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第一章
第2話③
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デュボイズの心が病んでいく様を、立場の違いで遠くから見守る事しか出来なかったカンリンは、慰める言葉をかけるしか方法が見つからなかった。
――だが、今やるべき事は別にある。あくまでカンリンは冷静だった。
「ですが、この少年には罪はないでしょう? 貴方は協会が関わっていれば目の前の病人さえも見捨てるのですか?」
「いや……」
その通りだ。嫌いな組織からの依頼というだけで断る理由にはならない。目の前に必要とする者が居るならば必ず助ける。それがデュボイズの流儀だ。
カンリンの言葉でデュボイズは我に返り、苦しそうにうなだれる少年を見つめた。
「――手紙には夢魔が取り憑いているとあったな。夢魔っていうのは夢の中で悪さをするものだろう?体内に入るというのは初耳だが……」
夢魔は魔力が弱い低級魔族とされている。人間に与える影響は夢の中で幻覚を見せるぐらいで、さほど悪い影響は少ない。それが一体どうやって少年の身体に入り込んで巣食うことが出来たのか?
夢魔が人間の中に入る事例など、デュボイズは見たことも聞いたことも無かった。
デュボイズは真偽を確かめるべく、少年に近づいて容態を確認した。
しかし、脈と体温を調べる為に少年の首元に触れると、そこからまとわりつく様に黒い煙が出現した。紛れも無く少年に巣食う夢魔の瘴気である。
二人は黒い煙を潜って喉を締め付ける感覚に陥り、思わず後退る。
「うっ! これは……」
「昨日よりも瘴気が濃くなっていますね。餌に飢えているのでしょうか……一刻も早く対処しなければ」
それはデュボイズの想像以上に強く濃い瘴気だった。少年はこれほどの瘴気が全身にまとわりついているのだから、辛くないわけが無いだろう。
「しかし、人間の身体に入っていたら私には対処が分からんぞ……」
「皆さんそうです。デュボイズの様に、誰もが分からず手を焼いているのです」
それを聞いたデュボイズは「ふぅむ……」と腕を組んで考え込む。
「夢魔の好物は快楽と精液と愛液……」
「そうですね……ですので、人里離れた場所で独り静かに暮らす大魔導師デュボイズが適任であると思い、私が推薦させて頂きました」
最後の言葉に、カンリンに向けたデュボイズの目が丸くなる。言いたい事がごまんとある表情だ。
「おまっ……!! 勝手に推薦するな! それならお前がやればいいだろう!」
「いいえ、私には仕える王がいます。王太子も。人目も多いし大事な人が多いのです。しかもこの御方は領主の御子息。誰かれ無闇にお身体を見せる訳にもいきません。ですが、それなりの知識や技術がないと難しい……」
「だから私を推薦したと……」
「貴方が1番の適任者でなくて誰がいます?」
カンリンはにっこり笑って答えを促す。デュボイズに反論する余地を与えないつもりだ。
「うぅっ……。時間も残されていないようだし、とりあえず今はこのまま私が預かろう……」
すると、みるみるカンリンの表情が華やぐ。
「さすが私の親友!!デュボイズ!貴方なら引き受けてくれると思いました!」
カンリンは嬉しそうにデュボイズの両手を握り、ブンブン振り回した。
いくら断っても上手い言葉で乗せ、最初からそうするつもりだったのだろう。デュボイズは完全にしてやられた顔だった。
「では人目があるとやりづらいと思うので、私は早々に退散しますね!健闘を祈っていますよ!」
「……お気遣いありがとう。はぁ……」
――大変な事を引き受けてしまった。一通り記憶を辿ったデュボイズは、引き受けた事に少なからず後悔を感じていた。
そして嬉しそうに家を出ていくカンリンを思い出し、グシャッと手紙を一握りしたのであった。
――だが、今やるべき事は別にある。あくまでカンリンは冷静だった。
「ですが、この少年には罪はないでしょう? 貴方は協会が関わっていれば目の前の病人さえも見捨てるのですか?」
「いや……」
その通りだ。嫌いな組織からの依頼というだけで断る理由にはならない。目の前に必要とする者が居るならば必ず助ける。それがデュボイズの流儀だ。
カンリンの言葉でデュボイズは我に返り、苦しそうにうなだれる少年を見つめた。
「――手紙には夢魔が取り憑いているとあったな。夢魔っていうのは夢の中で悪さをするものだろう?体内に入るというのは初耳だが……」
夢魔は魔力が弱い低級魔族とされている。人間に与える影響は夢の中で幻覚を見せるぐらいで、さほど悪い影響は少ない。それが一体どうやって少年の身体に入り込んで巣食うことが出来たのか?
夢魔が人間の中に入る事例など、デュボイズは見たことも聞いたことも無かった。
デュボイズは真偽を確かめるべく、少年に近づいて容態を確認した。
しかし、脈と体温を調べる為に少年の首元に触れると、そこからまとわりつく様に黒い煙が出現した。紛れも無く少年に巣食う夢魔の瘴気である。
二人は黒い煙を潜って喉を締め付ける感覚に陥り、思わず後退る。
「うっ! これは……」
「昨日よりも瘴気が濃くなっていますね。餌に飢えているのでしょうか……一刻も早く対処しなければ」
それはデュボイズの想像以上に強く濃い瘴気だった。少年はこれほどの瘴気が全身にまとわりついているのだから、辛くないわけが無いだろう。
「しかし、人間の身体に入っていたら私には対処が分からんぞ……」
「皆さんそうです。デュボイズの様に、誰もが分からず手を焼いているのです」
それを聞いたデュボイズは「ふぅむ……」と腕を組んで考え込む。
「夢魔の好物は快楽と精液と愛液……」
「そうですね……ですので、人里離れた場所で独り静かに暮らす大魔導師デュボイズが適任であると思い、私が推薦させて頂きました」
最後の言葉に、カンリンに向けたデュボイズの目が丸くなる。言いたい事がごまんとある表情だ。
「おまっ……!! 勝手に推薦するな! それならお前がやればいいだろう!」
「いいえ、私には仕える王がいます。王太子も。人目も多いし大事な人が多いのです。しかもこの御方は領主の御子息。誰かれ無闇にお身体を見せる訳にもいきません。ですが、それなりの知識や技術がないと難しい……」
「だから私を推薦したと……」
「貴方が1番の適任者でなくて誰がいます?」
カンリンはにっこり笑って答えを促す。デュボイズに反論する余地を与えないつもりだ。
「うぅっ……。時間も残されていないようだし、とりあえず今はこのまま私が預かろう……」
すると、みるみるカンリンの表情が華やぐ。
「さすが私の親友!!デュボイズ!貴方なら引き受けてくれると思いました!」
カンリンは嬉しそうにデュボイズの両手を握り、ブンブン振り回した。
いくら断っても上手い言葉で乗せ、最初からそうするつもりだったのだろう。デュボイズは完全にしてやられた顔だった。
「では人目があるとやりづらいと思うので、私は早々に退散しますね!健闘を祈っていますよ!」
「……お気遣いありがとう。はぁ……」
――大変な事を引き受けてしまった。一通り記憶を辿ったデュボイズは、引き受けた事に少なからず後悔を感じていた。
そして嬉しそうに家を出ていくカンリンを思い出し、グシャッと手紙を一握りしたのであった。
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