【完結】魔導師様と夢魔に囚われた少年 ─ファンジェレル大陸・男恋譚─

星谷芽樂(井上詩楓)

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第四章

第23話②

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 その後、目的のプラヴェル神殿へは、行程通り砂漠に入ってから七日で辿り着くことが出来た。
 一行を率いてきた男の言うには、砂漠の中で魔物の脅威に一度も出くわさず歩いてこれたのは、非常に稀で幸運極まりない事なのだと言う。

 男はこの一行の中に「神の御加護を賜っている者がいるのかもしれない!」と大声を上げて笑っていたのだが、デュボイズは天上人エアウィッカーから貰った『珊瑚の花』のお陰なのではないか……と思うのだった。

 プラヴェル神殿は大砂漠の中の一番大きな祠に相応しく、塔の高さは大図書館よりも見上げるほど高く、横幅も城一つ分に匹敵するほど巨大な石造りの建造物であった。

 材質は全て大理石という、見た目にも立派で頑丈な石材で造られている。細かい装飾も最近の修繕が幾つも行われて、神や天使の彫刻が何十体にも渡って巡礼者達を出迎えた。
 そして神殿の正面に並べられた数十もの石柱には、彫刻師達が天界に憧れたであろう跡が隅々にまで象られ、歩くたびに別世界、正に神の世界へいざなわれる錯覚さえ憶えた。

 デュボイズはその大神殿を遠目から眺めた時点で思わず立ち止まった。
 彼自身、プラヴェル神殿に赴くのは初めてである。にもかかわらず、天上人エアウィッカー達が夢で見せた、あの大神殿と全く同じ構造物だったのである。

 ――分かる。中に入れば天上人エアウィッカーを模した像が何体も置かれ、奥の本殿へと続いていく。
 あの時、天上人エアウィッカー達に見せられた光景と全く同じだ。そして本殿の奥には神を象った御神体が置かれ、その後ろ側に小さな魔法陣が描かれている……はず。

 デュボイズはタキオンの手首を絶対離さんと掴み、あの夢を思い出しながら、引き寄せられる様に神殿へと静かに歩みを進めた。
 中では神の像に向かって礼拝し、頭を床に押し当てた巡礼者達でひしめき合っている。しかし二人はその間をぬって前進した。

「そこのお二人さん! これ以上先へ行ってはいかんぞ! 御神体の周りには結界が張られていて、本殿に近づこうとすれば外まで吹き飛ばされてしまう!」
「神の罰が与えられるぞ!? 悪い事は言わないから戻ってこい!」

 拝礼する老人達から忠告の声が上がる。タキオンは振り向いて動揺したが、デュボイズに手首を持たれて立ち止まる事が出来ない。

「せ、せんせぇ? この先は結界が張られているって……聞こえていないんですか!?」
「我々なら大丈夫だ……行くぞ」

 デュボイズは周りの声を聞かず、御神体の置かれる階段に足を踏み入れた。と同時に、その様子を見つめていた人々の悲鳴と動揺の声が神殿の中に響き渡る。

 ――しかし、結界は拒むどころか二人を何事もなく受け入れた。
 大きなどよめきが渦巻く中、二人は階段を登り、そして御神体の奥の暗闇へ消えていった。
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