星の鳴る刻(全天オデュッセイア(星座88ヶ国)短編集)

星谷芽樂(井上詩楓)

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少年王のねがいごと

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「僕は全天オデュッセイア八十八ヶ国の王様の中で、一番暗い星の一番小さな王様なんです……その僕が、一等星の立派な王様達と肩を並べて立派に役目を果たせるでしょうか……」

 各国八十八人の王達が集まり、三日間に渡って会議を行う『オデュッセイア大会議』一日目の夜。
 卓上メン国の王メンサ少年王は、夜空に浮かぶ自身の守護星メンサ星に向かって大きくつぶらな藍の瞳を潤し、不安そうに呟いていた。

 メンサ少年王は歳の頃もまだまだ子供で、王に召し上げられたのもまだひと月と経たない。
 しかし年に二回行われる大会議には必ず出席しなければならず、彼は言われるがまま参加し、他国の王達の神々しさに圧倒されて消沈してしまっていた。

 他国の王達は当然ながら一等星や二等星の守護星を持つ者が多く、守護星が明るければそこから生まれ落ちた星ビトのオーラも強く光り輝く。
 しかしメンサ少年王の守護星は五等星である。自国の中では一番明るい守護星を持つものの、他国からすれば、五等星という輝きは平民のそれと何ら変わらない明るさであった。

「――メンサ殿、どうされたのですか?」
「あ、貴方は蝘蜓カメル国の……ショウトさま……」

 メンサ少年王の背後から、スラリと長身で青紫の長い髪を束ねた優しそうな青年が心配そうに声をかけた。
 ショウトと呼ばれる青年はメンサ少年王の隣国、蝘蜓カメル国の王であり、守護星は四等星の明るさを持つ。彼はメンサ少年王の心内を察して、そっと傍に寄り添ってくれたのだった。

「…………王である事がご不安ですか?」
「は、はい……」
「各国の名だたる王達を見て、自分には力不足だと……そう、お感じになられているのですか……」
「はい……はいっ……ぐすっ」

 メンサ少年王はショウト王に本心を突かれ、懸命に堪えていた涙が溢れ出てしまった。
 
 この世界では、国の中で一番明るい星から生まれる星ビトが王になる。メンサ少年王もそうして幼いながらに王となったわけだが、果たして国民の皆や他国の王達が自分を王だと認めてくれるのか、不安で不安で心が張り裂けそうだった。
 
 それだけではない。海賊や光を侵食する破壊者コラプサー、国土を破壊する流星群スターバーストが自国に迫ってきたら、自身の光の弱さでは国を護る事もままならないだろう。
 そんな自分が王になって良いのか、ずっと自問自答してきたのであった。

「メンサ殿は、卓上メン国をどんな国にしたいですか?」
「……へっ?」

 ショウト王はにっこり笑って問いかける。まるで今の悩みなど不要のものだと言っている様だ。

「えっと……今でも皆さん優しくて暖かくておおらかで、のんびりした国だけど……僕はそんな卓上メン国が大好きです。なので、このまま変わらず、ずっと平和に暮らしていけたらいいな……と思います……」

 そう言って、最南にほど近い卓上メン国の見慣れた景色を思い浮かべた。
 星ビト達の命の糧になる星の華が咲き乱れ、皆が明るく手を振って名を呼んでくれる。そして遠くには国名の由来ともなった平べったい大きな山が聳え立ち、その山に向かって暖かく心地よい風が髪と頬を撫ぜてくれる。

 メンサ少年王は窓から遠くを見つめて目元が綻んでいた。
 今ある皆の笑顔と景色が続くのなら、それ以外は何もいらない。

「では、その様にご自身の守護星に、そして自国の民達にも願うと良いでしょう。貴方一人が悩む必要など無いのです。ご自身の今のお気持ちを伝えれば、皆もきっと喜ぶと思いますよ」
「そうなんですか!? ……でも万が一、僕の国に脅威が来てしまったら……」
「その時は私がお力添えいたします。私の国も民達も……」
「えっ!? そんな事、申し訳ないです!」
「国とはそういうものです。それが隣国同士のよしみというものですよ」
「そ、そうなのですね……ひとつお勉強になりましたっ」

 メンサ少年王は両拳を強く握って嬉しそうに息を上げた。その純粋な姿にショウト王も笑みが溢れて、低い頭を優しく撫でてあげる。

「私もかつては同じ思いで悩み苦しみました。ですが、自国は自国、他国は他国。王の光がたとえ小さくても、その分周りの皆が頑張ってくれて良い事だって沢山起こるのです。大事なのは、皆の笑顔を守ろうとする事。それを忘れなければ、これからも卓上メン国は安泰でしょう」

 ショウト王も麗しい切れ長の瞳で遠くの空を見つめていた。そしてメンサ少年王だけでなく、誰かに向けて心強い言葉を投げかけている様に見える。

「……ショウトさまは蝘蜓カメル国の皆さんを見守ってきて、ご自分でそういう考えを見つけたのですか?」
「いいえ。実は先ほどの言葉は、とある敬愛していた方から教えて頂いた言葉なのです。そして、それは本当だったと今では心の底から感謝しています……」
蝘蜓カメル国の長老さまが教えて下さったのでしょうか? 僕もぜひ教わりたいです」
「いえ、卓上メン国の先代王のお言葉ですよ……」
「僕の先代の王さま!?」

 メンサ少年王の先代はとても大らかで人当たりがよく、今ののどかな風情があるのもこの先代の功績の一つだと言われている。
 メンサ少年王は侍従達から話を聞いただけだが、その人望はとても厚いものだったと、思い出に耽る彼らを見る度にひしひしと強く感じていた。

 星空の光に反射するメンサ少年王の大きな藍の瞳は、今やキラキラと音を奏でる程に輝いていた。
 先代の心は受け継がれる。隣国のショウト王へ、やがて後を任されたメンサ少年王へ。
 メンサ少年王は先代の思いを垣間見た気がして、この気持ちをいつまでも繋いでいきたいと強く願っていた。未来の、更にその先の少年王達へ……。
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