【完結】魔導師様と夢魔に囚われた少年 ─ファンジェレル大陸・男恋譚─

星谷芽樂(井上詩楓)

文字の大きさ
上 下
37 / 85
第三章

第14話②

しおりを挟む
 それからのデュボイズは、迷いの無い足取りで屋敷の地下へ足を進めた。
 地下に続く階段を降りれば湯の暖かさで空気が湿気を帯び、やがて昼間の様に明るい空間へ躍り出る。

 そこは、先ほど居た寝室よりも一回り大きい、大理石を敷き詰めた清潔感あふれる広い浴場だった。
 湯気が立ち上る池の様な浴槽には三体の妖精の石像が均等に並べられ、妖精達が持つ壺の中から勢い良く源泉の湯が流れ出ている。また少し離れた所には水を張った小さい浴槽が用意されている。これは火照った身体を冷やすのに良いのだろう。

「せ、先生見て下さいよ! 二面の壁と天井が鏡張りですよ!?」

 湯気でよく見えないが目を凝らしてみると、入り口正面と右側の壁が一面鏡になっていて、上を見上げれば自分達の顔と床の白い大理石が映し出されていた。

 一面の鏡達は浴場の灯りを映し、反射して白く輝く大理石をも映し出している。そのお陰でここは昼間のように明るいのだと、デュボイズは内装のカラクリに感嘆した。

「しかし、これはあまりにも……」

 デュボイズは鏡の役割に他の目的も理解していた。
 湯気という幻想的な演出と空間の中で鏡に映る情事を見たら、淫楽に陥らない方がおかしい。しかもご丁寧に天井まで鏡張りにしている。これは、どんな体制でも両者が自身の目交う姿を見れるようにとの配慮なのだろう。

 まるで二人の交合いを誘い出す空間に、デュボイズの顔がいつも以上に強張り引き攣るのは言うまでも無い。

「タ、タキオン……ここまで連れてきたんだ。あとは自分で出来るな?」
「えっ? 一緒に洗って下さるんじゃないんですか? 左腕はまだ痛くてあまり動かせないので、背中とか右腕を洗えないです……」

 その言葉に、デュボイズは分かりきった応えながらも顔をしかめた。
 本当は一緒に湯に浸かり、思い切りタキオンを可愛がってやりたい。しかしその為にエンディリアへ来た訳ではない。
 だが、痛みに耐えている少年を無理やり一人にして引き離すのか?それこそ情を持たない冷たい人間であろう。

「そう、だよな……患部は無理に動かせんし、床が大理石では滑って転びそうだしな……」

 自分が勝手に誘惑されているだけじゃないか。そう考えれば、いかに自身が欲に飢えた薄汚い人間なのだと思えてきた。
 これは怪我をしたタキオンの為にやっている。仕方ないことだ。デュボイズはそう思い込むことで、無理やり色欲の嵐を抑え付けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...