15 / 60
こぐま座(&りゅう座)
扉
しおりを挟む
小熊国の王宮門は、見上げる程大きな扉で部外者を立ち塞ぐ。
青空が気持ち良いこの日、龍国のトゥバンは隣国小熊国の大事な人に会う為、大きな扉の前で深く息を吸って声を張り上げた。
「たのもぉぉ!! 今日も龍国のトゥバン様が来てやったぞ!」
トゥバンは門の動きに期待した。が、巨大な正門は、動くどころか平然と沈黙を守り続ける。
「おい、俺はこの国の王、ポラリスと仲が良いんだぞ。その俺様を無視すんのか!」
しかし、正門は少しも動かず、異国の来訪者を拒もうとした。
(ははーん、そうやって俺を拒んだってそうはいかねぇ……)
いつもそうだ。この国の侍従達はトゥバンの来訪を歓迎しない。むしろさっさと諦めて自国へ帰れと無言の圧力を呈している。
だが、そんな事は日常茶飯事。売られた喧嘩は買いたくなってしまうのが、この若い青年の悪い癖であった。
トゥバンはニヤリと笑って正門から少し離れた。そして足を屈めて小さく縮こまると、一気に飛んでその身体は空へ舞い上がる。
龍国の民はその国名と同じく、龍のように身のこなしの軽い者が大半だ。そしてトゥバンも同じく、ヒュルヒュルと舞い上がった体はそのまま王宮門を越えて、ふわりと敷地の中に落ちて行く。
「トゥバン! いつもいつもなんて無礼な奴なんだ!」
「ポラリス様が罰を下さない事を分かってて利用するとは!」
王宮門の裏側に待機していた門番達から、次々に怒りと落胆の声が上がった。だが、そんな罵声もトゥバンにしてみたら小虫が腕に付くぐらいの事だ。
「はん! 元北極星だった俺様を見くびんじゃねぇよ!」
その表情はどこか誇らしげでもある。
彼はこの世界では珍しい青紫の立て髪を靡かせ、細長く結った後ろ髪がゆっくり背中に着くと、背後からの憎々しい声達に皮肉を返してやったのだった。
王宮内は見回しても見回しきれないほど広く、迷路の様に廊下が入り組んでいる。
しかしここは何度も通った道だ。トゥバンは視線を見据えて真っ直ぐとある目的の場所へと向かった。
トゥバンが堂々と大きな渡り廊下を歩く間、後方に次々と城の侍従達が恨み嫉みの混じった忠告を投げつけて来る。しかし、彼らはそれ以上は手を出してこない。何故なら、この国の王が「丁重に扱え」とトゥバンを擁護しているからだ。トゥバンはそれを知っていて、敢えて人の行き来が多い真正面から靴音を鳴らして歩き続けた。
大きな廊下を歩き続けると、やがて突き当たりに大きな扉が現れた。煌びやかに輝く蔦模様の枠線と、中央には大きな熊とその小熊を金と銀であしらった神々しい美麗細工が施されている。見るからにこの扉が特別な空間への入り口なのだと語っているようだ。
つまり、この先が小熊国の玉座の間だ。そしてトゥバンの逢いたい人がそこに居る。
トゥバンは大扉の前まで来ると立ち止まり、一度深く呼吸した。
逢いたい人はどんな顔で待っているだろう。どんな表情で出迎えてくれるのだろう。鮮やかな蒼色をした大きな瞳を輝かせ、可愛らしい白い巻毛を揺らして駆け寄ってくれるだろうか。
淡い期待に胸が熱くなる。鼓動が高鳴る。そしてトゥバンは豪奢な扉を力一杯押して、特別な空間へと歩みを進めた。
「遊びに行こうぜ! ポラリス!」
大きな扉を勢いよく開けて、奥の玉座に座る少年王を見つめた。少年王はトゥバンの声を聞いて頬に血が通っていく。今にも走り出しそうに身を乗り出して、大きな蒼い瞳に光を散りばめさせている。
その表情に、トゥバンも思わず心が締め付けられた。
「今日はどこに行こうか。近くの小川にするか? 今は星の華が満開になる時期だな。そっちにするか?」
しかし、少年王の両脇を堅める騎士団長二人が長い腕を交差して行く手を阻んだ。
「なりませぬ! ポラリス王は北極星たる北半球を見守る役目があるのです!」
そんな事は分かっている。だが、常に見守る精神力の辛さを皆は分かっているのか? この無垢な少年王に、どれだけの重荷を背負わせているか、気付いているのか?
その証拠に、少年王は阻まれた腕をするりと抜けて、両手を広げて待つトゥバンの胸に飛び込んだ。
「トゥバンが連れてってくれるなら、どこでも……」
「そうか。それなら俺様のとっておきの場所を教えてやるから、振り落とされるなよ!」
トゥバンは少年王ポラリスを抱きかかえると突然走り出した。王の間のバルコニーから飛び立てば、彼は龍の如く大空へと翔たのだった。
青空が気持ち良いこの日、龍国のトゥバンは隣国小熊国の大事な人に会う為、大きな扉の前で深く息を吸って声を張り上げた。
「たのもぉぉ!! 今日も龍国のトゥバン様が来てやったぞ!」
トゥバンは門の動きに期待した。が、巨大な正門は、動くどころか平然と沈黙を守り続ける。
「おい、俺はこの国の王、ポラリスと仲が良いんだぞ。その俺様を無視すんのか!」
しかし、正門は少しも動かず、異国の来訪者を拒もうとした。
(ははーん、そうやって俺を拒んだってそうはいかねぇ……)
いつもそうだ。この国の侍従達はトゥバンの来訪を歓迎しない。むしろさっさと諦めて自国へ帰れと無言の圧力を呈している。
だが、そんな事は日常茶飯事。売られた喧嘩は買いたくなってしまうのが、この若い青年の悪い癖であった。
トゥバンはニヤリと笑って正門から少し離れた。そして足を屈めて小さく縮こまると、一気に飛んでその身体は空へ舞い上がる。
龍国の民はその国名と同じく、龍のように身のこなしの軽い者が大半だ。そしてトゥバンも同じく、ヒュルヒュルと舞い上がった体はそのまま王宮門を越えて、ふわりと敷地の中に落ちて行く。
「トゥバン! いつもいつもなんて無礼な奴なんだ!」
「ポラリス様が罰を下さない事を分かってて利用するとは!」
王宮門の裏側に待機していた門番達から、次々に怒りと落胆の声が上がった。だが、そんな罵声もトゥバンにしてみたら小虫が腕に付くぐらいの事だ。
「はん! 元北極星だった俺様を見くびんじゃねぇよ!」
その表情はどこか誇らしげでもある。
彼はこの世界では珍しい青紫の立て髪を靡かせ、細長く結った後ろ髪がゆっくり背中に着くと、背後からの憎々しい声達に皮肉を返してやったのだった。
王宮内は見回しても見回しきれないほど広く、迷路の様に廊下が入り組んでいる。
しかしここは何度も通った道だ。トゥバンは視線を見据えて真っ直ぐとある目的の場所へと向かった。
トゥバンが堂々と大きな渡り廊下を歩く間、後方に次々と城の侍従達が恨み嫉みの混じった忠告を投げつけて来る。しかし、彼らはそれ以上は手を出してこない。何故なら、この国の王が「丁重に扱え」とトゥバンを擁護しているからだ。トゥバンはそれを知っていて、敢えて人の行き来が多い真正面から靴音を鳴らして歩き続けた。
大きな廊下を歩き続けると、やがて突き当たりに大きな扉が現れた。煌びやかに輝く蔦模様の枠線と、中央には大きな熊とその小熊を金と銀であしらった神々しい美麗細工が施されている。見るからにこの扉が特別な空間への入り口なのだと語っているようだ。
つまり、この先が小熊国の玉座の間だ。そしてトゥバンの逢いたい人がそこに居る。
トゥバンは大扉の前まで来ると立ち止まり、一度深く呼吸した。
逢いたい人はどんな顔で待っているだろう。どんな表情で出迎えてくれるのだろう。鮮やかな蒼色をした大きな瞳を輝かせ、可愛らしい白い巻毛を揺らして駆け寄ってくれるだろうか。
淡い期待に胸が熱くなる。鼓動が高鳴る。そしてトゥバンは豪奢な扉を力一杯押して、特別な空間へと歩みを進めた。
「遊びに行こうぜ! ポラリス!」
大きな扉を勢いよく開けて、奥の玉座に座る少年王を見つめた。少年王はトゥバンの声を聞いて頬に血が通っていく。今にも走り出しそうに身を乗り出して、大きな蒼い瞳に光を散りばめさせている。
その表情に、トゥバンも思わず心が締め付けられた。
「今日はどこに行こうか。近くの小川にするか? 今は星の華が満開になる時期だな。そっちにするか?」
しかし、少年王の両脇を堅める騎士団長二人が長い腕を交差して行く手を阻んだ。
「なりませぬ! ポラリス王は北極星たる北半球を見守る役目があるのです!」
そんな事は分かっている。だが、常に見守る精神力の辛さを皆は分かっているのか? この無垢な少年王に、どれだけの重荷を背負わせているか、気付いているのか?
その証拠に、少年王は阻まれた腕をするりと抜けて、両手を広げて待つトゥバンの胸に飛び込んだ。
「トゥバンが連れてってくれるなら、どこでも……」
「そうか。それなら俺様のとっておきの場所を教えてやるから、振り落とされるなよ!」
トゥバンは少年王ポラリスを抱きかかえると突然走り出した。王の間のバルコニーから飛び立てば、彼は龍の如く大空へと翔たのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる