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あの後夕食の声をかけに来たアトラ君も従者らしからぬ大声を上げて驚いていて、俺は悪戯が成功したようないい気分になって夕食へとありついた。ちなみにメタモルフォーゼの解除はスキップボタンが見当たらず、普通にメイク落としで落とした。次は一発解除機能を付けてほしいなー!女神様!
「オークラは今日、ずっとスキルの訓練をしていたのか?」
アルフォンスと俺だけが食卓に着き、シグルドとアトラ君たち使用人が背後に立った状態はまだ慣れない。そんな中でも飯は美味いので豪華なディナーに舌鼓を打ち、後はデザートと言うところでアルフォンスが問いかけてきた。
そうだそうだ。忘れてた。スキルレベルが上がったことも大事だが、肝心な話をまだしてなかったな。俺は一旦ソルベを食べる手を止めてアルフォンスに顔を向ける。
「合間に過去の異界人の資料を見せてもらいました。それでちょっと、気づいたことがあって」
「気付いたこと?」
そう言った瞬間、アルフォンスの表情は真剣なものに変わる。アルフォンスがちらりと視線をマルクスさんに送ると、軽く頷いた彼はシグルド以外の使用人たちと共に部屋から出た。何も言ってないのにわかるなんて、これが阿吽の呼吸ってやつか。さすがは王太子宮の家令だな。
「そう言えば、殿下がお戻りになったら話すと言っていましたね」
「ふうん、シグルドはそれもう聞いたのか?」
「いいえ。私も今初めて聞きます」
言葉を交わしながらもアルフォンスに促され、シグルドが空いた席に座る。そうして話を聞く体制が整ったことに頷き、俺はすうっと深く深呼吸した。
「それで、気付いたこととは何だ?」
「はい」
今から俺が言うことが本当に正しいのかはわからない。荒唐無稽な話だ、不敬だと今度こそ牢屋に入れられてしまうかもしれない。
だが今俺に何ができるかを考えたら、これしか思いつかないのだ。俺はしっかりとアルフォンスに視線を合わせ、口を開いた。
「邪竜エンプリオの巣が見つかった、と言う話はありますか?」
「っは……?お前が何故それを?!」
俺の言葉にアルフォンスが驚愕の表情を浮かべ、シグルドが息を呑む。そりゃそうだろう。異界からきたばかりの俺は邪竜エンプリオの存在を知らないはず。今日貰った資料にも書いてなかった。それなのに当たり前のようにその名を口にしたのだ。
反応を見るに、巣は既に見つかっているみたいだな。てことは巣を先に見つけて卵を潰す作戦は無理とみた。
「オークラ、それは女神の啓示か?」
「いいえ……いや、ある意味そうなのかな」
アルフォンスの問いに首を傾げる。
俺は俺の世界でこの世界とよく似たゲームをプレイしていた。ある意味女神の啓示と言えるのかもしれない。
過去この世界に呼ばれた異界人はゲーム同様のドラゴン災害の阻止に尽力し、成功してきたと資料に記されていたのだ。ならここナルグァルドでも、エンプリオによる国家存亡の危機が訪れるはず。俺は『ゲーム』をアルフォンスたちにわかりやすく『予言書』と言い換え、そのことを伝えた。
「その予言書のようなものに、エンプリオが復活し、我が国に危機が訪れると記されていたと言うのか?」
「はい」
俄には信じられない話だろう。普通なら一笑に伏すような話だ。だが俺は女神の手でこの世界へ連れてこられた異界人。国に危機が訪れる前兆のような存在だ。その俺が話すことを無視することはできないはず。その証拠にアルフォンスは厳しい表情で考え込んでしまった。
「ですが、研究所の報告では巣の中にあったのは奴が食ったとされる骨や巣材程度で目ぼしいものは落ちた鱗数枚と……」
深く考えている様子のアルフォンスに代わり、シグルドが問いかける。なるほど、その報告もゲームのストーリー通りだ。
それなら……
「じゃあ、化石化した卵の報告は?」
「卵ですって?まさか!」
「待て待て、いくら何でもそんなものがあれば必ず報告があるはずだ。俺が知らないはずない」
俺の言葉が余程予想外だったのだろう、素っ頓狂な声を上げるシグルドと思わず俺の方に手を上げて発言を制止するアルフォンス。かなり混乱しているようだ。
悪いけどこれはまだまだ序の口だ。むしろここからが本番、ひっくり返らないようにしっかり背もたれに体を預けてくださいよ!
「オークラは今日、ずっとスキルの訓練をしていたのか?」
アルフォンスと俺だけが食卓に着き、シグルドとアトラ君たち使用人が背後に立った状態はまだ慣れない。そんな中でも飯は美味いので豪華なディナーに舌鼓を打ち、後はデザートと言うところでアルフォンスが問いかけてきた。
そうだそうだ。忘れてた。スキルレベルが上がったことも大事だが、肝心な話をまだしてなかったな。俺は一旦ソルベを食べる手を止めてアルフォンスに顔を向ける。
「合間に過去の異界人の資料を見せてもらいました。それでちょっと、気づいたことがあって」
「気付いたこと?」
そう言った瞬間、アルフォンスの表情は真剣なものに変わる。アルフォンスがちらりと視線をマルクスさんに送ると、軽く頷いた彼はシグルド以外の使用人たちと共に部屋から出た。何も言ってないのにわかるなんて、これが阿吽の呼吸ってやつか。さすがは王太子宮の家令だな。
「そう言えば、殿下がお戻りになったら話すと言っていましたね」
「ふうん、シグルドはそれもう聞いたのか?」
「いいえ。私も今初めて聞きます」
言葉を交わしながらもアルフォンスに促され、シグルドが空いた席に座る。そうして話を聞く体制が整ったことに頷き、俺はすうっと深く深呼吸した。
「それで、気付いたこととは何だ?」
「はい」
今から俺が言うことが本当に正しいのかはわからない。荒唐無稽な話だ、不敬だと今度こそ牢屋に入れられてしまうかもしれない。
だが今俺に何ができるかを考えたら、これしか思いつかないのだ。俺はしっかりとアルフォンスに視線を合わせ、口を開いた。
「邪竜エンプリオの巣が見つかった、と言う話はありますか?」
「っは……?お前が何故それを?!」
俺の言葉にアルフォンスが驚愕の表情を浮かべ、シグルドが息を呑む。そりゃそうだろう。異界からきたばかりの俺は邪竜エンプリオの存在を知らないはず。今日貰った資料にも書いてなかった。それなのに当たり前のようにその名を口にしたのだ。
反応を見るに、巣は既に見つかっているみたいだな。てことは巣を先に見つけて卵を潰す作戦は無理とみた。
「オークラ、それは女神の啓示か?」
「いいえ……いや、ある意味そうなのかな」
アルフォンスの問いに首を傾げる。
俺は俺の世界でこの世界とよく似たゲームをプレイしていた。ある意味女神の啓示と言えるのかもしれない。
過去この世界に呼ばれた異界人はゲーム同様のドラゴン災害の阻止に尽力し、成功してきたと資料に記されていたのだ。ならここナルグァルドでも、エンプリオによる国家存亡の危機が訪れるはず。俺は『ゲーム』をアルフォンスたちにわかりやすく『予言書』と言い換え、そのことを伝えた。
「その予言書のようなものに、エンプリオが復活し、我が国に危機が訪れると記されていたと言うのか?」
「はい」
俄には信じられない話だろう。普通なら一笑に伏すような話だ。だが俺は女神の手でこの世界へ連れてこられた異界人。国に危機が訪れる前兆のような存在だ。その俺が話すことを無視することはできないはず。その証拠にアルフォンスは厳しい表情で考え込んでしまった。
「ですが、研究所の報告では巣の中にあったのは奴が食ったとされる骨や巣材程度で目ぼしいものは落ちた鱗数枚と……」
深く考えている様子のアルフォンスに代わり、シグルドが問いかける。なるほど、その報告もゲームのストーリー通りだ。
それなら……
「じゃあ、化石化した卵の報告は?」
「卵ですって?まさか!」
「待て待て、いくら何でもそんなものがあれば必ず報告があるはずだ。俺が知らないはずない」
俺の言葉が余程予想外だったのだろう、素っ頓狂な声を上げるシグルドと思わず俺の方に手を上げて発言を制止するアルフォンス。かなり混乱しているようだ。
悪いけどこれはまだまだ序の口だ。むしろここからが本番、ひっくり返らないようにしっかり背もたれに体を預けてくださいよ!
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