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終章
第32話②【第一幕・了】
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「は、はぁぁ……たすかっ…………た…………」
インペリウスの炎が完全に消えた頃、タキオンは極度の緊張が解けて力が抜けるように足元から崩れ落ちた。
「タキオンッ!!」
デュボイズが咄嗟にタキオンの体を抱き寄せる。少年の身体はずっしりと重く、全身に力が入らない事を物語っている。
「デュ、デュボイズ……さま……ホントに、デュボイズさま……?」
「よく頑張ったな。ずっと、天上界から見守っていたぞ……」
その言葉に、タキオンはデュボイズを見つめて思わず大きな涙が溢れ出した。
「ずっと待ってたんです……毎日毎日会いたくて、でももう無理なんだって無理やり言い聞かせて……ボクは、本当は……寂しかった……辛かった……」
「タキオン……」
「また消えたりしませんよね? 遠くに行っちゃうなんて事、ないですよね?」
「あぁ……勿論だ」
「じゃ、じゃあ……ずっとボクの隣にいてくれますか? 離れないって約束してくださいますか……?」
「あぁ……私はその為に地上界へ戻ったのだからな」
デュボイズはタキオンを砂の上へ静かに立たせると一歩引いて跪き、右手を胸に当てて深く敬礼した。
「ここに宣言する。私は天上人、デュボイズ・エアウィッカー。私は聖剣を持つ勇者を導き、ファンジェレル大陸を脅かす魔王ノスフェラトゥをもう一度封印する為に地上へ舞い戻った。神より今生の使命を仰せつかり、これからも勇者タキオン・ランドルフと共に世界を救う為、この身を捧げる」
デュボイズが誓いの言葉を言い終えた時、雲の間から黄金の陽光が二人を照らし出した。それはまるで、天から見守る神が二人を祝福している様にさえ思える。
天上人デュボイズの言葉は、見守っていた兵士達全員が聞き証人となり、一瞬の静寂の後、その場に居た全員が声を高らかに上げて神の祝福に沸き立った。
「天上人が我々を助けてくださったぞ!!」
「やはり神は俺たちを見て下さっている! だからこうやって天上人や勇者様が現れてくれたんだ!!」
「あぁ、生きてるうちにこんな素晴らしい光景を目の当たりに出来るなんて……なんと御利益のある事か……!!」
兵士達は飛び上がって舞い上がる者、深く礼拝し空に向かって涙を流す者、皆思い思いのままに天上人・デュボイズの神々しい登場を喜んだ。
そしてここにもう一人。兵士達よりも心の奥底から幸せに満ち溢れる男がいる。
「デュボイズさまぁぁぁ!! うわぁぁぁん!! デュボイズさまぁぁぁぁぁ!!」
タキオンは倒れ込むようにデュボイズの胸元に飛び込んだ。
この感触、温かさ、少し薬品の混じった彼特有の匂い、全てが胸が込み上げる程愛おしい。
愛する人との突然の別れから二年半、何度も独りである事で挫けそうになり数えきれないほど涙を流した。デュボイズが居ないというだけで体が震えた。それでも、聖剣インペリウスの保持者として、この世界の勇者として、常に身を奮い立たせて魔物と対峙しようと奮闘してきた。
だが、デュボイズの存在だけでこんなにも安心感があるとは思いもしなかった。低めの落ち着いた優しい声。この懐かしい声を聞くだけで、今まで張り詰めていたものが綺麗に解けていく様だ。
「タキオン……遅くなってすまなかったな……私もずっと会いたかった……」
「ぐすっ!! デュ、ひぐっ、ボイズ……さまぁぁぁ! 遅いですよぉぉ!! ふぇぇぇん!! うわぁぁぁん!!」
「そう思うよな……私も本当はもっと早くお前の元に戻りたかったのだ。だが、お前も私も試されていた」
「ふぇ……試されて、いた?」
「そうだ。私達は神に試されていたのだ。お互い独りになって、それでも道を外さず己の使命をこなしていけるかを。私とお前は、心を鍛えなければならない期間が必要だったのだ……」
「じゃあ、神様はボク達を認めてくださったんですか?」
「あぁ、そういうことだ」
デュボイズは胸元に埋もれるタキオンの小顔と艶やかな紅髪を両手で包み、自身の目の前に顔を寄せた。涙など殆ど見せた事の無い彼も潤む瞳で目元を綻ばせながら、愛おしく麗しい少年を見つめて声を振るわせた。
「――立派になったな、タキオン。以前より筋肉も付いて、剣技も様になっていた。一人で頑張ろうと、努力したんだな……」
「――うぅっ、デュボイズさまぁぁ、デュボイズさまぁぁぁぁ、ふぇぇぇぇぇん」
タキオンは心が満ち溢れすぎて言葉にならなかった。一番認められたい人に、一番言って欲しかった言葉をやっと言ってもらえた。今までの孤独と苦悩が全て報われた瞬間だった。
タキオンは滝の涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、愛する人を見つめた。そしてデュボイズの優しい両手に促されながら、もう一度二人で強く抱きしめた。
もう絶対に離れない。デュボイズがいれば、タキオンがいれば、どんな苦境にも勇気が湧いて力を合わせて立ち向かっていける。
魔王ノスフェラトゥを再び封印するまで、きっと辛い事も危険な事も数多く出くわすのだろう。しかし愛する人が傍にいれば、善の力は何倍にも膨れ上がる。
「――タキオンよ、私と共に生きてくれるか?」
その言葉に、タキオンは抱き締める力を更に強め、嗚咽で乱れていた呼吸を引き締めて力強くこう応えた。
「はいっ!! ひぐっ、ふぐっ……この命を全うするまで、デュボイズさまと永遠に一緒です!! 僕はデュボイズ・エアウィッカーさまと共に、ファンジェレル大陸を元の平和に戻していきます!」
【第一幕・了】
インペリウスの炎が完全に消えた頃、タキオンは極度の緊張が解けて力が抜けるように足元から崩れ落ちた。
「タキオンッ!!」
デュボイズが咄嗟にタキオンの体を抱き寄せる。少年の身体はずっしりと重く、全身に力が入らない事を物語っている。
「デュ、デュボイズ……さま……ホントに、デュボイズさま……?」
「よく頑張ったな。ずっと、天上界から見守っていたぞ……」
その言葉に、タキオンはデュボイズを見つめて思わず大きな涙が溢れ出した。
「ずっと待ってたんです……毎日毎日会いたくて、でももう無理なんだって無理やり言い聞かせて……ボクは、本当は……寂しかった……辛かった……」
「タキオン……」
「また消えたりしませんよね? 遠くに行っちゃうなんて事、ないですよね?」
「あぁ……勿論だ」
「じゃ、じゃあ……ずっとボクの隣にいてくれますか? 離れないって約束してくださいますか……?」
「あぁ……私はその為に地上界へ戻ったのだからな」
デュボイズはタキオンを砂の上へ静かに立たせると一歩引いて跪き、右手を胸に当てて深く敬礼した。
「ここに宣言する。私は天上人、デュボイズ・エアウィッカー。私は聖剣を持つ勇者を導き、ファンジェレル大陸を脅かす魔王ノスフェラトゥをもう一度封印する為に地上へ舞い戻った。神より今生の使命を仰せつかり、これからも勇者タキオン・ランドルフと共に世界を救う為、この身を捧げる」
デュボイズが誓いの言葉を言い終えた時、雲の間から黄金の陽光が二人を照らし出した。それはまるで、天から見守る神が二人を祝福している様にさえ思える。
天上人デュボイズの言葉は、見守っていた兵士達全員が聞き証人となり、一瞬の静寂の後、その場に居た全員が声を高らかに上げて神の祝福に沸き立った。
「天上人が我々を助けてくださったぞ!!」
「やはり神は俺たちを見て下さっている! だからこうやって天上人や勇者様が現れてくれたんだ!!」
「あぁ、生きてるうちにこんな素晴らしい光景を目の当たりに出来るなんて……なんと御利益のある事か……!!」
兵士達は飛び上がって舞い上がる者、深く礼拝し空に向かって涙を流す者、皆思い思いのままに天上人・デュボイズの神々しい登場を喜んだ。
そしてここにもう一人。兵士達よりも心の奥底から幸せに満ち溢れる男がいる。
「デュボイズさまぁぁぁ!! うわぁぁぁん!! デュボイズさまぁぁぁぁぁ!!」
タキオンは倒れ込むようにデュボイズの胸元に飛び込んだ。
この感触、温かさ、少し薬品の混じった彼特有の匂い、全てが胸が込み上げる程愛おしい。
愛する人との突然の別れから二年半、何度も独りである事で挫けそうになり数えきれないほど涙を流した。デュボイズが居ないというだけで体が震えた。それでも、聖剣インペリウスの保持者として、この世界の勇者として、常に身を奮い立たせて魔物と対峙しようと奮闘してきた。
だが、デュボイズの存在だけでこんなにも安心感があるとは思いもしなかった。低めの落ち着いた優しい声。この懐かしい声を聞くだけで、今まで張り詰めていたものが綺麗に解けていく様だ。
「タキオン……遅くなってすまなかったな……私もずっと会いたかった……」
「ぐすっ!! デュ、ひぐっ、ボイズ……さまぁぁぁ! 遅いですよぉぉ!! ふぇぇぇん!! うわぁぁぁん!!」
「そう思うよな……私も本当はもっと早くお前の元に戻りたかったのだ。だが、お前も私も試されていた」
「ふぇ……試されて、いた?」
「そうだ。私達は神に試されていたのだ。お互い独りになって、それでも道を外さず己の使命をこなしていけるかを。私とお前は、心を鍛えなければならない期間が必要だったのだ……」
「じゃあ、神様はボク達を認めてくださったんですか?」
「あぁ、そういうことだ」
デュボイズは胸元に埋もれるタキオンの小顔と艶やかな紅髪を両手で包み、自身の目の前に顔を寄せた。涙など殆ど見せた事の無い彼も潤む瞳で目元を綻ばせながら、愛おしく麗しい少年を見つめて声を振るわせた。
「――立派になったな、タキオン。以前より筋肉も付いて、剣技も様になっていた。一人で頑張ろうと、努力したんだな……」
「――うぅっ、デュボイズさまぁぁ、デュボイズさまぁぁぁぁ、ふぇぇぇぇぇん」
タキオンは心が満ち溢れすぎて言葉にならなかった。一番認められたい人に、一番言って欲しかった言葉をやっと言ってもらえた。今までの孤独と苦悩が全て報われた瞬間だった。
タキオンは滝の涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、愛する人を見つめた。そしてデュボイズの優しい両手に促されながら、もう一度二人で強く抱きしめた。
もう絶対に離れない。デュボイズがいれば、タキオンがいれば、どんな苦境にも勇気が湧いて力を合わせて立ち向かっていける。
魔王ノスフェラトゥを再び封印するまで、きっと辛い事も危険な事も数多く出くわすのだろう。しかし愛する人が傍にいれば、善の力は何倍にも膨れ上がる。
「――タキオンよ、私と共に生きてくれるか?」
その言葉に、タキオンは抱き締める力を更に強め、嗚咽で乱れていた呼吸を引き締めて力強くこう応えた。
「はいっ!! ひぐっ、ふぐっ……この命を全うするまで、デュボイズさまと永遠に一緒です!! 僕はデュボイズ・エアウィッカーさまと共に、ファンジェレル大陸を元の平和に戻していきます!」
【第一幕・了】
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こちらこそ最後まで温かくお付き合いくださり、本当にありがとうございました!🙏
デュボイズとタキオンの物語は一旦区切りが着きましたが、物語的にはスタートラインに立った2人だと思うので、また機会がある時にその後の2人をお知らせできたら良いな〜と思ってます♪🤩
ご感想とても嬉しかったです!本当にありがとうございました!🙏✨✨
改稿されたので読みに来ました❣️
改めて読ませて頂いて、カンリンの良さに気付きました。いいですね❣️デュボイスのしてやられた感が、余計にカンリンの良さを出してます。
改稿、頑張ってください
再度拙作をお読み頂きありがとうございます!😭🙏✨
さすがお目が高い!🤩
カンリンはスパイス的な存在で、これからもしばしば登場する事があります♪🤗
デュボイズとカンリンの旧友会話もお楽しみ頂けたら嬉しいです♪😆✨✨
はい!これからも頑張ります!💪🔥🔥ありがとうございます!🙏💕💕