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第三章

第20話「デュボイズの使命」①

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 カンリンが去った後のデュボイズの集中力は、自身でも信じられないほど飛躍し陶酔していった。
 タキオンへの想いを拭い去るよう、今までにも増して積み上げた蔵書にかじり付き、有力な文献を探してページをめくる。

 しかし、それは別の意味で仇となってしまった。
 過集中で周りの音すらも受け付けず、気づけば閉館時間はとっくに過ぎていて、自身の掌さえ見えぬほどの暗闇に埋もれていた。

「――しまった! もう扉は閉められたのか!?」

 デュボイズは慌てて本壁から這い出て出口へ走った。最上階まで続く吹き抜けに辿り着けば、窓から注がれる月明かりで暗闇には不自由しない。しかし、予想通り出入り口である大扉は固く閉ざされ、一気に血の気が引いていった。

(なんという失態だ……タキオンやヤーコフ殿が心配しなければいいが……)

 次に扉が開くのは明朝八時。それまで独り、大図書館で刻が過ぎるのを待たなければいけない。

 毎日の閉館時には、蔵書を管理する司書達が必ず見回りをする筈なのだが、恐らく奥まった場所で本壁を作ってしまったのが見過ごされた原因だろう。
 今ここで泣いても喚いても何も変わらない。それならいっその事、徹夜で気になる蔵書全てをしらみ潰しに調べてやろうではないか。デュボイズは仕方なしに気を取り直して意気込んだのだった。

 *

 そこから数時間、ふとデュボイズが構内の時計を見ると、刻は夜半二時を回っていた。

 月明かりに照らされる長机に大量の分厚い本を並べ、休みなく何冊もの本のページをめくる。気になるものがあれば都度書き写し、また読み進めていく。
 しかし意気込んでいたデュボイズも流石に疲れと睡魔が襲うようになり、文字を書く遅さも瞼の重さも限界が近付いてきていた。

(い、いかん……せっかく与えられた貴重な時間だというのに……タキオンの苦しみを考えたら、一秒でも時間が惜しいのだ……)

 デュボイズは髪を掻きむしりながら無理やり気を奮い立たそうとする。
 その時だった。月明かりに照らされた窓のステンドグラスが一瞬光を放ち、デュボイズの瞳をかすめたのである。

「――っ?」

 今夜の月齢は満月で、雲一つない夜空は月の力が眩しいくらいだ。
 煌々と照る月明かりに気を取られただけだろう、デュボイズはそう思って再び蔵書へ目線を下ろせば、ステンドグラスの方向から静かな声が聞こえ始めた。

『デュボイズ、デュボイズ・エアウィッカー……我が兄弟よ……』
「っ!? 誰だ!?」

 男女複数人の声が重なる落ち着いたその声は、窓から聞こえた。だが、デュボイズの目が醒めて声のする方を見ても、人や人影らしき者は見当たらない。
 目の先には、白いローブを纏う天上人エアウィッカー達のステンドグラスが描かれていた。
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