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仏蘭西戀物語・エマニエル夫人の恋人 6
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「お前ら…飯が入らんくらいお菓子とか焼き栗食うってどうなんよ…」どこあろう、フランス共和国大統領官邸たるエリゼー宮の門前でお説教ぶちかますわたくし、ジーナおばはんです。
「しかもそこらで移民らしいのが焼いてるのは栗の実の出自が衛生的に怪しいからと言われて、わざわざまともな焼き栗の屋台が出てるってだけでリュクサンブール公園まで行ってって…あ、栗と栗鼠なら痴女種にあるじゃんという下ネタはなしでお願いするわよっ」聖院のマリア…白マリが呆れた目でうちの連中を睨め回します。
「ちなみにマロニエはセイヨウトチノキだからな。いけにえ村の連中が麻痺薬に使ってたイチイほどじゃないけど毒性があるし、しかも栗と違って苦くてクソまずいから薬用はまだしも食用には全く向かねぇからな」
「うぐぐぐぐぐぐ」
「とりあえず痴女種なんだからちょっと頑張って消化速度上げろ。やり方わかんねぇのはあたしかエマ子が手助けするからっ」とりあえずエリゼー宮内に入れて頂き、レセプションルームのひとつに案内される間にですね。
…はい。理恵ちゃん、言い訳を。
「だってパリ来たんだしスイーツとか食べたいし…」
…はい。ベラ子、言い訳を。
「そりゃ名物だって聞きましたもん。おまけにまぁ安かったし…20フラン…大体南洋ルピーで150、邦貨で300円くらいですね…旧ユーロだと3ユーロですか」
…はい。雅美さん、言い訳を。
「うん、大統領夫人の実長女のヴェロニクさんがお菓子の美味しいとこ連れて行ってくれたんですよ…」
うん。痴女宮または聖院宮生活主体のマリーや嘉手納在住で故郷の味に飢え気味のドミニクさんはまだしもですね。
いくら借金女王様でも当時の大国たるスペイン国王で、それなりの食生活のはずでしかも痴女種で今や万卒越えで食事必須じゃないはずのイザベルさんにですね、同じく痴女種でパリを頻繁にうろつけるはずのジョスリーヌさん、あなたたちわぁあああっ。
ケイシーちゃんもマーゴちゃんも一応あんたらスパイの部類やろがっ…ダリア見習って我慢しなさいっ。
「でもダリアさんもパクパク食べてましたよ」
「…あの、あたしは高速消化のやり方知ってますから…」
はい。
そしてワーズワース卿は奥様に誘われてってのはわかってますから除外としても…大統領閣下、あなた方まで何を致しておるのですか…。罰として今日の晩飯、ロンドンへ転送して食べさせようかと思いましたがぁっ。
「まぁまぁ、日没とともにヴァンセンヌとブローニュで並行して作戦を開始するということで腹拵えをするって事でいいじゃねぇか。昼飯は食べさせて貰えたんだろ?」と、実家近辺…具体的にはベッコフ・ダルザスとかいうお店で嫁と二人して昼飯食うてきたとか吐かすハゲが申します。
(そこベッコフを出す有名店よ…ベラちゃん辺り連れて行ったらドイツビール出されるから危険だけどね…)と雅美さんが教えてくれます。
「うん。何班かに別れてそれなりの場所連れて行ってもらってるはずや。ところでハゲ。その天津甘栗は何やねん」
「ああこれか、嘉手納の居住区売店で普通に売ってるぞ」
「あんた仮にも一応フランス人やねんから、こっちの栗にせえよ…」
「お前なぁ、俺が国を離れて20年は経過してるっての理解しろよ。夏と正月にはなるべく帰宅してるけどなぁ…」そうです、ゴルディーニのおっさんは息子の進学とか諸々あって家族をフランスに帰した後は単身赴任の立場です。
このおっさんが浮気自粛のために生体インターフェイスの精神安定…脳内麻薬成分分泌状況制御機能を使ってED気味にしているのを思い出して頂けると幸いなのですが。
そして嘉手納の食事情、以前に少し触れました通り海外の食品食材、よほど特殊なものでなければ基地職員隊員居住区画内にあるスーパーで手に入ります。
ですので天津甘栗もきっちり売られてます。
更には基地至近と言っていい場所に日本の大手スーパーチェーンがどかんとショッピングモールを構えていますので、日本の食品食材調味料の入手にも事欠きません。
ええ。おっさんの舌、日本文化に汚染されています。
沖縄のカツ丼は大阪や東京に比べるとちょっとなぁとか言い出す程度には日本慣れしているのです。
箸も普通に使いますし、航空自衛軍の那覇基地との交流会や定例打ち合わせで向こうが会場を持った際の昼食でも、ゴルディーニ少将=箸がOKの人間として知られています。本人はカレーよりカツ丼らしいのも向こうに知られています。
「せやけどおっさん、あんたも無理して今晩のヲカマ狩りに付き合う必要ないんやぞ…公務あるやろが…」
「臨時の休暇が承認された。それにマリアちゃんが気を利かせてストラスブールの実家に転送してくれてたのは知ってるだろ…」
「奥さん、今は外観30代前半やったっけ」
「まぁな。フランスもお前らの延齢プログラムの関連条約加盟国だからそれ扱いにしてる体裁を取ってるが…」言いにくそうにしているハゲですが。…ああ、夫婦の営みをしてきたのね。
ちなみにこのハゲ、延齢措置以前に体を鍛えてますからお腹は出ていませんよ。確か体脂肪率10%未満余裕のはずです。
外観もユル・ブリンナー似で何だかんだで面倒見が良い事もあり、ママの店の女の子や痴女皇国や聖院メンバーはもちろん、嘉手納や空自那覇基地の女性隊員にまで受けは良いのですよこのハゲわぁっ。
で、夕方の作戦開始に合わせてTGVでパリに戻って来たゴルディーニ閣下の艶やかなハゲ頭を撫でて怒られたりしていますが、ラッツィオーニさんは撫でられて喜ぶのに狭量なおっさんやなっ。
(うるせぇっ)
(それより奥さん浮気してへんはずやけど、ちゃんと相手してるやろな…家庭の事情に噛めへんけど、嘉手納呼んだった方がええんちゃうんかいな…)
(子供の就職が片付いたらその辺は考えたいんだが…嘉手納勤務は宙兵隊の中じゃ出世コースだからって、今は下手に帰還や転属願いを出すなと嫁が言うんだよなぁ…)
(まぁ色々大変やろうが頑張ってくれ。転送機能利用推薦入れといたるわ…)と、ハゲの面倒も見ておきます。
「しかし売春合法化、我が共和国でも人道主義者が強く訴えておりまして…マリアリーゼ陛下、こんな話で恐縮なのですが」
「あー、ドーバーの向こうと似たレベルでの嫌々ながらのお付き合いを余儀なくされている、酢漬け大好きポテト大好きなお隣様の件ですか」
「ええ。あの国の国営施設と特殊公務員雇用を成功事例として捉えている愚かものがいまだに後を絶たないのですよ…」
「あれ非合法の口寄せ屋なのに合法的な人身売買活動になるって問題点、旧EU時代にすでに指摘されてませんでした?」
「シェンゲン協定や移民保護策の穴を見事に突かれてると散々指摘されていましたがね、第三次大戦時にテロ工作員の潜入ルートに使われて、やっと危険性に気付いた時には国内工場他産業拠点に大打撃ですからねぇ。おかげで戦後、我が共和国の産業が需要を手にする事となり国家振興に役立ちはしましたが、今の国際社会を考えると手放しでは喜べませんな」
あ、この大統領閣下のお話、注釈入れた方が良さそうですね。
皆様の世界の赤黄黒色国旗のお国ですが、国営売春施設、存在しますよね。
それ、うちら側のその国にもきっちり存在しました。
そして今でも…あんだけ痛い目にあったのにまだあるんですよ。
実はあれを利用した人身売買の手口が存在します。
どんな風にやるかと申しますと、難民やら不法入国者をかき集めた自称移民コーディネーターやら、果ては人身売買ブローカーが東欧やあたしの身体の祖国界隈から調達して来た女性に、ドイツ語なり英語なり、彼女たちが理解できない言語で記述された契約書を、移民手続きの処理代行契約だの何だの適当なウソをついてサインさせるわけです。
で、その契約書はその国の特殊公務員雇用契約書でして、赤黄黒国内では全くの合法的な書類なのですよ…ですから話が違うと本人が騒いでも後の祭り、あの融通の効かない国ですから合意の上でサインしただろうに何言ってんだって話になっちゃって泣き寝入りか逃げ出すかの二択だったそうです。
そして、そんなザルが通るわけですから、悪意を持って入国を企む人間や騙された恨みを持つ女性を扇動する人間の入国や在住、果たして防げますでしょうか。
ええ。複数の女性の私物に紛れ込ませた部品を組み上げ液体化粧用品と組み合わせて完成させる類の爆弾をあちこちにばら撒かれてテロられました。
更にはスーツケース爆弾ですね、小型核兵器を用いた攻撃を受けています。
この話にあまりドイツ系の車両や機器が出て来なかった理由の一つが、このテロ攻撃の初動阻止に失敗したがためでして…緑の中を走り抜ける赤い車の会社あるでしょ。
あそこは自分ちの車を作るだけでなく、他社から請け負う調査や開発業務の代行もしていたようですけど、あたし達の世界ではシュツットガルトでやられたテロで見事にそうした施設にダメージを受けて復興が立ち遅れ、親会社の一部門と化しています。
そして他にも便通な会社や豚鼻社に肝心の国民車社も標的にされあちこちの重要施設や設備を失い第三次大戦後もいまだ傷癒えず、と言うことになっております。
大統領閣下が売春完全合法化を渋るのも実はこのテロ攻撃の件、決して他山の石ではないとお考えだからでしょう。
そもそも売春が非合法ならば取り締まる事で結果的に人権蹂躙を防げますし、国内に敵性勢力を居座らせない予防にもなります。
そして大統領閣下「お前とこだけ儲けやがって」「いい目しやがって」とさまざまな嫉妬にフランスが晒されるのを回避したいともお考えです。
そう、第二次大戦後に東西冷戦対立の最前線となった赤黄黒色国、他のアカと睨み合いをする立場となった最前線の国と同じく、アメリカ他西側諸国から経済的支援や優遇を受けています。
そしてそれだけが原因じゃないんですけど、それなりに富裕な国として国際金融市場での混乱やら他国融資破綻やらに巻き込まれたり、あるいは違法移民のターゲットにされていました。
お読みの皆様の世界ですと、まさにそれをやられている真っ最中だと思いますよ?
で、愛国者の一員でもある大統領閣下としては、国の舵を取る立場以前に他国の誹謗やっかみの目を必要以上に向けたくないという思いがあるわけですね。
読者の皆様におかれましては、こうした政治的軋轢やら経済的軍事的問題が絡んでいるとの前提でこのヲカマ狩りの話をお読み頂きますと、うちらがなぜ売春夫摘発にこうも力を貸すのかがお分かり頂けるかと存じますっ。
(まぁ、あらかじめやるって決まってた話じゃなくて、ジョスリーヌさんの記憶とか意識やら、果ては大統領閣下だの諸々の方々の頭の中を読んでからよっしゃと決めてるかんな。ただ、うちらは超高速で検討決議実行に至るまでのプロセスをこなせたりするからあれよあれよと話が決まるだけなんであって、やってる事は…例えばフランス共和国が旧宗主国の紛争に介入しようとして、実際に軍事力を派遣するまでの流れとそう変わらなかったりするわけよ)
(独断による暴走もあるにはあるけど、致命的なことは今までは起こしてないので安全性は担保できる…かな?)
(独断による暴走の結果として墓所に写真を飾られる程度で済めばええのやけどな!)
(あれをいい加減何とかしやがれっ)
(ちなみに聖院宮の地下墓所にも複製が。万が一黒マリが処分に成功した場合のバックアップとして置かれているわね)
(どけろよっ)
(やだ。うちの子たちに「アホなことしたらこうなるからみんなはやめようね」って感じで、いい反面教材になってるからダメよ。プラウファーネさんたちにも絶対どけないで、あれ壊そうとしたら例の非常通報ボタン押していいからって言ってるからね?)
(ひぎぃいいいいい)
「そーいや白マリ。お前んとこのプラウファーネさんには交代の話は来てへんのかいな」
「んー。そろそろっちゃそろそろ。ただ、うちには向こうに回せる技官がいないのよ…かーさん何とかしてよっ」
「それこそ聖院のうちに言えと言いたいが、まぁ…技術系学校から人を貰うというテもあるからなぁ。監獄社に話をして、取引先のオフィスビル系デベロッパーとかいないか聞いてみ。あとは菅野夫婦の系統のツテで防衛省設備の担当技術士官とかな。宙兵隊や宇宙軍でもそういう施設設備管理員は厳選された軍属やら、工兵部隊の優秀者を選抜してるんが実情やから、日本から貰う方が話は早いと思うぞ」
「あいー。後日交渉してみりゅー」
「どうしてもガテン系はなー」
「ところでマリ公。本日の予定はいかに」
「かーさんが決めてくれよ…めんどいんだぞ…」
「頑張ってまとめんかいっと言いたいが、うちに案がある」
「ぬう。申してみよおばはん…いでぇっ!」
「よしベラ子。あんたのはりせんはなかなか効くのう」
「…ベラ子てめぇ!なんで貸すんだよ…」
「そりゃかー様とねーさんじゃ、こういう仕事に関しちゃねーさんの方が作戦指揮官には向いてると思いますよ?」
「まぁともかく聴きたまへ。まず、昨晩の狩りの状況だが、ヲカマさんはやはりパリの下町から出撃しているようや。そして夢を混同する避妊具他の廃棄物をエマ子が確認してくれたが、とりあえずオートゥイユ競馬場からやや離れた森の中だのに集中的にそうした痕跡を発見したようや。んで官庁街ビジネス街に近く官憲拠点も存在するブローニュを避けてヴァンセンヌの森で営業している可能性を指摘してくれた」
「ふむふむ」
「で、本日は痴女宮からテンプレス2世を都合して、パリ上空でオルリーやシャルル・ド・ゴールの邪魔にならん高度に待機させようと思う。つか既にしてるんだが」
「今どこにいんのよ」
「エリゼー宮真上。下からは見えないように擬装はしてるよ」マリ公が頭の上を指差します。
「いいんですか閣下…」
「ヴィラクブレーか他の駐屯地も考えたが、基地発着航空機の問題があるからね。であればそもそも許可機以外は一切通過まかりならぬ我が公邸上空なら良かろうとね。それに実は…ジーナ閣下、イタリアや日本、それに英国が持っている船、我が国の海軍が欲しがっておりましてね。ならば滞空能力やらを我々に対して誇示頂ければ商談も捗るのではと提案させて頂いたのですよ」
「あー、フランスさんの空母を一隻は持ちたがる病気…」
「前に一度アークロイヤル級を見学させて頂いたが、あれを完全軍用として使うにはやはりサイズが…となりまして。イタリア海軍のザラ級くらいか、テンプレス級なら我が海軍にちょうど良いサイズになりますかな」
「確かに今のシャルル・ド・ゴール級とテンプレス級比べたらテンプレスが省力操船機能入りで…うちの方が10機くらい搭載機が多くなるか」
「米海軍のCVNとだいたい同じと伺っておりますな」
「とりあえず後でワーズワース大公に意向を伝えておきますよ」ニヤニヤ笑うマリ公。まぁ、本人がすぐ近くにいるのに何ですが、話の優先順位は交通網整備支援が先よ、NBとフランスに資金や人やモノが回り始める段階で配船されれば独自輸出手段も持てるよって事でしょう。
で、まだ日没には間がある中、くだんのテンプレス2世のブリーフィングルームに移りまして。
「ルルドもそうだったけど、なんか独特の垢抜け感はあるよな、フランス」
「人が訪問する前提で街を作ってきた印象もありますわね…ほら、私共だと城塞ありきでしたから」
「だよなぁ、乳上んとこはあちこちでバチバチやり合ってたからな」
「あたくしのところもだいたい類似品ですね」と、印象や感想を述べる乳上とクレーニャ。
「何かこう、田舎に生まれ育った私としては全てが異次元です…」と、欧州地区本部預かりで紫薔薇に回されて研修中のニオオフラーネさん。
そーしーてー。
「あの…臨時雇用と言われたのですが…一体全体この格好は…」
おいマリ公、お前の趣味かっ。
「ちげーよ!乳上とクレーニャとベラ子がGパン買ってきて適当ないんちゅうパンツ履かせてからだな…」
はい、そこにはGパン姿で上半身裸で黒テンのコートと帽子を羽織り、ポーズを取らされ女どもの撮影の嵐に遭う美男公が。
「確かにこの人、改めて見るとほんまに男かいう感じやねんけど、おいお前ら…クリス二人と並べるんはええけど変なポーズ取らすなよ?」
「はぁ…しかし聖母様の旦那様ですか、囮役で普段より若返られたとはお聞きしましたが正直、食指が動かなくはありません。が、しかし」
「ぬぅっ。本物のほもの見立てとはっ」
「ゴルディーニ様…ですか。そして大統領様、ワーズワース大公様の順で」
「えええええ」
「ちょ、ラドゥ殿下…なぜハゲを抱かれたい男一位にするんや!」
「簡単です。皆様が言われるところの受け。その立場になった場合の選択です。これが私が攻めであればクリス殿下、お父上、大統領様、ゴルディーニ様となります」美男公のランク付けを聞いた男性全員がものすごく複雑な顔をしていますが、そりゃそうでしょう。
特に小学生に該当する時期から学校ではほもな教師の妖しい視線に晒されていたと言うノンケのクリス、あたしの側から離れません。
「い、いや殿下、私の選択を聞かれたからお答えしたまでで、私が付け狙っている訳ではありませんよ? 第一痴女宮におります時に何度も顔を合わせておりましたから、口説くのであればその時点でしておりますよ…」と、クリスに対して釈明する美男公。
「まぁともかく、ラドゥ殿下。あんたに来てもらったのは他でもない、本物のほもたるあんたの助けが欲しいんだわ。さっきも言った通り、あたしらは連邦世界のパリにいるんだが、今から男色で売春する売春夫を狩り出したい。それだけならいいけど、女の格好をしたやつまで現れる始末だ。あんた、そんなの許せるか」無言で首を横に振る美男公。
(確かにそんなおぞましい代物、剣を手にしていたら斬ると思いますが…聖母様、それ以前に私がマリアリーゼ陛下に逆らえる立場でしょうか…泣きたいですっ)いやあたしに愚痴られてもっ。
「いや俺も何で男をおびきだす餌にされるんだよ…ラドゥ殿下だけで充分じゃねぇか…確かにパリには興味があったけどよぅ…」恨みがましい目でマリ公を見る黒ひげ。
「諦めろティーチ。私も全力で拒否して逃げ出したいがやむを得ん。ここがローマなら土地勘があるがパリ、それも未来のパリではな…」
「カエサル猊下、何とか余を外すよう口添え頂けぬものか…」
「メフメト陛下…諦めなさい。富裕なスルタンのふりをして歩くだけで謀叛を企てた罪が不問となるならば、乗らない話はないでしょう。私はまだしも陛下は断れる立場ではありませんでしょう?」ええ、今風のイケメンスタイルにされたド派手な開襟シャツに黒ジャケット、金ネックレス姿の毒盛り兄貴、聖母教会教皇カエサル1世ことチェーザレ・ボルジア猊下が。
「しかしマリアヴェッラ…この浮わついた格好、本当に何とかならんか…」しかもズボンは黒のピチピチレザーパンツ、ローライズタイプですよ…心底嫌そうにしている毒盛りですが、この男に言わせると意外にも鯖挟国皇帝のメフメト2世や黒ひげティーチに無理矢理着せたようなイギリス系スーツがいいそうです。
ちなみにティーチ、トレードマークのひげのせいか、帽子を被ってない次元◯介みたいな感じですね。
それなりに伊達男に見えてるから安心せぇと慰めておきましょう。
「カエサル猊下。私もこれですよ…」今度は白のエナメルパンツに同じく白のレザージャケット、ヘソ出しタンクトップ姿にされた美男公が泣きそうになっています。
「ラドゥ殿下もこれは避けられない立場だろう…しかし貴公はまだお似合いだから良いではないか。確かにこれも今の欧州貴族や富裕層が着る仕立て屋の作と聞いたが…」
「言っとくがあんたら一人につき最低でも200万円…100万南洋ルピー分の金かかってんだぞその服装。仮にも痴女皇国世界での地位を考えて与えてんだから、あんま文句言うなよ。いいなっ」ギロりと男どもを睨むマリ公ですが。
(この支払いはあたしのクレカのマイルが貯まる事で少しでも埋めよう…)
(メフメト2世はまだしも毒盛りと美男公ならし◯むらでも着こなさんか)
(かーさん…一応彼らが囮役だというのを忘れんでくれよ…)
「まぁまぁ叔父上。それに美男公もとりあえずこれを見てみなさいっ」白の上下に着替えたベラ子が二人の全身像を見せていますが。
「いやその、化粧までするのか…」
「この時世の男は美容に気を使うとは聞きましたが…」
ええ、男性陣を集めた一画だけがメンズなんとかのグラビアのようになっております。それも金満なおじさんやお兄さんが読みそうな重厚なデザインの奴。
実際にこれを仕立てに行った黒マリ曰く、わざわざ紙のカタログを出されたり云々、そりゃ一回の来店で便通のでっかい車やらロールスロイスに手が届く金額が吹き飛ぶような買い物していく客が一日何組も何組もリムジンに乗って来るわけだという感慨を抱いたそうです。
「あたしの馴染みのブランドもブティーク出してましたからね。ミラノの本店から電話入れてもらってから来店しましたから待たされませんでしたけど」
「しかし…洋装は正直苦手なのですが…」
「まぁ、すぐに慣れますよ」
そこに、渋い顔をしているのが1名と普通に着こなしているのが1名。
「おやベル君、いけにえ村ぶりやな。そっちは?」と、今のクリスくらいの年齢に身体を調整した二人に声をかけます。
一人は言わずと知れたベルテファーネ君、比丘尼国の元伊勢…大江山の地下に出向中の乳上の実の弟だとすぐわかりましたが、もう一人は見るからに日本人…ああああああ!
「二代目庄司甚右衛門…甚内でございます…」はいはいはい。風魔小太郎の兄さんと吉原御免色里を共同で経営してる人ですね。
「いや何か、紅毛人のみやこで衆道はまだしも陰間がのさばっていて困っておるからお助けして来られよと、慶次郎様にお聞きしましたのですが…薩摩の二才のなりで行って囮をせよと言うことでこの姿に」ああ…それでクリスと同じ服を着せられたのですね。
「マリ公。この上、慶次郎さんまで呼ぶ気ではあるまいな。いい加減毒盛り兄貴だけでもパリを燃やしそうな勢いなのだが」
「ええ聖母様。この時代のパリを燃やす気はございませんが、あのおぞましいものを見せられますと、出来ればミゲル辺りも呼んで頂きますと色々捗るのですが」
「それはさすがにやめてくれ。あんただけでも大概なのにスペイン団の連中まで呼びつけたら入院する奴が二桁か三桁はいきそうだ」ああ…毒盛りに忠誠を誓ってる大学時代からの同郷の皆様方ね…。
はい、ピサ大学時代から暗殺団組織してるくらいの壮絶な政権闘争をやらかしていたチェーザレ・ボルジア大先生、幼い頃からオスマン帝国…痴女皇国世界では弟共々鯖挟国の捕虜にされるわ祖国の存亡を賭けた戦争に明け暮れるわと戦争漬けだった串刺しの兄貴とは別ベクトルで血の気の多いやばい奴です。
ちなみに串刺し先生、鯖挟国に人質として差し出された際、兄弟でセットにされたんですけど…弟は皇帝陛下とホモる仲になって鯖挟国に残りまして…今あたしたちの目の前にいる美男公ことラドゥ3世殿下が正にその人、串刺しの実弟です。
ですから、連邦世界ではともかく痴女皇国世界では確実に女好きですがホモってはいない毒盛り、正直なところ美男公やそのホモカップルの相手のメフメト2世を快く思ってません。
内心毛嫌いしています。
(いやもう、火炎放射器というのですか、炎で焼き払いなぎ払う武器、あれを少しばかり貸して頂けますと汚物を消毒できるのですが)などと心話とは申せど平然とのたまうくらいにはほもを嫌っていますからねぇ…。
あんた昔のローマ帝国で皇帝筆頭にみんなほもってたやんというのは、スペイン出身の一族の家系のこの兄ちゃんには通じませんし。
「いやいやチェーザレ君、時が流れ世が進めば性癖や趣味は色々と変わってね…」と、ワーズワース大公が慰めています。この英国系NB人が我々痴女皇国の政治方針に全力で口を出しまくれる人間なのを知っているので、毒盛りもそこは頷かざるを得ません。
「だが…うちの国、そういう困った同性愛者や倒錯性癖者、移民当初にかなり厳選して排除はしていた筈なのだが…」いるのかよ、NBにも。ほも。
「Gとホモってどこにでも湧くんだな…お祖父様、痴女皇国の方針はご存知ですよね…」
「だから君達にNBの女性を預けて婚活向けの修練を依頼してるんだが…徴兵制を敷いてでも男女の正常な営みを促すべきか私は真剣に悩んでいるんだぞ。大統領閣下。できればこのお付き合いを契機にお互い、少子化解消に努力したいものですな…」まぁ、実子2名養子1名の大統領閣下と、実子2名のワーズワース卿はまだ少子化対策に自ら貢献している部類でしょう。
しかしその背後でメフメト2世と美男公がめっちゃ肩身狭そうです。
ただ、皇帝陛下の趣味とかイェニチェリの事があるからローマの聖母教会とイスタンブールの東方聖母教会では教義を少し変えてまして、バチカンは同性愛非推奨ですが、コンスタンチノープルの方は公言してくれるなレベルにとどめています。
「そーなんだよなー、美男公がいた時からうちも対処には悩んでたんだよ…美男公個人ならうちには対応可能なのがいたから何とかなったけど、これが千人なら千人全員ホモ専門だったら真剣にあたし、何かしてたぞっ」
「その節はご迷惑をおかけしまして…」
「まぁ、雪解けしたら玄奘さんも一度そっち見てみたいって言ってたから連れて行くよ。いや真剣に、あんたの美貌だからホモってもまだ許されるんだよなぁ…」そうなんですよ、美男公の実物、こっちのドラマで美男公を演じた後で性転換して女性になった人並みの美男子というかやおい系な姿なのです、今。
「しかし毒盛りさんもそうだけど美男公、この姿だと素人のほもに見られそうよ…商売でやるにしては服装もお金かかってるしさぁ…」
「いかにもお貴族様のお忍びほも遊びって感じなのは否めませんね」
「本人達のほもに対する感想はともかく、見た目はイケてるなんてもんじゃないわねぇ」と、うちのおなごどもが今回の男性陣を褒めちぎります。まぁ、うちの連中は相手に胸の内を見せながら話をしますから本当に誉めてるのはわかるでしょうし、毒盛りも黒ひげも美男公…パリにいる間限定で鬼種化してます…も照れていますな。
「だからティーチも髭ちょっとカットしたら、こんな感じで今風のイケメンなんだからよ…」と、半ば無理矢理自慢のヒゲに手を入れられて若干は不満顔の黒ひげに鏡がわりの自撮り映像を見せるマリ公。
「いや、実際にティーチは女官受けもいいんですよ?」
「あたくしのほうでも変なうわさは聞きませんしね、これでもう少し立居振る舞いを洗練させたらなかなかの所に行くのでは。マリアリーゼ陛下、マリアヴェッラ陛下、今度、ティーチを夜会に招いてよろしいでしょうか」と申し出るのはスペイン女王兼痴女皇国南欧支部長のイザベルさんです。
(今後ティーチが通商関係の仕事を始める際の顔繋ぎですわ…街道とてつどうとやらの事業が始まれば利に聡い商人が我が国を目指しましょう。その際の無用の混乱を防ぐためには、痴女皇国南欧支部主催名目で事前入札説明会とやらを開いた方が良いと室見局長様からご助言を頂きまして。ティーチには痴女皇国商務研修者として同席させれば、主な大手国際商人に顔を覚えられるかと)
(あ、りええから聞いてるよ。ベラ子どうよ)
(あたしにも話来てます。異存なしバベーネ。叔父様、うちの祖父には必ず出席させて下さいね。イザベル陛下からメディチ家に情報を流すタイミング、祖父に話が行った後にしますから)
(承知した。ま、この時代ならいんさいだー取引とやらなのだろうが、そもそも我々の時代には人脈が正義だったからな。メディチの資金と物流のコネは確かに魅力だが、陛下のお力には敵わん。むしろこの世界からのものを見てたまげて貰おうではないか)不敵に笑う毒盛りですが、ほんまこういう権謀術数が絡む話をさせたらハマり役やなぁ…。
(教皇猊下。近代商習慣を根付かせるためにやる話でもありますから、きちんと書式は書いて出して下さいよっ。それがためにロドリゴさんちから番頭さんとか修学宮に来させてたんですからねっ)
(承知しているよ。しかしまだ学生だった室見さんがこんな巨大計画を取り仕切られるとはなぁ…いやはや大したものだ)ああ、この二人、割と以前からの顔馴染みなんですよね。トリエステ港壊滅作戦当時が初顔合わせだったかな。
(学生時代に武装工作団組織して教皇の椅子を狙うとか軍団組織を考えるとか他貴族領の制服を狙う人には負けますけどねっ)と舌を出して言い返す理恵ちゃんですが。
(まぁ、学生実業家というのはわたしたちの世界にもいましたが規模が違いますよ。少なくとも普通の学生はイタリア全土征服とか雄大な目標を狙いません。後にハゲる人がですね、せいぜい果物かじった商標の機械を世界に撒き散らすのを企むくらいです!)
そりゃ学生時代から、当時はまだハゲてなかった多才なおじさんや元・無職のおじさんにツバつけられる訳ですよ、毒盛り。
「雄大な計画と言えば私にも提案があるのだが。よろしいですかな」マリ公とワーズワース大公にアイコンタクトしてから話を切り出す大統領閣下ですが。
「ボルジア卿…いや猊下。聖院のような実質売春施設を我が共和国で経営頂くという話はいかがかな。痴女皇国または聖院の侵略を敢えて見逃すついでに奇跡の一つも彼女達に起こして頂ければ、何とかしてバチカン程度の新興宗教公領を共和国内の都市国家として容認もしようとは思うのだが」
「しかもそこらで移民らしいのが焼いてるのは栗の実の出自が衛生的に怪しいからと言われて、わざわざまともな焼き栗の屋台が出てるってだけでリュクサンブール公園まで行ってって…あ、栗と栗鼠なら痴女種にあるじゃんという下ネタはなしでお願いするわよっ」聖院のマリア…白マリが呆れた目でうちの連中を睨め回します。
「ちなみにマロニエはセイヨウトチノキだからな。いけにえ村の連中が麻痺薬に使ってたイチイほどじゃないけど毒性があるし、しかも栗と違って苦くてクソまずいから薬用はまだしも食用には全く向かねぇからな」
「うぐぐぐぐぐぐ」
「とりあえず痴女種なんだからちょっと頑張って消化速度上げろ。やり方わかんねぇのはあたしかエマ子が手助けするからっ」とりあえずエリゼー宮内に入れて頂き、レセプションルームのひとつに案内される間にですね。
…はい。理恵ちゃん、言い訳を。
「だってパリ来たんだしスイーツとか食べたいし…」
…はい。ベラ子、言い訳を。
「そりゃ名物だって聞きましたもん。おまけにまぁ安かったし…20フラン…大体南洋ルピーで150、邦貨で300円くらいですね…旧ユーロだと3ユーロですか」
…はい。雅美さん、言い訳を。
「うん、大統領夫人の実長女のヴェロニクさんがお菓子の美味しいとこ連れて行ってくれたんですよ…」
うん。痴女宮または聖院宮生活主体のマリーや嘉手納在住で故郷の味に飢え気味のドミニクさんはまだしもですね。
いくら借金女王様でも当時の大国たるスペイン国王で、それなりの食生活のはずでしかも痴女種で今や万卒越えで食事必須じゃないはずのイザベルさんにですね、同じく痴女種でパリを頻繁にうろつけるはずのジョスリーヌさん、あなたたちわぁあああっ。
ケイシーちゃんもマーゴちゃんも一応あんたらスパイの部類やろがっ…ダリア見習って我慢しなさいっ。
「でもダリアさんもパクパク食べてましたよ」
「…あの、あたしは高速消化のやり方知ってますから…」
はい。
そしてワーズワース卿は奥様に誘われてってのはわかってますから除外としても…大統領閣下、あなた方まで何を致しておるのですか…。罰として今日の晩飯、ロンドンへ転送して食べさせようかと思いましたがぁっ。
「まぁまぁ、日没とともにヴァンセンヌとブローニュで並行して作戦を開始するということで腹拵えをするって事でいいじゃねぇか。昼飯は食べさせて貰えたんだろ?」と、実家近辺…具体的にはベッコフ・ダルザスとかいうお店で嫁と二人して昼飯食うてきたとか吐かすハゲが申します。
(そこベッコフを出す有名店よ…ベラちゃん辺り連れて行ったらドイツビール出されるから危険だけどね…)と雅美さんが教えてくれます。
「うん。何班かに別れてそれなりの場所連れて行ってもらってるはずや。ところでハゲ。その天津甘栗は何やねん」
「ああこれか、嘉手納の居住区売店で普通に売ってるぞ」
「あんた仮にも一応フランス人やねんから、こっちの栗にせえよ…」
「お前なぁ、俺が国を離れて20年は経過してるっての理解しろよ。夏と正月にはなるべく帰宅してるけどなぁ…」そうです、ゴルディーニのおっさんは息子の進学とか諸々あって家族をフランスに帰した後は単身赴任の立場です。
このおっさんが浮気自粛のために生体インターフェイスの精神安定…脳内麻薬成分分泌状況制御機能を使ってED気味にしているのを思い出して頂けると幸いなのですが。
そして嘉手納の食事情、以前に少し触れました通り海外の食品食材、よほど特殊なものでなければ基地職員隊員居住区画内にあるスーパーで手に入ります。
ですので天津甘栗もきっちり売られてます。
更には基地至近と言っていい場所に日本の大手スーパーチェーンがどかんとショッピングモールを構えていますので、日本の食品食材調味料の入手にも事欠きません。
ええ。おっさんの舌、日本文化に汚染されています。
沖縄のカツ丼は大阪や東京に比べるとちょっとなぁとか言い出す程度には日本慣れしているのです。
箸も普通に使いますし、航空自衛軍の那覇基地との交流会や定例打ち合わせで向こうが会場を持った際の昼食でも、ゴルディーニ少将=箸がOKの人間として知られています。本人はカレーよりカツ丼らしいのも向こうに知られています。
「せやけどおっさん、あんたも無理して今晩のヲカマ狩りに付き合う必要ないんやぞ…公務あるやろが…」
「臨時の休暇が承認された。それにマリアちゃんが気を利かせてストラスブールの実家に転送してくれてたのは知ってるだろ…」
「奥さん、今は外観30代前半やったっけ」
「まぁな。フランスもお前らの延齢プログラムの関連条約加盟国だからそれ扱いにしてる体裁を取ってるが…」言いにくそうにしているハゲですが。…ああ、夫婦の営みをしてきたのね。
ちなみにこのハゲ、延齢措置以前に体を鍛えてますからお腹は出ていませんよ。確か体脂肪率10%未満余裕のはずです。
外観もユル・ブリンナー似で何だかんだで面倒見が良い事もあり、ママの店の女の子や痴女皇国や聖院メンバーはもちろん、嘉手納や空自那覇基地の女性隊員にまで受けは良いのですよこのハゲわぁっ。
で、夕方の作戦開始に合わせてTGVでパリに戻って来たゴルディーニ閣下の艶やかなハゲ頭を撫でて怒られたりしていますが、ラッツィオーニさんは撫でられて喜ぶのに狭量なおっさんやなっ。
(うるせぇっ)
(それより奥さん浮気してへんはずやけど、ちゃんと相手してるやろな…家庭の事情に噛めへんけど、嘉手納呼んだった方がええんちゃうんかいな…)
(子供の就職が片付いたらその辺は考えたいんだが…嘉手納勤務は宙兵隊の中じゃ出世コースだからって、今は下手に帰還や転属願いを出すなと嫁が言うんだよなぁ…)
(まぁ色々大変やろうが頑張ってくれ。転送機能利用推薦入れといたるわ…)と、ハゲの面倒も見ておきます。
「しかし売春合法化、我が共和国でも人道主義者が強く訴えておりまして…マリアリーゼ陛下、こんな話で恐縮なのですが」
「あー、ドーバーの向こうと似たレベルでの嫌々ながらのお付き合いを余儀なくされている、酢漬け大好きポテト大好きなお隣様の件ですか」
「ええ。あの国の国営施設と特殊公務員雇用を成功事例として捉えている愚かものがいまだに後を絶たないのですよ…」
「あれ非合法の口寄せ屋なのに合法的な人身売買活動になるって問題点、旧EU時代にすでに指摘されてませんでした?」
「シェンゲン協定や移民保護策の穴を見事に突かれてると散々指摘されていましたがね、第三次大戦時にテロ工作員の潜入ルートに使われて、やっと危険性に気付いた時には国内工場他産業拠点に大打撃ですからねぇ。おかげで戦後、我が共和国の産業が需要を手にする事となり国家振興に役立ちはしましたが、今の国際社会を考えると手放しでは喜べませんな」
あ、この大統領閣下のお話、注釈入れた方が良さそうですね。
皆様の世界の赤黄黒色国旗のお国ですが、国営売春施設、存在しますよね。
それ、うちら側のその国にもきっちり存在しました。
そして今でも…あんだけ痛い目にあったのにまだあるんですよ。
実はあれを利用した人身売買の手口が存在します。
どんな風にやるかと申しますと、難民やら不法入国者をかき集めた自称移民コーディネーターやら、果ては人身売買ブローカーが東欧やあたしの身体の祖国界隈から調達して来た女性に、ドイツ語なり英語なり、彼女たちが理解できない言語で記述された契約書を、移民手続きの処理代行契約だの何だの適当なウソをついてサインさせるわけです。
で、その契約書はその国の特殊公務員雇用契約書でして、赤黄黒国内では全くの合法的な書類なのですよ…ですから話が違うと本人が騒いでも後の祭り、あの融通の効かない国ですから合意の上でサインしただろうに何言ってんだって話になっちゃって泣き寝入りか逃げ出すかの二択だったそうです。
そして、そんなザルが通るわけですから、悪意を持って入国を企む人間や騙された恨みを持つ女性を扇動する人間の入国や在住、果たして防げますでしょうか。
ええ。複数の女性の私物に紛れ込ませた部品を組み上げ液体化粧用品と組み合わせて完成させる類の爆弾をあちこちにばら撒かれてテロられました。
更にはスーツケース爆弾ですね、小型核兵器を用いた攻撃を受けています。
この話にあまりドイツ系の車両や機器が出て来なかった理由の一つが、このテロ攻撃の初動阻止に失敗したがためでして…緑の中を走り抜ける赤い車の会社あるでしょ。
あそこは自分ちの車を作るだけでなく、他社から請け負う調査や開発業務の代行もしていたようですけど、あたし達の世界ではシュツットガルトでやられたテロで見事にそうした施設にダメージを受けて復興が立ち遅れ、親会社の一部門と化しています。
そして他にも便通な会社や豚鼻社に肝心の国民車社も標的にされあちこちの重要施設や設備を失い第三次大戦後もいまだ傷癒えず、と言うことになっております。
大統領閣下が売春完全合法化を渋るのも実はこのテロ攻撃の件、決して他山の石ではないとお考えだからでしょう。
そもそも売春が非合法ならば取り締まる事で結果的に人権蹂躙を防げますし、国内に敵性勢力を居座らせない予防にもなります。
そして大統領閣下「お前とこだけ儲けやがって」「いい目しやがって」とさまざまな嫉妬にフランスが晒されるのを回避したいともお考えです。
そう、第二次大戦後に東西冷戦対立の最前線となった赤黄黒色国、他のアカと睨み合いをする立場となった最前線の国と同じく、アメリカ他西側諸国から経済的支援や優遇を受けています。
そしてそれだけが原因じゃないんですけど、それなりに富裕な国として国際金融市場での混乱やら他国融資破綻やらに巻き込まれたり、あるいは違法移民のターゲットにされていました。
お読みの皆様の世界ですと、まさにそれをやられている真っ最中だと思いますよ?
で、愛国者の一員でもある大統領閣下としては、国の舵を取る立場以前に他国の誹謗やっかみの目を必要以上に向けたくないという思いがあるわけですね。
読者の皆様におかれましては、こうした政治的軋轢やら経済的軍事的問題が絡んでいるとの前提でこのヲカマ狩りの話をお読み頂きますと、うちらがなぜ売春夫摘発にこうも力を貸すのかがお分かり頂けるかと存じますっ。
(まぁ、あらかじめやるって決まってた話じゃなくて、ジョスリーヌさんの記憶とか意識やら、果ては大統領閣下だの諸々の方々の頭の中を読んでからよっしゃと決めてるかんな。ただ、うちらは超高速で検討決議実行に至るまでのプロセスをこなせたりするからあれよあれよと話が決まるだけなんであって、やってる事は…例えばフランス共和国が旧宗主国の紛争に介入しようとして、実際に軍事力を派遣するまでの流れとそう変わらなかったりするわけよ)
(独断による暴走もあるにはあるけど、致命的なことは今までは起こしてないので安全性は担保できる…かな?)
(独断による暴走の結果として墓所に写真を飾られる程度で済めばええのやけどな!)
(あれをいい加減何とかしやがれっ)
(ちなみに聖院宮の地下墓所にも複製が。万が一黒マリが処分に成功した場合のバックアップとして置かれているわね)
(どけろよっ)
(やだ。うちの子たちに「アホなことしたらこうなるからみんなはやめようね」って感じで、いい反面教材になってるからダメよ。プラウファーネさんたちにも絶対どけないで、あれ壊そうとしたら例の非常通報ボタン押していいからって言ってるからね?)
(ひぎぃいいいいい)
「そーいや白マリ。お前んとこのプラウファーネさんには交代の話は来てへんのかいな」
「んー。そろそろっちゃそろそろ。ただ、うちには向こうに回せる技官がいないのよ…かーさん何とかしてよっ」
「それこそ聖院のうちに言えと言いたいが、まぁ…技術系学校から人を貰うというテもあるからなぁ。監獄社に話をして、取引先のオフィスビル系デベロッパーとかいないか聞いてみ。あとは菅野夫婦の系統のツテで防衛省設備の担当技術士官とかな。宙兵隊や宇宙軍でもそういう施設設備管理員は厳選された軍属やら、工兵部隊の優秀者を選抜してるんが実情やから、日本から貰う方が話は早いと思うぞ」
「あいー。後日交渉してみりゅー」
「どうしてもガテン系はなー」
「ところでマリ公。本日の予定はいかに」
「かーさんが決めてくれよ…めんどいんだぞ…」
「頑張ってまとめんかいっと言いたいが、うちに案がある」
「ぬう。申してみよおばはん…いでぇっ!」
「よしベラ子。あんたのはりせんはなかなか効くのう」
「…ベラ子てめぇ!なんで貸すんだよ…」
「そりゃかー様とねーさんじゃ、こういう仕事に関しちゃねーさんの方が作戦指揮官には向いてると思いますよ?」
「まぁともかく聴きたまへ。まず、昨晩の狩りの状況だが、ヲカマさんはやはりパリの下町から出撃しているようや。そして夢を混同する避妊具他の廃棄物をエマ子が確認してくれたが、とりあえずオートゥイユ競馬場からやや離れた森の中だのに集中的にそうした痕跡を発見したようや。んで官庁街ビジネス街に近く官憲拠点も存在するブローニュを避けてヴァンセンヌの森で営業している可能性を指摘してくれた」
「ふむふむ」
「で、本日は痴女宮からテンプレス2世を都合して、パリ上空でオルリーやシャルル・ド・ゴールの邪魔にならん高度に待機させようと思う。つか既にしてるんだが」
「今どこにいんのよ」
「エリゼー宮真上。下からは見えないように擬装はしてるよ」マリ公が頭の上を指差します。
「いいんですか閣下…」
「ヴィラクブレーか他の駐屯地も考えたが、基地発着航空機の問題があるからね。であればそもそも許可機以外は一切通過まかりならぬ我が公邸上空なら良かろうとね。それに実は…ジーナ閣下、イタリアや日本、それに英国が持っている船、我が国の海軍が欲しがっておりましてね。ならば滞空能力やらを我々に対して誇示頂ければ商談も捗るのではと提案させて頂いたのですよ」
「あー、フランスさんの空母を一隻は持ちたがる病気…」
「前に一度アークロイヤル級を見学させて頂いたが、あれを完全軍用として使うにはやはりサイズが…となりまして。イタリア海軍のザラ級くらいか、テンプレス級なら我が海軍にちょうど良いサイズになりますかな」
「確かに今のシャルル・ド・ゴール級とテンプレス級比べたらテンプレスが省力操船機能入りで…うちの方が10機くらい搭載機が多くなるか」
「米海軍のCVNとだいたい同じと伺っておりますな」
「とりあえず後でワーズワース大公に意向を伝えておきますよ」ニヤニヤ笑うマリ公。まぁ、本人がすぐ近くにいるのに何ですが、話の優先順位は交通網整備支援が先よ、NBとフランスに資金や人やモノが回り始める段階で配船されれば独自輸出手段も持てるよって事でしょう。
で、まだ日没には間がある中、くだんのテンプレス2世のブリーフィングルームに移りまして。
「ルルドもそうだったけど、なんか独特の垢抜け感はあるよな、フランス」
「人が訪問する前提で街を作ってきた印象もありますわね…ほら、私共だと城塞ありきでしたから」
「だよなぁ、乳上んとこはあちこちでバチバチやり合ってたからな」
「あたくしのところもだいたい類似品ですね」と、印象や感想を述べる乳上とクレーニャ。
「何かこう、田舎に生まれ育った私としては全てが異次元です…」と、欧州地区本部預かりで紫薔薇に回されて研修中のニオオフラーネさん。
そーしーてー。
「あの…臨時雇用と言われたのですが…一体全体この格好は…」
おいマリ公、お前の趣味かっ。
「ちげーよ!乳上とクレーニャとベラ子がGパン買ってきて適当ないんちゅうパンツ履かせてからだな…」
はい、そこにはGパン姿で上半身裸で黒テンのコートと帽子を羽織り、ポーズを取らされ女どもの撮影の嵐に遭う美男公が。
「確かにこの人、改めて見るとほんまに男かいう感じやねんけど、おいお前ら…クリス二人と並べるんはええけど変なポーズ取らすなよ?」
「はぁ…しかし聖母様の旦那様ですか、囮役で普段より若返られたとはお聞きしましたが正直、食指が動かなくはありません。が、しかし」
「ぬぅっ。本物のほもの見立てとはっ」
「ゴルディーニ様…ですか。そして大統領様、ワーズワース大公様の順で」
「えええええ」
「ちょ、ラドゥ殿下…なぜハゲを抱かれたい男一位にするんや!」
「簡単です。皆様が言われるところの受け。その立場になった場合の選択です。これが私が攻めであればクリス殿下、お父上、大統領様、ゴルディーニ様となります」美男公のランク付けを聞いた男性全員がものすごく複雑な顔をしていますが、そりゃそうでしょう。
特に小学生に該当する時期から学校ではほもな教師の妖しい視線に晒されていたと言うノンケのクリス、あたしの側から離れません。
「い、いや殿下、私の選択を聞かれたからお答えしたまでで、私が付け狙っている訳ではありませんよ? 第一痴女宮におります時に何度も顔を合わせておりましたから、口説くのであればその時点でしておりますよ…」と、クリスに対して釈明する美男公。
「まぁともかく、ラドゥ殿下。あんたに来てもらったのは他でもない、本物のほもたるあんたの助けが欲しいんだわ。さっきも言った通り、あたしらは連邦世界のパリにいるんだが、今から男色で売春する売春夫を狩り出したい。それだけならいいけど、女の格好をしたやつまで現れる始末だ。あんた、そんなの許せるか」無言で首を横に振る美男公。
(確かにそんなおぞましい代物、剣を手にしていたら斬ると思いますが…聖母様、それ以前に私がマリアリーゼ陛下に逆らえる立場でしょうか…泣きたいですっ)いやあたしに愚痴られてもっ。
「いや俺も何で男をおびきだす餌にされるんだよ…ラドゥ殿下だけで充分じゃねぇか…確かにパリには興味があったけどよぅ…」恨みがましい目でマリ公を見る黒ひげ。
「諦めろティーチ。私も全力で拒否して逃げ出したいがやむを得ん。ここがローマなら土地勘があるがパリ、それも未来のパリではな…」
「カエサル猊下、何とか余を外すよう口添え頂けぬものか…」
「メフメト陛下…諦めなさい。富裕なスルタンのふりをして歩くだけで謀叛を企てた罪が不問となるならば、乗らない話はないでしょう。私はまだしも陛下は断れる立場ではありませんでしょう?」ええ、今風のイケメンスタイルにされたド派手な開襟シャツに黒ジャケット、金ネックレス姿の毒盛り兄貴、聖母教会教皇カエサル1世ことチェーザレ・ボルジア猊下が。
「しかしマリアヴェッラ…この浮わついた格好、本当に何とかならんか…」しかもズボンは黒のピチピチレザーパンツ、ローライズタイプですよ…心底嫌そうにしている毒盛りですが、この男に言わせると意外にも鯖挟国皇帝のメフメト2世や黒ひげティーチに無理矢理着せたようなイギリス系スーツがいいそうです。
ちなみにティーチ、トレードマークのひげのせいか、帽子を被ってない次元◯介みたいな感じですね。
それなりに伊達男に見えてるから安心せぇと慰めておきましょう。
「カエサル猊下。私もこれですよ…」今度は白のエナメルパンツに同じく白のレザージャケット、ヘソ出しタンクトップ姿にされた美男公が泣きそうになっています。
「ラドゥ殿下もこれは避けられない立場だろう…しかし貴公はまだお似合いだから良いではないか。確かにこれも今の欧州貴族や富裕層が着る仕立て屋の作と聞いたが…」
「言っとくがあんたら一人につき最低でも200万円…100万南洋ルピー分の金かかってんだぞその服装。仮にも痴女皇国世界での地位を考えて与えてんだから、あんま文句言うなよ。いいなっ」ギロりと男どもを睨むマリ公ですが。
(この支払いはあたしのクレカのマイルが貯まる事で少しでも埋めよう…)
(メフメト2世はまだしも毒盛りと美男公ならし◯むらでも着こなさんか)
(かーさん…一応彼らが囮役だというのを忘れんでくれよ…)
「まぁまぁ叔父上。それに美男公もとりあえずこれを見てみなさいっ」白の上下に着替えたベラ子が二人の全身像を見せていますが。
「いやその、化粧までするのか…」
「この時世の男は美容に気を使うとは聞きましたが…」
ええ、男性陣を集めた一画だけがメンズなんとかのグラビアのようになっております。それも金満なおじさんやお兄さんが読みそうな重厚なデザインの奴。
実際にこれを仕立てに行った黒マリ曰く、わざわざ紙のカタログを出されたり云々、そりゃ一回の来店で便通のでっかい車やらロールスロイスに手が届く金額が吹き飛ぶような買い物していく客が一日何組も何組もリムジンに乗って来るわけだという感慨を抱いたそうです。
「あたしの馴染みのブランドもブティーク出してましたからね。ミラノの本店から電話入れてもらってから来店しましたから待たされませんでしたけど」
「しかし…洋装は正直苦手なのですが…」
「まぁ、すぐに慣れますよ」
そこに、渋い顔をしているのが1名と普通に着こなしているのが1名。
「おやベル君、いけにえ村ぶりやな。そっちは?」と、今のクリスくらいの年齢に身体を調整した二人に声をかけます。
一人は言わずと知れたベルテファーネ君、比丘尼国の元伊勢…大江山の地下に出向中の乳上の実の弟だとすぐわかりましたが、もう一人は見るからに日本人…ああああああ!
「二代目庄司甚右衛門…甚内でございます…」はいはいはい。風魔小太郎の兄さんと吉原御免色里を共同で経営してる人ですね。
「いや何か、紅毛人のみやこで衆道はまだしも陰間がのさばっていて困っておるからお助けして来られよと、慶次郎様にお聞きしましたのですが…薩摩の二才のなりで行って囮をせよと言うことでこの姿に」ああ…それでクリスと同じ服を着せられたのですね。
「マリ公。この上、慶次郎さんまで呼ぶ気ではあるまいな。いい加減毒盛り兄貴だけでもパリを燃やしそうな勢いなのだが」
「ええ聖母様。この時代のパリを燃やす気はございませんが、あのおぞましいものを見せられますと、出来ればミゲル辺りも呼んで頂きますと色々捗るのですが」
「それはさすがにやめてくれ。あんただけでも大概なのにスペイン団の連中まで呼びつけたら入院する奴が二桁か三桁はいきそうだ」ああ…毒盛りに忠誠を誓ってる大学時代からの同郷の皆様方ね…。
はい、ピサ大学時代から暗殺団組織してるくらいの壮絶な政権闘争をやらかしていたチェーザレ・ボルジア大先生、幼い頃からオスマン帝国…痴女皇国世界では弟共々鯖挟国の捕虜にされるわ祖国の存亡を賭けた戦争に明け暮れるわと戦争漬けだった串刺しの兄貴とは別ベクトルで血の気の多いやばい奴です。
ちなみに串刺し先生、鯖挟国に人質として差し出された際、兄弟でセットにされたんですけど…弟は皇帝陛下とホモる仲になって鯖挟国に残りまして…今あたしたちの目の前にいる美男公ことラドゥ3世殿下が正にその人、串刺しの実弟です。
ですから、連邦世界ではともかく痴女皇国世界では確実に女好きですがホモってはいない毒盛り、正直なところ美男公やそのホモカップルの相手のメフメト2世を快く思ってません。
内心毛嫌いしています。
(いやもう、火炎放射器というのですか、炎で焼き払いなぎ払う武器、あれを少しばかり貸して頂けますと汚物を消毒できるのですが)などと心話とは申せど平然とのたまうくらいにはほもを嫌っていますからねぇ…。
あんた昔のローマ帝国で皇帝筆頭にみんなほもってたやんというのは、スペイン出身の一族の家系のこの兄ちゃんには通じませんし。
「いやいやチェーザレ君、時が流れ世が進めば性癖や趣味は色々と変わってね…」と、ワーズワース大公が慰めています。この英国系NB人が我々痴女皇国の政治方針に全力で口を出しまくれる人間なのを知っているので、毒盛りもそこは頷かざるを得ません。
「だが…うちの国、そういう困った同性愛者や倒錯性癖者、移民当初にかなり厳選して排除はしていた筈なのだが…」いるのかよ、NBにも。ほも。
「Gとホモってどこにでも湧くんだな…お祖父様、痴女皇国の方針はご存知ですよね…」
「だから君達にNBの女性を預けて婚活向けの修練を依頼してるんだが…徴兵制を敷いてでも男女の正常な営みを促すべきか私は真剣に悩んでいるんだぞ。大統領閣下。できればこのお付き合いを契機にお互い、少子化解消に努力したいものですな…」まぁ、実子2名養子1名の大統領閣下と、実子2名のワーズワース卿はまだ少子化対策に自ら貢献している部類でしょう。
しかしその背後でメフメト2世と美男公がめっちゃ肩身狭そうです。
ただ、皇帝陛下の趣味とかイェニチェリの事があるからローマの聖母教会とイスタンブールの東方聖母教会では教義を少し変えてまして、バチカンは同性愛非推奨ですが、コンスタンチノープルの方は公言してくれるなレベルにとどめています。
「そーなんだよなー、美男公がいた時からうちも対処には悩んでたんだよ…美男公個人ならうちには対応可能なのがいたから何とかなったけど、これが千人なら千人全員ホモ専門だったら真剣にあたし、何かしてたぞっ」
「その節はご迷惑をおかけしまして…」
「まぁ、雪解けしたら玄奘さんも一度そっち見てみたいって言ってたから連れて行くよ。いや真剣に、あんたの美貌だからホモってもまだ許されるんだよなぁ…」そうなんですよ、美男公の実物、こっちのドラマで美男公を演じた後で性転換して女性になった人並みの美男子というかやおい系な姿なのです、今。
「しかし毒盛りさんもそうだけど美男公、この姿だと素人のほもに見られそうよ…商売でやるにしては服装もお金かかってるしさぁ…」
「いかにもお貴族様のお忍びほも遊びって感じなのは否めませんね」
「本人達のほもに対する感想はともかく、見た目はイケてるなんてもんじゃないわねぇ」と、うちのおなごどもが今回の男性陣を褒めちぎります。まぁ、うちの連中は相手に胸の内を見せながら話をしますから本当に誉めてるのはわかるでしょうし、毒盛りも黒ひげも美男公…パリにいる間限定で鬼種化してます…も照れていますな。
「だからティーチも髭ちょっとカットしたら、こんな感じで今風のイケメンなんだからよ…」と、半ば無理矢理自慢のヒゲに手を入れられて若干は不満顔の黒ひげに鏡がわりの自撮り映像を見せるマリ公。
「いや、実際にティーチは女官受けもいいんですよ?」
「あたくしのほうでも変なうわさは聞きませんしね、これでもう少し立居振る舞いを洗練させたらなかなかの所に行くのでは。マリアリーゼ陛下、マリアヴェッラ陛下、今度、ティーチを夜会に招いてよろしいでしょうか」と申し出るのはスペイン女王兼痴女皇国南欧支部長のイザベルさんです。
(今後ティーチが通商関係の仕事を始める際の顔繋ぎですわ…街道とてつどうとやらの事業が始まれば利に聡い商人が我が国を目指しましょう。その際の無用の混乱を防ぐためには、痴女皇国南欧支部主催名目で事前入札説明会とやらを開いた方が良いと室見局長様からご助言を頂きまして。ティーチには痴女皇国商務研修者として同席させれば、主な大手国際商人に顔を覚えられるかと)
(あ、りええから聞いてるよ。ベラ子どうよ)
(あたしにも話来てます。異存なしバベーネ。叔父様、うちの祖父には必ず出席させて下さいね。イザベル陛下からメディチ家に情報を流すタイミング、祖父に話が行った後にしますから)
(承知した。ま、この時代ならいんさいだー取引とやらなのだろうが、そもそも我々の時代には人脈が正義だったからな。メディチの資金と物流のコネは確かに魅力だが、陛下のお力には敵わん。むしろこの世界からのものを見てたまげて貰おうではないか)不敵に笑う毒盛りですが、ほんまこういう権謀術数が絡む話をさせたらハマり役やなぁ…。
(教皇猊下。近代商習慣を根付かせるためにやる話でもありますから、きちんと書式は書いて出して下さいよっ。それがためにロドリゴさんちから番頭さんとか修学宮に来させてたんですからねっ)
(承知しているよ。しかしまだ学生だった室見さんがこんな巨大計画を取り仕切られるとはなぁ…いやはや大したものだ)ああ、この二人、割と以前からの顔馴染みなんですよね。トリエステ港壊滅作戦当時が初顔合わせだったかな。
(学生時代に武装工作団組織して教皇の椅子を狙うとか軍団組織を考えるとか他貴族領の制服を狙う人には負けますけどねっ)と舌を出して言い返す理恵ちゃんですが。
(まぁ、学生実業家というのはわたしたちの世界にもいましたが規模が違いますよ。少なくとも普通の学生はイタリア全土征服とか雄大な目標を狙いません。後にハゲる人がですね、せいぜい果物かじった商標の機械を世界に撒き散らすのを企むくらいです!)
そりゃ学生時代から、当時はまだハゲてなかった多才なおじさんや元・無職のおじさんにツバつけられる訳ですよ、毒盛り。
「雄大な計画と言えば私にも提案があるのだが。よろしいですかな」マリ公とワーズワース大公にアイコンタクトしてから話を切り出す大統領閣下ですが。
「ボルジア卿…いや猊下。聖院のような実質売春施設を我が共和国で経営頂くという話はいかがかな。痴女皇国または聖院の侵略を敢えて見逃すついでに奇跡の一つも彼女達に起こして頂ければ、何とかしてバチカン程度の新興宗教公領を共和国内の都市国家として容認もしようとは思うのだが」
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