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第三章

第19話「旧友」①

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 カンリンは大図書館の一階、本棚のひしめき合う狭い廊下を歩き回りながら、辺りを見回してとある人物を探した。

 本棚の脇には分厚い蔵書が何冊も積み上げられている。それが一つではなく、幾つも積み上げられて壁となる。まるで中を通さんとばかりの本壁に彼は嬉しくなり、思わずその場へ駆け寄った。

「……変わりませんねぇ、デュボイズ」

 見習い魔導師の頃からそうであった。デュボイズは図書館で調べ物をする時、いつも関連する本を全て棚から抜き出し床に置く。そして一通り床に置いて、積み上げた物からページをめくっていく。それが彼特有の調べ方だった。
 そして最後になって戻す場所が分からなくなり、閉館ギリギリになってカンリンを巻き添えにし、急いで本棚に戻す羽目になる。

 今となっては笑い話だと思っていたのだが……カンリンはあの楽しかった頃を懐かしんで中を覗いた。

 天井が低く、本棚に挟まれた穴蔵のような狭い空間の中には、やはりデュボイズの座り込む姿があった。突然の旧友の登場に驚いたデュボイズは、笑顔が溢れるカンリンに対して「何事だ?」と目を丸くしている。

「見つけましたよデュボイズ。床に置かれた蔵書の数々で、そうだろうと思いましたよ」
「カンリン!? いきなり出てきて何用だ?」
「まぁまぁ、私は貴方を探していたのです。少しお時間を頂けませんか?」
「……一体なんだ」
「実は先程タキオン殿にお会いしたのですがね……」
「……タキオンに?」

 デュボイズはカンリンが何を言いたいのか雰囲気で察し、バツが悪そうに目線を逸らした。今一番話題にして欲しくない内容、と言ったところだ。
 しかしカンリンもタキオンの姿を見た手前、一歩も引く訳にはいかないのであった。

「タキオン殿が泣いて仰っていましたよ? 貴方の考えている事が分からないと……。あまりにも悲しそうだったので、ワタクシがデュボイズの気持ちを聞いて正して来るとお約束したのです」
「余計なことを……それは私達の問題だ。お前が口出す義理はない」
「そうも行きません。ワタクシは貴方に預けた責任があるのです。少年の心傷が酷く寝込んでしまったら、それこそワタクシはご両親にも協会からも訴えられてしまいます」
「まったく……お前は、私に何を言わせたいのだ!?」

 デュボイズは苛立って思わず声を張り上げた。息をするのも苦しい、そんな辛い表情をしてカンリンの肩を強く掴む。
 しかしカンリンは笑みを浮かべたまま引き下がらず、掴まれた腕を静かに降ろしてデュボイズを見つめ返した。

「では単刀直入に申し上げますが、デュボイズもタキオン殿の事を愛してるのでしょう?」
「……っ」
「隠そうとしても無駄です。ワタクシには分かりますよ? 明らかに貴方の優しい眼差しがタキオン殿に注がれている事を」

 カンリンの鋭い視線が、デュボイズの逃げたい心を捕まえて離さない。デュボイズが適当な言い訳を言っても、全て見破って言い逃れなど出来ない……切長の涼しい目元は無言で注告していた。
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