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くじら座
春、爛漫
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冬の深々とした雪景色も終わりを告げ、若草色の葉が芽吹く頃、空気は甘さを湛えまったりとした暖かさを包み込む。
この頃になると鯨国では、この国の風物詩である桃色の小さな花弁が舞い始めた。
「ミラ! 窓の外を見てみなよ。月桜が舞い始めてる!」
「うん……これでいよいよ、春本番だね」
ミラは少し寂しげに外の花吹雪を眺めていた。何故ならミラという少年は、自身の守護星の寿命が終末期を迎え、彼自身身体を思うように動かせず床に伏せる毎日だったからである。
ミラは感じていた。この花吹雪が見納めになるかもしれない。
(来年の春は、ボクは、もう……)
「ミラ、なにボケっとしてるんだ。行くよ」
「え? 行くって、どこへ……」
「春の空気を吸わないなんて勿体無い! 外へ連れて行くって言ってるんだ」
「外へ!?」
ミラよりも一回り大きい体格のシャマリーは、自分の背中をミラに向けてしゃがみ込んだ。「早くおぶされよ」と言わんばかりに、後ろで驚くミラに相槌をする。
よろよろとミラがシャマリーの背中に寄りかかる。痩せ細ったミラを背負うのは思った以上に軽くて楽で、それが何を意味するのか、シャマリーの心がひどく締め付けられていた。
「さあ、しっかりおぶさっていろよ?」
シャマリーが勢い良く外へ飛び出すと、甘い春の空気が二人を包み込んだ。少し鼻を上げれば、月桜の甘酸っぱい香りが微かに鼻腔をくすぐる。
「あぁ、そういえば春の匂いって、こんな感じだったなぁ……」
ミラはもう何年も久しく外気に触れていない。この香りを頼りに、昔の春の記憶が脳裏に蘇ってくる。
花弁を追いかける幼い頃の自分が懐かしい。澄んだ青空の下、空を見上げて花の舞をいつまでも眺めるのが好きだった。
「どうだ? たまには外へ出てみるのも良いもんだろ?」
「うん、そうだね……ありがとう」
そして今この瞬間、想い人の温もりを感じながら見る特別な景色も……。
ミラは全身の感覚を研ぎ澄ませて、満たされる心を噛み締めながら瞳を閉じた。
この頃になると鯨国では、この国の風物詩である桃色の小さな花弁が舞い始めた。
「ミラ! 窓の外を見てみなよ。月桜が舞い始めてる!」
「うん……これでいよいよ、春本番だね」
ミラは少し寂しげに外の花吹雪を眺めていた。何故ならミラという少年は、自身の守護星の寿命が終末期を迎え、彼自身身体を思うように動かせず床に伏せる毎日だったからである。
ミラは感じていた。この花吹雪が見納めになるかもしれない。
(来年の春は、ボクは、もう……)
「ミラ、なにボケっとしてるんだ。行くよ」
「え? 行くって、どこへ……」
「春の空気を吸わないなんて勿体無い! 外へ連れて行くって言ってるんだ」
「外へ!?」
ミラよりも一回り大きい体格のシャマリーは、自分の背中をミラに向けてしゃがみ込んだ。「早くおぶされよ」と言わんばかりに、後ろで驚くミラに相槌をする。
よろよろとミラがシャマリーの背中に寄りかかる。痩せ細ったミラを背負うのは思った以上に軽くて楽で、それが何を意味するのか、シャマリーの心がひどく締め付けられていた。
「さあ、しっかりおぶさっていろよ?」
シャマリーが勢い良く外へ飛び出すと、甘い春の空気が二人を包み込んだ。少し鼻を上げれば、月桜の甘酸っぱい香りが微かに鼻腔をくすぐる。
「あぁ、そういえば春の匂いって、こんな感じだったなぁ……」
ミラはもう何年も久しく外気に触れていない。この香りを頼りに、昔の春の記憶が脳裏に蘇ってくる。
花弁を追いかける幼い頃の自分が懐かしい。澄んだ青空の下、空を見上げて花の舞をいつまでも眺めるのが好きだった。
「どうだ? たまには外へ出てみるのも良いもんだろ?」
「うん、そうだね……ありがとう」
そして今この瞬間、想い人の温もりを感じながら見る特別な景色も……。
ミラは全身の感覚を研ぎ澄ませて、満たされる心を噛み締めながら瞳を閉じた。
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