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プロローグ

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       ※※ プロローグ ※※


 最初の砲火が交わされて十四時間二十七分、すでに勝敗は決したのも同然だった。
 無数の艦砲が暗澹あんたんとした空間を交錯するたび、味方のふねは白銀色の熱エネルギーを無秩序に四散させながら、次々と漆黒の宇宙うみへ沈んでいく。

 対生成ついせいせい消滅炉しょうめつろに直撃を受け、呆気なく四散するふね
 凝集ぎょうしゅう粒子砲のシャワーの中を小破、中波と傷つきながらも奮闘し、ついには轟沈ごうちんし果てていくふね。 
 損害こそ小さいが乗組員の大半が戦死して自沈するふね……。
 やがて、それらは宇宙うみ藻屑もくずとなり、あるいは原子へとかえっていった。
 そのきらめく閃光は艦橋ブリッジの上部をおおう360度スクリーンの光量を、自動モードに調整しているにもかかわらず、艦内を桃白く照らす。前部の大型戦術ディスパネルがまぶしくて見えないくらいだ。が、それだけ火線が後方部隊に所属する、この戦艦『たかね』に近づいている証拠と言えた。

「はてさて、後方ここもどうなる事やら……」

 全天にひしめく爆発と合成粒子の彗星を程よく見飽きたところで、あたしは視線を横に逸らす。と、その先で丁度巡航艦が数隻追い抜いて行くのが見えた。
 おそらく、敵がこの宙域ポイントに殺到する前に防御陣を構築する算段なのだろうが、現時点で全艦艇の約四割を失い、残り六割のうち八割が中波もしくは大波して、実質上全体の半分にも満たない戦力で維持しているのが現状だ。しかもそれが破られるのも時間の問題だろう。
 こんな状況下で司令部はいったい何時まで悪あがきを試みるつもりなのだろうか? もはや敗北は決定的だし、まして劣勢なんか覆しようもないのに……。
 このままだと冗談抜きで生きて帰れるか甚だ疑問が残るというもの……。
 しかし、軍隊という組織において個々人の感情や思考は許されない。一部の高級軍人に全体の未来が委ねられる、いわば運命共同体だ。そういう場所とこなのだ。

(……でも) 

 あたしは心に宿るよどんだ気分を換気するするため、無意識に頭を左右に振る。耳元で綺麗に切り揃えた栗毛色の髪が、はらりと触れた。
 そして、自分の端末に送られてくる情報データの分析に専念しようとする。しかし、集計化された味方の惨状を見るにつれ、更に色濃くなる不安の密度を脳裏で意識した。

「……希望の一片も見いだせやしない。これじゃあ『一将功成らざりて万骨は枯る』だわ」

 げんなりとした面持ちで再び上部360度スクリーンに視線を投げた。
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