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第二章
第9話③
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「唯一可能性があったもの、それは『白魔法』というものだ。しかし、これはあんさんの様な魔導師様が使える代物じゃあ、ありやせん」
「白魔法……魔導師が扱う魔法は錬金術であって、そんな魔法は初耳だ……」
「でしょうな。古い文献によれば、黒い瘴気を浄化する白魔法が存在したらしいですが、今やそんなものはない。だから『可能性』と言ったんですわ」
「つまり、白魔法の方法や扱える者が見つからないまま、富豪や小姓達は死んでしまったと?」
「……そういう事ですな」
これは耳寄りな情報を手にした。古い文献に載っているという『白魔法』のやり方さえ分かれば、きっとタキオンに巣食う夢魔も浄化できるに違いない。
ということは、その古い文献とやらを探し出す必要が出てくる。
デュボイズはエンディリア公国の大図書館へ行く目的に、自身の心が沸き立つのを感じた。
「……で、あんさん、ウチの薬に用はないのかい?」
「あぁ、そうだな。念の為に必要な物があるんだ」
薬師は町にいる薬屋とは趣きが違う。
行商の薬師が取り扱う薬は一般的に扱える薬剤は少なく、調合によっては毒薬、劇薬、麻酔薬、催眠や催淫……など、普通に暮らしているだけならば、一生出会う事はない危険な薬品、薬草を取り扱っていた。
それらはどれも高額で、地位の高い人物、若しくはその従者、あるいは専門的な知識を持っている者しか取り合わない代物だった。
だが、デュボイズは一介の魔導師である。魔導師は魔法の他にも治療や錬金術、実に様々な知識を学び会得する。そのため、彼もまた様々な薬品や薬草の調合に長けていた。
「イルの花のエキスが欲しい。あと麻酔薬とヌメリ藻の粉を……あ、ヌメリ藻はあるだけ欲しい」
「へい」
薬師は手早く香油の小瓶を渡し、麻酔薬の粉を包んだ紙ととヌメリ藻の粉袋をデュボイズに手渡した。
「……二五〇レニー」
「分かった」
デュボイズが金を渡すと、薬師はデュボイズの顔を見ながら何やらニヤついて気味の悪い表情をしていた。
「……なんだ? さっきから私をジロジロ見て。私の顔に何か付いているか?」
「いえ…………」
薬師は口を濁したが、デュボイズに向かって未だ気持ち悪い笑みを浮かべていた。
対してデュボイズも、それが自分を見透かしている行為だと分かり、無言の目力で相手を圧っする。すると薬師はデュボイズの威厳にすぐ完敗し、少し興奮した様子で理由を述べた。
「なんて事はございやせん。ただ、さっきの話でまさかと思いまして……」
言われてデュボイズの顔が赤くなった。デュボイズの購入した薬剤は、どれも媚薬として使われる物ばかりである。
「な、何を思っているか知らんが、これは患者の治療に使うんだ! 情報屋なら、お互いの詮索をしないのが鉄則だろう!?」
「へへっ……金持ちで色男のあんさんなら、さぞ良い女が言い寄ってくるだろうと思いまして……羨ましいですな」
女では無いものの、半分以上は図星だ。
そう。デュボイズは記憶の片隅にタキオンの気持ち良さそうな虚ろな瞳がこびり付いている。そして、またその表情が見たいと心のどこかで願っている。その手段に今購入した薬剤を使うのは明らかだった。
「わ、私はずっと人間と関わらず独りで生きてきた。余計な妄想はしないで頂きたいな!」
これ以上この場に居たら余計な話に巻き込まれそうだ。デュボイズは急いで荷袋を持つと、耳を赤くしながら足早にその場を去っていった。
(これらは全てタキオンの『身体を案じて』買ったものだ。それは欲求を満たすためでは無い。少年の身体や命までも奪い取る夢魔が体内に潜んでいるから必要な物なのだ。決して欲望目的で使わない。欲望に流されない。決して…………)
デュボイズは己の本心に理性という名の力で無理やり蓋をし、何度も心の中で自分自身に言い聞かせたのであった。
「白魔法……魔導師が扱う魔法は錬金術であって、そんな魔法は初耳だ……」
「でしょうな。古い文献によれば、黒い瘴気を浄化する白魔法が存在したらしいですが、今やそんなものはない。だから『可能性』と言ったんですわ」
「つまり、白魔法の方法や扱える者が見つからないまま、富豪や小姓達は死んでしまったと?」
「……そういう事ですな」
これは耳寄りな情報を手にした。古い文献に載っているという『白魔法』のやり方さえ分かれば、きっとタキオンに巣食う夢魔も浄化できるに違いない。
ということは、その古い文献とやらを探し出す必要が出てくる。
デュボイズはエンディリア公国の大図書館へ行く目的に、自身の心が沸き立つのを感じた。
「……で、あんさん、ウチの薬に用はないのかい?」
「あぁ、そうだな。念の為に必要な物があるんだ」
薬師は町にいる薬屋とは趣きが違う。
行商の薬師が取り扱う薬は一般的に扱える薬剤は少なく、調合によっては毒薬、劇薬、麻酔薬、催眠や催淫……など、普通に暮らしているだけならば、一生出会う事はない危険な薬品、薬草を取り扱っていた。
それらはどれも高額で、地位の高い人物、若しくはその従者、あるいは専門的な知識を持っている者しか取り合わない代物だった。
だが、デュボイズは一介の魔導師である。魔導師は魔法の他にも治療や錬金術、実に様々な知識を学び会得する。そのため、彼もまた様々な薬品や薬草の調合に長けていた。
「イルの花のエキスが欲しい。あと麻酔薬とヌメリ藻の粉を……あ、ヌメリ藻はあるだけ欲しい」
「へい」
薬師は手早く香油の小瓶を渡し、麻酔薬の粉を包んだ紙ととヌメリ藻の粉袋をデュボイズに手渡した。
「……二五〇レニー」
「分かった」
デュボイズが金を渡すと、薬師はデュボイズの顔を見ながら何やらニヤついて気味の悪い表情をしていた。
「……なんだ? さっきから私をジロジロ見て。私の顔に何か付いているか?」
「いえ…………」
薬師は口を濁したが、デュボイズに向かって未だ気持ち悪い笑みを浮かべていた。
対してデュボイズも、それが自分を見透かしている行為だと分かり、無言の目力で相手を圧っする。すると薬師はデュボイズの威厳にすぐ完敗し、少し興奮した様子で理由を述べた。
「なんて事はございやせん。ただ、さっきの話でまさかと思いまして……」
言われてデュボイズの顔が赤くなった。デュボイズの購入した薬剤は、どれも媚薬として使われる物ばかりである。
「な、何を思っているか知らんが、これは患者の治療に使うんだ! 情報屋なら、お互いの詮索をしないのが鉄則だろう!?」
「へへっ……金持ちで色男のあんさんなら、さぞ良い女が言い寄ってくるだろうと思いまして……羨ましいですな」
女では無いものの、半分以上は図星だ。
そう。デュボイズは記憶の片隅にタキオンの気持ち良さそうな虚ろな瞳がこびり付いている。そして、またその表情が見たいと心のどこかで願っている。その手段に今購入した薬剤を使うのは明らかだった。
「わ、私はずっと人間と関わらず独りで生きてきた。余計な妄想はしないで頂きたいな!」
これ以上この場に居たら余計な話に巻き込まれそうだ。デュボイズは急いで荷袋を持つと、耳を赤くしながら足早にその場を去っていった。
(これらは全てタキオンの『身体を案じて』買ったものだ。それは欲求を満たすためでは無い。少年の身体や命までも奪い取る夢魔が体内に潜んでいるから必要な物なのだ。決して欲望目的で使わない。欲望に流されない。決して…………)
デュボイズは己の本心に理性という名の力で無理やり蓋をし、何度も心の中で自分自身に言い聞かせたのであった。
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