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第四章
第22話「大砂漠へ」①
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パングァナ大砂漠は天上人の聖地とされている。
魔王ノスフェラトゥが権謀を振るった時代よりも遥か昔、大砂漠が森と草原の野で豊かな土地だった頃から祠は存在し、天上人と地上人の接点の場として長らくその一助を担ってきた。
祠は大小合わせると、その数は数百にも及ぶ。中には風化による劣化で祠の原型を殆ど留めないものもある。しかし百年ほど前から砂漠を流浪する民や、巡礼補佐を生業とする行商人達によって、幾度も修繕が繰り返されていた。
「よぉーし!巡礼者の皆さん!今日はこの祠で寝泊まりをします!明日は夜明け前から出発します!それまで準備はしっかりお願いしますよぉ!」
大砂漠に入って最初の祠に到着し、道案内役の日に焼けた男が声を張らして巡礼者達に呼びかける。
一行は大砂漠に点在する小さな祠の傍らで今夜の暖を取る事になった。
「さて、私達はこの石壁の横にテントを建てようか」
デュボイズは崩れた祠の傍らに荷物を置き、慣れた手付きで五本の磨かれた木組みを円錐状に立て掛けた。そこへ駱駝の油が塗られた布を覆い被せる。油が塗られているのは、日光による劣化を防ぐ為と、湿気を含んだ布が重くならないためだ。
彼は魔導師協会の使者として、大砂漠の向こう側の国『グァルナード帝国』へ何度か足を運んだ事がある。
今回の様な巡礼者と同行したわけではないが、砂漠を横断する際の基本的なやりくりは一通り慣れている様子だった。
テントは物の十分足らずで完成できた。正に即席の小さな宿である。中は大人二人が横になってギリギリの広さがある。巡礼者は基本独り参加が多い為、この広さなら十分快適だが、デュボイズとタキオンが寝に並んだ時は、寝返りが出来ないぐらいに狭かった。
「先生。ここに二人で寝るんですか?」
「まぁ、そうなるな……」
二人が身を寄せ合って横になるのは数日ぶりだ。たった数日だけであるのに、タキオンはその時間がとても長く感じられた。
先にデュボイズが中へ入り横になる。その後に続いて、ぎこちなさそうにタキオンが背を向けて横たわった。しかし。
「…………」
張り詰めた空気がテントの中を覆い、視線を合わせられない。本当は嬉しい筈なのに、数センチ先には愛しい温もりがあるはずなのに、どうしても見えない透明な壁が互いを近づけなくさせる。
タキオンはカンリンから聞いたデュボイズの心と、昨夜帰って来なかった矛盾が大きな渦となって自身を苦しめていた。そして敢えて背を向けたまま、絞り出すようにして不安の元を問うたのだった。
魔王ノスフェラトゥが権謀を振るった時代よりも遥か昔、大砂漠が森と草原の野で豊かな土地だった頃から祠は存在し、天上人と地上人の接点の場として長らくその一助を担ってきた。
祠は大小合わせると、その数は数百にも及ぶ。中には風化による劣化で祠の原型を殆ど留めないものもある。しかし百年ほど前から砂漠を流浪する民や、巡礼補佐を生業とする行商人達によって、幾度も修繕が繰り返されていた。
「よぉーし!巡礼者の皆さん!今日はこの祠で寝泊まりをします!明日は夜明け前から出発します!それまで準備はしっかりお願いしますよぉ!」
大砂漠に入って最初の祠に到着し、道案内役の日に焼けた男が声を張らして巡礼者達に呼びかける。
一行は大砂漠に点在する小さな祠の傍らで今夜の暖を取る事になった。
「さて、私達はこの石壁の横にテントを建てようか」
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彼は魔導師協会の使者として、大砂漠の向こう側の国『グァルナード帝国』へ何度か足を運んだ事がある。
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「先生。ここに二人で寝るんですか?」
「まぁ、そうなるな……」
二人が身を寄せ合って横になるのは数日ぶりだ。たった数日だけであるのに、タキオンはその時間がとても長く感じられた。
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「…………」
張り詰めた空気がテントの中を覆い、視線を合わせられない。本当は嬉しい筈なのに、数センチ先には愛しい温もりがあるはずなのに、どうしても見えない透明な壁が互いを近づけなくさせる。
タキオンはカンリンから聞いたデュボイズの心と、昨夜帰って来なかった矛盾が大きな渦となって自身を苦しめていた。そして敢えて背を向けたまま、絞り出すようにして不安の元を問うたのだった。
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