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スエル・ドバードの酒場

#6.ボルカ

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「ああ..やっと着いたよ!? ..ほら早く開けよ? ...ドア!」

夜の18時を過ぎ、ようやくゲヘサ・ターツから戻ったセシリアは、列車のドアがゆっくり開くとそのドアが開き切る前にすり抜けて急いで駅構内へと出る。

走ってルモーサ駅を出るなり、酒場ボルカのある方に顔を向けて走り、その道を塞ぐ人の群れに声を出し掻き分け進む。

「頼むよ! ちょっと退いて?! こっちは急いでるんだっ..てぇ? ..ほら...退けって!」

「何すんだよ! てめぇ?!」

「だから退いてって言ってんの?! ..ほら退い...ってってばぁ!」

その急ぐセシリアの肩にぶつかり文句を言う通行人と軽く言い合い、他にも睨みつける通行人をセシリアは無視して、その場を駆け足で過ぎ去って行く。

この時、そんなセシリアの後ろ姿を一生懸命に追う1人の影があった事を、当然セシリアは気づく筈もなかった。

───

スエル・ドバードの酒場

"ボルカ"には、

夜を向かえるとまるでお決まりごとの様に、荒くれ者たちが集まって来る。

そこに集まった者たちは、酒を飲み、愚痴を叩き、

または賭けをして遊び、昼間のストレスを発散させるかの様に、ため息がてらにまた酒を飲む。

そして最後に眠る時間を探すのである。

そんないつもの酒場で独りで飲んでいた来客の老人が気づいたように口を開いた。

「おい! 店主や?

今日は..あの紅い毛のべっぴんさんはいないのかい?」

「すまないね。それがまだ戻って来てないんだ。

あの女...何処で道草を食ってるんだ? ..全く」

ニズルは来客に詫びてから、やきもきした気持ちを思わずこぼす。更にその来客にお詫びとして..

「..それにそんな心配など不要じゃよ、あの女に休みなどありはせぬからな...戻って来てたらあんたの..その飲み干しかけたジョッキに酒を注がすさね?」

「そうかい? そいつは嬉しいね...ところで店主よ...

今日は、その紅い毛のねーちゃんの空いてる時間は..あるのかい?」

来客は、店主二ズルの計らいに相槌を打つと直ぐ目を細め小さく質問した。

「..ああ..申し訳ないね..お客さん...今日は既に予約が入ってるんだよ?」

その質問に断りを入れた二ズルに来客は、何とか違う返事を貰おうと粘る。

「なに...空いたらで構わんよ? 遅い深夜でも構わんのだがね?」

「本当にすまないね...今日はあの女...あるお方の貸し切りなんだよ?」

「ほおー、そいつは元気なこったね? ..で、そんな貸し切る元気な奴とは誰なんだね?」

「ほれ? あそこに座っている...ズバル様ですぜ?」

そう言って店主ニズルは酒場の隅っこのテーブル席で飲む5人のアルダ・ラズムの兵士たちに目を遣った。

「ほー...これはこれは、ズバル様のお相手と来たか...それでは今夜は、とてもワシでは役不足じゃな? ...カッカッカッカ」

「まあ、そういうことですな...また次の機会にでもとっといて下され?」

来客の品の無い笑い声にニズルがそう言い終えると酒場の後ろにある路地に繋がる扉が乱暴に開かれる音とともに、カウンター席に向かって来る足音が鳴り響く。

そして、とても大きな声で..

「...すまないね! 少し遅れちまったよ..」

額の汗を拭いながらセシリアが遅れた事を詫びた。

「貴様! 何処で道草を食っていた!」

「はぁぁ...何とか間に合った..」

「全く...お前という奴は、あれほど時間に気をつけろと言ってやったのに...もう既にズバル様たちはお越しだぞ!」

「..まあまあ、そうカッカすんなって? えー酒は...どれだい?」

「これじゃ! とっとと運んでこい! お詫びも忘れるなよ!」

「はいはい..分かってるよ。...てめぇの声だけで充分に向こうまで届いてるって...全く..」

そうニズルの説教を受けながらアルダ・ラズムの兵士たちが座るテーブル席に向かうセシリアの姿に酒場に訪れている客たち一斉に目を向けそれぞれで声を上げる。

「..へへ、今日はあの女...貸し切りだってよ?」

「誰の?」

「...ほら? あそこで飲んでるズバル様だよ?」

「..クックック、あの女...明日の朝にはクタクタになってんぞ?」

「ああ? 間違いねえ!」

「..でも俺も金が貯まったらさ...次は俺があの女をクタクタにさせてやる?」

「ハハハ、金が貯まったらな?」

揺れるスカートから見える膝元が魅力的な曲線美を描き、膨らんだ胸がそれに合わせて揺れているが分かる。ピンっと伸ばした背筋に落ちついた目付きが男たちに興味を沸かせ、また整った短い紅い髪が更に興奮を誘っていた。それに喉元に流れる数滴の汗が妙にいやらしく見える。

そして、そんな彼女がまだ17歳とは思えずにいたのだ。

しかし、酒場に来る男たちは、逆にそれを楽しんでいたのだが...

「おい! ねえちゃんよ? こっちのジョッキは、とっくに空になってるぜ? ..注いで貰う約束になってんだがね?」

カウンターの前に座るさっきの老人がセシリアに声をかける。

「分かった! 分かった! ..あとでたっぷり注いでやるからそのジョッキ..大事にして持ってな?」

そうカウンター席に叫び、アルダ・ラズムの兵士たちの座る席まで来たセシリアは立ち止まり、息を吸ってから皮肉を交えた挨拶をする。

「えー、大変遅くなりました?

アルダ・の皆さま、

お詫びの印としてラム酒をお持ちしました?」

「ラムズではない...だ」

このセシリアの言葉にアルダ・ラズム4班の団長で兵団全体の中尉でもあるズバルは、笑みを浮かべ指摘した。

(これは、巷でよく使われる古臭い帝国主義のアルダ・ラズムを揶揄した表現...

古いラム酒は、例え安くてもその甘い香りとは違いただ辛いだけで、とてもそのままでは飲めたものじゃ無い..と言われたことから来ている)

無礼なセシリアを他の兵士たちは睨み付けていたがズバルは、笑って彼女に質問する。

「随分と遅かったな? 何処へ行っていたんだ?

まさか..恋人でも出来たのか?」

「いいえ? ..違います」

「では何故だ...何故遅れたのだ? お前にしては珍しいではないか?」

セシリアは、その問に自分を睨み付けている兵士たちを見渡してから...こう答えた。

「ちょっと...習い事でも..」

「習い事だと?」

「ええ? ..芸の一つや二つは覚えていた方がいいかと...思いまして?」

「..何の芸をだ?」

「玉乗りですわ? 丸いものをコロコロ...と転がせる為のね?」

言葉の終わりと同時にセシリアは目の前の兵士たちを見渡す。その行為に兵士の内の1人が声を上げる。

「..きさま?」

「宜しければ、お見せしましょうか?

..私の足元でなってくれるものがあればですが?」

「...」

「それとも誰か..ムチか何かをお持ちでしたら...

今日は私が団長になって、皆様のお尻を打って差し上げましょうか?

アルダ・ラズム・サーカス団の皆様?」

怪しげな表情をするセシリアにズバルは半笑いで質問した。

「貴様...それが面白いとでも思っているのか?」

「いいえ...ただ言いたかっただけですわ...ズバル様?」

そのセシリアの挑発的な言葉に対して1人の兵士が鼻息を荒くして立ち上がり..

「きさま! ...誰に向かって口を利いている!?」

セシリアの胸元の襟を強引に掴み、揺すった。
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