナ「こうまでして売り出す必要があるのかAV業界」
べらこ「日本のAV業界の皆様は特に、この時期に変な法律を通されて大変なようですね…」
ジーナ「全く、うちらがそっちに行けるなら撤回に手を貸して差し上げたいところやで」
べらこ「では、アルトさんの方でまたお会いしましょう」

https://twitter.com/725578cc/status/1542509015724589058?s=21&t=PfBomoQ9eZlKYPQcMTbnvA
https://twitter.com/725578cc/status/1542509015724589058?s=21&t=PfBomoQ9eZlKYPQcMTbnvA
https://twitter.com/725578cc/status/1542506404741009408?s=21&t=PfBomoQ9eZlKYPQcMTbnvA
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