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復活!まりあ結婚相談所!・2
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「まー確かに雅美さんの行状言動、目立たないだけで諸々の問題報告受けてますからね」
「いつかは何かしないとほんにんのためになりませんね」
「セクハラやショタはまだいいけど、どれほど少なく見積っても最少売り上げ額年で年商10億以上。同人活動含めたら…大手風俗チェーン並みの収入を記録してる年もあるわね」
「しかも痴女皇国はまだしも聖院側の出演者あり。ちょっとこれ洒落になんないわね…」
「とりあえず日本とNBではよーいドンで規制する。白マリと白エマ子は聖院側の思考や知識共有を規制、初代様に雅美さんや他の関係者向けにはダミーデータ回すようにしてくれ。それと聖院サイドはくれぐれも悟られないように頼む」
「あたしとアンジェリーナはどうしましょう」
「マサミさんに接触しないわけに行きませんからネー」
「ああ、直美さんとアンジェリーナさんね、例の聖院宮工事や色街旅館改装関係で警備が必要って名目で戻すわよ。黒マリ、それでいいかな」
「月々聖院の編集引き継ぎはどうかで話が変わる。あれの編集と発行を聖院女官室広報部で可能ならOKだな」
「大丈夫デース」
「デジタル雑誌編集系の端末はこちらで入れましたし、月間痴女皇国と完全互換とはいかないのを許してもらえるなら。あ、読むにはちゃんと読めるの、テスト出力版をマリーさんに送って確認済みです」
「ふぅ…しかし、雅美さんが悪事とは言わねど強く指摘されたらまずい話をここまで溜めてたとは…聖院側の体制をある程度固めていなかったら更に被害拡大してましたわね…」
「とりあえず例の最悪の事態アプリ、聖院側はあたしと白アルトにエマ子に白ダリアにサリーとしほ子。それからプラウファーネさんとアンジェと直美さんにインストール。白かーさんと父様はホットライン持ちだし入れないでもOKっしょ」
「よしよし。こちらはお祖母様とクレーゼ母様にベラ子、マリーとたのとりええ、玄奘さんと海賊女王に悦吏ちゃん外道ちゃんくらいでいいか。ベラ子、テスト動作結果はどうだった?」
「例の秋の防災訓練に合わせて密かに試験。問題ありませんでしたよ」
そう、例の墓所にマイレーネさんを呼びつける緊急ボタンだ。
あれを聖環アプレット化して関係者にインストール。
そしてマイレーネさんかアレーゼおばさまを緊急召喚できるようにさせて頂いたんだ。
そしてこの話をしているのは聖院側のテンプレスのブリーフィングルーム。
聖院にも会議室があるのにわざわざここにした理由、かかって傍聴阻止。
そして出席者は聖院側が白マリ・かーさん・エマ子・ダリア・アンジェリーナ・直美・サリー・しほ子。で、痴女宮側があたし黒マリ・ベラ子・アルト・ダリア・理恵・たのきち。痴女皇国側には向こうのエマ子がダミー情報を流している。
「今の時点では初代様も雅美さんも気付いてないわね。諸々の措置は妥当なところだし、この会合もいけにえ村めいた事が聖院側で発生した場合の体制検討会議だから、あながち完全な嘘じゃないし…」
「とりあえず聖院側は合意なしの女官出演動画配信に問題があるから自粛要請、これで行くわね。本当は聖院女官に対しても過剰なSM行為…ハラスメント扱いがあるからそっちも取り沙汰したいんだけど、痴女宮の方が被害甚大でしょ」
「んだ。言いたくないけど…ベラ子。現金じゃないけど色々貰ったりしてたろ?」
「あぃ…」
「まぁベラ子の面倒を見てくれはした件もあるから、この件の追求も大幅にカットだ。ベラ子はエスプレッソマシンの管理、今後は自分でやれ。嘉手納の基地内店舗ならあれのカートリッジは買えるからな?」
「あー…ベラちゃんにも賄賂工作を…」
「現金じゃなくて品物だから贈与の範囲で済む。ベラ子には倫理的にきつい目を向けるけどあたしや白マリが裁くまででもなかろ」
「ま、何とか不問の範囲ね。雅美さん、るっきーには何かしてないの?」
「あっちは自分で何とかするタイプだ。るっきーは仕事柄しょっちゅうあちこち出歩くからすれ違いも多いし、まとまった工作時間は取れない筈だしな」
「あとは初代様よねー、あの人何とかするのこそクレーゼ母様の比じゃないわよ…」
「そーなんだよー。雅美さんだけなら話は簡単なんだけどさっ」
「初代様の説得はおかみ様に任せるしかねーか…」
「よねー。難しいとは思うけどさ、初代様は先に押さえておく方がいいとは思うわね」
「痴女宮マリア。そっちのうちがおるやろ」
「あー、なるほど…」
「それとマリ公。お前ら、事を進める前にピレネー県、先行ってこい。その方がハクがつくやろ。うちとしても言いやすなる」
「あー、ルルドな…」
「あそこは神種族にとってあまり行きたくない場所らしいですけど…」
「だけど黒かーさんからも行け行け言われてましたからねぇ、前から」
「えーとな、マリーとベラ子とマリ公二人、それとマリアンヌ。現時点で家族会から訪問を強く推奨されてるのはこの二人やな。あと、この件を後押ししてるのは二代目金衣女聖ベルナルディーゼさん。ガリア人らしい男と初代様の間に生まれた三つ子の一人らしいけどな。んで、残る二人が銀衣騎士と女官長。そのうち一人についてはこの際、は・な・し・を・は・ぶ・く・と・し・てやね」
「かーさんが誰の事を強調したいのかはともかくとして、ですねぇ。人選に疑問が一つ」
「何であたくしが入ってるのでしょう。あたくしそもそもロレーヌ王家の生まれですから。それにナンシーとピレネーとはものすごく離れていますよ…」
「マリー、現代フランスでみんなの道案内いけるか? ルルドの空港は巡礼者のチャーター便のために3,000m級滑走路があるからスケアクロウを降ろせなくもないけど、着陸許可にフランス政府のOK取る必要あるしなー…」
「んなもん簡単だわよまりり。あたし同行でパリ飛ばしてくれたら、オーステルリッツ駅からボルドー経由の直通TGV乗せるよ。5時間くらいかかるけど」
「りええ…あんたがTGV乗りてぇんだろ…せめてマルセイユかボルドーの海岸から上陸してだな…」
「やだ。せめてリヨン・サン=テグジュペリ空港!あそこからならTGVと乗り換えでトゥールーズにもルルドにも行けるから!」
「マリ公。そもそもルルドの街中か、例の洞穴の辺りに転送したら楽やぞ。あと可能なヌヴェールのサンガルド修道院行って来いと」
「あー、聖母の死骸が安置されてるあれか…」
「ヌヴェールってかなり田舎というかTGV南東線から全力で外れてる気が…あーやっぱりインテルシテしかない…しかもベルシー発着じゃん!」
「理恵ちゃん。あたしパリの鉄ヲタ事情わからん。解説して」
「誰がヲタですかジーナさん!んー、今阪急梅田とJR大阪駅を再建工事してるでしょ。あんな感じか、新大阪駅の在来線ホームとリニアや新幹線ホームみたいな感じでローカル線特急ですとか、敦賀行きの新快速が出るようなホームあるでしょ。パリのリヨン駅って言って、TGVがバンバン出てる駅から少し離れた場所にそんな距離感がある隔離ホーム作ってるんです。それがベルシー駅」
「つまりあれか、場末行き電車が出る場末駅」
「いやそこまでひどくないですよ。その聖女遺骸が安置されてるせいでそのベルシーから巡礼者目当ての定期や臨時団体列車のヌヴェール行きが結構出てまして、さながらどちらも天理駅や昔々の富士宮駅状態」
「あー、宗教需要をさばくためか…」
「あとまぁ、あちらさん特有のバカンス習慣で、車持ち込む需要があるんです。んで、寝台車に自動車運搬用の貨車を連結したリゾート地行きはそこでリゾート客と自家用車を積み込んで出発」
「なぜに自家用車を…あー、バスタイプや大型トラックベースのキャンピングカーで、車体にスポーツカーとか小型車積める奴と似た理屈か…」
「あたくし理解できました。多分コートダジュールの別荘やオテルから海岸だの観光地だの買い出しの足にくるまを必要とするのでしょう。たはらの寮みたいに目の前がすぐ海という理想的な立地で全ての別荘やオテルが作れませんし、わざと賑わう場所から離して建てた場合もございますかと」
「あー、モナコなんかもそうだよな、偉い人で山側に屋敷こしらえて住むとか」
「まぁ事情は理解した。それとな…ベラちゃん。あんたとこに宇賀神雪子さんておるやろ。雅美さんのバイトの関係の調査、あの子のお父さんに頼んだらどうや言われたぞ。マリ公、考えてみたらあの人て確か現役時代、まさにそういう表に出せない話を調べて潰し揉み消ししてた人やろ」
「あー…確かに。しかも奥さんのがん治療とかしてるから二つ返事で動くと思うけどなぁ」
「あとなぁ、今正に二代目様から修正案の指導受けたけど、ルルド行きは雅美さん絡みの調査を済ませてネタ上げてからにしろと。で…順番はまず、マテリアルボディ一体用意してヌヴェール来て欲しい。で、痴女皇国世界で宇賀神さんのお父さんに依頼。諸々揃ったら初代様と雅美さん同行でマリアたちはルルド来いとな。マリ公二人にも二代目様から言われたからわかるやろ」
「あい」
「今回の復活は一時的なものにしたいとも言われたけどな」
「とりあえず二代目様の要請に従いましょう」
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さて、そんなこんなでここからはわたくしマリアヴェッラが姉から話を引き継ぎます。
…何ですかこの微妙にせせこましい駅はぁっ。
前に一般電車で帰宅を余儀なくされた際に間違って乗った上に話し込んでて延々気付かなかった事があった時に降りた山◯電車の途中駅なみじゃないですか。あの向こうの広大な線路だけの場所、少しでいいから日本みたいに潰して駅、広げられませんか?
「はいはいそれはイタリアも似たものよ。とりあえず乗って乗って」と、やたら低いホームに停まっている二階建ての電車に押し込まれます。
本日はマテリアルボディ引き渡しのためかあたしと道案内役のマリーに理恵ちゃんの三人で連邦世界のフランスはパリに来ていますよ。
「型落ちTGVの在来線流用か…フランスも大変なのね…」と理恵ちゃんが絶句していますね。
しかも二階建てというのもありますが、一等車という気があまりしません。
あたしの身長だと頭つかえるくらい天井低くて圧迫感すごいし。
「まりりから仮払い許可出てるから必要があればバー車で軽食とコーヒーくらいは買ってきていいわよ」
「えー、シートサービスとか食堂車ないんですか…」
「ベラ子陛下…いえベラちゃん!マリー目の前にして言いたくないけど、客車の洗車の手間省きたいから無塗装銀色のステンレス車体にしたとか、ニース行きなんかの豪華系とローカル特急用客車との落差が酷すぎるとか食堂車あらかた外して売店兼用の立席軽食車に変えたとかね、フランスがドケチとかセコい傾向をよく理解できるのよ列車だと!」
「まぁ…その辺は何となくわかりますわよ。火事になった時に燃えてしまうから木や革をあまり使えないのは分かりますが、何かこう殺風景で華美さに欠けると申しますか…」
「そりゃオリエント急行とかワゴンリの時代じゃないからね…今度乗る瑞◯はもう少しマシよっ」
「中世時代経験者あるあるよね」
「あと一等でこれですか…せまいっ」
「ベラちゃんはあたしくらいの身長にしなさいっ」
とまぁ、やいのやいのしながら2時間…割と飛ばしてはいたようですが、当のヌヴェールという町に到着。
駅から徒歩で行けるらしいのですが、マリーが案内所で聞いて聖環で地図を確認してから案内に立ちます。
そして件の小じんまりした修道院に着き、ガラス張りの棺の中に安置された聖女という方の遺骸にご対面させてもらえます。
蝋のデスマスクを被されていますが、遺骸が腐敗しなかったので当時の人が驚かれまして…カトリック教会の力がまだまだ強い時代に聖女認定を受けた方の聖骸に相応しいと、こうして晒しも…いえ失礼、飾られているそうですね。
(晒し者とは失礼なっ。いえごめんあそばせ。さてマリアヴェッラとは初めてでしたわね…二代目聖院金衣女聖、ベルナルディーゼです。よろしく)
頭の中に声が響きます。
(ここであれを頂きますと他の巡礼者に騒がれますね。何食わぬ顔で修道院から出てください)言われるがままに三人して駅への道を歩けと指示されます。
(ふう。わたくし実は諸事情でここかルルド…出歩いてもフランス国内から出られない立場でしてね。実はわたくし、あの聖院墓所に寝台こそありますが、普段は地下墓所にいないのですよ)
(では、なぜにこのような場所に…)
(実は初代金衣テルナリーゼ…わたくしの母ですが、皆さまが今直面しているような感じで割と色事には目がない部類でした)
(確かに初代様は…)
(まー、かなりの女官となんだかんだで姉妹になられておられますわねー)
(そして、たまたま逝麺がいそうな地域を物色して、皆さまが言われる逆ナンパとかいう行為をした結果、生まれたのが私とあと二人の妹たちです。そして妹の一人が異様な長寿を得ているのは、母の行状を憂えた方々が取った措置の一つなのですよ)
(ふむふむ)
(二代目様に質問がございます。何故にわたくしマリアンヌが、聖女とされる方のゆかりの場所に来るよう申されたのでしょうか)
(簡単です。貴女の祖先に、わたくしの子種を提供した人物がいるからです)
「え?え?」思わず路上でうろたえるマリー。
(だって無関係ならわざわざ呼び立てませんわよ。…つまり、聖院金衣の血統云々という場合…マリアンヌ、貴女も皇族とやら、あながち入らなくはないのですよ?)
(確かに、仰られます通りではございますが…)
(そして出自主義に陥る者が出た場合、わたくしは時代はおろか世界すら違いますが、あのベルナデッタという者を見せようと考えておりました)
(確かあの聖女、貧農の養女でおまけに文盲…)
(そうです。それ故に私の力と名を与えるよう差配しました。ただ、限定的であった為に早逝してしまいましたが…そして私がこの地に封じられた理由たるや、一言で申し上げますと島流しですっ)
(え…つまり、聖院でも勢力争いが…)
(はい。私の娘、すなわち三代目の時に跡目相続騒動が起きまして。それ自体は収拾がついたからこそ聖院史が続きましたが。で、更に困った事に、あるところからケチがつきました。せっかく反省を兼ねてやり直しさせてんのに何してんのと…。そして、先代と私が墓所で喧嘩もとい話し合いの末に、奇跡を顕現させる力を持つ者を探せと言われまして)
(その話をなさった方が、聖院金衣に強い発言力影響力をお持ちとお察ししますが)
(そうです。この方々にはルルドで引き合わせます。それよりヌヴェールは田舎ではありませんが地方都市、食事処にあまり期待できる場所ではありません。皆様、文字通りお食事を餌にこの仕事を引き受けらしたのでしょ?)はい、言われます通りですっ。
(あー、巡礼者向けのはあるけどあまり期待できないとかあったな…)
(ヌヴェールの市街地もここから離れておりますしね)
(じゃ、ちょっと頑張ってみます)と、根性で聖環を操作しようとすると。
「あたくしが聖環操作権限を頂いています。少々お待ちを」
では、ここはマリーに任せましょう。二代目様は…。
(マリアヴェッラ、相乗りさせて下さい。…ってマリアンヌ! ここはパリではないですよ!)
(え…本当だ…)
(マリー…あんたわざとでしょ!ここナンシーじゃない!あんたん家があった場所連れて来て来てどうすんの!)地図を出して現在地を確認した理恵ちゃんがいかっています。
確かにさっきまでいたヌヴェールよりは遥かに都会ですけど、明らかに大都会には思えません。
が、次の瞬間。
(とりあえずナンシーならTGV東線あるから、あのクソたるいインテルシテ乗らなくていいわよ!直近のTGV押さえて帰るわ!…ええいチケット高いわね!皇帝室名目でまりり持ち出し費用預かってるし一等押さえたれ!ほれベラちゃんにマリー、Eチケット来たから回す!立体QR表示したら自動改札にかざして通るのよ?)
で。
白地に赤帯の電車、それも鼻先にDBって書かれたのが来ましたけど。
(理恵さん…あたくしに何か恨みが。これドイツ製じゃないですか!何でパリにドイツの電車来るんですか!)マリーが恨めしげな目で理恵ちゃんを睨んでますね。あたしもこれは出来たら避けたい部類ですよ。
(あー、これケルンかどこかドイツ国内始発だな…っていうかマリー、今はハノーバーとかハンブルクとかケルンからパリはもちろんだけど、ブリュッセルやロンドンにもこれ来てるわよ?)と、マリーの怨念何するものぞ、あっさり答える鉄ヲタ女。
(信じられません!我が国も英国もパリやロンドンを燃やしたいんですか!)
(単にCO2削減で航空便扱いの高速電車が増えただけよ!それにパリからケルン行きのTGVもあるし、パリからロンドン行きはフランスとドイツ製だから釣り合い取れてるわよ?)
(イタリアはどうなんでしょう)
(間にスイスがあるからドイツ製はスイスどまり。ただ、オーストリアからベネチアと、ミラノからパリはある。どっちも相手の電車が主流)
まぁ仕方ありませんね。
そして、割と本格的な食堂車兼簡易食堂があるらしいので行きます。
(やっぱりビールかドイツワインかい…)
(何かはらたつのりですわね…)
(ソーセージとかミートボールとか芋とか、食事がいかにもドイツだ…)
(このシリーズでドイツの扱いは悪いのが通例ですが、何もそこまで嫌わなくとも。まぁ、ワインがドイツなのは寂しいですわね。マリアヴェッラ、ビールおかわり!)なんか二代目様も初代様と似てる気がするんですが。
(言いたくはありませんが、私はあれの実娘ですよ。あんなのが親のせいであたくしは審議員だの監査員だのを押し付けられあげく違う世界に島流し!奇跡起こす女の子作れとか無茶言われましたし!)…溜まっておられるんですね。何となく事情はお察し申し上げます…。
(ムカつくからあたくしもビールもう一杯)
(ドイツから来てるからビールはおいしいのよ、いいんだけど…)
しかも、行きのより座席はゆったりしてますが、配置がゆったりしてるだけで座席サイズあまり大きくありませんね。しかもなまじ革張りで滑るし!
(イタリアのプレミアクラスみたいにバケットシートならいーんだけどね。だいたいドイツの新幹線って何時間も乗らない人が多いのよ。1時間か2時間くらいで降りちゃう。んで、荷物棚に表示器があるでしょ。これドイツ国内だと自由席が基本で赤が予約済みまたは利用中。黄色が間もなく利用者が来る。緑が表示区間は指定券なしでも着席可能って教えてくれるの。今はパリ行きだからたいてい赤または黄色だけどね)
(はーはー、緑に座ってたら指定券なし…確かヨーロッパって無札にすごい罰金取りますよね)
(うん。ただ、TGVは外国人観光客も乗るから事情を話せばその場で指定出してくれるわよ。ただ…あたしがさっきナンシーで発狂してたけど、当日で飛び乗りに近いと最高額に近い料金ぶんどられるのよ。車内で買うと一番高いわね。だいたい一等だと事前購入で1,200円が3,600円くらいになると思って。あと乗車券入れたら6,000円が1万円超え)
(なんか日本の新幹線と根本的に違う気が)
(飛行機の運賃の考えに近いわね。あと、この時間帯はほとんどないけど格安航空便みたいな詰め込み列車もあるわよ)
(イタリアの格安は不便な代わりに豪華なんですけどねぇ)
(あー、フェラ ーリのあれね)
(何でみんな中を空けて発音するんですか!)
(べらちゃんのおかーさんのすけべいえろおばちゃんのえいきょうです。あたしはわるくない)
(まだ恨んでるのね…)
(それよりパリ着いたら鴨ですわよ!この季節に鴨の一羽も食べて帰れないなんて泣きますわ!)
マリーの泣きと理恵ちゃんの恨みを乗せたドイツの電車…ICE6とか4007とか言うらしいんですけど、確かにさっきまでのより格段に速い350~360km/hで爆走して、1時間少々でパリ東駅に滑り込みます。
「流石にトゥール・ダルジャンは飛び込み無理げよね…」
「鴨とシャンパーニュか…ここに話を入れてみましょう」などと日本人とロレーヌ系ガリア人というかフランス人と言うべきかな二人がTGV車内で頑張って探し回った甲斐あってか、何とか7区の辺りにお店見つけましたが。
「ねぇ…10区から7区ってメトロ乗るのどうだっけ…マリー翻訳して…」
「何ですかこの東京並みかそれ以上にややこしい路線図!」…確かにローマやミラノより理解しづらいです。
「えーと4号線で北駅か東駅から乗って8号線乗り換えて…」
「めんどいからタクシー乗ろうみんな!あたしの聖環ならVISAの黒相当だから!」
「白いプジョーのエアロバキバキなタクシーが来て銃撃戦とかカーチェイスにならないでしょうね…」
「とりあえず7区の軍学校まで!」
(しかし絶対パリよりローマの方がわかりやすいと思うわよ…)
(完全否定出来ないのが悲しい…本当にこの国ってパリとそれ以外ですから…)
(ですわよねぇ…ちなみにパリ市街地の人口を200万とすると2位のリヨンが50万人という状況です。西暦2020年代ですらこれですよ…)
(それはそうと…ねーさん聞こえてますかー。今二代目様と無事に邂逅したのはいいとして擬体が正常に起動しまへーん。どうします?)
(とりあえず飯食うんだろ?本当ならさっさと戻れと発破かけるとこだが、そのまま鴨食っとけ。原因はだいたい掴んでる。多分二代目様が通常の金衣女聖の昇天状態じゃないからだ。とりあえずベラ子に相乗りしてるのはわかってるし、その状態でいてくれ。エマ子が適合解析する…あたしはちょっと野暮用で宇賀神さん連れて渋谷に行くわ)
(…あー、ゆっきーのお父さん…)
(ああ、さっき連絡したら首都高C2って聞いた。奥さんも池尻大橋に戻ってるらしいし、とりあえず行ってみる)
(りょうかーい)
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で、こっからは再度あたしだ。
本当は公務でパリの二つ星か三つ星で鴨とか何だよって言いたいよ?
でも二代目様引っ張り出せた訳だし、そこはまぁ接待と慰労ってとこで仕方ないだろうと許可した。
それに今後、ベラ子にはフランス料理について作法と見識を持ってもらわざるを得ないとあたしも考えているから、ちょうどいい機会だろうと思ってさ。
フランスに手を入れる話が出る可能性もあるし、りええにもマリーにも土地勘を養ってもらう必要があるだろうから、まぁ、なかなかにややこしいパリの地理相手に格闘してくれという嫌がら…愛の鞭の意味もあったし。
そしてパリも大概だけど地下鉄も道路もややこしい東京だ。
その東京に未だにサイズも燃費もあれな車乗り入れるのも大概だと思うが、こればかりは本人の趣味もあるからまぁ、仕方ないだろ。
「どうです? ラングラー」と、池尻大橋のマンション地下駐車場で、運転席から降りてきたゴツい体格のおじさんに声をかける。今時ラルフローレンのポロシャツとかない気もするんだけど、この人はこういう人だからむしろこれでいい気がするんだ。
「色々雑なのは仕方ねぇんだけど、もう少しまともなもん作れねぇのかよって思いますね。ま、貴重なV8モデルだ。どうせなら楽しむのがいい」
「そう思ってワイルドターキー。ジョニ黒の方がよかった?」
「そっちは平家工事…ご存知でしょ?あの野郎の好物ですよ。あいつも酒を楽しめる身体に戻れたって、嫁さんともども喜んでましたよ」
(人生もっかい楽しめて何よりだ。で…宇賀神さん。何で田所さん来るのよ)
(ああ…あれ、とちぎメディアと下野ケーブルサービスの相談役、まだ降りてねぇんですよ…あのジジィ、俺の頭の生え際がこれになったの未だに根に持ってましてね…)と、おじさん…ゆっきーの実父で、とちぎメディア総務担当取締役は、以前よりかなり巻き返した自分の頭の生え際最前線を叩いて肩をすくめた。
「まぁ、奥さんのマスタングに文句言いたいみたいだけど、当の奥さんが気に入ってんだから仕方ないじゃん」
「あいつはラングラーの方が有難いようなんですよ…ほら、箱根の自然植物環境財団所有にして頂いた土地あるでしょ。あそこ行くのに便利みたいなんで」
「んじゃ今日はこの後で車入れ替えたら? …日光や会津行かなきゃマスタングでも冬越せるでしょ?」
そう、この人の奥さんがお父さんから相続した箱根の土地家屋に研究成果、あまりに貴重らしくて放棄するかどうか悩んでいたそうなんだけど、クリス父様の会社の製品テスト…土質改良試験に使えそうなんで財団法人設立して寄付を受け、政府筋にも話をして微生物や植物の合同研究施設にしたんだ。
んで奥さんは非常勤管理職員として雇用。
言ってみればその土地のレンタル費がわりだね。
そりゃ、慶次郎さん相手の時と同じで、遥かに若いあたしがデカい顔できるのわかるだろ? この人と関係者のスポンサー、タニマチなんだから。
あたしにすりゃホスト遊びみたいなもんだけど、違うのは、この人達、ものすごくあたしの仕事の役に立ってくれるんだ。
…男性諸君、言っとくぞ。男の価値は決してちんちんだけじゃないからな?
そしてマンションのリビングで。
ここ、元々は宇賀神さんのマンションだったらしいんだが、再婚…一旦別れて再度結婚ってのも珍しい話だけど、とりあえず再婚してからは内装をだいぶやり直したらしい。
そして現在は宇都宮に単身赴任中のご主人に成り代わって奥さんと猫と娘が住人、と。
「はい桔梗さん、うちの内政担当から差し入れ。快癒祝いだってさ」と、グレイン・フィディックのボトルが入った包装ケースを渡す。
「二日と持たねぇんじゃねぇか?」と旦那は冷やかすけど、怒った奥さんにヒマラヤン種の雄猫けしかけられてるし。
「さて…今回の件なんだけど、雪子さんから少しお聞きしました。ちょっと前にうちの広報がタレント募集の広告を打ってくれってKMMにお願いしてるそうですね」
「ええ、何でもコスプレイヤータレントの募集とかで…」
「依頼企業は原宿と渋谷の間に住所があるイベント会社、代表取締役は田中雅美か。間違いなくうちの関係者です。雪子さん…ゆっきーには何を言われたのよ」
「えーとですねぇ。まず打診されたのが出演者探し。そしてうちの母を通じての広告出稿ですね」
「で、お母さんは当然ですけど、KMMの社内規定に基づいてどういう出稿者かを調査する事になる。そして」
「正直、イベントに派遣するセミプロとでも言うべきタレントが在籍しているのはいいのですが、その管理や調達を行っている業者様とのお付き合いの中で、問題視すべきではないかと思えるところがありました」
「で、普通ならお断りですが、何分にもまりあ先輩の部下の方で、私からしても先輩に当たる人の事ですので…」
「ええ、俺も娘や妻の絡む話とは伏せて、田所の爺さんに探り入れてもらったんですよ。そしたらモロに何とか連盟。そして、警視庁はもちろん、千葉県警の方で“よく知られてる”人物がそのスカウト業者のバックにいましてね。まぁ成田の入管出国絡みの揉め事でも有名な野郎で」
「だよねー。最近の反社は労働研修実習生の偽装受け入れとか、果ては売春やらAV方面への横流しもすんのかよと」
「皮肉なんですよねぇ…娘をそちらに預ける話が正にそうなんですけど、こちらから出稼ぎとか輸出ってのが改めて浮き彫りになっちまった気分ですよ」
「まぁまぁ辛気臭いのはなしで行きましょうよ。奥さん、すみませんがこの件、個人的にもう少し監視が欲しいので、雪子さんに関してはあたしや担当者が指示を出させて頂きます。で、旦那さんは…個人的に業務の片手間で構いませんので、件の田中がやってるイベント会社ですね。あそこの関係でテレビ局時代のそういうお仕事で因縁がなかったか等々お調べ頂けると助かります」
「…え、まりあ先輩が調べた方が早いんじゃ…」これにはお母さんもお父さんも顔面蒼白で慌てて止めに入ってたけどさ。
「ああ、確かにあたしかエマ子が能力フル発揮すりゃやってやれなくもないよ。下手すりゃベラ子でもできるだろ。けどな、今回はお父さんの嗅覚と人脈に頼る方が早いんだわ。それにこっちは警察をバックに出来るからね、関東メディアの総務時代より遥かに大胆に動いてもらえるぜ。少なくともマスタングの駐車違反を気にする必要はねぇ」
そして、ドアホンが鳴ったんだけど。
相変わらず服装の趣味のめちゃくちゃ悪い爺さんだなぁ、としか。
いい歳こいて緑と黒の市松柄のコートを誂えるのかよ。
しかもその中は黒一色なのはいいとして、何よその西陣織みてぇなド派手なネクタイはよ。
「よぅ宇賀神、嫁さん元気になって良かったじゃねぇか…、おい、高木さん来てんだったら来てるって言えよバカヤロー!」
「まぁまぁ田所さん、とりあえず今、うちの田中絡みの話をしてたところなんですよ」
「ええ、俺の…私の方にも結構色々な噂が流れて来てましてね。ちょっとその辺りの事を桔梗さんや宇賀神と話したかったのもあったんですわ。で…娘さんが同席でも大丈夫なんですか」と、この人には珍しくギョロ目をおどおどさせて聞くんだけど…うん、ここにいる猫の権太郎以外の全員、あたしが痴女皇国の上皇で実質トップなの知ってるから。下手したら権太郎も猫の知恵で悟ってるから。オイルサーディンで餌付けしなくてもあたしがモフりたくなったら向こうから来るし。
「ええ、雪子さんは今回、あたしの補佐役兼、実習学生の立場で同席してもらおうと思います。大丈夫ですよ田所相談役、ちょっとやそっとの反社が千人くらい押し寄せても、今のこの子一人でのしつけて梱包出来ますから。それに彼女にはうちの騎士団長や軍事責任者への緊急通報召喚権限渡してますし、有害要因接近監視対象です。安全は保証しますよ」
「しかし、見た目はうちの娘とあまり変わらんのに…瞳も目を回してましたよ」
「あー、あのカメラマンの娘さんか、今栃木でしたっけ」
「ええ、関東からの出向です。経緯も経緯ですから、うちの嫁も保護に同意してくれましたし」
「今時あんな犯罪ってあるのですわねぇ…」
「ま、少々の荒事は私たちは慣れてますので。そそ、こないだの北欧の映像、一般プレス向け編集ありがとうございました。なんせ今、うちの田中に名目特任与えてるし、山内からも映像素材の提供くらいしか出来なくて」言うまでもなく鯖挟国の後始末関係で、広報局は本来の諜報機関として全力で動かしてるからだ。
そして、それに乗じて痴女皇国の連邦世界向け広報業務も、宇賀神ちゃんのお母さんの会社に委託しようとしていてね。
うん、雅美さん外しの一環なんだ。
「いつかは何かしないとほんにんのためになりませんね」
「セクハラやショタはまだいいけど、どれほど少なく見積っても最少売り上げ額年で年商10億以上。同人活動含めたら…大手風俗チェーン並みの収入を記録してる年もあるわね」
「しかも痴女皇国はまだしも聖院側の出演者あり。ちょっとこれ洒落になんないわね…」
「とりあえず日本とNBではよーいドンで規制する。白マリと白エマ子は聖院側の思考や知識共有を規制、初代様に雅美さんや他の関係者向けにはダミーデータ回すようにしてくれ。それと聖院サイドはくれぐれも悟られないように頼む」
「あたしとアンジェリーナはどうしましょう」
「マサミさんに接触しないわけに行きませんからネー」
「ああ、直美さんとアンジェリーナさんね、例の聖院宮工事や色街旅館改装関係で警備が必要って名目で戻すわよ。黒マリ、それでいいかな」
「月々聖院の編集引き継ぎはどうかで話が変わる。あれの編集と発行を聖院女官室広報部で可能ならOKだな」
「大丈夫デース」
「デジタル雑誌編集系の端末はこちらで入れましたし、月間痴女皇国と完全互換とはいかないのを許してもらえるなら。あ、読むにはちゃんと読めるの、テスト出力版をマリーさんに送って確認済みです」
「ふぅ…しかし、雅美さんが悪事とは言わねど強く指摘されたらまずい話をここまで溜めてたとは…聖院側の体制をある程度固めていなかったら更に被害拡大してましたわね…」
「とりあえず例の最悪の事態アプリ、聖院側はあたしと白アルトにエマ子に白ダリアにサリーとしほ子。それからプラウファーネさんとアンジェと直美さんにインストール。白かーさんと父様はホットライン持ちだし入れないでもOKっしょ」
「よしよし。こちらはお祖母様とクレーゼ母様にベラ子、マリーとたのとりええ、玄奘さんと海賊女王に悦吏ちゃん外道ちゃんくらいでいいか。ベラ子、テスト動作結果はどうだった?」
「例の秋の防災訓練に合わせて密かに試験。問題ありませんでしたよ」
そう、例の墓所にマイレーネさんを呼びつける緊急ボタンだ。
あれを聖環アプレット化して関係者にインストール。
そしてマイレーネさんかアレーゼおばさまを緊急召喚できるようにさせて頂いたんだ。
そしてこの話をしているのは聖院側のテンプレスのブリーフィングルーム。
聖院にも会議室があるのにわざわざここにした理由、かかって傍聴阻止。
そして出席者は聖院側が白マリ・かーさん・エマ子・ダリア・アンジェリーナ・直美・サリー・しほ子。で、痴女宮側があたし黒マリ・ベラ子・アルト・ダリア・理恵・たのきち。痴女皇国側には向こうのエマ子がダミー情報を流している。
「今の時点では初代様も雅美さんも気付いてないわね。諸々の措置は妥当なところだし、この会合もいけにえ村めいた事が聖院側で発生した場合の体制検討会議だから、あながち完全な嘘じゃないし…」
「とりあえず聖院側は合意なしの女官出演動画配信に問題があるから自粛要請、これで行くわね。本当は聖院女官に対しても過剰なSM行為…ハラスメント扱いがあるからそっちも取り沙汰したいんだけど、痴女宮の方が被害甚大でしょ」
「んだ。言いたくないけど…ベラ子。現金じゃないけど色々貰ったりしてたろ?」
「あぃ…」
「まぁベラ子の面倒を見てくれはした件もあるから、この件の追求も大幅にカットだ。ベラ子はエスプレッソマシンの管理、今後は自分でやれ。嘉手納の基地内店舗ならあれのカートリッジは買えるからな?」
「あー…ベラちゃんにも賄賂工作を…」
「現金じゃなくて品物だから贈与の範囲で済む。ベラ子には倫理的にきつい目を向けるけどあたしや白マリが裁くまででもなかろ」
「ま、何とか不問の範囲ね。雅美さん、るっきーには何かしてないの?」
「あっちは自分で何とかするタイプだ。るっきーは仕事柄しょっちゅうあちこち出歩くからすれ違いも多いし、まとまった工作時間は取れない筈だしな」
「あとは初代様よねー、あの人何とかするのこそクレーゼ母様の比じゃないわよ…」
「そーなんだよー。雅美さんだけなら話は簡単なんだけどさっ」
「初代様の説得はおかみ様に任せるしかねーか…」
「よねー。難しいとは思うけどさ、初代様は先に押さえておく方がいいとは思うわね」
「痴女宮マリア。そっちのうちがおるやろ」
「あー、なるほど…」
「それとマリ公。お前ら、事を進める前にピレネー県、先行ってこい。その方がハクがつくやろ。うちとしても言いやすなる」
「あー、ルルドな…」
「あそこは神種族にとってあまり行きたくない場所らしいですけど…」
「だけど黒かーさんからも行け行け言われてましたからねぇ、前から」
「えーとな、マリーとベラ子とマリ公二人、それとマリアンヌ。現時点で家族会から訪問を強く推奨されてるのはこの二人やな。あと、この件を後押ししてるのは二代目金衣女聖ベルナルディーゼさん。ガリア人らしい男と初代様の間に生まれた三つ子の一人らしいけどな。んで、残る二人が銀衣騎士と女官長。そのうち一人についてはこの際、は・な・し・を・は・ぶ・く・と・し・てやね」
「かーさんが誰の事を強調したいのかはともかくとして、ですねぇ。人選に疑問が一つ」
「何であたくしが入ってるのでしょう。あたくしそもそもロレーヌ王家の生まれですから。それにナンシーとピレネーとはものすごく離れていますよ…」
「マリー、現代フランスでみんなの道案内いけるか? ルルドの空港は巡礼者のチャーター便のために3,000m級滑走路があるからスケアクロウを降ろせなくもないけど、着陸許可にフランス政府のOK取る必要あるしなー…」
「んなもん簡単だわよまりり。あたし同行でパリ飛ばしてくれたら、オーステルリッツ駅からボルドー経由の直通TGV乗せるよ。5時間くらいかかるけど」
「りええ…あんたがTGV乗りてぇんだろ…せめてマルセイユかボルドーの海岸から上陸してだな…」
「やだ。せめてリヨン・サン=テグジュペリ空港!あそこからならTGVと乗り換えでトゥールーズにもルルドにも行けるから!」
「マリ公。そもそもルルドの街中か、例の洞穴の辺りに転送したら楽やぞ。あと可能なヌヴェールのサンガルド修道院行って来いと」
「あー、聖母の死骸が安置されてるあれか…」
「ヌヴェールってかなり田舎というかTGV南東線から全力で外れてる気が…あーやっぱりインテルシテしかない…しかもベルシー発着じゃん!」
「理恵ちゃん。あたしパリの鉄ヲタ事情わからん。解説して」
「誰がヲタですかジーナさん!んー、今阪急梅田とJR大阪駅を再建工事してるでしょ。あんな感じか、新大阪駅の在来線ホームとリニアや新幹線ホームみたいな感じでローカル線特急ですとか、敦賀行きの新快速が出るようなホームあるでしょ。パリのリヨン駅って言って、TGVがバンバン出てる駅から少し離れた場所にそんな距離感がある隔離ホーム作ってるんです。それがベルシー駅」
「つまりあれか、場末行き電車が出る場末駅」
「いやそこまでひどくないですよ。その聖女遺骸が安置されてるせいでそのベルシーから巡礼者目当ての定期や臨時団体列車のヌヴェール行きが結構出てまして、さながらどちらも天理駅や昔々の富士宮駅状態」
「あー、宗教需要をさばくためか…」
「あとまぁ、あちらさん特有のバカンス習慣で、車持ち込む需要があるんです。んで、寝台車に自動車運搬用の貨車を連結したリゾート地行きはそこでリゾート客と自家用車を積み込んで出発」
「なぜに自家用車を…あー、バスタイプや大型トラックベースのキャンピングカーで、車体にスポーツカーとか小型車積める奴と似た理屈か…」
「あたくし理解できました。多分コートダジュールの別荘やオテルから海岸だの観光地だの買い出しの足にくるまを必要とするのでしょう。たはらの寮みたいに目の前がすぐ海という理想的な立地で全ての別荘やオテルが作れませんし、わざと賑わう場所から離して建てた場合もございますかと」
「あー、モナコなんかもそうだよな、偉い人で山側に屋敷こしらえて住むとか」
「まぁ事情は理解した。それとな…ベラちゃん。あんたとこに宇賀神雪子さんておるやろ。雅美さんのバイトの関係の調査、あの子のお父さんに頼んだらどうや言われたぞ。マリ公、考えてみたらあの人て確か現役時代、まさにそういう表に出せない話を調べて潰し揉み消ししてた人やろ」
「あー…確かに。しかも奥さんのがん治療とかしてるから二つ返事で動くと思うけどなぁ」
「あとなぁ、今正に二代目様から修正案の指導受けたけど、ルルド行きは雅美さん絡みの調査を済ませてネタ上げてからにしろと。で…順番はまず、マテリアルボディ一体用意してヌヴェール来て欲しい。で、痴女皇国世界で宇賀神さんのお父さんに依頼。諸々揃ったら初代様と雅美さん同行でマリアたちはルルド来いとな。マリ公二人にも二代目様から言われたからわかるやろ」
「あい」
「今回の復活は一時的なものにしたいとも言われたけどな」
「とりあえず二代目様の要請に従いましょう」
--
さて、そんなこんなでここからはわたくしマリアヴェッラが姉から話を引き継ぎます。
…何ですかこの微妙にせせこましい駅はぁっ。
前に一般電車で帰宅を余儀なくされた際に間違って乗った上に話し込んでて延々気付かなかった事があった時に降りた山◯電車の途中駅なみじゃないですか。あの向こうの広大な線路だけの場所、少しでいいから日本みたいに潰して駅、広げられませんか?
「はいはいそれはイタリアも似たものよ。とりあえず乗って乗って」と、やたら低いホームに停まっている二階建ての電車に押し込まれます。
本日はマテリアルボディ引き渡しのためかあたしと道案内役のマリーに理恵ちゃんの三人で連邦世界のフランスはパリに来ていますよ。
「型落ちTGVの在来線流用か…フランスも大変なのね…」と理恵ちゃんが絶句していますね。
しかも二階建てというのもありますが、一等車という気があまりしません。
あたしの身長だと頭つかえるくらい天井低くて圧迫感すごいし。
「まりりから仮払い許可出てるから必要があればバー車で軽食とコーヒーくらいは買ってきていいわよ」
「えー、シートサービスとか食堂車ないんですか…」
「ベラ子陛下…いえベラちゃん!マリー目の前にして言いたくないけど、客車の洗車の手間省きたいから無塗装銀色のステンレス車体にしたとか、ニース行きなんかの豪華系とローカル特急用客車との落差が酷すぎるとか食堂車あらかた外して売店兼用の立席軽食車に変えたとかね、フランスがドケチとかセコい傾向をよく理解できるのよ列車だと!」
「まぁ…その辺は何となくわかりますわよ。火事になった時に燃えてしまうから木や革をあまり使えないのは分かりますが、何かこう殺風景で華美さに欠けると申しますか…」
「そりゃオリエント急行とかワゴンリの時代じゃないからね…今度乗る瑞◯はもう少しマシよっ」
「中世時代経験者あるあるよね」
「あと一等でこれですか…せまいっ」
「ベラちゃんはあたしくらいの身長にしなさいっ」
とまぁ、やいのやいのしながら2時間…割と飛ばしてはいたようですが、当のヌヴェールという町に到着。
駅から徒歩で行けるらしいのですが、マリーが案内所で聞いて聖環で地図を確認してから案内に立ちます。
そして件の小じんまりした修道院に着き、ガラス張りの棺の中に安置された聖女という方の遺骸にご対面させてもらえます。
蝋のデスマスクを被されていますが、遺骸が腐敗しなかったので当時の人が驚かれまして…カトリック教会の力がまだまだ強い時代に聖女認定を受けた方の聖骸に相応しいと、こうして晒しも…いえ失礼、飾られているそうですね。
(晒し者とは失礼なっ。いえごめんあそばせ。さてマリアヴェッラとは初めてでしたわね…二代目聖院金衣女聖、ベルナルディーゼです。よろしく)
頭の中に声が響きます。
(ここであれを頂きますと他の巡礼者に騒がれますね。何食わぬ顔で修道院から出てください)言われるがままに三人して駅への道を歩けと指示されます。
(ふう。わたくし実は諸事情でここかルルド…出歩いてもフランス国内から出られない立場でしてね。実はわたくし、あの聖院墓所に寝台こそありますが、普段は地下墓所にいないのですよ)
(では、なぜにこのような場所に…)
(実は初代金衣テルナリーゼ…わたくしの母ですが、皆さまが今直面しているような感じで割と色事には目がない部類でした)
(確かに初代様は…)
(まー、かなりの女官となんだかんだで姉妹になられておられますわねー)
(そして、たまたま逝麺がいそうな地域を物色して、皆さまが言われる逆ナンパとかいう行為をした結果、生まれたのが私とあと二人の妹たちです。そして妹の一人が異様な長寿を得ているのは、母の行状を憂えた方々が取った措置の一つなのですよ)
(ふむふむ)
(二代目様に質問がございます。何故にわたくしマリアンヌが、聖女とされる方のゆかりの場所に来るよう申されたのでしょうか)
(簡単です。貴女の祖先に、わたくしの子種を提供した人物がいるからです)
「え?え?」思わず路上でうろたえるマリー。
(だって無関係ならわざわざ呼び立てませんわよ。…つまり、聖院金衣の血統云々という場合…マリアンヌ、貴女も皇族とやら、あながち入らなくはないのですよ?)
(確かに、仰られます通りではございますが…)
(そして出自主義に陥る者が出た場合、わたくしは時代はおろか世界すら違いますが、あのベルナデッタという者を見せようと考えておりました)
(確かあの聖女、貧農の養女でおまけに文盲…)
(そうです。それ故に私の力と名を与えるよう差配しました。ただ、限定的であった為に早逝してしまいましたが…そして私がこの地に封じられた理由たるや、一言で申し上げますと島流しですっ)
(え…つまり、聖院でも勢力争いが…)
(はい。私の娘、すなわち三代目の時に跡目相続騒動が起きまして。それ自体は収拾がついたからこそ聖院史が続きましたが。で、更に困った事に、あるところからケチがつきました。せっかく反省を兼ねてやり直しさせてんのに何してんのと…。そして、先代と私が墓所で喧嘩もとい話し合いの末に、奇跡を顕現させる力を持つ者を探せと言われまして)
(その話をなさった方が、聖院金衣に強い発言力影響力をお持ちとお察ししますが)
(そうです。この方々にはルルドで引き合わせます。それよりヌヴェールは田舎ではありませんが地方都市、食事処にあまり期待できる場所ではありません。皆様、文字通りお食事を餌にこの仕事を引き受けらしたのでしょ?)はい、言われます通りですっ。
(あー、巡礼者向けのはあるけどあまり期待できないとかあったな…)
(ヌヴェールの市街地もここから離れておりますしね)
(じゃ、ちょっと頑張ってみます)と、根性で聖環を操作しようとすると。
「あたくしが聖環操作権限を頂いています。少々お待ちを」
では、ここはマリーに任せましょう。二代目様は…。
(マリアヴェッラ、相乗りさせて下さい。…ってマリアンヌ! ここはパリではないですよ!)
(え…本当だ…)
(マリー…あんたわざとでしょ!ここナンシーじゃない!あんたん家があった場所連れて来て来てどうすんの!)地図を出して現在地を確認した理恵ちゃんがいかっています。
確かにさっきまでいたヌヴェールよりは遥かに都会ですけど、明らかに大都会には思えません。
が、次の瞬間。
(とりあえずナンシーならTGV東線あるから、あのクソたるいインテルシテ乗らなくていいわよ!直近のTGV押さえて帰るわ!…ええいチケット高いわね!皇帝室名目でまりり持ち出し費用預かってるし一等押さえたれ!ほれベラちゃんにマリー、Eチケット来たから回す!立体QR表示したら自動改札にかざして通るのよ?)
で。
白地に赤帯の電車、それも鼻先にDBって書かれたのが来ましたけど。
(理恵さん…あたくしに何か恨みが。これドイツ製じゃないですか!何でパリにドイツの電車来るんですか!)マリーが恨めしげな目で理恵ちゃんを睨んでますね。あたしもこれは出来たら避けたい部類ですよ。
(あー、これケルンかどこかドイツ国内始発だな…っていうかマリー、今はハノーバーとかハンブルクとかケルンからパリはもちろんだけど、ブリュッセルやロンドンにもこれ来てるわよ?)と、マリーの怨念何するものぞ、あっさり答える鉄ヲタ女。
(信じられません!我が国も英国もパリやロンドンを燃やしたいんですか!)
(単にCO2削減で航空便扱いの高速電車が増えただけよ!それにパリからケルン行きのTGVもあるし、パリからロンドン行きはフランスとドイツ製だから釣り合い取れてるわよ?)
(イタリアはどうなんでしょう)
(間にスイスがあるからドイツ製はスイスどまり。ただ、オーストリアからベネチアと、ミラノからパリはある。どっちも相手の電車が主流)
まぁ仕方ありませんね。
そして、割と本格的な食堂車兼簡易食堂があるらしいので行きます。
(やっぱりビールかドイツワインかい…)
(何かはらたつのりですわね…)
(ソーセージとかミートボールとか芋とか、食事がいかにもドイツだ…)
(このシリーズでドイツの扱いは悪いのが通例ですが、何もそこまで嫌わなくとも。まぁ、ワインがドイツなのは寂しいですわね。マリアヴェッラ、ビールおかわり!)なんか二代目様も初代様と似てる気がするんですが。
(言いたくはありませんが、私はあれの実娘ですよ。あんなのが親のせいであたくしは審議員だの監査員だのを押し付けられあげく違う世界に島流し!奇跡起こす女の子作れとか無茶言われましたし!)…溜まっておられるんですね。何となく事情はお察し申し上げます…。
(ムカつくからあたくしもビールもう一杯)
(ドイツから来てるからビールはおいしいのよ、いいんだけど…)
しかも、行きのより座席はゆったりしてますが、配置がゆったりしてるだけで座席サイズあまり大きくありませんね。しかもなまじ革張りで滑るし!
(イタリアのプレミアクラスみたいにバケットシートならいーんだけどね。だいたいドイツの新幹線って何時間も乗らない人が多いのよ。1時間か2時間くらいで降りちゃう。んで、荷物棚に表示器があるでしょ。これドイツ国内だと自由席が基本で赤が予約済みまたは利用中。黄色が間もなく利用者が来る。緑が表示区間は指定券なしでも着席可能って教えてくれるの。今はパリ行きだからたいてい赤または黄色だけどね)
(はーはー、緑に座ってたら指定券なし…確かヨーロッパって無札にすごい罰金取りますよね)
(うん。ただ、TGVは外国人観光客も乗るから事情を話せばその場で指定出してくれるわよ。ただ…あたしがさっきナンシーで発狂してたけど、当日で飛び乗りに近いと最高額に近い料金ぶんどられるのよ。車内で買うと一番高いわね。だいたい一等だと事前購入で1,200円が3,600円くらいになると思って。あと乗車券入れたら6,000円が1万円超え)
(なんか日本の新幹線と根本的に違う気が)
(飛行機の運賃の考えに近いわね。あと、この時間帯はほとんどないけど格安航空便みたいな詰め込み列車もあるわよ)
(イタリアの格安は不便な代わりに豪華なんですけどねぇ)
(あー、フェラ ーリのあれね)
(何でみんな中を空けて発音するんですか!)
(べらちゃんのおかーさんのすけべいえろおばちゃんのえいきょうです。あたしはわるくない)
(まだ恨んでるのね…)
(それよりパリ着いたら鴨ですわよ!この季節に鴨の一羽も食べて帰れないなんて泣きますわ!)
マリーの泣きと理恵ちゃんの恨みを乗せたドイツの電車…ICE6とか4007とか言うらしいんですけど、確かにさっきまでのより格段に速い350~360km/hで爆走して、1時間少々でパリ東駅に滑り込みます。
「流石にトゥール・ダルジャンは飛び込み無理げよね…」
「鴨とシャンパーニュか…ここに話を入れてみましょう」などと日本人とロレーヌ系ガリア人というかフランス人と言うべきかな二人がTGV車内で頑張って探し回った甲斐あってか、何とか7区の辺りにお店見つけましたが。
「ねぇ…10区から7区ってメトロ乗るのどうだっけ…マリー翻訳して…」
「何ですかこの東京並みかそれ以上にややこしい路線図!」…確かにローマやミラノより理解しづらいです。
「えーと4号線で北駅か東駅から乗って8号線乗り換えて…」
「めんどいからタクシー乗ろうみんな!あたしの聖環ならVISAの黒相当だから!」
「白いプジョーのエアロバキバキなタクシーが来て銃撃戦とかカーチェイスにならないでしょうね…」
「とりあえず7区の軍学校まで!」
(しかし絶対パリよりローマの方がわかりやすいと思うわよ…)
(完全否定出来ないのが悲しい…本当にこの国ってパリとそれ以外ですから…)
(ですわよねぇ…ちなみにパリ市街地の人口を200万とすると2位のリヨンが50万人という状況です。西暦2020年代ですらこれですよ…)
(それはそうと…ねーさん聞こえてますかー。今二代目様と無事に邂逅したのはいいとして擬体が正常に起動しまへーん。どうします?)
(とりあえず飯食うんだろ?本当ならさっさと戻れと発破かけるとこだが、そのまま鴨食っとけ。原因はだいたい掴んでる。多分二代目様が通常の金衣女聖の昇天状態じゃないからだ。とりあえずベラ子に相乗りしてるのはわかってるし、その状態でいてくれ。エマ子が適合解析する…あたしはちょっと野暮用で宇賀神さん連れて渋谷に行くわ)
(…あー、ゆっきーのお父さん…)
(ああ、さっき連絡したら首都高C2って聞いた。奥さんも池尻大橋に戻ってるらしいし、とりあえず行ってみる)
(りょうかーい)
--
で、こっからは再度あたしだ。
本当は公務でパリの二つ星か三つ星で鴨とか何だよって言いたいよ?
でも二代目様引っ張り出せた訳だし、そこはまぁ接待と慰労ってとこで仕方ないだろうと許可した。
それに今後、ベラ子にはフランス料理について作法と見識を持ってもらわざるを得ないとあたしも考えているから、ちょうどいい機会だろうと思ってさ。
フランスに手を入れる話が出る可能性もあるし、りええにもマリーにも土地勘を養ってもらう必要があるだろうから、まぁ、なかなかにややこしいパリの地理相手に格闘してくれという嫌がら…愛の鞭の意味もあったし。
そしてパリも大概だけど地下鉄も道路もややこしい東京だ。
その東京に未だにサイズも燃費もあれな車乗り入れるのも大概だと思うが、こればかりは本人の趣味もあるからまぁ、仕方ないだろ。
「どうです? ラングラー」と、池尻大橋のマンション地下駐車場で、運転席から降りてきたゴツい体格のおじさんに声をかける。今時ラルフローレンのポロシャツとかない気もするんだけど、この人はこういう人だからむしろこれでいい気がするんだ。
「色々雑なのは仕方ねぇんだけど、もう少しまともなもん作れねぇのかよって思いますね。ま、貴重なV8モデルだ。どうせなら楽しむのがいい」
「そう思ってワイルドターキー。ジョニ黒の方がよかった?」
「そっちは平家工事…ご存知でしょ?あの野郎の好物ですよ。あいつも酒を楽しめる身体に戻れたって、嫁さんともども喜んでましたよ」
(人生もっかい楽しめて何よりだ。で…宇賀神さん。何で田所さん来るのよ)
(ああ…あれ、とちぎメディアと下野ケーブルサービスの相談役、まだ降りてねぇんですよ…あのジジィ、俺の頭の生え際がこれになったの未だに根に持ってましてね…)と、おじさん…ゆっきーの実父で、とちぎメディア総務担当取締役は、以前よりかなり巻き返した自分の頭の生え際最前線を叩いて肩をすくめた。
「まぁ、奥さんのマスタングに文句言いたいみたいだけど、当の奥さんが気に入ってんだから仕方ないじゃん」
「あいつはラングラーの方が有難いようなんですよ…ほら、箱根の自然植物環境財団所有にして頂いた土地あるでしょ。あそこ行くのに便利みたいなんで」
「んじゃ今日はこの後で車入れ替えたら? …日光や会津行かなきゃマスタングでも冬越せるでしょ?」
そう、この人の奥さんがお父さんから相続した箱根の土地家屋に研究成果、あまりに貴重らしくて放棄するかどうか悩んでいたそうなんだけど、クリス父様の会社の製品テスト…土質改良試験に使えそうなんで財団法人設立して寄付を受け、政府筋にも話をして微生物や植物の合同研究施設にしたんだ。
んで奥さんは非常勤管理職員として雇用。
言ってみればその土地のレンタル費がわりだね。
そりゃ、慶次郎さん相手の時と同じで、遥かに若いあたしがデカい顔できるのわかるだろ? この人と関係者のスポンサー、タニマチなんだから。
あたしにすりゃホスト遊びみたいなもんだけど、違うのは、この人達、ものすごくあたしの仕事の役に立ってくれるんだ。
…男性諸君、言っとくぞ。男の価値は決してちんちんだけじゃないからな?
そしてマンションのリビングで。
ここ、元々は宇賀神さんのマンションだったらしいんだが、再婚…一旦別れて再度結婚ってのも珍しい話だけど、とりあえず再婚してからは内装をだいぶやり直したらしい。
そして現在は宇都宮に単身赴任中のご主人に成り代わって奥さんと猫と娘が住人、と。
「はい桔梗さん、うちの内政担当から差し入れ。快癒祝いだってさ」と、グレイン・フィディックのボトルが入った包装ケースを渡す。
「二日と持たねぇんじゃねぇか?」と旦那は冷やかすけど、怒った奥さんにヒマラヤン種の雄猫けしかけられてるし。
「さて…今回の件なんだけど、雪子さんから少しお聞きしました。ちょっと前にうちの広報がタレント募集の広告を打ってくれってKMMにお願いしてるそうですね」
「ええ、何でもコスプレイヤータレントの募集とかで…」
「依頼企業は原宿と渋谷の間に住所があるイベント会社、代表取締役は田中雅美か。間違いなくうちの関係者です。雪子さん…ゆっきーには何を言われたのよ」
「えーとですねぇ。まず打診されたのが出演者探し。そしてうちの母を通じての広告出稿ですね」
「で、お母さんは当然ですけど、KMMの社内規定に基づいてどういう出稿者かを調査する事になる。そして」
「正直、イベントに派遣するセミプロとでも言うべきタレントが在籍しているのはいいのですが、その管理や調達を行っている業者様とのお付き合いの中で、問題視すべきではないかと思えるところがありました」
「で、普通ならお断りですが、何分にもまりあ先輩の部下の方で、私からしても先輩に当たる人の事ですので…」
「ええ、俺も娘や妻の絡む話とは伏せて、田所の爺さんに探り入れてもらったんですよ。そしたらモロに何とか連盟。そして、警視庁はもちろん、千葉県警の方で“よく知られてる”人物がそのスカウト業者のバックにいましてね。まぁ成田の入管出国絡みの揉め事でも有名な野郎で」
「だよねー。最近の反社は労働研修実習生の偽装受け入れとか、果ては売春やらAV方面への横流しもすんのかよと」
「皮肉なんですよねぇ…娘をそちらに預ける話が正にそうなんですけど、こちらから出稼ぎとか輸出ってのが改めて浮き彫りになっちまった気分ですよ」
「まぁまぁ辛気臭いのはなしで行きましょうよ。奥さん、すみませんがこの件、個人的にもう少し監視が欲しいので、雪子さんに関してはあたしや担当者が指示を出させて頂きます。で、旦那さんは…個人的に業務の片手間で構いませんので、件の田中がやってるイベント会社ですね。あそこの関係でテレビ局時代のそういうお仕事で因縁がなかったか等々お調べ頂けると助かります」
「…え、まりあ先輩が調べた方が早いんじゃ…」これにはお母さんもお父さんも顔面蒼白で慌てて止めに入ってたけどさ。
「ああ、確かにあたしかエマ子が能力フル発揮すりゃやってやれなくもないよ。下手すりゃベラ子でもできるだろ。けどな、今回はお父さんの嗅覚と人脈に頼る方が早いんだわ。それにこっちは警察をバックに出来るからね、関東メディアの総務時代より遥かに大胆に動いてもらえるぜ。少なくともマスタングの駐車違反を気にする必要はねぇ」
そして、ドアホンが鳴ったんだけど。
相変わらず服装の趣味のめちゃくちゃ悪い爺さんだなぁ、としか。
いい歳こいて緑と黒の市松柄のコートを誂えるのかよ。
しかもその中は黒一色なのはいいとして、何よその西陣織みてぇなド派手なネクタイはよ。
「よぅ宇賀神、嫁さん元気になって良かったじゃねぇか…、おい、高木さん来てんだったら来てるって言えよバカヤロー!」
「まぁまぁ田所さん、とりあえず今、うちの田中絡みの話をしてたところなんですよ」
「ええ、俺の…私の方にも結構色々な噂が流れて来てましてね。ちょっとその辺りの事を桔梗さんや宇賀神と話したかったのもあったんですわ。で…娘さんが同席でも大丈夫なんですか」と、この人には珍しくギョロ目をおどおどさせて聞くんだけど…うん、ここにいる猫の権太郎以外の全員、あたしが痴女皇国の上皇で実質トップなの知ってるから。下手したら権太郎も猫の知恵で悟ってるから。オイルサーディンで餌付けしなくてもあたしがモフりたくなったら向こうから来るし。
「ええ、雪子さんは今回、あたしの補佐役兼、実習学生の立場で同席してもらおうと思います。大丈夫ですよ田所相談役、ちょっとやそっとの反社が千人くらい押し寄せても、今のこの子一人でのしつけて梱包出来ますから。それに彼女にはうちの騎士団長や軍事責任者への緊急通報召喚権限渡してますし、有害要因接近監視対象です。安全は保証しますよ」
「しかし、見た目はうちの娘とあまり変わらんのに…瞳も目を回してましたよ」
「あー、あのカメラマンの娘さんか、今栃木でしたっけ」
「ええ、関東からの出向です。経緯も経緯ですから、うちの嫁も保護に同意してくれましたし」
「今時あんな犯罪ってあるのですわねぇ…」
「ま、少々の荒事は私たちは慣れてますので。そそ、こないだの北欧の映像、一般プレス向け編集ありがとうございました。なんせ今、うちの田中に名目特任与えてるし、山内からも映像素材の提供くらいしか出来なくて」言うまでもなく鯖挟国の後始末関係で、広報局は本来の諜報機関として全力で動かしてるからだ。
そして、それに乗じて痴女皇国の連邦世界向け広報業務も、宇賀神ちゃんのお母さんの会社に委託しようとしていてね。
うん、雅美さん外しの一環なんだ。
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