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デュボイズ💘タキオン

夜明け(♥)

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 日差しが強くなり夜の涼しさが心地よくなってきた頃。人里離れた山奥に暮らすデュボイズの小屋では、男二人が全裸のまま、一人用のベッドの上で抱き合うように寝ていた。

 先程まで愛部を結合し、激しく求め合って一つに溶け合った身体は、今も尚、汗ばんだ肌と肌が吸い付き、離れがたそうに密着している。

 デュボイズは傍らで寝ている柔らかい赤髪が鼻に掛かり、ふと目が覚めた。

 自身の腕の中で眠る少年は、未だ安心しきった様に深い眠りに就いている。
 無理もない。先程まで何度も身体を震わせて全身から汗を吹き出し、声が枯れる程悦び喘いだ疲労は計り知れない。更に、休まる事を許されなかった絶頂は、少年の脳髄までも麻痺させ、愛慈が終われば倒れ込む様に夢へと誘わせた。

「今夜もそんなに良かったか……」

 デュボイズは慈しむ眼差しで少年を覗き込んだ。
 その寝顔は子供の様に唇を無垢に開き、切れ長の瞼が長いまつ毛を伴って優しく閉じている。デュボイズは先程とは真逆の、少年の可憐な装いに改めて釘付けにさせられた。そして再び溢れ出る愛の余韻を、静かに口付けで与えたのだった。

 気付けば、闇深かった空は少しずつ赤味を増し、陽の力を漲らせていた。続いて、その暖かさに気付いた小鳥達が森の中から目覚め、朝の歌声をたなびかせる。

(こんな清々しい夜明けを見たのはいつぶりだろうか……)

 デュボイズは裸のまま、引き寄せられる様に窓際に立ち、外を眺めた。
無心で眺めるのが惜しい程に、空の色は刻一刻とその様相を変える。

 それは正にこの世の神秘であった。

 これも全て、タキオンと出逢えたおかげだ。昔のまま人間を忌み嫌い、独りで不満を垂れる毎日を過ごしていたら、今の感動に気付けただろうか。

 否、この感情はタキオンという少年の出逢いに喜び、愛し合う幸せに喜び、今を生きる幸せに気付いてもたらされるものであった。
 デュボイズはその幸せ達を噛み締め、改めて今日の夜明けを迎えられる事に感謝し、視線を天へと向けた。

「……んぅ。アレ、せんせぃ……起きてたんですか?」

 デュボイズが空の移り変わりを見つめていると、赤髪の少年が肩肌寒そうに気怠い体を起こした。

「あぁ、タキオン。起こしてしまったか」
「はい……なんだか人肌が寂しくなって…………」

 深く眠っていたと思っていたのに人肌がないと気付くのは、野生の勘か、それとも深い愛ゆえの感覚か。

 タキオンもまた裸のまま窓際に歩み寄ると、そっと甘えるようにしてデュボイズを抱き締めた。

「あったかぁい……」

 冷えた素肌同士が密着し、互いの温もりを感じ取る。デュボイズも少年の華奢な背中を抱き返し、満たされる心の暖かさに浸った。

「先生、何を見てたんですか?」
「あぁ、夜明けの空を見ていたんだ」

 頭半分程背の高いデュボイズに対し無邪気に見上げたタキオンは、愛する人の視線をなぞって外を眺めた。
 空は先程より更に赤さが広がり、山の裾野からは眩むほどの黄色い光が漏れだしている。

「空全体が青と赤が入り交じって……吸い込まれそうなほど綺麗……」
「そうだろう。この世界は理屈では語りきれない、素晴らしい幻想で溢れかえっている。しかし、それに気付く為には、己の心も純白でなければならない」
「……うーん? 難しくてよく分かんないですけど……つまり先生とボクの心は純白って事ですね!」

 ハツラツと答える少年に、デュボイズは思わず頬が綻んでしまった。

「そうだ。しかし私の心はついこの間まで、灰色どころか茶黒く淀みきっていた。それを白く浄化させてくれたのは、タキオン。お前だ」
「えぇ!? ボク、別に何かしたわけじゃないですけど?」
「いいんだ。お前のままで。それが私の心を綺麗にしてくれる」

 目を見開いて驚くタキオンに、デュボイズは少年を強く抱き締め、細い首元に顔をうずめた。

「――私がこうやって抱き締める事も、その紅髪を見る事が出来なくなっても、それでもお前は私の傍らに居てくれるか……」
「勿論です!ずっと、ずっと、こうやって傍に置かせてください。先生、好きです……胸が苦しいほど大好きです……」
「タキオン……私も狂おしい程、愛している……」

 二人は心の内を吐き出し互いを見つめた。窓の外から陽の光が差し込み、デュボイズの意思を込めた眼差しと、タキオンの硝子の様な緑の瞳から、光の粒を散りばめさせる。

「せんせ…………ん、ンぅ……」

 純真に満ち溢れた瞳を暫く見つめた後、デュボイズは少年の両頬を掌で包み、先程の言葉に応えようと誓いの口付けをした。
 唇の柔らかさを味わい、舌を絡めあって愛情の深さを与え合う。
 デュボイズがどんなに深く激しく顔の角度を変えようと、タキオンはその口付け全てを健気に受け入れた。

 夜明けの光は今この瞬間、神々しさを携えた朝日が姿を現した。
 そして生命の源となる光陽は、影まで飲み込む白き後光となって、誓い続ける二人を照らし祝福した。
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