6 / 85
第一章
第2話②
しおりを挟む
カンリンが突然デュボイズの元を訪れたのは昨夜未明の事だった。
デュボイズはいつものように酒を飲み、昔の魔導書を機械的にペラペラとページをめくって読んだ気になっていると、突然扉を激しく叩く音がして馴染みのある声が聞こえた。
「デュボイズ! デュボイズはいませんか!? カンリンです! 折り入って話があります!」
「カンリン? なんでこんな夜半に……」
「時間がありません! 少年を急いで助けて欲しいんです! 開けてくださいませんか!」
デュボイズは念の為に扉の覗き穴を覗くと、正面には確かに見慣れた姿のカンリンと、彼の右脇腹に力無くもたれ掛かる紅髪の少年が佇んでいた。
何故こんな夜更けに突然訪れるのだろうか。もしかしたらカンリンの姿を真似た魔物かもしれない。又はデュボイズを連れ去るか、暗殺する為に来た刺客かもしれない。
デュボイズは傍らに立て掛けてあった杖を持ち、慎重に扉を開けて二人を向かい入れた。
「ありがとうございます。デュボイズ」
カンリンは申し訳なさそうに屋内へ足を踏み入れると、身構える旧友に一礼した。
その雰囲気、言葉遣いと作法……どうやらカンリン本人、というのは間違いなさそうだ。
「ずっと音沙汰も無かったのに突然どうした。この少年は一体誰だ?」
「知らせも無く突然の訪問を許して下さい……この方はタキオン・ランドルフ殿。ランドルフ領・領主のご子息です。まずはこの手紙を読んでください」
「手紙?」
カンリンは部屋を見渡してデュボイズのベッドに少年を寝かせ、自身のローブから封を取り出しデュボイズに差し出した。
その手紙には以下のように書かれていた。
『魔導師デュボイズ殿
先日、ガディウス共和国ランドルフ領領主の御子息タキオン・ランドルフ殿が夢魔に取り憑かれ生気を吸われている事を確認した。
様々な医療や退魔呪術を施したが改善せず、タキオン殿の容態は悪くなる一方である。
そのため魔物や錬金術に詳しく、過去に偉大なる成果を上げたデュボイズ殿にこの件をお願いしたく筆を取る。
良い報告を願っている――魔導師協会』
デュボイズはカンリンから受け取った手紙を一読し、大きなため息を吐いた。
「――で、私にこの少年の治療をしろと?」
「そういうことですね」
カンリンの頷きにデュボイズは舌打ちする。デュボイズは手紙の内容が酷く癇に障ったようだった。
彼は「ははっ」と苦笑いすると手紙を睨んで反論した。
「偉大なる成果とはな。呆れて笑いも出ん。私は成果どころか大失敗で禁忌を犯したと思っているんだが?」
「あの件は……貴方は人間兵器を作ってしまったと、そう思っているのですね……」
「それ以外の何がある? 私はあの件で上層部に散々こき使われ、人間を忌み嫌う様になり、今こうやって独りで生きていこうとしているのだ!」
デュボイズは昔の怒りを思い出し、ダン! と強く机を叩いた。
普段冷静なデュボイズが声を荒らげるのは珍しい。それ程までに彼は魔導師協会という組織を軽蔑していた。
「デュボイズの気持ちは痛いほど分かりますよ。失いそうな命を助けたかっただけだと……」
カンリンも当時の事はよく覚えている。
新米魔導師だったデュボイズが子供の亡骸を復活させ、大陸全土がその成果に沸き立った。しかし蓋を開けてみれば、その子供は戦いの道具として使われる様になり、所謂大人の都合の良い戦争道具として使われた。故にデュボイズは自分の行動に深く後悔し、研究資料は自らの手で抹消したのだった。
デュボイズはいつものように酒を飲み、昔の魔導書を機械的にペラペラとページをめくって読んだ気になっていると、突然扉を激しく叩く音がして馴染みのある声が聞こえた。
「デュボイズ! デュボイズはいませんか!? カンリンです! 折り入って話があります!」
「カンリン? なんでこんな夜半に……」
「時間がありません! 少年を急いで助けて欲しいんです! 開けてくださいませんか!」
デュボイズは念の為に扉の覗き穴を覗くと、正面には確かに見慣れた姿のカンリンと、彼の右脇腹に力無くもたれ掛かる紅髪の少年が佇んでいた。
何故こんな夜更けに突然訪れるのだろうか。もしかしたらカンリンの姿を真似た魔物かもしれない。又はデュボイズを連れ去るか、暗殺する為に来た刺客かもしれない。
デュボイズは傍らに立て掛けてあった杖を持ち、慎重に扉を開けて二人を向かい入れた。
「ありがとうございます。デュボイズ」
カンリンは申し訳なさそうに屋内へ足を踏み入れると、身構える旧友に一礼した。
その雰囲気、言葉遣いと作法……どうやらカンリン本人、というのは間違いなさそうだ。
「ずっと音沙汰も無かったのに突然どうした。この少年は一体誰だ?」
「知らせも無く突然の訪問を許して下さい……この方はタキオン・ランドルフ殿。ランドルフ領・領主のご子息です。まずはこの手紙を読んでください」
「手紙?」
カンリンは部屋を見渡してデュボイズのベッドに少年を寝かせ、自身のローブから封を取り出しデュボイズに差し出した。
その手紙には以下のように書かれていた。
『魔導師デュボイズ殿
先日、ガディウス共和国ランドルフ領領主の御子息タキオン・ランドルフ殿が夢魔に取り憑かれ生気を吸われている事を確認した。
様々な医療や退魔呪術を施したが改善せず、タキオン殿の容態は悪くなる一方である。
そのため魔物や錬金術に詳しく、過去に偉大なる成果を上げたデュボイズ殿にこの件をお願いしたく筆を取る。
良い報告を願っている――魔導師協会』
デュボイズはカンリンから受け取った手紙を一読し、大きなため息を吐いた。
「――で、私にこの少年の治療をしろと?」
「そういうことですね」
カンリンの頷きにデュボイズは舌打ちする。デュボイズは手紙の内容が酷く癇に障ったようだった。
彼は「ははっ」と苦笑いすると手紙を睨んで反論した。
「偉大なる成果とはな。呆れて笑いも出ん。私は成果どころか大失敗で禁忌を犯したと思っているんだが?」
「あの件は……貴方は人間兵器を作ってしまったと、そう思っているのですね……」
「それ以外の何がある? 私はあの件で上層部に散々こき使われ、人間を忌み嫌う様になり、今こうやって独りで生きていこうとしているのだ!」
デュボイズは昔の怒りを思い出し、ダン! と強く机を叩いた。
普段冷静なデュボイズが声を荒らげるのは珍しい。それ程までに彼は魔導師協会という組織を軽蔑していた。
「デュボイズの気持ちは痛いほど分かりますよ。失いそうな命を助けたかっただけだと……」
カンリンも当時の事はよく覚えている。
新米魔導師だったデュボイズが子供の亡骸を復活させ、大陸全土がその成果に沸き立った。しかし蓋を開けてみれば、その子供は戦いの道具として使われる様になり、所謂大人の都合の良い戦争道具として使われた。故にデュボイズは自分の行動に深く後悔し、研究資料は自らの手で抹消したのだった。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる