【完結】魔導師様と夢魔に囚われた少年 ─ファンジェレル大陸・男恋譚─

星谷芽樂(井上詩楓)

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第一章

第2話「少年を連れてきた男」①

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 翌朝、デュボイズは二十七年間生きてきた中で一番の自己嫌悪に陥っていた。

 理由は言うまでもない。昨夜の事だ。

(私は何故あんな快楽を貪るような行動をしてしまったのだ……自分の行動が恥ずかしい!)

 思い出す度に自分のやり過ぎた行動に頭を抱えうなだれる。そして大きなため息をつく。デュボイズの周りには、目に見えない重苦しい空気がのしかかっていた。

(幼気な少年に要らぬ入れ知恵をしてしまったのではないか? 治療のつもりが気持ち悪い男だと思われたら、どうしようか……もう治療も何もさせてくれないかもしれない……)

 彼は最悪なパターンをいくつも想像しながら、チラリと少年の方を見た。
 少年はデュボイズのベッドで微かな寝息をたてながら眠っている。昨夜の絶頂と疲労で、未だ深い眠りを続けていた。

 そのあどけなさが残る寝顔は天使の様に無垢で、それでいて深紅の髪と造形の美しさから人形かと見間違える程に優美である。
 デュボイズは無意識に少年の寝顔に見惚れ、長い時間その造形を見つめていた。そしておもむろに近づき、長いまつ毛と切れ長の閉じた瞼にかかる紅髪を優しく退けてあげた。

(本当に綺麗な顔をしているな…)

 その瞬間、瞳に涙を浮かべて快感に善がる昨夜の顔が脳裏に浮かぶ。

(――!!)

 少年の特別な表情を見てしまったかもしれない。背徳感がデュボイズの下腹部を切なく強ばらせたが、彼は頭を振って無理やりその気持ちをかき消した。

 ――そして今度は魔導師としての威厳を持って少年の顔を見つめる。

 少年の表情は昨日出会った時に比べて明らかに血色が良い。
 これは昨夜の快感や精液が体内に潜む夢魔の餌となり、少年の生気が保たれた証と言えよう。

(一応の善処はした、という事か……)

 しかし、デュボイズの心中は複雑であった。



 デュボイズはこれからの対処に悩みながら、少年達が訪問して来た時の事を何度も思い出し、託された手紙を読み返していた。

(そもそも、アイツが無理やり私に託したのがいけなかったんじゃないのか?)

 アイツとは、デュボイズの旧友で同じ魔導師の『カンリン』という男である。

 カンリンは遥か東の異国の血を四分の一併せ持ち、異国独特な端正な顔とスラリとした長身、紫の長い髪が特徴の、誰もが見惚れてしまう中性的な美貌の持ち主であった。
 更に彼は魔導師の中でもエリート中のエリートで、現在は大国・エンディリア公国の王の側近として仕えている。

 一方でデュボイズ本人はと言うと、辺境の小さな領土が集まって出来たガディウス共和国のレイズ領、その山深く人里離れた場所で独りひっそり暮らしている。

 同い歳で同じ師に習い、ライバルとして切磋琢磨した仲であったが、今はこんなにも格が違う。
 負け犬の気持ちにならなかったと言えば嘘になるが、それよりも最近のデュボイズは人生にすら諦めを感じていたので、敵うわけが無い……と、今ではそう思っていた。

 そんな寂しく質素な生活を送っていたデュボイズの元に、最高位の魔導師であり旧友が見知らぬ少年を突然連れてきたのだから、驚かないわけが無い。
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