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本当にメタモルフォーゼが成功しているなら体格も同じはずだ。顔が仕上がった俺は貸してもらった騎士の上着をきっちり着込んで立ち上がる。シグルドにも立つように促すと、予想通り俺とシグルドの身長差はなくなっていた。
「うん、成功だな!」
「本当に身長まで変わるなんて……!凄いです、オークラ様!」
「ありがとうアトラ君!もっと褒めてくれていいんだぞ!」
凄い凄いと手を叩いて賞賛する無邪気なアトラ君はなんとも可愛い。アトラ君は14歳らしく、歳の近い小六の甥っ子を思い出して心が和んだ。
「殿下にも見てもらいたいし、しばらくこのままでもいいかな?」
「えっ、ええ。正直大変複雑な気分ですが致し方ありません。殿下はよくこの状況を面白がっていられたものですね……落ち着かない……」
「ああ、確かに」
さっきからずっと何とも言えない微妙な顔をし続けているシグルドに俺は苦笑いを浮かべる。双子でもないのに自分と同じ顔の人間が目の前にいたらそりゃあ落ち着かないだろう。アルフォンスは溢れ出る好奇心がそれを上回ったようだったが、多分シグルドの反応が普通である。
しかし今後のことを考えると、俺も回りもこの状況に慣れていくしかないのだ。この力がナルグァルドを危機から救うと言うのなら余計に。
そんなことを思っているとタイミングよくノックの音が響き、この世界や国、昔の異界人のことが記録された資料が部屋に運び込まれた。運んできた使用人たちは俺とシグルドの姿を見て一瞬ぎょっとした顔で動きを止めたが、流石はプロと言うべきか何事もなかったかのように資料を置いて去っていった。
「これがこの世界についての資料?」
「そうです。この一冊がこの世界について、この三冊が我が国について、そしてこの二冊が過去この世界に訪れた異界人の記録です」
「ありゃ、異界人の記録ってこれだけ?本って言うか冊子だな」
応接テーブルに積まれた六冊の本のうち、異界人について書かれた記録を手に取ってみる。過去二人いたという異界人について一人一冊に纏められた記録のようで、その厚みは二冊合わせても5ミリにも満たないものだった。
薄い本くらい薄いな……
「昔の御使様は別の大陸の国に現れた方なので記録があまり残っていないみたいなんです。残念ながら王太子宮の図書室にはこれしかないようでした」
アトラ君も昨日資料を探してくれていたらしい。すみませんと肩を落とすアトラ君に俺は慌てて首を振った。
「気にしないで!同じ境遇の人がどんなことしたのか大まかにでも知りたいだけだから。この資料だけでも十分ありがたいよ!」
「そうですか……?そう言っていただけると助かります」
ほっとした表情のアトラ君に俺もほっと胸を撫で下ろし、早速集めてもらった資料を見てみることにした。わからないところはシグルドに聞けば教えてくれるだろう。
ぱらりと異界人の記録を開いて飛び込んでくるのは見たことのない文字。不思議なことに俺はそれをすんなりと読むことができた。
いや、読むとは少し違うか。脳が勝手に翻訳してくれるのだ。
「読める、読めるぞ……!急に天才になった気分だ!」
文字を指でなぞりながら某アニメキャラのように興奮する。この世界特有の単語や言い回しは聞かなければわからないが、文章を読むことに問題はないようだった。もしかして俺が日本語を話しているつもりの会話も自動的に翻訳されているのかもしれない。
これも女神の加護のおかげだろうか。ありがたい。
ありがたいのだが、こんなに手厚いのなら俺の呼びかけにくらい素直に返事をして欲しいものである。
「うん、成功だな!」
「本当に身長まで変わるなんて……!凄いです、オークラ様!」
「ありがとうアトラ君!もっと褒めてくれていいんだぞ!」
凄い凄いと手を叩いて賞賛する無邪気なアトラ君はなんとも可愛い。アトラ君は14歳らしく、歳の近い小六の甥っ子を思い出して心が和んだ。
「殿下にも見てもらいたいし、しばらくこのままでもいいかな?」
「えっ、ええ。正直大変複雑な気分ですが致し方ありません。殿下はよくこの状況を面白がっていられたものですね……落ち着かない……」
「ああ、確かに」
さっきからずっと何とも言えない微妙な顔をし続けているシグルドに俺は苦笑いを浮かべる。双子でもないのに自分と同じ顔の人間が目の前にいたらそりゃあ落ち着かないだろう。アルフォンスは溢れ出る好奇心がそれを上回ったようだったが、多分シグルドの反応が普通である。
しかし今後のことを考えると、俺も回りもこの状況に慣れていくしかないのだ。この力がナルグァルドを危機から救うと言うのなら余計に。
そんなことを思っているとタイミングよくノックの音が響き、この世界や国、昔の異界人のことが記録された資料が部屋に運び込まれた。運んできた使用人たちは俺とシグルドの姿を見て一瞬ぎょっとした顔で動きを止めたが、流石はプロと言うべきか何事もなかったかのように資料を置いて去っていった。
「これがこの世界についての資料?」
「そうです。この一冊がこの世界について、この三冊が我が国について、そしてこの二冊が過去この世界に訪れた異界人の記録です」
「ありゃ、異界人の記録ってこれだけ?本って言うか冊子だな」
応接テーブルに積まれた六冊の本のうち、異界人について書かれた記録を手に取ってみる。過去二人いたという異界人について一人一冊に纏められた記録のようで、その厚みは二冊合わせても5ミリにも満たないものだった。
薄い本くらい薄いな……
「昔の御使様は別の大陸の国に現れた方なので記録があまり残っていないみたいなんです。残念ながら王太子宮の図書室にはこれしかないようでした」
アトラ君も昨日資料を探してくれていたらしい。すみませんと肩を落とすアトラ君に俺は慌てて首を振った。
「気にしないで!同じ境遇の人がどんなことしたのか大まかにでも知りたいだけだから。この資料だけでも十分ありがたいよ!」
「そうですか……?そう言っていただけると助かります」
ほっとした表情のアトラ君に俺もほっと胸を撫で下ろし、早速集めてもらった資料を見てみることにした。わからないところはシグルドに聞けば教えてくれるだろう。
ぱらりと異界人の記録を開いて飛び込んでくるのは見たことのない文字。不思議なことに俺はそれをすんなりと読むことができた。
いや、読むとは少し違うか。脳が勝手に翻訳してくれるのだ。
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文字を指でなぞりながら某アニメキャラのように興奮する。この世界特有の単語や言い回しは聞かなければわからないが、文章を読むことに問題はないようだった。もしかして俺が日本語を話しているつもりの会話も自動的に翻訳されているのかもしれない。
これも女神の加護のおかげだろうか。ありがたい。
ありがたいのだが、こんなに手厚いのなら俺の呼びかけにくらい素直に返事をして欲しいものである。
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