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仏蘭西戀物語・エマニエル夫人の恋人 3
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「ほんっとーに道挟んですぐ隣なのですね…」ベラ子が豪壮な鉄門と、その先に見える駐車場として使われている中庭や正面玄関を眺めながら申します。
エリゼー宮西側の門からマリニー通りを挟んだ比較的こじんまりした二階建ての洋館…これがフランス共和国の迎賓館たるオテル・ド・マリニーです。
と言っても周囲をもう少し高いアパルトマンやら何やらで囲まれている上に、お隣のエリゼー宮と並んで機密施設扱いされていますから、大抵の民間用地図ではモザイクなりぼかしなりが入れられているはずです。皆様の立場では詳細な建物外観、フランス政府公式Webサイトの紹介写真を見て頂くしかないかと存じます。
で、今いる中庭とは建物を挟んで反対側に、噴水のある立派な庭園が存在しますが、外からはマリニー通りに面したそのお庭や洋館がチラッと見える程度だそうです。
「一応は貴賓客用宿泊施設でもありますので。あと、内部に我が国の工芸品や絵画彫刻類をそれなりに飾らせて頂いております」
ジョスリーヌさんの案内でそれらを拝見させて頂きます。
ガラスケースに入ったグラス類ですとか、宝飾品工芸品、更にはあちこちの壁にかけられた絵画類。
およそ窓枠といわず壁と言わず柱と言わず、あちこちに入れられた彫刻や金銀の装飾類。
で、あたしの印象。
…何かこう、昔の少女漫画なお姫様世界の本物とはこうなのねという感慨しか湧きません。
ですので、痴女皇国でこの類の施設に生まれ育ち起居した人物は何人もおりますし、今いる面子でこの手の建築物に慣れている筆頭格たるマリーとイザベルさんに感想を頂いてみましょう。
(なかなかに華美で新築当初の往時が偲ばれますわね)
(確か、こちらの世界ではユダヤ系の富豪で男爵位の方のお屋敷だったとか。少々豪華に過ぎる印象なのはその辺りの趣味が入っているのでしょうか)
(ギュスターブ・ロスチャイルドだったかな。パリのロスチャイルド家系の)
(ああ、ロスチャイルド家か…)
「本当はエリゼー宮内のサロンにお招きして会談とさせて頂きたかったのですが…」と、ウェイティングルームを経由して食堂に案内を頂き、大統領閣下以下、閣僚の皆様やアルストムにダッソーにルノーにPSAのトップ…おい待てやこら。
「いやはや、大袈裟な陣容で申し訳ございません」
でぇ、ウチの国は誰が代表かという事で先方も悩まれたようですので、ルルドへの私的旅行団の保護者…直接の娘が三人、白マリ入れたら4名になりますので…のわたくしジーナおばはんが大統領閣下とまずはご挨拶。
そして痴女皇国マリアとベラ子、聖院マリアの順で握手と挨拶を交わさせます。
イザベルさんの時は特に皆様に、ヴァロワ朝フランス王家出身者でスペイン女王の立場を強くアピールしてもらえました。
食事の内容は歓談と言う名の商談を主に理恵ちゃんとフランス勢が丁々発止でやり合ってたのを聞いてたこともあり、可もなく不可もなく普通に上等な癖のないフランス料理という印象ですが、マリ公あたりが鴨鴨鴨と言っていた話が流れたせいか、メインだけは鴨のオレンジソース煮。
(確かにうまいこと脂を抑えとるな。これ皮とかフランベして炙ってるし、オレンジも敢えて甘過ぎへんやつ使ってるな…うむ、赤ワインがはかどるのぅ)
(おばはんパクパク食ってんじゃねぇよ…確かに味はいいよ、いいけど…まさかこのためにトゥール・ダルジャンのシェフ呼んでねぇだろうな…あ、厨房にいるわ。かーさん…この鴨のお代どうするよ…)
(ほんと、タダほど高いものはない。これに尽きるわね…)
(ふっ、鴨ごときであたしが揺らぐとお思いっすか、ねーさん方。あたしはイタリア料理を所望したのですがぁっ)
(まぁまぁ陛下、ここは一つ切り返しをあたくしイザベルが)
「素晴らしい歓待、恐縮に存じます。もしも我が父母…特に父が存命であれば、全くもって祖国の料理文化の発展に歓喜した事でしょう」これだけは譲れぬとばかりに出てきた食後のワインとチーズを頂きながら申されるのはイザベルさん。
「は、イザベル陛下にお褒めを頂き誠に恐縮でございます」
「わたくしとしても晩餐の最中に話が出ました貴国からの技術供与、痴女皇国支部長として南欧の治世を預かる立場としても是非に賛同させて頂きたく存じます。ますが…聖母様。いかがなさいますか」そうです。痴女皇国の序列からすると皇帝のベラ子か上皇のマリ公が本来ならこの話の可決権を持っており、イザベルさんからお願い受けて!とおねだりされる立場なわけですよっ。
しかしながらわたくし、こやつらの母親の立場であり、いわば実質の院政担当者。更には連邦世界の地位から見ると一番えらいさんになります。
ですが、フランス側のなりふり構わぬ接待と外交圧力をブルボン王朝すら子孫となるヴァロワ王朝の由緒正しい血統であるイザベルさんと、ロレーヌ公国系譜のマリー。そして嘉手納やひいては宙兵隊の顔の一つとして各国首脳とやりとりを余儀なくされたあたしの三名でのらくらかわしながらウチらに有利な条件で商談をまとめようというのがこちらの戦略です。
そしてテクニカルな面が絡む話ですので、鉄道技術系の話が出来る理恵ちゃんの出す規格条件を何がなんでも呑んでもらわないと困る。そんな感じで各社とやり取りしております。
で、ここで連邦地球側のスペインと痴女皇国側のスペインの事情が少し変っているお話をば。
フランス以上に地中海性気候なスペイン、国土全体を見れば岩石砂漠地帯も決して少なくありません。
フランスもあまり雨が降らない部類の国ですが、スペインは更に少なく国土年間降水量700mmを割るという事情がありまして…。
これを日本と比較しますと、東京の年間降水量がだいたい1.500mmなので雨の量は半分くらい。
しかもピレネーやアルプス由来の水源があるのがまだ救いのフランスよりも更に水事情が厳しいわけでして、食料自給率はもちろん可住面積にも影響甚大です。ミディ運河を引いて国土中部の水事情を飛躍的に改善できたフランスと違い、運河用の水源にも事欠く状態です。
そして国土面積や人口でいうと、第三次世界大戦後の状況でしたらスペイン50万平方キロに人口4千万人、フランスの60万平方キロに6千3百万人となります。
日本の38万平方キロに一億一千万人は少々異常としても、やはり年間1千ミリ近くの量の降雨量は欲しいところでしょう。
そんな訳でエマ子が過日の北欧いけにえ村作戦の際に来たア・バオ・ア・クゥにおねだりしていたようですが、木星の輪の構成物質のうち水分を純水に転換してでっかい氷塊を何個か作成。
それを地球に持ち込んでとりあえずアリゾナとサハラ砂漠とゴビ砂漠に大きめの貯水目的の湖…サハラのはカスピ海レベルです…を建設して貯水湖周辺に粘菌系微生物や地衣類を撒き散らして、緑化を図っております。
更にこの広大な湖、砂漠地帯に湖底硬化処理を入れた上で建設しましたから、貯水は地層にこそ浸透しないものの、湖面からはそれなりの水量で水が蒸発していきます。
で、この水蒸気…サハラ砂漠周囲のある程度の高さの山に当たれば自然にそこで冷却され雲を発生させて雨を降らせますが、気流の流れによっては大西洋や地中海やアフリカ中南部方向に流れっぱなしになりますよね。
そこで活躍するのが以前の鬼作戦で捕獲した鉄扇公女の気流操作能力。
実は初代様の時分から聖院島近辺にも似た仕掛けをしているそうですが、だいたい夕方になると砂漠地帯に雨が降るように気候操作しているそうです。
これによって、ナイルの恵みが見込めるエジプトはまだしもモロッコやチュニジア、リビアと言ったアフリカ北岸でもせめて麦畑くらいは作れるようにしようと緑化作戦を展開中。
アメリカ合衆国に該当する地域でも大規模農業、特に綿花栽培で地下水を汲み上げ過ぎて問題になっておりますのを痴女皇国世界では予防したいという希望、アレーゼ米大陸地域本部長から話を伺っております。
で、スペインについても超巨大ため池を増やそうぜ計画なる当該計画の対象にしておりまして、エマ子とイザベル陛下の間で土地選定が決まり次第、最低でも琵琶湖レベルの湖をマドリード近辺とバレンシアに作ろうかと場所を選定中です。
で、その場所についてですが、湖をそこに作った場合にどんな感じで雨が降るとか雲が出来るか、エマ子の本当の本体…多重空間にまたがる光電子集積空間回路体…でエミュレーションしてどこがいいあそこにしようと、ざっと決めてから建設にかかっています。
そう、そのスペイン国土農地増加計画が軌道に乗るまでは、スペインへの食料安定供給が問題となるのです。
現在は南北米大陸がその役目を担っておりますが、やはり輸送の楽なフランスから有利な条件で購入させたいのも我々の思惑なのです。鉄道が出来たら船には及ばずとも相当な大量輸送が可能になりますからね。
(これ…その気候シミュレーション、ダッソーの中の人がものすごい勢いで話を聞きたがってますよ。なにせあそこ、航空機や自動車や宇宙船の設計ソフトも作ってるじゃないですか。あの設計品の作動シミュレーションもできるものすごい高価なアレ。あれの要領で惑星開発シミュレータも作れるぞって形で売り込みたいようでして…)
(うちに専門家とスパコンレベルの演算が出来るの、既にいるんだけどな…逆に連邦世界での惑星開発事業の一環として力を貸す用意はあるから、合弁会社を立ち上げる話になら乗るぜって言おう)
「わたくしもスペインに嫁いだとは申せ、元はそちらの出。祖国のお慈悲で富国の助けを得られるとあらば、貴国のお話を前向きに検討させて頂くにやぶさかではございません。聖母様もなにとぞ資金面でのご配慮を賜りたく」
まぁつまり、連邦世界でのスペインの資金源だった莫大な銀をうちに握られている痴女皇国側でのスペイン、早い話が痴女皇国の承認抜きに資金投資ができません。
ですからイザベルさんとしては話に乗りたいからお財布の紐を緩めて欲しいのです、痴女皇国に。
もしくはフランス共和国から資金を得られるならば…とも考えていますね。
そしてここでも出てくる金銀本位制経済と信用経済の体制の違い。
銀で払われてもフランス共和国、正直困ると思うのですがその辺はどうでしょう。
フランス側の意見を。
「何かこう、昔の植民地経営時代に逆戻りしたような気分になりますな…」
「当時の銀の価値と今の相場を比較しますと正直、莫大な量の銀支出を痴女皇国側に強いかねませんね」
「確かにジーナ閣下が申されます通り、単純な営利を得るだけの視点では失敗する。得失で言えば失うだけと言われますのも無理からぬ話ではありますわね」
「しかしながら王家の方の嫁ぎ先であり、我々連邦世界の側でも満更お付き合いがないわけではない国だ。セットで開発となればそれだけ商圏も広まるし、我が国の流儀や規格の利点もアピールしやすくなる」
「更に当時のブルボン王家が素直に我が共和国の話を聞いて開発に合意するかは疑問でしょう。ここは提案の通り、まずはスペインの近代化を以て事例とし、祖国への売り込みを為す方向が正しく思えるが、諸君、いかがか」
「大統領閣下の申されます通りです」
「異存なし」
「航空機についての需要はあると見ましたが、肝心の石油資源埋蔵量がこちらほどには期待できないとあればやむを得ませんな、陸上交通機関を中心に提携を考えて行くしかありませんでしょう」
「我々としても石炭埋蔵量の少なさゆえに蒸気機関の普及が難しいとは聞いておりましたから、動力源に電力を選択せざるを得ません。電化も含めて考えますと、痴女皇国が提案する半生体蓄電池機関車の採用止むを得ずかと」
はい、うちらが悩みに悩んだ問題や、植林造林緑化に邁進している理由にフランスさんも突き当たって頂きました。
更には活火山を減らしていますので硫黄産出量も少ないわ、リン鉱石も片端から押さえて主に肥料に回しているわと聞かされては渋い顔。
「火薬を輸出すると喜ばれるとは思いますが、兵器用途に転用されると困りますから、一定量に絞らせて頂きます。建設用ダイナマイトはともかく、こちらのフランス王国が無煙火薬を発明するまでちょっと待ちましょう」
さて、そんなこんなでレセプションを終えた後で、我々は別の部屋に招かれます。
出席者は大統領閣下とジョスリーヌさん。そして別室待機していたロベスピエールさんとドミニクさん。
「ヴィゼアムスキ特命担当調査官を呼んでくれ」ジョスリーヌさんに命じる大統領閣下。
皆に食後酒を配膳させると、給仕役の制服職員を下がらせます。
うむ…カミュのエクリプス辺りと見た。…あたしの部屋にですね、あの変態的形状のボトルだけでウン万円するというバカラ特製のコニャック瓶、残量2/3くらいですがあるにはあるんですよ。つまり口にしたことはあります。
「しかしジーナ閣下…あの席上の何人が気付いていたか、お調べ頂けましたでしょうか」
「ええもちろん。財界出身者は勘付いていましたけど、官僚出身の閣僚の方はイマイチか、さもなくば気付いてもあまり手を出したくないという印象ですわね。閣下にもマリアから流させて頂きましたが…」
「この商談の真の目標はNB。痴女皇国世界に流す製品であれど、差し当たって対NB輸出であればイギリス経由で信用経済下の取引が、まがりなりにも円滑に行える。そして共和国がNBそのものに対して輸出販売を企図する民需製品市場の道も拓ける。それ故に複合多国籍企業への参加をお願いさせて頂きました。貴国への利益供与はそちらで行わせて頂きたく存じます」で、あたしの発言を理恵ちゃんがサポート。
「そして英国やイタリアが絡むという事は連邦政府監督下で輸出活動を行うという事になりますか。全くうまく考えられたものだ」
「ロシアや中国も聖院世界には手を出したがっておりますのは承知しています。ですが、先程の席上で説明しました通り、向こうの世界から得られるものを得るだけの初期投資が必ず必要となりますし、現地在住者の教育は必須。単独国家利益のみ考えたがる方々にはなるべく参入して頂きたくないというのが本音ですわね」
「ワーズワース閣下には重ねてお礼をお伝えください。貴国はドーバーの向こうより遥かに話が分かると」そう言ってお笑いになります。
ええ…理恵ちゃんが渋い顔してましたけど、実はエゲレスさん、連邦世界では微妙に鉄道の規格が大陸とは違います。
「ユーロスターなんて高速新線が全通するまで在来線通してましたからね、イギリス国内…だからあれの初期車両、TGVベースなのにイギリスの車両限界に合わせて幅が普通のTGVより更に狭かったんですよ。あの幅はありえんマジありえん」
「1,435mmのレール幅でシンカンセンまたはジャポン在来線規格、TGVならば両方に合致するし、我が方も客車であれば少々の設計変更で適合可能。可変ステップのノウハウはそちらと共同開発で対応、ですか。我が国の高速車両をなるべく手直しすることなく導入可能として頂いた件は感謝に耐えませんな、マダム室見」
「長さ25m未満にしておきませんと、貴国はまだしもスペインの地形がねぇ…できる限り線路は真っ直ぐに、グニャグニャさせない方向で行きたいのですが」
「あの国由来のタルゴ車両とやらの製造も今やアルストムが持っております。スペイン並びに現ポルトガルの国情に合わせた提案、彼らには余裕でしょう」ああ、あのインドでも走ってた芋虫みたいな短い客車を延々と連ねた変な列車か…理恵ちゃん曰く、あれはカーブに強いのでスペイン独自開発技術という事もあり、彼の地に導入してあげたくはある模様。
「あとは車両組み立てやら何やらを、現在のスペイン王国に現地法人を設立して雇用需要を満たして差し上げると。求人難に悩む彼の国にはありがたい話になると思うのですけどねぇ」
「ま、我が共和国の工業技術の発露の場です。有効に活用させて頂きましょう。しかしマダム室見…日本は本当にそれでよろしいので? 向こうと言えど欧州市場を手に出来る好機ですよ」
「あー、大丈夫ですよ閣下。こちらはこちらで比丘尼国を開発するだけで手一杯なんです。むしろ欧州大陸を担当頂けますと痴女皇国他、ありがたがる方が遥かに多いのです」と、最近は痴女皇国幹部としての貫禄も出てきた理恵ちゃん。たのきちに追いつけと言わんばかりに臆する事なく受け答え。このお礼はちんぽで。
(いりませんと言いたいところですが、マリーやダリアが多忙な際の裏女官長業務がありますから、ジーナさんに慣れておく必要があるのが悲しいです。まりり、あんたも精気授受真面目にやれよっていうのはともかく、変態行為やSMに走らないのであれば仕方ありません。嫌ですし恨んでますけどねっ!)
(いや…りええ、その割にうちのエロババア相手に激しいじゃねぇか…)
(ばっきゃろーまりりバラすなっ。確かにクリスさんがハマるのはわかる。突っ込む側に回るとよくわかるんだよねぇ、ジーナさんが何だかんだ言ってお相手指名される理由)
(非常に複雑な気分ではあるが、拒絶されるよりマシとしておこう。そして我々が大統領閣下に呼ばれた理由であるが…痴女としての能力を借りたい。これやね)
「では皆様に紹介させて頂きたい。司法省青少年保護局職員のアンヌ=マリー・ヴィゼアムスキ君だ。そして今から申し上げる事は…半ば私の私的な依頼とさせて頂けるとありがたいのですが」
(何か、助平な依頼に思えるのですけど…)
(いや、大統領閣下にはちゃんと愛人も奥さんもいるじゃんか。我々に興味はあれど間に合っている様子だぜ。にやにや)
(そうね。このヴィゼアムスキさんも単なる志願者だしねっ)
(つまり、あまり公務として処理したくない類の依頼と見ましたわね)
(確かに今のパリ、治安問題やら何やらで外国人観光客には必ずしも魅力的とは言い難い状態…)
「紹介にあがりましたヴィゼアムスキでございます。ジーナ閣下同様、半分はあの北の国の血を引いております」と、ややキツ目で黒髪の女性がそこに。
大統領閣下に促され、端末を操作して画面を浮かび上がらせます。
その表示とは。
「ジョスリーヌ君。君は既に承知の上だろうが、他国の男性が、その欲望や好奇心を満たすだけの価値はあるとみなして我が国を訪問する動機としてすら考える我が国の風俗文化の存在、これは必要悪だと私は考えている。しかるに昨今は難民や非正規居住者が我が共和国の豊かさを誤解して要らぬビジネスを考え、更には居座るばかりか権利のみ主張する有様だ」
「極めて由々しき事態であると考えます、閣下」
「権利には義務が伴う。同じ売春でも共和国民や訪問外国人に対して、またパリに来たいと思わせる内容であれば結果的に我が共和国に対して利益をもたらす話だ。しかるに現状ではその真逆。…ジーナ閣下を始めとする皆様にお伺いしたいが、いかに我が国の国是が自由平等博愛と言っても、これはあんまりではないだろうか…美術分野での我が共和国の地位からしても、かような光景は甚だしく許しがたい。マリアヴェッラ陛下。特に貴女なら私の憤慨をご理解頂けるはすでしょう」
…そうです。やはり、例のヲカマ対策です。
「全員モロッコ送りにして改造したくなりますわね…」
「いえ。共和国の恥です。全員射殺の方向でっ」女性軍人二人が全力で噴き上がっておりますが、まぁ確かにいろいろな意味でこれがフランス、これがブローニュの森と言われて世界に宣伝されるのは国の恥と言えば恥でしょう。あたしだって週末夜の久宝寺緑地とか撮影されて撒かれたらちょっと考えますよ、色々と。
そうそう。大統領閣下はじめ、フランス共和国の方々がやたらめったら自国の事を特徴的に言うのにお気づきでしょうか。
実はこの国、愛国教育にことのほか熱心な部類でして、日本でいうアカやら左やらの立場でもラ・マルセイエーズを普通に歌うわ自国を貶す外国人がいれば本気で怒る人ばかり、少なくとも売国奴が大手を振って歩けないのは、第二世界大戦の際に連合国に解放されてからのパリを調べたらよくわかると思いますよ。
それとカトリックとプロテスタントで宗教戦争やった事もあり、言論の自由…わけても宗教を揶揄する権利が認められています。
シャルリ・エブドという日本で言えばヒュンダイな夕刊紙に近い紙風論調の新聞系メディアがイスラム教を風刺した風刺漫画を載せてイスラム過激派に襲われていましたが、官憲による弾圧は大好きですけど政府や宗教を批判するのも大好き、しかし自国をけなされたら怒る、英国本国に近い気風がありまして。
(言論の自由を尊重する理由、だいたいわかります。どうせ教会やら王家や貴族が思想弾圧や異端派弾圧したのでしょう)
(魔女狩りとかありましたのは聞いております。痴女皇国世界ではそもそもいえめん宗教はメジャーではありませんでしたけど、こちらで無用な魔女狩りをしていたのは存じております)
とまぁ、痴女皇国側のフランス関係者が感想を述べているような、そんな気風の方々なので元来は売春やら同性愛、果てはスキャンダルめいた男女関係にもある意味では寛容です。
なにせ梅毒の事をフランス病とか揶揄されたほど、特定世界最古の職業が盛んな地という認識が古くからされていたところですからねぇ。
ただ…国の恥になるとか売国行為とみなされるとこれが一転して槍玉に上がるの上がらないのなんの。
(まぁ言ってみればどっかの国の類似品なんだよな。ただ、どこぞと違い得意分野ではそれなりに世界の文明文化に影響絶大な実績を残してるから、決して無視はできないのがアタマ痛い話だってとこだろ)
(しかし大統領閣下が怒るのも分かりますね。あたしたちで言うと淋の森でヲカマな方が無許可営業した上に、売春婦を迫害しはじめているような話じゃないですか)
(でも、一網打尽は危険よ…ヲカマさんはまだしも、単なるホモさんもいるって話じゃない…お忍びの高級官僚でホモってる人まで捕らえて罪人化したら大問題よっ)
(となると全員ドレインは厳しいわねっ)
(あら簡単よマリアンヌ。見目麗しい男性の軍人さんか憲兵さんを何人か用意して交渉させればいいのよ)
(ままままままさか大統領閣下を囮捜査のエサにっ)
「いや、私の耳にも…あそこで春を売る少年すらいるという信じがたい話が入っておりましてね…しかも官僚の家族が家にいるべきはずの息子をあの森の道路で発見したとか、更には高級官僚で同性愛趣味者が少年を探して夜毎車を出している話さえ…」そんな我々の内輪話を知らぬ大統領閣下、驚くべき話を口にされまして。
「そりゃ大統領閣下以外人払いするよな…って、閣下自らが話をしなくとも良いのでは?」
「ええ、マリアリーゼ陛下…まぁ、実はこのヴィゼアムスキ君…いや、アンヌマリー君は志願者で、今回のブローニュ問題を契機に文官側の派遣員として痴女皇国または聖院への派遣を合意してくれた貴重な人員なのですよ。そして…」ここからは小声でマリ公に頼んだ内容がですねぇ。
(それはそれとしてうちの妻と愛人、若返られる話を聞きつけておりましてね…今回の作戦で私の監視役を兼ねた囮に使わせるから、一つ何とかお願いできないものだろうか…)
(閣下、口に出さずにお答え下さい。うちらに隠し事は不可能って連邦宙兵隊のレポートにも掲載させていましたでしょう…このアンヌマリーさん、元々の職場ではかなりの理想主義者で通ってて、同僚上司に煙たがられていた部類じゃありませんか? そして…内心では我々の存在に懐疑的、ともすれば反対派に回りかねないと)
(どうも修学寮で今やってる事に一言申したいという理由で志願したっぽいですね)
(そもそもあの計画を知ってる時点で、かなり上の方の立場の人間みたいだけど…実年齢40前半、離婚歴あり、子供は父親側か…連帯保健省の社会問題担当事務総局で少年担当者、司法省には出向中…ふむふむ、少年問題を中心に実務をしてきた部類か。んで離婚理由は子供の養育を巡り父親と対立…むーん)
(かなりうるさがたの人ですわね)
(更にはジーナ様とクリスさんの結婚にすら異議あり、未成年者に対する性犯罪ではないかと思ってますよ…)
(えええええ? ほんまや…ガッチガチの意識が高い人やないの…)
(大統領閣下、マリアヴェッラです。これ…ヴィゼアムスキさん、どうさせて頂けば良いでしょう。正直わたくしどもが現在手がけている孤児養育施設とは真向対立する考えの方ですよね…。確かに児童の絡む性犯罪は不幸な話であり、改善すべき項目ですけど、我々は痴女皇国世界の福祉政策として修学寮を運用しております。更には今現在貴国とわたくしどもで推し進めております事業提携とは全く無縁、むしろ今の時期にこのような話をされる方を志願者になさいますと…)
(いや、そこなのですよ陛下。…これでよろしいですかな、心話とやら)
(ベラ子ベラ子。閣下はこの人を厄介払いしたいんだよ…どうも民間の非営利団体…日本でいうNPOに該当するアソシアシオンってのがいくつもあってさ、そのうち青少年保護に関わる専門団体だの、これまた日本で言う児童相談所に該当する国立危険児童観察所ってのがあるんだけど、そこを所轄する団体の人でな…修学寮の制度を危険視する連中と繋がりがあるみたいなんだわ。で、官僚側のシンパみたいなこの人に、なら運営者が来るから痴女皇国派遣者として志願すれば物申せるぞって吹き込んだと)
(あーなるほど、うちらに来たら煮ようが焼こうが以下略。で、経済振興策を推進するにはちょっとお邪魔なこのお方を以下略って筋書きなわけやな…閣下。うちらに任せて頂ければ確かに適切な処理はさせて頂きますけど、本当によろしいので?)
(ああ、ジーナ閣下。この時期に当該計画に異論を差し挟む勢力への牽制なのですよ。正直私や妻、更には恋人すら協力しているのに何をしておるのかと…)
(まぁ、我々に預けて頂くのは良いのですが、後々拉致犯罪などと騒がれると困りますのでね。で)
「ふむ。これは素晴らしい内装だ。…初めまして、ミシェル・ポワカール大統領閣下。私がネオブリティッシュ円卓騎士団長兼国家首相のヘンリー・ワーズワースだ。よろしく」
突然の出現に皆が驚きます。ええ、ヴィゼアムスキさんですら何でと驚いています。
「ふははははは。この作戦には絶対に男性の囮も必要でしょう。でぇ、うちの祖父にはちょっくら若返ってもらいましてぇ」とマリ公がニヤニヤとしております。
「そしてですね、少年の囮も2名用意いたしましたっ」と聖院のマリ公も…。
「ねぇ、マリア」
「父はまだしも僕達までなんで」
「クリス。この計画はNBに対する公共交通機関整備を含めた長期かつ大規模計画だ。その支障となるものはことごとく排除したいのだよ。そして、フランス共和国のお困りである件を容易に解決する手段を持つ孫娘たちや君の奥さんに協力してもらって迅速に解決可能なら、手助けをして差し上げるのが筋ではないかね」と、大学生当時…例の日本式家屋の離れを建築していた当時の姿でワーズワース卿はおごそかに述べられます。
「そうですよクリスさん。それに…お父様も北欧作戦の映像を見て血が騒がれまして…」
え。
アグネスさん。
あなたが来てるのはいいでしょう。
今やワーズワース大公の再婚相手で正式な夫人です。
声が若返ってるのもいいとしましょう。
ですが…その格好は何ですか!
「ジーナさん。あなたに対抗して…ではなくて、夫に隠していた趣味でして。ええ、ハイスクール時代、密かにロックを嗜んでおりまして。カレッジ時代も密かにメタルバンドのライブにも」
そうです、いかにもティーンズ後半な姿に戻ったアグネスさん、どこのフーリガン…いや、メタル系の衣装とメイクをしてらっしゃいます。
「日本のベビーメタルの要素を取り入れてみました。いえ…この手の衣装を着るのは何十年ぶりかになりますので、現代の流行も取り入れてマリアさんに格好を見繕って頂きまして。ほほほっ」エナメルビスチェとレースフリル縁のタイトミニスカート、ニーハイストッキングにショートブーツとかですねえ、しかもポニテにして顔ペイントもちょこっと入れてゴスりまくっておられますが…。
「実は後年に私もアグネスの隠れ趣味を知ってね、時期が六月ならグラストンベリー・フェスティバルに二人して参加していたところだよ」なおワーズワース卿、クイーンのゴッド・セイヴ・ザ・クイーンとピストルズの同名曲を弾き分けられるのが密かな自慢です。
そしてピストルズバージョンは危険すぎるので身内にしか聴かせないそうです。…あたしは聞かされました。
で、ワーズワース卿からのメディアウォッチ着メロ、ピストルズバージョンにしましたよ。
なお、あまりかかって来ませんが、アグネスさんからのはクイーンのサムバディ・トゥ・ラブで。
「うーん、売春婦に見えるような見えないようなっ」
「ワーズワース卿が農夫というか作業員スタイルなのは…」
「うちとクリスはNB行けば割とこの姿をよく拝見してる。敷地内で農作業とか大抵この姿やぞ」
「おじーさま…しかし何でまたそんな、やらないかな青いつなぎ姿で…大統領閣下、固まってますよっ」
「いやいやマリアンヌ、たまには私もちょっと遊ばせて欲しいのだよ。ま、クリスを付き合わせたのは正直悪いとは思っているがね」全然悪そうに思ってませんがっ。
そしてうちの旦那と、聖院側のクリスですけどねぇ。
まずうちのクリス、レギパンです。
それもぴっちぴちの下半身密着タイプ。
そしてチビTにジャケット。
もう女装してないだけで、ちょっと歩けば確実にその手の趣味者と判断されかねません。
まだ半ズボンでないだけマシか…。
「マリア。なんで聖院の僕がサイクルレーサーの姿なのに僕はこうなのかな」
「父様。二人とも自転車乗ってたら声かけられづらいじゃん。いかにもって感じの役柄を振っただけだから我慢してよっ」と、うちのマリ公がなだめます。
「それに痴女皇国の父様。うちの父の格好も大概よ。この手のロードレーサー用のパンツって元来は下着つけずに履くものなのよっ」そうなのです。公式のお作法がそれ。つまり…前から見ると、男性バレエダンサー並にひっじょーにまずい状況になるわけです、時と場合によっては。
「という訳で大統領閣下。せっかくなので我々も売春夫摘発に是非是非ぜひ協力させて頂きたいのだが」
(ふははははは。我が痴女皇国の掟「なんかおねだりしたらその分なんかしてもらう」を完遂不可能な場合、こういう事になるのだっ。大統領閣下には我が国の恐ろしさを実体験して頂こうではないかっ)
(あほかぁああああ!そんな理由でアグネスさんはまだしも爺さん若返らせてまで呼ぶ必要あるんか!)
(はっはっはっ、おばはんはわかってないな。ここでNBが関与すればもし万が一、フランスが裏切って痴女皇国の独断でヲカマ狩りをやりました私ら知りませんでしたとシラを切って逃げられなくなるではないか!かーさん、これはフランス共和国主導ではないことを彼の国の皆様にわからせるための必要措置だよっ)
(そうよかーさん。更にNBトップが非公式にあたしたちのチームに加わったことで、フランス側は何が何でも万全の体制でヲカマさん狩りを支援成功させないとならなくなったのよっ!)
(更に父様を見てみろ。人型決戦兵器に乗れそうな年齢外観になってるだろ…ヴィゼアムスキさんが発狂しそうな年齢で来てもらっている訳だし、かーさん…あんたと父様の結婚にケチつけようってんなら本人に直接尋ねられるようにして差し上げた訳だよっはっはっはっ)
(ねーさんたち本当に無茶しますよね…あたしも叔父呼んでいいですか? あれ、この手の話には喜んで乗って来ますよ?)
(やめろベラ子!流石に毒盛りまではいい!)
(いえ黒マリ…あの毒盛りお兄さんならヲカマ受けホモ受けする美形よ?エサにはうってつけよ?)
(ダメだダメだ…あいつカトリック思想に毒されてなくてもホモの真逆だぞ…ホモやヲカマの皆様の生命や身体の安全が保障できねぇだろ!)
(だから呼ぶんです!あんな美への冒涜は天に召される方が世のため人のためです!)
「…ジーナ閣下。痴女皇国や聖院との提携話、今更なかった事には出来ないと思います」大統領閣下がため息をつかれながらも気丈に申されます。
「でしょうね。あたしも正直、こういう事があろうとなかろうと推進せざるを得ないと思いますわ」で、あたしも毅然と大統領閣下を見据えて宣言申し上げます。
「ですので閣下、何卒平穏に穏便に終わらせて頂きたいのですが…」
「ええ、あたしも正直、パリでやらかすと流石に上司の一人のアルザス禿に嘉手納へ呼びつけられて反省房送りとか、嘉手納町への地域貢献奉仕業務一週間とか懲罰ぶっくらいますのは確実です。更に絶対にニューヨークに呼ばれてラッツィオーニ閣下に泣かれるのは絶対確実ですので、何としても穏便に静かに済ませたい気持ちに満ち満ちております」
「お互いのために協力する事はさせて頂きます。何卒お取り計らいを。沖縄のアレのような醜聞は私も絶対に回避したいのです!」あー、あれ知ってんのか…。
とりあえず大統領閣下の気持ちはわかりました。
ですので何としても穏便に済ませようと思います。
…ええ、最悪、マイレーネさんを呼んででも!
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黒マリ「おい、おばはん」
ジーナ「なんやマリ公」
白マリ「あのさぁかーさん…マイレーネさんを呼んだら、更に話がこじれない?パリが焦土になっても知らないわよ…」
ジーナ「うちが懸念しとるのは逆や逆。お前らが下手に暴れたらパリは燃えへんやろけど大騒ぎになるやろが…ブローニュの森に立つ売春婦が安心して営業できるどころか恐れを為して女の子も客も来なくなったらどないすんねん…」
黒マリ「確かにな…ベラ子辺りは噴き上がる気がするんだが」
白マリ「あとマリアンヌとスザンヌ。あんたら絶対、ヲカマさん見たら殴るつもりでしょ」
あんぬ「ぐ」
ざんぬ「ぐ」
黒マリ「更には父様二人だ。ちなみに聖院の父様も痴女宮の父様も人間に限りなく近い体力設定なんだよなぁ…強化しても、そもそも学究の徒なんでなぁ…」
白マリ「護衛役を呼ぶしかないわよね」
りええ「それについちゃ提案があるわよ」
マリー「あたくしにも心当たりが」
ジーナ「あたし以外でクリスと親しくて」
黒マリ「しかもお互いをよく知ってて」
白マリ「とどめに聖院でも痴女皇国でも警務経験者、更にはこういう秘密活動のプロ」
まさみ「あの子フランス出身だし、ネイティブスピーカーでもあったわよね」
ジーナ「まぁ、あれ呼ぶ方がまだ収拾つけてくれそうではあるわな…」
黒マリ「この手の荒場には定評と実績がある。あたしも信頼するあの子を呼ぶしかねぇ」
白マリ「もう誰が来るかわかるわよね?」
アルト(間違ってもあたくしじゃありませんよね…)
黒マリ「おめーは逆にブローニュを戦場にするから絶対ダメだ!」
アルト「そんなぁああああああ(泣)」
白マリ「アルトにはかわいそうだけど、聖院アルトも痴女宮アルトも今回の話で呼ぶと絶対暴れると思うの…」
ジーナ「では次回・鬱蒼なジャングルが性欲をはらむ【ブローニュ】夜の闇が、変態を隠す」
クリス「ジーナさん、それブローニュの森をク○ン王国にするフラグです…」
エリゼー宮西側の門からマリニー通りを挟んだ比較的こじんまりした二階建ての洋館…これがフランス共和国の迎賓館たるオテル・ド・マリニーです。
と言っても周囲をもう少し高いアパルトマンやら何やらで囲まれている上に、お隣のエリゼー宮と並んで機密施設扱いされていますから、大抵の民間用地図ではモザイクなりぼかしなりが入れられているはずです。皆様の立場では詳細な建物外観、フランス政府公式Webサイトの紹介写真を見て頂くしかないかと存じます。
で、今いる中庭とは建物を挟んで反対側に、噴水のある立派な庭園が存在しますが、外からはマリニー通りに面したそのお庭や洋館がチラッと見える程度だそうです。
「一応は貴賓客用宿泊施設でもありますので。あと、内部に我が国の工芸品や絵画彫刻類をそれなりに飾らせて頂いております」
ジョスリーヌさんの案内でそれらを拝見させて頂きます。
ガラスケースに入ったグラス類ですとか、宝飾品工芸品、更にはあちこちの壁にかけられた絵画類。
およそ窓枠といわず壁と言わず柱と言わず、あちこちに入れられた彫刻や金銀の装飾類。
で、あたしの印象。
…何かこう、昔の少女漫画なお姫様世界の本物とはこうなのねという感慨しか湧きません。
ですので、痴女皇国でこの類の施設に生まれ育ち起居した人物は何人もおりますし、今いる面子でこの手の建築物に慣れている筆頭格たるマリーとイザベルさんに感想を頂いてみましょう。
(なかなかに華美で新築当初の往時が偲ばれますわね)
(確か、こちらの世界ではユダヤ系の富豪で男爵位の方のお屋敷だったとか。少々豪華に過ぎる印象なのはその辺りの趣味が入っているのでしょうか)
(ギュスターブ・ロスチャイルドだったかな。パリのロスチャイルド家系の)
(ああ、ロスチャイルド家か…)
「本当はエリゼー宮内のサロンにお招きして会談とさせて頂きたかったのですが…」と、ウェイティングルームを経由して食堂に案内を頂き、大統領閣下以下、閣僚の皆様やアルストムにダッソーにルノーにPSAのトップ…おい待てやこら。
「いやはや、大袈裟な陣容で申し訳ございません」
でぇ、ウチの国は誰が代表かという事で先方も悩まれたようですので、ルルドへの私的旅行団の保護者…直接の娘が三人、白マリ入れたら4名になりますので…のわたくしジーナおばはんが大統領閣下とまずはご挨拶。
そして痴女皇国マリアとベラ子、聖院マリアの順で握手と挨拶を交わさせます。
イザベルさんの時は特に皆様に、ヴァロワ朝フランス王家出身者でスペイン女王の立場を強くアピールしてもらえました。
食事の内容は歓談と言う名の商談を主に理恵ちゃんとフランス勢が丁々発止でやり合ってたのを聞いてたこともあり、可もなく不可もなく普通に上等な癖のないフランス料理という印象ですが、マリ公あたりが鴨鴨鴨と言っていた話が流れたせいか、メインだけは鴨のオレンジソース煮。
(確かにうまいこと脂を抑えとるな。これ皮とかフランベして炙ってるし、オレンジも敢えて甘過ぎへんやつ使ってるな…うむ、赤ワインがはかどるのぅ)
(おばはんパクパク食ってんじゃねぇよ…確かに味はいいよ、いいけど…まさかこのためにトゥール・ダルジャンのシェフ呼んでねぇだろうな…あ、厨房にいるわ。かーさん…この鴨のお代どうするよ…)
(ほんと、タダほど高いものはない。これに尽きるわね…)
(ふっ、鴨ごときであたしが揺らぐとお思いっすか、ねーさん方。あたしはイタリア料理を所望したのですがぁっ)
(まぁまぁ陛下、ここは一つ切り返しをあたくしイザベルが)
「素晴らしい歓待、恐縮に存じます。もしも我が父母…特に父が存命であれば、全くもって祖国の料理文化の発展に歓喜した事でしょう」これだけは譲れぬとばかりに出てきた食後のワインとチーズを頂きながら申されるのはイザベルさん。
「は、イザベル陛下にお褒めを頂き誠に恐縮でございます」
「わたくしとしても晩餐の最中に話が出ました貴国からの技術供与、痴女皇国支部長として南欧の治世を預かる立場としても是非に賛同させて頂きたく存じます。ますが…聖母様。いかがなさいますか」そうです。痴女皇国の序列からすると皇帝のベラ子か上皇のマリ公が本来ならこの話の可決権を持っており、イザベルさんからお願い受けて!とおねだりされる立場なわけですよっ。
しかしながらわたくし、こやつらの母親の立場であり、いわば実質の院政担当者。更には連邦世界の地位から見ると一番えらいさんになります。
ですが、フランス側のなりふり構わぬ接待と外交圧力をブルボン王朝すら子孫となるヴァロワ王朝の由緒正しい血統であるイザベルさんと、ロレーヌ公国系譜のマリー。そして嘉手納やひいては宙兵隊の顔の一つとして各国首脳とやりとりを余儀なくされたあたしの三名でのらくらかわしながらウチらに有利な条件で商談をまとめようというのがこちらの戦略です。
そしてテクニカルな面が絡む話ですので、鉄道技術系の話が出来る理恵ちゃんの出す規格条件を何がなんでも呑んでもらわないと困る。そんな感じで各社とやり取りしております。
で、ここで連邦地球側のスペインと痴女皇国側のスペインの事情が少し変っているお話をば。
フランス以上に地中海性気候なスペイン、国土全体を見れば岩石砂漠地帯も決して少なくありません。
フランスもあまり雨が降らない部類の国ですが、スペインは更に少なく国土年間降水量700mmを割るという事情がありまして…。
これを日本と比較しますと、東京の年間降水量がだいたい1.500mmなので雨の量は半分くらい。
しかもピレネーやアルプス由来の水源があるのがまだ救いのフランスよりも更に水事情が厳しいわけでして、食料自給率はもちろん可住面積にも影響甚大です。ミディ運河を引いて国土中部の水事情を飛躍的に改善できたフランスと違い、運河用の水源にも事欠く状態です。
そして国土面積や人口でいうと、第三次世界大戦後の状況でしたらスペイン50万平方キロに人口4千万人、フランスの60万平方キロに6千3百万人となります。
日本の38万平方キロに一億一千万人は少々異常としても、やはり年間1千ミリ近くの量の降雨量は欲しいところでしょう。
そんな訳でエマ子が過日の北欧いけにえ村作戦の際に来たア・バオ・ア・クゥにおねだりしていたようですが、木星の輪の構成物質のうち水分を純水に転換してでっかい氷塊を何個か作成。
それを地球に持ち込んでとりあえずアリゾナとサハラ砂漠とゴビ砂漠に大きめの貯水目的の湖…サハラのはカスピ海レベルです…を建設して貯水湖周辺に粘菌系微生物や地衣類を撒き散らして、緑化を図っております。
更にこの広大な湖、砂漠地帯に湖底硬化処理を入れた上で建設しましたから、貯水は地層にこそ浸透しないものの、湖面からはそれなりの水量で水が蒸発していきます。
で、この水蒸気…サハラ砂漠周囲のある程度の高さの山に当たれば自然にそこで冷却され雲を発生させて雨を降らせますが、気流の流れによっては大西洋や地中海やアフリカ中南部方向に流れっぱなしになりますよね。
そこで活躍するのが以前の鬼作戦で捕獲した鉄扇公女の気流操作能力。
実は初代様の時分から聖院島近辺にも似た仕掛けをしているそうですが、だいたい夕方になると砂漠地帯に雨が降るように気候操作しているそうです。
これによって、ナイルの恵みが見込めるエジプトはまだしもモロッコやチュニジア、リビアと言ったアフリカ北岸でもせめて麦畑くらいは作れるようにしようと緑化作戦を展開中。
アメリカ合衆国に該当する地域でも大規模農業、特に綿花栽培で地下水を汲み上げ過ぎて問題になっておりますのを痴女皇国世界では予防したいという希望、アレーゼ米大陸地域本部長から話を伺っております。
で、スペインについても超巨大ため池を増やそうぜ計画なる当該計画の対象にしておりまして、エマ子とイザベル陛下の間で土地選定が決まり次第、最低でも琵琶湖レベルの湖をマドリード近辺とバレンシアに作ろうかと場所を選定中です。
で、その場所についてですが、湖をそこに作った場合にどんな感じで雨が降るとか雲が出来るか、エマ子の本当の本体…多重空間にまたがる光電子集積空間回路体…でエミュレーションしてどこがいいあそこにしようと、ざっと決めてから建設にかかっています。
そう、そのスペイン国土農地増加計画が軌道に乗るまでは、スペインへの食料安定供給が問題となるのです。
現在は南北米大陸がその役目を担っておりますが、やはり輸送の楽なフランスから有利な条件で購入させたいのも我々の思惑なのです。鉄道が出来たら船には及ばずとも相当な大量輸送が可能になりますからね。
(これ…その気候シミュレーション、ダッソーの中の人がものすごい勢いで話を聞きたがってますよ。なにせあそこ、航空機や自動車や宇宙船の設計ソフトも作ってるじゃないですか。あの設計品の作動シミュレーションもできるものすごい高価なアレ。あれの要領で惑星開発シミュレータも作れるぞって形で売り込みたいようでして…)
(うちに専門家とスパコンレベルの演算が出来るの、既にいるんだけどな…逆に連邦世界での惑星開発事業の一環として力を貸す用意はあるから、合弁会社を立ち上げる話になら乗るぜって言おう)
「わたくしもスペインに嫁いだとは申せ、元はそちらの出。祖国のお慈悲で富国の助けを得られるとあらば、貴国のお話を前向きに検討させて頂くにやぶさかではございません。聖母様もなにとぞ資金面でのご配慮を賜りたく」
まぁつまり、連邦世界でのスペインの資金源だった莫大な銀をうちに握られている痴女皇国側でのスペイン、早い話が痴女皇国の承認抜きに資金投資ができません。
ですからイザベルさんとしては話に乗りたいからお財布の紐を緩めて欲しいのです、痴女皇国に。
もしくはフランス共和国から資金を得られるならば…とも考えていますね。
そしてここでも出てくる金銀本位制経済と信用経済の体制の違い。
銀で払われてもフランス共和国、正直困ると思うのですがその辺はどうでしょう。
フランス側の意見を。
「何かこう、昔の植民地経営時代に逆戻りしたような気分になりますな…」
「当時の銀の価値と今の相場を比較しますと正直、莫大な量の銀支出を痴女皇国側に強いかねませんね」
「確かにジーナ閣下が申されます通り、単純な営利を得るだけの視点では失敗する。得失で言えば失うだけと言われますのも無理からぬ話ではありますわね」
「しかしながら王家の方の嫁ぎ先であり、我々連邦世界の側でも満更お付き合いがないわけではない国だ。セットで開発となればそれだけ商圏も広まるし、我が国の流儀や規格の利点もアピールしやすくなる」
「更に当時のブルボン王家が素直に我が共和国の話を聞いて開発に合意するかは疑問でしょう。ここは提案の通り、まずはスペインの近代化を以て事例とし、祖国への売り込みを為す方向が正しく思えるが、諸君、いかがか」
「大統領閣下の申されます通りです」
「異存なし」
「航空機についての需要はあると見ましたが、肝心の石油資源埋蔵量がこちらほどには期待できないとあればやむを得ませんな、陸上交通機関を中心に提携を考えて行くしかありませんでしょう」
「我々としても石炭埋蔵量の少なさゆえに蒸気機関の普及が難しいとは聞いておりましたから、動力源に電力を選択せざるを得ません。電化も含めて考えますと、痴女皇国が提案する半生体蓄電池機関車の採用止むを得ずかと」
はい、うちらが悩みに悩んだ問題や、植林造林緑化に邁進している理由にフランスさんも突き当たって頂きました。
更には活火山を減らしていますので硫黄産出量も少ないわ、リン鉱石も片端から押さえて主に肥料に回しているわと聞かされては渋い顔。
「火薬を輸出すると喜ばれるとは思いますが、兵器用途に転用されると困りますから、一定量に絞らせて頂きます。建設用ダイナマイトはともかく、こちらのフランス王国が無煙火薬を発明するまでちょっと待ちましょう」
さて、そんなこんなでレセプションを終えた後で、我々は別の部屋に招かれます。
出席者は大統領閣下とジョスリーヌさん。そして別室待機していたロベスピエールさんとドミニクさん。
「ヴィゼアムスキ特命担当調査官を呼んでくれ」ジョスリーヌさんに命じる大統領閣下。
皆に食後酒を配膳させると、給仕役の制服職員を下がらせます。
うむ…カミュのエクリプス辺りと見た。…あたしの部屋にですね、あの変態的形状のボトルだけでウン万円するというバカラ特製のコニャック瓶、残量2/3くらいですがあるにはあるんですよ。つまり口にしたことはあります。
「しかしジーナ閣下…あの席上の何人が気付いていたか、お調べ頂けましたでしょうか」
「ええもちろん。財界出身者は勘付いていましたけど、官僚出身の閣僚の方はイマイチか、さもなくば気付いてもあまり手を出したくないという印象ですわね。閣下にもマリアから流させて頂きましたが…」
「この商談の真の目標はNB。痴女皇国世界に流す製品であれど、差し当たって対NB輸出であればイギリス経由で信用経済下の取引が、まがりなりにも円滑に行える。そして共和国がNBそのものに対して輸出販売を企図する民需製品市場の道も拓ける。それ故に複合多国籍企業への参加をお願いさせて頂きました。貴国への利益供与はそちらで行わせて頂きたく存じます」で、あたしの発言を理恵ちゃんがサポート。
「そして英国やイタリアが絡むという事は連邦政府監督下で輸出活動を行うという事になりますか。全くうまく考えられたものだ」
「ロシアや中国も聖院世界には手を出したがっておりますのは承知しています。ですが、先程の席上で説明しました通り、向こうの世界から得られるものを得るだけの初期投資が必ず必要となりますし、現地在住者の教育は必須。単独国家利益のみ考えたがる方々にはなるべく参入して頂きたくないというのが本音ですわね」
「ワーズワース閣下には重ねてお礼をお伝えください。貴国はドーバーの向こうより遥かに話が分かると」そう言ってお笑いになります。
ええ…理恵ちゃんが渋い顔してましたけど、実はエゲレスさん、連邦世界では微妙に鉄道の規格が大陸とは違います。
「ユーロスターなんて高速新線が全通するまで在来線通してましたからね、イギリス国内…だからあれの初期車両、TGVベースなのにイギリスの車両限界に合わせて幅が普通のTGVより更に狭かったんですよ。あの幅はありえんマジありえん」
「1,435mmのレール幅でシンカンセンまたはジャポン在来線規格、TGVならば両方に合致するし、我が方も客車であれば少々の設計変更で適合可能。可変ステップのノウハウはそちらと共同開発で対応、ですか。我が国の高速車両をなるべく手直しすることなく導入可能として頂いた件は感謝に耐えませんな、マダム室見」
「長さ25m未満にしておきませんと、貴国はまだしもスペインの地形がねぇ…できる限り線路は真っ直ぐに、グニャグニャさせない方向で行きたいのですが」
「あの国由来のタルゴ車両とやらの製造も今やアルストムが持っております。スペイン並びに現ポルトガルの国情に合わせた提案、彼らには余裕でしょう」ああ、あのインドでも走ってた芋虫みたいな短い客車を延々と連ねた変な列車か…理恵ちゃん曰く、あれはカーブに強いのでスペイン独自開発技術という事もあり、彼の地に導入してあげたくはある模様。
「あとは車両組み立てやら何やらを、現在のスペイン王国に現地法人を設立して雇用需要を満たして差し上げると。求人難に悩む彼の国にはありがたい話になると思うのですけどねぇ」
「ま、我が共和国の工業技術の発露の場です。有効に活用させて頂きましょう。しかしマダム室見…日本は本当にそれでよろしいので? 向こうと言えど欧州市場を手に出来る好機ですよ」
「あー、大丈夫ですよ閣下。こちらはこちらで比丘尼国を開発するだけで手一杯なんです。むしろ欧州大陸を担当頂けますと痴女皇国他、ありがたがる方が遥かに多いのです」と、最近は痴女皇国幹部としての貫禄も出てきた理恵ちゃん。たのきちに追いつけと言わんばかりに臆する事なく受け答え。このお礼はちんぽで。
(いりませんと言いたいところですが、マリーやダリアが多忙な際の裏女官長業務がありますから、ジーナさんに慣れておく必要があるのが悲しいです。まりり、あんたも精気授受真面目にやれよっていうのはともかく、変態行為やSMに走らないのであれば仕方ありません。嫌ですし恨んでますけどねっ!)
(いや…りええ、その割にうちのエロババア相手に激しいじゃねぇか…)
(ばっきゃろーまりりバラすなっ。確かにクリスさんがハマるのはわかる。突っ込む側に回るとよくわかるんだよねぇ、ジーナさんが何だかんだ言ってお相手指名される理由)
(非常に複雑な気分ではあるが、拒絶されるよりマシとしておこう。そして我々が大統領閣下に呼ばれた理由であるが…痴女としての能力を借りたい。これやね)
「では皆様に紹介させて頂きたい。司法省青少年保護局職員のアンヌ=マリー・ヴィゼアムスキ君だ。そして今から申し上げる事は…半ば私の私的な依頼とさせて頂けるとありがたいのですが」
(何か、助平な依頼に思えるのですけど…)
(いや、大統領閣下にはちゃんと愛人も奥さんもいるじゃんか。我々に興味はあれど間に合っている様子だぜ。にやにや)
(そうね。このヴィゼアムスキさんも単なる志願者だしねっ)
(つまり、あまり公務として処理したくない類の依頼と見ましたわね)
(確かに今のパリ、治安問題やら何やらで外国人観光客には必ずしも魅力的とは言い難い状態…)
「紹介にあがりましたヴィゼアムスキでございます。ジーナ閣下同様、半分はあの北の国の血を引いております」と、ややキツ目で黒髪の女性がそこに。
大統領閣下に促され、端末を操作して画面を浮かび上がらせます。
その表示とは。
「ジョスリーヌ君。君は既に承知の上だろうが、他国の男性が、その欲望や好奇心を満たすだけの価値はあるとみなして我が国を訪問する動機としてすら考える我が国の風俗文化の存在、これは必要悪だと私は考えている。しかるに昨今は難民や非正規居住者が我が共和国の豊かさを誤解して要らぬビジネスを考え、更には居座るばかりか権利のみ主張する有様だ」
「極めて由々しき事態であると考えます、閣下」
「権利には義務が伴う。同じ売春でも共和国民や訪問外国人に対して、またパリに来たいと思わせる内容であれば結果的に我が共和国に対して利益をもたらす話だ。しかるに現状ではその真逆。…ジーナ閣下を始めとする皆様にお伺いしたいが、いかに我が国の国是が自由平等博愛と言っても、これはあんまりではないだろうか…美術分野での我が共和国の地位からしても、かような光景は甚だしく許しがたい。マリアヴェッラ陛下。特に貴女なら私の憤慨をご理解頂けるはすでしょう」
…そうです。やはり、例のヲカマ対策です。
「全員モロッコ送りにして改造したくなりますわね…」
「いえ。共和国の恥です。全員射殺の方向でっ」女性軍人二人が全力で噴き上がっておりますが、まぁ確かにいろいろな意味でこれがフランス、これがブローニュの森と言われて世界に宣伝されるのは国の恥と言えば恥でしょう。あたしだって週末夜の久宝寺緑地とか撮影されて撒かれたらちょっと考えますよ、色々と。
そうそう。大統領閣下はじめ、フランス共和国の方々がやたらめったら自国の事を特徴的に言うのにお気づきでしょうか。
実はこの国、愛国教育にことのほか熱心な部類でして、日本でいうアカやら左やらの立場でもラ・マルセイエーズを普通に歌うわ自国を貶す外国人がいれば本気で怒る人ばかり、少なくとも売国奴が大手を振って歩けないのは、第二世界大戦の際に連合国に解放されてからのパリを調べたらよくわかると思いますよ。
それとカトリックとプロテスタントで宗教戦争やった事もあり、言論の自由…わけても宗教を揶揄する権利が認められています。
シャルリ・エブドという日本で言えばヒュンダイな夕刊紙に近い紙風論調の新聞系メディアがイスラム教を風刺した風刺漫画を載せてイスラム過激派に襲われていましたが、官憲による弾圧は大好きですけど政府や宗教を批判するのも大好き、しかし自国をけなされたら怒る、英国本国に近い気風がありまして。
(言論の自由を尊重する理由、だいたいわかります。どうせ教会やら王家や貴族が思想弾圧や異端派弾圧したのでしょう)
(魔女狩りとかありましたのは聞いております。痴女皇国世界ではそもそもいえめん宗教はメジャーではありませんでしたけど、こちらで無用な魔女狩りをしていたのは存じております)
とまぁ、痴女皇国側のフランス関係者が感想を述べているような、そんな気風の方々なので元来は売春やら同性愛、果てはスキャンダルめいた男女関係にもある意味では寛容です。
なにせ梅毒の事をフランス病とか揶揄されたほど、特定世界最古の職業が盛んな地という認識が古くからされていたところですからねぇ。
ただ…国の恥になるとか売国行為とみなされるとこれが一転して槍玉に上がるの上がらないのなんの。
(まぁ言ってみればどっかの国の類似品なんだよな。ただ、どこぞと違い得意分野ではそれなりに世界の文明文化に影響絶大な実績を残してるから、決して無視はできないのがアタマ痛い話だってとこだろ)
(しかし大統領閣下が怒るのも分かりますね。あたしたちで言うと淋の森でヲカマな方が無許可営業した上に、売春婦を迫害しはじめているような話じゃないですか)
(でも、一網打尽は危険よ…ヲカマさんはまだしも、単なるホモさんもいるって話じゃない…お忍びの高級官僚でホモってる人まで捕らえて罪人化したら大問題よっ)
(となると全員ドレインは厳しいわねっ)
(あら簡単よマリアンヌ。見目麗しい男性の軍人さんか憲兵さんを何人か用意して交渉させればいいのよ)
(ままままままさか大統領閣下を囮捜査のエサにっ)
「いや、私の耳にも…あそこで春を売る少年すらいるという信じがたい話が入っておりましてね…しかも官僚の家族が家にいるべきはずの息子をあの森の道路で発見したとか、更には高級官僚で同性愛趣味者が少年を探して夜毎車を出している話さえ…」そんな我々の内輪話を知らぬ大統領閣下、驚くべき話を口にされまして。
「そりゃ大統領閣下以外人払いするよな…って、閣下自らが話をしなくとも良いのでは?」
「ええ、マリアリーゼ陛下…まぁ、実はこのヴィゼアムスキ君…いや、アンヌマリー君は志願者で、今回のブローニュ問題を契機に文官側の派遣員として痴女皇国または聖院への派遣を合意してくれた貴重な人員なのですよ。そして…」ここからは小声でマリ公に頼んだ内容がですねぇ。
(それはそれとしてうちの妻と愛人、若返られる話を聞きつけておりましてね…今回の作戦で私の監視役を兼ねた囮に使わせるから、一つ何とかお願いできないものだろうか…)
(閣下、口に出さずにお答え下さい。うちらに隠し事は不可能って連邦宙兵隊のレポートにも掲載させていましたでしょう…このアンヌマリーさん、元々の職場ではかなりの理想主義者で通ってて、同僚上司に煙たがられていた部類じゃありませんか? そして…内心では我々の存在に懐疑的、ともすれば反対派に回りかねないと)
(どうも修学寮で今やってる事に一言申したいという理由で志願したっぽいですね)
(そもそもあの計画を知ってる時点で、かなり上の方の立場の人間みたいだけど…実年齢40前半、離婚歴あり、子供は父親側か…連帯保健省の社会問題担当事務総局で少年担当者、司法省には出向中…ふむふむ、少年問題を中心に実務をしてきた部類か。んで離婚理由は子供の養育を巡り父親と対立…むーん)
(かなりうるさがたの人ですわね)
(更にはジーナ様とクリスさんの結婚にすら異議あり、未成年者に対する性犯罪ではないかと思ってますよ…)
(えええええ? ほんまや…ガッチガチの意識が高い人やないの…)
(大統領閣下、マリアヴェッラです。これ…ヴィゼアムスキさん、どうさせて頂けば良いでしょう。正直わたくしどもが現在手がけている孤児養育施設とは真向対立する考えの方ですよね…。確かに児童の絡む性犯罪は不幸な話であり、改善すべき項目ですけど、我々は痴女皇国世界の福祉政策として修学寮を運用しております。更には今現在貴国とわたくしどもで推し進めております事業提携とは全く無縁、むしろ今の時期にこのような話をされる方を志願者になさいますと…)
(いや、そこなのですよ陛下。…これでよろしいですかな、心話とやら)
(ベラ子ベラ子。閣下はこの人を厄介払いしたいんだよ…どうも民間の非営利団体…日本でいうNPOに該当するアソシアシオンってのがいくつもあってさ、そのうち青少年保護に関わる専門団体だの、これまた日本で言う児童相談所に該当する国立危険児童観察所ってのがあるんだけど、そこを所轄する団体の人でな…修学寮の制度を危険視する連中と繋がりがあるみたいなんだわ。で、官僚側のシンパみたいなこの人に、なら運営者が来るから痴女皇国派遣者として志願すれば物申せるぞって吹き込んだと)
(あーなるほど、うちらに来たら煮ようが焼こうが以下略。で、経済振興策を推進するにはちょっとお邪魔なこのお方を以下略って筋書きなわけやな…閣下。うちらに任せて頂ければ確かに適切な処理はさせて頂きますけど、本当によろしいので?)
(ああ、ジーナ閣下。この時期に当該計画に異論を差し挟む勢力への牽制なのですよ。正直私や妻、更には恋人すら協力しているのに何をしておるのかと…)
(まぁ、我々に預けて頂くのは良いのですが、後々拉致犯罪などと騒がれると困りますのでね。で)
「ふむ。これは素晴らしい内装だ。…初めまして、ミシェル・ポワカール大統領閣下。私がネオブリティッシュ円卓騎士団長兼国家首相のヘンリー・ワーズワースだ。よろしく」
突然の出現に皆が驚きます。ええ、ヴィゼアムスキさんですら何でと驚いています。
「ふははははは。この作戦には絶対に男性の囮も必要でしょう。でぇ、うちの祖父にはちょっくら若返ってもらいましてぇ」とマリ公がニヤニヤとしております。
「そしてですね、少年の囮も2名用意いたしましたっ」と聖院のマリ公も…。
「ねぇ、マリア」
「父はまだしも僕達までなんで」
「クリス。この計画はNBに対する公共交通機関整備を含めた長期かつ大規模計画だ。その支障となるものはことごとく排除したいのだよ。そして、フランス共和国のお困りである件を容易に解決する手段を持つ孫娘たちや君の奥さんに協力してもらって迅速に解決可能なら、手助けをして差し上げるのが筋ではないかね」と、大学生当時…例の日本式家屋の離れを建築していた当時の姿でワーズワース卿はおごそかに述べられます。
「そうですよクリスさん。それに…お父様も北欧作戦の映像を見て血が騒がれまして…」
え。
アグネスさん。
あなたが来てるのはいいでしょう。
今やワーズワース大公の再婚相手で正式な夫人です。
声が若返ってるのもいいとしましょう。
ですが…その格好は何ですか!
「ジーナさん。あなたに対抗して…ではなくて、夫に隠していた趣味でして。ええ、ハイスクール時代、密かにロックを嗜んでおりまして。カレッジ時代も密かにメタルバンドのライブにも」
そうです、いかにもティーンズ後半な姿に戻ったアグネスさん、どこのフーリガン…いや、メタル系の衣装とメイクをしてらっしゃいます。
「日本のベビーメタルの要素を取り入れてみました。いえ…この手の衣装を着るのは何十年ぶりかになりますので、現代の流行も取り入れてマリアさんに格好を見繕って頂きまして。ほほほっ」エナメルビスチェとレースフリル縁のタイトミニスカート、ニーハイストッキングにショートブーツとかですねえ、しかもポニテにして顔ペイントもちょこっと入れてゴスりまくっておられますが…。
「実は後年に私もアグネスの隠れ趣味を知ってね、時期が六月ならグラストンベリー・フェスティバルに二人して参加していたところだよ」なおワーズワース卿、クイーンのゴッド・セイヴ・ザ・クイーンとピストルズの同名曲を弾き分けられるのが密かな自慢です。
そしてピストルズバージョンは危険すぎるので身内にしか聴かせないそうです。…あたしは聞かされました。
で、ワーズワース卿からのメディアウォッチ着メロ、ピストルズバージョンにしましたよ。
なお、あまりかかって来ませんが、アグネスさんからのはクイーンのサムバディ・トゥ・ラブで。
「うーん、売春婦に見えるような見えないようなっ」
「ワーズワース卿が農夫というか作業員スタイルなのは…」
「うちとクリスはNB行けば割とこの姿をよく拝見してる。敷地内で農作業とか大抵この姿やぞ」
「おじーさま…しかし何でまたそんな、やらないかな青いつなぎ姿で…大統領閣下、固まってますよっ」
「いやいやマリアンヌ、たまには私もちょっと遊ばせて欲しいのだよ。ま、クリスを付き合わせたのは正直悪いとは思っているがね」全然悪そうに思ってませんがっ。
そしてうちの旦那と、聖院側のクリスですけどねぇ。
まずうちのクリス、レギパンです。
それもぴっちぴちの下半身密着タイプ。
そしてチビTにジャケット。
もう女装してないだけで、ちょっと歩けば確実にその手の趣味者と判断されかねません。
まだ半ズボンでないだけマシか…。
「マリア。なんで聖院の僕がサイクルレーサーの姿なのに僕はこうなのかな」
「父様。二人とも自転車乗ってたら声かけられづらいじゃん。いかにもって感じの役柄を振っただけだから我慢してよっ」と、うちのマリ公がなだめます。
「それに痴女皇国の父様。うちの父の格好も大概よ。この手のロードレーサー用のパンツって元来は下着つけずに履くものなのよっ」そうなのです。公式のお作法がそれ。つまり…前から見ると、男性バレエダンサー並にひっじょーにまずい状況になるわけです、時と場合によっては。
「という訳で大統領閣下。せっかくなので我々も売春夫摘発に是非是非ぜひ協力させて頂きたいのだが」
(ふははははは。我が痴女皇国の掟「なんかおねだりしたらその分なんかしてもらう」を完遂不可能な場合、こういう事になるのだっ。大統領閣下には我が国の恐ろしさを実体験して頂こうではないかっ)
(あほかぁああああ!そんな理由でアグネスさんはまだしも爺さん若返らせてまで呼ぶ必要あるんか!)
(はっはっはっ、おばはんはわかってないな。ここでNBが関与すればもし万が一、フランスが裏切って痴女皇国の独断でヲカマ狩りをやりました私ら知りませんでしたとシラを切って逃げられなくなるではないか!かーさん、これはフランス共和国主導ではないことを彼の国の皆様にわからせるための必要措置だよっ)
(そうよかーさん。更にNBトップが非公式にあたしたちのチームに加わったことで、フランス側は何が何でも万全の体制でヲカマさん狩りを支援成功させないとならなくなったのよっ!)
(更に父様を見てみろ。人型決戦兵器に乗れそうな年齢外観になってるだろ…ヴィゼアムスキさんが発狂しそうな年齢で来てもらっている訳だし、かーさん…あんたと父様の結婚にケチつけようってんなら本人に直接尋ねられるようにして差し上げた訳だよっはっはっはっ)
(ねーさんたち本当に無茶しますよね…あたしも叔父呼んでいいですか? あれ、この手の話には喜んで乗って来ますよ?)
(やめろベラ子!流石に毒盛りまではいい!)
(いえ黒マリ…あの毒盛りお兄さんならヲカマ受けホモ受けする美形よ?エサにはうってつけよ?)
(ダメだダメだ…あいつカトリック思想に毒されてなくてもホモの真逆だぞ…ホモやヲカマの皆様の生命や身体の安全が保障できねぇだろ!)
(だから呼ぶんです!あんな美への冒涜は天に召される方が世のため人のためです!)
「…ジーナ閣下。痴女皇国や聖院との提携話、今更なかった事には出来ないと思います」大統領閣下がため息をつかれながらも気丈に申されます。
「でしょうね。あたしも正直、こういう事があろうとなかろうと推進せざるを得ないと思いますわ」で、あたしも毅然と大統領閣下を見据えて宣言申し上げます。
「ですので閣下、何卒平穏に穏便に終わらせて頂きたいのですが…」
「ええ、あたしも正直、パリでやらかすと流石に上司の一人のアルザス禿に嘉手納へ呼びつけられて反省房送りとか、嘉手納町への地域貢献奉仕業務一週間とか懲罰ぶっくらいますのは確実です。更に絶対にニューヨークに呼ばれてラッツィオーニ閣下に泣かれるのは絶対確実ですので、何としても穏便に静かに済ませたい気持ちに満ち満ちております」
「お互いのために協力する事はさせて頂きます。何卒お取り計らいを。沖縄のアレのような醜聞は私も絶対に回避したいのです!」あー、あれ知ってんのか…。
とりあえず大統領閣下の気持ちはわかりました。
ですので何としても穏便に済ませようと思います。
…ええ、最悪、マイレーネさんを呼んででも!
-------------------------------------------------------------------
黒マリ「おい、おばはん」
ジーナ「なんやマリ公」
白マリ「あのさぁかーさん…マイレーネさんを呼んだら、更に話がこじれない?パリが焦土になっても知らないわよ…」
ジーナ「うちが懸念しとるのは逆や逆。お前らが下手に暴れたらパリは燃えへんやろけど大騒ぎになるやろが…ブローニュの森に立つ売春婦が安心して営業できるどころか恐れを為して女の子も客も来なくなったらどないすんねん…」
黒マリ「確かにな…ベラ子辺りは噴き上がる気がするんだが」
白マリ「あとマリアンヌとスザンヌ。あんたら絶対、ヲカマさん見たら殴るつもりでしょ」
あんぬ「ぐ」
ざんぬ「ぐ」
黒マリ「更には父様二人だ。ちなみに聖院の父様も痴女宮の父様も人間に限りなく近い体力設定なんだよなぁ…強化しても、そもそも学究の徒なんでなぁ…」
白マリ「護衛役を呼ぶしかないわよね」
りええ「それについちゃ提案があるわよ」
マリー「あたくしにも心当たりが」
ジーナ「あたし以外でクリスと親しくて」
黒マリ「しかもお互いをよく知ってて」
白マリ「とどめに聖院でも痴女皇国でも警務経験者、更にはこういう秘密活動のプロ」
まさみ「あの子フランス出身だし、ネイティブスピーカーでもあったわよね」
ジーナ「まぁ、あれ呼ぶ方がまだ収拾つけてくれそうではあるわな…」
黒マリ「この手の荒場には定評と実績がある。あたしも信頼するあの子を呼ぶしかねぇ」
白マリ「もう誰が来るかわかるわよね?」
アルト(間違ってもあたくしじゃありませんよね…)
黒マリ「おめーは逆にブローニュを戦場にするから絶対ダメだ!」
アルト「そんなぁああああああ(泣)」
白マリ「アルトにはかわいそうだけど、聖院アルトも痴女宮アルトも今回の話で呼ぶと絶対暴れると思うの…」
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