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からす座
誰よりも、ずっと
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鴉国の王アルキバは、大人と呼ぶにはまだまだ幼い多感な時期を生きる少年王である。彼は広い王宮の敷地内に流れる小川を散歩するのが好きで、今も執務の合間にここを訪れていた。
陽に照らされ、小川の清流はキラキラと星の粒を生みだす。その反射で彼のウェーブする長く美しい金髪が光を帯びた。
「今日は光の粒が豊富で、瞳が痛いくらいだ」
アルキバ王が足先でその水を引っ掛け持ち上げる。すると彼の周りには無数の星粒が瞬き、美しいアルキバ王を照らしたのだった。
「どうだ? 星粒はたくさん瞬いたか?」
「はい。ですが、勢いよくやれば、お召し物が濡れて風邪を引いてしまいます」
「はは、構わないさ。部屋に帰れば代わりの服がたくさんある」
「それはそう、なのですが……」
はしゃぐアルキバ王の傍で見守るのは、彼の重臣、サテュロスという名の青年である。
サテュロスはアルキバ王より少し歳上で、黒髪黒瞳、そして大きな黒い羽を持つ『異形』と言われる者だった。
全天オデュッセイアで黒髪黒瞳を持つ者はとても珍しい。更に大きな羽を持つ者は「災いをもたらす悪魔」と呼ばれ、人々から忌み嫌われている存在だった。
しかしアルキバ王は、そんなサテュロスを心から慕う。異形の者を迷信だと笑い、黒い羽はいつでも飛べるから素晴らしいと称える。
それまで世間から虐げられてきたサテュロスは、この若い王のおかげで見える世界がガラリと変わったのだった。
(俺がアルキバ様を守る……どんな小さな事でも、この身と命をかけて……)
それ以来サテュロスはアルキバ王の傍を一時も欠かさず護ってきた。誰よりもずっと強い想いで……。
「アルキバ様、俺の羽をお使い下さい。寒さも幾分和らぐでしょう」
サテュロスはアルキバ王の背後に立つと大きく羽を広げ、ヒタヒタに濡れるアルキバ王の華奢な身体を優しく抱いた。
「うん、暖かい……身も、心も……」
「はい……」
サテュロスの全身にヒヤリと冷たい感触が伝わった。抱きしめる腕の上から、更にアルキバ王の冷えた手の平が覆う。
だが、今は時を止めたいくらい心がとても暖かい。二人は互いの体温を噛み締めながら、暫し微睡みに溺れたのだった。
陽に照らされ、小川の清流はキラキラと星の粒を生みだす。その反射で彼のウェーブする長く美しい金髪が光を帯びた。
「今日は光の粒が豊富で、瞳が痛いくらいだ」
アルキバ王が足先でその水を引っ掛け持ち上げる。すると彼の周りには無数の星粒が瞬き、美しいアルキバ王を照らしたのだった。
「どうだ? 星粒はたくさん瞬いたか?」
「はい。ですが、勢いよくやれば、お召し物が濡れて風邪を引いてしまいます」
「はは、構わないさ。部屋に帰れば代わりの服がたくさんある」
「それはそう、なのですが……」
はしゃぐアルキバ王の傍で見守るのは、彼の重臣、サテュロスという名の青年である。
サテュロスはアルキバ王より少し歳上で、黒髪黒瞳、そして大きな黒い羽を持つ『異形』と言われる者だった。
全天オデュッセイアで黒髪黒瞳を持つ者はとても珍しい。更に大きな羽を持つ者は「災いをもたらす悪魔」と呼ばれ、人々から忌み嫌われている存在だった。
しかしアルキバ王は、そんなサテュロスを心から慕う。異形の者を迷信だと笑い、黒い羽はいつでも飛べるから素晴らしいと称える。
それまで世間から虐げられてきたサテュロスは、この若い王のおかげで見える世界がガラリと変わったのだった。
(俺がアルキバ様を守る……どんな小さな事でも、この身と命をかけて……)
それ以来サテュロスはアルキバ王の傍を一時も欠かさず護ってきた。誰よりもずっと強い想いで……。
「アルキバ様、俺の羽をお使い下さい。寒さも幾分和らぐでしょう」
サテュロスはアルキバ王の背後に立つと大きく羽を広げ、ヒタヒタに濡れるアルキバ王の華奢な身体を優しく抱いた。
「うん、暖かい……身も、心も……」
「はい……」
サテュロスの全身にヒヤリと冷たい感触が伝わった。抱きしめる腕の上から、更にアルキバ王の冷えた手の平が覆う。
だが、今は時を止めたいくらい心がとても暖かい。二人は互いの体温を噛み締めながら、暫し微睡みに溺れたのだった。
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