星の鳴る刻(全天オデュッセイア(星座88ヶ国)短編集)

星谷芽樂(井上詩楓)

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序章

キトラの序章

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 学者見習いの少年キトラは、無数の蔵書が置かれた図書館の小窓を覗き、天に煌めく夜空の星々を眺めていた。

 なぜ僕達は守護星と呼ばれる恒星から産まれ、命を共有し、星ビトとして心を持って生きるのか。
 
 気が遠くなる程の大昔、宇宙の片隅では、人間という僕たちに似た存在が多勢をなし、文化と秩序を持って生きていたという。

 しかし人間と星ビトは決定的に違うものがある。それは性別だ。
 人間には男と女という違う性が存在した。彼らは大勢の異性から愛する人を見つけ、そこから子孫を残し民族を形成した。
 だが星ビトに性別は無い。強いて言えば、進化系と言われた『男』の姿と皆同じだ。皆、守護星から産まれるのだから、異性というのは必要なくなったわけだ。

 しかし誰かと愛し合う心はある。
 心は大昔と変わらず、誰かとの繋がりを求めている。

 ここでキトラは鼻息混じりのため息をついて、手元の分厚い本を閉じた。

「……人の進化に性別は無くなっても、心は必要なのか……」

 キトラは今まで学者になる事だけを夢見て、周りの者など見向きもしなかった。
 だが、同じ志しを持つ者たちは友人を作り、恋人を見つけ、時に喧嘩や別れ話で心を打ち砕く者がいる。
 それもまた、星ビトとして必要な事なのかもしれない。

「心……仲間を作る、愛する人を見つける……そんな星ビトを見て回れば、僕が、僕たちが、なぜこの世界に生きるのか、理由が分かるかもしれない……」

 キトラはもう一度空を見上げ、自分を産み落としてくれた守護星を見つめた。

 彼の守護星に言葉は無い。しかし、キトラの心の片隅に湧いた小さな高揚に気付いて、いつも以上に煌々と青白く輝いている。

 キトラは愛という心の揺らぎをまだ知らない。
 愛の形が無数にあるのだと知った時、彼もまた誰かの傍らで心を寄り添わせているのだろう。
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