星の鳴る刻(全天オデュッセイア(星座88ヶ国)短編集)

星谷芽樂(井上詩楓)

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はくちょう座

何もいらない

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 雨上がりの朝光は、眩暈を起こすほど強烈な輝きを放つ。
 白鳥シグニ国南部の領主、アルビレオの寝室にもその強い光が窓辺から差し込み、褥を照らしていた。

「ん……もう朝か……」

 昨夜は弟オルニスと褥を共にし、激しく愛慈を交わした。
 オルニスは全天一美しい星ビトだと謳われている。肩上で切り揃えられた青白い髪、白く透き通った肌、澄んだ水色の瞳は、氷細工の様に碧く繊細な宝石の様である。

 しかしその繊細な容姿には理由があった。
 オルニスは守護星が不安定なせいでとても身体が弱く、今までの人生を全てこの屋敷の中だけで過ごしてきた。更に、兄アルビレオの精を貰い受けないと生き永らえない制約がある。
 それ故昨夜の情事も、オルニスが生きる為の大事な儀式なのであった。

 アルビレオは自分の腕の中で眠るオルニスの寝顔を覗いた。
 乱れて肌に張り付く白い髪は、夜の激しさを物語っている。しかし弟の寝顔はとても無垢で、満足そうに眠っているのがよく分かる。その愛おしい姿に、アルビレオの心は切なく締め付けられた。

「あぁ、オルニス……愛おしい弟よ。お前が居るなら何もいらない。いつまでも元気に、俺の前で笑っていてくれ。その為なら、俺は何にでもなろう。全てはお前のために……」

 アルビレオはオルニスの額に優しく口付けをした。次に目尻へ、頬へ、うなじへ、大事に抱き締めながら、滑らかな肌の隅々に愛の証を付けてゆく。

「うん……アル、ビレオ? なにして……」
「起きたかオルニス。見ろ、朝の光が俺たちを照らしてくれている」
「凄く眩しいよ……光の中に埋もれてしまいそう……」

 片手で瞳を覆うオルニスだったが、アルビレオはその華奢な手の平にも口付けを与える。

「俺はお前と一緒なら、光の中に溶けてしまっても構わない。いや、寧ろ幸せだ」
「ボクも同じだよ。アルビレオと一緒なら、光の中はどんなに素晴らしい世界だろう……」

 二人は抱き合い、互いの温かな肌が溶け合っていくのを感じた。
 陽の光も二人を祝福している。宝石の様にキラキラと輝きを増す二人の身体は再び一つとなり、もう一度意識を天へと昇らせて行った。
 
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