上 下
36 / 383

超極秘任務!M資金を確保せよ!

しおりを挟む
ども。
ジーナおばはんです。



木星帰りではなく、木星行きを娘たちが画策しています。それも革命蜂起や新人類ぬーたいぷ政権樹立とか崇高そうな話ではなく、もっと生臭い目的で。
…まぁ、国家資源確保名目ですけどね。

--------------------------------------------------------------------

(で。テンプレスはまだしも、何でレパルスまで連れてきた)

「スケアクロウ回収。あと絶対貨物室容積が不足する。鬼だけならまだしも、人間牧場の皆様も一時保護するんだぞ」

(…明らかに一千人超えとるやろ!当てはあるんか?)

「心配いらねぇ。大気圏離脱する前に寄るところがある。連邦世界の日本で言う愛知県三河田原市だ。さっきエマ子がまとめて十人卒化してただろ。あの人達のうち人間牧場組の千人はそこで降ろす。おかみ様経由で連絡は入れているが、痴女皇国籍の派遣者扱いだよ」

(おい…まさか…渥美半島やろ、そこ…)

「三河監獄国の工場だけど何か」

(人身売買ちゃうんか?大丈夫なんかよ…)

「いや、今回の鬼作戦で天竺諸侯もガタガタだろ?るっきーがミカエル連れて国回りしてくれるけど、あたしと監獄国の国主合同計画で綿花農場と紡績工場を立ち上げる話があってな、用地差し出させる予定。鬼から戻ってる連中とか、人間牧場から溢れた賎民や難民をなんとかして欲しければ計画に乗るがよい。連中の中にもしかしたら鬼がまだいるかも知れないから狩り出しを兼ねてるとか言ってな。ちなみに海洋蛮族連合王国とも、紅茶畑開発でタイアップしてる話だから」

(ああっマリ公が悪徳東インド会社経営に乗り出した!)

「うるせぇっまだアヘン製造やらねぇだけマシだろ!それに十人卒にしてる理由を察しろよ…飯代とか健康管理費用が結果的に減るだろうがよ…」

(なんでまたそんな話に…)

「いや、マリーを新人研修の内容改善に任命しただろ?その時に三河監獄国を見学したいと言われてな、猿投さなげときぬうら…碧南へきなんと田原の三箇所で実際に囚人に混ざって作業研修も受けたんだわ」

(おい!痴女どころか一人で三河監獄国滅ぼしそうなん行かしてどないすんねん!)

「いや、それがうちが改善を学ぶどころか、先方の工場をいくつか改善してきてな…しかもマリーには先方から食事は囚人から調達、翌日の勤務に支障がない程度ならOKという許可があらかじめ出ていてなあ。囚人のモラルと勤労意欲向上に多大な貢献を頂いて感謝に絶えないという工場長と国主連名の感謝状に、継続派遣の嘆願書まで来たぞ」

(その感謝のされ方が怖いねんけど…)

「まぁ、そういう訳だから玄奘以外はとりあえず仮死措置を施してレパルスに積んでいく。起きたら新天地で衣食住は保障してくれるから安心しろと言い聞かせているからな?」

(奴隷商人になっとる…痴女島に会社構えるとか言い出すなよ)

「安心しろ。NBにマリアンスタッフって会社立ち上げてる。例の痴女皇国か聖院移住・派遣プログラムの民間側受け入れ会社で、社長白かーさん」

(え。あたしに伝えてへんぞあいつ!泣かしたろか!)

「同じ人間同士で仲良くやってくれ…とりあえず田原沖に行くぞ…MIDI06、対象転移」

で、田原沖。

「おいっ何やねん!21世紀日本並みのコンクリっぽい岸壁やないか!しかもレパルスの喫水で底が当たらんって何メートル掘っとんねん…誰が田原工場まんまで作るんや…」

(おかみ様に決まってんだろが。あの人以外に比丘尼国でこんな大規模で先進的な土木工事、誰がやるんだよ)

ええ。テンプレスとレパルスが縦に並んで接岸できるくらい長くてでかい、自動車でも並べて積み出す気なのかというくらい本格的で近代的な岸壁が。

更に、上空のスケアクロウから見ると、屋根こそ木造ですが、江戸時代後期でも建設が難しいんじゃないかと思う長く広そうな工場棟群が広がっています。

聖院時代から比丘尼国を通じて罪人のやりとりもあったそうですが、これで自動車が行き来していたら昭和時代くらいには見えそうな光景です。

ちなみに監獄国の技術水準。

囚人票という、軍票まがいの簡易紙幣がここの通貨です。つまり、印刷技術持ってます。あと、ある程度の耐久性と耐水性のある紙幣が作れるのですね。

(うおーい。あそこ碧南に製鉄所作ってるぞー。それも試験的だが高炉な。石炭提供にはうちも噛んでるが。あと、筑前手榴弾国と筑豊仁義無口曲国に本格的製鉄所と炭鉱をセットで開発中)

「誰がこの時代から日本を未来に生きさせろ言うたんや!進みすぎやろ!」

(かーさん。一度マジに修学宮で教えてる内容、チェックした方がいいぞ?おかみ様が、あそこで習ったり講義聞いた内容とか、あそこの自習室でパソコン使って調べて勉強した結果を自国でやってるだけだからな?)

「あの人は何をやっとるのや…まだ淋の森で男引っ掛けて遊んでる方がましな気ぃするぞ…」

(してる。問題になりかけてるからそのうち初代様が話をしてくれる方向でナシつけてるから)

「やってんのかよ…とりあえずレパルスから囚人候補降ろしたらスケアクロウ収容してもらうわ…対潜哨戒設備の返却作業もあるし」

(それ、レパルス艦内でしてくれるぜ。つか荷室空けてもらわないと、後の作業に支障来たすんだわ)

「…何をする気や…」

(まぁ、損はしない話だ。というかエマ子のやらかしとか、例のテンプレスのリース料金に関わる話だからな。かーさんがダメと言ったってやるぞ。でなきゃ白マリがテンプレス貸してくれたり、NBが快くレパルスと対潜哨戒設備貸してくれるかよ。ちなみに今からあたしと白マリがやる作業の結果、今回の費用支払いもまかなわれるからな)

不安に満ち満ちた気分のまま、とりあえず港にスケアクロウを着水直前まで持っていきます。で、主翼を複葉モードに戻して、レパルス後部に着水。だいたいレパルスの想定主機推力軸線に対して90度の角度でスケアクロウを直交させる形で、精密移動モードに入れて後部扉の前まで前進させます。

で、レパルス後方のウェルドック兼格納庫扉が開いたのを確認して、スケアクロウを少し浮かせてから真横に滑らせて行きます。

向こうからガイドレーザーは出ていますが不安な数瞬。

格納庫上方から伸びてきたクレーンのアームで機体上面のスリングポイントを掴んでもらいますが、まだ垂直方向の推進慣性力と重力制御は切れません。今切ったら確実にバランス崩してスケアクロウは水中に沈みます。

そして艦内へ引き込み開始。

あらかた船内に引き込まれて、スケアクロウの巨体を吊り下げてるクレーンの基部…つまりレパルス船体との重量バランスが取れたところで、格納庫管制室の甲板士官から推進力カットと陸上モードでのギアダウン指示が来ます。

指示通りにスロットルオフ、主翼フロート引き込みとギアダウンをしてようやく、格納庫内に着地。

エマ子と二人で降機して、担当士官の差し出すタブレットボードに機体引渡しサインを入れると、白マリが来ました。

「とりあえず今から金星までの間にM型への装備交換してもらうから。で、母様とエマ子はテンプレスに来てください」

「へいへい。今から一体何をやる気や…」

「ま、行きましょ」白マリが転送を入れてくれます。

で、毎度おなじみ感もあるテンプレスのブリーフィングルーム。今回は既にテンプレス2世仕様なのでNBクルーは乗艦しとりません。聖院と痴女皇国の面子だけで操艦や船内管理をする必要あり。

「しかし、あちらの船もそうだが凄いものだねぇ。救世主ろんげ君が見たら方舟にしたがるかもね」外道ちゃんに憑依したままの元王子様が感心しております。

で、今回の主犯。玄奘のおばちゃん。

関係者各位が診察した結果、改心は本物とみなされ、痴女皇国への亡命希望者として取り扱う話にしました。

ちなみに李自成も似た措置になり、帮の連中や一揆の主力ともども比丘尼国預かりとなりましたが…筑豊修羅口曲国に送られて、筑豊炭田開発や長崎沖に建設中の人工島経由で海底炭田掘削に従事するそうです…。だから未来に生きるなよ日本!本当なら尻味噌タヌキが江戸幕府開いたくらいだろ!

「ったく、この時代から端島ぐんかんじまこさえてどないすんねん。鉄筋はまだしも、護岸壁とか建物用のコンクリートあるんかよ…」

「美祢と揖斐で石灰石掘ってるらしいよ。ついでに美祢から宇部まで私有街道うべこうさんどうろ作って鉄道牛車で石灰石を」

「だから未来に…」

まあ…諦めるべきでしょう。

比丘尼国は何だかんだ言って、親しくお付き合いはしていますが他国です。

過剰な内政干渉はよくありませんし、我が痴女皇国が過激に未来に突き進んでしまわなければ良しとしましょう。

しかし、次の話が驚愕ものでした。

未来に生きるどころではありません。

おい娘ども、ちょい待てや。

「いや、感心して貰うのはこれからですよ。今からちょっと暑い場所と、割と寒い場所に行きますから。実は聖院の女官教育担当者と、騎士教育担当者がこの度結婚する事になりましてね。で、本当ならタージマハールで挙式してやりたかったんですが、愛の星とされる金星をバックに挙式してやろうかと」

ええ、ここまでは良いと思うんですよ。

今、インドの中、ごちゃごちゃしてますし。


(白マリ、そういう訳だから艦内で挙式の段取りをよろしく頼む。その間にあたしと、うち側のエマ子はMIDI使って金星地表を弄ってあれをやるからな)

(今回の分は主にうちの分よね…なるべく大量に頼むわよ…)

(ああ。目標は三千だ…)

で、誰の式かというに。白ダリアとマリー。

この組み合わせで挙式するに当たり、この場では一番霊験あらたかそうな方は…うん、ちょっと宗派が違う感じがしましたが、憑依先を玄奘のおばちゃんに変わってもらってお化粧とかしてあげて、それなりのご立派そうなお姿になって貰ってっと。

「はぁ…恐れ多くもこの罪深い今の拙僧が釈尊にお宿り頂くなどとは…」

(いいのいいの、みんなが了承してるんだし)

ええ、元王子様として、祝言を頂く事にしました。

で、今でこそ古巣の痴女宮に来て貰っていますが、マリーの現在の所属は聖院。

夫役のダリアも聖院所属の白ダリアです。

なもんで、聖院関係者全員出席で聖院巨瀑宮の大講堂を使った挙式が本当は相応しいと思うのですが、聖院所属艦のテンプレスの格納庫を使って挙式演壇を組み上げて臨時の式場にします。

…他に大きい部屋、ないのよ…艦長公室&提督室付属食堂兼会議室も10人くらい座ったら満員だし狭いし天井低いし…。

で、テンプレスでの挙式光景、聖院大講堂に集まった皆の前にリアルタイム中継することになりました。

『ヘイヘイーこちらサリー。見えてますかー』

「おっけー。そっちの光景もばっちりだぜ」とまぁ、用意も済みまして。

(よしかーさん。格納庫区画閉鎖扉が全部クローズしたら与圧抜くわよ、注意してね)

(あいよー。エレベーター部限定でシールド発生頼むでー)

…そうです。艦載機エレベーターの上に演壇組んでます。

あたしの手に持った甲板要員用操作リモコン、ぽちっとな。

エレベータの上だけは気圧維持してますし、今回の参列者は全員、痴女種です。

そしてエレベータが停止すると、フライトデッキ。

つまり飛行甲板です。

宇宙空間です。

んで、テンプレスと、並んで相対静止しているレパルスの正面には…薄く茶色がかった白い雲に覆われた金星が。

そう、金星をバックに挙式。

これ自体はとても素晴らしい挙式内容だったと思うのです。

(…人種も身分も違うお二人とお聞きしておりますが、そうした垣根を乗り越え、お二人の未来を築かれる事を願って止みません。短いお話になって恐縮ですが、拙僧からの挨拶を終わらせて頂きます。皆様もお二人に祝福の拍手をお送り下さい)ってな感じで、元王子様に言葉を貰ったり。


(金星をバックに誓いの言葉というのも誠に聖院関係者の挙式としてよろしい物があるかと存じます。では、ここで聖院関係者の挙式では恒例の例のあれを、新婦のマリーさんはよろしくお願いいたします!)とか、あたしの体を白うちに使わせて、「あの」儀式を宇宙空間…それもかなり太陽に近いところでやらせたりとか。

で、エレベータを再び格納庫区画に降ろそうとした時。

…金星の雲が何やら、変な動きをした気がしました。

金星自体は太陽に近い軌道を巡っている事もあり、サイズ的には地球とほぼ同じなのに全く違う表面条件だというのは、天文学をかじった人でなくともご存知かも知れませんね。

地球の月のような衛星を持たないだけでなく、雲の上層部は時速400kmに近い高速の風が吹き荒れています。そして二酸化炭素が主成分の大気の中に出来た厚い雲の成分は…硫酸です。とどめに地表付近の最大気圧は92。ざっと地球の92倍ですよ。

そんな、地球人からすれば異様な環境なので雲の形が変わったくらいで、ガタガタ言う事もないのでしょう。

あたしはそんな軽い気持ちでした。格納庫にエレベータを下ろすまでは。

ええ、テンプレスの航海艦橋の遠隔モニタリングシステムからの警報、もっと注意して見ておくべきでした。

格納庫内の空気を再充填してからエレベータを下ろした先の格納庫の区画封鎖シャッターを開いた際に見えたものを見た瞬間に「ああ、黒マリと黒エマ子がゴソゴソやってたのはこれだな!」と思いましたから。

新郎新婦の二人や、あたしを含む参列者は全員、なんじゃこれはと信じられない光景を目にしています。

ですが、たった一人落ち着き払っていた女がいました。

白マリです。

で、母親として以外にも様々な立場で不正取得を疑わざるを得ません。

「おいマリ公。これは一体何やねん」

「見ての通り、元素記号Auの塊。純度99.9%で総質量3千トンはあるわよ」ええ。この女は、目の前の格納庫にずらっと並べられた棚に載せられた、金色に輝くインゴットの中の一つを手に取ってあたしに見せます。

「いや、それは見ればわかる。だが何でこれだけの量がここに」

「三千じゃねぇ、ま、ざっとで六千トンはあるぜ」黄色いヘルメットを被り、ドカシャツ軍手ニッカボッカ安全靴姿の黒マリと黒エマ子が姿を現します。

「ふははははは、何億年も前に火山活動が終了してるから作業は楽だったぜ。元素抽出、クロスのおっさんにも手伝わせたから楽できたしなぁ、大漁大漁」

「ですよねーねーさん。あとはイオの分がどんだけになるかっすよねー」首に巻いたタオルで汗を拭き拭きエマ子。つかお前ら、汗かくのかよ。

「はっはっはっはっはっ、金星表面の地層構造が地球の類似だってのは本当だったなー」

「うはははははは、地球同等ならあと5回くらいはこれと同じ量が期待できますよー」

「おいお前ら。話の内容からして金星で金を掘って来たのは察する事が出来るんだが、この淫語っと…いや、インゴットの山は何やねん」

「だからこれがテンプレスのリース料の供託保証金代わりなんだよ。このうち三千トンは聖院の預金としてNB国立銀行の地下金庫室に行くからな。あと三千トンは同じく、痴女皇国分の預金だ」

「…何じゃそれは…というか金星を勝手に掘っていいのだろうか…」

「この時代に天体条約のようなものはねぇ!掘ったもん勝ちだ!何なら金星の領有権を主張してもいいぞ!」

「というか玄奘のおばちゃん他全員、固まっとるがな」

そんな訳で全員を船室に何とか案内した後、あたしと白マリとマリ公とエマ子は航海艦橋に。

「で。もう一個、行きたい場所がある。こっちもかーさんが止めても行く」

「…もしかして、ダリアとマリーの新婚旅行って…」

「安心しろ、流石にNBに連れて行かねぇよ。行き先は木星だ」

「木星って…あの大赤斑がある?おい…木星そのものちゃうよな?用事があるんは…お前、あの近くはテンプレスやレパルスでもヤバい場所なの知ってるやろ…木星の周り、場所によるが基本的に致死量の磁場多数、マグネター並に危ないねんからな?」

「安心しろ。公試であそこみたいな星に接近してデータ取ってる。NBの第六番惑星にちょうど木星まがいがあってな。対磁界・放射線シールドが機能する有効接近限界のデータもあるし、今回あたしと白マリが行きたがってる場所は十分にその範囲内だ。だいたいエウロパまでは確実に寄れるよ」

「ねーさん。レパルスとスティックス・ドライブ転移座標シンクロ確認しました。行きますよ」

「よし、行くぜ。次は幸運の星、木星だ。縁起のいい場所を新郎新婦に見せてやろう」



「ほいで…行く場所どこや。ガニメデかカリストかはたまたエウロパか…タイタンは土星やったな」

で、とりあえずスティックスアウトした先は後方トロヤ群を越えた木星公転軌道。ただいま後方から木星を追尾中。

土星ほどはっきりしていませんが、木星にも輪っかがあるとか、あちこちにぷかぷか浮かぶ…と言ったって、間隔は数百数千キロのオーダーですが、衛星とすら言えない岩塊とか氷塊を避けながら微妙に減速を入れていきます。

無論、神秘的な外観の木星を艦内や聖院で、宇宙空間お初の人に見せるためです。

「これを後の世でイタリア人が…」ベラ子と、臨時で呼ばれたるっきーが航海艦橋前方に広がるどでかい木星の展望に感動しています。無論、玄奘のおばちゃんも、憑依中のブッダなお方も。

「存在自体は有史以前から知られていたが、天体望遠鏡の発明に伴い観測情報が集まったんや。ガリレオが発見したのは、今から行く衛星群やね」

「この星で、どれくらい巨大なんだろうね」

「地球の12倍の直径で質量は300倍以上。大気組成は水素8割メタン2割未満。直径が12倍もあんのに、自転速度は10時間と地球の24時間の半分未満やから重力圏も半端ないのよ。んで強力な重力に引かれて岩やら氷やらが集まって輪っか作ったり、あそこに見えてる衛星…エウロパの氷の海から火山のように噴き出る蒸気や、イオにある火山の噴火ガスを吸い寄せて有害な電磁波圏を周囲に作ってるねん。あたしが昔乗ってた民間貨物船やったら、イオに近づくくらいが限界。それも長期間はおれん」

「オーロラは…極地のオーロラが観測されないって事は磁気嵐はそんなにきつくはないか」土木作業スタイルのままの黒マリがセンサーを向けて慎重に接近軌道を決めようとしています。

「この時代、大赤斑はそんなにでかくないな。確かこの後、一時的に消滅した時期があるはずだぜ」

「でかくないって言っても地球くらいは充分ありますよ…あれ、一種の台風みたいなものですからね。MIDI降ろすならエオン以外無理っす。クロス叔父貴でも全シールドフル展開・重力場操作でないと厳しいだろーなー」

「というか物理的にあそこに落として壊れずに内部に到達する観測機器の方が珍しいわ。で、マリ公。お前らがイオに降りた後、あたしらはイオの周回軌道に乗って待ってたらええんやな?」

「あいよ。火山噴火は抑えるようにしてもらうが…」

「ふふん。これは全部さらえたら一万トンは取れそうですが…マリアリーゼ、とりあえず目標は六千トンで行きましょうか」

「了解です初代様。ぐふふふふ」そうです。マリ公、初代様まで呼びやがりました。

「あ、あと…レパルスに移した金塊、例の黒化処理しておきましたよ…初代様かマリアねーさんでないと解除は出来ません。NBに着いた時点で呪い発動。NB国立銀行の金庫室に帰りたいと、周囲の人間に語りかけるクソウザ機能ですから実害はありませんがっ」

「…何やねんそれ…」

「精製時に不純物内にナノマシン化して入れといたんです、八百萬族因子。で、NB国立銀行の金庫に入れると喚かなくなります。再鋳造しても無駄なようにしてますよっ」エマ子、だからそんな機能を自慢げに言うな。

「いや、勝手にあたしらの供託預金処分すんなよと、お祖父様に言う代わり。向こうも呪いの金塊を保管できると喜んでる模様」

「いくらオカルト好きの英国人でも喜ぶ内容に問題ありすぎやろ…」

「とりあえずイオに近寄るぜ。エマ子、ショートカット頼む」

「ちょっと待ってください。…この時代って、まだ木星域の掃海、手掛けられてませんよね…」

「ん?やってないやってない。ラムスクープ掃海でプラズマトーラス除去やろ? まぁ当たり前やけどしてないよ」

「イオ周辺、特に軌道上に高濃度放射線帯域がありますよ。イオから噴き出してる火山ガスが木星重力に捕まって、一種の均衡状態を作られてイオの公転軌道上に滞留してるんですよ。これ、少なくともレパルス側には危険なんで少し離れていてもらいますよ。テンプレスも…あたしたちMIDI準拠体はまだしも、格子構造シールド張ってもゼロ被曝は無理かも知れません。イオの公転軌道の影響範囲外…エウロパの公転軌道よりやや内側から、あたしたちがアプローチします。初代様…お手数ですが、外道ちゃんでなく、あたしに入ってもらえますか?」

「あーそっか、外道ちゃんは鬼だから放射線の影響が懸念されるよね」うんうんと白マリ。

「あの星はそんなに危険なのですか」アルトくんが不安そうに、拡大されたイオの画像を見ています。白黄色の霜状になった硫黄の雪原、というと分かりやすいでしょうか。

「うむ、連邦社会でもイオの開発はためらわれているのだよ…生きてバンバン噴火してる火山が400くらいあるから、金銀に鉄など豊富な鉱物資源があるのははっきりしているのだが、生身の人間は元より普通の船外服…宇宙服でもヤバいんや。TAPPS着用でようやく何とかというくらいやなあ」

「ほうほう。今近づいてるえうろぱでっか、あれが氷地獄なら、いおは溶岩地獄みたいなもんでっか」

「ちょっと掘ったらすぐ溶岩が噴き出る。んで、木星の重みで土の中が地球以上に落ち着いてない、言うなら熱々の半熟ゆで卵状態なんよ。んで、噴火した火山から噴き出た瘴気が木星の重力に捕まって、この辺り一帯をヤバい宙域にしとんねん。ラムスクープ船という、掃除機みたいな船で昔はよその星まで行っててんけど、その船の一隻を清掃船に作り替えたものがあってな。それを走らせて定期的に木星圏の清掃をやってるよ。あたしらの時代にはこの辺りに人が住む場所がいくつもあるんやけど、その人らに必要な水はエウロパから採掘してるねん、氷の形で。その作業は元より、住むのにも差し障りがあるんよ、イオの噴火活動」

「なるほど、玉藻のおばちゃんみたいな星ですな。帰ったら冷やかしたろ」

「考えてみたら外道ちゃんて、初めて宇宙に出た鬼になるんちゃうか。まぁ、地球が地球になる過程の若い状態の星とか色々とあってな、この近所は」

「土星という星は木星よりは安全なんですか」

「うーん、あれも金属水素が内部で発電作用を出しとったな…ただ、木星よりは磁石の力は低い。低いねんけど…ガリレオのおっさんより遥か前に存在がわかっていた例の土星の輪。あれがあるからな」

「あの輪は一体なんなんでしょ」

「探査機が飛ばせるようになって正体がわかった。一言で言うたら氷や石。大きさは家一軒くらいとか色々あるけど、小さな星が砕けた破片とされるものが土星の重さに捕まってあの輪っかになっとんねん。ちなみにその手のかけらはみっちり敷き詰められてなくて、近づいたら数百キロ…ローマからフィレンツェやピサくらいは離れてるよ」

「しかし、こうして見ると、私たちの住む世界…星ですか。それが本当に偶然の奇跡で生物が生まれたという講義内容がよく分かりますな」元王子様が感慨深くおっしゃいます。

「木星にしても土星にしても、あともう少し大きくなっていたら太陽のように自ら光っていた可能性があったんですよ。今の、まぁ言うなら火をつける前の木のような状態ですら地球の比でなく、様々な目に見えない力を発しています。それをよく知っておかないと、さっきエマ子が言っていた生身の身体に悪さをする場所に、そうとは知らずに足を踏み入れてしまうのですよ」と、仏様に説法といいますか、宇宙の物理を説いてみましょう。

「これはでも、科学技術を理解しないとこの光景を納得することすら難しいですわよ…ダ・ヴィンチ様でも唸っていたかも知れませんわねぇ」

「ちなみにガリレオ先生、この世界だといずれ修学宮に招く予定なのだが、連邦社会の歴史だと、例のいえめん宗教の異端審問でお前何言うとんねんと糾弾され、自分の説を放棄しろと迫られた」

「どっちが正しかったのでしょう」

「ガリレオ。地動説…地面が回っているのがガリレオの主張。で、バチカンは地面固定、星が勝手に動いていると主張していた」

「地震や火山という地面の揺らぎが、星が動いたり星同士のからみで生まれる動きという実例を見ますと、聖院が宗教を危険視していたのがよくわかりますわね。月が潮の満ち引きに関わるとか、普通は思いつきませんものね…」

「人の身でかような場所に立てるとは、という感想しかありませぬ。西域の砂漠や山脈も人を寄せ付けぬ場所でしたが、こちらはもっと壮大ですからなぁ…」

「ま、あたしらにしてみたらいつもうろつく訳やないけど、生活圏ではあるのよ」

(かーさん、イオから採取した。六千取れたわ。今、製錬と放射能除去作業中。それが済んだらインゴット化してテンプレス格納庫に転送するぜ)

(やっぱり放射線量きっついっすわー。マリアねーさんともども、一度身体を再構成しないとあたしらが放射線源になってしまいますねー)

「この手でイオ開発出来るでって、連邦に提案したろか。わはは。ま、お疲れさん」

(イオから抽出した分は聖院と痴女宮で半分ずつ保管。今回のリース料騒動みたいな財務危機が起きた際の資金にするから使っちゃダメよ!)

「へいへい、三千トンでもだいたいIMFの保有金塊量、地球埋蔵金の12分の1くらいか。日本円換算でだいたい13兆円やな。これでも国によっては国家予算を賄えんというからなぁ」

(それ以前に大航海時代のスペインの二の舞だぜ。こんだけの量の金をばら撒いたら、デフレ起こす気かって、たのが絶対怒ると思う)

「あと、こんだけの金、どこに隠しとくんや。テンプレスに積んだままにできんやろ」

(大丈夫ですわよ。その手の事に適した場所がございます。エマ子は地下遊水池に隠すつもりだったようですが、あそこは発電設備を使いだすと水で満たされますから…)

「盗難防止措置とか大丈夫なんですか、そこ」

(ほほほほほ、ご安心めされ。えぬびーに渡すもの以上の黒い呪いが入りますわっ)

「なーんか、それでどこに隠すか見当がつきましてんけど…どんな呪いですの」

「金が嫌いになりますのよ」

「何とびっくり」

と、そこにマリ公とエマ子がド○タスタイルで帰還してきました。

「いやー、それなりに難物だったなー。湯の花入れた風呂に浸かりたい気分だぜ」

「お前ら風呂いるんかよ…あと、イオの硫黄で温泉の素作ってへんやろな…」

「何だよその駄洒落宗の駄洒落みたいなのは。流石に放射能汚染がきついんだよあそこの硫黄。あ、マリーとダリアにお祝い品作ったから。みんなにも引き出物あるぞ」マリ公が千両箱から何かを取り出します。

「はい、ダリアはこれ。マリーのサイズと形を忠実に再現。で、マリーにはダリアサイズで」

「…た、確かにこの世にこれしかないと申しますか…」

「再現性が高すぎですよ…あと金だからものすごく重いです…」

「ベラ子これな」おい。

「まぁ、これはラスプーチンサイズ!家宝にしますわっ!」…確かに、2kgは絶対ありそうなので一千万円くらいの資産価値はあるんでしょうけど…。

「これを柄にして宝剣を仕立てたいものですわねぇ」…ええ、いつものあたしなら絶対、何考えとるねん作り直せ別のもんにしろと叫ぶところです。ですが。

「初代様。念のためダメ押ししますよ。これで行くと決めたのは」

「はいっ、あたくしです!聖母様が頭を抱える反応まで織り込み済みですわよ。痴女皇国主催の結婚式ですから聖院の方にも従って頂きますわっ」

ほほほほほと高笑いされるエマ子憑依の初代様。

うん、この方の隔世遺伝の一例がクレーゼさんだった気がします。

(言っとくが、あたしは止めた。一応止めた)

(同じく。張型に使うにしても比重めちゃくちゃ重いから、ダンベル振り回すようなものですよ?)

(皆まで言うな…)あたしの前に漂う、ぴーたーのーすなそれを眺めます。

「まぁでも、再現性は本当に素晴らしいですわよ。何でしたら聖母様の実物と比較」

「ああっこの展開やめてーっ!」同じくラスプーチンを支給されたルクレツィアさんが、あたしの股間を開いて調べようとします。

木星圏内でやる事としては不謹慎極まりない気がしますが、痴女皇国の面子だから仕方ない…。


…な訳あるかーっ!

--------------------------------------------------------------------

ジーナ「しかし後世に影響は出ぇへんか心配で心配で」
黒マリ「大丈夫だって。だいたい信用経済下でキャッシュレスな時代に金なんて信用資産の一つでしかなくなるし、金星もイオも恐山の高品位金鉱と同じで、普通に掘ったら全く採算ベースに乗らねぇじゃん。つまり手出しされる危険はないから心配すんなよ」
白マリ「あと、重ねて言うけどこの金は日本の保有する外国債、特にドルなそれとか日銀金庫の金資産と同じで使うお金じゃないからね?」
てるこ「しかし不思議なんですわよ聖母様。あたくし、クラが立つ火山をいじり回したり、他であれこれして貯めた金を…聖母様に分かりやすい単位で申しますと千トンは孫子の為に残したはずでして…マリアたちも知らない聞いてないと」
ジーナ「え。あたしもクレーゼさんからは聞いてませんね」
てるこ「ちとお待ちを。…そっくり手付かずです」
白マリ「…初代様、かーさん。わかったわ。多分、デルフィリーゼお祖母様、クレーゼ母様の浪費を警戒して伝えてなかったと思うの…」
黒マリ「確かにクレーゼ母様の浪費癖を考えると、ありえない話じゃないな…」
てるこ「あと、多分隠し場所を探す気にならなかった可能性がありますわね。というのも、長らくクレーゼは墓所出入り禁止でしたでしょ。あそこに行きさえすれば金衣なら怪しむように場所を作りましたから」
ジーナ「だいたいどこにあるかわかった…」
てるこ「ちなみにエマニエルが最初、隠し場所にしようとした地下遊水池への点検通路にも繋がっていますのよ。ただ、プラウファーネですらあれは見つけられないようにしましたので…」
黒マリ「まぁ、お陰でクレーゼ母様に使い込まれずに残ってたからいいんじゃないですか。母様なら下手したらデフレになるのに気づかず、ぱーっとやってしまう危険が」
ジーナ「確かにクレーゼさんならやりかねん…」
黒マリ「ちなみにたのは職務上、知る事になる。知りとうなかったと泣くのも読めている」
てるこ「まぁ、浪費防止の呪いは入ってますから、家族会未承認では持ち出せませんが」
ジーナ「たのちゃんの泣き顔が今から浮かぶ…」
黒マリ「この話は近日、こんにちは、マリアかアルト枠の可能性があるが書かれる予定だからお待ちください」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

変身シートマスク

廣瀬純一
ファンタジー
変身するシートマスクで女性に変身する男の話

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...