星の鳴る刻(全天オデュッセイア(星座88ヶ国)短編集)

星谷芽樂(井上詩楓)

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や座

たとえ間違いだったとしても

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 矢国の騎士団長イーロスは、人里離れた岩山郡の麓に夜な夜な出向いていた。

「サイク、今夜も来たぞ……」

 岩山の割れ目に出来た洞窟へ入ると、漆黒の闇の中、奥まった場所で一人の青年が身体を縮こまらせて座っている。その青年が声に気付くと、酷く怯えた様子で背後へ後ずさった。

「あ、あなたは一体誰なんですか! どうして私をこんな所へ攫ったのですか!」

 サイクと呼ばれた青年は美しい顔が涙で汚れ、恐れと怒りを含ませて来訪者を睨みつける。
 イーロスが持つ灯りはとても小さく、一つしかない。その為、サイクの麗しい表情が照らされても、イーロスの正体を照らす事は決して無い。それが余計にサイクの不安を煽り、怯えさせてしまうのだった。

「俺の事は何も知らない方がいい。俺はお前が気に入った。だから此処で匿う」
「それだけの理由で村人達を脅して私をおびき出そうなんて……なんて卑怯な……」

 矢国では身分違いの恋愛を固く禁止している。サイクは村人の一人に過ぎない。その為、イーロスがサイクと結ばれる為には、この方法しか無かったのである。
 
 しかしたった一人、見知らぬ洞窟に閉じ込められ、サイクの心は哀しみに満ちていた。
 突然村を丸ごと焼き払うと言われ、それを阻止する為にはサイクの身が必要だと言われたら、最早誰にも選択肢など有りはしない。

「……たとえ間違いだったとしても、いつかきっと理解してくれると信じている。愛するサイクよ……」

 サイクを悲しませ辛い思いをさせるのは分かっていた。それでもイーロスの想いは諦めるどころか、益々愛おしさが募ってくる。

 サイクは自分を攫ったのが騎士団長イーロスである事をまだ知らない。
 黒い影を纏うイーロスが優しい声で応えると、たくさんの花房を置いて、サイクの額に口付けをした。
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