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第四章
第22話③
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「いいか、よく聞け……お前は領主の息子だ。将来お前は、ランドルフ領……いや、ガディウス共和国を支えて行く人材になる。そして行く行くは妻を娶り、国の宝となるお前の子を成さなければならんだろう……」
「そんな……! 確かにボクは領主の息子ですけど、エンディリア公国の王子でもあるまいし、ガディウス共和国にそんな決まりはありません!」
「だがな、私と二人で生きて行くとして、ご両親に反対されたらどうする? ご両親だけではない。兄弟からも、ガディウス共和国の要人からも、もしかしたら既に許嫁の話が進んでいるかもしれないんだぞ? それらを全て蹴ってでも、私と共に生きていく覚悟はあるのか? 家族や故郷を全て捨てる覚悟が、お前に出来ているのか!?」
「家族……故郷……?」
タキオンは充血した瞳からポロポロと涙を零した。将来、家族、愛する気持ち、憤り、無念、悲しみ……様々な感情が入り混じり、頭の中が渦巻いて半ば混乱している。
しかしデュボイズも強い眼差しで面と向かい、少年の華奢な両肩を掴んで容赦なく訴える。
「……いいか? 私と一緒になりたいというのは、そういう事だ。お前の帰りを待っている者がいる。将来に期待している者が大勢いる。お前は、お前一人の命、人生では無い。だからこそ、安易な気持ちで私の元へ来るべきではないのだ。そこをよく考えなさい」
その言葉に、タキオンはカンリンの言葉を思い出した。
『――貴方が色んな経験をして独り立ちして、それでも尚、苦難に立ち向かう覚悟がおありなら、デュボイズと愛し合う事ができるでしょう』
タキオン自身はいつだってデュボイズへの気持ちは本物だと思っている。しかし、それだけでは大人達に納得してもらえないのだ。
デュボイズに、いや、ガディウス共和国の皆にこの気持ちを受け取めてもらうには、自分が自立し、一人の人間として認めてもらわなければならない。しかし、そうなれば当然の如く領土の騎士となり、そして兄達が通った道の様に結婚し、轢かれた人生のレールを歩まなければいけないだろう。
――自身の思いを遂げるには、あまりにも前途多難なのだ。
そしてデュボイズも、タキオンの気持ちだけでなく少年をとり囲む大人達、強いてはガディウス共和国の未来を案じて心に蓋をしているのだと、ようやくタキオンは気づいたのだった。
(これが終われば、先生とは赤の他人にならなくちゃいけない……イヤだ……でも、次に逢えるのはいつになるか分からない……先生はいつまでボクのことを待っていてくれる……?)
タキオンは悲しみと重責の裏で、デュボイズの家で二人寄り添った時を恋しがった。あの時間がもっと長く続いていれば良かったのに……。過去の思い出が走馬灯のように流れ出す。
「ボクは何があっても、一生をかけて先生を愛する覚悟ですから……」
今は故郷の皆を無下にする自信がない。だが、デュボイズへの想いも失いたくはない。では、どうすればいいのか。
タキオンは良い答えが見つからないまま、今、心に残る正直な気持ちを呟くしか出来なかった。
「そんな……! 確かにボクは領主の息子ですけど、エンディリア公国の王子でもあるまいし、ガディウス共和国にそんな決まりはありません!」
「だがな、私と二人で生きて行くとして、ご両親に反対されたらどうする? ご両親だけではない。兄弟からも、ガディウス共和国の要人からも、もしかしたら既に許嫁の話が進んでいるかもしれないんだぞ? それらを全て蹴ってでも、私と共に生きていく覚悟はあるのか? 家族や故郷を全て捨てる覚悟が、お前に出来ているのか!?」
「家族……故郷……?」
タキオンは充血した瞳からポロポロと涙を零した。将来、家族、愛する気持ち、憤り、無念、悲しみ……様々な感情が入り混じり、頭の中が渦巻いて半ば混乱している。
しかしデュボイズも強い眼差しで面と向かい、少年の華奢な両肩を掴んで容赦なく訴える。
「……いいか? 私と一緒になりたいというのは、そういう事だ。お前の帰りを待っている者がいる。将来に期待している者が大勢いる。お前は、お前一人の命、人生では無い。だからこそ、安易な気持ちで私の元へ来るべきではないのだ。そこをよく考えなさい」
その言葉に、タキオンはカンリンの言葉を思い出した。
『――貴方が色んな経験をして独り立ちして、それでも尚、苦難に立ち向かう覚悟がおありなら、デュボイズと愛し合う事ができるでしょう』
タキオン自身はいつだってデュボイズへの気持ちは本物だと思っている。しかし、それだけでは大人達に納得してもらえないのだ。
デュボイズに、いや、ガディウス共和国の皆にこの気持ちを受け取めてもらうには、自分が自立し、一人の人間として認めてもらわなければならない。しかし、そうなれば当然の如く領土の騎士となり、そして兄達が通った道の様に結婚し、轢かれた人生のレールを歩まなければいけないだろう。
――自身の思いを遂げるには、あまりにも前途多難なのだ。
そしてデュボイズも、タキオンの気持ちだけでなく少年をとり囲む大人達、強いてはガディウス共和国の未来を案じて心に蓋をしているのだと、ようやくタキオンは気づいたのだった。
(これが終われば、先生とは赤の他人にならなくちゃいけない……イヤだ……でも、次に逢えるのはいつになるか分からない……先生はいつまでボクのことを待っていてくれる……?)
タキオンは悲しみと重責の裏で、デュボイズの家で二人寄り添った時を恋しがった。あの時間がもっと長く続いていれば良かったのに……。過去の思い出が走馬灯のように流れ出す。
「ボクは何があっても、一生をかけて先生を愛する覚悟ですから……」
今は故郷の皆を無下にする自信がない。だが、デュボイズへの想いも失いたくはない。では、どうすればいいのか。
タキオンは良い答えが見つからないまま、今、心に残る正直な気持ちを呟くしか出来なかった。
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